中国の名門、北京大学の構内にある「三角地」と呼ばれる広場で、学者風の白髪の男性が突然、行事などを知らせる掲示板に大きな紙を次々と張り始めた。5月4日正午頃のことだ。計24枚。中国の最高指導者、習近平国家主席を痛烈に批判する約1万字に及ぶ論文が毛筆で丁寧に書かれていた、「毛沢東は個人崇拝を推し進めたことにより人民は無数の災禍を経験した。にもかかわらず、習近平氏は今、個人崇拝を再び大々的に推進している。歴史的悲劇が繰り返される可能性があり警戒を強めるべきだ…」 文末には「樊立勤」という署名があった。たちまち多くの学生が周辺に集まり、スマートフォンなどでその内容を撮影。約10分後、学校側スタッフが駆けつけ、紙をすべて剥がし、男性を連れ去った この出来事は「壁新聞事件」と呼ばれる。北京大学に壁新聞が登場したのは29年ぶりである。文化大革命(1966~76年)中、毛沢東思想を支持する紅衛兵の団体が政治的主張を周知させる手段として広く利用された壁新聞。三角地はその聖地として知られた
今回、樊氏が北京大学に張り出した壁新聞は、習近平氏には手厳しいが、一方で「鄧小平の政策は時代に適しており、国民の支持を得ている」などと繰り返し強調し、中国を改革開放に導いた最高実力者、鄧小平を絶賛していた
北京の改革派知識人は今回の事件を「独裁体制を築こうとしている習氏に対する、共産党内の既得権益層の反発の可能性がある」と分析した。昨年の党大会と今春開かれた全人代(全国人民代表大会=国会)を通じて人事の刷新が行われ、毛沢東一族、鄧小平一族、劉少奇一族の関係者はことごとく党中枢から外された。このことに対し、これまで習氏を支持していた元高級幹部子弟で構成する太子党の関係者の中に「習氏は仲間を裏切った」との反発が起きているという
産経新聞