「夫婦Ⅱ」
夫は自分ではもちろん、妻を殺すなぞ、そんな罪を犯せないから、せめて小説の中だけでも、妻にはいなくなって頂きたいという願望を込めたのだろう。
又、パソコンも今ほど一般的ではなかったし、ワープロはあったけれども、まだまだ手書きの人が多かった。
「原稿用紙を見ると、妻が亡くなる場面になると思わず力が入ってしまうみたいで明らかに筆圧が強くなっているんです」
なかにはあまりに自分の気持ちを露出させすぎて、途中から「妻」という漢字を書き間違えて、最後までずっと「毒」となっていた原稿もあったらしい。
似てるけど「麦」ではなかったらしい。
「小説の中で妻を消して日頃のストレスから解放されてるんでしょうね」編集者は苦笑していた。
原稿を書いている夫の方は、さぞや楽しかったことだろう。
彼らにとっては賞よりも妻を消す小説を書くことに意義があったに違いない。
このように少しずつこっそり鬱憤を晴らしていたほうが高齢になっても仲良しの夫婦でいられるような気がする。
妻の姿を横目で見ながら、夫が「消してやった」とほくそ笑む。
小説の出来はともかく夫婦関係を維持するために、うまくガス抜きをしている彼らの努力に、ひとりもんの私は頭が下がるのであった。
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