心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

約束の行方・・・vol.46

2013-04-16 09:33:33 | 約束の行方


30なんて、なってみるまで実感が湧かなかった


でも実際にその年になって感じることは? “なんにもかわってへんやん私・・・”って感じ


仕事を辞めて実家へ帰り兄の店を手伝い始めて改めて、ちっぽけな自分を実感した


店にはいろんな人がやってくる 楽しそうにお酒を飲む人、兄に話を聞いて欲しくてやってくる人


仲の良い夫婦や、時にはちょっと訳ありなカップル


そのさまざまな人の話を聞いているとなんだか自分はあまりにも普通で


でも、普通が一番幸せなんだって思うようになっていた


煮え切らない態度が原因の別れもあった


ただなんとなく離れた気持ちをそのままにした別れもあった


そのどちらも今となればたいしたことでなく、その時その時に応じたものだった


仕事は? 


よくよく考えてみれば、仕事も本当はなんでもよかったのだと思う


煩い父から離れたかった 嫌な男との思い出からも逃げたかった


私はいつも逃げてばかり・・・・そして決して自分から追いかけたりしない


追いかけたいほどの気持ちを持ったことがあった?


いいえ


仕事も恋愛も、何もかも・・・心の底から必死になったことはなかったのかもしれない






「絵里子? どないした? しんどいんか・・・?」


兄の声にハッとした


「あ、ごめん なんでもないよ ちょっとぼーっとしてただけ・・」


「そうか、今日はな ちょっと忙しくなるかもしれんから頼むで」


そう言われて、ぼんやりしている場合ではないと背筋を伸ばした


ガラッと店のドアが開き、今夜最初のお客様がやってきた


“いらっしゃいませ” お客の顔が見えない場所にいた私は入口へと顔を向け直して振り向いて


振り向いたと同時に固まった・・・・・





丁寧に頭を下げて入ってきたお客さんは、私に向けて満面の笑みで微笑み


「こんばんは、久しぶり・・・元気そうだね」 とつぶやくと、兄にも丁寧に頭を下げて挨拶した


「初めまして、森下啓太と申します。 絵里子さんとは学生の時からの友達です」


兄は最初ちょっと驚いた顔をしていたが、すぐにこやかな顔になって


「ご予約の方ですね、おひとりさまで・・・そうですか、絵里子の・・・」


と言いながら、ちょっと意地悪な顔つきで私を見ながらニヤッ笑うと


「どうぞごゆっくり、ちょっとバタバタするかもしれませんが、遠慮なく食べたいものを言うてくださいね」


というと 「おいっ! 絵里子!何、ボサ―ーッと突っ立ってんねん? はよお客さんにおしぼり」


とびっくりして動けない私に声をかけた


「なんで・・・・? 啓太なんでここが わかったん?」 と言いながらおしぼりを渡すと


啓太は嬉しそうに 


「あれから何度か電話したんだよ、いつも留守だって叔母さんが・・


だから思い切って家まで行ってみたんだ


叔母さんに直接尋ねたら、京都に帰ったって・・・驚いたよエリーなんにも言わずに帰るんだもの


でね、僕がしつこく尋ねるから仕方なく“ここにいる”って教えてくれたんだ、


エリーに怒られるかもしれないって言いながらね」


「いや・・・別に怒らへんけど・・・あ、ごめんそうやね・・・わたし啓太には何も言わんと帰ったもんね」


「話したいことが沢山あるんだ、今夜店が終わったらいいかな?」


話が聞こえている兄は、こちらに目を向けると優しくうなずいてくれた。



約束の行方・・・vol.45

2013-04-09 10:20:37 | 約束の行方


“そうやわ・・・それがええかもしれへんわ” 


叔母の言葉に弾かれたように、私はその後辞表を書き3月末で退職することにした。


行動に移したのが急すぎて、周りはずい分驚いていた


「野村、どうした?仕事をやめて何をするんだい?何か嫌なことがあったのかい?」


いろいろ聞かれたが


「辞めてから考えたいんです、嫌な事があった訳ではありませんのでご心配には及びません


お世話になりました。引き継ぎはきちんとやりますので・・・」


何事も中途半端は嫌だったので、後輩への引き継ぎは丁寧にこなした







桜がきれいに咲く季節 私は、京都へと戻った


叔父や叔母には長い間とても世話になった。 


子供がいなった叔母夫婦は、私のことを本当の娘のように優しく見守ってくれた。 


実家にいるより過ごしやすかったのは、私を信用して放任してくれたおかげというものである


叔父は、娘を嫁にでもやるような顔で「絵里ちゃんまた絶対に顔を見せに来てくれよ」 と寂しそうだった


叔母は、優しくうなずいて見送ってくれた。





実家へ戻ることを話そうかどうしようかと思う人が一人いたが、


今すぐ話す必要もないかと判断し黙って帰ってきた。


しばらく何をするということもないので、実家の店の手伝いをすることにした。


“もしかしたら?このまま何も見つからないかもしれないけど、しばらくお世話になります” 


と言った私を 母親は嬉しそうに迎えてくれた


父は年をとったせいもあり、昔ほどうるさいことを言わないと聞いていたが


“嫁のもらい手は、ないんか?”と


そこだけは相変わらずで、私は適当にはぐらかし“いつまでも、迷惑はかけへんから心配せんといて”


とだけ、答えておいた。


店は、父がやっていた時とは違い 若い世代の人・・・・


昔とは違ったお客さんが多く来るようになっていた。


兄のやり方に初め難癖をつけていたらしい父も、その頃は店には一切口出しせず


御隠居さんとして、のんびり過ごしているようで 


同じく隠居生活を楽しんでいる 姉の嫁ぎ先の竹田のおじさんや


その他何人かの料理屋仲間と“歩こう会”などという会を作って


週に何度か京都市内をウォーキングしたり、噂の店を巡ったりして楽しんでいるようだった。


夕方になると甥っこである勇太くんとその弟である陽平くんが店にやって来た


よその子は大きくなるのが早いもので、あの小さかった勇太ちゃんは、今年から小学生になり


弟の陽平くんも幼稚園へ行っているらしく、元気いっぱい


初めて会う私が珍しい様で、嬉しそうにくるくると私のそばで遊び回るのだった


それを見ていると こちらの目が回りそうだったが、兄のひと言でしゃきっと二人並んで敬礼し


「はいっ! すみませんでした!!」 と言うと、二階へと上がって行った。


「さすがやね~お兄ちゃんも怖いおとーちゃんやねんなぁ」 と私が茶化すと


「店で子供が騒ぐのだけはアカンって、厳しく言うてるんや


よそで格好の悪いことしたら、自分らが恥かくねんしな


小さい時からそこだけは、きっちりさしておきたいんや」 と、厳しい父の目だった


私もきちんと手伝いせなアカンな・・・・と改めて店に愛情を持つ兄の気持ちを考えた













約束の行方・・・vol.44

2013-04-05 10:17:48 | 約束の行方


一年が過ぎるのを早く感じるようになったのは、いつからだっただろう・・・


毎日会社と家との往復だけ 最近帰りが早いことを心配した叔母が


「絵里ちゃん最近お誘いないの~?寂しいなぁ女ざかりやのに」


と、そんなことを言いだした。


普通は帰りが遅いことを心配するのだろうが・・・・


「前にちょくちょく送ってきてくれてはった外車の人とはもうアカンようになったの?」


「叔母ちゃん・・・・いつの話言うてるのん? もうそれってだいぶ前の話やん・・・」


叔母が言っているのは総一郎のことだろうが、外車でって・・・・


“しっかり見られてたんやなぁ~”と、気恥ずかしい気もしたがそれももう過去の話だ


今頃子供でも出来て楽しく暮らしていることだろう


「あ~あ・・・ホンマやね、恋でもせなアカンねぇ どこかにええ人おらへんやろかぁ~?」


そんなのんきな話をしたが、私も今年は30になる


仕事場でも後輩の女の子が “絵里子先輩お先に・・・・”と寿退社して行くさまを


何度笑顔で見送っただろう





ずいぶん昔のこんな言葉がふと脳裏をかすめた・・・・・・


“ねぇエリー?


もし30になってもひとりでいたら


僕のところへおいでよ


僕が引き受けてあげるから”


啓太の言葉・・・・


まっすぐ私を見つめて、そんな言葉をくれた あれはまだ彼が高校生の時で


私も大学に入ったばかりの夏の暑い日のことだった


“もう10年前? あ、それ以上か・・・・”


そんなことを考えながら身体を持て余していた


「叔母ちゃん・・・私この先どうしたらええやろねぇ? このまんまひとりでいるんやろかぁ」


「ほな絵里ちゃん・・・一回京都戻って、いろいろと気持ち考えなおしてみるってのはどうなん?」


「それって仕事辞めてって事?」


「そうよ、それもええんとちゃう?会社って結婚する時が辞める時とちゃうでしょ?」


なんと大胆な発言・・・仕事を辞める? 結婚するわけでもないのに?


私にはそんなこと思いもつかなかった


でも考えてみればそうかもしれない、一度いろんなことをリセットするのもいいかもしれない


男性社員に混じって頑張って来たのだ、楽しいくやりがいはあったが一生の仕事と言えるだろうか?


叔母のひと言で、心の中の何かが弾けたような気がした












約束の行方・・・vol.43

2013-04-02 10:11:44 | 約束の行方


仕事は順調だった


食事に誘ってくれるくらいの男性は何人かいた、でもその中の誰にも気持ちは動かなかった


ある日会社の先輩である 山崎さんに“野村って男を寄せ付けない何か?があるよね・・・?


美しくて棘がある感じ?いやそうじゃないな、トラウマでもあるのか?”と神妙な顔で言われた


私自信そんなつもりはなくオープンな気持ちだったのだが・・・・そんな風に思われていたのか


と、少し寂しい気がした 


“寄せ付けない” のではなく “寄り添いたい” と思えるような人が


いないだけだった、しかしそうはっきり言うのも気が引けるというものだ




“美しいは、違うんかい??” と、関西ノリで突っ込みたいのを押さえて


“トラウマですか・・・ええっとあるような、ないような? どうかなぁ~?


寄せ付けないようなって、そんな冷たい女に見えますか?


少しはかわいらしく振舞わないと、という助言ですよね?ありがとうございます”と、笑って済ませた


この人は、仕事は人並みに出来るし優しい人なのだが “やさしい”といえば聞こえはいいが


優しいだけの人という印象だった


何か物足りない・・・・なんと言うのか男の色気とでも言うのか


少しは、危ない雰囲気が欲しい こうして何度も食事に誘ってくれてもなにも仕掛けて来ようとしない


待っているわけではないが、恋愛には多少の駆け引きも必要だろうと私は思う










そんなある日アサコ先輩から、かわいらしい天使の写真が届いた


アサコ先輩からは“もう年だから子供は諦めているのよ、二人での生活を楽しもうと思っているの”


と聞いていたので、この写真には驚いたが写真の下に小さくメッセージが書いてあるのを見つけて


次の休みに遊びに行くことにした








「ああ~山崎ねぇ~あの人は、そうね絵里ちゃんが言うように優しい人ね でもなんて言うのか

そう、頼れるって感じではないわね・・・・」


アサコ先輩の家に遊び行き会社での出来事を話す中で、周りの男性についても盛り上がったのだった


「じゃぁさぁ~あの子は?ええっと絵里ちゃんと同期くらいの子いたでしょ? 何だっけか・・・あの子」

「あ、川田ですか? いやぁ~アイツはダメダメお子ちゃますぎる~同い年には思えませんよぉ~」

「そうなの? 意外にいい男だったような気がするけど?」

「あ、顔はね・・・確かに男前ですよ、モテルようですけど 

煮え切らないというのかマザコンタイプ?って感じですよ」

「じゃぁじゃぁ まだいるのかな・・・? 工藤くん 彼は?」

「あ、ダメです最近彼女出来たそうです・・・」


“君たちにかかっちゃ会社の男たちもメッタ切りだねぇ、今頃くしゃみでもしているんじゃないかい?”と


アサコ先輩のご主人がおちびさんを散歩から連れて帰ってきた


「お邪魔しています! ご無沙汰していますスイマセン・・・・女子トークで気分悪くされませんでした?」


ご主人の耕作さんとは結婚式以来だった。


素敵な人で、この人ならアサコ先輩が落ち着く決心をするはずだと思えるような男性


こんな人がそばに居ながらどうしていつまでも一人でいたのか?不思議に思うくらいだった


イヤ・・もしかしたら? 


素敵な人だとわかっているからこそ他の男性には見向きもしなかったのかもしれない


と、改めて感じたのだった


それにしても可愛い天使・・・・愛ちゃんと名付けられたその子は、気持ちよさそうに眠っている


とても小さくて優しい顔


耕作さんから“女の子はいろいろと心配だよ・・・・”と今から将来のことを心配する発言を聞き


いつの世も男親の心配は尽きないものなのだと微笑ましく思った