①🌸抗がん剤とルルドの泉🌸
🔹矢作 この章では特に病気と魂の問題を話し合ってみたいと思います。
保江先生は、大腸がんの手術の際、魂は肉体を離れるギリギリのところまでいかれるという貴重な体験をなさっています。
幸い無事にこの世に帰ってこられたわけですが、がんが切除できれば万事OKというわけではなかったのでしたね。
🔸保江 その通りなんです。
大腸がんの手術後、体は徐々に回復していきましたが、大きな問題が残っていました。
手術によって、肉眼で確認できる範囲のがん細胞はすべて切除できましたが、
細胞レベルで考えると、がん細胞は必ず残っていると考えられたからなんです。
主治医の女医さんから、抗がん剤や、放射線による治療を行う方針が示されました。
病院に担ぎ込まれたとき、彼女が冷静沈着な判断でただちに執刀してくれたおかげで、私は助かりました。
あのとき、判断が遅れて後回しにされていたら、腸壁が破裂し、私はこの世に二度と戻ってくることができませんでした。
🔹矢作 お話を伺うと、早急の外科的治療が絶対に必要でしたね。
少しでも遅れていたら、間違いなく保江先生は亡くなられていたでしょう。
🔸保江 ですから、彼女は私の命の恩人です。
私は、彼女の半分に全幅の信頼を置いていました。
にもかかわらず、今後の治療方針を聞いたとき、
私は素直にうなずくことができませんでした。
代わりに、
「もし、抗がん剤や放射線治療しなかったら、どうなりますか」
と聞いたんです。
「長く持って2年、最悪の場合は2ヶ月です」
それが答えでした。
ほぼ確実にがんが再発、あるいは、転移するというんですね。
そうならないためにも、厚生労働省によるガイドラインに沿った術後治療が必要なのだと
いいかける彼女の言葉を、私は遮り、聞き返したんです。
「抗がん剤を使えば、どれくらいの確率で治るのでしょうか」
答えは、
5パーセントでした。
5パーセントですよ!
🔹矢作 なるほど(笑)。
🔸保江 ともあれ、曖昧にごまかすことなく、どこまでも率直に、正直に、彼女は主治医としての冷静な判断を伝えてくれました。
これが、非常にありがたかった。
率直に答えてくれたおかげで、私は、自分の態度を決めることができました。
主治医の提案を断り、抗がん剤治療はしないと申し出たんです。
それにしても、このようながんの生存率というのは、どこまで信頼がおけるものなのでしょうか?
🔹矢作 生存率は、例えば1万人なり、数千人なりのデータから割り出されたものです。
生存率が、統計学的に意義のあることは言うまでもありませんが、
しかし、それは決して絶対的なものではなく、ただの数字にすぎません。
ある人にとっては意味のあるなのですが、ある人にとっては全く役に立たないということがありうるものです。
数字は、あくまでも数字です。参考にする程度でとどめておくのがいいと思います。
日本の国民の6割強ががんになり、がんによる死者は1年でおよそ39万人にも上ります。
これだけ多くの方が悩まされているがんですが、がんというのは、とても難しい病気なんです。
🔸保江 それは、治りにくい病気という意味でしょうか。
🔹矢作 それもありますが、がんの難しさはそれだけにとどまりません。
というのも、がんは非常に多様な病気で、かつ、その原因が多因子しなんですね。
がんを引き起こす誘因はたくさんあります。
例えば、遺伝的要素、ストレス、食習慣、酒やタバコ、運動習慣、ウィルス感染などです。
しかも、それら複数の誘因が、どのようにかかわってがんが発現するか、個々人によって全く違います。
つまり、マニュアル化した標準治療ではなかなか対応しきれないのが、がんという病気なのです。
また、がん自体が千差万別で、がんの種類によって、医師は対応を変えなければなりません。
機序がわかっていて、抗がん剤が比較的よく効くがんもあれば、そうでないものもあります。
抗がん剤がよく効くものとしては、血液のがん(急性白血病や悪性リンパ腫)や、性ホルモンが影響をするがんなどがあります。
比較的よく効くとされているのは、乳がん、卵巣がん、骨肉腫などです。
一方、あまり効果的ではないがんとしては、食道がん、子宮がん、胃がん、脳腫瘍、甲状腺がんなどがあります。
さらに、同じ臓器のがんでも組織型や分化の度合いによっても異なります。
保江先生の罹患した大腸がんは、微妙なところでしょう。
比較的抗がん剤がよく効くと分類されることもあれば、治る見込みが薄いほうに入れられることもあります。
しかし、保江先生の場合、開腹した時点でがんが他の臓器に転移していたということです。
大腸以外の離れた臓器に転移していたとすると、ステージ4になります。
手術で、目に見えているところ全ての病巣を切り取ることができたにせよ、深刻な事態であることには変わりありません。
🔸保江 私の場合、がんに関して深い予備知識があったわけではありません。
いや、たとえ知識があっても、変わらなかったかもしれないですね。
私は、何らかの確固たる信念があって、抗がん剤を拒否したんじゃないんです。
当時、知人ががんになり、抗がん剤や放射線治療による副作用で大変苦しんでいるのを見ていました。
その様子を見ていると、抗がん剤の副作用で、毛が抜けたり、気分が悪くなったりすることに、とうてい耐えられないだろうと確信していました。
🔹矢作 一般的にいって、抗がん剤は、点滴や静脈注射、あるいは経口投与されるケースがほとんどです。
腫瘍にのみ抗がん剤が効けばよいのですが、そうはなりません。
抗がん剤は、血液によって全身を巡り、腫瘍へ届く抗がん剤は、投与された量の一部です。
このため、がんではない正常細胞まで、抗がん剤のダメージい受け、
多くの患者さんが苦しむことになってしまうんですね、
そもそも、抗がん剤の起源は、
第二次大戦中に発生した
ジョン・ハーヴェイ号事件と言われています。
空爆を受けて、輸送船から漏れた毒ガス(マスタードガス)にさらされた兵士の白血球の数が、著しく減少しました。
この事実をきっかけに、マスタードガスから誘導された「ナイトロジェン・マスタード」という物質が開発され、
抗がん剤として使われるようになったのです。
抗がん剤というのは、こういう出自のものですから、
ほとんどは「細胞毒」、すなわち細胞の分裂を阻害する性質を持っています。
細胞毒が、細胞分裂を阻害する作用は、細胞分裂の速度の速いがん細胞にも、また、1部の正常な細胞にも及びます。
これが副作用となって現れるんです。
🔸保江 抗がん剤だって進歩しているのでしょうが、進歩しても、今なお副作用を止めることはできないのですか。
🔹矢作 抗がん剤が効果を生み出す濃度と、副作用の発生する濃度が非常に接近しているんですね。
このため、抗がん剤を使うと、どうしても副作用を避けることができません。
薬が進歩しても、この問題はまだまだ解決されていないんです。
(「ありのままで生きる」矢作直樹・保江邦夫より)
🔹矢作 この章では特に病気と魂の問題を話し合ってみたいと思います。
保江先生は、大腸がんの手術の際、魂は肉体を離れるギリギリのところまでいかれるという貴重な体験をなさっています。
幸い無事にこの世に帰ってこられたわけですが、がんが切除できれば万事OKというわけではなかったのでしたね。
🔸保江 その通りなんです。
大腸がんの手術後、体は徐々に回復していきましたが、大きな問題が残っていました。
手術によって、肉眼で確認できる範囲のがん細胞はすべて切除できましたが、
細胞レベルで考えると、がん細胞は必ず残っていると考えられたからなんです。
主治医の女医さんから、抗がん剤や、放射線による治療を行う方針が示されました。
病院に担ぎ込まれたとき、彼女が冷静沈着な判断でただちに執刀してくれたおかげで、私は助かりました。
あのとき、判断が遅れて後回しにされていたら、腸壁が破裂し、私はこの世に二度と戻ってくることができませんでした。
🔹矢作 お話を伺うと、早急の外科的治療が絶対に必要でしたね。
少しでも遅れていたら、間違いなく保江先生は亡くなられていたでしょう。
🔸保江 ですから、彼女は私の命の恩人です。
私は、彼女の半分に全幅の信頼を置いていました。
にもかかわらず、今後の治療方針を聞いたとき、
私は素直にうなずくことができませんでした。
代わりに、
「もし、抗がん剤や放射線治療しなかったら、どうなりますか」
と聞いたんです。
「長く持って2年、最悪の場合は2ヶ月です」
それが答えでした。
ほぼ確実にがんが再発、あるいは、転移するというんですね。
そうならないためにも、厚生労働省によるガイドラインに沿った術後治療が必要なのだと
いいかける彼女の言葉を、私は遮り、聞き返したんです。
「抗がん剤を使えば、どれくらいの確率で治るのでしょうか」
答えは、
5パーセントでした。
5パーセントですよ!
🔹矢作 なるほど(笑)。
🔸保江 ともあれ、曖昧にごまかすことなく、どこまでも率直に、正直に、彼女は主治医としての冷静な判断を伝えてくれました。
これが、非常にありがたかった。
率直に答えてくれたおかげで、私は、自分の態度を決めることができました。
主治医の提案を断り、抗がん剤治療はしないと申し出たんです。
それにしても、このようながんの生存率というのは、どこまで信頼がおけるものなのでしょうか?
🔹矢作 生存率は、例えば1万人なり、数千人なりのデータから割り出されたものです。
生存率が、統計学的に意義のあることは言うまでもありませんが、
しかし、それは決して絶対的なものではなく、ただの数字にすぎません。
ある人にとっては意味のあるなのですが、ある人にとっては全く役に立たないということがありうるものです。
数字は、あくまでも数字です。参考にする程度でとどめておくのがいいと思います。
日本の国民の6割強ががんになり、がんによる死者は1年でおよそ39万人にも上ります。
これだけ多くの方が悩まされているがんですが、がんというのは、とても難しい病気なんです。
🔸保江 それは、治りにくい病気という意味でしょうか。
🔹矢作 それもありますが、がんの難しさはそれだけにとどまりません。
というのも、がんは非常に多様な病気で、かつ、その原因が多因子しなんですね。
がんを引き起こす誘因はたくさんあります。
例えば、遺伝的要素、ストレス、食習慣、酒やタバコ、運動習慣、ウィルス感染などです。
しかも、それら複数の誘因が、どのようにかかわってがんが発現するか、個々人によって全く違います。
つまり、マニュアル化した標準治療ではなかなか対応しきれないのが、がんという病気なのです。
また、がん自体が千差万別で、がんの種類によって、医師は対応を変えなければなりません。
機序がわかっていて、抗がん剤が比較的よく効くがんもあれば、そうでないものもあります。
抗がん剤がよく効くものとしては、血液のがん(急性白血病や悪性リンパ腫)や、性ホルモンが影響をするがんなどがあります。
比較的よく効くとされているのは、乳がん、卵巣がん、骨肉腫などです。
一方、あまり効果的ではないがんとしては、食道がん、子宮がん、胃がん、脳腫瘍、甲状腺がんなどがあります。
さらに、同じ臓器のがんでも組織型や分化の度合いによっても異なります。
保江先生の罹患した大腸がんは、微妙なところでしょう。
比較的抗がん剤がよく効くと分類されることもあれば、治る見込みが薄いほうに入れられることもあります。
しかし、保江先生の場合、開腹した時点でがんが他の臓器に転移していたということです。
大腸以外の離れた臓器に転移していたとすると、ステージ4になります。
手術で、目に見えているところ全ての病巣を切り取ることができたにせよ、深刻な事態であることには変わりありません。
🔸保江 私の場合、がんに関して深い予備知識があったわけではありません。
いや、たとえ知識があっても、変わらなかったかもしれないですね。
私は、何らかの確固たる信念があって、抗がん剤を拒否したんじゃないんです。
当時、知人ががんになり、抗がん剤や放射線治療による副作用で大変苦しんでいるのを見ていました。
その様子を見ていると、抗がん剤の副作用で、毛が抜けたり、気分が悪くなったりすることに、とうてい耐えられないだろうと確信していました。
🔹矢作 一般的にいって、抗がん剤は、点滴や静脈注射、あるいは経口投与されるケースがほとんどです。
腫瘍にのみ抗がん剤が効けばよいのですが、そうはなりません。
抗がん剤は、血液によって全身を巡り、腫瘍へ届く抗がん剤は、投与された量の一部です。
このため、がんではない正常細胞まで、抗がん剤のダメージい受け、
多くの患者さんが苦しむことになってしまうんですね、
そもそも、抗がん剤の起源は、
第二次大戦中に発生した
ジョン・ハーヴェイ号事件と言われています。
空爆を受けて、輸送船から漏れた毒ガス(マスタードガス)にさらされた兵士の白血球の数が、著しく減少しました。
この事実をきっかけに、マスタードガスから誘導された「ナイトロジェン・マスタード」という物質が開発され、
抗がん剤として使われるようになったのです。
抗がん剤というのは、こういう出自のものですから、
ほとんどは「細胞毒」、すなわち細胞の分裂を阻害する性質を持っています。
細胞毒が、細胞分裂を阻害する作用は、細胞分裂の速度の速いがん細胞にも、また、1部の正常な細胞にも及びます。
これが副作用となって現れるんです。
🔸保江 抗がん剤だって進歩しているのでしょうが、進歩しても、今なお副作用を止めることはできないのですか。
🔹矢作 抗がん剤が効果を生み出す濃度と、副作用の発生する濃度が非常に接近しているんですね。
このため、抗がん剤を使うと、どうしても副作用を避けることができません。
薬が進歩しても、この問題はまだまだ解決されていないんです。
(「ありのままで生きる」矢作直樹・保江邦夫より)
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