世界美術全集20河出書房1968年1月10日初版印刷 初版発行1月20日からパウル・クレーをご紹介。
リズミカルなもの
雑種
肉体にもまだ顔が
パウル・クレー
クレーは、1924年に、イエーナで『近代芸術について』と題する講演を行っている。これは芸術についての彼の考えを集中的に語った重要な講演であるが、そのなかで彼が、芸術及び芸術家はさまざまな外観や経験の流れに秩序を与える一種の方向づけの感覚をそなえているが、クレーによれば、これは言わば樹木の根に相当するものである。この根が、大地からさまざまな要素を吸いとって芸術家に伝えるのであり、芸術家とはこの樹液が通る樹幹にほかならない。「芸術家は、おのれを襲うこの流れに押されながら、おのれのヴィジョンの所与を作品に伝える」というわけだ。作品とは。この幹があらゆる方向へのばしひろげる樹冠なのである。としてみれば、樹冠と根がが同じ形でできていることを要求しうるはずもないだろう。根から吸い上げられた樹液は、樹幹を通過するうちに、さまざまな領域において重大な変形作用が加えられ、かくて樹冠という、別種の秩序に支配された自律的な存在を生み出すものだからである。