「よろしくおねがいしまーす」
「はいですー」
「暖炉の前でいくつかポーズきめてください」
「はいですー」
「こっちむいてください」
「はいですー」
「撮りまーす」
「はい」
「我考ふ、そこに我がある」
≪暖炉の前の少女・ボナール≫
「おつかれさまでした」
「はいですー。奥様は?」
「今日は職場に行ってる」
「そうですかー」
「ご協力ありがとう。いいのが撮れたよ」
「はいですー」
「にゃあーーー!!!」
「キャー!!猫ゾンビ!」
「にゃあーー!!」
「近づかないで、殺されちゃう!きっとUFOが死んだ猫を蘇らせたんだわ!」
「にゃー!!!」
「あそこに電話ボックスがあるわ!あの中なら!」
「にゃー!!」
「ドワを閉めてと…」
「にゃーー!!」
「カット!!」
「おつかれさまでしたー」
「これはどういった設定なの?」
「これは、ボナールとマルトがまだ結婚してないときのシーンで、マルトがある日、猫ゾンビに襲われるシーンを設定したんです。ホラー要素も入れようかと思いまして」
「ホラー要素って、もうめちゃくちゃじゃない」
「いや、これはホラーでもあり、ラブロマンスでもあるんです」
「なんで?」
「デジタル侵略により一度死んだものが蘇って人々を襲い、なりすましや詐欺が権力を握り、その権力者がUFOで死んだものまで操っている最中に、マルトは猫ゾンビに追いかけられ電話ボックスに逃げ込むんです」
「なぜに電話ボックス?」
「利用率がごく稀になって、次々撤去させてゆく電話ボックスですが、猫ゾンビに襲われたときには、過疎の町にはまだ電話ボックスが置いてあったんです」
「あ、ここは過疎地の設定だったのね。都会だと思ってたわ」
「電話ボックスに逃げたマルト。その電話ボックスは、ボナールがこっそり夜にいつもマルトに電話をかけてた電話ボックスだったんです。なんて運命的な出会いなんだ!哲学だー」
「ねえ、あなた?ど、どいうこと?」
「ボナールに会いに行く途中、スマホの電源が切れて、ボナールに連絡できずにいたマルトは、その電話ボックスからボナールに助けを呼んだのさ」
「ボナールは携帯もスマホもパソコンも持ってなかったの?」
「家電はあったけど親には恥ずかしくて、マルトへの連絡は電話ボックスからしてたのさ」
「哲学だー!」
「せめてUFOに破壊されて使えなかった。とかの設定にしなさいよ。ッたく」
『リモート・ボナール』ジャズ