内橋克人氏の著書は、岩波書店から刊行された「同時代への発言」全8巻も含め、ずいぶん読んできた。時にNHKの「視点論点」「クローズアップ現代」を見る機会もあり、その意見、論点に学ぶところ多く、また大いに賛意を覚えたものである。
彼は、世に流行する単にアメリカから輸入したような新自由主義、自由市場原理主義という名の強欲資本主義、カジノ資本主義、金融資本主義、グローバリズム、そしてアメリカの口移しのような構造改革、規制緩和に異をとなえた。
全く内橋克人氏の言う通りで、自民党や民主党にせよ、アメリカから押し付けられたような構造改革と規制緩和で、それは日本にとってデフレ圧力なのであった。そして消費税増税、こうして日本は先進国の中で唯一デフレに陥っていったのである。さらにTPPと消費税10%増税…全てデフレ圧力だ。
内橋克人氏がTPPについてもずいぶん発言されておられる。
日本では3・11をきっかけに、大規模・一極集中型の経済社会を転換する動きが強まっています。その先にあるのは食糧、エネルギー、ケア(医療・介護など)をそれぞれ地域内で自給する循環型・地域主権型の社会です。成長するための経済効率や市場競争原理を至上としてきた米国スタンダードと決別し、人間生存と環境を主軸にすえた「共生の社会」と言えるでしょう。
TPPに参加することで、被災地はじめ小さなコミュニティーで始まった「社会転換」の動きにもブレーキをかけることになるのではないか。TPPは日本が変わろうとしている方向とは真逆にあるという危機感を強く持っています。
日米首脳会談で関税撤廃の「聖域」がありうるかのような表明を出しあったのは、日本に対するTPPへの誘い水、米国が日本に「アメ」を先に差し出したということでしょう。
米国はそれだけTPPを重視している。日本との自由貿易協定にとどまらず、中国に対抗する安全保障上の意味も兼ねた世界戦略の道具そのものです。一方の中国も輸出先である米国と協調関係を保ちつつ、米国抜きの「ASEAN(東南アジア諸国連合)+3(日中韓)」などを舞台にアジア諸国と経済連携を深めたり、IMF(国際通貨基金)への出資比率を高めたりして、米国主導の経済体制にくさびを打ち込もうとしている。中国はTPPに入らないし、米国も入れる気はない。TPPを実効あるものにするには、日本の参加が欠かせないということです。
だからと言って、米国が日本の農産品をそのまま聖域にする保証はありません。米国は政権交代しても一貫して「経済ルールの米国化」をめざす戦略を取り、戦後の経済交渉では日本が必ず押し切られてきた。北米自由貿易協定(NAFTA)の成功を世界に広げようと企てて失敗した多国間投資協定(MAI)を含め、長い歴史の延長線上にTPPはあるのです。
二国間貿易のセンシティビティー(重要項目)に農産品が挙がった、という直近の出来事だけで物事を判断すると間違えます。TPPに参加して農業の競争力を高めるべきだという人もいますが、米西海岸の稲作とは規模が違い過ぎる。
「アメは先に、ムチは後で」は、外交の常道です。最初はコメの聖域扱いを容認するかもしれませんが、いずれ保険、医療なども含めた広範な分野で市場開放を強く迫ってくるでしょう。