09月28日 ラグビーW杯 日本“歴史的勝利。再び
これぞブレイブブロッサムズ! ラグビーW杯歴史的大金星につながった「地獄の宮崎合宿」
まぐれでも、奇跡でもない。
世界ランク9位の日本が同2位の強豪、アイルランドから歴史的な勝利を挙げた。日本代表の愛称「ブレイブブロッサムズ」の名にふさわしい、勇敢な戦いぶりで手にした文句なしの勝利だった。日本のリーチ マイケル主将は「ずっと前から強い日本を見せると言い続けてきて、よくできたと思ってます」と胸を張った。
それでも、試合前にどれほどの人がこの勝利を予想していただろうか。試合開始1時間前に、日本チームの試合登録メンバーの変更が発表され、故障のために登録外だった福岡堅樹が急遽エントリーされていたときには、記者やカメラマンの中から「次戦に備えて温存したほうがいいんじゃないのか」という声が漏れ、優勝候補のアイルランドにどうせ勝てやしないだろう、という雰囲気が漂っていたほどだ。
だが、選手や指揮官は自らの勝利を本気で信じ、準備してきた。
日本の司令塔で、この日14点を挙げたSO(スタンドオフ)田村優は試合後、こう言った。
「試合前にジェイミー(ジョセフ監督)が5行の俳句を詠んでくれた。『誰も勝つと思ってないし、誰も接戦になると思ってないし、僕らがどれだけ犠牲にしてきたかもわからないし、信じているのは僕たちだけ』っていうメッセージがあって。その通りになったと思います。僕たちは1週間アイルランドに勝つと信じて準備してきました」
ジェイミー監督も試合後の記者会見でこう語った。
「我々は自分たちの信念を持って貫いた。この日のために長い時間をかけて準備してきた」
それが結実したのがフォワード8人で組むスクラムだ。前半13分と20分に立て続けにトライを奪われ、苦しい展開で前半残り5分の場面、日本の陣地22メートルでアイルランドボールのスクラムというピンチだったが、日本が押し込んで相手の反則を奪った。アイルランドが得意とするスクラムで日本が勝った瞬間、スタジアムは沸きあがり、試合の流れが一気に日本に傾いた。
ウォーと雄たけびをあげた前列右のプロップ(PR)具智元(グ・ジウォン)は、こう振り返る。
「スクラムは1本目から組んだ瞬間に、いい感じで組めていた。スクラムにこだわっているチームからペナルティを取れて流れを作ることができた」
この試合の最優秀選手に選ばれたフッカー(HO)の堀江翔太は、「(長谷川)慎さん(スクラムコーチ)が教えるスクラムをやれば押されないし、プレッシャーをかけられる自信があったので、想定内でした」
日本は、フォワード8人全員が一体となることで、8人分の力を漏らさないように練習を重ねてきた。日本はスクラム6本すべて成功し、後半18分には日本ボールのスクラムを起点に、ウィング(WTB)福岡堅樹の逆転トライも生まれた。
勇敢なタックルも随所に見られた。日本はボールを持った相手選手を2人がかりで止めるダブルタックルを仕掛け、アイルランドの攻撃を食い止めた。タックル数はアイルランドの147に対し、日本は171。成功率も日本は93%と、アイルランドの88%を上回った。
ディフェンスリーダーのプロップ(PR)稲垣啓太は勝因を聞かれてこう答えた。
「相手はフォワードを前面に打ち出していくチーム。前半はお互い削り合いみたいな部分がありましたけど、後半20分、アイルランドの足が止まってきた。日本は足を止めずにディフェンスのラインスピードを保ち続けたのが、そこがひとつの差だと思いますね」
なぜ走り続けることができたのか。
19タックルを決めたロック(LO)のトンプソン ルークは、日本選手たちがコンタクトプレーをこれほど高レベルで行えるようになった理由について、「(6月から7月にかけて行われた)宮崎の合宿でコンタクト練習をいっぱいやって自信を持ったから」と語る。「地獄の宮崎合宿」とも評された1カ月にわたる合宿などでフィジカルを強化してきた日本。フランカー(FL)の姫野和樹も「苦しかった分、こういう勝利という最高の形が返ってくると思うんで、苦しかったことも最高の思い出かなと思います」
前後半80分をすぎ、試合終了を告げるホーンがスタジアムに鳴り響いた。7点差を追うアイルランドは、ラストプレーで引き分けにつながるトライを取りにいかず、大きなキックをタッチラインの外に蹴り出し、試合を終わらせた。プレーを継続させて引き分けを目指すよりも、日本の追加点の可能性を防いで7点以内で負けた際にもらえる「勝ち点1」を選んだのだ。優勝候補の強豪が、日本に完敗を認めた瞬間だった。
アイルランドの選手たちは試合後、花道を作って日本代表に拍手を送った。
敵将も「すさまじいプレー」と脱帽 日本が元世界1位アイルランドに勝てた理由
ラグビーワールドカップ2019で史上初のベスト8以上を目指すプールAの日本(世界ランク9位)は、28日に静岡県の小笠山総合運動公園エコパスタジアムでアイルランド(同2位)と対戦、後半18分にウイング福岡堅樹(パナソニックワイルドナイツ)のトライで逆転し、19-12で今大会の優勝候補を下した。
スタンドオフ田村優(キヤノンイーグルス)は1コンバージョン、4ペナルティーゴール(PG)を決めて14得点。日本は2連勝(勝ち点9)でプールAの首位に立ち、各プール2位までの計8チームが進む決勝トーナメント進出に大きく前進した。また、この日の勝利で日本は過去最高位の世界ランク8位に上昇することになった。
日本が4年前大会の南アフリカ戦に続いて、ワールドカップでティア1と呼ばれる世界上位10チームの一角を破る大金星を挙げた。アイルランドは大会開幕時点では世界ランク1位で、今大会の優勝候補の一つ。大会初戦だった22日のスコットランド戦では、ボーナス点の対象となる4トライを挙げる一方で相手にはトライを許さず、27−3で快勝していた。
前半、アイルランドが先行した。13分、20分とバックスが続けざまに2トライを挙げる。一方、日本は田村が17分、33分、さらに前半終了間際にもPGを決めて、9-12と僅差に迫って折り返した。
この試合、日本は防御で主導権をたぐり寄せた。速い出足で相手選手のプレー選択の幅を狭める。さらにボールを持った相手に2人がかりでタックルする「ダブルタックル」で、確実に相手を倒して前に進む勢いを止めるとともに、ボールにも働きかけることで、アイルランドに攻撃のリズムを作らせなかった。
チームの総タックル数は176で、アイルランドの171を上回る。成功率は93%で、こちらもアイルランド(90%)を上回った。
攻撃の記録を見ると、ボール保持率や地域獲得率はほぼ互角。ボールキャリーの回数は日本157対してアイルランド133、ボールを持って前進した総距離は日本が503メートル、アイルランドは318メートルと、日本の方がボールを持って攻撃している場面が多かったことを示している。
つまり、守勢に回ってひたすらタックルに追われるような展開ではなかったにもかかわらず、相手を上回る数のタックルを高い成功率で粘り強く続けたことになる。
攻撃では、相手が自由に動けるような形でボールを相手に渡すキックは封印し、ボールを持って攻撃を継続。一方で、自陣深くからは確実にタッチに蹴り出してプレーを切り、ラインアウトから攻める相手にプレッシャーをかけ続けた。
後半9分、大会開幕前の負傷で開幕戦のロシア戦は欠場した福岡が交替出場でピッチに入る。その8分後、日本は相手トライラインから10メートル付近のスクラムという絶好機を得た。作り込まれた連係プレーで左に右にと連続攻撃を仕掛け、姫野和樹(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)らフォワードがゴールに迫る。最後は左にボールを回し、中村亮土(サントリーサンゴリアス)の飛ばしパスをラファエレ・ティモシー(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)が気心通じたクイックパスでフリーの福岡へ。福岡がインゴールに駆け込んで、日本が逆転した。コンバージョンゴールは、5メートルラインよりやや内側という角度のある難しい位置だったが、田村が決めて4点差。さらに31分にも田村の4本目のPGでリードを7点に広げた。
日本は終了間際にも福岡のインターセプトでアイルランドゴールに迫った。最後はボールを失ったものの、7点差以内の敗戦に与えられるボーナス点1の確保を優先したアイルランドが自ら試合を切り、歓喜の瞬間を迎えた。
日本のジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)は「自分たちの信念を貫いた。我々はこの試合に時間を掛けて準備した。(コーチングスタッフも含めた)力を結集して勝利に結びつけることができた」と勝因について語った。チームキャプテンのリーチ・マイケルは「やってきたことを全て出すことができた。(勝利は)相手にプレッシャーが掛かっているのが見えてきたので、それに対し、細かくこだわって意識して対応できたのがよかった」と話した。
一方、アイルランドのジョー・シュミットHCは「日本におめでとうと言いたい。集中していて、すさまじいプレーぶりだった」と称え、「序盤12-3とリードした後、止まってしまった。終盤の試合をコントロールできず、ものすごくがっかりだが、とにかく日本が素晴らしかった」と振り返った。 また、ロリー・ベスト・キャプテンは、日本について「彼ららしいプレーをさせてしまった。本当に攻め続けられた」と話した。
ラグビーワールドカップ2019には20カ国・地域が参加し、日本はプールAでアイルランドのほか、スコットランド、サモア、ロシアと同組。日本の第3戦は10月5日(土曜日)の19時30分から、豊田スタジアム(愛知県)でサモア(現世界ランキング15位)と対戦する。