芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

想像の共同体

2016年05月05日 | 言葉
                                                                  

 昨年の12月に、ベネディクト・アンダーソンの死が伝えられた。彼の「想像の共同体」は歴史的名著であった。

…ナショナリズムのもつあの「政治的」影響力の大きさに対し、それが哲学的に貧困で支離滅裂だということである。別の言い方をすれば、ナショナリズムは、他のイズム〔主義〕と違って、そのホッブスも、トクヴィルも、マルクスも、ウェーバーも、いかなる大思想家も生み出さなかった。この「空虚さ」…

国民は〔イメージとして心の中に〕想像されたものである。

国民は、限られたものとして想像される。

国民は、主権的なものとして想像される。

国民は、一つの共同体として想像される。

…国民のなかにたとえ現実には不平等と搾取があるにせよ、国民は、常に水平的な深い同志愛として心に思い描かれる。そして結局のところ、この同胞愛の故に、過去二世紀にわたり、数千、数百万の人々が、かくも限られた想像力の産物のために、殺し合い、あるいはみずからすすんで死んでいったのである。
 これらの死は、我々をナショナリズムの提起する中心的問題に正面から向かいあわせる。なぜ近年の〔たかだか二世紀にしかならない〕萎びた想像力が、こんな途方もない犠牲を生み出すのか。


「増補 想像の共同体 ナショナリズムの起源と流行」(白石さや・白石隆訳、NTT出版1997年刊)