たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

砂電車の冒険 (20)

2009年02月27日 16時54分40秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 2-9)

砂電車の屋根に載せた太陽電池パネルには夏を思わせるような強い日差しが降り注ぎ、砂電車は心地よい潮風を受けながら走っていきます。
「お兄ちゃん、もっと早く、早く!」
渚君は窓越しに次々と流れていく景色を眺めながらはしゃいでいます。
遠くに“ぽっかり”浮かんだ鬼が島の岩肌では、数百羽ものウミネコが白いかたまりとなって蝶のように飛び交い、まるで浮雲のように見えます。
奈美ちゃんは浜辺に寄せては返す白波を食い入るように眺めています。
やがて右前方の高台に松林が見え始めました。
その時、床に座っていたチロが
「クンクン、クンクン」
鼻を床にこすりながら落ち着きなく動き回りはじめました。
奈美ちゃんが優しくチロの頭を撫でてやりましが治まりません。
「お兄ちゃん、チロ“おしっこ”みたいよ、早く停めて!」
海人君がブレーキレバーを“ゆっくり”引きながら砂電車を松林の麓に停め運転席のドアーを開けると、チロは待ちきれない様子で飛び降り松林に向かって走り出しました。
松林についたチロは片足をもたげ“ジャー”一気に“おしっこ”をすると、後ろ足で砂をかけ臭いをかいでいます。
「チロ、おいで!」
ようやく松林について奈美ちゃんが声をかけると、チロはうれしそうにしっぽを振りながらかけ寄ってきました。
「ここで少し休もう!」
三人は海に向かって松林の高台に腰をおろしました。
海人君が“ぼんやり”水平線を眺めていると、陽朗さんと砂千子さんの姿が蜃気楼のように浮かんできました。
「海人、砂電車での砂丘への旅、楽しそうだな~、パパも行きたかったよ!」
「奈美と渚、お願いね。あまり遠くまで行かないで早く帰っておいで!」
陽朗さんと砂千子さんは海人君に“ニッコリ”微笑むと、また蜃気楼のように海の彼方に消えてしまいました。
「パパ!ママ!」
大声で叫びそうになるのを、唇をかみしめ我慢している海人君の目に、急に涙がこみ上げてきました。


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砂電車の冒険 (19)

2009年02月21日 15時46分15秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 2-8)

“ザァブーン、ザァブーン”打ち寄せる波音に誘われるように、海人君が浜辺に目をやると、砂電車をつくっていた砂浜に白兎駅のホームが現れ、アヒルのくちばしのような形をした砂のミニ新幹線700系の先頭車両が、屋根に黒く光る太陽電池パネルを載せて停まっていました。
「お爺さんの話は本当だったんだ!」
海人君が新幹線に向かって一目散に走り出すと、奈美ちゃん、渚君そしてチロも後を追ってきました。
「ワ~スゴイ!」
みんなは目を丸くして砂の新幹線を見つめました。
「奈美、渚、乗ってみようか?」
海人君はチロを脇に抱えると、さっそく新幹線に乗り込みました。
運転席に座った海人君の前には、操作レバー、モニター画面、計器類などがたくさん並んでいます。
「これが発進レバーとブレーキ、これはスピードメーター?」
一つ一つ興味深そうに確かめていきます。
「お兄ちゃん、早く出発しようよ!」
渚君は待ちきれない様子で海人君にせがみます。
「お兄ちゃん、運転大丈夫?」
奈美ちゃんは少し心配そうに言いました。
「大丈夫、大丈夫」
海人君は奈美ちゃんの不安を振り払うように“ニッコリ”答えました。
「奈美、遊び道具も持って行こうよ!」
海人君はスコップやバケツなどを積み込むと、渚君と奈美ちゃんを補助席に座らせました。
「奈美、渚、何処に行こうか?」
「鳥取砂丘に行ってみたい!」
奈美ちゃんは遠くに見える砂丘を指差しながら言いました。
「砂電車(砂の新幹線700系)砂丘に向かって出発します」
発進レバーを引こうと海人君が前方を見ると線路がありません。
海人君はズボンのポケットから砂時計を出すと、両手で握りしめ
「鳥取砂丘まで行かせてください。お願いします」
目を閉じ静かに砂時計を3度振りました。
海人君が目を開くと前方に砂の線路が現れ、砂丘に向かって遠くかすんで延びていました。
海人君は砂時計を運転席の前にセットし発進レバーを静かに引きました。すると砂電車は滑るように白兎駅のホームを離れ砂丘に向かって静かに走り出しました。





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砂電車の冒険 (5)

2009年02月20日 09時53分53秒 | 砂電車の冒険
砂 電 車 の 冒 険  ( 1-5)

「奈美“てるてる坊主”できたよ!」
静かに海人君のようすを見ていた奈美ちゃんに渡しました。
「お兄ちゃん、私に顔を描かせてね!」
奈美ちゃんはいつの間に持ってきたのか、マジックペンを握っています。
「それじゃ~奈美、かわいく描いてね!」
奈美ちゃんは大きな瞳をまばたきもせず描きあげると
「お兄ちゃん、どぉ~かわいいでしょう?」
奈美ちゃんは満足そうに“てるてる坊主”を海人君に返し“ニッコリ”笑みを浮かべました。
「ママ“てるてる坊主”できたよ~」
海人君は生まれたばかりの“てるてる坊主”を砂千子さんに渡しました。
「まぁ~、かわいい“てるてる坊主”ができたのね!」
砂千子さんは目を細めてみつめました。
「海人、渚にも見せていい?」
砂千子さんが“てるてる坊主”を渚君の小さな手のひらにのせると
「わぁ~かわいい」
渚君は“てるてる坊主”を抱きしめうれしそうです。
砂千子さんはみんなの顔を見つめながら
「“てるてる坊主さん”にあした晴れるようにお祈りしましょう」
みんなが車庫の物干場に向かうと、外は薄暗くなり小雨は降り続いていました。
海人君が脚立に乗り “てるてる坊主”を物干竿に吊るすのをみんな静かに見守っています。
そのとき
「ブブ~ブ~」
陽朗さんの車の音が聞こえてきました。
「パパ、お帰り、パパ、お帰り」
みんなは車にかけよりました。
「ただいま~、みんな何をしているの?」
陽朗さんが車から降りると、海人君は
「パパもあした晴れるように“てるてる坊主さん”に一緒にお願いしようよ!」
海人君が陽朗さんの手をひき物干場に着くと、みんなで声を合わせ
「♪てるてる坊主 てる坊主 あ~した 天気にしておくれ ・・・・・」
“てるてる坊主”の歌をうたいながら一心にお願いしました。


作  嵯 峨 風 流   絵  高 那 ひ つ じ
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春海

2009年02月01日 12時40分30秒 | 雲雀のさえずり
荒海に 春待ち鳥が 飛び交ふて 雲の間に間の こぼれひ求む

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