山梨県は内陸的な気候
山梨県 現況 昭和59年
『角川地名辞典 19 山梨県』
山梨県森林里山大学校 講義
本県の気候は日本全体の気候区分の中では,太平洋岸の気候をもつが,太平洋岸の中では
降水量が少なく,かつ気温の,日および年較差の大きな内陸的な気候を示している。
しかし県域は大きな山地により分断されているため地域差が大きく,通常以下の5気候区に区分されている。ただし,山腹や山頂部については,観測値がなく,不明な点も多い。
①甲府盆地
甲府を中心とする甲府盆地内は山梨県でも最も平年降水量の少ない地域で,その値は1,200mm内外であり,日本全域の平年降水量の3分の2程度である。降水量年変化上,梅雨季と秋霖季の降水量は月平均降水量としてはほぼ等しく,その中間に盛夏の乾季がある。一方,年平均気温は13.7°Cであり,富士川河谷に次いで温暖である。しかし,1月の平年平均気温は2.3°C,8月は26.7°Cとなる。1月の日最低気温は平均-3.6°Cとかなり低く,7月,8月の日最高気温の平均は30.7°C,31.5°Cであり県内で最も暑い。いずれにしろ,冬と夏は気候的に厳しく,春と秋は快適である。
②富士川・早川流域
南巨摩郡中富町以南の富士川とその支流がこの地域に含まれる。平年降水量は1,600mm以上で,同地域の南部では2,400mm以上に達し,富士山麓とともに県内での多雨区である。降水量の年変化の上では9月が他の月より多い傾向があり,台風が本県より西方の中部地方を通過した場合に特に多く降る傾向がある。富士川河谷の海抜高度は甲府盆地より低いが,夏の最高気温は盆地ほど上昇せず,冬も温暖である。山岳部を除けば,平均的には温暖多雨な地域である。
③富士北麓・道志
前述の地域と同等ないし,やや多い平年降水量をもつ。ただし,平年降水量の年変化上では,8月に最大の降水量を示す地点が多い。また一般に海抜高度が高いため,前述の地域と比較して冷涼な気候となる。すなわち,道志を除けば,1月の平20㎜、年平均気温は氷点下となり,8月の平年月平均気温も 22°C未満である。
④桂川流域
平年降水量は1,400~1,600mmで甲府盆地に次いで少ない。8月または9月の降水量が最大 となる地点が多い。また梅雨季の月降水量も甲府盆地より4omm程度多い。一方,年平均気温は13.5~14°C前後で甲府盆地に次ぐ高温域である。冬の月平均平年 値は甲府盆地とほぼ同じであるが,夏にはそれほどに は暑くならず,1゜C程度低温である。
⑤県北西・北東部
県北西部から秩父山地内にかけてこの地域に相当する。甲府盆地に近い地点では平
年降水量は1,300mm以下であるが,山麓部では1,400~1,700mmに達する。この地域のうち,甲府盆地側 では,平年降水量では6月が最多雨月となり,郡内側 では8月が最多雨月となる。最寒月の平年平均気温は 東山梨郡三富村を除くと氷点下となる。また最暖月の 平年平均気温は20~23°C程度となる。したがって気 温年較差は甲府盆地内に次いで大きく,その意味で内 陸的である。
このような気候環境は,気流系と天候との関係から ある程度説明される。冬季,北西の季節風が卓越する時,富士山,赤石山脈北部,八ヶ岳などは,積雪を甲府盆地から遠望できる時がある。しかし低地で雪が降ることはまれで,県北西部から甲府盆地西部で多少舞う程度である。このような時,甲府盆地では,「八ケ岳おろし」と呼ばれる乾燥した寒冷な風が吹く。この風は関東地方の北西季節風と異なり,時として夜じゅう吹き続く。甲府盆地の寒さは2通りある。「無風でしんしんとひえるのと冷風が吹きまくる夜だ」という ことになる。また,春の移動性高気圧が発達し日本方面に張り出した時にも北西風が強くなりやすく,果樹を中心とする農産物の被害が出やすい。一方梅雨季のいわゆる北東気流時に往々にして甲府盆地と郡内地方で天気が異なる。笹子峠の東で雨,盆地側で曇天または晴はしばしば経験することである。
このような地形・気候の特色から,山梨県は夏乾燥 すれば盆地周辺の台地・段丘ないし扇状地の高乾な部分では,乾燥による被害が生じるため,耐乾性の農作物を選択せざるを得ない。また,大雨が降れば低地の洪水・山地の崩壊が多い。このため,古くから農業用水路が作られ,台地や扇状地が開発され,最近も潅漑事業が行われている。一方堤防などにはわが国の土木史上著名なものもある。
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