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日常・民話など

昔っこ・伝説『おきなの面』

2021-10-06 14:07:30 | 昔っこ・民話

むかし、田沢湖のほとりに、大沢という小さな村があった。村の後ろの台地は

田沢湖を一望にできる とても見晴らしのよい所であった。この台地の奥の草むらに

小さなお堂があり、いつのころからか古い 一つのおきなの面があった。

そのため、この台地をおきな台と村人は呼んでいた。

 いつ頃、誰の手によって作られたものかは、村の年寄りたちも知らなかったが

その面は白いまゆ、白いひげ、深く刻み込まれたひたいの皺、まぶたを閉じたように

見えて底にひらめく瞳の 気味悪さ、見たものはみな背筋が ぞーっとするほどだった。

 

この面の噂が村中にひろまると もう誰も恐れてお宮をのぞいてみようと 

するものもなく、子どもたちも台地では遊ぼうとはしなかった。しかも不思議なことに

月が駒形山(駒ヶ岳と思われる)から離れ、湖の上に湧き出た霧がうっすらと 

森にたちこめる頃になると、この台地の奥から 2・3の魔物がひらり・ひらりと

現れ お宮の前に舞い降りると、お宮の扉がひとりでに ギッギッ、ギーイ・ギッギッ、ギーイと、

不気味な音を響かせ 左右に開き始める。この音は、静まりかえった夜だけに、

村まで聞こえてくるのであった。

 

扉が開き終わると、おきなの面はさっと飛びあがり、魔物の顏にぴたりと

張り付くのであった。すると青白い月夜のどこからか

「トロ、トロ、タラリ、タラーリ、トロトロ」と、だみ声の歌が聞こえだし

その歌に合わせて面を付けた魔物は、手をふり、足をふりあげて、ゆらり、

ゆうらりと 宙に浮いて舞いはじめるのであった。歌がだんだん調子づくと

踊りも活発になり、だんだん湖の上に広がる霧の上に出て、踊り狂うのであった。

         田沢湖

 

やがて夜明けが近づくと、魔物たちはふっと かき消えるように姿を消し、

あたりは、物音ひとつしない世界になる。 毎夜のように続くこの不思議な踊りに

村中の女や、子どもはもちろんのこと、大人たちも気味悪がって、月夜になると

村中の家々は、かたく戸を閉ざし誰一人 外へ出るものもなくなった。

こうなっては、村の肝いり(村長)も捨てておけず、村中の人々を集めて

「ほかでもないが、毎夜のように魔物が出て踊り狂うので 村じゅう大変迷惑をして

いるが、どうにか出来ないものだろうか、いい考えがあったら、出して欲しいが・・・」

しかし、誰にもいい案はなかった。

 

ただ 恐ろしいことを互いに 訴え合うだけであった。こうした寄合いを

何回か開いたある日、ある若者が 「どうだろう。大きな石を二つ用意して、

一方に面だけが入る穴を開け その中に面をおさめ、今一つの 大石ですぐ蓋をして

しまうのはどうだろうか・・・・・・」

「うん、それはいいかも知れないぞ。みんなどうだろう」

全員賛成したので、次の日 村中 総出で大石を探し出し 荷車に積み込んで

お宮の前まで運び込み、石屋に穴をほらせた。 穴が出来あがると、肝煎りが

恐る恐る 進み出て、面を取りだすと穴の中に納め、急いでいま一つの大石を

かぶせて蓋をし、みんなは、ほっとため息をして、逃げ帰るように 村に戻った。

その夜、湖に霧が流れ始め、駒形山から月が登り始めたが、魔物たちは

ついに、現れず、面も飛び立たなかった。この大石は、いまもそのまま残り

生い茂る草の中に埋もれているという・・・     とっぴんぱらりのぷう

    仙北郡田沢湖町に伝わるお話

            

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