前回
①一雑記の宿<ニートクリスマス>
THE BIRTHDAY EVE ~誕生前夜~ | |
クリエーター情報なし | |
DENON |
11月も終わろうとする頃。なんの前ぶれもなく女二人組が俺の家にやって来た。
「前ぶれ?」「前触れ?」 「触れ?」こいつらには触れたことないよな。
だから、前触れもなくカノとクドウがやってきたんだよな。
二人そろって見ると、ふたりとも髪伸びたなー
カノの学歴は高卒。卒業後は街でちょくちょく出会った。
カノは高校時代から人気があったわけではないが、俺の好みだった。
なんでこいつが人気にならないんだろ?と思ったほどだ。
クラスに一緒になったことはないが、卒業してからはよく挨拶したり話しもよくした。
買い物中に偶然に会い俺が行った先でなぜかちょくちょく顔を合わせていた。家庭的な面もあり、「嫁にいいかなー」と、俺は思ったりもした。
気が合ったのは・・・
そうそう、走り高跳びだ。俺は中学の陸上大会でカノを初めて見たんだ。
カノの中学は陸上で目立つ選手が多く。その頃は会話をすることもなかったが、陸上大会で走り高跳びに出場していて、それで気が合ったんだ。
「アララギって中学の時、凄かったよねー」
「またその話か」
俺の自己紹介は中学時代。地区予選の陸上大会走り高跳び部門を二年生で大会新記録で優勝し、三年生でも大会新記録で二位になった。結果的には負け組なんだけど・・・
「そうそう」
「アララギと言えば高跳びだよねー」
「はいはい」
カノは俺の前じゃホステス並みに煽て。それで俺も気分を良くしてカノにちょくちょく連絡をして。
俺の会社のノルマ製品を買ってもらったり、そのあとにはリピートの連絡も来て。
その勢いでキメてやろうと思ったら・・・
「はい こないだのシャンプーとリンス」
「こんなところまでわざわざ届けに来るなんて、アララギらしい」
「いよいよ、時間あったから来れただけで」
「それでさ今度時間あったら・・」
「構えられるのダメなんだよねー」
「え!?・・」
(カノに会うために、服装もいいのを着て来て)
(シャレこんだ俺は駄目ってことか?)
(でも、普段の俺はだらしないのに・・)
(カノくらいしか俺をおだてる人他にあと居ないのによー)
(妙に俺の性格をわかってるところもあって)
(そういうところが気が楽で、好きだったんだけどなー)
(今日の俺の下心とかバレちゃったか・・・)
(俺より大人の男と付き合ったりもしてるんだろうな・・・)
(ここは引き下がるか「構えられるのがダメ」か・・・)
(そうか、難しいな男は・・)
「いや 今から他の用事もあるからさ」
「それで時間があったらって聞いただけ」
「リピートありがとな」
「また何かあったらよろしく」
「じゃねー」
「ああ、お会計お預かりしましたーありがとうございます」
「失礼します」
(はああ)
(何日も前からこの日のために気合入れてたんだけどなー)
(ここ数年絞り込んでた女だったんだけど)
(同級生恋人にするとか難しいな)
(上から下から大卒とかも合流して、ちらほら役職付いてるも出て来てるし)
(ハードルが高くなるよな)
(はあ・・)
(帰るか・・)
(仕事にも疲れてきたし女にも疲れてきた)
(そろそろ性風俗でも行こうかな・・)
(でも給料全然足りないな・・・)
(はあ・・)
(ため息がでる・・)
(それにしてもこの女二人でよくしゃべるな)
(今日会った事なのか?昨日会った事なのか?)
(よくペラペラしゃべるな)
(カノってこんなに活舌よかったっけ?)
(クドウは酒強そうだな)
(カノのほうは目がトローンってしてて、今にでも俺の前でその太ももから股間広げそうな勢いなんだけど)
(俺が見たいところでクドウがツッコミ入れてさ)
「ほーらカノ」「見えちゃうよ」
「あー」「だいじょぶだいじょぶ」
「アララギくんって、社交ダンスやるんだ? DVD入門とか見てるんだ?」
「あとスキーとかもやるんだ」
「へー」
「カノ?そこの本棚?」
(カノが嫌なとこついてきやがって、そういったとこあるんだよな)
(ここ何年か見ててさー)
(あなどれないというか、なんていうか、そういう気持ちになるんだよ)
(カノが居なければ、ここで「社交ダンスの練習しようか」とか、言えたシチュエーションじゃねーかよ)
(そういったつもりで本棚に置いてたわけでもないけど)
(おまえたちじゃなきゃ、社交ダンスやれる棚からぼた餅だったのに!)
(なんだよ!この悔しさわよ)
(それにカノ「アララギくん」って、さっきまでアララギって通常通り言ってたのによ!)
(今は子供扱いかよ)
(なおかつ、こいつらの会話の中に入っていけないのが・・)
(なんか悔しいな)
(ふたりでペラペラとしゃべってて、なにかテレパシーでも送り合ってるのか?)
(ツーカーの中っていうのか?なんだこのリズミカルな空気はよ!)
(そもそもこの二人がそんなに仲良しだったとは知らなかったよ)
(俺まったく入り込めねー)
(タクシー呼ぶか呼ばないかの位置取りすらできねーよ)
(クドウは頭の回転速いからなー)
(あれ!)
(クドウは頭の回転速いとか思ったことなかったな)
(今日初めて感じたよ)
(そんなことを・・・)
(あああ1周遅れで思い出した「構えられるのがダメ」ってよ)
(だからと言って俺が無防備なときに来るんじゃねーよ)
(ニート無職)
(24歳ニート無職のこんな無防備な俺の家の中に入るんじゃねーよ)
(と、否定する前にもうすでに好みの女の前に晒されてる俺・・)
(どうしたらいいんだ?)
「タクシー来たら起こして」
「あーあ」
「もうこんな時間か」
クドウが突然俺の部屋に来たことを申し訳なさげに言いかけたけど、黙った。そしてようやく静けさが戻り。俺はクドウに前の会社を辞めて、今こうしてたんだと話した。
前の会社で勤務中にクドウとは久しぶりの再会をした。カノと今でも仲良かったんだと改めて話し、そのあとのことはどうしたらいいのか?なんとなく向こうから伝わった。
社交辞令なそぶりをして・・・
「再就職したら今度飲み行こう」
「うん」
「いいよ」
「またなにかあったら連絡するから」
「家近いしわかるでしょ?」
「う、うん」
クドウから送られたテレパシー・・・
カノとクドウがタクシーで帰って行ったあとに、俺は翌朝から二つにひとつのことを考えることになった。
次回
②ニートクリスマス ハートビート