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文在寅政権になっても「財閥の呪縛」が続く韓国経済の悲哀

2017-08-20 17:12:37 | 日記

文在寅政権になっても「財閥の呪縛」が続く韓国経済の悲哀

加谷珪一(経済評論家)

  韓国大統領選は事前の予想通り、「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏が当選した。
 
文氏は盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の側近だった人物であり、盧氏と同じく人権派弁護士出身である。
 
文氏の経歴などを考えると、文氏の政権運営は、盧武鉉時代の再来となる可能性が高い。
 
本稿では主に経済面に焦点を当て、文政権の政策と日本への影響について考えてみたい。
 
 今回の大統領選は、文氏と野党第二党である「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)氏による事実上の一騎打ちとなった。
 
実はこの2人は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領が当選した前回(2012年)の大統領選でも熾烈な争いを演じている。
 
両氏は野党候補として立候補を表名したが、候補者一本化のため、安氏が出馬を断念した。
 
 安氏はIT起業家として成功した人物で、政治不信が著しいといわれる若年層からの支持が厚いとされてきた。
 
出馬を表明してから支持率が急上昇したものの、結局は息切れし、文氏にリードを許す結果となった。
 
現代の若者の意識を体現しているであろう安氏が2度にわたって勝利できなかったという事実は、韓国社会を理解する上での重要なポイントとなる。
 
 よく知られているように韓国経済は財閥とその関連企業に大きく依存している。
 
中でも携帯電話など電子機器で圧倒的なシェアを持つサムスン電子の存在感は極めて大きい。
 
サムスン電子の2016年12月期の売上高は約202兆ウォンであり、同社が生み出した付加価値は約82兆ウォンに達する。
 
同じ年の韓国におけるGDPは1637兆ウォンなので、サムスン1社で全GDPの5%を生み出している計算になる。
 
これに加えて財閥の関係会社や下請け企業が重層的な産業構造を形成しているので、韓国経済に対する財閥の影響力はさらに大きい。
 
 極論すると現時点では、サムスンの経営が好調であれば韓国経済も成長し、サムスンがダメになれば韓国経済も下降するという図式になっている。
 
リーマンショック後、世界経済の不振が続いたにもかかわらず、韓国が何とか成長を維持できたのはサムスンの競争力のおかげである。
 
だが、経済運営が財閥に依存しているということは、国内のマネー循環も財閥中心になるということを意味している。
 
経済が好調で財閥やその関係会社が潤っても、その恩恵はなかなか全国民にまでは回らない。
 
韓国では格差が常に社会問題となっており、これが時に激しい感情となって政治を左右する。
 
現代的でソフトなイメージを持つ安氏よりも人権派弁護士である文氏が勝つのは、弱者のための政策を国民が強く望んだ結果である。
 
 では、文氏は反財閥的で左翼的な政権運営に邁進するのかというと、おそらくそうはならないだろう。
 
先ほど筆者は、韓国は格差社会であると書いたが、日本でイメージされているほど韓国の格差は激しくない。
 
 2016年における韓国の1人あたりのGDP(国内総生産)は約2万8000ドルと、徐々に日本に近づいている(日本は3万9000ドル)。
 
11年における韓国の相対的貧困率(OECD調べ)は14.6%となっており、16.0%である日本よりもむしろ良好だ。
 
また、社会の格差を示す指標である「ジニ係数」を見ても、韓国は0.307、日本は0.336とほぼ同レベルとなっている。
 
高額所得者による富の独占についても同様で、所得の上位10%が全体に占める割合は、韓国は21.9%、日本は24.4%とあまり変わっていない。
 
 韓国は欧州各国と比較すれば、かなりの格差社会ということになるが、日本と比較した場合、それほど大きな差ではないというのが実情である。
 
確かに韓国では格差問題は重要な政治テーマだが、それは財閥という一種の特権階級に対する反発というメンタルな部分が大きい。
 
日本において格差解消や弱者救済が具体的な政策になりにくいのと同様、韓国でも急進的な格差是正策がスローガンとして掲げられることはあっても、現実的な施策にまでは至らないことが多い。
 
 これは盧武鉉政権が格差是正という急進的スローガンを掲げながらも、財閥という韓国経済の基本構造に手をつけなかった(あるいは手をつけられなかった)という事実からもうかがい知ることができる。
 
 一般的に盧武鉉政権は経済運営で失策が続き、これが企業出身である李明博大統領の誕生につながったと言われているが、必ずしもそうとは言い切れない。
 
盧武鉉時代の後半はウォン高が進み、輸出に依存する財閥の経営が苦しくなったが、李明博政権では為替はウォン安に転じ、これが経済を下支えした。
 
続く朴槿恵政権も同様である。
 
李明博政権以後、韓国の輸出は急激なペースで伸びており、2016年の輸出額は約66兆円と日本(約70兆円)に迫る勢いとなっている。
 
これはサムスンなど財閥企業の業績が好調であることに加え、ウォン安がかなりの追い風となっている。
 
韓国経済は結局のところ、政治的イデオロギーよりも財閥の経営状態と為替に左右される部分が大きいわけだ。
 
文在寅政権は、盧武鉉政権と同様、格差是正や反財閥を掲げながらも、経済的には従来と同じ路線を継続する可能性が高い。
 
北朝鮮政策がどうなるのかという政治的側面を除外すれば、今後の韓国経済を左右する要素は、為替と米国経済ということになる。
 
 日本と韓国を比較した場合、日本企業の方が高付加価値の製品を作っている割合は高いものの、基本的なビジネスモデルは類似している。
 
日本や韓国は基幹部品を製造・輸出し、アジアや中国で製品として組み立て、最終的には米国市場で販売する。
 
トランプ政権の経済政策が効果を発揮し、米国の好景気が続けば、韓国経済もそれなりの水準で推移することになる。
 
トランプ氏が掲げる減税とインフラ投資が実現すれば、理屈上、ドル高が進むので、これは韓国経済にとって追い風となる。
 
リスク要因としては、やはり日本と同じく金利上昇ということになるだろう。
 
 
 日本の場合、金利上昇の影響を受けるのは政府債務だが、韓国の場合には家計債務である。
 
韓国は、政府の財政状況は良好だが、家計債務の比率が極めて高いという特徴がある。
 
 ここで金利上昇が進むと家計の収支が苦しくなり、これが内需の低迷をもたらす可能性がある。
 
低所得層のローン返済が滞れば、金融危機が発生するリスクもゼロではない。
 
結局のところ、日本も韓国も、トランプ政権に左右されてしまうという点では似たような状況にある。
 

文在寅政権“劇薬”で予測不可能な韓国 日本抜く最低賃金で逃げる老舗 サムスンなど増税案

2017-08-20 15:06:56 | 日記

文在寅政権“劇薬”で予測不可能な韓国 日本抜く最低賃金で逃げる老舗 サムスンなど増税案

2017.8.7

産経

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が、日銀のマイナス金利政策も真っ青の“劇薬”政策を打ち出し、波紋が広がっている。

「韓国経済のパラダイムを全面的に転換する」と銘打った5カ年の経済政策方針で、大企業や製造業に偏っていた政府支援を改め、「人への投資」を増やし、所得主導の経済成長を目指すという。

要は税制・財政政策の力点を「分配」に置き、正規雇用の拡大と賃金の引き上げ、大企業や富裕層への増税で貧富の格差を大きく是正しようとの狙いだが、驚くのはその具体策の過激さだ。

 目玉となる最低賃金(時給)の引き上げでは、既に今年6470ウォン(約646円)の水準を来年は7530ウォンに上げることを決めた。

賃上げ率はなんと16.4%だ。

日本のアベノミクスも先月、賃上げによる景気刺激を目指して2017年度の最低賃金を2年連続で引き上げることを決めたばかりだが、引き上げ幅は比較できる02年以降で最大といっても全国平均で25円、引き上げ率は3%だ。

韓国の引き上げ率は日本の伸びの5倍超で、その突出ぶりは異次元といえる。

 さらに、文政権は20年までに最低賃金を1万ウォンに引き上げるとしている。

仮に安倍政権が目標とする毎年3%の最低賃金引き上げが続いたとしても、日本の水準は926円(約9528ウォン)にとどまり、20年には韓国の水準が日本を上回ることになる。

これが実現できれば、画期的な所得水準の底上げとなるが、達成するには3年間に毎年15.7%の大幅な引き上げが必要になる。

果たしてそれだけの賃上げを継続できる経済環境を文政権はつくれるのだろうか。

 そもそも、韓国経済の実力は沈下基調にあるようだ。

中央銀行の韓国銀行は7月13日発表した「経済展望報告書」で2016~2020年の韓国の潜在成長率を年間平均2.8~2.9%と推定した。

潜在成長率はその国の経済の基礎体力を示すもので、韓国は2000年代初めは5%前後だったが、その後は継続して下落傾向にあり、今回初めて2%台に転落した。

 韓国銀行は「人口の高齢化が急速に進み、潜在成長率がさらに下落する恐れがある」と警告。

「成長潜在力を拡充する構造改革を積極的に推進する必要がある」と指摘しているが、文政権の経済政策は「分配」の突出ぶりに比べて、産業競争力を高める構造改革の存在感は薄い。

新産業の育成のため、8月に大統領直属の「第4次産業革命委員会」を設置したが、人工知能(AI)分野の競争力を高めることや次世代の超高速無線通信(5G)の構築を急ぐことなど新味を欠く内容にとどまる。

韓国メディアの多くも、文政権の掲げた1万ウォンの目標は、日本が経済規模や国民所得で大きく韓国を上回っていることを踏まえると「過度」という見方を示しており、企業経営を圧迫する“劇薬”には早くも、副作用が出ている。

韓国の国内上場企業第一号という老舗繊維メーカーの京紡はこのほど、主力の光州工場の生産設備をベトナムに移転すると発表。

同じ繊維大手の全紡も国内事業所6カ所中3カ所を閉鎖することを決めた。

朝鮮日報(電子版)によると、京紡は「最低賃金の引き上げ率を10%と予想していたが、それをはるかに上回る16.4%に決まり、忍耐の限界を超えた」と、ベトナム移転の理由を説明したという。

また、韓国経済新聞などは京紡の キム・ジュン会長が「事業をするうえで最も難しいのが不確実性。

韓国は予測不可能な市場になってしまった」との嘆きのコメントを伝えた。

 ただ、朴槿恵(パク・クネ)前政権の経済政策への不満や財閥批判が吹き出している中、こうした企業の“韓国離れ”の兆候が文大統領の政策姿勢をすぐに変える可能性は今のところ低そうだ。

むしろ、韓国政府では最低賃金の引き上げに続き、経営者へさらなる分配を迫る大企業・富裕層増税の検討が進んでいる。

最終利益2000億ウォン(約200億円)以上の企業の最高税率を現在の22%から25%に引き上げる案や国民の0.08%程度とされる超富裕層を狙い撃ちした増税案が俎上にあり、国民の大半は増税を支持しているという。

 確かに、サムスン電子や現代自動車など4大財閥グループが国内総生産(GDP)の約6割を占めるともいわれるいびつな経済構造や、長年指摘されながら断ち切れない財閥と政権の蜜月構造にメスを入れるには常識破りの大胆な政策が必要なのかもしれない。

もっとも、日銀の異次元金融緩和がそうであるように、“劇薬”の政策は使い方を誤れば副作用が自滅を招きかねない。

 庶民の味方をアピールする文政権は増税はごく一部の富裕層に限った措置と強調したいのだろう。

与党の共に民主党は増税政策を「ピンセット増税」「スーパーリッチ増税」などと呼んでいるが、野党は財閥批判に乗った人気取りの「ポピュリズム増税」、経済を破壊する「増税爆弾」などと批判しているという。

 果たして、文政権の異次元の分配政策は劇的なパラダイムシフトを実現する“良薬”となるのか、サムスンや現代など日本企業のライバルでもある大企業の足を引っ張り、経済を混乱に陥れる“毒薬”となるのか。

社会主義色の濃い文政権の経済政策によって、韓国経済は歴史的な分岐点を迎えるかもしれない。(経済本部 池田昇)