毎年4万人が新たな透析患者に
老廃物排出、ホルモン産生など健康維持に
最も重要な働きをする「肝腎要」な臓器
【「慢性腎不全」治療最前線】
心臓や胃、大腸などと違って、あまり意識を向けることのない「腎臓」。
しかし「肝腎(心)要(かんじんかなめ)」という言葉もあるように、
人が生きていくうえで必要不可欠な臓器である。
この腎臓の病気「慢性腎不全」とその最新治療について、
埼玉医科大学教授の中元秀友医師が徹底解説する。
腎臓は、お腹のやや上の背中側に、背骨を挟むように
2つ正対して存在する「ソラマメ」のような形の臓器です。
この腎臓が、どんな働きをしているかご存じでしょうか。
まず、皆さんもご存じの通り、体内の老廃物を尿として
体外に排出する働きが挙げられます。
ここでいう老廃物とは、水、過剰な塩分、カリウム、カルシウム、
リンなどの他、尿素窒素、アンモニアなどの尿毒素物質も含まれます。
この機能が低下すると、毒素が貯まって尿毒症になったり、
肺水腫のように息苦しさを招く、あるいは塩分過多でむくみが生じることもあります。
しかし、腎臓にはこれ以外にも大きく2つの働きがあるのです。
その1つはホメオスタシス(恒常性の維持)。
言い換えれば、体を「普通の状態」に保たせようとする機能―です。
血液を本来の弱アルカリ性に保つ、体内の塩分濃度を一定に保つ―といった、
健康を維持する上での最も重要な〝調整〟を、
腎臓は脳や心臓などと連絡を取り合いながら行っているのです。
もう一つ、腎臓に託された重要な役割が「ホルモン産生機能」です。
造血に必要なエリスロポエチンを産生、ビタミンDやカルシウムを活性化し、
血圧にも関与するレニンを産生するなど、
意外に知られていない重要な働きを担っているのです。
この機能が低下すると、貧血を起こしたり、
低カルシウム血症になって「足がつる」などの症状が出ます。
このように人が生きていくうえで非常に重要な働きをしている腎臓ですが、
その機能が低下していくのが「腎不全」という病気。
何らかの医療介入が必要な状態になるのです。
腎不全による透析導入患者数の増加率は近年小さくなっています。
その原因として、人口そのものの減少もありますが、
腎不全の大きなリスク要因である糖尿病の治療技術が進み、
腎不全に移行する前の段階でコントロールができている人が
増えていることが大きな要因と言えます。
とはいえ、ひとたび腎不全に陥ってしまうと、治療が必要です。
機能が低下した腎臓に代わって、
これらの役割を医療的に行うことを「腎代替療法」と呼びます。
機械を使ったり患者自身の腹膜を使って血液をきれいにする「透析」や、
健康な腎臓を移植する方法など、治療法はいくつかあります。
日本で行われる腎代替療法として圧倒的に多いのは透析で、
いまこの治療を受けている人は約35万人。毎年約4万人が透析を開始し、
3万4000人ほどの患者さんが亡くなられているのが現状です。
一方で腎移植を行う人は年間約2000人です。
あすから具体的な腎代替療法について解説していきます。
(構成・長田昭二)
■中元秀友(なかもと・ひでとも)
1983年、慶應義塾大学医学部卒業。日本鋼管病院、足利赤十字病院勤務を経て、
現在、埼玉医科大学病院総合診療内科診療部長・腎臓内科教授。日本透析医学会、
日本腎代替療法医療専門職推進協会理事長。