たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

砂電車の冒険 (23)

2009年03月29日 17時55分04秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-2)

砂丘駅は高い砂山の頂にあり、右側は大きく落ち込んだスリバチ状の谷になっています。
砂丘の砂は太陽の熱を浴びてパウダーのようにやわらかく、まるでスポンジの上を歩いているようです。
「お兄ちゃん、足が砂に埋まってうまく歩けないよ~」
そういいながらも渚君は、楽しそうにチロとじゃれながら走り回っています。
奈美ちゃんは砂丘をあちこちと歩き回っていましたが、砂丘の窪みで、黄色い小さな花を見つけ眺めています。
「お兄ちゃん、可愛いお花が咲いているわよ!」
食い入るように花を眺めていた奈美ちゃんが小さな足跡を見つけました。
「お兄ちゃん、これ何の足跡かしら?」
海人君が奈美ちゃんの指先を見ると、美しい風紋の上に、小さな動物の足跡が残っていました。
海人君は足跡を眺めているうちに、どうしても足跡の正体を突き止めたくなりました。
「奈美、この足跡の正体知りたくない?」
海人君は風紋の上に点々と続く足跡を眺めながら言いました。
「お兄ちゃん、奈美も知りたいけど時間は大丈夫?」
奈美ちゃんは海人君に言われた砂時計のことが気になりました。
「向こうに見える砂山あたりまで行って急いで帰れば大丈夫だよ!」
海人君たちは足跡の正体を突き止める探索に出かけることにしました。
海人君が渚君の手を引き、奈美ちゃんがチロのリールを握り歩きはじめました。
しかし、砂丘を歩くのはなかなか大変で思ったように進むことができませ。
一歩踏み出すたびに靴が半分くらい砂に埋まり、砂が靴に入り重くなっていきます。
靴を脱ごうとしても砂が太陽の熱で火傷しそうに熱く、素足になることもできず歩みはしだいに遅くなっていきました。
それでも海人君たちは汗と砂にまみれながらも、ようやく砂山の頂にたどり着きました。
その時、山頂から谷間を眺めていた奈美ちゃんが叫びました。
「お兄ちゃん、あそこにお城が見える!」
海人君が奈美ちゃんの指さす方に目をやると、砂の中に、お城が蜃気楼のようにかすんでみえています。
「渚、お城が見えるよ!」
よろめくように歩いていた渚君はお城を見るなり
「お兄ちゃん、あそこまで行ってみたい!」
急に元気を取り戻すと、弾んだ声で言いました。
小さな足跡も、谷間のお城に向かって真っすぐに続いているようでした。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

砂電車の冒険 (22)

2009年03月14日 17時08分04秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (3-1)

砂電車がようやく岬を過ぎると急に視界が広がり、前方に白い砂におおわれた砂丘が太陽の光を浴びて眩しく輝いて見えてきました。
砂電車はなだらかな浜辺を過ぎ起伏にとんだ砂丘へと進み、いくもの峠を越えると今にも崩れそうな大きな砂山の麓にさしかかりました。
すると“バラバラバラ”と乾いた砂が電車の屋根に落ちてきました。
「お兄ちゃん怖いよ!」
奈美ちゃんが椅子にしがみつきました。
海人君は電車のスピードを落とし“ゆっくり、ゆっくり”通り過ぎていきました。
“ドスン!”大きな音とともに電車は“グラグラ”左右に大きく揺れ、倒れそうになりました。
海人君が驚いて振り返ると、砂のかたまりが雪崩のように線路に覆いかぶさっていました。
海人君はその場から逃げるようにスピードを上げさらに行くと、遠くの砂山の頂に蜃気楼のように駅が見えてきました。
「ナミ、渚、もうすぐ砂丘駅に着くよ!」
海人君が砂丘駅を指差すと、二人は待ちきれない様子で“ソワソワ”動き始めました。
「お待たせ。砂丘駅に着いたよ!」
砂電車が静かに砂丘駅のホームに滑り込むと、渚君と奈美ちゃんは飛び跳ねるように椅子から降りました。
海人君が砂時計に目をやると、時計の砂はすでに半分近くまで減っています。
「奈美、渚、ちょっとココにおいで!」
海人君は二人に運転席の砂時計を見せながら言いました。
「この時計の砂が下の胴に落ちるまでに白兎駅に帰らないと、パパ、ママに会えなくなるから遠くに行ってはダメだよ!」
奈美ちゃんと渚君は不思議そうに海人君の顔を見つめながら頷きました。
「さぁ~砂丘に降りてみよう」
「ワァ~広い、広いな~」
チロは奈美ちゃんにリールを外してもらうと勢いよく砂丘を走りだし、チロの後を追うように、美しい続く風紋を眺めている海人君の頬を涙が濡らしていました。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

砂電車の冒険 (21)

2009年03月05日 17時53分56秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (2-10)

「奈美、渚、出発しよう!」
海人君は勢いよく立ちあがると砂電車に向かって走り出しました。
砂電車に乗り込んだ海人君が砂時計を見ると、時計の砂はすでに3分のⅠくらい減っていました。
海人君が再び発進レバーを引くと、砂電車は松林を通り過ぎ、弓なりに大きく突き出た岬にさしかかりました。
「あ!線路が無くなっている」
海人君が慌ててブレーキを引くと砂電車は急停止しました。
「お兄ちゃんどうしたの?」
奈美ちゃんが“びっくり”したように運転席をのぞきこみました。
「ほら、前を見てごらん。波で線路が流されているんだ!」
海人君と奈美ちゃんは砂浜に降りると、スコップやクマデを使って流された線路の復旧にかかりました。
しかし、波が高く思うように作業が進みません。ようやく直した線路もすぐに波に流されてしまいます。
二人が困り果てて砂浜の座り込んでいると、一匹の小さな石ガニが近づいてきました。
「奈美ちゃん、奈美ちゃん、どうしたの?」
カニさんがたずねました。
「砂電車の線路が波に流され、前に進むことができなくて困っているの」
奈美ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で言いました。
するとカニさんは近くの小岩に登ると
「お~い、みんな集まれ!」
海に向かってカニさんが大声で叫ぶと、仲間のカニさんたちが“ぞろぞろ、ぞろぞろ”わき上がるように集まり、砂浜はカニさんたちでうめつくされていきました。
そして、その中でもひと際大きな親のカニさんが、奈美ちゃんに近づいて言いました。
「白兎海岸では子供を助けていただき本当にありがとうございました。私たちが線路を造りますからその上を渡ってください」
「みんな、一列に並んでー」
親のカニさんの合図で砂浜に集まっていたカニさんたちは、波に流された線路の間を一列に並びました。
「線路ができました。早く渡ってください!」
海人君は不安そうにカニさんに聞きました。
「かにさん、上に乗っても本当に大丈夫?」
「私たちの甲羅は硬いから大丈夫です。早く、早く渡ってください!」
海人君はカニさんに言われるまま甲羅の線路の上を“ゆっくり、ゆっくり”砂電車を走らせました。
「カニさんありがとう、ありがとう」
三人は窓越しに、カニさんの姿が見えなくなるまで手を振り続けました。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする