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静かな振動が、心を癒す。, 2007/5/29
By TATSUYA (大阪市港区) - レビューをすべて見る
一本の映画が、俳優の眠っていた才能を開眼させる事がある。むろん、眠っていたのは役者ではなく
周囲の状況だったりもするのだろうが、そんな映画との良い出会いが観るほうも幸せにしてくれる。
この『ヴァイブレータ』は、正にそんな映画だ。
深夜のコンビ二。みぞれが雪に変わる寒い夜。ワインを買いに来た寺島しのぶ演じる主人公早川玲(寺島しのぶ)の
モノローグで映画は始まる。
6分近いモノローグと、トーキー映画のタイトル字幕の様な心象の見せ方で、グッとこの映画の世界に入り込ませる演出が上手い。
主人公が心の声に悩まされるルポライターと言う設定もあり、この映画には合っている見せ方だと思わせる。
何時からか自分の頭のなかに氾濫する“声”に悩まされ、アルコール依存症と過食・食べ吐きに陥っている31歳のルポライター玲(寺島しのぶ)は、
コンビニでふと見かけた長距離トラック運転手の岡部(大森南朋)に惹かれて関係を持ち、そのまま彼のトラックに乗り込のだった・・・。
二人を乗せて走る2トントラック。大きくも無く小さくも無いそれは、二人の居場所を象徴しているかの様だ。
「オレ、中学もまともに出て無くてサ、シンナーやって、風俗店で女の子の手配とかやってた・・・」「ワタシ、変な声が聞こえるの。
食べ吐きって知ってる?友達の影響で、ワタシもはじめて癖になっちゃった・・・」そんな裸の会話とトラックの静かな振動が、次第にココロを癒して行く。
二人が今までの嘘と思いをゆっくりと吐き出す定食屋のシーンと、突然の吐き気と不安に襲われる玲を岡部が
バスタブで抱きしめるモーテルのシーンが良い。肌を合わせること事から始まった出会いは、トラックの振動に合わせ、
やがて岡部と玲の魂のヴァイブレーションが解け合って一つになる。最後のコンビ二で別れ際に玲が見せる表情は、別人の様に新しいチカラに溢れていた・・・。
新潟までの3日間、72時間のロードムービーのスタイルで、都市に棲む孤独な魂の再生を感じさせる魅力的な映画だ。
監督は東京ゴミ女の『廣木隆一』。芥川賞の候補になった『赤坂真理』の原作を、『荒井晴彦』が見事な脚本に仕上げている。
この映画でその年の映画賞を総なめにした寺島しのぶの演技は勿論見事だが、達也がこの映画を観たいと思ったのは、
トラックの運転手を演じた『大森南朋(なお)』の存在が気になったのだ。と言うのも、4月に劇場で観た『蟲師』の虹朗を演じた
大森の演技が良かった故。出しゃばらず、そこに居ることがココロの癒しになる様な不思議な空気感を持っている。
そう言えば彼のは父は、舞踏集団『大駱駝艦』を主宰する俳優の麿赤児だった。うーむ、赤児の魂、南朋までも(すんません)。
しかしこの映画は、かなりの低予算ながらも作り込みが上手い。効果的に使われるサイドミラーやトラック無線。
カメラワークや音楽のセンスなど、どれを取ってもプロのお仕事を感じさせてくれます。『ヴァイブレータ』と言う
一見過激でキャッチーナなタイトルに引いて、見過ごしていた貴女!◎のお薦めです。
冷え込む日の夜に、ホットレモンでも飲みながら観るのも悪くないかも。