日本航 空宇 宙学会誌 第22巻 第241号(1974年2月)
技 術 試 験 衛 星I型 の 開 発*
小 野 英 男**・ 宇 田 宏** Hideo ONO, Hiroshi UDA, and 平 井 正 一** Masaichi HIRAI
**宇 宙 開発事業団
1. ま え が き
日本の宇 宙開発 も東京大学の科学衛星 シリーズ"お おすみ,た んせい,し んせ い,で んぱ"の 成功,宇 宙 開発事業団の実用衛星 である電離層観測衛星 プロ トタ イプ ・モデルの完成,気 象衛星の開発着手 と,い よい よその気運が高ま って きてい る.
さて,宇 宙開発事業団 は実用衛 星打上 げのための ロ ケ ットとして"N"ロ ケ ットを開発 中であり昭和50年 度に1号 機を発射す る予定であるが,そ の際に衛星を 搭載 して衛星打上 げ技術,軌 道投入技術,追 跡および 衛星運用技術などを総合的に確立 し,ま た衛星 として は打上 げ時の環境の測定,軌 道投入後の姿勢変化 の測 定,衛 星内外 の環境の測定,機 器動作状態の測定,伸 展アンテナの伸展技術の習得 などを行な うことを計画 してお り,そ の ための衛星 と して技術試験衛 星I型 を 現在開発中で ある。
本稿 は宇宙開発事業団 が打 ち上 げ る最初の人工衛星 となるこの衛星について概要を紹介 するものである.
2. 衛星の ミ ッシ ョン
技術試験衛星I型 の ミッシ ョンは 次 の と お りで あ る.
(1) 打上 げ時の環境の測定 衛星が ロケ ットに装 着されてか ら軌道投入分 離までの過程 において,衛 星 の特定部分 が受 ける振動,衝 撃,衛 星 内 外 の 温 度変 化,分 離時の姿勢変化などの測定を行 なうもので,打 上 げ技術,軌 道投入技 術に関連 して今後の衛 星開発 の ための基礎デ ータを提供す るもので ある. (2) 定常時の衛星 の動作特性および環境 の測定 軌道投入後の定 常状態 におけ る各機器の動作特性 およ び衛星内外の環境 の測定を行な うもので,こ れ には衛 星搭載各機器の動作状態を示す電圧,電 流,温 度 など のデータ,地 上 からの コマ ン ド制 御による動 作確認信 号が含 まれ,こ れ らのデー タを地上 にて解析 して今後 の衛星開発のためのデー タを提供 する もので ある.
(3) 姿勢 の測定 軌道投入後 の定常状態 にお ける 姿勢 の変化 およびス ピン率の低下 を測定す るもので, 太 陽方 向検 出器および地磁気検 出器 により測定 したデ ータを地上 にて解析 して姿勢 の算出を行 な うもので, 姿勢測定 システムの確立 とそのデー タの利用が今後の 衛星開発に役立 つ ものである.
(4) 距離 および距離変化率の測定 衛星 に搭載 し たUHFト ランスポ ンダにより地上追跡局 において衛 星 との距離および距離変化率を測定 して衛星軌道の精 密測定を行な うもので,姿 勢 の測定 とともに衛星追 跡 および運用技術 の確立のために役立つ ものである.
(5) 伸展 アンテナの伸展 実験 伸展ア ンテナを伸 展 させ,そ の伸展状態および衛星 に与え る影響 を測定 す るものである.
伸展ア ンテナはこの衛星 の次 に打 ち上 げ られる電離 層観測衛星 にお いて重要なエ レメン トとな るものであ るが,そ の長 さが1本10数 メー トルにおよび衛 星の 姿勢,ス ピン率,太 陽電池 出力 に影響を与え るので, あ らか じめ この衛 星によ って伸展の状況 とその影響 度 を求めてお こうとする もので ある.
2. 衛星の ミ ッシ ョン
技術試験衛星I型 の ミッシ ョンは 次 の と お りで あ る.
(1) 打上 げ時の環境の測定 衛星が ロケ ットに装 着されてか ら軌道投入分 離までの過程 において,衛 星 の特定部分 が受 ける振動,衝 撃,衛 星 内 外 の 温 度変 化,分 離時の姿勢変化などの測定を行 なうもので,打 上 げ技術,軌 道投入技 術に関連 して今後の衛 星開発 の ための基礎デ ータを提供す るもので ある.
(2) 定常時の衛星 の動作特性および環境 の測定 軌道投入後の定 常状態 におけ る各機器の動作特性 およ び衛星内外の環境 の測定を行な うもので,こ れ には衛 星搭載各機器の動作状態を示す電圧,電 流,温 度 など のデータ,地 上 からの コマ ン ド制 御による動 作確認信 号が含 まれ,こ れ らのデー タを地上 にて解析 して今後 の衛星開発のためのデー タを提供 する もので ある.
(3) 姿勢 の測定 軌道投入後 の定常状態 にお ける 姿勢 の変化 およびス ピン率の低下 を測定す るもので, 太 陽方 向検 出器および地磁気検 出器 により測定 したデ ータを地上 にて解析 して姿勢 の算出を行 な うもので, 姿勢測定 システムの確立 とそのデー タの利用が今後の 衛星開発に役立 つ ものである.
(4) 距離 および距離変化率の測定 衛星 に搭載 し たUHFト ランスポ ンダにより地上追跡局 において衛 星 との距離および距離変化率を測定 して衛星軌道の精 密測定を行な うもので,姿 勢 の測定 とともに衛星追 跡 および運用技術 の確立のために役立つ ものである.
(5) 伸展 アンテナの伸展 実験 伸展ア ンテナを伸 展 させ,そ の伸展状態および衛星 に与え る影響 を測定 す るものである.
伸展ア ンテナはこの衛星 の次 に打 ち上 げ られる電離 層観測衛星 にお いて重要なエ レメン トとな るものであ るが,そ の長 さが1本10数 メー トルにおよび衛 星の 姿勢,ス ピン率,太 陽電池 出力 に影響を与え るので, あ らか じめ この衛 星によ って伸展の状況 とその影響 度 を求めてお こうとする もので ある.
3. 衛星 の諸 元
技術試験衛星I型 の外 観は第1図
<下記URL
参照
>
のとおりで あり, その諸元を要約す ると第1表
<下記URL
参照
>
d.距離及び距離変化率測定装置
方式:ゴダード方式
アップリンク:2.1GHz帯
ダウンリンク:1.7GHz帯,1W
(注)
〇電波の周波数による分類
・電波法の表示と名称
0.3–3GHz:UHFとUHF
・IEEEのマイクロ波の周波数による分類
・名称と帯域
Lバンド :0.5–2 (GHz)
Sバンド :2–4 (GHz)
のよ うに示 され る.
衛星設計の基本方針 として,既 に実績 のある方式を 踏襲す ることが最 も確実な方法である.
この点 から,衛 星の形状,構 造,姿 勢安定方式,温 度制御方式,共 通機器の設計 には既 に成功 を収めて い る東京大学の科学衛星の実績を,ま た,搭 載機器 の設 計 には既 に製作を終了 してい る当事業 団の電離層観測 衛 星プ ロ トタイプ ・モデルの成果を とり入 れて設計 を行 な って いる.
ー略ー
姿勢測定装置は太陽方向検出器と地磁気検出器よ り 構成 され,テ レメータ系 により伝送 され たデー タを地 上 にて処理 して衛 星姿 勢 を 算 出 し,一 般に磁気 トルク,重 力 傾度,太 陽光圧力 により変化す るとされる衛 星姿勢 を実測 して今後 の衛星設計に役立てよ うとす る もので ある.
な お,姿 勢測定系は検出器のアナログ ・ デ ータ(い わ ゆる波形)を 打上環境測定装 置のチ ャン ネルを利用 して伝送 する ことがで きるように設計 され てお り,こ れ によ り衛星が ロケ ットより分離 した直後 のニ ューテーシ ョン ・ダ ンパの効果 や伸展ア ンテナ伸 展時 の姿勢変動 などを詳細 に測定で きるよ うにな って いる.
距離 および距離変化率測定装置は ゴダー ド方式*
* 距 離 お よ び 距離 変 化 率 測 定 方 式 に は 大別 してGoddard 方 式,
ATS-R方 式,Unified S band方 式 が あ る.
Goddard方 式 は 最 も有 名 な方 式 で,NASAのGoddard Space Flight Centerに て 開 発 され,Syncom, IMPシ リー ズ の衛 星 にお い て 多 くの実 績 が あ る.
ETSIは この方 式 を 使用 して い るが,レ ン ジ ・ トー ンにPN コー ドを併 用す る な どの 改 良 を 行 な っ て い る.
ー略ー
に 準 じたもので,
3局 測定 と1局 単独 の精密測定の両方 の運用 に適応で きるようにな ってお り,今 後 の追跡技 術 の完成 に役立つ もので ある.
ー略ー
5. 衛星 の開発の現状
技術試験衛星I型 は昭和46年12月 に日本 電気(株) を主契約者,(株)日 立製作所を副契約者 として発注 さ れ開発が進 められている.
開発 スケジュールは第5図
<下記URL
参照
>
に示すとおりで開発期間 が3年 間 と極めて短かいため作業は常 に迅速に進 める 必要 があるが,他 方急 ぐあまりに誤 りを犯せばそれを 修正す る余裕 は無 く,各 時点 における迅速正確な判断が 極 め て 重 要 と い え る.
そ の た め の 手 法 と して"ス ケ ジ ュ ー ル","信 頼 性","品 質","コ ン フ ィ ギ ュ レ ー シ ョ ン"の4管 理 プ ロ グ ラ ム が 設 定 さ れ て お り プ ロ ジ ェ ク ト進 行 の 基 準 と な っ て い る.
現 在(昭 和48年10月)開 発 は ス ケ ジ ュ ー ル ど お り 順 調 に 進 行 し て お り,す な わ ち,昭 和47年 度 に シ ス テム ・デザ イ ンと熱モデル,構 造 モデル,エ ンジニア リング ・モデルの各製作試験,お よびプ ロ トタイプ ・ モデル の設計を終了 し,現在 プ ロ トタイプ ・モデルの 製作 中であり,昭 和48年 度内にプ ロ トタイプ ・モデ ル の認定 試 験 を 終 了 し,昭 和49年12月 にはフライ ト・モデルが完成す る予定 である.
第6図
<下記URL
参照
>
は技術試験 衛星I型 の構造 モデルの写 真を示す.
6. あ と が き
技術試験衛 星I型 は宇 宙開発事業団の最 初の衛星で あり,そ の成 否は今後 の衛星の開発計画に多 くの影響 を与え るものであるだ けに,ス ケ ジュール に追われな が らも慎重に歩 を進 めてい る現状 である.
幸いに して現在順調 に進行 中であるが,こ の衛星の 開発の大使命が達成で きるよ う関係各位の一 層の御指 導 をお願 い したい.
末筆 となったが,本 稿をまとめ るに当 り御指導御協 力 いただいた日本電気(株),宇 宙開発事業団 の各位に 厚 く御礼 申 し上げる次第で ある.
参 考 文 献
1) 平井正一,宇 田 宏,小 野英男:技 術試験衛星I型 の 開発について,第16回 宇宙科学技術連合講演会資料 A-1-10, Nov., 1972.