◇感染者はどこまで増えるか
このように日本で感染者が増加している原因としては、
BA.5という以前よりも感染力の強いオミクロン株が
世界的に拡大していることが大きいと考えられますが、
どこまで感染者は増えるのでしょうか。
私としては、当面のところ、オミクロン株の流行が始まった
22年1月のような大流行という事態にはならないと考えます。
その理由として、第一に現在の日本のワクチン接種率が挙げられます。
BA.5にはワクチンの効果が弱いとされていますが、
3回目の接種を受けていれば、ある程度の感染予防効果は保たれます。
この3回目接種率が現在の日本では6割以上に達しています。
ワクチンの効果が時間と共に減衰することも考えなければなりませんが、
重症化を予防する効果は長いこと持続するとされます。
第二の理由として、既にBA.5が主流になっている海外の状況です。
例えば、ポルトガルでは5月にBA.5への置き換わりが進み、
現在では100%近くを占めています。同国では5月下旬に感染者が増加しましたが、
その後、短期間で減少に向かっています。
フィンランドもほぼ100%がBA.5と報告されていますが、
現在まで感染者はあまり増加していません。
フランスやイタリアなど置き換わりが進行中の国では、
増加が顕著になっていますが、BA.5の感染力は一概に強いわけではないようです。
このような状況から、今後、日本でもBA.5への置き換わりが進み、
感染者が増えることは避けられませんが、
すぐに医療逼迫(ひっぱく)を起こすほどの大流行にはならないと考えます。
ただし、BA.5による流行の波が秋以降の寒い時期まで続けば、
そのときは大流行になることが想定されます。
なぜなら、新型コロナのような呼吸器系ウイルスが
最も流行しやすい季節は、寒い時期だからです。
◇不気味な南半球
この点で注目したいのが南半球の状況です。南半球は現在、
冬の季節で新型コロナウイルスが拡大しやすい環境になっています。
ここに感染力の強いBA.5が侵入すれば、大きな流行になることは容易に予想されます。
しかし、現時点でオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなど
南半球の国々では、BA.5が拡大しているものの、感染者数はあまり増えていないのです。
現在、これらの国々では2年ぶりのインフルエンザが流行しています。
オーストラリアではコロナ流行前を上回る感染者数が報告されています。
この時期にBA.5が同時流行してもおかしくないのですが、
なぜか新型コロナの感染者は大きく増加していません。
この理由として考えられるのは、呼吸器系ウイルス同志の干渉作用です。
インフルエンザの流行が新型コロナの流行を抑えているのかもしれません。
いずれにしても、南半球はこれから本格的な冬になるため、
もう少し経過を見る必要があるでしょう。
◇今年の夏の過ごし方
日本では今年の夏のシーズンをどのように過ごしたらいいでしょうか。
多くの国民の皆さんは過去2年間、夏休みの旅行や里帰りを控え、
今年こそはと思っていることでしょう。
もし、第7波の流行が小さな波で終わるのであれば、
旅行などで移動することは構わないと思います。
ただし、現在のように感染者数が増加している時期は、
場面に応じた感染対策を確実に実施することが必要です。
また、新型コロナの感染を疑う症状があれば、
予定をキャンセルすることも忘れないでください。
そして、旅行などを予定している人はもちろんのこと、そうでない人も、
3回目のコロナワクチン接種を早めに受けるようにしてください。
高齢者や慢性疾患のある人は、4回目接種の時期が来たら、それを受けるようにしましょう。
BA.5はワクチンが「効かない」のではなく、「効きにくい」ということで、
必要な接種回数を着実に受けておくことが大切です。
BA.5の流行といってもオミクロン株の流行であり、感染対策は今までと同様です。
また、重症度も変化していないので、あまり恐れ過ぎずに、
感染者が増加している時期は強めの感染対策を取る。
そんな状況に応じた行動が今年の夏は求められています。
なお、今回のコラムは7月上旬までの情報を基に作成してあります。
BA.5の流行状況は刻々と変化しますので、最新の情報も参考にしてください。(了)
濱田 篤郎 特任教授
東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。