すっかり名物になった「カタクリ」。紫の可憐な花の形はみんなに好まれる。ときに白花もみかける。群落で有名になった山もある。今や春の名物だ。「片栗の一つの花の花盛り 高野素十」
(2020-03 南高尾)
「カタクリ」
カタクリ(片栗、学名:Erythronium japonicum Decne.)は、ユリ科カタクリ属に属する多年草。古語では「堅香子(かたかご)」と呼ばれていた。
特徴
雪解け後に落葉樹林の林床で真っ先にカタクリやニリンソウなどが葉と茎を伸ばし花を咲かせる。その後枯れて地上部の姿が消える。
地下茎は意外と深く、鱗茎の姿がクリの片割れに似ることから、「片栗」の意味で名づけられたといわれている。
早春に10 - 15 cm程の花茎を伸ばし、直径4 - 5 cmほどの薄紫から桃色の花を先端に一つ下向きに咲かせる。まれに白花を咲かすものがあり、シロバナカタクリとよばれる。蕾をもった個体は芽が地上に出てから10日程で開花する。花茎の下部に葉が通常2枚、若い株では1枚の葉がつき、幅2.5 - 6.5 cm程の長楕円形の葉には暗紫色の模様がある。地域によっては模様がないものもある。開花時期は4 - 6月で、花被片と雄しべは6個。雄蕊は長短3本ずつあり、葯は暗紫色。長い雄蕊の葯は短いものより外側にあり、先に成熟して裂開する。雌蕊の花柱はわずかに3裂している。地上に葉を展開すると同時に開花する。晴天時は花に朝日を浴びると、花被片が開き背面で交差するほど極端に反り返り、夕暮れに閉じる運動を繰り返す。日差しがない曇りや雨の日には、花は開かないまま閉じている。開花後は3室からなる果実が出来、各室には数個 - 20程の胚珠が出来る。平均で60%程の胚珠が種子となる[。胚珠は長さ2 mmほどの長楕円形である。染色体は大型で2n=24である。
早春に地上部に展開し、5 - 6月ごろに結実して、その後葉や茎は枯れて宿根する。地上に姿を現す期間は4 - 5週間程度で、群落での開花期間は2週間程と短い。このため、ニリンソウなど同様の植物とともに「スプリング・エフェメラル」(春の妖精)と呼ばれている。種子にはアリが好む薄黄色のエライオソームという物質が付いており、アリに拾われることによって生育地を広げている(同様の例はスミレなどにも見られる)。
うとうととしてかたくりの花ふえて 石田勝彦 秋興
かたかごに杉皮を剥ぎ散らしたる 石田勝彦 百千
かたかごに銀の日の懸りをり 石田勝彦 百千
かたかごの咲くや万葉のおもかげを 山口青邨
かたかごの山の斜面の日ざしかな 細見綾子
かたかごの花に入江の汐騒ぐ 山口青邨
かたかごの花びらに風触れにけり 清崎敏郎
かたかごの花むらがりて残る井戸 鷹羽狩行
かたかごの花や越後にひとり客 森澄雄
かたかごの花群りてあひ触れず 清崎敏郎
かたかごの蕾ほとほと人遠し 深見けん二
かたかごはまだ一枚の葉の姿 細見綾子
かたかごを引つぱる風の吹きにけり 石田勝彦 雙杵
かたくりが咲いて祭の昼花火 石田勝彦 百千
かたくりにする山百合を掘るといふ 杉田久女
かたくりの花びらまくれあがりけり 清崎敏郎
かたくりの花やひつくりかへり穹 岡井省二 鯛の鯛
かたくりの花咲く雪のきのふ消え 山口青邨
かたくりの花踏み通ふ外厠 松崎鉄之介
かたくりはかなし二枚の葉花一つ 山口青邨
かたまつてちらばつてかたかごの花 鷹羽狩行
どの花となくかたかごの昃りたる 深見けん二
めつむれば深山幽谷かたくり咲く 山口青邨
別れゐし子に逢ふごとくかたかごに 林翔
喉佛けふ片栗の花の上 岡井省二 猩々
囁やかれいてかたくりの花凛と 楠本憲吉 方壺集
堅香子の花かたかごの句会かな 星野麥丘人 2003年
墓数基かたくり山に古りゐたり 細見綾子 天然の風
山の湖かたくりも花濃かりけり 星野麥丘人
山ふかく咲くかたくりの息きこゆ 能村登四郎
山窪に見しかたくりの湿り花 能村登四郎
山越しの水飲めといふ花かたくり 細見綾子
春の水かたくり山に音たてて 細見綾子
春蘭の花かたかごの花雪が降る 細見綾子
流離めく花片栗に影置けば 岡本眸
清明のわが庭かたかご莟上ぐ 山口青邨
片栗の一つの花の花盛り 高野素十
片栗の花いつも一つ棲みふりて 山口青邨
片栗の花に日が射す狂ひ節 三橋鷹女
片栗の花のてんぷら舌焦げむ 後藤比奈夫
片栗の花や藪みち踏み入れば 石塚友二 玉縄以後
片栗の花を見にゆく帯締めて 鈴木真砂女 紫木蓮
片栗の花見ることを強要す 細見綾子
片栗をかたかごといふ今もいふ 高野素十
片栗咲く遠景に狐ほのと 金子兜太
荷を降ろす 息継ぐ 坂の花片栗 伊丹三樹彦
菜園の雨のかたくり犬ふぐり 雨滴集 星野麥丘人
足のべて休む片栗の花あれば 細見綾子
風筋のかたくりは萎えやすき花 佐藤鬼房