By - NEWS ONLINE 編集部 公開:2023-01-03 更新:2023-01-03
外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦
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が12月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「2023年に起きないこと」について予測した。
〇2023年に起きないこと
飯田)2022年も驚くニュースがたくさんありました。特に国際情勢に関しては先を読むのが難しい。
宮家)いろいろな人たちがいろいろな予想をするなか、何年か前に、私もやろうかどうしようかと思ったのが始まりですが、しかし、考えてみたら、予想は外れる可能性が高いのです。
外さないいちばんいい方法は、「起きないこと」を書けばいいのだという。「起こること」よりも「起きないこと」の方が当たりやすいから。
それで書き始めたのですが、2022年の1月に「2022年に何が起きないか」と考えた時、専門家はみんな、あのとき「ウクライナ侵攻は起きない」と言っていたのです。
みんなそう言っていたのです。でも実際には攻めてきた。
これを外したら私も大変なことになっていましたよ。
結果論なのですが、「侵攻はない」という予感なかったわけではなく、実は大いに迷って「侵攻はない」とはじめは書いたのです。
それを途中で書き直して「プーチンは諦めない」にしたのです。
戦争は起きるかもしれない、でもこれはずっと続くだろう、どっちみち何年も前から考えていたことに違いないのだから、そうなると諦めないのではないかという直感でした。仮に今回戦争が起きなくても、まだまだウクライナを取り返したいと彼は思っているだろうから、「諦めない」がいいということになってそう書いたわけです。
そうしたら本当に侵攻しました。
飯田)あの当時確かにプーチン大統領は相当大規模な演習はやっていて兆候はあったけれども、これをどうみるかというところでした。
宮家)いまだから言いますけれども、私があのコラムを書いたのは1月の第1週あたりなのだけれども、2022年の年頭か2021年の12月くらいの段階でアメリカは「ロシアの侵攻は間違いない」と言っていたのです。
でもみんなそれを信じなかったのです。
私はそれが頭をよぎったのでギリギリ、「プーチンは諦めない」とを書いたのです。
(1)プーチンは諦めない
宮家)プーチンは2023年も諦めません。
飯田)諦めない。
宮家)しかもプーチンは負けていると思っていないから。
これから勝つつもりでいるでしょう。
それでもってウクライナのゼレンスキー大統領もこの間ワシントンで述べた通り、全然やる気満々ではないですか。
飯田)演説もしましたね。
宮家)アメリカも支援すると言っているのだから、どっちもやめられないのですよ。
ということは停戦などないのですよ。
飯田)2月に停戦をウクライナから提案するのではという報道が先週くらいにありましたね。
宮家)ウクライナで平和サミットをやるといって、内容はといったら「いままでロシアが取った分を全部返せ」というわけでしょう。
ロシアがそんな案を受けるわけないではないですか。
あの地域を編入してしまったのだから。
飯田)そうですね。ドンバス4州。
宮家)もう名義を書き換えたのになぜ返さなくてはならないのかという。
飯田)彼らからするとそういう理屈になっている。
宮家)だからやめられない。
飯田)ウクライナ側もあれは乗ってくるというつもりで投げた球ではないわけですね。
宮家)あれは情報戦だと思います。
飯田)なるほど。
(2)中国は台湾侵攻しない
宮家)そういうことがあって、2023年に何が起きないかというと、やはり「中国は台湾侵攻しない」と書いたのですよね。
いいのだろうかと思ったのだけれども、少なくとも2023年はないだろうと思っているわけです。
いまはみんなの関心が高まってしまっているから、そこで習近平は本当にやるのか。
しかもウクライナではロシアがあんな大失敗をしている。
陸上国境をタンクが入っていってもだめなのに、どうやって台湾海峡を超えるのかと考えたら、容易ではないですよね。
そもそも、まだ国務院の方の人事が終わっていないわけですから。
しかもコロナでこれだけ大騒ぎになっているときに、それどころではないですよね。
ただ2023年はないとしても、2024年以降はどうかといわれたら、私は「侵攻しない」と断言する勇気がありません。これもどうなるかという感じですね。
飯田)これもある意味「習近平は諦めない」ということですか。
宮家)習近平は諦めないでしょうね。
諦めないというか、この人は「領土をとられた」わけではないから。
プーチン氏の頭のなかはロシア帝国があって、それはこけたけれども、それがソ連になった。
ところが、あれだけの権勢をふるったソ連がいとも簡単に崩壊してしまって、あれよあれよという間にNATOが東進して、それで私たちの領土だったもの、もしくは私たちの勢力圏だったものがみんなNATOになってしまったという見方です。
冗談じゃない、話が違うだろう、西側は約束したではないか、東進などはしないと言ったではないかという。
こういうことでプーチン氏はずっと頭が出来上がっているから。それはもう諦めない。
けれども、習近平氏の場合は「諦めない」というか「とるだけとっている」でしょう。
中国は内モンゴルをとって、それからウイグルもとって、それからチベットもとって、これで「まだとるの?」という感じではないですかね。いずれにせよ、台湾は一丁目一番地ですからね。
飯田)核心的利益ということですから。
宮家)核心中の核心と言っているのですから。
いつかはやるでしょう。
ただ、いますぐにやるというのは、私はあまりピンと来ないなということですね。
(3)「北朝鮮は暴発しない」
宮家)3つ目に「北朝鮮は暴発しない」という。
これはもう定番ですね。
やれるものならば暴発してみろということです。
暴発した途端に彼らは終わりですからね。
1発核を撃ったらその時点で米韓は総攻撃ですよ。
相当犠牲は出ますけれども、北朝鮮にはそんなことできないと私は思います。
したがって「北朝鮮は暴発しない」というのはだいたい当たるだろうなという感じです。
(4)トランプは失速しない
宮家)その次に何を書いたかというと、これもまた迷ったのですよね。
「トランプは失速しない」。
トランプ氏が選挙に出るかと言えば出るのですよ。
いろいろな税金の問題とかほかにも法廷闘争をやっていて劣勢だから、彼は大統領候補にならないといけない。
これは一種の魔除けというかお守りですよね。
大統領候補になればお守りが手に入るのです。
「この大統領候補が目に入らぬか」ということですが、そのお守り自体は全然効果はないのだけれども。
そういうことで大統領には出るだろうと思います。
しかし本当に24年に勝てるのかというと、恐らく勝てないのかなと思うのだけれども、「トランプは勝てない」と言い切るのは少し早いではないですか。
選挙は2024年なのだから。そうすると今の時点で何が言えるかというと、「トランプは失速しない」。失速しないというのがどういう意味かというと、トランプが仮にこけても、トランプ現象は続くというわけですよね。
そのトランプ現象が続く限りにおいては、「トランプは失速しない」のです。そしておそらく3割の岩盤支持票はまだ持っているのですよ。
中間選挙でかなり傷がつきましたが、彼らはまだやる気満々です。
でも、トランプがこけたら「トランプよりも賢いトランプ」みたいな候補が出てくる可能性があって、そちらの方が私は嫌なのです。
それが4番目です。
(5)中東は安定しない
次に5番目なのですがこれがいちばん定番です。
「中東は安定しない」。
ここが今まで安定した試しがないですから。
私の知る限り1度も安定したことがないので。
安定していないわりに日本で関心がないというのは悲しいですけれども、これは仕方がありません。
(6)EUは分裂しない
宮家)次はこれも定番で「EUは分裂しない」です。
分裂したらあそこは終わりですから。
飯田)これもよく危機が叫ばれるところですけれども。
宮家)そうですけれども、どうしようもない国々も含めてスクラムを組まないとEUはだめになってしまうから。
でも、ドイツとフランスが組んでいるうちは大丈夫です。
いまはまだドイツとフランスは連携していますから。
イギリスがいなくたってEUは大丈夫です。
でも、ドイツとフランスが組まなくなったら終わりということですね。
(7)インドは軍事同盟を急がない
宮家)その次の7番目は、「インドは軍事同盟を急がない」ということです。当初は「軍事同盟はない」と書こうと思ったけれども、これもまた考えに考えてこう書きました。
クアッドは軍事同盟ではありませんということをいつも申し上げています。
なぜかというとインド外交は同盟国をつくって一緒に守るという発想ではありません。
インドは独立して強い国であればいいので同盟国などはいらないのです。
だから非同盟なのですよ。
では、非同盟のインドをクアッドに入れる意味は何かというと、それは軍事同盟の同盟国になるということではなくて、あくまでもインドが我々とは反対の向こう側にいかないようにバランスをとってくれればいいのです。
別にインドを入れたからといってクアッドが軍事同盟になるわけではありません。
飯田)日米豪印の枠組み。
(8)日本は急に変わらない
宮家)最後ですけれども、2022年の最後に何を書いたかというと。
実は「防衛費倍増はない」などと言ってしまったのです。これは見事に外れました。
倍増はしていないのですけれども、(防衛費の対GDP比)2%についても目標としてかなり明確に書いたではないですか。
あの文書(安保3文書)は非常によかったと思うのだけれども、「倍増はない」というのは少し外れたなと思います。
しかし、これは嬉しい外れであって、防衛費が減るのではなくて増えるのだから。結構なことです。
では2023年はどうするか。「日本は急に変わらない」と書きました。
飯田)急に変わらないですか。
宮家)「倍増なし」は外れたけれども、だからといってすぐに倍増するわけではないから。
ゆっくりと時間がかかるかもしれないけれども、大きな船ですから簡単には旋回できませんが、しかしやらなくてはいけないことは山積みなので「急には変わらない」と書きました。