昔・昔のこと。一人の旅の坊様がおった。雨雪(みぞれ)の降るばんげ(夜) とある村のはずれまで
たどりついた坊様は、1軒の小さな家の前で 鈴を鳴らしてお経を読み始めたと。
その晩は、そこで泊めてもらおう思ったわけだな。 お経の声に 家から出てきたのは婆さまだった。
そこで「今晩一晩泊めてたんせ」と頼むと 「何もねぇども、それで良ければ」と、婆さまは家に中に
こころよく入れてくれたと。晩飯は粟がゆに沢庵だけだったども、坊さまは喜んでご馳走になり、
床に入ってぐっすり寝た。 次の朝 坊さまが目を覚ますと、婆さまが ちょうど炊けたばかりの米の飯を
釜から おひつに移し替えているところだった。見るともなしに見ていると、なんと・婆さまの鼻水が
つーっと おひつにたれ落ちた。坊さまは、しらねふりしたども、婆さまからお膳こ を、すすめられたとき
「どうも、腹あんべわりくてなぁ。まず、今朝はごちそうにならぬことにする」と
まったく箸もつけねで、婆さまの家をあとにしたんだと。
さて、そこらあたりの、村々をまわった坊さんは、三日あとに またこの家にやって来た。
「今晩も、泊めてたんせ」 婆さまは、今夜もこころよく家にいれてくれて、
「まんず寒くて大変だすべ」と、温かい甘酒をふるまってけだと。
その甘酒のうまいこと。うまいこと。坊さまは、3杯ものんだと。それからふと、不思議に思って
聞いたわけだ。「婆さま、一人暮らしで まんず こんたに沢山、甘酒っこ造ったこと」
「なんも、この前な、、坊さまに食べてもらおうと思って、沢山飯を炊いたのに 坊さまが
たべなかったすべ。だもんで、余ってしまったもの。それで甘酒作ったのだ」
坊さまは「んだが、んだが」と、手を合わせたそうな。
当たる罰は、なんとしても当たるっていうけども、婆さまの鼻水は、なんとしても坊さまの
腹に入ることになってたんだな。 とっぴんぱらりのぷう・・・ 阿仁地方に伝わる民話
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