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灯の果て夢の果て<竜宮>

2018-10-14 15:41:20 | 灯の果て夢の果て


<竜宮>

 宮古市へ向かって旅に出たマッチ棒。高速道路を北上していると、左手に衣川城がちらっと見え、その先に前沢パーキングの入り口が見えた。そこで車を止め休憩所へ向かうと、大きな岩手県の地図が飾ってあった。

「盛岡はずいぶんと上だなー」

 地図を見ると盛岡は下から見ると半分より上の位置にあり、ちょうど半分ぐらいの位置に花巻市があった。そして花巻市から東へ通じる釜石線を通ると海岸沿いには釜石市があり、そこから北上しても宮古市に行けることを確認した。

「花巻かー」
「まだ降りたことないな…」

マッチ棒はまだ花巻市を通ったことがないのに気づき、花巻から釜石へ抜けるルートに変更した。

 高速道路から花巻インターで降りたマッチ棒は、市街地から釜石方面と書かれた看板に沿って車を走らせた。昼食にラーメン店に入り、ラーメンを頼んだマッチ棒。いつもながら感じることは岩手のラーメン屋はどこの店でもラーメン屋の質が高い。『普通のラーメン屋でも旨く感じる』宮城では普通のラーメン屋は旨いと思わないのが普通だが、岩手に入ると、どこの店も仙台では行列ができそうな旨さの店が普通に営業している。『さすが麺の国わんこそばの国』と思わせるほど、ラーメンでも岩手と宮城では味の質が違う気がしてならなかった。宮城では『半ライスサービス』の店が流行るが、岩手では半ライスは無用だった。その店の○○ラーメン一品を頼めばそれだけで満足をした。

 1月、花巻市内からは外は雪景色だった。そこから東に釜石線を通ると雪の山々に覆われ、いつ何時、運転するレパードが雪に包まれ動けなくなのか!という不安を過ぎらせながらも海岸に通じる難所を越え、”釜石市”と書いてある看板を通り抜け、海岸沿いの道路までレパードは走った。

「釜石と言えば新日鉄釜石だよな」
「松尾だよな」

 新日鉄釜石ラグビー部が日本選手権7連覇のときの立役者の”松尾雄治”のことを思い出していたマッチ棒。最近は”独占スポーツ情報”でへらへらしているか、ビートたけしと一緒になって悪ふざけしているイメージしかない”松尾雄治”だが、”無敵の新日鉄釜石”時代の顔は鮮烈だった。ラグビーのイメージしかない釜石市を走っていると、”釜石大観音”という案内板があちこちに見えるようになった。海岸線を北上中、右側には太平洋が見え、その手前先には”釜石大観音”の案内板が手招きをしているようにも見え、マッチ棒は吸い込まれるように”釜石大観音”の敷地内に入り観音様を拝むことにした。

 駐車場から大観音があるところまで徒歩通路があり、その通路の脇には土産物店が何軒も立ち並び、そこの店員のおばさんたちが一斉にマッチ棒を歓迎する視線を浴びせてきた。

「いらっしゃいませー」

「どうぞ、お茶」

「あ、ありがとうございます」

「お兄さん、こっちもあるよー」

「え、あ、はい」

「いらっしゃーい」

「お茶、お茶、飲んでってぇー」

「こっちも飲んでってぇー!」

「!!」

 お土産屋の前を素通りする度に浴びせられる「いっらしゃーい」とお茶の嵐。そのおばさんたちの口調は”松尾雄治”がバラエティー番組に出ているときの口調とそっくりで、前のめりになって喋る語り声とパッション。お土産屋のおばさんたちが立ちはだかる大観音への道は、一歩一歩が受難だった。
 行きで寄って買ったお土産のスルメイカと宮古のパブで会った時に渡すつもりで手にしたオシャレな感じのお菓子。そして”釜石大観音”を拝観したあとに、再びお土産屋で買った佃煮と日本酒とその他の数々。いずれにせよ、宮古のバブのママに向けて買った上納品の数々が”釜石大観音”からのお利益に繋がることを信じ、マッチ棒は釜石から宮古へと向かった。

 ”釜石大観音”から出た頃はすでに日は傾き、辺りは薄暗く太平洋の波だけがキラキラと輝いていた。マッチ棒は宮古市に入り、バブがどこにあるのかもわからずに、まず初めは宮古駅を目指した。市内をあちこち巡回していると”宮古駅”の案内板が見え、その道を辿ってレパードを走らせた。

「駅に駐車場があれば、そこで車中泊でもするか」
「駅前で夕食を食べたあと、公衆電話からお店に電話して訊いてみようかな」

 マッチ棒は”宮古駅”がある場所を確認したあと、途中で見かけたフランチャイズのラーメンショップまで走らせ夕食もラーメンにした。

「やっぱ岩手のラーメンは旨いな」
「どさん娘ラーメンも一味違う…」
「県民性かなー?ラーメン作りが上手いの…」
「岩手県人から見れば、旨いマズイもあるんだろうけど、岩手の人は知ってるのかなー基本的にラーメンが旨いの…」
「というか宮城県人がラーメン作りが下手なのか」
「ラーメン食べに山形行ったり福島行ったりするからな」
「地元のラーメンがマズイからか!そっか」

 岩手で宮城県人のラーメン作りは下手だと悟ったマッチ棒。昼、夜とラーメンを食べたあとは、バブでお酒でも飲もうとフランチャイズのラーメンショップの駐車場に止めていたレパードの中で煙草を吸い、時間が過ぎるのを待っていた。煙を外へ出すために窓を開けると、真っ暗になった外の景色から潮風の匂いが漂い、今、海辺の街にいることを実感していた。
 
「8時かー」

 ラーメンショップの駐車場で時間を潰していたマッチ棒。時計は夜8時を過ぎていて、そろそろ一度連絡してみようと宮古駅まで訪ねて行った。レパードを宮古駅の駐車場に止め、公衆電話へと歩いて向かい、大切に持っていた連絡先が書いてあるマッチ箱を手前にし、公衆電話のプッシュダイアルから宮古のバブの電話番号を押した。

「もしもし?」

「はい」

「パブ、うすけぼさんですか?」

「パブは、今はやってないんですよ」
「フィリピン人がみんな盛岡だの、仙台だの行っちゃってさー」

「もうやってないんですか?」

「バーならやってるけど…」

「あ、あのー、失礼ですが池袋の妹さんご存じですか?」

「池袋?あーあたしが姉です」

「すみません、その池袋の妹さんから紹介していただいて」
「今、宮古駅にいるんですが、場所はそこからは遠いですか?」

「駅からなら、タクシーで来るといいよ、そんなに遠くないから」

「住所は○○でよろしいでしょうか?」
「電話も今、手元にあるお店のマッチ箱に書いてあるのを見てて、かけているので…」

「住所も変わってないから、ただ、女の子が入るのが遅いよ、観光ホテルのコンパニオンで今出てるところだから」

「えっと、何時だと開いてますか?」

「あたしだけなら、10時過ぎに来たらいいよ」

「10時ですか、わかりました」

「すみません、お客さんのお名前教えてくれますか?」

「えっと、町野です」

「町野さん、はい、じゃーお待ちしてますから」

「はい」

 マッチ棒は、二時間ほど待つことにして、寒くなった宮古の夜に身体を温める為、再びフランチャイズのラーメンショップまで走らせた。

「いらっしゃい」

「何時まで開いてますか?」

「10時までかな」

「じゃーどさん娘味噌ラーメンください」

そして、今日、三杯目のラーメンを頼んだ。





オートコインなスマッシュ人妻純情: える天まるのブログ連載”灯の果て夢の果て” (灯の果てノベルズ)
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