台風15号千葉県に大きな被害が出てから23日で2週間。千葉県東部の山武(さんむ)市では一時、総戸数の約6割が電気を断たれた。特産の山武杉(さんぶすぎ)が次々と倒れて電線や電柱を直撃、停電は広範囲で10日以上つづいた。林業の衰退で放置されたスギに病気が広がったことが背景にある。

 スギの倒木が路面を埋め尽くし、電線や電柱にもたれかかる。9日の台風通過後、面積の約3割を森林が占める山武市のあちこちに、そんな光景が広がっていた。停電が解消された23日になっても、電線などの補修作業が続いた。

 市の山間部の民家は杉林の中に点在し、林に沿うように電線がつながる。そこに倒木が相次ぎ、停電が広がったとみられる。

 東京電力パワーグリッド千葉総支社によると、同市では9日、山間部を中心に、総戸数2万9600戸のうち最大1万7700戸が停電。同社が市全域での復旧を確認したのは、21日午前0時47分だった。

 「終戦直後のような暮らしだった」

 山間部で落花生を作る男性(81)は、10日以上続いた停電をそう振り返る。

 幸い、ガスと水道は使えた。夕食は日没前の午後5時ごろから取り、暑い日はエアコンのきいたマイカーに家族交代で入った。トイレはバケツにくんだ水で流した。「人工衛星が飛ぶ時代に電気が来なくなるとは。東電の発表通り27日まで停電が続いたら、死人が出ていたかも」と話す。

 同市植草の女性(72)は、19日に電気が復旧するまでは「置き去りにされたかと思った」という。車で十数キロ運転して大型入浴施設に行くのに疲れ、ガソリン不足に気をもんだ。杉林に囲まれたニンジン畑の作業小屋は倒木で潰れた。どうやって撤去すればいいのか。「これからが大変」と途方に暮れる。

蔓延する病気が倒木を拡大

 県によると、山武市周辺では250年以上前から特産の山武杉が植林されている。幹が真っすぐで太さに偏りがないため、建材などに使われてきた。

 ただ、菌により幹の外側が腐る「スギ非赤枯性(ひあかがれせい)溝腐病(みぞぐされびょう)」にかかりやすい弱点もある。山武市では今回、溝腐病のスギが、7~8メートルほどの高さでポキンと折れる様子が各地で見られた。

ログイン前の続き 倒木が相次いだ理由について、県森林研究所は「最大瞬間風速が50メートルに及ぶ、経験のない強風が最大の理由」と分析。さらに、市内の山武杉の林の約8割に蔓延(まんえん)する溝腐病が、倒木を拡大したとみる。

 対策は進まない。同市は民有林の割合が95・7%(2017年)と高く、所有者は費用のかさむ伐採や植林を敬遠する。約5・5ヘクタールを所有する女性(72)は「高く売れるわけでもないのに、手入れを頼むと100万、200万円の単位でお金がかかる。どうしたらよいのか」ともらす。

 倒木が助長した今回の停電について、千葉大学の小林達明教授(緑地環境学)は「スギの価格が低迷し、切っても販売先がないため、民有林は荒廃する一方という状態が長く続いている。集落に近い場所に森林がある千葉県では、起こるべくして起きた被害ともいえる」と話す。(熊井洋美)

再び停電「またか」

 台風15号の影響で停電後、いったん電気が復旧した千葉市の一部地域が23日、再び停電に見舞われた。東京電力パワーグリッドの作業員が電線の復旧作業を進める中、住民からは「またか」という落胆の声が漏れた。

 「3連休の最終日、かき入れ時に、なんで……」

 千葉市花見川区横戸町のラーメン店の近江操(みさお)店長(46)はうつむいた。家族連れでにぎわう午後1時半ごろ、店内の電気や冷房が突然切れた。約4時間後に復旧したものの、冷蔵庫内の約400人分のチャーシューや野菜は「捨てざるを得ない」という。

 近くの物流会社「日立物流」は午後1時ごろから約4時間半にわたって停電し、商品を棚から取り出す機械が止まった。安全品質課の須藤(すとう)博昭主任(55)は「もう仕事にならない」とつぶやく。作業員は普段より1時間早い午後5時ごろ帰宅。倉庫の冷房は利かず、汗だくで作業した。「復旧したのにまた停電。なんでなのか」と憤る。

 近所の松戸伸一さん(41)の家は、午前10時半ごろに停電してからクーラーが使えなくなった。この日の千葉市内は30度を超える真夏日。「台風から4度目の停電で、どうにかしてほしい」と訴えた。付近を南北に走る国道16号では信号が一時消え、警察が自家発電機を持ってきて対応したという。周辺では営業を中止した飲食店やガソリンスタンドも多かった。(福冨旅史)