江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

ザリガニの石はオランダの薬  「黄華堂医話」

2021-12-06 22:53:49 | その他

ザリガニの石はオランダの薬

「黄華堂医話」より
                         2021.12
「黄華堂医話」は、医学随筆であるので、面白い生薬も記載されています。
著者の橘南渓は、「東西遊記」がその著作として知られているが、本業は、医者です。
医学的な著書があっても、不思議ではありません。その中で、少し、面白いのがあります。


オクリカンキリ(ヲクリカンキリが、原文)

ヲクリカンキリ(オクリカンキリ)というのは、利水に不思議によく効き、世間では珍重されている。
(利水とは、小便の出にくいもの、浮腫のある時に、水=小便の出をよくして、治癒させる事を言う。)
外国に産して、オランダ船が持ち来たったものである。

近年は、はなはだ稀で、非常に高価である。
私が、東北に旅行したときに、奥羽にヲクリカンキリが産出するという事を聞いて、かの地で、あちこちさがした。
すると、出羽の国の秋田領の大館という所に、ザリ蟹(ザリカニ)というものがいた。
その蟹の形は、海老に似ていた。
谷川あるいは、沢辺などに住むものである。

蟹という名がついているが、海老に近いものである。
このザリ蟹(ザリカニ)の頭にある石を外国でヲクリカンキリと言う。
この大館の谷川に産するヲクリカンキリは、外国より輸入された物よりは、非常に小さい。
しかし、同じ物であることは、疑いようもない。
また、津軽領の岩木山の東あたりの高志貴と言う所の谷川にも、ザリ蟹(ざりかに)を産する。
大館よりは、はなはだ多いと言う。

くわしく調べれば、外国より輸入された程の大きさのヲクリカンキリもあるだろう。

 

 

 


マムシの害を避けるまじない歌  中陵漫録

2021-07-07 23:27:57 | その他

マムシの害を避けるまじない歌
                         2021.7
蝮蛇の害を避ける歌、というのが、奥州にある。

土地の人が、松茸を採ろうと山に入るその前に、一首の歌を三遍となえると、マムシの害には遭わないそうである。

ある樵(きこり)の話であるが、
その歌は、古くより言い伝えられていて、効果があるそうである。

戯(たわむれ)に記すと、
   
此(この)山に にしきまだらの 虫あるは 山たつひめに 談り聞さん(かたりきかさん)
(訳者注:全体の文章から、この歌の意味は、「マムシよ、出てきたら猪に教えて、お前を食べてもらうぞ。」であろう。)
と云う。
(訳者注:ここに言う虫とは、蛇=マムシを指す。古語では、マムシや蛇を、ムシ=虫とも言う。
漢字でも、蛇は虫偏です。蛇は、本草学では、虫類に分類します。足のあるムシは、蟲、足の無いムシは虫です。)

考察するに、にしきまだらとは、蝮蛇(まむし)の事を言う。
「本草綱目」に曰く、「頭斑身赤文斑」。
又「本草拾遺(原文では、蔵器)」に曰く。蝮蛇錦文とあるのによって、にしきまだらと言う。

また、考察するに、山たつひめとは、鹿の事である。
本草書に、鹿の別名に、斑龍の名がある。それで山龍姫とも言う。
鹿は草を食べて、虫類を食べる事はない。

蝮蛇を好んで食べるのは、猪である。
和歌に山龍姫とあるが、この場合には、猪の事を指すのであろう。

以上、「中陵漫録」の「蝮蛇の歌」の項より。 


新潟の石油村  「公益俗説弁」井沢蟠竜

2020-10-29 19:41:08 | その他

新潟の石油村
原題は、「越後の国臭水村」
                      2020.10   
編者注:これは、石油についての話です。日本では、石油がほんのわずかしか産しません。新潟などに産します。この話の場所が、越後(新潟)であるのも、うなづけます。

以下、本文。

俗説に云う。(世間の噂話では、といった感じ。)
越後の国臭水村(くさみずむら)という所の河の水は、油である。
これは、昔ある僧が土地の人のために、加持したことにより油となったという。

今、考察するに、中国にも同じようなのがある。
「漂粟手牘」に云う。
流波山中に、燃海千里がある。
住民は、これを汲んで、油の代わりにしている。
明るさは、油より数倍勝っている。
秦の始皇帝は、人を派遣して、千艘の舟で山中に行かせた。
船人は、水の性質を知らずに、夜に灯火を水中に投じた。
火が大いに起こり、海全体を焼き尽くした。
火は光は天に接すること千里、誰一人生きて帰らなかった。
それ以来、海辺に臨んで、汲んで用いるだけとなった。

昨夢録に云う。
「猛火、油は、高麗の東数千里に出ると聞いている。」

このようにあるので、臭水村の油だけの事では無いようだ。


以上、
「公益俗説弁」(井沢蟠竜、江戸中期)より

編者注:「漂粟手牘」には、「燃海千里」は、天帳汗国にあるらしいとのこと。
「燃海千里」という事から、原油が地上にでている場所であろう。
おそらく、モンゴル系のどこかの国であろう。帳は、テントのことで、遊牧民の国である。
キプチャク汗国の事かもしれない。キプチャク汗国は、漢字では、金帳汗国である。また、石油が豊富な、黒海も領土であった。


出歯包丁の語源  「本朝世事談綺正誤」山崎美成

2020-10-29 18:28:10 | その他

出歯包丁の語源
           2020.10

出刃包丁の語原について、面白い話があるので、紹介します。

「本朝世事談綺正誤」山崎美成著、文政2年(1819年)
より、

*****
包丁は、あちこちで、作られるが、泉州の堺のものが良品である。

勝れた包丁鍛冶の職人がいた。
世の人は、こぞって用いた。
その職人は、前歯が出っ歯であったので、出っ歯の包丁と呼ばれた。
それで、ついに、その包丁の名となった。

*****
面白い話ですね。


貧乏を治す薬  梅の塵

2020-03-07 19:22:57 | その他
貧乏を治す薬
                         2020.3
江戸時代には、面白い随筆や、小説があります。
先日、「梅の塵」という、随筆集を眺めていたところ、面白いのが、載っていました。


以下本文。

○貧病を治する法
世俗の諺に、四百四病の病より、貧乏ほど苦しいものはないと言っている。その貧乏の病を治す法がある。
手軽であり、怠らず服用すべきである。

処方は、以下の様である。

本方長者丸(ほんぽうちょうじゃがん)
○正直 三両   ○堪忍  三両  ○慈悲  三両   ○朝起  三両
○愛対 三両   ○分別  四両  ○始末  四両 
(漢方薬の処方は、**何g,**何gと書く。両は、お金の単位でもあるが、重さの単位でもある。1両は、約7グラム。)、

この七種を、細かい末にして、毎朝、手洗水にて服用すること。
どの位の借金でも、たちまちに返済できる。家計が立ち直ること、神のようである。
        
禁物

○不実○短気○気随(きまま)○朝寝○好色○自由○遊山。
この七種は敵薬である。
そのほか○物数寄(ものずき)○油断○作事○美き物(うまきもの)○大酒○夜遊。
この品々は、禁物であるので、堅く守って食べてはならない。
これらを用いる時は、薬(本方長者丸)の効果は得られない。

もう一つの法。

倹約丸(けんやくがん)
○倹約五両  ムダの皮を取り去り、工夫の水に浸す。
○始末四両  慾心を去って、心の水に浸す。
○世帯四両  世間の上皮(うわかわ)を取り去り、真実の水に浸す。
○堪忍二両  そのまま用いる。鉄の蓋を使わない。
○算用一両  算盤(そろばん)にあて、細かく刻む。

右、五味、思案の薬研(やげん:生薬を加工する道具)にて工夫する。
真実の火色(ほいろ)にかけてふるい分け、分別(ふんべつ)の糊を以って丸くし(丸剤と人間が丸くなるのとを、かけている)、知恵の衣をかけ(薬に衣をつける:糖衣錠にするなど。もの柔らかな態度をとる)、一時に一粒づつ服用すること。
禁物は前に同じ。

以上の、長者丸や倹約丸を用いれば、薄紙をはがすように、どのような貧乏の病も、治癒する事は疑いない。
この病いは、時節時節に起り、特に大みそかに、強く差し起こる。
しかし、常々絶えず薬を服用し養生すれば、次第に平愈する事。神のようである。

以上。

編者注:この書き方は、漢方薬の処方になぞらえてかかれています。
例を挙げると、葛根湯は、こんな感じになります。

葛根湯方
葛根(四両)、麻黄(三両:節を取り去る)、桂枝・ 甘草(炙)・ 芍薬(各二兩)、生姜(三両)、 大棗(十二枚)

以上の様に成分を列記します。
それに加えて、煎じ方を説明し、食生活の禁忌などを記述します。
この本方長者丸(ほんぽうちょうじゃがん)や倹約丸(けんやくがん)も、それに似せて書かれています。