(写真は2012年5月21日筆者が撮った金環日食の写真)
筆者の手元には、英連邦諸国(the Commonwealth of Nations)であるニュージーランド最高裁判所から最新の主要判決が出ると都度、通知が来る。最近時のものとしては5月10日付けの判決(Thompson v The Commissioner of Inland Revenue)が届いた。
時間があるので改めて読み返してみたが、そもそも同判決の意義はいかなる点であるか、また下級審判決内容とのとのかかわりはいかなる点にあるか等につき模索してみた。
そこで見えてきた点は、わが国ではニュージーランドの裁判制度そのものに関する最新かつ正確な解説がないことである。これは研究者の怠慢というだけではすまない外務省等行政機関の手抜きともいえる。
いずれにしても、英国では、議会の上院である貴族院が、歴史的に最高裁判所の機能を担ってきた。この貴族院の司法機能は、国王の裁判所を源流とし、600年以上にわたって発展してきたが、2009年10月1日、最高裁判所(Supreme Court)が設置され、権力分立の徹底が図られた。一方、英連邦諸国であるニュージーランドの最高裁はその根拠法である「2003年最高裁判所法(Supreme Court Act 2003)」が2003年10月17日に成立、2004年1月1日に同裁判所が正式に設置、施行された。(注1)
本ブログは、(1)ニュージーランドの裁判制度の概観、(2)最高裁判決原本速報の見方とリリース文の見方等につき概観し、最後にわが国ではほとんど論じられていない(3)ニュージーランド検視裁判所(Coroners Court)と検死制度のあり方に関する社会政策的課題を簡単にまとめた。
1.ニュージーランドの裁判所審級制度
簡単に言うと従来の3審制に2004年に最高裁が最上位の裁判所として設置されたことから4審制といえる。この間の歴史的な経緯の詳細については、広島大学荻野太司氏がまとめられた論文(注2)があるので参照されたい。
ただし、正確に理解するには「ニュージーランド裁判所専門サイト(Court of New Zealand)」を公的な説明として参照すべきであり、ここではやや詳しく説明しておく。
(1)ニュージーランドの一般裁判所制度の構造
裁判所管轄はピラミッド構造になっている。最高裁判所(the Supreme Court)が最終裁判所で、その下に控訴裁判所(The Court of Appeal)、高等法院(the High Court)および地方裁判所(District Courts)がある。これらのうち制定法に基づくものは最高裁、控訴裁判所、地方裁判所であり、高等法院は「制定法に基づく管轄権」と「コモン・ローに基づく管轄権」がある。高等法院の任務と裁判管轄については2.(1)で解説するが、その詳細は別途の専門的説明を参照されたい。
ほとんどの民事事件および刑事事件は、ピラミッドの底辺である地方裁判所で行われるが、法律上一定の重大裁判については第一審として高等法院に係属される。すなわち、(1)謀殺(murder) (注3)等一定の重大犯罪事件、(2)裁判にかかる案件の訴訟額等が20万ニュージーランド・ドル(約1,220万円)以上の民事事件の場合は、第一審として高等法院に係属する。
高等法院には広い一般裁判官管轄権があるが、実際は重大な陪審裁判(jury trial)、より複雑な民事事件、行政法事件といった下級審判決や行政審判所(tribunal)からの控訴裁判所となる。
上級裁判所への控訴手続につき、地方裁判所判決に対し高等法院または法律が認める場合は直接、控訴裁判所へ控訴ができる。最高裁はほとんどの事件では審理は開かれず、また実質的に控訴裁判所が上告に関する最終裁判所となっている。
すなわち、最高裁に係属しうるのは裁判所が特別上告の許可(court grants “leave to appeal”)を出した場合のみであり、その許可基準は「2003年最高裁判所法」13条に定めるが、一般的かつ公益目的から見た法的争点が問題となる裁判となる。
これら上級裁判所判決は、下級裁判所に対する拘束力を持ち、最高裁判所の決定はこれらすべての裁判所に対し拘束力を持つ。(注4)
(2)専門裁判所や審判所
上記の一般裁判所のピラミッド型制度の他に「専門裁判所」と「行政審判所」がある。すなわち、 「雇用裁判所(Employment Court)」 、 「環境裁判所(Environment Court)」 、 「マオリ土地裁判所(Maori Land Court)」および「マオリ控訴裁判所(Maori Appellate Court」 (注5)、 「行政審判所(Tribunals)」、「ニュージーランド検視裁判所(Coroners Court)」、「軍事控訴裁判所(Courts-Martial Appeal Court)」(注6)である。
なお、高等法院には司法審査手続(judicial review process)の監督権限がある。
2.高等法院の役割・裁判構造および最高裁判決原本速報の見方とリリース文の見方等
(1)各上級裁判所の役割と裁判構造
ニュージーランドでは「1908年司法法(Judicature Act 1908)」(注7)により、「下級裁判所」と「上級裁判所」に区分されている。高等法院の判決は、控訴裁判所または最高裁判所により却下(overruled)されるまですべての下級審に対し拘束力を持つ。(控訴裁判所は裁判制度の全体的構造から見て下から3番目に位置する)。
高等法院は、下級裁判所に対する既存の一般的監督、上訴にかかる裁判管轄には、次の4つの例外規定がある。
①陪審裁判に関する控訴は、直接控訴裁判所になされる。
②雇用裁判所の法解釈に関する上訴は直接、控訴裁判所になされる。
③軍事控訴裁判所からの上訴は、直接、控訴裁判所になされる。
④マオリ控訴裁判所に対する上訴は、直接、控訴裁判所になされる。
高等法院は下級裁判所、審判所、下級裁判所の地域の全活動にかかる全活動の合法性を保証し、また法的権利や訴追免除(immunities)権の保護に関し特別な責任を持つ。また、司法審査手続の監査を行う義務はコモンロー固有の権限および「1972年司法改正法(Judicature Amendment Act 1972)」のもとで実施される。ただし、高等法院には議会を監督する権限はまったくなく、議会を通過した法律を無効化することはできない。
(2)上級裁判所の裁判官
最高裁と控訴裁判所の裁判官は高等法院の裁判官であるが、この概観説明には含まれていない。2003年の最高裁判所の設置を受けて高等法院長官(Chief High Court Judge)のポストが設けられた。この高等法院長官は、高等法院の通常業務および迅速な活動を保証すべくその責任者である。(注8)
高等法院の首席裁判官以外の裁判官は、2012年2月10日現在で35名、また准裁判官(associate judge)は9名である。この准裁判官は「2004年司法改正法(Judicature Amendment Act 2004 :1908年司法法の改正法)」6条により設置されたもので、通常の裁判官と同様の要件をもとめられるものの裁判官ではなく、英国における補助裁判官(Master)にあたるものである。それぞれ専門の民事裁判管轄権を持ち、一連の会社や破産事件等を担当する。また、略式判決を含む中間判決に関し広範囲の管轄権を持ち、かつ損害額の査定権を持つ。准裁判官は以前は一定期間に任命される「マスター」と呼ばれていたが、2004年5月20日以降は「准裁判官」に改称されるとともに、終身在職権が与えられた。(注9)
なお、長官やその他の裁判官が必要と認めた場合、高等法院の臨時裁判官や裁判官代行を任命することが認められている。
高等法院の裁判官は、ウェリントン、オークランドおよびクライストチャーチに恒久的におり、裁判官はこれら3センターから必要に応じ、他の裁判所を巡回する。
(3)最高裁判決の最新速報情報の見方
例えば、5月10日の最高裁判決(LEWIS GAIRE HERDMAN THOMPSON Appellant v. THE COMMISSIONER OF INLAND REVENUE)(事件番号:SC 52/2011)のリリース文と判決文の原本を速報サイトで見ておく。
ニュージーランド上級裁判所専門サイト(最高裁、控訴裁判所、高等法院)では一覧形式で公益性の高い判決は速報として事前申し込み者にはメールで更新通知が届く。重要性に応じ、裁判経緯を踏まえたメディア・リリースも閲覧可である。(注10)
また、年毎にまとまった同上級裁判所の判決検索データベースもあるが、このデータベースに載るのは判決後1ヶ月後になるので、速報登録の意義が理解できよう。
3.「ニュージーランドの検死制度から学ぶ」点は何か
2010年10月号「山口県医師会報」884ページ以下で山口大学大学院医学系研究科 法医・生体浸襲解析医学分野(法医学教室)藤宮龍也教授が【特別講演2】
「ニュージーランドの検死制度から学ぶ」で詳しく解説されている。
コロナー制度自体わが国ではなじみがうすいともいえる。筆者はかつて2011年2月26日のブログで英国の検死官制度を取り上げた「英国法務省の「検死官規則(Coroners Rules 1984)」の一部改正の背景と司法改革の観点からみた意義」と題するレポートをまとめ、また これに関連して2011年3月9日「警察庁が死因究明・検視体制の強化策の検討動向とわが国のフォレンジック体制整備への取組み問題」をまとめた。
振り返って見ると藤宮教授の問題視的は、筆者のブログとある意味で共通性があることにも気がついた。詳しくは同報告を読まれたいが、ここでは関係する部分のみを抜粋する。
・英米系では死因究明や再発予防を目的として検死を行っている。西欧大陸型では、戦前は犯罪捜査とその端緒を得るために検死を行っていたが、戦後は死因究明・再発予防のためにUnnatural Death として検死を行っている。一方、日本では戦後は監察医制度を一部地域に設けたが、その他は戦前のままという世界からはかけ離れた形となっている。
・英米系は、①公的記録のために行う。すべての突然死及び不自然死に関する事実の解明(死因究明)、②突然死ないし不自然死に至った場合と同一状況下で起こりえる死亡の再発予防、を目的に検死を行っている。日本には②の視点はないということである。コロナーは英国・豪州・ニュージーランドでは弁護士や検事等の法曹資格者であるが、カナダの一部・米国の一部では選挙で選出される。
・再発予防:これは日本では欠如している。検死委員会が必要か?現在警察庁が言っている、「犯罪予防のために解剖率を増加させる。」ということに対しては、自分は反論をもっている。なぜかというと、「解剖された人は、犯罪死体と疑われたから解剖されたのか?」ということになるからである。そうすれば「解剖されたくない。」ということになるのである。「あくまでも死因がわからないから解剖しましょう。」というスタンスが重要である。世界では死因究明や再発予防のために解剖が行われている。
日本では法曹界の死因究明制度への関心が乏しいのが問題である。現在、法科大学院で法医学の講義をやっていないので法医学の内容がわからない。法科大学院で法医学を必修化すべきであると考える。
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(注1) 最高裁判所の設置に至る経緯の詳細は、最高裁判所の解説サイトで確認されたい。
(注2) 広島法学30巻4号(2007年)荻野太司「ニュージーランドの司法制度改革に関する序論的考察(一) : 最高裁判所の設立をめぐって」203ページ以下を参照した。なお、本文で記したとおり、荻野氏が引用されているニュージーランドの裁判所審級制度はオークランド大学法学部長のAndrew P.Stokley およびカンタベリー大助教授のRichard Scragg の2論文に基づき図解で説明しているが、本文で述べたとおり筆者が独自に「ニュージーランド裁判所専門サイト(Court of New Zealand)」に基づき調べた内容とは異なる点がある。本文で述べた「ニュージーランド検視裁判所」も記載されていない。さらに両先生の論文は2003年、2005年とやや旧いものであり、その後、裁判所制度改革等が行われたことがあるのかも知れない。
(注3) 英国の刑事裁判制度に関し補足説明しておく。「殺人の罪は予謀の犯意(malice aforethought)をもって行われる謀殺(murder)とそれ以外の故殺(manslaughter)に大別される。故殺は犯罪としては1つにまとめられるが、その中には、謀殺に該当しうるが、挑発や特異な精神状態等によって罪状軽減の事情を勘案できる状況のもとで行われた故意故殺(voluntary manslaughter)と、そうでない非故意殺(involuntary manslaughter)が含まれる。後者はさらに、非合法及び危険な行為を遂行する過程で人を死亡させる不法行為故殺(manslaughter by an unlawful and dangerous act)と著しい不注意によって人を死亡させる重過失故殺(manslaughter by gross negligence)に分類される。」(国立国会図書館 岡久慶「英国における企業の致死事件に対する刑事処罰の拡大」より一部抜粋)
(注4) ニュージーランドの「裁判官行動規範コミッショナー」に対する国民の苦情申立の根拠法や手続の解説は興味深い。同サイトでは、裁判官行動規範コミッショナーに対する国民の苦情申立の根拠法(「2004年裁判官行動規範および審理適正化法(Judicial Conduct Commissioner and Judicial Conduct Panel Act 2004)」、以下「法」という)や手続の解説が行われている。また、国民の苦情申立の流れ図もあり、学習材料はそろっている。
最新年報(2010-2011年版)では、実際の各裁判所判事に対する苦情件数、コミッショナーの決定内容等について詳しく説明されているので概観しておく(調査対象期間は2010年8月1日~2011年7月31日)。なお、同年報では図表番号が付番されていない。しかし、項目番号ごとに図表があるので分かりやすい。
(a)更なる手続はなし:苦情件数中20件、この措置は最近時に改正された「法」15A条で与えられたコミッショナーの権限に基づくものである。
(b)却下(dismissal):法16条(1)項に基づきコミッショナーは140件の苦情を却下した。その多くは申立条件をクリアーする閾値を満たしていないとするものである(Commissioner must dismiss complaints that fail to meet required threshold)。すなわち、裁判官の判決内容を疑問視した苦情であるという理由で却下した。コミッショナーは訴訟手続にかかる適法性や正しさ等を苦情として取り上げることは法で認められていない。また、却下理由は、(1)取るに足らない軽率さ(frivolous)、権利の濫用(vexatious)または信義誠実に即していない、(2)申立自体が司法的な役割を担っていない、(3)申立の主題があまりに瑣末な事項である、(4)対象となる裁判官自体がすでに退官している等が理由とされている。
(c)主席裁判官(Head of Bench)への照会:「法」17条(1)項に基づき4件はコミッショナーから主席裁判官に照会され、いかなる取扱いが最善かにつき決定が行われた。
(d)裁判官行動規範審議会への勧告:「法」18条(1)項に基づくものであるがこの1年間に勧告はなされていない。
(d)申立の撤回(Withdrawal):9件の申立は予備調査に過程でコミッショナーから提供された資料を考慮のうえ各申立人から撤回された。
申立ての理由は各種にわたる。そのほとんどは裁判官の判決、決定や命令自体につき誤りがあるとするものである。前述したとおり「法」18(b)条に定めるとおり、これらはコミッショナーの管轄権限外である。その他の理由としては、無知・認識不足(rudeness)、不公正、不適切な所見(inappropriate remarks)、正確に裁判官の意見を聞いていない(failure to listen)、偏見(predudice)、利益相反(conflict of interests)の基づくものである。
また、このような制度は米国のウタ州、テキサス州、ワシントン州等の裁判官行動規範コミッショナー・サイトを読むと裁判官の行動規範についても併記されている。
なお、日本の場合、刑事事件や民事事件では「裁判官忌避(recuse of judge)」問題として取り上げることが一般的である。すなわち、日本の場合、刑事訴訟における忌避として刑事訴訟法第21条1項は、裁判官が職務の執行から除斥されるべきとき、又は不公平な裁判をする虞があるときは、検察官又は被告人が、忌避することができる旨(Article 21 When a judge is to be disqualified from execution of his/her duty, or there is the fear that he/she may make a prejudicial decision, a public prosecutor or the accused may recuse such judge.)規定する。同条2項は、弁護人が、被告人のため忌避の申立をすることができる旨規定する。
また、民事訴訟における忌避として民事訴訟法第24条1項は、裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるとき、当事者が、その裁判官を忌避することができる旨規定する。民事訴訟法第26条は、忌避の申立てがあったときは、その申立てについての決定が確定するまで訴訟手続を停止しなければならないと規定する。(Wikipediaから抜粋引用、英文表現は「日本法令外国語訳データベースシステム」から抜粋)
しかし、ニュージーランド等の“Judicial Conduct Commissioner”の役割はかなり異なる性格を持つと思われる。すなわち、裁判官等の訴訟指揮や法廷での行動そのものに対する異議申し立ての機会を認めるもので、裁判官自体の人格や資質を問う場合もあると思う。
(注5) ニュージーランドやオーストラリアにおける先住民の権利保護に関し、多くの特別な裁判制度が設けられている。ニュージーランドの例でいうと、マオリ族土地裁判所(Maori Land Court)、オマリ族控訴裁判所(Maori Appellate Court))等である。なお、米国やカナダでも類似の先住民独自の裁判制度があることも事実である。
(注6) 「軍事控訴裁判所(Courts-Martial Appeal Court)」の根拠法は、“the Court Martial Appeals Act 1953” (2007年改正法(Court Martial Appeals Amendment Act 2007)まで名称は“the Courts Martial Appeals Act 1953”であった)である。同改正法は名称だけでなく実質的な改正を行っている。改正法サイトを参照されたい。
(注7) ニュージーランドの「1986年憲法法(Constitution Act 1986)」は、ニュージーランド憲法の中心的な制定法であり、主に統治機構について定めている。統治機構に関するその他の法律の多くは、憲法的意義を有するものであり、「1908司法法」はその1つであるとされている。なお、ニュージーランド等かつての英国の植民地が独立したカナダやオーストラリア、ニュージーランド等政治制度が憲法制度も含め輸出されたのが事実である。すなわち「植民地の獲得の歴史と植民地憲法の歴史は共同歩調で推移し、一つの時期の憲法の発展の成果がそのまま次の時期に引き継がれている。当初、英国憲法の持ち込みという形でアメリカ植民地において発展した憲法は、アメリカ合衆国の離脱という事態を迎えたが、アメリカ合衆国憲法の理念の一部はその隣接植民地カナダへと引き継がれ、カナダにおける憲法の発展は自治領の憲法となった。」(国立国会図書館レファレンス 2011年12月 齋藤憲司「英国型政治制度はなぜ普及したか」から一部抜粋」)
(注8) 現高等法院長官は、2009年9月に任命され2010年2月に着任したヘレン・ウィンケルマン判事(Hon Justice Helen Winkelmann)である。その他の高等法院判事名一覧は公開されている。なお、高等法院に関するWikipediaの説明は正確ではない。
(注9) 2012年2月 ニュージーランド法改革委員会(Law Commission)が公表した「1908年司法法に基づくその統合化に向けた取り組みに関する報告書(REVIEW OF THE JUDICATURE ACT 1908:TOWARDS A CONSOLIDATED COURTS ACT)」はこれまでの同法の改正経緯の詳細と背景等につき詳しく解説しており、参考になる。
なお、准裁判官に関する説明は前記 荻野太司「ニュージーランドの司法制度改革に関する序論的考察(一) : 最高裁判所の設立をめぐって」から一部抜粋、引用した。
(注10) 事前申し込みは、Judicial Decisions of Public Interest画面の左下欄で行う。
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筆者の手元にフランスの知的財産権やIT法、ビジネス法等の専門法律事務所“Dreyfus & associés”から、フランスのドメイン名にかかる法的紛争解決手続(ADR)である“Syleli”が本年11月21日から施行されるというニュースが届いた。関係機関からの情報に基づき、より正確な内容を紹介する。(注1)(注2)
わが国ではフランスIT法の専門家が少ないのか、この問題について関係立法の経緯、複雑な行政機関や規制監督機関の対応等につき個別かつ体系的に解説したものがない。筆者はフランスIT法の専門家ではないが、可能な限り原典に当たるべく調べてみた。
特に、この立法問題を立法過程を追いながら原典に即して正確に解説しているフランスの法律事務所が皆無であったことは残念である。一方、フランス議会の上院、下院議会の立法経緯情報は極めて使い勝手が良い。今後の課題は、これらの情報の統合作業といえよう。
さらに強調すべき点は、この問題は法案趣旨(Objet du texte)に記されているとおりEU加盟国全体にわたる「知的財産権」上の重要な問題として区分されていることである。
また、今回フランスのドメイン制度を整理する中でフランスの海外からの国際投資活動の積極さも理解できた。その点は適宜解説に織り込んだ。
なお、フランスのNPOドメイン名登録管理団体「フランス・インターネット・ドメイン名協議会(Association Française pour le Nommage Internet en Coopération:AFNIC)の資料は同団体の性格上やむをえないが法的な解説が不十分である。筆者なりに関係資料にあたり補足した。
本ブログにつき、誤解や引用の間違いなどがあったら個々に修正コメントをいただきたい。 (注3)
1.フランスの電子通信の監督・規制機関の概観
(1)国家中央機関は経済・財政・産業省(Ministre de l'Economie, des Finances et de l'Industrie:MINEFI)(注4)(注5)で、法律上は実際の「フランス郵便事業および電子通信法(Code des postes et des communications électroniques:CPCE)」に定める担当大臣は、同省のエネルギー・デジタル経済担当大臣のエリック・ベソン(Eric Besson)が“Syreli”の承認を行った。
(2)ドメイン名の登録に関する立法、デクレ等法制整備
フランスのドメイン名“.fr”の割当と管理制度の修正に関する郵便事業・電子通信法の改正法案等の動向についてbersay&Associés法律事務所の解説ブログを一部引用のうえ、両院の立法経緯サイトやIT専門サイト(Juriscom net)の解説等に基づく補足ならびに筆者が調べた範囲でリンク情報等を追加した。
「法案(N° 2789)は2010年9月15日に上程、2011年1月13日に下院たる国民議会(Assemblée nationale)第一読会(Première lecture)において法案(N°594)が可決、また同年2月13日に上院たる元老院(Sénat)第一読会において修正法案(N° 62)が可決された。その後、両院同数合同委員会(commission mixte paritaire)で審議後、最終案が国民議会では3月8日、元老院では3月9日に可決された。 公布は3月23日法律第302号(LOI n°2011-302 du 22 mars 2011):2011年3月23日官報(JO)第69号である。L.45-3条が12月31日に施行されるほか、その他の新規定は2011年6月30日に施行された。
法案第12条はフランスのドメイン名割当および管理制度を合憲化することを目的としている。より具体的に言うと、同制度は従来は郵便事業・電子通信法(Code des postes et des communications électroniques :「CPCE」) L.45条 (注6)により規定されていたのであるが、同条は「フランス・インターネット・アドレス規制協議会(Association Française pour le Nommage Internet en Coopération :AFNIC)」に割当と管理に関する規則設定を委託していた。このため原則は「早い者勝ち」で、ドメイン名を構成する語についてのいかなる先行権(商標、商号、社名、等)も証明する必要がないため、この制度は大変多くの「サイバー・スクワッティング(権利も利権もない者による、他人の権利を侵害するドメイン名の濫用的登録 )」を引き起こす等法的枠組みに欠けることから、国務院(le Conseil d’État)(注7)の諮問を受けた憲法院(注8)は10月6日、共和国憲法が定める権利および自由に関する定めに違反すると判断した(憲法院2010年10月6日決定(Decision)2010-45 QPC )
これらの点を受け、フィヨン内閣は改正法案第19条としてL.45条の改正法案を作成し議会に上程した。なお、CPCE L.45条の運用解釈にかかるデクレ(Décret n°2007-162 du 6 février 2007)が十分に機能していなかったことも背景となっている。
同法案は、ドメイン名登録担当機関により適用される規則を明確にするため、CPCEのL.45条を補完修正している。すなわち、L.45条を修正、またL.45-1条~L.45-9を新設した。
主要な条文の概要をまとめておく。
L.45条:今後は特定郵便事業および電子通信担当大臣が指揮する記録局(office d’enregistrement)がドメイン名を特定化および管理する。
L.45-1条:利用者がドメイン名の割当において差別なく透明性の高いシステムを確保できるよう規定する。
L.45-2条:当初、記録の禁止やドメイン名の更新については知的財産権や人格権を弱めると考え大幅な修正は行わないと考えていた。しかし、同条3項においてフランス共和国または地域集合体における適用者が合法的な利益がありかつ信義誠実であるならば同等または関連するドメイン名の登録の可能性を考える点を重要視した。それゆえに、かりにパリ氏がドメイン名“.fr”を預託しようとすれば合法的利益があるとみなされる。地域的集体において先見的または濫用しないことでは唯一の権利とはならない。
言うまでもなくこの修正はすでに預託されている共和国や地域集合体におけるドメイン名の大多数において緩和されたものとなろう。しかしながら、ドメイン名の特性は引続き「先に行った登録が優先するという原則」に従う。
L.45-3条:EU加盟国に本部を有する全ての法人におけると同様にEU域内の住所を有する自然人が“.fr”のドメイン名を登録する可能性をオープンにする。(本条のみ12月31日に施行する)
L.45-4条:ドメイン名の特定権限は、ドメイン記録局保証局(office d’enregistrement accréditeur)が認定する記録局(Office d’enregistrement)が行い、かつその管理下におかれる旨を定める。
L.45-5条:記録局は記録したドメイン名を毎日公表する旨定める。さらにそのデータベースは自然人や形式的法人のドメイン名の特定に必要なデータを作成する。そのデータベースは国家財産となり、記録局は唯一のデータベースの使用権を持つ。2007年2月8日に創設された「R20-44-48」規定は反対の立場を定める、すなわちこのデータベースの使用権者はこれらの組織が業務中断の場合に国が担うと定める。
L.45-6条:紛争解決の管理手続を定める、すなわちある者がドメイン名の使用禁止を望んだり一定の条件下でドメイン名を自らの利益のために移管したいと欲したとき、その紛争手続では2か月以内にその要求に基づき規則にのっとって記録局により開始される。この手続から得られる決定は法裁判官に持ち込まれる前に行われねばならない。
新法はこのようにしてサイバー・スクワッティングの危険を低下させることにより、知的財産権者に対する法的安全性を高めるものとなると考える。
(3)法案趣旨(Objet du texte)
議会の法案解説の冒頭に記されているとおり、フランス国民のEU加盟国から得られる義務への適合に関するものである。特に、この改正の主目的はEU市場の成長の妨げとなる法的、行政的障害を排除し、一方でホスト国の社会技術を保持せんとするものであり、とりわけEU内における中小企業の拠点設置拡大を想定したものである。
2.AFNIC等フランスのドメイン名の管理システム概要
(1)フランスのNPOドメイン名登録管理団体「フランス・インターネット・ドメイン名協議会(Association Française pour le Nommage Internet en Coopération:AFNIC)の役割の概観
“AFNIC”はドメイン名“.fr”および“.re”の登録管理を担う政府認定の非営利協会である。具体的に登録管理しているのは、次のものである。.fr(フランス)、.re(レユニオン・アイランド:Reunion Island)、.pm(セントピエール島(St.Pierre)およびミクロン島(Miquelon))、.tf(フランス領南方・南極地域 (French Southern Territories)、.wf(ワリス・フチュナ(Wallis and Futuna))、および.yt(マイヨット(Mayotte))である。インターネット上のフランス領土の継続性およびインターネットで世界中のどこからでもアクセスできることを保証する機関である。また、そこでの課題は登録を通じてトップネームドメインの地理的拡大に関する配分(例えば、“my-company.fr”や“my-family-name.wf”)もその任務である
AFNICは関係する利害関係者の決定(科学者、公的機関、フランスのインターネットにかかわる民間機関の代表)に関与することが課題である。インターネットにおけるドメイン登録サービスの主要運用者であり、またフランスのトップレベル・ドメイン(.fr TLD)」(注9)につき政府による指定された機関であり、その最終目標はインターネットの強化・弾力化拡大とインターネットコミュニティ全体の技術の促進である。
(2) AFNIC「Rules and Regulations of the Dispute Resolution System :Syreli」
全10頁で英文で用語解説を含め簡潔に纏まっている。
(3)AFNICが分析したCPCEの一部改正のドメイン管理上の影響
ドメイン管理会社ブライツコンサルティングが2011年6月22日に「フランスにおけるドメインネームに関する法律の施行に関して」と題するレポートでAFNICの解析結果を紹介している。実務的な内容で参考になる。
3.AFNICが立ち上げた新たなドメイン名紛争解決手続き(Syreli)制度の概観
(1)AFNICの解説の内容
11月3日、AFNICは“Syreli”の利用条件につきフランス官報で公表した。
①対象となるドメイン名は2011年7月1日以降に作成されたか更新されたものとする。
②当該手順は“.fr TLD”および“.re TLD”に適用から始まるが、全ドメインへのAFNICの拡大は2011年12月6日からとなる。
③AFNICは紛争の両当事者からの書面および声明のみに基づき判断を下す。
④検査手数料は250ユーロ(VATを除く)で申立人により支払われる。
⑤申立人に以下の点につき立証責任がある。
○行動を行うべき法的に有効な利益があること。
○紛争の対象となるドメイン名
・公共の秩序や道徳およびフランス共和国憲法が保証する権利を侵害するもの。
・知的財産権や人権を侵害し、かつドメインの所有者が合法的利益を持たずさらに悪意をもって行動したもの。
・フランス共和国、地方自治体または地方自治体が構成するグループ、地方や全国ベースの公共サービス機関そのものまたは関係するもので、ドメイン所有者が合意法的利益を持たずさらに悪意をもって行動したもの。
(2)“Syreli”手続によりどのような変化が見られるか
①AFNICは受付後、2か月以内に完全な内容の紛争解決文書を作成する。
②ドメイン保有者は、申立人の要求に応えるべく21日以内に回答する、この期間中は何時もその内容の変更は可能である。
③ドメイン保有者の同意をもって、AFNICの決定は上告期間の満了を待たずに執行できる。
④AFNICの決定に関する上告は司法裁判官に持ち込むことができる。
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(注1) フランスのドメイン名の紛争解決手続き(ADR)については、2011年6月と10月にブライツコンサルティングが発表した「フランスにおけるドメインネームに関する法律の施行に関して」と題する解説記事が貴重といえる内容を紹介している。しかし、なお最新情報とはいいがたい部分もあるので筆者なりに調べた内容をもとに本ブログを書き上げた。
(注2) 本ブログとは直接関係しない問題ではあるが、関係サイトを調べている間に最近時のドメイン名登録管理団体における極めて重要な問題、すなわち国際犯罪の捜査や法執行機関からの登録管理機関への法執行問題につきインターネット検閲問題をめぐる最新の国際動向を概観しておく。
なお、以下の内容は2011年11月4日付けのブログサイト“Wendy.Seltzer.org”(筆者はイェール大学ロースクールの情報社会プロジェクトの2011-2012年上級特別研究員(Postdoctoral Resident Fellow :簡単にいうと博士課程修了の特別研究員)であるウェンディ・セルツァー(Wendy Seltzer)が運営しているブログ)の記事からの一部抜粋引用である(セルツァー氏の記事自体はハーバード大学ロースクールのバークマン・センター(Berkman Center for Internet & Society)の11月4日Buzz(自由な意見交換会)の紹介記事で知った)。同氏は以下述べるとおりICANNのGNSOの公益グループ代表である。
「2011年10月末にダカールで開催された第42回「ICANN(Internet Corporation For Assigned Names and Numbers: インターネットの各種資源を全世界的に調整することを目的として、 1998年10月に設立された民間の非営利法人 (本拠地は米国カリフォルニア州マリナ・デル・レイ、 その組織や機能は社団法人 日本ネットワークインフォーメーション(JPNIC)が解説している)」公開会議において「政府諮問委員会(GAC)」は「GNSO(分野別ドメイン名支持組織:Generic Names Supporting Organization」や「理事会(Board of Directors)」ならびに「コミュニケ」においてあらゆる機会に「ドメインネーム・システムを犯罪面から悪用することへの緊急行動」を訴えた。ドメイン名の濫用に関するこの主の議論は、多数の利害関係者すなわち登録業務の環境では、レジストラ(registrars:登録者からドメイン名の登録申請を受け付け、その登録データをレジストリのデータベースに登録する機関)、レジストラント(登録者)、インターネットユーザーおよび法執行機関の代表者の利害を混乱させた。すなわち、ドメイン名システム(DNS)を悪用した犯罪活動をどのように減じさせるかといった幅広い議論は、①DNSレベルでどのように犯罪活動を認識するのか、②オンライン上の意見発表者を悪態者(abusive)や誤解を持つ人(mistaken)、屈辱をあたえる者(takedowns)から保護するために適正手続(due process)を適用するか、また犯罪に無関係のユーザーのプライバシーやセキュリティをいかに保護するかという問題である。(以下省略)」
なお、余談であるが「ICANNの最新国際会議等の動向報告については、従来2011年9月に解散した「日本インターネットドメイン名協議会」が行っていた。解散に関するリリース文にはこの問題のフォローについて言及していない。調べた結果、JPNICが引き継いでいるようである。
(注3) 筆者が気になった点の1つは、AFNICの公式サイトや資料の英訳内容である。海外の投資家などを意識してのこととは思うが意訳的な部分がある。従って、本ブログでは筆者の判断で原文(仏語)に即して和訳し直した部分がある。
(注4)「 経済・財政・産業省(Ministre de l'Economie, des Finances et de l'Industrie:MINEFI )」について、国立国会図書館「フランスの官庁サイト」や総務省「世界情報通信事情」も含めわが国の多くの説明が関係機関、組織に直接リンクさせているが、いずれも2007年5月以降の組織の権限や組織名の見直し等基本的な解説が欠如している。
すなわち、「経済・産業・雇用省(Ministre de l'Economie, des l'Industrie et de l’Emploie:MEIE)」(MEIEは第3次内閣において再度MINEFIに改組されているが、国立国会図書館等はその改組を受けた変更を行っていないため、リンク先が自動変更される。)のままである。
筆者はMINEFIのサイト等で確認を試みたが、その限りにおいて2007年以降の組織改革の正確な説明は得られなかった。従って、仏語版“Wikipedia ”および「フランス国民議会(Assemblée nationale)サイトの歴代大統領、内閣閣僚名一覧」の説明を元に筆者なりに修正・補足しつつ解説を加える。
「2007年5月に発足した第1次フランソワ・フィヨン内閣(Premier Gouvernement François Fillon:17 mai 2007- 18 juin 2007)は従来、経済政策と財政の中心機関であった「経済・財政・産業省」を抜本的な組織改革を行った(フランスの財政や会計制度全体の改革にとって重要な法律は「2001年予算組織法(Loi organique n° 2001-692 du 1 août 2001 relative aux lois de finances:LOLF)」であり、同法は2006年に完全施行された。同法に関する解説として参考になるレポートとしては、平成21 年度会計検査院委託業務報告書「欧米主要国政府における内部統制の状況及びそれに対する会計検査院の関与・検査」、在日フランス大使館広報部「フランス2011 年度予算法案」、「La Documentation Française(フランスの150政府機関が発行した400冊の政府刊行物が検索可能な公的サイト)」のLOLF年表(chronologie)等がある。
旧MINEFIは2007年5月、第1次フランソワ・フィヨン内閣において従来の機能を2つの省すなわち(「経済・財政・雇用省(Ministre de l'économie, des finances et de l'emploi:MEIE)」と「予算・公会計・公共サービス省(Ministre du budget, des comptes publics et de la fonction publique:MBCFP)」に分化し、それぞれに担当大臣:MEIEはJean-Louis Borloo、MBCFPはÉric Woerthであった。
第2次フィヨン内閣(19 juin 2007 - 13 novembre 2010)では、MEIE担当大臣はChristine Lagarde、MBCFPは「予算・公会計・国家改革省(Ministre du budget, des comptes publics et de la réforme de l'État:MBCPRE)」に改組され担当大臣はフランソワ・バロワン(François Baroin)となった(フランスの「公会計(Comptes Publics)」については、専修大学商学部教授 黒川保美 「フランスにおける公会計制度の改革」会計検査研究 №28(2003.9)、富士通総研「フランスの公会計改革と公会計システム近代化の動向」等が参考になる)。
第3次フィヨン内閣(14 novembre 2010 - )では、MEIEは再度Ministre de l’économie, des finances et de l’industrie(MINEFI)の名称に戻り、担当大臣はFrançois Baroin11/10①である(なおエリック・ベソン(Eric Besson)がMINEFIを補佐すべくエネルギー・デジタル経済担当大臣となり、またフレデリック・ルフェーヴル(Frédéric Lefebvre)が補佐役として貿易・手工業・中小企業・観光・サービス・自由業・消費部門の特命担当大臣となっている)。またMBCPREの担当大臣はヴァレリー・ペクレス(Valérie Pécresse)となった。なお、MINEFIの雇用問題管轄権は「労働・雇用・厚生省(Ministre du travail, de l’emploi et de la santé)」に移管された。
最後に、MINEFIに関するジェトロの解説を一部引用する。「経済・財政・産業省は、経済・財政・産業の3省と予算、通商、商業・中小企業、工業の4庁から成り、全部で36の局(sous-direction)からなる巨大な官庁である。その他、在外公館・大使館などを通じてほぼ全世界の国々、フランスの地方都市にはりめぐらされた各局の出先機関、政府系機関としての国立統計経済研究所(INSEE)、経済計画庁、パリ国立高等鉱山学院などを抱えている。MINEFIの組織図は専用サイトがある
(注5) フランソワ・フィヨン内閣の現閣僚、担当大臣の詳細は在日フランス大使館サイトが詳しく説明している。 このサイトではフランス語氏名をクリックするとフランス政府HPの各大臣ページ(フランス語)にリンクし、カナ書き氏名をクリックすると略歴(日本語訳)のページにリンクできる。
(注6) フランス政府の法令検索専門サイト“Legifrance”については本ブログでも適宜引用してきたが、その使い勝手が良い点を今回も具体的に感じた。その1つが法改正の時期にあわせ、旧法と新法規定が即比較できることである。例えば、今回問題となった「郵便・電子通信法(CPCE)」L.45条の旧規定を意味する“Version abrogée au 30 Juin 2011”(2011年6月30日廃止)を画面左欄で指定すると赤字となって旧法規定全体が見れる。さらに現行法を意味する“Version en vigueur au 30 juin 2011(現行法)”をクリックすると赤字に変わるとともに、L.45条の内容が全て最新内容に変わる。先進的電子政府の実現を謳うフランスらしい。
(注7) フランス国務院(コンセイユ・デタ)は、行政裁判における最高裁判所としての機能と、法的問題に対する政府の諮問機関としての機能(法制局的機能)を併せ持つ機関。行政最高裁判所として機能する訴訟部と立法準備や政府による各種諮問に応じる行政部から構成される。(参議院憲法調査会サイトから引用)
(注8) フランス共和国憲法第7章は「憲法院」について定めている。同章は8条で構成されている。憲法院はドイツ等多くの国で整備されている「憲法裁判所」に相当する。パリに1庁設置されており、裁判官9 人全員の合議による審理が行われる。議会の議決後、大統領による審査・署名前の法律に対する違憲審査、大統領選挙の選挙管理、大統領および国会議員の選挙に関する裁判等を行う。司法権にも行政権にも属しない独立機関である。憲法院の任務等については自身の解説サイト(5ヶ国語で訳されている)が詳しい。
(注9) 現在使われているドメイン名をトップレベルドメイン(TLD)で分類すると、 分野別トップレベル・ドメイン(gTLD: generic TLD)と国コードトップレベル・ドメイン(ccTLD: country code TLD)に大別される。(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンターの解説から一部引用)
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前回2005年9月21日に取り上げた問題をさらに整理してみる。まずわが国の状況を見ておく。
2004年6月30日に「司法制度改革推進本部―国際化検討会―法令の外国語訳に関するワーキング・グループ」(注1)第1回会合が開かれ、10月22日までに4回会合が開かれている。
主たる目的は、①国際取引の円滑化、②対日取引の促進、③法整備支援の推進とされているが、現状については行政機関・民間(大学なども含まれよう)による個別的な取組みとなっており、統一的・信頼性の高い外国語訳が十分行われていない、さらには外国語訳された法令についてのアクセスが容易でない点が指摘されている。特に、前回述べた英連邦LIIの例を見るとおり、最近の海外の主要国におけるインターネット技術を十分に活用した法令・検索サービスの向上は目覚しいものがあり、筆者としてもこの点は別途改めて意見を述べるつもりである。
まず第一に、主要国における法令外国語訳の現状を見ておこう。ワーキング・グループの第1回において配られた資料でみると、韓国が主要法令の約8割を英語訳済である。ドイツやフランスも主要法令を中心に英訳化(フランスではスペイン語も含まれる)を行い、インターネットのHP等で公開している。なお、事務局(首相官邸)が作成したものであろうが、この資料はあまり正確でない。例えば、①フランス政府の法令サイト「Legifrance.gouv.fr」は英語、スペイン語となっているが、ドイツ語も対象になっている(この点は自信がない)。また、②ドイツではフランスのように一元的な翻訳でなく、各省庁が関係法令を英訳化している点の説明がない。
さらに注目したいのはEUである。加盟25カ国が25カ国(現時点の資料では20カ国)の言語を平等に扱うためか、翻訳作業に熱心である。例えば、欧州司法裁判所(CVRIA)サイトでは、①加盟国の国内・国際的な判例法、②「EUR-Rex」という専用の法令検索サイトとのリンク、③EUの各種条令、④各国の法令サイトとのリンクが可能となっている。さらに具体化すると、各国別に、立法・行政機関、司法制度、判例法について公的な資料の検索が可能となっている。ただし、法令そのものは検索できない。
第二にドイツの法令や判例の英訳化について見ておこう。わが国でドイツの法令検索を行うには、国立国会図書館議会官庁資料室が最も充実しているといえるが、あくまで調べられるのはドイツ語である。ドイツ語が十分に理解できかつ一定以上の法理論に習熟していることが前提となる。
最終的にドイツ語で読むにしても、やはりはじめは英語で概要は読んでみたいであろう。そこでわが国でよく紹介されるのが、ドイツのザールブリュッケン大学法学部の「法律インタ-ネットプロジェクト( Law-related Internet Project )」である。翻訳可能な言語が7ヶ国語並んでいるので、すぐに日本語を選択してみたがこれは期待はずれである。英語圏の人にとってはどうであろうか。英語を話せる人たちへの「英語ニュース」コーナーがあるが法令検索ではない。
次に紹介されるのがオックスフォード大学の「German Law Achieve」である。欧米の大学では、もともと比較文化の観点からか「比較法」の研究が充実している。したがって、同サイトでは、主要法令、判例、研究文献などが閲覧できる。対象となる法律も憲法、民法、刑法、商法、訴訟法、裁判所法、環境法、地方自治法、個人情報保護法、郵便法、放送法等であり、充実度はすばらしい。しかし、企業法務の観点からは、例えばドイツの「電子署名法」(Act on Digital Signature(Gesetz zur digitalen Signatur)の内容が見たい場合はどうであろうか。実は、同法の英訳化は連邦政府の電気通信や郵便サービスを監督する「連邦ネットワーク庁(Bundesnetzagentur:BNetzA )」(2005年3月13日にこの名称に改称されている)のサイトで見なければならない(ドイツ連邦ネットワーク庁サイトはほぼ完全にサイト情報がドイツ語と英語とパラレルである。極めてよく出来ている)。
ちなみに、German law ArchieveでAct on Digital Signatureを知らべると以下の画面がでる。
なお、当然であるが、ドイツ連邦法務・消費者保護省(Bendesministerium der Justiz ind Fur Verbrucherschutz)および連邦司法庁(Bundesamt fur Justiz )共管の法令検索サイトの”Translations”を選んでみよう。
例えば、一番初めに”AbgG”:Members of the Bundestag Act”(Abgeordnetengesetz)が表示される。同法は連邦選挙法に基づく連邦議会の議員資格の取得と喪失にかかる法律である。冒頭に改正の経緯の説明がある。
法律名をクリックすると以下で英訳された各条文表示される。
さらに調べてみたところ、ドイツの「words worth」というサイトを発見した。その解説を読むと、すべての単語が重要な英語への翻訳:Words-Worthはデュッセルドルフとボンの2人の経験豊富な専門翻訳者のよく訓練されたチームであり、公的機関、省庁、研究機関、企業、企業団体、非政府組織向けに翻訳している。英語のネイティブスピーカー向けに、ドイツ語から英語に翻訳するテキスト作業を行うとある。
このWeblogについて、2005年当時は筆者は以下のとおり説明したが、2021年時点では、同サイトは以下のカテゴリーに区分整理されている。今回のブログの内容とは直接関連しないが、ドイツの経済、社会、文化、人類学などにおいてどのようなテーマに強い関心をもって英語圏の国々に謳えようとしてるかが理解できよう。
(1) Corpprate Communications
①CORPORATE SOCIAL RESPONSIBILITY (CSR);
②FINANCIAL MARKET COMMUNICATION;
③WEBSITE TRANSLATIONS;
④TURNAROUND MANAGEMENT(注2)
(2)ビジネス&ファイナンス
①FINANCIAL MARKET COMMUNICATION;
②INVESTMENT FUNDS:
③BUSINESS AND ECONOMICS:
(3)Environment, Social Policy, Sustainability
①犯罪学(CRIMINOLOGY)/人 を 搾取 し 犠牲にする 行為 (VICTIMISATION);
②都市開発(URBAN DEVELOPMENT);
③社会保障(SOCIAL SECURITY);
④洋上風力発電(OFFSHORE WIND POWER);
⑤人身売買(HUMAN TRAFFICKING);
⑥海洋自然保護(MARINE NATURE CONSERVATION);
⑦CRIMINOLOGY;
⑧気象政策と排出取引(CLIMATE POLICY AND EMISSIONS TRADING);
⑨GENDER EQUALITY ATLAS FOR GERMANY(注3)
【2005年当時の「words worth」の説明】2005年当時の「words worth」の説明
.一番の特徴は電子署名法も含め各省庁が所管するかなりの(数えてはいないが)法律の英訳化資料がアルファベット順に検索できるのである。
法学部の学生だけでなく、企業法務の方もぜひ勉強してはいかがか。ただし、その後同グループは翻訳ビジネスに変わったようである。
なお、フランスの法令の英訳化について機会を見て紹介する。
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(注1) 筆者は同ワーキング・グループの座長である中央大学法科大学院の柏木昇教授とは、本ブログ初版執筆後「国際取引法フォーラム」会員として知り合いとなり、常日頃親しくこれらの問題につき意見交換等を行っている。
(注2) ターンアラウンド(Turn Around)は、原語の直訳は「方向転換」で、ビジネスにおいては、事業再生や経営改革のことをいいます。これは、業績不振の企業が直面する様々な問題に正面から取り組み、事業を再生して企業価値を高めることを指します。また、事業再生の現場で陣頭指揮を取り、企業を再生させる責任者のことを「ターンアラウンド・マネージャー」と言います。
一般にターンアラウンドでは、財務リストラ等で短期的に収益の改善を目指す「ワークアウト」とは異なり、事業構造や組織構造、収益構造といった企業の本質に切り込んで、中長期的に企業価値を向上させる施策が行われます。例えば、事業再生ファンドビジネスにおいては、投資によって、営業面のテコ入れや設備投資の実施、研究開発力の強化といった「戦略的な収益改善策」を実施して、企業価値を高めたりします。(iFinanceから一部抜粋)
(注3) https://www.bmfsfj.de/resource/blob/114008/de3c25bc8c0f00a118920c08e326ccce/3--atlas-zur-gleichstellung-von-frauen-und-maennern-in-deutschland-englisch-data.pdf
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(今回のブログは2005年10月1日登録分の改訂版である)
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法律専門家にとってIT社会の最大の恩恵はインターネットによる法律・判例検索であろう。国際的に有名な法律・判例検索サイトとしては、①米国のコーネル大学の「LII」、②英国・アイルランドの「British and Irish Legal Information Institute」、③ワールドコレクション(WorldLII)、④オーストラルエイシアン(AustLII)、④カナダ(CanLII)、⑤香港(HKLII)等である。EU加盟国については①、③でも一定の範囲で検索が可能である。今回は、このほど稼動した英連邦の法律情報機構(CommonLII)の概要について紹介する。
Commonwealth Legal Information Instituteのトップ画面
なお、2005年9月20日付けの朝日新聞の夕刊に紹介された海外企業や行政・研究機関が利用できるわが国の主要法令やさらには判例の英語訳や検索機能の現状はいかがであろうか。一方、わが国が民法や刑法など従来の立法において参考としてきたドイツやフランスにおける現行法の英語訳作業、アクセス利用の現状はどのようなものかについては、次回述べることとする。
1.Common LIIの開発の背景
Common LIIの開発の目的は、すべての英連邦参加国(53カ国)ならびにその他の国々が無料で英連邦の国々の主要な法律・判例などの情報を検索できることにある。Common LIIは、国際的なコモンローの整備に誠実さをもって寄与すること、加盟国が法律システム(司法制度)の一層の透明性を確保することで共通の法原則の確立することにある。
CommonLIIの開発を通じ、また英連邦の開発途上国による自由な法律検索制度(Free Access to Law Movement)の構築は各国が無料で自由に検索できる国家レベルのデータベースの構築・維持を支援することになる。AustLIIはこのCommonnLIIの指導役にあたった。
2.CommonLIIの内容
2005年9月にロンドン英連邦法律会議(Commonwealth Law Conference)でCommonLIIを立ち上げたときから、「www.commonlii.org」を自由に使うことが可能となった。多くの加盟国からの判例法、制定法立法、法律ジャーナル、法改正報告などが含まれる。
・オーストラリア、ブラジル、ブルネイ、キャメルーン、カナダ、キプロス、フィージー、インド、ニュージーランド、ナイジェリア、南アフリカ、イギリスなど25カ国以上から40以上のデータベースが含まれる。
・稼動開始時から53カ国の法律ウェブサイトにリンクする数千の目録、さらにこれらのサイトを検索するための検索エンジン、各国の「Google 法律検索」が用意される。
・強力な検索エンジンである完全な「Boolean」(注)検索を導入し、検索ランキング、日付、データベース別などが表示される。
3.英連邦の加盟国による追加的法律情報や資料は次の3つの方法で本データベースに包含
(1)すでに法律情報がインターネットにより自由に検索可能な場合、CommonLIIに登録する許可を与えるのみである。ダウンロードし、CommonLIIフォーマットに変換後、直ちに検索可能となる。
(2)法律情報がまだインターネットでの利用ができていない場合、emaiまたはCD-ROMにより情報提供を受けてCommonLIIまたは既存のローカルLIIに登録する。
(3)技術的に可能であれば、AustLIIは既存のローカルLIIの提供業者と提携し、データを再作成せずにCommonLIIに登録する。
4.財政面の支援など
CommonLII構築のための当初の資金支援は、オーストラリア連邦政府司法長官府(Australian Attorney-General’s Department) 、オーストラリア連邦政府研究会議(Australian Research Council:ARC)、英連邦法曹協会(Commonwealth Lawyers Association)、および英連邦電気通信機構(Commonwealth Telecommunications Organisation:CTO)が会員の支援を得て財政面・技術面で支援している。
また、CommonLIIの基本となる運営は、加盟各国の法律情報機構やAustLII、BAILII、CanLIIなどの支援、参加、データベースの提供を受けている。
5.運営の基礎
CommonLIIは、オーストラリアで最大規模の法律無料アクセスプロバイダーで世界有数のオーストラルエイシアン法律情報機構(Australasian legal Information Institute:AustLII)と連携、運営協力している。AustLIIはニューサウスウェールズ大学(UNSW)ならびにシドニー技術大学(UTS)の教授会メンバーによる非営利共同機関である。
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(注)Boolean(ブ-リアン)とは、プログラミング言語で扱う変数や定数の型の一つで、真(true)と偽(false)の2種類の値だけを扱う最も単純な構造の型。結果が真か偽で表される式を「AND」や「OR」などの演算子(論理演算子)で組み合わせて、複雑な式が真になるか偽になるか判断することをブーリアン演算(論理演算)と呼ぶ。コンピュータの扱う処理や計算の多くは、最終的に論理演算に変換されて実行される。身近な例では、データベースやサーチエンジンに複雑な検索を行わせる時に使われている。
〔参照URL〕 http://www.commonlii.org/commonlii/brochures/CommonLII_brochure.pdf
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