黒気(黒い気体の帯) 筆のすさび
2024.5
文化丙子(文化13年:1816年)正月二十七日夜、讃州金毘羅山(香川県コンピラサン)の下の大麻(おおあさ)と言う所より、黒気の一帯(ひとおび)が、幅が一間あまりあるのが出現した。東西に長さが一里余り(4km以上)に広がって、靡いていった。
少し時間がたって、ダンダンと薄くなり、西方へさらさらとなだれ行き、その速いこと風のようであって、そのうちに見えなくなった。
はじめは紫色に見えて、少しずつ黒くなり、その後には濃いこと墨のごとくになった。
その様子を見た人は身の毛がたったそうである。子供たちは怖れて家に走り帰った。そのさまは雲とも烟とも見えなかった。
その地の人である牧周蔵(まき しゅうぞう)(原注:名は昌、字は百穀。)が、書簡で伝えてきた。
菅茶山「筆のすさび」より