旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

250ccと砂漠のラリー

2017年04月27日 | その他
 少しずるい考えでクラス1位を狙って250ccで出場した1998年のUAEデザートチャレンジ。

 前年は自分の所有するホンダの車両に乗ったのでUAEのホンダチームとはなんとなく仲良しだったのですが、98年はスズキにご協力いただいてスズキの車両です。残念な事に現行車両でなくなってしまいましたがDJEBEL250XC。この車両の最大のメリットはUAEのレギュレーションをほぼノーマルでクリアしてくれることでした。だからナビゲーション関連以外の改造は、レースに不要な部品を取り外す程度ですみました。

 レース前のある日の事、何かの用事でハイアットリージェンシーホテルにあるラリーの本部へ出向いていました。用事を済ませて出てくると駐車場に停めた自分のバイクの周りにホンダのチームウェアを着た人達が人だかりしています。

 ”なんだろ?”

 近寄ってみると前年知り合ったUAEホンダのメカニックの顔も含まれています。1人は地面に寝そべって私のDJEBEL250XCの下に潜り込んでいます。

 顔見知りのメカニックが私の姿に気がついて、”おー、お前だったのかこのバイク。今年はファクトリーマシンを手に入れたんだな!”と何だか興奮気味に話しかけてきます。

 ”凄いなこのスズキのファクトリーマシン。どうやって650ccをここまでコンパクトに仕上げたんだ”

 ”ん?650?これは250ですよ。” 

 私が答えた次の瞬間、全員が沈黙。服についたホコリを払って”なーんだ”と去っていきました。

 改造箇所があまりに少ないのでファクトリーマシンと勘違いされ、当然ベースはDR650と思われていたようです。

 レースのスタートはアブダビ。前日にアブダビまで移動していた私は大通りを閉鎖して設置されたスタート台に向かって並ぶ参加車両の列の中にいました。

 スタート台には観客が詰めかけ、スタート待ちする行列との間にはビニールのテープが張られてH&K MP5サブマシンガンを手にしたセキュリティが一定の間隔で立っています。少し物々しい雰囲気です。

 心臓が飛び出しそうな緊張と押さえきれない興奮を抱えながらバイクに跨って並んでいる私の左前方で、サングラスをかけた小太りの男性が突然大笑いをはじめました。そして、道路を仕切っているテープをくぐり、サブマシンガンを手にしたセキュリティの制止を押しのけて私のところへやってきたのです。そして、私の肩をポンと叩いて一言。

 ”このバイクは何CC?”

 "250cc"と答える私の背中を強い力でバンバン叩きながら笑いが止まらない様子。
 +++プロテクターを着ていてよかった。++++

 そして、"Good Luck!"と叫びながら、笑いが止まらないままセキュリティ二人に促され、引っ張られてテープの外へ連れて行かれたのでした。

 その時のスタート待ちの車両には250ccクラスの車両は数台いたのですが、社外品のビッグタンクを取り付けていない私の車両は特別小さく見えたようです。
  
 砂漠のラリーと250ccという組み合わせはそれほど場違いな存在。当然レース運営にも250ccのバイクは想定されていないので特別な工夫や気持ちの中での諦め、我慢など色々必要になります。私はこのアブダビのオッサンの激励の数分後にはそれらを思う存分体験する事になったのでした。

□□□続く□□□

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