ドラマには現川上村長藤原忠彦さんの父、武重さんがいた。昭和28年にその武重さんもなくなる。その後、残った3匹の犬も死んでしまう。「ついに川上犬も絶滅かと思った」と藤原さんは当時を振り返る。
しかし、奇跡は起こった。最後の1頭が死んだ2ヵ月後、突然、一人の老人が藤原家を訪れ、「預かっていた犬を返したい」と申し出たという。撲殺令がだされていた戦時中、武重さんは軍部の目を盗み、川上犬の保存を願って、つがいの川上犬を八ヶ岳山中に住むこの老人に託していたのだった。
老人は、八ヶ岳の山中できこりなどの山仕事をしていた人で、ある日、食料を仕入れに山を下りた。再び山に戻り、品物の一つである乾麺の包みを開いて、何気なく包み紙の新聞紙に目をやった。すると、そこには藤原家に残った犬が死に、川上犬が絶滅の危機に瀕しているとの記事が載っていたのである。老人は、「これは」と思い、急いで藤原家に駆けつけたのだった。
まさに奇跡的な出来事である。もしあの日あの時、八ヶ岳の老人の行動がなければ・・・・。「そのめぐり合わせに川上犬の運の強さを感じ、生きた文化財として血統を守らなければならない使命の重さを知った」と藤原さんは語った。