家の庭で品種改良!

庭でみかんの品種改良やってます

こ、これは面白いんじゃない…!?

2023年12月14日 21時40分57秒 | 勉強

今日は久々の論文紹介です

といっても論文の日本語レビューを読んだだけで原著を読んでいないのですが、カンキツの個人育種を行う人にとってはかなりの朗報なんじゃないかと思います。

 

紹介するのは熊本県農業試験場や佐賀大学が2022年に出した多胚性に関する論文です。

カンキツの交雑育種を効率的に行う方法を開発 | 佐賀大学広報室 (saga-u.ac.jp)

 

種子繁殖という観点から見るとカンキツは多胚性があることで有名です。

多胚性種子に含まれる種子親のクローンは若干の変異を含むため形質へのわずかな変化をもたらしたい場合非常に有効で、実際に多くの品種を生み出してきまいした。特に温州ミカンでは広く使われておりほとんどの品種がこの方法か枝変わりによって生じています。

一方、交雑育種の観点から見ると交雑胚の獲得確率が悪くなるためどちらかというと嫌悪される性質でした。特に交雑胚は珠心胚(種子親のクローン)と比べ生育が弱いため、胚発生の過程で失われてしまうと考えられていました。そして、それを回避するには果実が十分熟す前に胚を取り出し寒天培地上で育てる(In vitro)ことが必要とされてきました。

この研究では、実際 In Vitroとして胚救出をして育てる場合と、種子が熟したころに土に播種する場合(In Soil)ではどちらの方が効率よく交雑胚を獲得することができるかをマーカーを利用しながら改めて調査がなされています。そして結果として、In Soilでも十分交雑胚の獲得ができるほか、今まで常識として考えられてきた、交雑胚の生育が悪いという話は間違いであり、むしろ生育が良いことを突きつめました。

 

カンキツの育種では、非常に面白い性質を持っているにもかかわらず多胚性のため種子親として使えない、という場面が多々あります。胚数が少ない場合はたまに単胚が生じるため種子親として使えますがそうでない場合は基本的に無理だろうと今まで決めつけていただけに、今回の発表は非常に興味深いものでした!

マーカーを使えるほどのお金はないため交雑胚の選抜は葉の形状からするしかなく結局難しいことに変わりはありませんが、交雑胚獲得の可能性は十分あるとわかっただけでもありがたい話です。今後は多胚性品種も積極的に利用しながら交配を進められればと思います♪

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フィンガーライム 研究

2022年06月21日 09時50分07秒 | 勉強

暑くなってきましたね…

晴れてないのに、この暑さとは、、夏を迎えるのが怖くなってきました笑

 

さて、先日、フィンガーライムの細胞融合の論文を記事にしました。

具体的にはフィンガーライムのHLB耐性を細胞融合を通して通常のカンキツに組み込むという内容でした。

フィンガーライムとの細胞融合 - 家の庭で品種改良! (goo.ne.jp)

 

自分の中では少しフィンガーライム熱が下がりつつあったんですが、その論文を読んでから気になり始め、色々調べたところ想像以上に研究が進んでいることが分かってきました。

特にオーストラリア。はやり原産国だけあって研究への熱意が違います。

 

特に以下のYoutubeは、英語ですがまとまっていて分かりやすかったので、共有しておきます。

(ちなみにこれはフロリダのチャンネル)

(193) Breeding with Australian Finger Limes: More Than Just a Novelty - YouTube

 

以下の写真はその中の一部ですが、例えばこれは、フィンガーライム色を利用した育種の一例

右の18Q061とDaisy、07C004が交配親で他がF1だそう

(20Q110は不明)

果皮色は量的形質なんですかね。F1にも連続的な分布が見られます。

形はかなりフィンガーライムに引きずられていますね。

 

下の写真はHLB耐性を目的とした交配について

ここではフィンガーライムではなく、デザートライムを使っています。

写真の中のオリーブのような実は、デザートライムとのF1。

相手のFortuneはDaisyの親だそうです。詳しくは知りませんが、おそらくマンダリン系ですかね。

 

2022年に出されたばかりの動画なので、オーストラリアでのフィンガーライム育種の最新の状況をかなり反映していると思います。

気になる方はぜひご覧ください

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フィンガーライムとの細胞融合

2022年06月16日 11時14分55秒 | 勉強

一時期、細胞融合という技術が流行ったことがありました。

異なる種類の作物の細胞に電気的な刺激or化学的な処理を加えてあげると互いが融合するのを利用し、新しい作物を作ろうとする技術です。

融合する作物の種類が遠すぎるとうまくはいきませんが、交配だとちょっと難しいなぁ、、くらいの距離間の作物同士であれば細胞融合がうまくいくため、品種改良に新しい風を吹き込む技術として期待されていました。

特にカンキツだと、珠心胚と呼ばれる胚から実験にとても使いやすい細胞が得られるので、細胞融合の研究がどんどん進み、色々な融合が試されました(一番最初にできたのはオレンジとカラタチの細胞融合。オレタチという名前が付けられました。)

 

一方で、融合によって染色体数が倍になってしまうこと、いらない形質も付随してしまうこと、融合させた後植物体に再分化させられないこともあり、当初期待されていたほど技術として伸びなかったといわれています。

カンキツでもそのブームは去ったのか、最近はそういった論文を見ることはあまりありませんでした

 

ところが昨日久しぶりにカンキツの細胞融合について調べていたら、ちょっと面白い検索結果が出てきました。

まだ全然読んでないんですが、どうやらフィンガーライムとカンキツの細胞融合のようです。

 

 

あまりカンキツの病理学に詳しくないので、今回初めて知ったんですが、

どうやらフィンガーライムはHLB、日本名だとカンキツグリーニング病に対して抵抗性を持っているようです。

その抵抗性を利用すべく、マンダリンとフィンガーライムとを細胞融合したようです。

 

(左:マンダリン 中:フィンガーライム 右:融合個体)

 

ほんとに全然読んでないので怪しいですが、たぶん非対称融合で、

フィンガーライムの核とフィンガーライム&マンダリンの細胞質を持った個体になっています。

 

で、融合個体の果皮がオレンジになっていることを鑑みると、フィンガーライムの黒い果皮は核外遺伝子、または核内遺伝子と格外遺伝子の相互作用によって生まれるということになりますね。

(細胞融合はそんな単純じゃないかもしれませんが)

ということで、フィンガーライムの果皮に注目して育種をする場合は、遺伝させたい果皮色を持っている個体を種子親にした方がよさげですね。

 

フィンガーライムの遺伝様式はほとんど情報が公開されていませんが、こういった論文が出されるとそこから色々遺伝様式を推測できるのでとても助かります。細胞融合でウィルス耐性を導入するという考えもとても面白い。私自身、細胞融合への興味を少し失っていましたがもう少し積極的に考えてもいいのかもなと思いました。

 

参考文献

Manjul Dutt : Utilization of somatic fusion techniques for the development of HLB tolerant breeding resources employing the Australian finger lime(Citrus australasica)

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ラディッシュにキャベツを接ぐと花が咲く

2022年01月20日 22時10分15秒 | 勉強

大学で専攻にしている物理の話をあまりしたことがなかったですが、大学では物理学を勉強しています。

(あ、ちゃんと今日の内容と関係あります笑)

物理学といっても、宇宙というようなマクロな分野ではなくて、原子とか電子とかのミクロな分野。

いわゆる量子力学を使うような分野を勉強しています。

研究室で多いのが半導体や超伝導といった固体物理を扱う研究室。

固体物理というのは、原子・電子のレベルから物質の性質を解明していく分野で、大学で生活していると必然的にそういった研究の話が耳に入ってくるでものです。そんな中よく聞くのが、"混ぜてみたら面白い性質が見つかったからその性質を調べている"、という研究。

複数の物質を混ぜ合わせると新しい性質が生まれるということはよくあり、実際合金やら半導体やら、世の中に役に立っているものは混ぜ物ばかりなのですが、それらは理論的計算からだけでなく、偶然見つかることもあるそうです。

これって結構接ぎ木にも当てはまることだなぁと思っていてだからこそ接ぎ木が好きなのですが、今日はまさにそのような研究論文、つまり接ぎ木してみたら面白いこと起きちゃったという内容の論文の紹介です。

(イントロだけでめっちゃ長くなってしまった、、)

 

今日紹介するのは、京都大学の方が書かれた「Non-vernalization Flowering and Seed Set of Cabbage Induced by Grafting Onto Radish Rootstocks」という名前の論文です。日本語に訳すと「ラディッシュへの接ぎ木によるバーナリゼーションを介さない開花と結実」。本来キャベツというのは、十分株が大きくなったうえで低温にさらされないと花芽をつけないのですが(低温にさらすことをバーナリゼーションといいます)、ラディッシュに接ぎ木するとバーナリゼーションがなされなくとも花芽がつくことが分かったそうです。

本論文で特に重要なのは

①キャベツを抽苔し始めている何種類かのケール、ラディッシュに接ぎ木したところ、ラディッシュに接ぎ木したもののうちいくつかでは、バーナリゼーションを行わずとも、接ぎ木後おおよそ50日前後で花が咲いたということ(正確には蕾を確認した)。またその花はCO2による自家受粉で通常通り結実したということ。

②接いだキャベツについては開花を促進するFTタンパク質の有意な上昇や開花を制限するFLCタンパク質の有意な減少が見られなかったということ。唯一FTタンパク質によって活性化されるというBoSOC1については上昇が見られたということ。

③キャベツの開花に貢献したラディッシュは2種類あったが、片方ではFTタンパク質の上昇がみられたということ。

④接いだことによる開花はあまり長く続かなかったこと

これらのことから、ラディッシュへの接ぎ木により、バーナリゼーションを行わずキャベツを開花させることが可能であり、その接ぎ木による開花促進は、台木のラディッシュ由来のFTタンパク質が、キャベツのBoSOC1に直接作用することによって引き起こされているのではないかと結論付けています。

 

もう少し詳しく書きたいところですが、集中力切れたのでここら辺で切り上げます笑

開花促進は育種のスピードを上げるうえで何より重要であって、だからこそいろんなところで研究および開発が行われているわけですが、遺伝子組み換えとかウィルスベクターとか、なかなか個人じゃ手を出せないのが多いんですよね。その点、今回の研究は接ぎ木、というシンプルな方法で開花が促進できてしまうので驚きです。

接ぎ木は古くから存在している手法ですがまだまだ可能性を秘めているというのが、なんとも素敵ですね笑

ではっ!

 

参考文献

Ko Motoki : Non-vernalization Flowering and Seed Set of Cabbage Induced by Grafting Onto Radish Rootstocks

Front Plant Sci. 2018; 9: 1967. Published online 2019 Jan 10. doi: 10.3389/fpls.2018.01967
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マメキンカン、モデル植物の仲間入り

2022年01月15日 02時14分24秒 | 勉強

今日、改めてカレンダー見て気づいたんですが、そろそろ3年生終わるんですよね、、

院に進むとはいえ、いつまでも学生モードじゃいられないなぁ…と少し焦ってきました笑

 

さて、大学3年生になると、ある程度は英論文が読めるようになってくるもの。

今までは日本語で書かれた参考書での勉強がメインでしたが、論文では最新の研究に触れることができとても面白いので、最近は論文を読むことを心がけています。せっかく読んだ論文をそのままにしておくのももったいないので、面白かった論文に関しては、頭の整理も兼ね、このブログで紹介することにしました。ちょっと法律に関する知識が乏しくて、論文を紹介する際の著作権云々がどうなっているかわからないので、もし危なかったら教えてください。

 

 

今日紹介する論文は2019年にPlant Biotechnology Journalで紹介された「Genome sequencing and CRISPR/Cas9 gene editing of an early flowering Mini-Citrus(Fortunella hindsii)」という論文。中国の華中農業大学(Huazhong  agricultural university)の研究チームから発表された研究です。論文内容も踏まえタイトルを訳すと「幼若期の短い単胚性マメキンカンのゲノム解析及びCRISPR/Cas9によるゲノム編集」といったところでしょうか。

 

マメキンカンは、このブログで何度も書かせてもらっているように、カンキツでありながら播種から一年以内で開花するという特殊な性質を持っています。このマメキンカンは基本的に多胚性ですが、研究チームが中国の福建省で発見したマメキンカンは単胚性であり、この論文はその単胚性マメキンカンのモデル植物としての可能性を示した内容になっています。

 

論文内容で特に重要なこととして、

①中国の福建省で見つかったマメキンカンは単胚性を有していたこと

 (論文内ではこのマメキンカンを"Mini-Citrus"と呼んでいます)

②ゲノム解析の結果、遺伝的に栽培種とほとんど変わらなかったこと

③CRISPR/Cas9によりゲノム編集を試みたところ、効果的に遺伝子改変を行うことができたこと

の三点を挙げており、それらから"Mini-Citrus"がカンキツ研究においてモデル植物として役に立ちそうであることを結論付けています。

 

①に関して、遺伝子に関する解析では、対象の系統だけでなくその後代が必要になってきますが、多胚性では後代を得ることが難しく、多胚性であるマメキンカンは、種をまいてから花が咲くまでが他のカンキツに比べてとても短いという長所があるものの、研究対象としてはあまり使われることがありませんでした。しかし、この研究チームは中国の福建省で単胚性を有するマメキンカンを発見。2,3代世代を進めることによりホモ接合率を高めたものを本研究では使ったそうです。

 

②については私のゲノム解析の知識がやや乏しく若干理解が怪しいですが、8種類のカンキツ、すなわちChinese box orange、ポメロ、シトロン、パペダ、スイートオレンジ、温州ミカン、Mangshan(wild mandarin)、クレメンティンとのゲノム比較により、開花関係の遺伝子にやや違いが見られたものの、それら8種がマメキンカンとほとんど同様の遺伝子構造を持っていたことが分かったそうです。これが示すことは、栽培用カンキツの遺伝子機能の研究はマメキンカンで代用しても問題ないということであり、"Mini-Citrus"がカンキツ研究においてモデル植物として十分役に立つことをサポートする内容になっています。

 

③について、ゲノム編集はCRISPR/Cas9の発見により近年注目の的になっていますが(それまではZFNやTALENと呼ばれる人工制限酵素がゲノム編集に使われていました。CRISPR/Cas9はRNA誘導型ヌクレアーゼと呼ばれる新しいタイプのゲノム編集ツール)、カンキツではまだ研究段階にあります。本研究チームは、破壊するとアルビノが誘導されるPDS遺伝子に対してCRISPR/Cas9を適用し、その結果からCRISPR/Cas9がマメキンカンの遺伝子変異導入に効率的であることを導き出したそうです。また、ここからは理解があやしいですが、CCD4と呼ばれる遺伝子に対してもCRISPR/Cas9を適用し、遺伝子変異が誘導されることを確認したうえで、その後代を作り、遺伝子変異が後代に高い確率で引き継がれることを確認したそうです。ゲノム編集は特定の場所に変異を起こすことができるため、遺伝子機能の解析に大いに役立つといわれています。マメキンカンにCRISPR/Cas9が作用するということは、マメキンカンの遺伝子機能の解析はCRISPR/Cas9を用いて効率的に行うことができるということであり、これもまた"Mini-Citrus"がカンキツ研究においてモデル植物として十分役に立つことをサポートする内容になっています。

 

他にも、マメキンカンに特有な開花特性について、FT,COC1,FLDの活性が下がり、FLC,FLD,FWAの活性が上がるという面白そうな匂いのする内容が書いてありましたが、植物生理を勉強したことがないこともあり、理解があまり進みませんでした。ここら辺の内容はまた植物生理を勉強した上でまた読み直したいですね。

 

マメキンカンについては、面白い性質を持つことから、たとえ他胚性であっても交配したいと思い、色々試してきただけに、単胚性の発見には「単胚性マメキンカン、見つかっちゃうんか~い!」と内心ちょっとがっくりしてます笑 ただこの論文はあくまでも研究。私がやりたいのは品種づくり。ベクトルが違うからいいや、と気持ち切り替えて今後も頑張ります。

 

 

参考文献

Chenqiao Zhu :Genome sequencing and CRISPR/Cas9 gene editing of an early flowering Mini-Citrus(Fortunella hindsii)

Plant Biotechonol J.2019 Nov;17(11):2199-2210. doi: 10.1111/pbi.13132. Epub 2019 May 21.

 

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単胚性・多胚性 - 家の庭で品種改良! (goo.ne.jp)

マメキンカンの話 - 家の庭で品種改良! (goo.ne.jp)

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