旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

ドーバーを渡る憂鬱

2008年02月15日 | 旅の風景
そのとき、私はベルギーのオステンテという港町で久しぶりに不安と孤独を味わっていました。ドーバー海峡をフェリーで渡ってイギリスへ入国を考えていたのですが、問題は帰国用の航空券。何とでもなるだろうと楽観視して進んできたのですが、この数日前から何人か出会った日本人旅行者は、皆揃ってイギリスの入国審査の厳しさを物語り、帰国するための航空券を持っていないとまず入国は困難であろうという話でありました。

 ちなみに、あくまで20年以上前の話ですよ。

フェリーの乗船券を買っても無駄になるかもしれません。ルートを変えるとしたら行き先はフランス。その頃のフランスは日本人観光客もビザが必要で、イギリスへの入国が上手く運ばないとベルギーでフランスビザを取得するか、ここで旅を終了するかという選択肢になります。

いろいろ考えたのですが、結局当たって砕ける事に決めました。考えた唯一の対策は、イギリス側で入国を認められるまで何日でもドーバーの入国審査局の前で野宿でもしようかといういい加減な対策だけでした。

そんな事で悩んでいたおかげで、乗船券の取れたフェリーは夜の船。ドーバーへの到着は午前1時過ぎの便です。

一度、港からオステンテの町へ戻って手持ちの通貨をポンドに両替し、カフェでコーヒーを飲みながらフェリーの時間を待ちます。そこでまた日本人バックパッカーと会ったのですが、聞けた情報はやはりかなり否定的な話でした。

憂鬱な気分のままフェリーへ乗船。私のほかにヨーロッパの人が乗ったバイクが2台乗り込んでいました。

ここではまだ心配しても仕方がないのですが、何もやることのないフェリーの中では心配事が心を掴んで離してくれません。

憂鬱な気分でラウンジに佇んでいると、乗船の際に見かけたヨーロッパのライダー達がビールを片手にやってきました。
”どこから来たの?”
”日本から”
”そんな事、わかってるよ。バイクでどこから来たかって話だよ”
”ああ、パキスタンから”
”エ~ッ!!ビール飲むか??”

というわけで、この見ず知らずのドイツ人ライダー達が、なぜかビールをおごってくれる事になりました。

ビールを飲みながら、そこまでの旅の話をしたり、彼らのこれからの予定を聞いたりしていたわけですが、私のこれからの予定を聞かれるに至って、”問題はイギリスに入国できるかどうかなのです”と言う私に
”どうして?イギリスは問題ないよ”
”それはあなた方がヨーロッパの人間だからだよ。日本人はまた違う。帰りの航空券が必ず必要なみたいなのですよ。”
”そんなわけないだろう。だってバイクなんだから”

酔いも手伝って、なんとなく、彼らの言う通りのような気もしてきて、少し憂鬱な気分も去る単純な私。

彼らとの会話を楽しんでいるうちにフェリーは夜中のドーバーの港に到着。下船の準備をしていると、ドイツ人ライダー達が再び話しかけてきました。

”本当にイギリスへの入国が心配か?”
”心配。”
”それじゃあ、俺がまず最初に入国する。次がオマエだ。その次が俺の友達”

つまり、ドイツ人2人で挟んでくれることになりました。

高速道路の料金所に似た入国審査場はほとんどバイクを降りなくても入国できるようになっています。
最初のドイツ人は勿論難なく通過。いよいよ私の順番です。
入国審査官は若い女性。
いくつかの質問に順調に答えていたわたしは、この分だと問題なく通れそうだと感じたのですが、その矢先

”帰りの航空券を見せてください。”

やはりこの質問がやってきました。

”ありません。私はこの後、スペインに渡って、そこで航空券を購入して帰国する予定なのです。”

”それは問題ですね。”

マズイ事態になったようです。

ところがその時、先に入国していたドイツ人ライダーがバイクを置いて”どうしたぁ?”と歩いてやってきます。後続のドイツ人ライダーも”なんだぁ?”と。

それを見た入国審査官は

”あなた方は同じグループ?友達同士?”

私が答えるより先にドイツ人たちが口をそろえて”そうそう。俺の友達だよ”

これが正解だったのか、あるいはあまり関係なかったのかはわかりませんが、結局わたしは無事イギリスへ入国。キャンプ場を探して深夜のイングランド南部をひた走ったのでした。

 正確な情報だけを頼りに旅していたら、イギリスへ渡る事自体を断念せざるを得なかったでしょう。行動してみれば、思わぬ幸運(この場合、ドイツ人ライダーとの出会い)があるかもしれません。情報で臆病になるよりも、とにかく動いてみることが大切だと思うのです。案ずるより生むが易し。


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