<年明け>
東京出張に出かけ、東京で仕事を辞めて帰って来たマッチ棒。正月休みから無職になって実家に帰宅するとは両親は知らず、笑顔で迎えられた。
「おかえり、どうだった?」
「あーよかったよ」
「こっちもよかったよ、あんたが居なくて」
毎月送られていた仕送りと息子の世話をしなくてもよい気軽さは、今までどこか重たい空気が家庭内にはあった。マッチ棒が居ない間、軽い空気の家庭で両親たちは過ごしていたように思えた。
マッチ棒が子供の頃から見ていた夫婦喧嘩。マッチ棒が成人し、数か月起きに勃発する親子喧嘩。そして、息子が東京にいる間に平和な暮らしをとりもどした両親たち。
しかし、無職になって帰って来たマッチ棒の脳裏には、また、父親とは子供の頃にテレビでよく見た”寺内貫太郎一家”の西城秀樹と小林亜星の取っ組み合いの喧嘩が再び起きるのではないか?という不安が父親が正月番組を見ている横顔から想像してやまなかった。
「正月休みはいつまでなんだ?」
「あー…」
しばらく無言になったあとに「しばらく休みだね…」と、マッチ棒は会社を辞めたことを遠回しに伝え、二階の部屋へと逃れて行った。
部屋に入り、コタツの中で今後どうするか?を考えていたマッチ棒。仕事を辞める度に父親からは『休むときはしっかり休め』と言われ続けていたが、いつも慌てて再就職を決めていて、そして疲労心労を積み重ねては、退職を繰り返したことに身に染みたマッチ棒は『親に合わせる顔がない』とまで、今更ながら後悔をした。
東京に出かける前に車を親に譲ったマッチ棒は、大型車のレパードに乗り換えたあとに東京に旅立った。帰宅後、まず買わなければいけなかったのが”スタッドレスタイヤ”だった。正月3日が過ぎた頃に自動車関係の初売りが始まり、マッチ棒は個人で営んでいる暇そうなタイヤショップに”スタッドレスタイヤ”を求めた。
「中古のスタッドレスタイヤありますか?」
「中古?」
「この車に履かせるんで、次の車検で買い換えるつもりなので、中古品があれば丁度いいかなーと」
つなぎ服姿のタイヤショップのおやじは、マッチ棒のレパードの足回りをしばらくみていた。
「その大きさのならあるな」
「メーカーは何ですか?」
「ミシュラン」
「ミシュラン?」
「ミシュランは性能がいいよ、あとは新品になるがどうします?」
「あ、じゃー、そのミシュランので」
レパードにミシュランのスタッドレスタイヤを履かせ、雪が降ってもこれで安心だと思うと無性にどこか遠くへ出かけたくなった。部屋の戻り、東京の事を思い出していたマッチ棒は、池袋のファッションヘルスのママから告げられた宮古市にあるパブのことが気になった。
地図をひろげると、盛岡から東に向かい太平洋側に宮古市があることに気づき、まずは盛岡に行くことから考えた。
「盛岡だと、雫石か安比高原でスキーができるな」
マッチ棒はスキーのプランも考えつつ、宮古市に行く支度を始めた。
「会社はいつからなの?」
旅支度をしていて、正月が過ぎも会社に行く様子のないことに母親が心配しだした。
「出稼ぎ期間が終わったから、しばらくは休みだから…」
「毎月のお金はどうするの?」
東京にいる間、毎月仕送りをしていたお金のことを訊かれ、銀行から二か月分の仕送り代を降ろすと母親に手渡した。「ちょっとスキーに行って泊まってくるから」と言い残し、翌日、支度を終えてレパードで宮古市へ旅立った。
オートコインなスマッシュ人妻純情: える天まるのブログ連載”灯の果て夢の果て” (灯の果てノベルズ) | |
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