Financial and Social System of Information Security

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欧州委員会がEUのマネーローンダリング防止とテロ資金供与対策規則強化のための4つの立法案の提示、欧州銀行監督局がAML/CFTコンプライアンス担当役員向け新しいガイドラインに関する公開意見聴取を開始

2021-08-07 17:04:05 | EUの金融監督制度

 欧州委員会は7月20日、EUのマネーローンダリング防止およびテロ資金供与対策(AML / CFT)規則を強化するための野心的な4つの立法案のパッケージを提示した旨リリースした。

 すなわち、(1)新しいEUAML / CFT機関を設立する規則案、(2)顧客のデューデリジェンスおよび実質的所有者の分野を含む直接適用可能な規則を含むAML / CFTに関する規則案、(3)AML / CFTに関する第6次指令案(「AMLD6」)。(既存の指令2015/849 / EU(第5次AML指令によって修正された第4次AML指令)に代わるもので、加盟国の国家監督者および金融インテリジェンスユニットに関するもの、(4) 暗号資産の移転を追跡するための資金移転に関する2015年規則の改訂案(規則2015/847 / EU)である、

 これを受け、欧州銀行監督局(EBA)は8月2日、マネーロンダリング防止とテロ資金供与(AML/CFT)コンプライアンス担当者用の役割、タスク、責任に関する新しいガイドラインに関する公開意見聴取(public consultation)を開始した。

 このガイドラインには、グループのレベルを含む、より広範なAML /CFTガバナンスの設定に関する規定も含まれている。ガイドラインが採択後、本ガイドラインは、AML指令の範囲内にあるすべての金融セクター事業者に適用される。この聴取期間は2021年11月2日までである。

 今回のブログは、(1)欧州委員会のAML/CFTの強化にかかる立法規則等4つのパッケージの内容、(2)欧州銀行監督局(EBA)が8月2日に行ったマネーロンダリング防止とテロ資金供与(AML/CFT)コンプライアンス担当者用の役割、タスク、責任に関する新しいガイドラインに関する公開意見聴取(public consultation)の開始について概観する。

 Ⅰ.欧州委員会はEUのマネーローンダリング防止およびテロ資金供与対策(AML / CFT)規則を強化するための野心的な立法案のパッケージを提示

 7月20日の欧州委員会のリリース内容を概観、仮訳する。

 欧州委員会は7月20日、EUのマネーローンダリング防止およびテロ資金供与対策(AML / CFT)規則を強化するための野心的な立法案のパッケージを提示した。このパッケージには、マネーローンダリングと戦うための新しいEU監督当局の創設に関する提案も含まれている。このパッケージは、マネーロンダリングやテロ資金供与からEU市民とEUの金融システムを保護するという欧州委員会の取り組みの一環である。「2020年から2025年までのEUの安全保障連合戦略(Security Union Strategy for 2020-202)」で想起されたように、マネーローンダリング防止とテロ資金供与に対抗するためのEUの枠組みを強化することは、ヨーロッパ人をテロや組織犯罪から保護するのにも役立つものである。

 今回の措置は、技術革新に関連する新たな新たな課題を考慮に入れることにより、既存のEUフレームワークを大幅に強化することにある。これらには、仮想通貨、単一市場におけるより統合された資金の流れ、およびテロ組織のグローバルな性質が含まれる。これらの提案は、AML / CFT規則の対象となる事業者、特にアクティブな国境を越えた事業者のコンプライアンスを容易にするために、はるかに一貫性のあるフレームワークを作成するのに役立つ。

 本日公表した立法パッケージは、以下の4つの規則案で構成されている。

(1)新しいEUAML / CFT機関を設立する規則案

(2)顧客のデューデリジェンスおよび実質的所有者の分野を含む、直接適用可能な規則を含むAML / CFTに関する規則案

(3)AML / CFTに関する第6次指令案(「AMLD6」)。既存の指令2015/849 / EU(第5次のAML指令によって修正された第4次AML指令)に代わるもので、加盟国の国家監督者および金融インテリジェンスユニットに関するものである。

(4) 暗号資産の移転を追跡するための資金移転に関する2015年規則の改訂案(規則2015/847 / EU)

○主要項目を以下具体的に述べる

(1) 新しいEUAML機関(AMLA)の設置案

 本日の立法パッケージの中心にあるのは、EUにおけるAML / CFTの監督を変革し、金融インテリジェンス・ユニット(FIU)(注1)間の協力を強化する新しいEU監視当局の創設である。新しいEUレベルのマネーロンダリング防止機関(AMLA)は、民間部門がEUの規則を正しく一貫して適用することを保証するために、域内当局を調整する中央機関になる。 またAMLAは、FIUが違法な流れに関する分析能力を向上させ、金融インテリジェンスを法執行機関の主要な情報源にすることをサポートする。

 特に、AMLAは次のことを行う。

①一般的な監督方法と高い監督基準の収束に基づいて、EU全体でAML / CFT監督の単一の統合システムを確立する。

②多数の加盟国で運営されている、または差し迫ったリスクに対処するために即時の行動を必要とする最もリスクの高い金融機関のいくつかを直接監督する。

③他の金融機関に責任のある国内監督者を監視および調整し、非金融機関の監督者を調整する。

④国境を越えた性質の違法な金融フローをより適切に検出するために、国内の金融インテリジェンスユニット間の協力をサポートし、それらの間の調整と共同分析を促進する。 

(2)AML / CFTのための単一のEUルールブック作成

 AML / CFTの単一EUルールブックは、EU全体でAML / CFTルールを調和させる。これには、たとえば、顧客のデューデリジェンス、実質的所有者、監督者および金融インテリジェンスユニット(FIU)の権限とタスクに関するより詳細なルールが含まれる。 銀行口座の既存の国内登録簿が接続され、FIUが銀行口座と貸金庫に関する情報にすばやくアクセスできるようになる。また欧州委員会は、法執行当局にこのシステムへのアクセスを提供し、金融調査と国境を越えた事件における犯罪資産の回収をスピードアップする。 金融情報へのアクセスは、金融情報の交換に関する指令(EU)2019/1153の強力な保護措置の対象となる。 

(3)EU AML / CFTルールの暗号セクターへの完全な適用

 現在は、特定のカテゴリの暗号資産サービスプロバイダーのみがEU AML / CFTルールの範囲に含まれている。今回提案された改革案は、これらのルールを暗号セクター全体に拡張し、すべてのサービスプロバイダーが顧客に対してデューデリジェンスを実施することを義務付ける。

 今回の修正案は、ビットコインなどの暗号資産転送の完全なトレーサビリティを保証し、マネーローンダリングまたはテロ資金供与のためのそれらの可能な使用の防止と検出を可能にする。さらに、匿名の暗号資産ウォレットは禁止され、EU AML / CFTルールが暗号セクターに完全に適用される。

(4)巨額の現金支払いに対するEU全体の制限を一律10,000ユーロ(約130万円)以上とする。

 取引を検出されることは非常に難しいため、多額の現金支払いは、犯罪者がマネーロンダリングを行う簡単な方法である。そのため、欧州委員会は本日、多額の現金支払いに対してEU全体で10,000ユーロの制限を提案した。

 このEU全体の制限額は、法定通貨としてのユーロに疑問を投げかけることのないほど高く、現金の重要な役割を認識している。制限はすでに加盟国の約3分の2に存在するが、金額は異なる。10,000ユーロ未満の国内制限はそのまま維持できる。巨額の現金支払いを制限すると、犯罪者が汚れたお金をロンダリングすることが難しくなる。さらに、匿名の銀行口座がEU AML / CFT規則によってすでに禁止されているのと同様に、匿名の暗号資産ウォレットの提供も禁止される。 

(5)ハイリスク第三国との関係

  世界的なマネーロンダリングおよびテロ資金供与の監視機関である金融活動タスクフォース(FATF)(注2)は、各国に勧告を出す。 FATFにリストされている国は、EUにもリストされる。 FATFのリストを反映して、「ブラックリスト」と「グレーリスト」(注3)の2つのEUリストがある。リスト上場後、EUは国がもたらすリスクに比例した措置を適用する。また EUはFATFにリストされていないが、自律的な評価に基づいてEUの金融システムに脅威を与える国をリストすることができる。

 欧州委員会とAMLAが使用できるツールの多様性により、EUは、急速に進化するリスクを伴う、急速に変化する複雑な国際環境に対応できるようになった。

○次のステップ

 立法案は、欧州議会と理事会で議論される予定である。欧州 委員会は、迅速な立法プロセスを楽しみにしています。 将来のAML機関は、2024年に運用可能になるはずであり、指令が置き換えられ、新しい規制の枠組みが適用され始めたら、少し遅れて直接監督の作業を開始する予定である。 

Ⅱ.欧州銀行監督局(EBA)は8月2日、マネーロンダリング防止とテロ資金供与(AML/CFT)コンプライアンス役員の役割、タスク、責任に関する新しいガイドラインに関する公開意見聴取(public consultation)を開始

 欧州銀行監督局(EBA)は8月2日、マネーロンダリング防止とテロ資金供与(AML/CFT)コンプライアンス担当者用の役割、タスク、責任に関する新しいガイドラインに関する公開意見聴取(public consultation)を開始した。

 ガイドライン草案には、グループのレベルを含む、より広範なAML /CFTガバナンスの設定に関する規定も含まれている。本ガイドラインが採択された後、本ガイドラインは、AML指令の範囲内にあるすべての金融セクター事業者に適用される。この意見聴取期間は2021年11月2日までである。

 このガイドライン草案は、以下のとおりEUレベルで初めて包括的に取り組み、AML/CFTガバナンス全体の設定に取り組んでいる。(1)AML/CFTコンプライアンス・オフィサーと管理機関の役割、(2)任務、(3)責任、および(3)グループレベルを含む彼らがどのようにやり取りするかについて明確な期待を示した。AML/CFTコンプライアンス担当者は、管理機関に対する内部AML/CFT措置の遵守と有効性を確保するために、自らイニシアチブで提案する権限を必要とする十分なレベルの年長者である必要がある。

 また、管理機関の全体的かつ集団的責任を損なうことなく、管理委員会のメンバー、または管理委員会が存在しない場合は上級管理職、AML/CFT全体を担当するシニアマネージャー、およびグループAML/CFTコンプライアンス・オフィサーの役割についても指定する。管理機関に届く情報は、情報に基づいた意思決定を可能にするために十分に包括的である必要があるため、AML/CFTコンプライアンス責任者の管理機関への活動報告書に少なくともどの情報を含めるべきかを定めたガイドライン案である。

 金融サービス事業者がグループの一員である場合、ガイドライン草案は、効果的なグループ全体のAML/CFTポリシーと手順の確立と実施を確実にし、グループ全体またはグループの大部分に影響を与えるAML/CFTフレームワークの欠点が効果的に対処されるように、親会社のグループAML / CFTコンプライアンスオフィサーを任命する必要があることを規定している。

 ガイドライン草案の各規定は、AML指令の範囲内にある金融セクター事業者の多様性を考慮して、比例して適用されるように設計されている。また、既存のESAガイドライン、特に自己資本要求指令(CRD)に基づく内部ガバナンスに関する改訂ガイドライン、管理機関のメンバーの適合性の評価に関する改訂されたESMA(European Securities and Markets Authority およびEBA共同ガイドライン、信用機関の認可に関するガイドラインの草案、監督レビューおよび評価プロセス(Supervisory review and evaluation process :SREP )(注4)および監督ストレス・テストのための一般的な手順と方法論に関するガイドラインの草案に沿っている。

(2)公開意見聴取のプロセス・手順

 ガイドラインの下書案へのコメントは、EBAの相談ページの「コメントを送信」ボタンをクリックして送信することができる。コメントの提出期限は2021年11月2日である。

 受け取ったすべての意見は、特に要求されない限り、協議の終了後に公表される。

また、EBAは、パリ時間で2021年9月28日10:00から12:00まで、ガイドライン草案に関する仮想公聴会を開催する。ダイヤルインの詳細は、会議に登録した人に通知される。

(3)ガイドライン策定の法的根拠と背景

EBAは、EU金融セクターのML/TFに対する戦いをリードし、調整し、監視するという法的義務に沿って、これらのガイドラインを起草した。

 これらのガイドラインを作成するに際して、EBAは「2019年超国家リスク評価(SNRA)」で欧州委員会の要請を満たし、今般「信用および金融機関におけるAML/CFTコンプライアンス・オフィサーの役割を明確にする」ガイダンスを策定した。

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(注1)AMLには、犯罪捜査の側面があるため、金融監督当局の間のみならず、警察や検察のような法執行機関を含む幅広い当局の間の連携が欠かせない。金融機関などから報告された疑わしい取引の情報は、金融情報ユニット(FIU)と呼ばれる組織が受理し分析する。金融機関等は、顧客との関係において疑わしいと認められる取引をFIUに報告することになっている。FIUは法執行機関に分析した情報を提供するとともに、情報の報告者に対して、分析結果をフィードバックすることになっている。 FIUは、EU加盟国毎に設立形式が異なり、組織の多様性が認められる。加盟国によっては、FIUが中央銀行、財務省、内務省、警察当局等の一部門であったり、独立組織の形態をとっていたりする注11。国境を越えたマネロンの多さから、異なる加盟国におけるFIU間の連携は必須である。ユーロポールは、各国のFIUが情報交換を行うためのオンラインプラットフォーム(FIU.net)を16年初から運用し、協力関係の促進を図っている。(金子 寿太郎 (一財)国際貿易投資研究所 客員研究員「6 マネロン対策にかかるEUの包括的な改革方針~欧州委員会はEU機関の創設やルールの一元化を展望~」から一部抜粋。下図も含む。

(注2) わが国の”FATF”の訳語に異議あり。金融庁のほか「金融作業部会」と訳している。

しかし、これでは活動の実態が把握できない。例えば、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策監視・勧告機構」というべきであろう。

 これに似た誤った訳語の例としてかつてのEUの加盟国のデータ保護部門の代表からなる”Article 29 Working Party”(欧州データ保護会議の前身)であろう。わが国では「データ保護指令第29条作業部会」や「第29条作業部会」といった訳語が一般である。しかし、筆者は長年その任務や役割から見て「EUデータ保護指令第29条専門家会議」と訳してきた。筆者ブログ等参照。

(注3)監視が強化されている管轄区域は、マネーロンダリング、テロ資金供与、および拡散資金調達に対抗するための体制の戦略的欠陥に対処するために、FATFと積極的に協力している。 FATFが管轄区域を監視の強化下に置く場合、それは国が合意された時間枠内に特定された戦略的欠陥を迅速に解決することを約束し、監視の強化の対象となることを意味する。このリストは、外部から「グレーリスト」と呼ばれることがよくある。

(注4)EU内の銀行は2018年の監督上の検証・評価プロセス(Supervisory Review and Evaluation Process(SREP))を受け、2019年3月以降、維持すべき健全な資本要件に関する欧州中央銀行(ECB)の決定について通知を受けている。

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このため、その内容のチェックを含め完全なリンクのチェック、確保に努めてきた。

3.上記2.のメンテナンス作業につき従来から約4人態勢で当たってきた。すなわち、海外の主要メディア、主要大学(ロースクールを含む)および関係機関、シンクタンク、主要国の国家機関(連邦、州など)、EU機関や加盟国の国家機関、情報保護監督機関、消費者保護機関、大手ローファーム、サイバーセキュリテイ機関、人権擁護団体等を毎日仕分け後、翻訳分担などを行い、最終的にアップ時に責任者が最終チェックする作業過程を毎日行ってきた。

 このような経験を踏まえデータの入手日から最短で1~2日以内にアップすることが可能となった。

 なお、海外のメディアを読まれている読者は気がつかれていると思うが、特に米国メディアは大多数が有料読者以外に情報を出さず、それに依存するわが国メデイアの情報の内容の薄さが気になる。

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英国公正取引庁は金融界が取りまとめた 電子決済処理の改善内容を評価

2010-10-22 17:46:17 | EUの金融監督制度



 2005年12月16日、英国の公正取引庁(Office of Fair Trade:OFT)(注1)は、電話やインターネットを介したエレクトニック・バンキング決済の現行の3営業日後から即日決済への改正につき、金融界が中心となった検討グループ作業部会(Task Force)が取りまとめた結果について歓迎する意向を表明した。(なお、同作業部会は2007年2月、「最終報告(Final report of the Payment Systems Task Force)」を発表している)

 今注目したいのは、「決済システムに係る専門員会(The Payment Systems Task Force )」(注2)を中心にこのような産業界、消費者、業界段階が協調的にサービスの改善に取り組んでいることであり、わが国でもインターネット・バンキングやオンライン・トレードの更なるサービスやセキュリティ向上に向けた同様の検討が期待される観点から紹介する。

 現行の決済システムは次のような過程を経て行われている。大手電子決済会社BACSの例で見る。(注3)
*1営業日目・・支払指図の入力・BACSセンター受信(月曜日から金曜日の間で午前7時から午後10時30分の間)。指示内容の有効性チェックとセキュリティ・チェックが行われる。
*2営業日目・・処理日。支払指図電文が受益者の取引銀行に午前6時までに送信。
*3営業日目・・入金日。イングランド銀行 にある金融機関の決済口座での決済。一般的に当日中に金融機関は口座残高を解放する。

 2005年5月に金融実務界の適用検討グループは、現行の3営業日後の決済から同日決済の検討に着手していたが、OFTの長官のこのほどの説明は金融界の努力により2007年末までにリアルタイム、365日、24時間というかたちでこれらの決済サービスが可能となることは極めて喜ばしいことであると述べている。

**************************************************************************************:
(注1)OFTは、わが国で言うと内閣府の外局である公正取引委員会、内閣府、さらに現国会に上程されている「改正消費者信用法」が成立した場合はクレジット会社や消費者信用機関の免許権が付与される機関に相当するもので、金融サービス機構(FSA)のような金融監督機関の性格を兼ね備えた政府から独立した独立行政機関である。
 従来の基本的な機能は、①カルテルや市場占有力の濫用の禁止・処罰等の具体的行動・処罰、②前記①を実行ならしむため必要に応じ裁判手段を利用、③企業の実践的行動規範(codes of practice)等による自主規制を奨励するなどの行動、④企業活動において、企業や消費者の競争的な環境が法律等に準じたものとなっているかの調査、⑤消費者の利益が大規模に犯されているとする消費者団体の苦情への対応、⑥消費者への権利・義務等についての情報提供、等である。
 従来の基本的な機能は、①カルテルや市場占有力の濫用の禁止・処罰等の具体的行動・処罰、②前記①を実行ならしむため必要に応じ裁判手段を利用、③企業の実践的行動規範(codes of practice)等による自主規制を奨励するなどの行動、④企業活動において、企業や消費者の競争的な環境が法律(「2002年公正取引庁改組等競争法強化・破産法改正・消費者保護強化に関する法律(Enterprise Act 2002)」等に準じたものとなっているかの調査、⑤消費者の利益が大規模に犯されているとする消費者団体の苦情への対応や競争委員会への付託(reference)ならびに消費者信用免許の取消等 、⑥消費者への権利・義務等についての情報提供、等である。
 現最高執行責任者・委員長(chief executive)はジョン・フィングルトン(John Fingleton)、議長はフィリップ・コリンズ(Philip Collins)である。なお、組織は7部門からなる。各部門ごとに役割についてOFTの説明サイトを参照されたい。

(注2)専門員会は2004年設置されて以降4年以上にわたり、決済システムに関する競争、効率性、緊急性とりわけ既存の決済システムのネットワーク効果について検討することが求められている。1年間に4回以上開催し、年間の成果の公表を行う。メンバーは、公正取引庁 (委員長), 決済調整機関としてAPACS (Association for Payment Clearing Services),決済機関である BACS Payment Schemes Limited, 金融団体であるBritish Bankers' Association, British Retail Consortium, 産業界代表であるBritish Chambers of Commerce, Building Societies Association,決済機関である CHAPS, Cheque and Credit Clearing Company Limited, LINK, クレジットカード会社であるVisa, MasterCard, S2, Federation of Small Businesses, 消費者団体であるNational Consumer Council, Which, 中央銀行であるThe Bank of England (sitting as observers), および 財務省HM Treasury (sitting as observers)である。

(注3)参考までに英連邦の国々の決済サービスの代表的なスキームを見ておく(わが国では詳しく説明した資料がない)。①「direct debit」は事前通知式口座引落しである。電気・ガス・水道など公共料金の支払決済、保険の掛け金について永続的または定期的に支払うものである。引落し金額や引落日に変更がある場合は10営業日(別途の合意がある場合を除く)前までに債務者に通知することが義務付けられる。引落し金融機関において取扱いミスが生じた場合には金融機関は保証責任に基づき、全額が直ちに債務者口座に補填される。②「direct credit」は自動送金サービスである。大小の企業の賃金・政府給付金の支払いに利用される。毎週400万件、月間約4千万件が利用されている。そのほかにもインターネットバンキングによる支払いでも多く利用されており、また10万社以上の企業が納品業者、年金受給者、従業員給与支払い、保険金や配当金の支払い・払戻しに利用されている。③「standing order」は支払人による金額や受給者名の指図に基づく自動支払いサービスである。受給者は、親戚、家主や慈善団体などである。なお、インターバンクで行われるstanding orderはdirect credit で行われる。

*************************************************************

(今回のブログは2005年12月17日登録分の改訂版である)

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