『ヨミガエルガール・ジャスティス』➄Pleasure x Newjack x Civilization
「おかん、ハンドソープそろそろ買わないといけないな」
「そろそろ‥‥‥。笑顔?この頃変な噂聞くよ、あんた」
「なんだよ」
「あんた、なんか、オカマっていうのかい、ホモっていうの?。あんたそうらしいじゃないか」
「誰がそんなことを‥‥‥」
「違うのかい。なら、いいけど。困るよ。嫁が来なくなるからねーー」
「この先のことは自分で決めるよ」
「何言ってるの。大学は今は進学してないし、花見城で俳優のバイトしてたってねーー。せめて、イケメン隊っていうのかい。城のPRとかやってるようなら別だけど。いい嫁なんてーのはこっちで選べないよーー。」
「いい大学、いい就職してれば僕だって自信はつくさーー」
「うちは一人っ子。女の子がいないからねーー。ホモとか思われても困るし、女遊びばっかりされてても困る。うちの経営にも傷がつくからねーー。アパートも建て替えないとねーー。地主のいいところの嫁が来てくれるといいんだけど。農家とかどうだい。今、余った土地にアパート建ててるらしいじゃないかい。そういうところから嫁をもらってさーー。あーいうところは道路とかが通ったりするから、自然とお金が入るんだよ。おとんもおかんもそういうので結婚した。お見合い結婚だったけどね。今になってわかったよ。おとんもおかんも真面目に暮らしてたから今があるんだよ。ホモはダメだよ。投資にならないよ」
「おかんの言ってることは差別だ!!。真面目?真面目にしながら人を差別してただけじゃないか!僕がホモだったら軽蔑したんだろ!。おとんはよく言っていた「男らしくなれ」と。酒飲みのおとんになにがわかる。いつも僕を叩いて!」
「おとんには感謝しないとダメだよ。ここの家を残してもらったんだから」
「おとんと結婚して何かいいことあったか?大酒飲みで僕を叱ってばかりで。おかんだって苦労しただろ!」
「ポックリ逝ってくれたよ。うちはこう見えても勝ち組なんだよ。我が家の考え方に差別とか言われたくないねーー」
「我が家の考え方は差別だ!」
「ベーコとかいう女の子を看うけしてて差別だとか言われたくないねーー。あの子もゆくゆくはいいところに嫁がせるよ。お家のためだろ?女はそのために生まれてきたんだよ。あの子にも感謝してもらわないと困る!」
「おかんは差別的な考えしかもってない!」
「お前みたいなバカ息子はね、うちで掛かった経費をとり戻してこい!。『やめられないとまらないアマビエえびせん』を売ってとり戻してこい!バカ息子が!。となりの息子さんは奨学金使った分は家に払ってるって聞いたよ。いい噂しかないよ。あの家はいいお嫁さんも来て、きっと奨学金もとり戻すんだよ」
「おかんは、お嫁さん、女性、そしてパートナーをなんだと思ってるんだ!」
「あんた病気じゃないのか?やだよー精神病院とか行かれたら」
「おかんのほうがイカレテル」
「どの口が言うんだい」
ハイスクールまでは優しいおかんだと思っていた。その分、おとんのほうが厳しかった。僕は派手なこともしないでいた。おかんから聞かされた話しでは、おとんは予想以上の大酒飲みだったらしい。というか、僕の幼い時の目がから見ても大酒飲みに見えた。酒を飲んでなくても僕を叩いたり叱ったりもした。おかんも苦労したはずなのに、この家に飲まれてしまったのか、差別や偏見的な愚痴をよく耳にするようになった。特に結婚についてはそうだ。ハイスクールを出てすぐに結婚した者には「すぐに別れるから」と、決まってそういうことを言う。大抵すぐ別れてることも多いが、おかんの思い通りに世の中が動いてるようにも思えた。クスに対してもそうだった。たちまち近所の噂にもなったが言われてるパターンはいつも同じ。クスと仲が良かったためか、僕はホモだと思われてたのかもしれない。否定すれば否定したで差別を容認したことになる。質が悪い。
話しが変わるが、クスの父親は海東に転居した。海東都近辺で仕事をしてるらしい。
クスの父親の実家はそれなりの名を持つ旧家だと聞いた、何とか流といった剣術の免許皆伝書も持つ家柄ではあったが、その家を継がなかったらしい。廊下が血に染まったほどの家で天井には隠し階段も備えていたと、クスは言っていた。長男に生まれ、戦争時代、長男だったクスの父は身体が弱かったといった理由で、武芸を行わなかったそうだ。クスが言うには、長男に生まれたため、戦争を理由に身体が弱いと嘘をつかされたんじゃないかと言っていた。戦争時代、名のある家の長男は狙われやすいからだと。身体の弱いクスの父親をつれて外国に侵略し、そしてそこで警備の仕事までしていたそうな。クスの父は国の人質になっていたようにも感じた。
帰国後、世の中は一変した。お手伝いに預けていたクスの父の実家の住人たちは、クスの父の土地から、その住人の土地になったという。クスもクスの父も、その家の者には決して「使用人」という言葉を使わなかったという。クスの父の家は古民家でその周辺に現代的な家が建っていたが、「実わ‥‥‥」。それ以上のことは口にしなかったらしい。
地味で苦労人。苦労が報いたと思えばまた苦労人にもどった。今は園芸職人で生計を立ててるという。
「おつかれさまーー。どうぞおやすみになさってください」
「いやーありがとうございます。あなたもご一緒しませんか?」
「いいえ、まだわたしはここにいなくてはならないので。あとで行きますから」
「それでは失礼します」
「ごゆっくりどうぞ‥‥‥」
「あの時の彼と面影が似てるわ‥‥‥」
「ほおーー」
「うん‥‥‥ここの花はいつもきれいだ」
「おっちゃん、お手入れおわっただっちゃか」
「こちらのお花はきれいですなーー」
「そうでもないだっちゃ」
「フルニエさん、坂野目さんにお茶をお出しして」
「フルニエさんはどういった字を書くのですか?」
「おいらだっちゃか。ええとだっちゃ。フルニエキチ」
「ええと、布に留めると書いて布留(フル)。ニエキチは煮るに吉と書いて煮吉です。すみません、くだらなくて」
「くだらなくないだっちゃ!」
「いいえ、チリーさん。くだらなくないですよーー」
「くだらなくないだっちゃ!」
「ごしそうさまでしたーー」
「もう行くだっちゃか?」
「語り姫さん来るまでお持ちになったら?」
「すれ違いざま、お声をかけていきます」
「これからどちらに?」
「北のほうへ用事がありまして‥‥‥」
わたしはベーコと名のついたスマホメッセンジャーアプリの一部を読んだ。そしてメッセンジャーアプリからはいくつかのメッセージが届いた。
わたしは部屋に居なきゃならない。笑顔(ショウガオ)男が家賃の請求にくる。この時間、ネットカフェに曼陀羅ダラ男さんがいるはず‥‥‥。
「こんにちはーー」
「なんだっち?」
「ちょっといいですかーー」
わたしは曼陀羅ダラ男さんに急ぎの用事を頼んだ。
花見城でバイトをしているお姉さんから連絡があった。わたしはクスを駅まで迎えに行ってそのことを話した。
「お姉さんがサイドカーを譲ってくれるんだって」
「ええ!。いいのか!」
「新車を買うつもりでいるみたいで、前からわたし言ってたから‥‥‥」
「いいのかよ。ほんとにさーー」
「姉妹の利点ね。なんかいつもそう。わたしお姉ちゃんからおねだりするの‥‥‥」
「ちゃんとお礼言っておかないとな‥‥‥」
「夕食食べてから、水舎駅にまず行こうよ。あ、PCR検査受けた?‥‥‥」
「うん。また受けたよ‥‥‥」
「この時間でも日が長くなったね」
「前は真っ暗な時間帯だったもんな」
「ちょっと待ってだっち」
「誰?」
「えっとーー。こないだ会った‥‥‥」
「ジェンダーオバサンだっち」
「ああ、曼陀羅‥‥‥」
「ジェンダーオバサンだっち!」
「なんでこんな衣装に?」
「今から大猫城に行く」
「大猫城って昔の言い方で、ちょっとした城跡じゃない」
「そこに空き小屋があるだろ。僕らよく遊んだんだ。まずは行ってみよう。詳しいことは走りながら話す‥‥‥」
「体育の成績は?」
「まあまあ、かな‥‥‥」
「ウクお奉行。補導はお任せあれ」
「進めるのじゃーー」
「行くがいい、皆の者。新たなステージの始まりじゃ!!」
「何やってんのひとりで‥‥‥」
「寒くないのかなーー」
「着ぐるみ着てるから、逆に暑いんじゃない」
「キミたちうるさい!早く帰りなさい」
「あ、なんか喋った」
「うるさい」
「ゆるくないね‥‥‥」
「そういうわけで正義をなんちゃらかんちゃらってやってるんだって」
「ふーん。楽しそーっちゃ楽しそうだけどねーー」
「なんだ!」
「いやよ。クスなんとかしてーー」
「うあー!ここで足止めかよ!」
「振り切って!!」
「よし、振り切った」
「ジェンダーさん待ってるんでしょ?急ご」
「あーーいたいた」
「いたいた。いえーい!」
「あの小屋で籠城だっち。あの場所を獲られたらやっかいだっち」
「時々変な不良たちが集まるところだよね」
「今はいないだっち。けど、ここを占領されると悪事が絶えなくなるだっち」
「ここに来る情報か、何かあったのですか?」
「そこのお嬢さんのだっち。お姉さまが以前、ストーカーを追い払ってからだっち。その後、不穏な動きがあっただっち」
「えッ!うちのお姉ちゃんが!」
「あ、ここでは知り合いの話しだっち。今のは聞かなかったことにだっち」
「もう聞いたし‥‥‥」
「正義のためじゃーー。あの小屋に襲いかかれーー!!」
「わあ!!来たーー!!」
「応戦するだっち!」
「この小屋を死守するだっち」
「耐えられるかなーー」
「クス?お姉ちゃんやわたしの力ばっかり借りてないでよ!」
「ジェンダー平等だっち」
クスはわたしたちのために不良ども相手に大猫城で耐え凌いだ。ここに勇猛な不良を集めてしまうと、その後、手がつけなくなると言っていた。わたしたちはここより先に不良たちを寄せ付けなかった。クスとわたしたちは頑張った。
「わたし黙ってたけど。ここ、ずいぶんと女性たちが男性たちに、酷い目にあった場所なのよねーー」
『ヨミガエルガール・ジャスティス』➆Stress