hideyukiさんの、令和もみんなガンバってますね!笑み字も!Webにも愛と光を!

日々の楽しい話、成長の糧などを綴ります。
楽しさ、感動、知恵が学べる。
(^_^)私はとっても普通の人です。

幸福の秘密

2017-10-24 20:17:17 | 物語
💓💓幸福の秘密㊙️💓💓


「これからおまえがやってゆくことは、たった1つ🌟しかない。

それ以外はないということを忘れないように。😊💕

そして前兆🌸の語る言葉🍀を忘れてはいけない。

特に、運命💓に最後まで従うこと🌟を忘れずにな。😊

しかし、わしが行く前に、もう少し話をしておこう。🎵


ある店🏠の主人が、世界で最も賢い✨男から、「幸福💕の秘密㊙️」を学んで✊くるようにと、息子👦を旅に🚶💨出した。

その若者👦は、砂漠🐫を40日間歩き👞👞まわり、

ついに山🗻の頂上🌟にある美しい城🏰に行きついた。

賢者☀️が住んでいたのは、そこだった。🎵

しかし、この若者はすぐに賢者☀️に会えたわけではなく、

城🏰の1番大きな部屋🚪に入って行くと、

そこでは、様々な人が忙し⚡️そうに働いて🏃いるのを見た。

貿易商人🍀たちが、行ったり➡️来たり⬅️していた。

隅の方では、人々が立ち話🎵をしていた。

小さなオーケストラ🎻🎼が、軽やかに音楽🎶🎵を奏でていた。

テーブルには、その地方で1番おいしい💕食べ物🍎🍓🍑を盛り付けた皿が、いっぱい並べられていた。😊

賢者☀️は一人ひとり、すべての人と話して🎵いたので、

少年は2時間🕑待って、やっと自分の番が来て、

賢者☀️の注意⚠️を引くことができた。✊

賢者☀️は注意深く🍀、少年がなぜ来たか説明するのを聞いて👂いたが、

「今、幸福の秘密㊙️を説明する時間🕑はない」

と彼に言った。

そして少年に、宮殿🏰をあちこち見て👀まわり、2時間🕑したら戻って↩️くるようにと言った。

『その間、君にしてもらいたいことがある』

と、二滴💧の油✨の入ったティー・スプーンを少年に渡しながら、賢者☀️は言った。

『歩き👟👟まわる🌀間、

このスプーンの油✨をこぼさないように持っていなさい🎵』

少年👦は宮殿の階段📶を登ったり⤴️おりたり⤵️し始めたが、

いつも目👀は、スプーンに釘づけ🔨だった。

2時間後、彼は賢者☀️のいる場所🍀に戻ってきた。

『さて、わしの食堂の壁に掛けてあったペルシャ製のつづれにしき🌈を見たかね。🎵🌟

庭師の頭(かしら)が10年かけて作った庭園🌿🌲を見たかね。🌟

わしの図書館📖にあった美しい羊皮紙📜に気づいた🌟かね?』

と賢者☀️がたずねた。

少年は当惑😵して、

『実は何も見ませんでした😵』

と告白した。🎵

彼のたった1つの関心事⚠️は、

賢者☀️が彼に託🌸した、
油✨をこぼさないようにすること✊だった。

『では戻って、わしの世界のすばらしさ🌈を見てくるがよい。🎵

わしの家🏰を知らずに、その人を信用🌸してはならない』

と賢者☀️は言った。

少年は、ほっ💕として、スプーンを持って、宮殿を探索🔎しに戻った。

今度は、天井や壁に飾られたすべての芸術品🎨を観賞👑した。

庭園🌲🌿、まわりの山々🗻、花🌷の美しさ🌸を見て、その趣味の良さ💕も味わった。😊💕

賢者☀️のところへ戻ってくると、

彼は自分の見た👀ことを、くわしく話した。😊🎵

『しかし、わしがおまえにあずけた油✨はどこにあるのかね?😊』

と賢者☀️が聞いた。👂

少年が持っていたスプーンを見ると、

油✨はどこかへ消えて☁️☁️なくなっていた。😵


『では、たった1つだけ教えて🍀あげよう💕』

と、その世界🌍で1番賢い👑男は言った。

『幸福💕の秘密㊙️とは、

世界🌍のすべての、すばらしさを味わい💕、

しかも、

スプーンの油✨のことを忘れないこと✊だよ』😊」


羊飼い🐏の少年👦は何も言わなかった。

少年は年老いた王様👑が語ってくれた物語🍀がよくわかった。🌟

羊飼い🐏は、旅が好き💕になってもよいが、
決して羊🐏のことを忘れてはならない✊のだ。😊☀️

老人👴は少年👦を眺め、両手を組んで🙏、

彼の頭🌀の上で、奇妙✨なしぐさ✨🌈を何回🌸かした。

それから、羊🐏を連れて、立ち去って👞👞いった。☁️☁️


(「アルケミスト」パウロ・コエーリョ著)


落ちたリンゴと麩をもらいました。
ありがとう。

再婚するんか?

2017-02-19 11:28:57 | 物語
🌸🌸再婚するんか?🌸🌸


「ヤス、おまえ、再婚のこと考えとるんか」

「まぁ…、べつに相手がおるわけじゃないんじゃけど…、

やっぱり、アキラにも、お母ちゃんがおったほうがええんじゃろか思うて… 」

「逃げるんか」

「はあ?」

「アキラの世話をそのオナゴに押し付けて、逃げるつもりなんか」

あわてて首を横に振った。

だが、声に出して「違う」とは言えない。

頭の片隅に、そんな思いが、まったくなかった…わけではなかった。

和尚は綿入れの半纏についた雪を手で払い、

初めて寒そうに肩をすくめ、
「アホじゃの」と、つぶやくように言った。

「…どこが、アホなん?」

「ぜんぶじゃ」

そう言われても困る。

突き放されて途方に暮れたヤスさんはうつむいて、足元に積もった雪を軽く蹴った。

「オナゴと夫婦になるときは、惚れてからにせえや。

惚れて、惚れて、どげんしようもないぐらい惚れた先に、結婚があるん違うんか」

和尚はさらに、

「自分の寂しさを、アキラのせいにするな」

とも言った。


ヤスさんは黙り込む。

寂しい?

そんなつもりはない。

けれど、これもまた声に出しては言い返せなかった。

和尚は、数珠を掛けた右手を固め、虚空につきだした。

握り拳(こぶし)の先には、暗い海と、降りしきる雪がある。

「ヤス、よう見てみい」

「…なんも見えんがな」

「見えるもんを見るんはサルでもできる。見えんもんを見るんが人間さまじゃ」

しかたなく、海を見つめた。

「ヤス、海に雪は積もっとるか」

「はあ?」

「ええけん、よう見てみい。海に降った雪、積もっとるか」

積もるわけがない。空から降ってくる雪は、海に吸い込まれるように消えていく。

「お前は、海になれ」

和尚は言った。

静かな声だったが、一喝する声よりも耳のずっと奥まで届いた。

「ええか、ヤス、お前は海になるんじゃ。海にならんといけん」

「…ようからんよ、和尚さん」

「雪は悲しみじゃ。悲しいことが、こげんして次から次に降っとるんじゃ、そげん想像してみい。

地面にはどんどん悲しい雪が積もっていく。

色も真っ白に変わる。

雪が溶けたあとには、地面はぐじゃぐじゃになってしまう。

おまえは地面になったらいけん。

海じゃ。

なんぼ雪が降っても、それは黙って、知らん顔して呑み込んでいく海にならんといけん」

ヤスさん、黙って海を見つめる。

眉間に力を込めて、にらむようなまなざしになった。


「アキラが悲しいときにおまえまで一緒に悲しんどったらいけん。

アキラが泣いとったら、おまえは笑笑え。

泣きたいときでも笑え。

2人きりしかおらん家族が、2人で一緒に泣いたら、どげんするんな。

慰めたり励ましたりしてくれる者はだーれもおらんのじゃ」

和尚が海に突き出した握り拳は、かすかに震えていた、、、寒さのせいではなく。

「ええか、ヤス…海になれ」

ヤスさんも胸が熱くなる。

「笑え、ヤス」

わははははっ、と笑った。

笑うと、つっかい棒がはずれたように涙が目からあふれ出た。

波が寄せては返す。

雪はあいかわらず降りしきっているが、

海はそのすべてを呑み込で、ただ静かに夜を抱いていた。

「アホウ、泣いとったら、笑うてもいけんがな、このアホたれ…」

海を見つめる和尚の太い眉は、降り落ちる雪でいつのまにか白く染まっていた。


(「とんび」重松清さんより)

寒いか?

2017-02-18 12:45:37 | 物語
⛄️❄️寒いか?❄️⛄️


「アキラ、寒いか」

和尚が声をかける。

「寒いじゃろ、お父ちゃんにもっとしっかり抱いてもらえ」

寝起きのアキラにどこまで言葉が伝わったかわからないが、

ヤスさんは両手でしっかりとアキラを抱きしめた。

背中が少しでも温(ぬく)もるように、と両手を広げて覆ったが、すべてを隠せるわけではなかった。

「お父さん…寒い… 」

ヤスさんの胸に頬を押しつけられたアキラが、くぐもった声で言う。

ヤスさん、あわてて、

「おう、わかっとる、わかっとる」

と、さらに強く抱き寄せたものの、

かえってパジャマとカーディガンの背中がめくれてしまい、

お尻のすぐ上の方が、剥(む)き出しになって風にさらされた。

「どこ、ここ…お父さん…寒いよ、ぼく」

困り果てたヤスさんが振り向くと、和尚は満足げに笑っていた。

おろおろする照雲が横からなにか言いかけるの、

顔の向きすら変えずにパシッと頭をはたいて、

着流しの袂(たもと)から大きな数珠を取り出した。

和尚は数珠を手のひらにかけた右手を、

「ふんっ!」

と気合を込めた声とともにアキラのほうに突出して、言った。

「アキラ、これが、お父ちゃんの温もりじゃ。

お父ちゃんが抱いてくれたら、体の前のほうは温なる。

ほいでも、背中は寒い。そうじゃろう?」

アキラは、うん、うん、とヤスさんの胸に頬をこすりつけるようにうなずいた。

「お母ちゃんがおったら、背中のほうから抱いてくれる。

そしたら、背中も寒うない。

お父ちゃんもお母ちゃんもおる子は、そげんして体も心も温めてももろうとる。

ほいでも、アキラ、お前にはお母ちゃんはおらん。

背中は、ずっと寒いままじゃ。

お父ちゃんが、どげん一生懸命抱いてくれても、背中までは抱ききれん。

その寒さを背負ういうことが、アキラにとっての生きるいうことなんじゃ」


小学校入学前のアキラに言葉の意味がきちんとわかっているとは思えない。

だが、アキラは黙って聞いていた。

「背中が寒いままで生きるいうんは、つらいことよ。

寂しいことよ、悲しくて、悔しいことよ」

和尚の言葉のテンポに合わせるように、アキラの肩が小さく震えた。

ヤスさんの胸に、涙が染みた。


和尚の右手が動く。

数珠をかけたままの手のひらが、アキラの背中に添えられた。

「アキラ、温いか」

和尚が訊(き)いた。

アキラの背中に当てた手は、すべて覆い尽くしているわけではない。

それでも、アキラは「少し…」と答えた。

「まだ、ちいと寒いか」

「…うん」

「正直でええ」

和尚は満足そうに笑い、

かたわらの照雲に
「お前も当ててやれ」と声をかけた。

ヤスさんの手、和尚の手、照雲の手…、

3人の手が合わさると、アキラの背中も、すっぽりと覆うことができる。

「どうじゃあ、温いじゃろうが」

和尚が言う。

「これでも寒いときは、幸恵おばちゃんもおるし、順子ばあちゃんもおる。

まだ足りんかったら、たえ子おばちゃんを呼んできてもええんじゃ」

ゆっくりと、拍子をつけて、アキラの背中を叩く。

「アキラ、おまえはお母ちゃんがおらん。

ほいでも、背中が寒くてかなわんときは、こげんして、みんなで温めてやる。

おまえが風邪をひかんように、みんなで、背中を温めちゃう。

ずうっと、ずうっと、そうしちゃるよ。

ええか、『さびしい』いう言葉はじゃの、『寒しい』から来た言葉じゃ。

『さむしい』が『さびしい』『さみしい』に変わっていったんじゃ。

じゃけん、背中が寒うないおまえは、さびしゅうない。

のう、おまえには母ちゃんがおらん代わりに、

背中を温めてくれる者が、ぎょうさんおるんじゃ。

それを忘れるなや、

のう、アキラ…」


洟(はな)をすすった。

ひっく、ひっく、としゃくりあげた。

アキラではなく、ヤスさんが。


(「とんび」重松清さんより)

言葉のプレパラート

2016-09-25 19:53:45 | 物語
❄️❄️言葉🍀のプレパラート❄️❄️


雪の結晶のプレパラートを作っているおじいさんがいた。

そのおじいさんのもとに、サングラスに黒いコートの女が現れる。

おじいさんは、公園でアイスキャンディーを販売していた。

「あなた、プレパラートを作ってるんですってね」

女は、おじさんにオレンジ色のアイスキャンディーを頼むと、こっそりそういった。

おじいさんは聞こえないふりをした。

なぜなら、この国ではプレパラートを作る事は禁止されていたから。

見えないものを見えるようにするという行為は禁止されているのだ。

見えないものは見えなくていいのだ。

「あなた、雪の結晶を作って、冷蔵庫に保存しているって調べはついているのよ」

アイスキャンディーを舐めながら、サングラスの女は言った。

「お願いがあるの」

おじいさんは首を横に振るとアイスキャンディーの屋台を引っ張り、東の方へ歩きはじめた。

サングラスの女は、アイスキャンディーを舐めながら、

おじいさんとおじさんがひく屋台の後ろを、ハイヒールをカツカツいわせてついていく。

おじいさんの家は郊外の、人があまり寄りつかない、黒い森の中にあった。

森の中の小道をしばらく行くと、大きな樹にぶちあたった。

その幹の下の方には動物の寝ぐらのような小さな穴があり、

のぞき込むと、そのから下へはしごが続いているのがわかる。

おじいさんは屋台をそこに置き、アイスキャンディのバケツだけを持ち、器用にそのはしごを下りてていった。

ハイヒールの女は、そこでハイヒールを脱ぐと、これまたするするとはしごを下りていった。


地下につくと、かなり広かった。

真っ暗な中の洞穴なのに天上には銀白色の蛍光灯がいくつも整然と並んでついていて眩しい。

奥には銀色の業務用の冷蔵庫が並んでいる。

テーブルもよく厨房で見かけるような業務用のそれだった。

おじいさんは、丸い銀色の小さな椅子に腰掛けるとようやく女に言った。

「で、どの雪の結晶が見たいの?」

女は首を振り、雪の結晶が見たい訳ではありませんと言った。

おじいさんは、ひとつため息を吐くと、そうでしょうね、と言った。

「言葉のプレパラートを、作って欲しいんです」

おじいさんは椅子から転げ落ちそうになるぐらい驚いて女に言った。

「ど、どこでそれを?」

だって、見えないものを見えるようにするのが禁じられているこの国で、

ことばのプレパラートなんて見つかったら死刑だからだ。

いちばんこの国が、見えなくしておきたいもの、ことば。

「人違いじゃないかな?」

おじいさんが恐れ戦(おのの)いた様子でそっぽを向いた。

いろいろ調べましたから、と女は言って、

胸ポケットからおじいさんに辿りつくまでのおびただしい人間の名前の羅列を見せた。

おじさんは黙って棚からタバコの缶を出すと、タバコの葉を白くて薄いペーパーにのっけて、くるくると巻き始めた。

職人の手。

太いゴツゴツとした、真実を守る手。

おじいさんが再び口を開くまでしばらくの間があった。

女はそれをじっと待った。

「言葉のプレパラートはなかなか難しくて、成功するかわかりませんよ」

観念したのか、おじさんは低い声で目線を落としたまま言った。

「迷惑は承知の上です。どうかお願いです。

どうしても私、あの人のことばのプレパラートを覗かなくてはいけないんです」

女はじっとしていられない様子でおじいさんの周りをウロウロ歩きまわり、時に立ち止まって涙をこぼした。

そして、その訳を話し始めた。

おじいさんは、ぷかぷかと、タバコをふかしていた。

「あの人、ごめんね、て言って亡くなったんです。ごめんね、だなんて… .。

わからない。どうしてあの人、謝ったんでしょ。

何があったんでしょう…。

わからない。

私は幸せだったのに、何に対して謝ったんでしょう」

女は、また立ち止まって涙をこぼした。

おじさんは白いハンカチを女に手渡しながら言った。

「それは、先に逝って君を1人にしてごめんねという意味じゃないのかな」

すると、女もうなずいて私もそう思いました、と言った。

「でも違うんです。それは生前何度も言われていました。

彼の病気が発覚してからというもの、彼は私の顔を見るたびに謝るのです。

それについては、やめてほしいと言いましたして解決済みなのです。

亡くなる頃には先に逝くことに関して彼は何の罪悪感もなかったはずです」

「そうだろうか?」

「仮に罪悪感があったとしても、先に逝くことに対しての "ごめんね" なら何度も聞いていましたからわかります。

それとは全く違う "ごめんね" だったのです」

女は裸足だった。

銀色の床に足裏をぺたりとくっつけて、立っている。

そして女のペディキュアは、口紅と同じ種類の赤い色だった。

おじいさんは、ふうむと口ひげを指でなぞりながら言った。

「何か、隠しごとでもあるのかな?」

「…」

女は黙って頭を垂れ、自分の足の指を見た。

「わかりました、作りましょう」

おじさんは腹をくくったのかそう言うと立ち上がり、プレパラートを作る準備を始めた。

女はおじいさんが指し示したベージュの布張りのソファーに腰を下ろした。

おじさんがスイッチを押すとそのソファーはかすかに揺れ始め、すぐに女は眠りに落ちた。

おじさんは女を横に寝かせた。

死んだように女は眠り続ける。

どのぐらいの時間が経っただろう。

禁断のことばのプレパラートを完成させたときには、数日と数時間が経過していた。

おじさんはソファーのスイッチをオフにした。

ソファーはかすかな振動を止め、それと同時に女のまぶたはゆっくりと開いた。

「ああ、私、寝ていた?」

「そうね」

「どのぐらい寝ていたのですか?」

「数日と数時間だよ」

「え?」

驚く女におじいうさんは言った。

「そのソファーは眠りを誘発し持続させるソファーなんだ」

「これもあなたが開発されたんですか」

「そうです」

女は何か聞きたそうにした。

それを見て、おじいさんは頷いて言った。

「ええ、ええ、できましたよ。
ちゃんと出来ました」

「そうですか。ありがとうございます」

女が嬉しそうに、緊張気味にお礼を言うと、

おじいさんは冷蔵庫のほうに歩いて行き、冷蔵庫の重いドアをあけた。

そこに最後の仕上げをしていたことばのプレパラートがあった。

発泡スチロールのケースに入った真っ白に凍り付いたプレパラートを持ってきて、

おじいさんは、静かに黒い実験台の上の顕微鏡にセットした。

「どうぞ」

そう言うと、おじさんはそっと隣の部屋に消えた。

女は部屋に1人になり、

亡き夫の残した "ごめんね" のプレパラートを覗くために、

おずおずと顕微鏡の前まで進んだ。

ひとつ深い息を吸い込んで女は腰を屈め、顔をそっと覗き穴に近づけていった。

女の目がその穴に重なると、夫の懐かしい、ごめんねの文字が光っている。

「ああ、確かに、あの人のごめんねだわ…」

そう女はつぶやき、右手と左手で、拡大レバーを手前に回していく。

20倍、30倍、40倍…と、ごめんねが、細胞レベルまで拡大されていく。

60倍まで拡大した時、

ごめんねの細胞分裂が始まり、ごめんねはぐるぐると回り始め増大し、

思わず目をつむるような強い光を発散すると、四方に飛び散った。

「あ」

女が思わずつむった目を再び開いたとき、

そこには七色に輝く、ありがとうの文字があった。

「ありがとう…?」

女が驚いて、そのことばを声に出したとき、

その七色のありがとうは、くるくると回りながら、分裂をはじめ、

そして、ありがとうの万華鏡の華になった。

それからも回り続け、

ありがとうは無数になり、分裂を続けている。

増えて広がり華のように輝く、

亡き夫の残した、無数の、数えきれない、ありがとう。

ごめんねの正体。

真実の思い。

女も同様に、ありがとうの涙を流し、

さっきまでおじいさんが座っていた銀色の丸い椅子で、

顔を覆って泣いた。


(「思いを伝えるということ」大宮エリーさんより)


いい物語ですよね。(^_^)

八田與一〈エピローグ・台湾の恩返し〉

2016-03-21 10:55:16 | 物語
🌸🌸八田與一〈エピローグ・台湾の恩返し〉🌸🌸


八田與一さんや多くの先人の努力による絆を持つ、台湾と日本の関係に、

新たな1ページが加わったのは、1999年のことでした。

その年の9月21日午前1時47分、
台湾中部で大きな地震が発生したのです。

このとき、日本は世界中のどこどの国よりも迅速にレスキュー隊を派遣、

早くも同日夜には、救助活動を開始しました。

「この瓦礫の下に家族がいます。
助けてください」

瓦礫の山を前にして、なすすべなく、泣き叫ぶ人たち。

たとえ生存の可能性がきわめて低いとわかっていても、

日本の隊員たちは、

家族の思いに寄り添い、丁寧に瓦礫を取り除いたそうです。

そして、願いも空しく、瓦礫の下からご遺体が見つかると、

まるで生存者を救出するかのように丁寧に抱き起こし、

全員で整列、目を閉じて頭を垂れ、黙祷を捧げました。

この姿を、多くの台湾の人々がテレビやインターネットで見て、胸を打たれたのです。

台湾は、日本と同じく、
地震や豪雨などの自然災害が多い地域です。

1999年の台湾中部大地震、
2009年の台風による豪雨被害と、
台湾に大きな自然災害が起こるたびに、

日本は多額の義援金を送り、
レスキュー隊を派遣し、仮設住宅を提供するなどして、復興に協力してきました。

それを知る台湾の人々は、

「いつか日本に恩返しがしたい」

と心に誓ってくれていたのだそうです。

その気持ちが、
東日本大震災の天文学的数字にのぼる支援となって表れたのでしょう。

さらに、
台湾の地震で日本のレスキュー隊が示した精神と高度な技術を、

台湾の隊員たちが受け継ぎ、今度は日本の被災地の救助に生かしてくださったのです。

東日本大震災に際しての台湾の支援には、

素敵な後日談があります。


台湾の華視新聞などが台湾で実施したアンケート調査によると、

「あなたにとって2011年の最高に幸福な出来事は?」

という問いかけに対して、

1位に選ばれたのが、この答えだったそうです。

「日本への義援金が世界一になったこと」

台湾の人々の思いやりは、どこまでも深く温ったかいものですね。


平成24年(2012年)3月11日、
東日本大震災の発生から1年。

追悼式典に訪れた台湾の代表を、
日本政府は、

各国と国際機関の代表に用意された一階の座席ではなく、

企業や団体関係者が座るニ階席に案内しました。

おそらく大国・中国に遠慮してのことでしょう。

やむなく台湾の代表は、
「外交団」としてではなく、

一般参加者として献花しました。

セレモニー終了後、日本のメディアから感想求められた
台湾の楊進添(ようしんてん)外交部長(外務大臣に相当)。

彼の口からどんな言葉が出るか、固唾を呑んで見守る報道陣に対して、

楊部長は、怨みがましいことを一切口にせず、こう述べたそうです。

「日本に対する台湾の支援は、

感謝されたいという気持ちでなく、

真の思いやりに基づいた行動です。

台日関係は、

1本の花束などで、
表せるものではありません」

台湾と日本は、それほど深い信頼と尊敬と感謝で結ばれているということを、表現してくださったのでしょう。

台湾のそのような存在こそが、
日本にとって、真の友だちと呼べるのではないでしょうか。

人と人が友情で結ばれるように、町や国や地域の間にも、

固い絆が育まれることを、歴史は証明しています。

そして、

その絆は、名もなき市井の人々の、
思いやり溢れる美しく尊い生き方に支えられているのです。

台湾と日本の間で、
感謝と報恩の歴史を紡いでくれた先人たち。

私たちはそんな歴史を持てたことに
心から感謝し、

先人の恩を、次の代に受け継ぐような生き方をしていきたいですね。


おしまい

(「感動する!日本史」白駒妃登美さんより)

いい話ですね。(≧∇≦)