前回
⑦ニートクリスマス ナ・ナ・ナ
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年末にかけてクドウと俺は会社に面接をし、一足先にクドウの方が職場に通い始めた。
俺は年末年始の補充従業員の入れ替えもあり、大手の名がつく電子部品工場に入った。
かつて電子部品工場は、下請け工場があちこちにあり高卒正社員の花形就職先でもあった。けど、みるみるうちに大手下請け工場は閉鎖し、生き残っているのは大手ブランド名をつけた大手メーカーと合流した工場があるぐらいになっていた。あとは中途採用となると、コンビニスーパーのバイトかフランチャイズチェーンのパート社員。土日が休める会社と言えば、大手メーカーの工員や期間契約社員ぐらいだった。
(昨今、投票率が低いのも日曜休日の一般社会人が著しく減少していることも影響してるのではないか?)
(かつてリーマンショックの影響と政権交代が行われた頃は、派遣切りという政治的経済制裁に近い現象が起きたが、大きな工場ほど政治権力にビビっている気がする)
(ビビろうがビビらなろうが、政治家は人数の多いところから票が欲しいだけ)
俺は高い給料が欲しいだけで工場に入った。フランチャイズチェーンで働いてる人々はランダムにシフトされた休日をどう?過ごすかで精いっぱい。投票日もいつ何時あるのか?わからないで過ごしていた。
お互いの再就職が決まり、クドウが出勤してる姿を見かけるようになった。
大学を卒業してから実家に住んでいたようだが、クドウを見かけた記憶はなかった。しかし、あれからというものクドウを見かける。以前は多分、ある時期からお互いの間にカーテンが引かれていて、お互いの存在が見えなかった。隠していた存在意識のカーテンを開いた途端、お互いの姿が見えるようになった気がした。意識のカーテンなのか?それとも瞼なのか?いずれにせよ、俺は無意識な時でもクドウが見えるようになった。
俺の本格的な稼働は年明けからだが、契約が決まり工場の中を案内されたときは敷地が広いことと、窓が無いことに驚いた。精密機械のメーカーとあって、外部からの異物混入を防ぐという意味もあるように窓が無い大きな迷宮世界だった。方向音痴になるくらい。俺は嗅覚か触覚で歩くような迷宮工場で働くと思った瞬間、不安にもなった。
(シャンプーもあればリンスもある)
(リンスと言ってもラビリンス)
(初めてのリンスは不安だな)
(俺は先の見えない不安と香りと肌ざわりを三回も経験しているんだ!)
(しかし、今回はスケールが違うな)
(子犬?昆虫?になったような不安を感じる)
大手メーカーで働くこともあり、身分が低い俺には保証人のサインも必要になり、ここで働くためにクドウから保証人のサインを書いてもらい人事課に提出した。
俺は時間が進んでいるのかも定かでない真空状態でいる頃、クドウはひと仕事を終えて俺の家を訪ねてきた。
クドウもまだ慣れてない新しい職場に緊張していたのか?堅苦しい表情で俺の玄関に現れた。
「はーーー」
息吹の音が俺の耳に届き、俺はクドウと何日会ってなかったか?という日付の計算もしていない状態だったが
「おお お疲れさまー」
一言目に出て来た「お疲れさまー」は「お帰りー」の言葉と一緒になった。
「お疲れさまー」の一言を言いながらクドウの姿を見た途端、クドウの側に近づきクドウは今日はなんで寄ったかをペラペラ口にしながら、俺とクドウは立った状態で唇を合わせた。
吐息を間近に感じながら、テーブルがあるカーペットまで移動する様子はS極とN極がくっ付きあったマグネットな形態になってカーペットの上を転がった。
時間が止まり真空状態の中でクドウのお腹の奥から音がした。
「・・・」
「お腹すいたー」
「ああ 即席麺ならすぐあるけど」
「食べていい?」
「うん おふくろが食事持ってくるけど断るよ」
「お風呂入るか?」
「うん 入りたい」
マグネット状態からお腹の音でお互い平常にもどった。
「服、監獄のお姫さまでいいか?」
「あさって仕事だから明日には帰るけど」
「パソコンもスマホも電源閉じてるのか?」
「仕事忙しくて、開いて見てないの」
「こないだ電話中にごめんね」
「お父さんが長電話うんぬんかんぬんってわきでうるさくなって」
「俺もメール送って返信来なくて心配するよりか」
「クドウからのメールを待ってた方がいいかなーっていうほうだから」
「ラインも既読がないだけで心配症になるからさ」
この時期、外に出ると忙しい社会。クドウが俺の側に居るとのんびりとした時空に変わった。
(時空に変わると、ふたりでなんでもしたくなる)
(昨日までひとりでしていたことも、ひとりじゃつまらなくなりふたりでひとつのことをしてしまう)
(これはこの先の予行練習?)
(時空が過ぎると何があるんだろうか?)
クドウと見つめ合った後、クドウが両親のことを話した。
凝縮した時間の中でも自分の質問に対しては丁寧な話しをした。早口な部分もあるが、詳細は丁寧。
そこには男ぽかったり女ぽかったり。しかし、口にしてることに思わず聞き入っていた。
お互いに眠くなってきた頃に俺と話しをしていて、総合的に俺にクドウの家を継いでいけるのか?という趣旨のことを言っていた。
俺も両親のことを言いたくなり
「俺は別に親を捨ててもいいんだ」
「親父も実家捨てておふくろのほうに身を寄せたわけだし」
「今のおふくろの経営のやりかたじゃ ちょっと苦しいよ」
「スポンサーだよりだし」
「派手な宣伝方法で目立っていた時期もあったけど」
「親父も借金重ねたあげく、実家の遺産相続を放棄したんだから」
「おふくろの経営で、親父の実家の土地まで失うところだったけど」
「それでもおふくろは親父に財産がもうないのを取ってつけてバカにして」
「出稼ぎまでさせて働かせてるんだぜ」
「親父はお人よしで優しいから出稼ぎまでして家族を養ってる気分でいるけど」
「おふくろは儲け話しだけして」
「商品券だ、なんだってさ」
「ねずみ講にまで手をつけて、親戚に買わせて」
「親戚もやさしいからねずみ講で買った掃除機とか布団とか」
「今でも大事に使ってて、それを見るたびに申し訳ない気持ちになるんだよ」
・・・・
「寝てたのか」
「俺も寝よっと」
「興奮したな」
「今日は」
次回
⑧ニートクリスマス 血塗れの英雄
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