千の風…

私の勤めるデイサービスは、
認知症になられた方の通過点です…
症状の進行や、ご家族の介護負担から、通所サービスではなく、
入所系のサービスへと移行して行かれるからです。

次の施設に移られてから、その後の消息は半数以上がわかりません…
たまにご家族から連絡が入ることもありますが、
そんなに多くはないのです…

Ｔさんは、わりと順調に利用が始まった方…
ご家庭では、奥様に対する暴言等あり、ご家族は困ってみえましたが…
デイでは、次第に生活リズムにも慣れ、他の利用者さんやスタッフとも
打ち解け、時には冗談を言ったり…不安な胸のうちから涙を流されたり…
すごい気遣いのできる方で、スタッフにも人気のある方でした。

認知症が進行して、奥様の介護疲れから有料老人ホームに入られましたが、
本人とご家族の強い希望で、うちのデイに毎日のように通ってみえていました。
ただそのホームが、廃業することになり、別のホームに移り…
介護保険の関係でうちのデイへはみえなくなりましたが、
時々、スタッフの話題にのぼっていましたね。

私は管理者として、ご家族の相談に乗っていて、
利用が終了したあとも、何度か相談のお話を聞いたことも…

先日、ご家族から、Ｔさんが突然倒れ、延命処置をするかどうかの相談を受けました…
ご家族はＴさんの命の鍵をご自分が握っていることの重さに、
そして、目の前のＴさんの状態が受け入れられず、様々な感情に戸惑ってみえました。

私はよくご利用が終わるご家族様に、
デイでの様子を写した写真をお渡ししていて、Ｔさんのご家族にもお渡ししていました。
でも、まだお見せしていないものもあり…
そのお写真を一緒に見ながら、お話をさせていただきました。

「私は父がこんなに楽しそうに笑っている顔を見たことがありません。
認知症にはなったけど、このデイに来て、父は楽しく生きていたんですね…」
と言われ…そして、その後、延命はしないと連絡が…
そして昨日…一昨日亡くなられたとの連絡をいただきました。

お通夜の会場はデイに近いので、終業時間が終わってから有志で
Ｔさんにお別れをしてきました。

Ｔさんは少し痩せたかな、という感じでしたが
安らかなお顔をしてみえましたね…
「男前だね、Ｔさん、今までありがとね、またいつか会いましょうね…」
と、声をかけるのが精一杯で…涙が溢れてしまいました…

今日は告別式…Ｔさんのご出棺の時刻頃、天気が悪くなり、
デイの庭の木々が揺れるほどの強風が吹きました…
私は、Ｔさんが風になってお別れに来たかな…と
“千の風になって”の曲を思わず思い出していましたね…

今まで、何人もの利用者さんと出会いました。
その中には、深く心を通わせたり、縁を感じたりする方がみえますが、
Ｔさんもそのお一人でした。

出会いがあれば、必ず別れもあります。
Ｔさんと出会えたことも、私の人生に意味あること…
安らかなお眠りをお祈り申し上げます…