自然石で造られた急な石段は、松や杉の古木で覆われて、カンテラの灯りで照らしても十段先も見えないほど暗くなっていた。
彼は雨に濡れて滑りやすくなった石段を、足元を確かめながら一歩また一歩と、百数十段を登って踊り場に着いた。
彼は、覆いかぶさっていた古木の隙間から、暗闇の迫る美保湾の海面を眺めた。
濃い灰色に広がる海面は潮煙に覆われていたが、波の谷間から一瞬、微かな灯りが見えたような気がして、彼は海面を凝視した。
「美保丸の灯り?」
清左衛門の胸はときめいた。
しかし、その灯りは一瞬で消えてしまった。
「気のせいか?」
彼は急いで客人神社の境内まで駆け上った。
彼は息を弾ませながら、灯りの見えた海面の方向に目をやったが、灯りは全く見えなかった。
暗闇の迫った美保湾からは、ゴーゴーと海鳴りの音が響いているだけだった。
彼は、ガクと音がするほど肩を落とし、その場に立ち竦んだ。
しばらくして気を取り戻した彼は、客人神社の本殿の裏に回るり、海岸線近くまでの急な坂を下りて、地蔵崎に通じる道にたどり着いた。
その道は、地蔵崎に通じる唯一の道で、クロマツ、ヤブニッケ、ヤブツバキなどの木々で覆われて、これらの木が防風林の役目を果たし美保湾から吹きつける風雨を和らげていた。
しかし、狭い道はシダや笹竹で覆われて鋭く突き出した岩を隠し、その上、晩秋の短い陽は落ちて闇夜が迫っていた。
彼はシダや笹竹、鋭く突き出した岩で足を取られながらも、カンテラの灯りを頼りに、一里余の道を我夢中で進んでいった。
地蔵崎の尖端に近づくにつれ、防風林の役目をしていた木々や、シダ、笹竹は姿を消し、凸凹の激しい岩場のような道になり、風雨は一層強くなった。
彼はカンテラの灯りを消さないように体をかがめながら歩いていると、菅笠は風であおられ、蓑からは雨が流れるように滴り落ちた。
清左衛門がようやく地蔵崎にたどり着いた時には、外海は油煙墨で塗りつぶされたように、すつかり闇に包まれ、沖之御前も地之御前も全く見えなくなっていた。