Financial and Social System of Information Security

インターネットに代表されるIT社会の影の部分に光をあて、金融詐欺・サイバー犯罪予防等に関する海外の最新情報を提供

米証券取引委員会の連邦地方裁判所判決に基づくTelegramおよび子会社によるデジタル・トークン(TON)に対する投資家への12億ドルの不当利得返還や1850万ドルの民事罰金等に関する和解が成立

2020-06-30 10:59:10 | 海外の通貨・決済システム動向

 筆者の手元に、米国証券取引委員会(SEC)から6月26日、インスタント・メッセージング・プラットホーム企業である「テレグラム・グループ(Telegram Group Inc(以下 「Telegram」ということ)) (注1)の未登録のデジタル・トークン(暗号化通貨;暗号資産)「グラム」の提供が連邦証券法に違反したという容疑を解決するために、「Telegram 」とその100%子会社であるTON(ブロックチェーン・プロジェクトであるTON(Telegram Open Network))発行会社である「TON Issuer Inc.」との和解につき、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の承認を得たとするリリースが届いた。

 被告2社はデジタル・トークンにつき投資家に12億ドル(約1,284億円)以上を返還し、1,850万ドル(約19億8,000万円)の民事罰金を支払うことに合意したとのことである。

 この裁判は、関係者はわが国においても暗号化通貨に関係する者では大きく取りあげられているが、SECのリリース文も含めかならずしも法的に見た正確な内容とはいいがたい。

 したがって、筆者なりに1933年証券法の条文、判決文の原本の内容、和解内容、関連するTelegram Groupの実態などにつき解説を試みるものである。

 なお、この裁判については3月24日ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の仮差押え命令判決に続き、4月1日同連邦地方裁判所は、米国および外国のすべての事業体に対し、メッセンジャー・サービス企業のTelegramの独自の暗号通貨(暗号資産)「グラム(Grams)」をICO(注2)配布することを禁止するとの判断を下している。

1.2020.6.26 SEC緊急リリース「Telegram to Return $1.2 Billion to Investors and Pay $18.5 Million Penalty to Settle SEC Charges」の仮訳

 米国証券取引委員会は6月26日、Telegramの未登録のデジタル・トークン「グラム」の提供が連邦証券法の登録義務に違反したという容疑を解決するために、「Telegram 」とその100%子会社であるTON(ブロックチェーン・プロジェクトであるTON(Telegram Open Network)).発行会社である「TON Issuer Inc 」との和解につきニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所裁判所の承認を得たと発表した。

 被告2社はデジタル・トークンにつき投資家に12億ドル以上を返還し、1,850万ドルの民事罰金を支払うこと等に合意した。

 2019年10月11日、SECはTelegram  に対し、約29億グラム(Grams)(TON独自のデジタル・トークン)を世界で171人の最初の購入者に売却して事業の資金調達資金を調達したと主張し、Telegramに対して1933年連邦証券法に違反したとして告発した。(注3)

 SECは、Telegramに対し1933年連邦証券法の登録要件に違反して提供され、販売された証券であると主張したグラムを提供することから、Telegramに予備的に裁判への参加を求めた。2020年3月24日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は、グラムの配達を禁止する予備的差し止め命令を出し、SECがTelegramの売り上げがグラムを二次公共市場に不法に配布するより大きな計画の一部であることを証明する実質的な可能性を示したことを明らかにした。

 SECの法執行部門のサイバーユニット(Chief of the SEC Enforcement Division's Cyber Unit.)の責任者である、クリスティーナ・リットマン(Kristina Littman)は、次のとおり述べた。

Kristina Littman氏

「新規および革新的なビジネスは、当社の資本市場に参加することを歓迎するが、連邦証券法の登録要件に違反して参加することはできない。今回の和解は、Telegramが投資家に資金を返還し、重大なペナルティを課すことを要求し、かつTelegramは将来のデジタル製品の通知を消費者等に与えることを要求するものである。」

 また、SECのニューヨーク地域事務所のアソシエイト・リージョナル・ディレクターであるララ・シャロフ・メフラバン(Lara Shalov Mehraban)は「SECの今回の緊急行動は、プロジェクトに関する完全な開示を提供することなく、未登録の提供で販売された証券で市場をあふれさせようとするTelegramの試みから個人投資家を保護しようとするもので、今回、我々が得た救済策は、投資家に大きな救済をもたらし、Telegramによる将来の違法な提供から個人投資家を保護するものである」と述べた。

 被告は、SECの訴状の申し立てを認めたり否定したりすることなく、1933年証券法第5条(a)および第5条(c)の登録規定に違反することに伴う最終的な判決の締結に同意した。判決は、被告に対し、グラム(Grams)の売却による不当な利益12億2,400万ドルを廃止するよう命じ、Telegramがグラムの最初の購入者に返済する金額のクレジットを持ち、Telegramに対し1,850万ドルの民事罰金を支払うように命じた。さらに、Telegramは今後3年間、デジタル資産(デジタル・トークン)の発行に参加する前にSECスタッフに通知することがさらに必要となった。

2.National Law Reviewレポートから抜粋

 3月24日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所の裁判官ケビン・カステル(P. Kevin Castel)は小槌(Judge's Gavel)をたたき、Telegramが異論を唱えた17億ドルの最初の暗号通貨の調達行為(「ICO」)にこだわった。

P・ケビン・カステル氏

 同裁判官は、TONブロックチェーンで使用されるデジタル資産であるTelegramが計画したグラム(Grams)の配布行為は、1933年証券法に基づく証券募集を構成する可能性が高く、登録の免除を認めるべきではないと判断した。 また、判事は、米国証券取引委員会(SEC)に、当面のTelegramによるグラム・トークンの配布を妨げるための暫定的な差止め命令を付与した。

 同時に判事はTelegramの主張を否定し、「経済的現実は、Gram Purchase Agreementと、最初の購入者によるTON Blockchainを介した一般への予想されるGramの配布は、単一のスキームの一部である」と判断した。(この部分は20204.14National Law Review報告「Hanging on the Telephone: Judge Enters Order Blocking Telegram ICO」から一部抜粋、仮訳した)

3.連邦地裁の判決を受けたTelegramの動き

 Telegramは、2020年5月12日、CEOであるPavel Valerievich Durov氏自身が「What Was TON And Why It Is Over」と発言し(注4)、ブロックチェーン・プロジェクトであるTON(Telegram Open Network)を放棄したと発表した。その背景には、2019年10月以降続いているSECとの訴訟問題による影響を受けての放棄といえよう。(注5) (注6)

 このCEOはIT時代の先行経営者かもしれないが、その発言内容はSECや裁判官を説得するには不十分であることは言うまでもない。単なる愚痴で一般投資家などを説得できる内容とは思えない内容であるが、逆に参考になると思われるので(注1-3)であえて全文を仮訳する。

 一方、今後今回の裁判を前例として今後同様のビジネスに対して、SECのチェックが行われることは明らかであるが、他方、わが国の暗号通貨や暗号資産の法的側面、金融面、監督面等からの検討は遅々として進んでいない。

 あえて、わが国において海外のICOの動向につき調査した資料としてあげるとすれば、2018.11.1 金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第8回) 資料3、資料2であろう。また、同研究会の報告書「2018.12.21仮想通貨交換業等に関する研究会 報告書」(全38頁) も同様に参考になろう。

 筆者自身、このニュービジネスは「ITねずみ講」といってもおかしくないと考えているが、この議論は機会を改めたい。

4.2020.3.24判決文の原本探し

 普通に考えるのは、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の判決データベースで調べる方法であろう。しかし、同裁判所のリリース・データベースで検索してもヒットしない。

 前述したNational Law Review解説の最後に事件番号が記載されていたのでjustica .comで検索したところ、44頁にわたる判決原本に行きついた。同サイトは学生、研究者向けに網羅されており、有用なデ-タベースである。

5.1933年証券法の条文の正確に理解する方法

 1933年証券法第5条(a)および第5条(c)の登録規定の内容は如何、果たして米国の関係機関の解説では条文そのもの解説には言及していない。

 筆者はその分野の専門家なので、あえて調べ方の手順につき補足する。

(1) 法律名で調べる、合衆国法典で調べる方法がある。

 連邦法の場合、連邦議会はその2年の会期中に多くの法律を制定される。それは Act として指定されそのうち Public Law は議会で成立の後、United States Code という連邦法令集に搭載されるのでPublic Lawで調べる。

 具体的に見ると、Security Act of 1933 または、 15U.S.C 77a以下 または Pub. L. 73-22(1933年時の法律のまま)で調べられる。

 問題はここからである。SECのリリース文は1933年証券法第5条(a)および同条(c)を引用している。しかし、議会で可決したりその後Public lawで掲載された以降、米国連邦法は法令集(U.S.C.)に移管される。ここで管理番号が変わるのである。この場合、5§77eとなる。

(2)有名なコーネル大学ロースクールの法令検索を使ってみる。

U.S. Code Title 15. →COMMERCE AND TRADE Chapter 2A. →SECURITIES AND TRUST INDENTURES Subchapter I. DOMESTIC SECURITIES

 ここまできてやっと「§77e Prohibitions relating to interstate commerce and the mails」に行きつくのである。

5

(a)   Sale or delivery after sale of unregistered securities

Unless a registration statement is in effect as to a security, it shall be unlawful for any person, directly or indirectly—

(1) to make use of any means or instruments of transportation or communication in interstate commerce or of the mails to sell such security through the use or medium of any prospectus or otherwise; or

(2) to carry or cause to be carried through the mails or in interstate commerce, by any means or instruments of transportation, any such security for the purpose of sale or for delivery after sale.

(b)略す

(c) Necessity of filing registration statement

It shall be unlawful for any person, directly or indirectly, to make use of any means or instruments of transportation or communication in interstate commerce or of the mails to offer to sell or offer to buy through the use or medium of any prospectus or otherwise any security, unless a registration statement has been filed as to such security, or while the registration statement is the subject of a refusal order or stop order or (prior to the effective date of the registration statement) any public proceeding or examination under section 77h of this title.

********************************************

(注1) Telegram(テレグラム)はTelegram Messenger LLPが開発するインスタントメッセージシステムである。メッセージを暗号化することによりプライバシーを担保し、全てのファイルフォーマットを送受信できることを特徴とする。また、APIが公開されているためユーザーが非公式クライアントを作成することが可能である、クライアント側はオープンソースでサーバ側はプロプライエタリ・ソフトウェアである。(Wikipediaから抜粋)

(注2 ) Initial coin offering(ICO、イニシャル・コイン・オファリング)とは、一般に、企業等がトークンと呼ばれるものを電子的に発行して、公衆から法定通貨や暗号通貨の調達を行う行為を総称するものをいう。ICOの仕組みにはバリエーションがあり得るが、コイン(デジタル・トークン)の発行体が、事業計画や資金使途を示した上で、当該事業等に賛同・共感する、あるいは出資を求める投資家から資金調達を行い、その対価としてコインを発行するのが標準的な仕組みである。インターネットなどのデジタル空間で募集が行われ、コインの対価の払い込みは暗号通貨によって行われることが多い。伝統的な株式公開やファンド出資の募集に比べて、簡易・迅速な手続きで資金調達ができることが狙いとされることも多いが、既存の法制度がどう適用されるかについては、いまだ不透明な部分も広く、コインの保有者が有する権利の性質によっては、有価証券を用いた資金調達と同視されることもある。(Wikipediaから抜粋)

(注3) マンハッタンの連邦地方裁判所に2019年10月11日提出されたSECの告訴(complaint)申し立ては、1933年証券法の第5条(a)および第5条(c)の登録義務規定に違反している両方の被告に告発し、(1)特定の緊急救済ならびに(2)恒久的な差止め命令(permanent injunctions)、(3) 判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interest)、(4)民事制裁金を求めたものである。

(注4)  ドゥーロフCEOの声明文を全文仮訳する。なお、注記やリンクは筆者の責任で行った。

 過去2,5年間、私たちの最高のエンジニアの何人かは、「TON」と呼ばれる次世代のブロックチェーン・プラットフォームと、「Gram」と呼ばれる暗号通貨に取り組んできた。TONは、ビットコイン( bitcoinは、公共トランザクションログを利用しているオープンソースプロトコルに基づくPeer to Peer型の決済網および暗号資産)とイーサリアム(Ethereum.org)によって開拓された分散化の原則を共有するように設計されているが、スピードとスケーラビリティにおいてそれらよりも非常に優れている。

bitFlyerのビットコイン価格/相場チャート

 我々は、その結果を非常に誇りに思っていた。すなわち、我々が作成した技術は、価値とアイデアのオープンで自由で分散した交換を可能にした。テレグラムと統合されたTONは、人々が資金や情報を保存し、転送する方法に革命を起こす可能性を秘めていた。

 残念ながら、米国の裁判所はTONが起こるのを止めました。どう。何人かの人々が金鉱山を建設するためにお金を一緒に入れて、後でそれから出てくる金を分割することを想像してみてください。その後、裁判官が来て、鉱山建設業者に言います: "彼らは利益を探していたので、多くの人々が金鉱山に投資しました。そして、彼らは自分でその金を望んでいなかった、彼らは他の人にそれを販売したかった。このため、あなたは彼らに金を与えることはできない。

 これがあなたにとって意味をなさないなら、あなたは一人ではない。 しかし、これはまさにTON(鉱山)、その投資家、グラム(金)で起こったことである。米国の裁判官は、人々がビットコインを売買できるようにグラムを売買することを許されるべきではないと判断するために、この推論を使用した。

 おそらくさらに逆説的にいえば、米国の裁判所は、グラムは米国だけでなく、世界的に配布することができないと宣言した。なぜか。なぜなら、米国市民は、それが立ち上げた後、TONプラットフォームにアクセスする何らかの方法を見つけるかもしれないといった。だから、これを防ぐために、グラムは、地球上の他のすべての国がTONで完全に大丈夫と思われたとしても、世界のどこにでも配布することは許されるべきではないことになる。

 この裁判所の決定は、他の国が何が良いか、何が自国民にとって悪いかを決定する主権を持たしないことを意味する。アメリカ人が突然コーヒーを禁止することを決め、イタリアのコーヒーショップを閉鎖するよう要求した場合、アメリカ人が行くかもしれないので、私たちは誰もが同意するだろうと思う。

 しかし、それにもかかわらず、我々はこれ以上にTONを進めないとする困難な決断を行った。

 悲しいことに、米国の裁判官は一つのことについては正しい。すなわち、我々米国外の人々は、我々の大統領等に投票し、議会に選出することができるが、我々はまだ金融と技術に関しては米国に依存している(幸いにもコーヒーではない)。米国は、ドルと世界の金融システムに対する統制を利用して、世界の銀行や銀行口座を閉鎖することができる。アップルとグーグルのコントロールを使用して、App StoreとGoogle Playからアプリを削除することができる。だから、他の国が自国の領土に何を許可するかについて完全な主権を持っていないのは事実である。残念ながら、世界の人口の96%が、米国に住む4%の人によって選ばれた意思決定者に依存している。

 これは将来変更される可能性がある。しかし、今日、私たちは悪循環に陥っている。すなわち、それは非常に集中しているので、過度に集中した世界に多くのバランスをもたらすことはできない。しかし、我々は実際に試してみた。私たちは、バナーを拾い、私たちの間違いから学ぶために、次世代の起業家や開発者に任している。

 私はテレグラムのTONとの積極的な関与が終わったことを正式に発表するために、この記事を書いている。自分の名前やTelegramブランド、または"TON"略語を使ってプロジェクトを宣伝しているサイトが表示される場合がある。あなたのお金やデータでもってそれらを信頼しないでください。われわれのチームの現在または過去のメンバーは、これらのプロジェクトのいずれにも関与していない。我々がTONのために構築した技術に基づくネットワークが現れるかもしれないが、我々は彼らと提携を持つことはないし、何らかの方法でそれらをサポートすることはほとんどない。だから注意してほしい、そして誰もあなたを誤解させないでほしい。

 私は世界の分散化、バランス、平等のために努力しているすべての人々に幸運を願って、このポストを締めくくりたいと思う。あなたは正しい戦いを戦っている。この戦いは、我々の世代の最も重要な戦いかもしれない。我々は、あなたが私たちが失敗したところで成功することを願っている。

(注5) ロシア発の暗号化メッセージングアプリ「テレグラム」が独自のブロックチェーンTON(Telegram Open Network)とTONの独自トークン「グラム(Gram)」を放棄する方針を発表した。人気プライバシートークアプリ「テレグラム」は5月12日、独自のブロックチェーンTON(Telegram Open Network)と仮想通貨「グラム(Gram)」のローンチ計画を完全に放棄する方針をテレグラムのパヴェル・ドゥーロフCEOが発表している。

(注6) パーヴェル・ヴァレリーヴィッチ・ドゥーロフ( Pavel Valerievich Durov :ロシア語: Па́вел Вале́рьевич Ду́ров,1984年10月10日生まれ)は、SNSのフコンタクテ、ロシア語: ВКонтакте, ラテン文字転写: VKontakte)は、ロシアを中心とするソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のひとつである“VK”および暗号化メッセージングアプリのTelegramの創設者として知られるロシアの起業家である。(Wikipediaから抜粋)

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欧州連合理事会が欧州委員会や加盟国等に対し金融調査に関し重大かつ組織的な犯罪との戦いのさらなる改善を要求

2020-06-28 09:16:59 | 金融犯罪と阻止策

 2020年6月17日、 欧州連合理事会リリース「金融調査:理事会は重大かつ組織的な犯罪との戦いのさらなる改善を要求」すなわち、同理事会は6月17日、「重大かつ組織的な犯罪と戦うための金融調査の強化に関する結論(Council conclusions on enhancing financial investigations to fight serious and organised crime)」を承認した。

 今回の欧州委員会に対する理事会決議はEUだけでなくEUROPOLなどを中心とする金融調査機能の強化を目指すものである。EU内の組織犯罪の収益は年間1,100億ユーロ(約13兆2,264億円)に達しており、没収率は非常に低いままであるという現状認識と、金融調査はEUが組織犯罪やテロを防止し、これと闘う上で最も重要であるという認識から始まっている。

 今回のブログは、理事会のリリース等を中心に、重要な問題でありながら、わが国ではほとんど言及されていないEUROPOLやEUの関係機関の具体的かつ最新の動きを正確に理解すべくまとめるものである。

  また、2020.6.19の「Council of the EU calls for better response against serious and organised crime」は、別の観点からこの問題を論いている。その内容は、理事会のリリース文とほぼ同一であり、本ブログではあえて取り上げないが、一方、アリーン・ドゥサン氏は英国とEUのBriex貿易協定交渉のトップの専門家である。本年3月4日、在英フランス商工会議所(French Chamber of Commerce in Great Britain)のインタヴュー記事「 Trade Partner at the law firm Hogan Lovells, provides an outline of what we might expect from the Brexit trade negotiations」を読んで理解が進んだ。大手法律事務所Hogan Lovellsの貿易問題パートナーであるアリーン・ドゥサン氏が、EU離脱貿易交渉に期待できることの概要を説明した。参考になるので、参考的に最後に3.で取り上げる。

1.欧州連合理事会は欧州委員会に次のことの具体的検討を要求するとともに加盟国に対する要求内容

 結論として、欧州連合理事会は欧州委員会に次のことの具体的検討を要求した。

① 凍結の可能性がある資産の管理に関する法的枠組みの強化を検討し、その後の没収の可能性を考慮・検討する。

② 金融情報へのアクセスを促進し、国境を越えた協力を促進する、全国的な中央銀行口座登録を相互接続するために、法的枠組みをさらに強化することを検討する。

③ 金融インテリジェンス・ユニット(FIU)(注1)の作業の特定の側面をさらに適応させて、より効率的な情報交換を可能にするかどうかを検討する。

④ EUレベルでの現金支払いに関する法的制限の必要性に関する加盟国との議論に再度取り組む。

⑤ 仮想資産の法的枠組みをさらに改善する必要性を検討する。

 また、欧州連合理事会は加盟国に対し、協力を強化し、EUの組織犯罪の政策サイクルにおける水平的優先事項としての金融調査-EMPACTが組織犯罪に関するあらゆる種類の犯罪捜査の一部となることを確実にするよう要請する。 ユーロポールに、2020年6月5日に新しく設立された「欧州金融経済犯罪センター(European Financial and Economic Crime Centre:EFECC)」の可能性を最大限に活用するよう呼びかけている。

 推定によると、EU内の組織犯罪の収益は年間1,100億ユーロ(132,264億円)に達しており、没収率は非常に低いままである。 したがって、金融調査は、EUが組織犯罪やテロを防止し、これと闘う上で最も重要である。近年、EUは、マネーロンダリングとテロ資金供与に対抗するため、ならびに法執行当局が金融情報にアクセスするための法的枠組みを大幅に強化しているが、それにもかかわらず、さらなる改善が検討される場合がある。

2.EUのEMPACT等の概要

(1) わが国ではくわしい解説は皆無である。EUROPOLのEMPACTサイトを引用、仮訳する。

 2010年、EUは深刻な国際犯罪および組織犯罪との闘いの継続性をさらに高めるために、4年間の政策サイクルを設定した。この政策は以下の間での効果的な協力を要求している。

① EUの法執行機関

② 他のEU機関

③ EU機関

④ 関連する第三者。

  そのために、EUが直面している最も差し迫った犯罪の脅威を標的とする強力な行動も求められている。

 2017年3月27日、欧州連合理事会は、2018年から2021年の間、組織化された重大な国際犯罪に対するEU政策サイクルを継続することを決定した。この多年に及ぶ政策サイクルは、加盟国、EU機関、EU機関、および関連する民間セクターを含む第三国および組織との協力を改善し、強化することにより、一貫した方法論的方法でEUに対する組織的かつ重大な国際犯罪がもたらす最も重要な脅威に取り組むことを目的としている。

 EU理事会は、2017年5月18日の会議で、2018年から2021年の組織的で重大かつ国際犯罪との闘いに関する次の優先事項を採択した。

(2) EUROPOLのサイトからEUの重大かつ組織化された犯罪脅威評価に関するEUの4つの政策ステップ・サイクルの概要の解説を以下で引用、仮訳する。

ステップ1: The serious and organised crime threat assessment (SOCTA)

 Europolによって開発された「組織犯罪の脅威アセスメント手法(SOCTA)」は、EUが直面している主要な犯罪の脅威の詳細な分析に基づく一連の推奨事項で構成されている。これらに基づいて、EUの司法・内務理事会(Council of Justice and Home Affairs Ministers)は、2018年から2021年まで続く最初の政策サイクルの優先順位を以下のとおり、定義した。

ステップ 2: Strategic plans

 Europolは、各脅威と戦うための戦略的目標を定義するために、ステップ1で定義された優先順位に基づいて複数年にわたる戦略的計画(multi-annual strategic plans :MASPs)を開発した。

ステップ3:犯罪の脅威に対するヨーロッパ学際的プラットフォーム(European multidisciplinary platform against criminal threats :EMPACT)の設置

 EMPACTに基づくプロジェクトは、EMPACTの優先順位として知られているものが割り当てられているエリアでの犯罪と闘うための運用アクションプラン(operational action plans :OAP)を設置した。

ステップ4:評価(Evaluation)

 OAPに関する情報は、その安全なシステムであるSIENA (注2)を介してEuropolに送られ、分析される。これらの調査から得られた情報は、EUの内部安全保障に関する運用協力常任委員会(Standing Committee on Operational Cooperation on Internal Security :COSI)によるレビューに情報を提供する。このレビューは、特に、EMPACTの優先領域での犯罪に取り組むための取り組みを評価する、Europolの重大かつ組織化された犯罪脅威評価(Serious and Organised Crime Threat Assessments :SOCTAs)に基づいて行われる。 そのレビューに基づいて、COSIは1つのエリアと別のエリア内の調整を推奨する場合がある。

3.Hogan Lovells LLPのLondon& Paris  Partnerであるアリーン・ドゥサン弁護士(Aline Doussin)のインタヴュー記事「Trade Partner at the law firm Hogan Lovells, provides an outline of what we might expect from the Brexit trade negotiations」の概要の仮訳     

Aline Doussin氏                               

(1) 貿易交渉の初めに、双方(英国とEU)の優先事項は何か?

 英国とEUは、ルールの収束により、独自の立場から交渉を開始する。しかし、2020年2月の第1週に発行されたEU関係に関するボリス・ジョンソン首相のビジョンから、英国政府は、ルールに関する「高度な調整」を含む貿易協定および欧州司法裁判所の役割を拒否すると述べた。

 結局のところ、英国は、EUの内部市場にどれだけ近づきたいか、結果として受け入れる義務について、基本的な選択を下すことはできないであろう。英国はEUの提案をもう少し厳しくすることができるかもしれない。ただし、交換取引(trade off)を行うための準備が必要である。アクセスと調整を高くすることで混乱を最小限に抑えることができるが、自由な移動と超国家的な制度の役割という形で難しい政治的義務をもたらす可能性がある。

(2)この段階での英国のプロセスはどのようになると思うか?

 英国は、「伝統的な」貿易協定の構造を持ち、すなわち交渉権は行政機関に与えられ、協定草案は議会によって承認される。貿易協定の義務または優先順位がどのように合意されるかについては、現時点では何も示されていない。これは、2020年2月の最初の週に明らかになる。英国の国際通商省(DIT)が重要な役割を果たすことを期待しているが、首相府(No 10) (注3)または内閣府での集中型アプローチが必要になる。交渉協定の各条項(または章)には、専門の政府部門に多大な情報とリードが必要である。たとえば、財務省(HM Treasury)は、金融サービスに関連するすべてのものを検討する必要がある。

(3)英国とEU協定の構造はどのようなものになるか?

 政治宣言(Revised text of the Political Declaration)(2019年10月17日に改訂) (注4)は交渉のベースラインを私たちに与える。英国とEUの両当事者は、野心的で幅広いバランスのとれた経済的パートナーシップを想定している。このパートナーシップは包括的であり、関税、手数料、料金、またはすべての商品セクター(農業食品を含む)にわたる量的制限なしに、自由貿易協定を含み、適切なそれに伴う原産地規則を尊重する。それが単一の包括的な合意なのか、それとも並行して交渉される一連の別々の合意なのかはまだわからない。ここには明確な答えはないが、このアプローチは交渉の戦略に大きな影響を与える。

(4)2020年12月の交渉期限の実現可能性についてどう思うか。

 これは、EUがこれまでに締結した最速の貿易交渉である。 EUが独占的責任を負う合意の領域は、欧州連合理事会が貿易協定を締結した時点で発効することができる。(「暫定適用(provisional application)」条項)。したがって、2020年を過ぎた英国とEUの将来の関係の形は、この段階ではまだ非常に不明であり、この困難なタイムテーブルのコンテキストで、取引不可のBrexitの可能性を捨てるべきではない。 EUと英国が2020年12月までに取引に合意できない場合、デフォルトの位置は移行期間の取引の有効期限切れのままであり、したがって、英国とEUの2つの国境の北アイルランドプロトコル、およびWTOとの貿易関係の条件に頼ることになる。貿易は今後の交渉の1つの要素にすぎず、市民の権利、防衛、安全保障協力などの他の問題も非常に重要であることは注目に値する。

*************************************************************

(注1) FIU(Financial Intelligence Unit)とは、マネー・ローンダリング情報の受理・分析・回付を行う単一の政府機関をいう。現在164か国が加盟。我が国は、2000年2月1日施行の「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)」(第5章)(疑わしい取引の届出」の諸規定)に基づき、金融庁に日本版FIUとして特定金融情報室が設置されたことを踏まえ、エグモント・グループ(Egmont Group)への加盟申請を行い、同年5月にパナマで開催された第8回会合において加盟が承認されました。なお、2007年4月の犯罪収益移転防止法の施行により、FIUの機能を国家公安委員会が担うことになったことに伴い、我が国は、同年5月にバミューダ諸島において開催された15回会合において、改めて、エグモント・グループへの加盟が承認されました。(警察庁 刑事局 組織犯罪対策部 組織犯罪対策企画課 犯罪収益移転防止対策室サイトから引用。リンクは筆者が独自に行った。)

  なお、第5章「疑わしい取引の届出」の諸規定(同法54条~58条)が「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(平成19年法律第22号)(犯罪収益移転防止法)第8条に移された。また、2014年の犯罪収益移転防止法改正(平成26年法律第117号)により「疑わしい取引」の判断方法の規定整備がなされた。さらに、2017年の組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法改正(平成29年法律第67号。同年6月21日公布)では、第6条の2として共謀罪の処罰規定が新設された。(日本大百科全書から抜粋、正式名称やリンクなどは筆者が行った)

(注2) EUROPIOLの“Secure Information Exchange Network Application (SIENA)”につき、概要を説明する。

 Europolのような情報交換を容易にし、それに依存する組織では、機密で制限されたデータを安全かつ迅速に送信することが不可欠である。Secure Information Exchange Network Application(SIENA)は、EUの法執行機関の通信ニーズを満たす最新のプラットフォームである。

 このプラットフォームは、運用上および戦略上の犯罪関連情報を以下の間で迅速かつユーザーフレンドリーに交換できるようにするものである。

① Europolの連絡係、アナリスト、専門家

② EU加盟諸国

③ Europolが協力協定を結んでいる第三者

(注3) “No 10”の意味は何を指すのか。簡単である。Prime Minister's Office, 10 Downing Street

すなわち、ダウニング街10番地に首相官邸がある。

(注4) 2018.11.16の政治宣言の改定前の「英政府、EUとの将来関係に関する政治宣言の概要など公表(英国、EU)」の解説をJETROが行っている。

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 「オーストラリア準備銀行(RBA)は、不動産暴落の懸念の中で不動産取引の「一時停止」を求めることを内々検討済」

2020-06-20 13:25:11 | 各国の中央銀行制度

 筆者の手元に6月18日付のABC newsが届いた。(注1)表題を読むだけでこれまで好調であったオーストラリアの不動産取引がCOVID-19の影響をもろに受けて急速に住宅価格の暴落の懸念がRBA内でも広がっており、政府財務省などが音頭を取って進めている「HomeBuilderプログラム(新しい住宅の建設または既存の住宅の大幅な改修を行った適格な所有者(最初の住宅購入者を含む)に25,000豪ドル(約1,833万円)の助成金を提供するもの)」の見直しに影響を与えたといった指摘も出始めている。

 今回のブログは、従来詳しく論じられていない準備銀行の内部実態に言及しつつ、わが国で積極的に活用されていない情報公開制度の具体的活用方法のアドバイスにも寄与させるべくまとめるものである。

 以下で、ABCnews記事の仮訳を行う。また、言うまでもなく筆者の責任で項目立てならびに関係データへのリンクや補足を行った。

 【6月18日のABC news記事のキーポイント】

・FOI(注2)の下で関係者が取得した6月17日に公開されたRBAの内部文書「COVID-19の住宅市場に与える影響(Impacts of COVID-19 om the housing market)」は住宅価格の急激な下落を警告する内容である。

・2020年4月、RBAのエコノミストが同僚に手紙を出し、緊急時に株式市場での取引が行われるように住宅市場を停止するよう求めた。

・建設業界の状況の悪化に関するRBA報告は、連邦政府(財務省)の「HomeBuilderプログラム」(注3)の発表に影響を与えた可能性がある。

1.オーストラリアの中央銀行RBAの開示請求に応じた内部文書の内容

 準備銀行のエコノミストは、連邦政府に不動産業界の閉鎖を要請し、コロナウイルスに触発された住宅市場の暴落の知見を回避するために、既成中古住宅の販売を「一時停止(shut down)」することを検討した。

 オーストラリアの中央銀行RBAの内部文書(2020.3.11に開示申請、6.17回答・公開 )(注4)には、「非常に制限的に公開する」とマークされた多くの文書が含まれており、住宅価格が15%まで下落する可能性があることも示唆されている。

 この内部レポートは、準備銀行が住宅、建設、不動産に結びついた数十億ドルと数百万の仕事と結び付けを示してきた、きわめて楽観的な(rosier)世論と矛盾している。

 公に発表された準備銀行の理事会の2020年5月5日の会議の議事録は、「新築住宅と既成住宅の両方の需要が低下した」と述べ、収入、信頼、人口増加は「長期にわたる新しい住宅の需要に影響を与えると予想された」と指摘した。

 しかし、主要な金利と経済の方向性を定めるRBAの内部資料では、警告はより明確でかつより厳格なものであった。

 「新築住宅の需要が大幅に減少していることが明らかになった」と、情報公開(FOI)の要請を通じて得られた経済担当副総裁補のルシ・エリス氏(注5)の講演ノートは述べた。

RBA副総裁補(経済担当)assistant governor (economic) ルシ・エリス(Luci Ellis) 氏

さらに同氏は、家の検査と売却の困難さを超えて、人々は仕事の安定性を心配している。

「新築契約は取り消されており、初期段階のバイヤーの関心は非常に弱く、パイプラインは空になっている」と指摘した。

「まだ開始されていないものは延期された」。

前記6月17日、「COVID-19リエゾンメッセージの更新」サイトではさらに厳しい警告があった。

「新築住宅の需要は2020年3月中旬以来大幅に減少しており、さらに減少すると予想されている」と述べ、また「売上高、問い合わせ、足の交通量の急激な減少[および]契約のキャンセル率の増加」を示した。(32頁以下)

住宅価格の急激な下落は、「高度な制限的情報」と記されたメモで予測され、本年4月18日に作成されている。以下で、主要部を抜粋する。

 「住宅価格は来年にかけて約7%下落すると予想されている。価格は予測期間中の2月の声明よりも約10%下がると予想されている」と読んで、これのほとんどを COVID-19による市場の信頼の欠如によるものである。

 銀行セクターの全体的なセキュリティと、住宅ローンの失敗を乗り切るその能力は、「強制販売と財政的ストレスによって引き起こされる価格の下落を緩和するであろう。

 最良のシナリオでは、住宅価格の下落はわずか2%になる可能性があるが、「マイナス面[最悪のシナリオ]では、価格は15%低下するであろう。」

2.RBA内部では不動産取引の閉鎖が検討された

 2020年4月、RBAエコノミストのニック・ガーヴィン(Nick Garvin)氏が同僚に手紙を送り、RBAは住宅市場が正常に機能しているかのように議論するのをやめ、緊急事態における株式市場の取引のように停止を呼びかけるべきであると警告した。

Nick Garvin氏

また同氏は、以下のとおり述べた。

「市場が現在機能しているかのように、規制当局が住宅価格について報告するのは危険だと思う。我々は市場を一時停止として分類し、一時停止前に観測された価格を現在の価格として扱うことを勧める。

この「一時停止」は活動がなかったことを意味するものではない、と彼は書き、「確かに、[政府]が既存の住居のすべての販売を一時的に停止することを勧めるのは賢明なことかもしれない。

不動産販売を停止すると、「状況は異なる」、通関率と平均価格の通常の報告は「誤解を招く」ものであるという声明が送信される。

「すべての販売を停止しなくても、不動産業者が正常に機能できなかったため、市場でのレポートの一時停止は「公正な分類」になる。我々が住宅市場の暴落を経験していると人々が誤って考え始めた場合、それは物事を助けることはできないであろう」とガーヴィン氏は付け加えた。

3.銀行がHomeBuilderスキームを促した可能性がある

RBAの建設状況の悪化に関する報告は、6月初旬の政府のHomeBuilderプログラムの発表に影響を与えた可能性がある。

「高度な制限的情報」とマークされたRBAの4月の報告で、次のとおり、準備銀行は業界が断崖を凝視していると警告した。

そこでは、「一部の建築業者や開発業者は、今後4〜6か月間十分な作業を行っているが、新しい住宅の需要の低迷と資金調達状況の潜在的な悪化は、将来の活動にマイナスのリスクをもたらすといえる。

メルボルンでは、RBAの連絡先の一部で、新築住宅販売数が半減した。

5月までに状況はさらに悪化した。「一戸建て住宅の建設業者は、現在のパイプライン(約4〜9か月)を超えて建設活動とキャッシュフローに影響を与える需要が弱いと予想している。彼らの融資は保守的である。

「ほとんどの企業は投資を延期またはキャンセルするつもりであり、多くの企業は従業員の労働時間を削減し(人員以上)、今後1年間に賃金凍結を実施することを期待する企業が増えている。」

一方、オーストラリアの投資調査会社であるSQM Researchの創設者であるLouis Christopher氏は、この文書は銀行が不動産市場に対して抱いている懸念の深さおよび新しい住宅の建設に雇用されている膨大な数の労働者を示していると語った。

Louis Christopher氏

    同氏はまた、「明らかに、RBAは4月初めの住宅市場を非常に懸念していた。

 RBAの懸念は、住宅投資の急激な落ち込みが彼らの主な懸念であったので、連邦政府が新しい住宅に最近の助成金制度である「HomeBuilderプログラム」を提供するように促したかもしれない。」と述べた。

 同スキームは6月3日に政府から発表された。

4.家の資産価値や住宅ローンは安全か?

 2020年5月、オーストラリア最大の銀行であるコモンウェルス銀行(CBA)は宅価格が「長引く不況」で32%低下する可能性があると警告した。

 オーストラリアの住宅ローンを他よりも多く保有しているコモンウェルス銀行は、「最悪の場合」のシナリオでは、住宅価格が今後3年間で2020年3月のピークからほぼ3分の1低下すると警告した。

 同銀行の最高経営責任者であるマット・コモン(Matt Comyn)氏は、ABC TVのThe Businessに対し、銀行は最悪の事態に備えなければならないと語った。

Matt Comyn氏

 同氏はまた、「慎重を期し、現実的な景気後退を考慮する必要があるが、最悪の場合のシナリオについても計画する必要がある。これにより、失業が持続的に増加する」と述べた。

 調査会社CoreLogicによると、住宅価格は2020年5月に低くなり、住宅ローンの「一時停止」(支払いの一時停止)に対する懸念が高まり、それは9月に終了するであろうと述べた。

 全国の住宅価格は平均0.4%下落したが、地域によって大きな変動があった。

 オーストラリアの14の住宅ローン会社のうち2以上の支払いが、現在主要銀行によって「一時停止」されている。

 これに関し、オーストラリア銀行協会(ABA)は、5月16日にこれまでに1,535億豪ドル相当の429,000件の住宅ローンに対する返済が保留(put on hold)されていることを明らかにした。

ABAサイトから引用

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(注1)今回の記事に関し、3月27日のABC news記事「2020.3.27 ABC news「Coronavirus pandemic could see house prices plummet by 20 per cent, economist warns」等も参照されたい。

(注2)FOIとはオーストラリアの情報公開法(Freedom of Information Act 1982 6/18(25):1982年施行)をいう。同法に基づく公的文書へのアクセスに関して、詳しくは情報コミッショナー(OAIC)サイトを参照。

(注3) 財務省のサイトで“Homebuilder Program”の概要を見ておく。

HomeBuilderは、新しい住宅の建設または既存の住宅の大幅な改修を行った適格な所有者(最初の住宅購入者を含む)に25,000豪ドル(約1,833万円)の助成金()を提供するものである。HomeBuilderは、新しい住宅の建設と改修の開始を奨励することにより、住宅建設市場を支援する。

居住している、または居住する予定の関連する州または準州政府が連邦政府との全国パートナーシップ契約に署名すると、HomeBuilderに申し込むことができる。いつ、どのように申請できるかに関する情報は、やがて関連する州または準州の収入課を通じて入手可能になる予定である。

なお、財務省サイトではさらなる詳しい建築支援制度について登録が可能である。

(注4) RBAは2020.3.11 Richard Evans( Mayer Brown LLPグループのロンドン在のパートナー)氏等から3月中旬以降の複数の要求に基づく情報公開に応じて公開、発出した。エヴァンズ氏の要求文書の主題は「Forecasting COVID-19 Confidence Effects on Housing Prices」(全88頁)であり、RBAの関係者の複数の作成文書からなる。

Richard Evans氏

(注5) ルシ・エリスを副総裁補(経済担当)につき「 Sydney Morning Herald紙」記事から抜粋、仮訳する。

準備銀行はルシ・エリスを副総裁補(経済担当)の役職に昇格させ、彼女を最初の女性にして中央銀行のチーフエコノミストとなる人物にした。彼女は副総裁補(経済担当)として、これまでの3人の準備銀行総裁が副総裁、次に総裁に昇格する前に務めた役職に就任したことになる。

副総裁補(経済担当)は、経済調査部門と経済監視部門の両方を運営し、各準備銀行の理事会に経済の最新情報を提示する。

エリス氏は2008年以来、銀行の金融安定部門の責任者として、住宅問題の主要な専門家の1人となり、不動産の空間的および財務的側面についてスピーチを行い、住宅に関する議会の調査で準備銀行を代表している。

 エリス氏はRBAを代表して対外的なスピーチを行っている。例えば、2019.3.26  Housing Industry Association主催朝食会でのSpeech「オーストラリアの家計において何が増え、何が減少しているか(What's Up (and Down) With Households?) 」があり、全部Audioおよび資料が閲覧可。参考までに主な項目を挙げておく。

労働市場の変化、部門別雇用状態の変化、賃金物価、家計の消費・収入の成長、消費者支出の変化、人件費の変化、賃金の増加と労働市場の転覆、家計の可処分所得の推移、政府支出の推移、家計の収入と税額推移、最近時の金融政策と消費対策の減少等

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オーストラリアの消費者擁護団体やACCCが行った水に流せる使い捨てシートによる下水施設の「ファットバーグ」の原因追及と製造企業の広報活動の在り方をめぐる告発の動向

2020-06-16 17:06:44 | 消費者保護法制

 6月15日、筆者の手元にオーストラリアの公正取引委員会や消費者庁に該当する連邦機関であるACCCからリリース「ACCCのKleenex Cottonelle ‘flushable’ wipes(きれいに流せる 使い捨てシート)に対する連邦最高裁判所への控訴が却下」が届いた。
 すなわち、わが国の一般家庭などでごく使用されている水に流せる使い捨てシートによる下水施設の「ファットバーグ(fatbergs)」(台所から流された油脂や、トイレから流された衛生用品などが、下水管の中で固形化してできた硬い塊)として知られている家庭や地方自治体の下水道の閉塞の原因となる不適切な製品がトイレに流されるときに重大な影響が生じる問題にもかかわらず、広報活動や製品表示にあたり消費者の誤解を招いているという問題の裁判の経緯が中心である。(注1)(注2)

 この問題は英国等でも大問題(注2-2)となっており、例えば英国西ロンドンでは10トンの塊が発見されたと報じられている。また今回の最高裁判所の判決に関してはオーストラリアの水道事業の最高機関であるオーストラリア水道協会(Water Services Association of Australia:WSAA)は、キンバリークラークオーストラリア社に対する訴訟でオーストラリア競争消費者委員会の控訴を却下したという連邦最高裁判所の6月15日の判決に失望したと述べている。(注3)

 そこでこの問題のこれまでの経緯を調べるべくACCCサイトなどを丁寧に検索していたが、改めてオーストラリアの消費者擁護団体のCHOICEの地道なテスト結果などがその背景にあることが判明した。

 したがって、今回のブログは(1)CHOICEサイトから「トイレの流せるシート」で検索した結果の中で、2016年6月15日の報告の内容の紹介(注4)、(2)ACCCのこの問題への取組みやこれまでの裁判経緯、(3)米国の製造メーカーであるキンバリー・クラーク(Kimberly Clark )やグローバルな業界団体の取組みについて主なポイントを概観する。

1.そのまま流せる使い捨てシートのきわめて疑わしい(Shonky)歴史とCHOICEの調査・試験結果

 2015年CHOICEは、織り込まれたKleenex Cottonelle の製品であるCleansing Clothが「トイレットペーパーのように」分解したという主張に対して、キンバリー・クラークにきわめてうたがわしい賞を授与した。残念ながら、製品をテストしたときはそうではなかった。トイレットペーパーと一緒に攪拌機でシートを動かし、20時間後、使い捨てシートは無傷で、すぐに崩壊したトイレットペーパーとは明らかに異なった。

 CHOICEの社内テストは、オーストラリア周辺の消費者と廃水施設が我々に言っていることを裏付けている。すなわち、そのまま流せる使い捨てシートは壊れず、パイプを詰まらせる可能性がある。実際、この問題は、オーストラリアの廃水産業にそのまま流せる使い捨てシートによって引き起こされた詰まりを解消するために、年間1,500万豪ドル(約11億2,200万円)(そしてますます増大している)の費用がかかると推定されている。

(1)「ファットバーグ」問題の原因となる流せる使い捨てシート
 下水パイプの閉塞原因のなんと75%は、業界用語「ファットバーグ」(台所から流された油脂や、トイレから流された衛生用品などが、下水管の中で固形化してできた硬い塊)によって引き起こされると考えられている。
2015年の最初のテストの時点で、キンバリークラークは、織られたシートは、洗浄後に下水道を通過するときに強度を失い、壊れるという技術により洗浄可能であると述べた。またキンバリー・クラークのスポークス・パーソンは、米国とヨーロッパの主要なワイプ業界団体である「Association of the Nonwoven Fabrics Industry: INDA」EDANAによって策定されたガイドラインを使用して製品の洗浄性をテストしたと付け加えた(現時点では、オーストラリアはそのまま流す方式に関するコンプライアンス・ガイドラインを持っていない)。

(2) Kleenexは以前の製品を支持しているが、一方で新製品は「業界基準のコンプライアンスを超えている」と主張している。

 そのため、我々は少し混乱している。(彼らが言っているように)すでに機能している製品をなぜ今改革するのか?CHOICEはキンバリー・クラークに問い合わせて尋ねた.。すなわち「私たちの前世代のそのまま流せるシート製品はすでに現在のINDAおよびEDANAのそのまま流せるガイドラインを満たしているが、そのコンプライアンス・ガイドラインを超える品質とパフォーマンスを改善する革新的な方法を継続的に検討しているということか。」

 同社はまた、洗浄可能な製品の新しいグローバル業界標準(新しいISO標準)の開発に関して廃水当局および業界団体とも協力しており、完成後は彼らの洗浄可能な製品が要件を満たすことを確信している。

 この説明は、一見良さそうに聞こえるが、本当の証拠は以下で説明する通り、撹拌機を使った固形化テスト、個別テスト結果にある。

 我々の「CHOICEテスター」は、古いモデルとトイレットペーパー(当然のことながらKleenex)に対して新しいKleenexそのまま流せるシートを実行して、この新製品が本当に安全にフラッシュできるかどうかを確認することにした。 

(3)CHOICEが行ったテスト内容
 オーストラリアで最大の上下水道サービスを行っている事業体である“Sydney Water”が提供する攪拌機装置で4つのサンプル製品をテストした。

サンプル1:クリーネックス コットンエル 流せるトイレシート(2015年テスト済製品) (2枚)

 

サンプル2: キルトンゴールド4枚入りトイレットペーパー(8枚)
サンプル3:クリーネックス・クリーンリップルそのまま流せるシート(2枚)
サンプル4:クリーネックス・クリーンリップルそのまま流せるシート(2枚)

4つの製品を同時にテストし、それぞれを別個の容器に入れ、攪拌速度を100rpmに設定した攪拌装置で21時間試験した。

Choiceのテストの動画サイト

 サンプル1、2および3については、攪拌機を21時間連続的に作動させたままにした。
 サンプル4の新製品については、攪拌機を1分後、5分後、そして1時間後に再び停止した。サンプルは、水からシートを取り除き、引張力と完全性(つまり、どれだけ簡単に手で引き離し、どれだけ動揺の下で分裂したか)をテストすることによって、各段階で調べた。1時間のマークでの検査の後、サンプルは攪拌機に戻され、その後、およそ21時間連続して実行されたままであった。

(4) テスト結果で明らかになったこと

サンプル1:オリジナルの織りクリーネックスの流せる使い捨てシート
攪拌中に2つまたは3つの大きな断片に分離したが、水は本質的に透明なままであった。21時間後に水から取り除くと、手で小さな断片に容易に引き離されることがわかった。しかし、シート自体は、障害物に引っかかったり、下水道の閉塞を引き起こす可能性がある十分な構造的完全性と大きさを保持していた。

サンプル2:キルトンゴールド・トイレットペーパー

数分以内にほぼ完全に崩壊した。いくつかの非常に小さな塊は、攪拌機の腕とパドルに残り、これらは水から取られたときに非常に簡単に分解した。水は不透明な乳白色になった。

サンプル 3 および 4: クリーネックス クリーンリプル 流せる使い捨てシート

新しいタイプのシートは、前世代の使い捨てシートよりもはるかに容易かつ迅速に攪拌の下で分解したが、サンプル2(トイレットペーパー)よりもはるかにゆっくりと、はるかに小さな程度に分解した。

サンプル3は、1時間以内にいくつかの小さな断片といくつかの大きな断片に分解しました。その結果、水はわずかに乳白色になった。21時間後、大きな断片は手で非常に簡単に分解することが判明した。

サンプル4は、多くの小さな断片といくつかの大きな断片に分解した。水はサンプル3よりもやや乳白色になった。サンプル3と4の結果の差は、サンプル4の試験の早い段階での手動介入に起因し、そのシートが早く分解されることにつながる可能性がある。1分と5分のマークでは、いくつかの断片化が発生し、サンプルは非常に簡単に手で引き裂かれたが、本質的には大きな部分にとどまった。1時間のマークでは、さらなる断片化が起こり、サンプルは手で引き裂くのがさらに簡単であったが、いくつかの大きな部分が残り、シートの1つはほとんどそのまま残っていた。21時間後、より大きな断片を取り除き、手で非常に簡単に分解することが判明した。

 しかし、シートのより大きな断片は、まだ潜在的に障害物に引っかかるのに十分な引張強度、完全性、サイズを保持していた。このようなシートが定期的にトイレに流された場合、時間が経つにつれて、断片が下水道システムの閉塞を形成する可能性がある。

(5) シドニー・ウォーターの見方
 シドニー・ウォーター(Sydney Water)(オーストラリアで最大の上下水道サービスを行っている公共事業体)は、排水システムに与えた損傷のために、何らかの形で流せる使い捨てシートの原因関係を注視しているが、キンバリー・クラークの「改良された製品と包装イニシアチブ」を認めていると述べた。
 浴室製品によって引き起こされる閉塞は、数年前からオーストラリア全土の水道事業者とその顧客にとって大きな問題となっています。「これらの製品が排水システムで引き起こす問題に対処するには、毎年コミュニティに数百万ドルの費用がかかります」と、シドニー・ウォーターのスポークスマンは声明で述べた。

 CHOICEは今、流せるシートの製造および小売業界の残りの部分に、キンバリー・クラーク/クリーネックスの肯定的なリードに迅速に従い、顧客と都市の排水システムの両方に適したより明確な包装ガイドラインと製品の開発にコミットすることを求めている。したがって、新しいクリーネックスシートは安全に流せるか?

 我々のテスト結果に基づいて、CHOICEは、“Kleenex CleanRipple Flushable Wipes”
 は、下水道管で数時間後に実質的に分解する可能性が高いが、特にトイレを流してから消費者自身の財産のパイプを出す初期段階で、十分な引張強度と大きさを保持するのに十分な引張強度と大きさを保持するのに十分なゆっくりと分解すると結論付ける。

 キンバリー・クラークにとって今回の新製品は正しい方向への一歩ですが、これらの製品をきれいに流せると呼ぶのはまだ課題がある。

 “Kleenex CleanRipple Flushable Wipes”は、以前のバージョン(Kleenex Cottonelle Flushable Cleansing Cloths)よりも洗い流すうえで安全であると言うのは妥当かもしれないが、トイレットペーパーが簡単に流れるシートに準拠する必要がある場合、“Kleenex CleanRipple Flushable Wipes”は完全に安全であるとは考えられない。

 したがって、CHOICEは、きれいに流れることができるものと、どのようにラベル付けされるべきかについて、全国的に合意された標準の開発を待つ間, Choiceのアドバイスは、安全にそれを再生できるため、すなわち トイレに流す必要があるのは「おしっこ、うんち、トイレットペーパー(‘pee, poo and toilet paper’.)」の3つのPのみであることである。

2.ACCCの連邦裁判所合議体はACCCによる控訴を却下問題の解説
 ACCCリリース文仮訳する。なお、必要に応じ筆者の責任で最高裁判決文等へのリンクや補足を行った。

〇連邦最高裁判所は被告“Kimberly-Clark Australia Pty Ltd(Kimberly-Clark)”は、そのKleenex Cottonelle Cottonelle toilet wipes(トイレで流せる使い捨てシート)がそのまま流せるであるという虚偽の誤解を招く主張をはなかったと認定した。6月15日の判決原文参照。
 ACCCは、裁判においてこれらの製品に「そのまま流せる」という表示ラベルを付けることにより、消費者はKleenexワイプ製品がトイレットペーパーと同様の特性を持ち、同様の時間枠で分解または崩壊できると考えていると主張した。
また、ACCCは、「ファットバーグ(fatbergs)」(台所から流された油脂や、トイレから流された衛生用品などが、下水管の中で固形化してできた硬い塊)として知られている家庭や地方自治体の下水道の閉塞の原因となる不適切な製品がトイレに流されるときに重大な問題に直面するオーストラリアの上下水当局からの証拠に依存した。

 2019年、連邦裁判所の裁判官はACCCの訴訟を却下し、キンバリークラークに対する訴訟を証明するために、ACCCは実際に、“Kleenex Wipes”が特定の事例で実際の害を引き起こしたか、またはそれに貢献したことを証明するよう求められた。

 ACCC委員長のロッド・シムズ(Rod Sims)は「我々は、消費者が購入する製品の本質について誤解されているのではないかと懸念しており、また、流せるシートなどの不適切な製品がトイレに流された結果としてオーストラリアの水道当局から報告されている問題が増えているため、これらの手続きをおこなった 」と語った。

2019年の控訴に関して、ACCCは、裁判官が実際の危害を要求することにより誤りを犯し、流用可能な表現が虚偽であるか誤解を招くものであるかを決定する際にACCCの証拠全体を検討することに失敗したと主張した。

シムズ委員長は「我々は、クレームが誤解を招くものであることを立証するために実際の危害の証拠が必要かどうかについて、連邦裁判所に説明を求めた。しかし、我々が訴訟を起こしたことがこの問題に注目し、流せるシートを流すことにより、上下水道システムに重大な障害が発生し、設備や環境に害が生じ、水道管にファットバーグを取り除くために多大なコストがかかることを消費者に認識させたことを嬉しく思う。今回の判決において、連邦最高裁判所はこの懸念を認識し、「封鎖とファットバーグは、家庭や地方自治体の下水道当局にとってますます問題となっている問題を提起しており、 1つの対応は、「きれいに流れる」として販売または販売できるものとできないものの特性を管理する法律または基準を導入することである。」と指摘した。

 オーストラリアの上下水当局は、流水量に関するオーストラリアの基準の開発を主導している。この基準が確定するまで、水道当局や配管工からの強いメッセージは、トイレに流す必要があるのは「おしっこ、うんち、トイレットペーパー」の3つだけであることである。
 ACCCは、なお慎重に裁判所の決定を受けて検討している。

〇連邦裁判所のACCCの裁判経緯
 2016年12月12日、ACCCは連邦裁判所でキンバリークラーク・オーストラリアPty Ltd(キンバリークラーク)に対して手続きを行い、ペンタル・リミテッドとペンタル・プロダクツ・プティ・リミテッドに対して別々に手続きにおいて、オーストラリアで販売および供給された「簡単にきれいにながせる」使い捨てシートに関連して虚偽または誤解を招く表現を行ったと主張した。
 2019年6月28日、連邦裁判所の判決キンバリー・クラークの「オーストラリア製」の表現が誤解を招く可能性があることを除いて、ACCCの事件の大半を却下した。
 2019年7月26日、ACCCは誤解を招く表現に対する危害の証拠に関する連邦裁判所の決定に対して控訴した。
キンバリークラークは2016年5月にクリーネックスワイプの供給を中止した。ACCCの手続きは、2013年5月から2016年5月の間に販売されたクリーネックスワイプにのみ関連している。キンバリークラークはその後、新しい「簡単にきれいにながせる」ワイプ製品を導入した。
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(注1) 筆者が見る限りACCCのこのような説明は1.で述べたとおりCHOICEの具体的な試験結果などを受けた結果を無視している記述である。この点については筆者として改めてACCCおよびCHOICEに質問状を送る予定である。

(注2) ファットバーグ(fatbergs)問題につきわが国の問題意識はいかがであろうか。筆者が調べた範囲では東京都下水道局の以下の注意喚起のみであった。
~下水道に油を流さないで!~ キャンペーンのお知らせ
下水道局では、油を断って快適な下水道にするため、お皿や鍋を洗う前に油汚れをふき取るように、お客様へお願いしています。
 下水道に油を含んだ排水を流すと、流れた油は下水道管内で冷えて固まり、詰まりや悪臭の原因になります。また、大雨が降ると、下水道管内に付着していた油の塊(オイルボール)がはがれ、川や海へ流れ出して汚してしまうことがあります。川や海の良好な水環境を保つため、お皿や鍋についた油汚れは、洗う前にふき取りましょう。

(注2-2)2019.4.23 ニューズウィーク日本語版「下水管に住みつくモンスター『ファットバーグ(油脂の塊)』退治大作戦 」等を参照されたい。

(注3) 2020.6.15 オーストラリア水供給協会Water Services Association of Australia (WSAA)
オーストラリアの水道事業の最高機関であるオーストラリア水道協会(WSAA)は、キンバリークラークオーストラリア社に対する訴訟でオーストラリア競争消費者委員会の控訴を却下したという連邦最高裁判所の6月15日の判決に失望したと報じている。

WSAAサイトの写真:fatberg' 

(注4) Choiceのサイトで”toilet wipes flushable”を検索すると20以上の結果が出てくる。今回は時間の関係で2016年6月16日のレポートのみを引用した。
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