かっぱ神 奥州ばなし
2024.8
在所(ざいしょ:田舎と言う意味)中新田(宮城県加美町か?)と言う所に、合羽神(かっぱがみ)と称する社があった。
そこに、手洗いのような、池のようなものがあった。
どんなに晴天がつづいても、枯れることはなかった。
そこから、用水の堀が続いていた。
ここ(中新田)の家の細産甚之丞という者がいた。
17、8歳の時分、下町の若いもの二人と一緒に、用水堀を泳ぎ競っていった。
三人一緒に潜ったが、いつのまにか、水のない所に出た。
綺麗な家があり、内からは、機を織る音が聞こえてきた。
不思議に思い、
「ここは、何処でしょうか?」と、内にいた人に聞くと、
「ここは、人の来る所ではない。早く帰れ。」と答えが帰ってきた。
驚いて、立ち去ろうとしたが、
「ここに来たことを、三年過ぎぬうちに、人に語ってはならぬ。
さもないと、身に禍があるだろう。」と警告された。
大いに、恐れて、戻ると、また用水堀に出た。
その、行き来の間、現実とは思えず夢見心地であった。
その後、町の者の一人が、酒に酔って、見聞きした事をしゃべってしまった。
そして、程なく、死んでしまった。
このことを、見たのであろう、甚之丞は、このことについて、一生語らなかった。
『奥州波奈志』(奥州ばなし) 只野真葛 著 より
訳者注:表題には、「かっぱ神」とありますが、話の内容では、河童ではない。
何か、別な神様のようなもの。