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米国の連邦準備制度(Federal Reserve System:FRS、Federal Reserve Board:FRB、Federal Reserve Bank:FRB)の正確な理解とは?

2022-12-25 16:05:50 | 各国の中央銀行制度

  筆者の手元にニューヨーク連銀の取締役2名の再任のニュースが届いた。それだけであれば、あえて筆者も驚かない。

 しかし、わが国ではそもそも連邦準備制度理事会議長の話しは頻繁に取り上げられるが、はたして地区連邦準備銀行の基本構造、役割、権限、経営はどうなっているのであろうか。

 改めて見直すと、わが国で詳しい説明が皆無であることがはっきりした。Wikipediaは、連邦準備制度( Federal Reserve System, FRS)は、アメリカ合衆国の中央銀行制度である。ワシントンD.C.にある連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board, FRB)が、全国の主要都市に散在する連邦準備銀行(Federal Reserve Bank, FRB)を統括する。連邦準備制度理事会は連邦議会の下にある政府機関であるが、予算の割当や人事の干渉を受けない。各連邦準備銀行は株式を発行する法人(body corporate)である、と説明している。

  そこで筆者なりにFRBや地区連銀サイトを改めて読み直して、本ブログをまとめた。

 なお、なお不明な点があるがFRS, FRB(理事会)の詳細も含め機会をみて修正版を書きいてみたい。

1.制度理事会(FRB)全体像

(1)準備制度理事会は、米国大統領によって任命され、上院によって承認された 7人のメンバー理事で構成される。

 連邦準備制度理事会の現議長(Jerome H. Powell, Chair)、理事(Jerome H. Powell, Chair;Lael Brainard, Vice Chair;Michael S. Barr, Vice Chair for Supervision;Michelle W. Bowman;Lisa D. Cook;Philip N. Jefferson;Christopher J. Waller)の任期は 14年である。ただし、この任期を延長することは可能である。たとえば、ウィリアム・マチェズニー・マーティン・ジュニアは、他の人の任期を完了するために会長に任命され、その後自分の任期に任命されたため、約 19 年間、理事会のメンバーおよび議長を務めた。

 連邦準備制度理事会の理事の任命は時差制で、2 年ごとに 1 人の理事の任期が満了する。中央銀行としてのFRBの政治的独立性を確保するために、任期はずらされており、1人の大統領が彼の政策を支持する人々と「デッキを積み重ねる」ことによって、総裁を任命する彼の権限を利用できないようにしている。理事会は無党派で、独立して行動しなければならない。独立性に加えて、時差任期は理事会の安定性と継続性を可能にする。(連邦準備銀行の全体概要から抜粋、仮訳)

連邦準備銀行の全体

 全米で12 の連邦準備銀行がある。連邦準備銀行は、経済に関する調査を実施し、地域の銀行を監督し、銀行や米国政府に金融サービスを提供している。

 連邦準備銀行を訪問すると、その業務が民間企業の活動に似ていることがわかる。連邦準備制度の構造は複雑であるが、効果的である。地区準備銀行はある程度独立して運営されているが、FRB理事の全般的な監督の下にある。

 これらの地区準備銀行とその支店は、全国の大都市に戦略的に配置されている。連邦準備制度理事会の 12 地区それぞれのエコノミストとその他の従業員が協力して、地域の視点と地域経済に関する専門知識を提供している。準備銀行の活動は、主に銀行家、米国財務省、および一般人の3 つの監視下におかれる。

(2)地区連邦準備銀行

 FRBには、12の地域連邦準備銀行が含まれて、システムの日常業務にあたる。これらの準備銀行は、特別なタイプの公益のために活動する組織、非営利団体として組織されている。 12の地区は 本社はボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、クリーブランド、リッチモンド、 アトランタ、シカゴ、セントルイス、ミネアポリス、カンザスシティ、ダラス、サン フランシスコ。準備銀行の支店は他の24の都市にある。

 各準備銀行とその支店には取締役会がある。一部の個人は、メンバーである商業銀行を代表しており、他の取締役は地元企業、コミュニティの労働、消費者、非営利の分野を代表している。各準備銀行には、商業銀行を代表する取締役のように取締役会によって任命された議長がいる。

 準備銀行は預託機関 (銀行、貯蓄銀行、信用組合) に口座を提供し、これらの機関は準備預金を保有し、預託機関に融資を行い、通貨と硬貨を流通に出し入れし、それぞれ何百万もの小切手やその他の支払いを収集して処理する。 毎日、財務省に当座預金口座およびその他のサービスを提供し、政府証券を発行および償還し、その他の方法で米国政府の財政代理人として行動する。

 また連邦準備制度のメンバーであるすべての銀行持ち株会社と商業銀行を監督し、安全性と健全性を検査する。さらに金融政策の設定に参加する。

 年に8回、各連邦準備銀行はその地区の現在の経済状況に関する事例情報を収集し、この情報を理事会のウェブサイトで公開されているベージュ ブック(Beige Book) レポートにまとめている。

 連邦準備銀行は、商業銀行が顧客に提供するサービスと同様のサービスを商業銀行に提供するため、「銀行家の銀行」と呼ばれることがよくある。連邦準備銀行は、通貨とコインを銀行に配布し、銀行にお金を貸し、電子決済を処理する。ある時点で、労働者の給料と、住宅ローンやその他のほとんどの請求書を支払うために書かれた小切手は、12 の準備銀行の 1つに送られ、そこで小切手は債務を決済するために処理される。ただし、現在、アトランタ連邦準備銀行が連邦準備銀行の小切手処理のすべてを処理している。現在、1つの準備銀行だけが小切手を処理しているのはなぜだと思いますか? これは、紙の小切手の使用が大幅に減少し、電子画像とオンライン請求書の支払いが増加したためである。

 また連邦準備銀行は、米国政府の財政代理人としても機能する。彼らは、米国連邦財務省の口座を維持し、政府の小切手を処理し、政府証券のオークションを実施する。

 最後に、準備銀行は、地域、国内、および国際経済に関する調査を実施する。この結果を踏まえ連邦準備銀行総裁は FOMC に参加する準備を整える。また、出版物、スピーチ、教育ワークショップ、ウェブサイトを通じて経済に関する情報を配布する。

(3)連邦準備銀行の取締役会

セントルイス連銀の概要説明から抜粋した。

 各連邦準備銀行には独自の取締役会があり、傘下銀行の活動を監督する。これらの取締役は、地元のビジネス経験、コミュニティへの関与、およびリーダーシップに貢献し、各地区の多様な関心を反映している。各取締役会には 9 人のメンバーがいる。取締役のうち 3 人は加盟商業銀行によって選出される。取締役のうち 3名は、FRB理事によって任命される。FRB理事は、これら 3 名の中から、連邦準備銀行の取締役会の議長と副議長を選出する。

(4)連邦準備銀行の所有者は誰か?

 セントルイス連銀の解説から抜粋、仮訳する。

 1913年12月23日、ウッドロウ ウィルソン大統領は「連邦準備法(Federal Reserve Act)」に署名、成立した。

翌年、財務長官のウィリアム・マカドゥー、農務長官のデイビッド・ヒューストン、通貨監督官のジョン・ウィリアムズで構成された選考委員会は、12 の連邦準備地区銀行のうちの 1 つの居住地となる米国の都市を決定した。

 連邦準備銀行は連邦政府の一部ではないが、連邦議会の決定により存在する。彼らの目的は、大衆に奉仕することである。では、FRB は非公開か、それとも公開か?

 答えは両方である。 FRB理事会は独立した政府機関であるが、連邦準備銀行は民間企業のように設立されている。つまり、その加盟銀行は連邦準備銀行の株式を保有し、配当を獲得する。この株を保有することは、営利団体の普通株の保有者に与えられる管理権および金銭的利益を伴うものではない。株式を売却したり、ローンの担保として差し入れたりすることもできない。また、加盟銀行は、各連邦準備銀行の取締役会の 9 名のメンバーのうち 6 名(注1)を選出する。

*これ以上の情報は従来公表されていないため、Institutional Investor(2020年2月24日リチャード・ タイテルバウム著「情報公開法の要請により、アメリカの最も重要な地方銀行の株式をどの組織が何株所有しているかが明らかになった」の解説を以下、仮訳する。

 2018 年末の重要な発表: 名簿の第 1 位の機関であるシティバンクは、ニューヨーク連邦準備銀行の株式 8,790 万株、つまり全体の 42.8% を保有していた。第 2 位の株主は JP モルガン チェース銀行で、保有株数は 6,060 万株で、全体の 29.5% に相当する。言い換えれば、2 つの銀行が合わせて、地方銀行の資本シェアのほぼ 4 分の 3 を支配しているということである。

 連邦準備銀行は、自らの利益を代表するクラス A の取締役を 3 人選出する。同銀行は、公共の利益を代表するクラス B の取締役を 3 人選出している。ニューヨーク連銀の議長と副議長を含む 3人のクラス C 取締役も、公益を代表するように指定されており、ワシントンの連邦準備制度理事会によって選出される。

 謎の1つは、連邦預金保険公社やその他の情報源からの公開データを使用して情報をある程度正確に推定できることを考えると、なぜニューヨーク連銀がそもそも株式所有権を自由に開示しないのかということである。

 ダートマス大学の経済学教授であるアンドリュー・レビン氏は、これらの理事会選挙の特殊性により、ニューヨーク連銀の株式保有が当初の予想以上に重要になる可能性があると述べている。

 ニューヨーク準備銀行の株主銀行は 3 つのカテゴリに分類され。グループ 1 は資本金と剰余金が20億ドルを超える銀行 (シティバンク(Citibank, N.A.)やゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)銀行など)、グループ2は4,000 万ドルから20億ドルの銀行 (ニューヨークのサフラ・ ナショナル銀行(Safra National Bank)など)である。ベッセマー トラスト カンパニー(Bessemer Trust) と 4,000 万ドル未満の銀行 (タイオガ州立銀行(Tioga State Bank)、ブラウン ブラザーズ ハリマン ナショナル トラスト(Brown Brothers Harriman & Co.)など)の場合はグループ 3である。

(5) FRBの通貨発行権

セントルイス連銀の解説から抜粋、仮訳する。

連邦準備銀行が、購入に使用する通貨を流通させていることをご存知か?

各法案には、その特定の法案を担当する連邦準備銀行を示す番号と文字がある。たとえば、数字が 8 の紙幣には文字 H (アルファベットの 8 番目の文字) が付く。これは、セントルイス連邦準備銀行の貸借対照表に表示されることを意味する。

カリフォルニア州サンフランシスコ連銀発行紙幣1ドル

 米国の紙幣、要するに米ドル紙幣は、連邦準備券(federal reserve note)と呼び、紙幣の表に確かにFederal Reserve Noteと印刷されている。“note”とは債券のことである。(注2)

連邦準備法16条(債券)種類は連邦準備法で規定され、様式は財務長官の指図による。より正確には、連邦銀行が政府に貸した『債権証書』のことである。

 アメリカ政府が発行する債券(国債)を担保にしている。ドル紙幣には、裏面には『IN GOD WE TRUST』(我々は神を信じる)と書かれている。いってみれば、小口の債権証書(FRBの社債)である。

 こんな重要な銀行の株式を、実は米国政府は一株も所有していない。では、株式は誰がもっているのであろうか。なんと、大手銀行であり、民間銀行と同様、利益を配当として株主に分配する。

3.ニューヨーク連邦準備銀行

ニューヨーク連銀サイトを仮訳する。

(1)総裁兼CEO(president and chief executive officer)

John C. Williams

(2)取締役会について

取締役会の構成

【クラスA取締役】

・ダグラス・L.ケネデイ氏(再任~2025年12月31日任期)ピーパック・グラッドストーン銀行社長兼CEO

・トーマス・J.マーフィー氏(~2023年)レンズフォールズ・ナショナル銀行信託会社社長兼CEO

・ルネ・F.ジョーンズ氏(~2024年)M&Tバンクコーポレーション会長兼

【クラスB 取締役】

・アデナ・T.フリードマン氏(再任~2025年12月31日任期)ナスダックinc.社長兼CEO

・アーヴィン・クリシュナ氏(~2023年)IBM会長兼CEO

・スコット・レヒラー氏(~2024年)RXR会長兼CEO

【クラスC取締役】

・デニス・スコット氏(~2022年)地域イニシアチブ支援法人代表取締役社長

・ロサ・M.ギル氏(~2023年)Comunilife Inc.の創始者、社長兼CEO

・ヴィンセント・アルバレス 副議長(~2024年)ニューヨーク市中央労働評議会会長、AFL-CIO

  連邦準備法第4条に基づき、ニューヨーク連邦準備銀行(第二地区担当)を含む各連邦準備銀行は、ワシントンD.C.のFRB理事の一般的な監督に加えて、取締役会の監督に従って運営される。取締役会には9人のメンバーがおり、全員が準備銀行の外から選ばれ、A、B、Cと呼ばれる3つの等しいクラスに分けられる。

 クラスAおよびクラスBの取締役は、第2地区の加盟商業銀行によって選出される。クラスC級取締役は、理事会によって任命される。毎年、各準備銀行のクラスC取締役1名がFRB理事会によって準備銀行の取締役会の議長に任命され、2人目のクラスC取締役が副議長に任命される。

 クラスAの取締役は、地区内の加盟銀行の代表である必要があり、ほとんどの場合、加盟銀行またはその持株会社の役員または取締役である。クラスBおよびクラスCの取締役は、「農業、商業、産業、サービス、労働、消費者の利益に十分ではあるが排他的ではない」ことを考慮して、公衆を代表する必要がある。クラスBまたはクラスCの取締役は、民間銀行または銀行持株会社の役員、取締役、または従業員であってはならない。さらに、クラスCの取締役は、銀行または銀行持株会社の株式を所有することはできない。

 これらの規則の目的は、多様な視点と背景が各準備銀行の理事会に代表されるようにすることである。通常、準備銀行の取締役会には、地元産業、非営利セクター、銀行セクターの代表者が含まれる。

 なお、取締役(director)の性別、人種、地域等でバランスを取っているようにも思える。

 準備銀行の取締役の役割は、一般に、準備銀行の管理を監督すること、国の金融および信用政策の策定に参加すること、政府と民間部門の間の「リンク」として機能することの3つの主要な分野に分類される。

 準備銀行の取締役会は、経営監督責任の行使において、銀行の年間目標と目的を経営陣とレビューおよび確立し、予算をレビューおよび承認し、銀行のパフォーマンス(効率性と生産性を含む)とその総裁および第一副総裁の両方の独立した評価を実施する。

 準備銀行の取締役は、彼らが任命し、直接報告する一般監査人を通じて、内部監査手順の効果的なシステムの維持を監督する。

 取締役は、金融政策と信用政策に関して特別な役割を担っています。この機能において、多様なバックグラウンドを持つ取締役は、連邦準備制度に地域自治の最大の利点、つまり経済および信用状況に関する多様な視点をもたらす。このインプットは、連邦準備制度が経済の変化する傾向を予測するのに役立つ。連邦準備法は、各準備銀行に割引率を設定する権限を与えており、理事会によるレビューと決定を条件としている。

 各準備銀行取締役会のもう一つの主要な責任は、その判断において、金融政策の審議と連邦公開市場委員会(Federal Reserve Open Market Committee:FOMC)の決定に参加する資格のある銀行総裁を選ぶことである。2010年7月21日より、「ドッド・フランク・ウォールストリート金融街改革および消費者保護法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act:H.R.4173)」により、クラスBおよびクラスCの取締役のみが大統領の任命プロセスに参加できる。

 連邦準備法に加えて、ニューヨーク連銀の取締役会の役割は、銀行の細則および3つの理事会委員会(指名およびコーポレートガバナンス委員会、監査およびリスク委員会、管理および予算委員会)の憲章でも取り上げられている。これらは、取締役会の役割と責任、およびその役割と責任の制限をさらに定義する。

 準備銀行の細則は、特定の銀行の監督および規制事項が銀行の取締役会の範囲に含まれないことを明確にしている。また、クラスA取締役は、当行の金融機関監督グループに関する人事・予算の決定には参加できず、監査・リスク委員会または指名・コーポレートガバナンス委員会の委員の過半数を構成することもできない。さらに、すべての取締役は、すべての準備銀行の従業員と同様に、通常、金銭的利害関係のある問題に参加することを禁じられている。これらの制約は、取締役会レベルでの実際のまたは認識された利益相反のリスクを最小限に抑えるように設計されている。

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(注1)セントルイス連銀に説明では、銀行から取締役6名とあるが他の連銀でも実際に調べてみたが3名ではないか。

(注2) 金井 規雄「ドル紙幣を発行する権限を持つ「FRB」」から抜粋する。なお、本稿の内容については改めて筆者は検証したい。

 FRB設立にあたり、最も重要なことは、FRB連銀がドル紙幣を発行できるということです。つまり、ドル紙幣を発行する権限を得るわけで、ドル紙幣を発行するだけで、利益を得るのです。紙幣は印刷されるのですが、そのコストはだいたい紙代と印刷代だけです。たとえばそれが1ドルとした場合、100ドル紙幣を印刷すると、99ドルが利益になります。これがFRB連銀の儲けになります。

 もうひとつ、信じられないことですが、民間銀行であるにもかかわらず、決算は開示されていません。膨大な利益になっているはずです。為替介入というのがありますが、あれも相当の利益を生んでいます。さらに、FRBは債権の買取りも行います。アメリカ政府が発行する米国債を買い取るのです。要するにアメリカ政府が借金するのですが、それを買い取るFRBは紙代と印刷代だけのコストで、アメリカ国債を買い取り債権者になる。FRBに牛耳られているといっても過言ではないと思います。

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EU議会はEUおよび非EU企業に対する持続可能性開示報告義務指令(CSRD)を採択

2022-12-12 18:12:48 | 持続可能な経済社会

 筆者の手元に2022.12.11 Harvard Law School Forum on Corporate Governanceのレポート「EU Corporate Sustainability Reporting Directive – disclosure obligations for EU and non-EU companies」が届いた。

 その概要は、2022年11月10日、EU議会は企業の持続可能性報告に関する指令(以下、CSRDという)を採択(注1)した。欧州連合理事会は2022年11月28日にCSRDを採択し、その後官報に掲載される予定である。その後、CSRDは公開から20日後に発効し、EU加盟国はCSRDを国内法に統合するために18か月の猶予期間がある、というものである。

 筆者は、この指令案等についての欧州委員会や欧州連合理事会の取組みにつき、1)2022.6.24 JETRO「EU理事会と欧州議会、企業持続可能性報告指令案に暫定合意」、2)2022.11.24 KPMG AZSA LLC「欧州CSRD/ESRSの概要と3つの対応オプション」、3)野村資本市場研究所「IFRS 財団と EU が示すサステナビリティ情報開示の 2 つの方向性-ソーシャルとフィナンシャル・インパクトの議論-」等を読んでいた。

  そこで、Harvard Law School Forumのレポートを改めて読んだ次第であるが、主要論点が網羅されていると感じた。そこで今回のブログは、同レポートと2022.11.10 欧州議会リリース「欧州議会は持続可能な経済:議会は多国籍企業のための新しい報告指令(CSRD)を採択」を中心にまとめることとした。

1.EU企業および非EU企業に対する持続可能性に関する報告開示義務指令

 CSRDは、新しい詳細な持続可能性報告の要件を作成し、EU持続可能性報告フレームワークの対象となるEUおよび非EU企業の数を大幅に拡大させた。そこにおける必要な開示は、環境および気候変動の報告を超えて、社会およびガバナンスの問題(たとえば、従業員と人権の尊重、汚職や贈収賄の防止、コーポレート・ガバナンスと多様性 (diversity)と一体性(inclusion)を含む。さらに、持続可能性の問題に関連して企業が実施する適正評価(due diligence)プロセス、および範囲内の企業の事業と価値連鎖(value chain)(注2)の実際のおよび潜在的な持続可能性への悪影響に関する開示が必要になる。

 CSRDは、2024年から多くの事業体で会計年度に適用され始める(詳細については、以下の1.(4)「CSRDはいつ適用されるか?」を参照されたい)。企業は、CSRDの効果をレビューして、CSRDがいつどのように適用されるか、準備するために何をすべきかを理解する必要がある。

 Mayer Brown LLPのパートナー等の本レポートの執筆チームは、CSRDの準備を喜んで手伝う。我々は、EU、米国、英国、その他の管轄区域における新しい持続可能性報告要件が、多くの機関にとって最優先事項であることを認識している。

(1)これは誰に適用されるのか?

  現行の「非財務及び多様性情報の開示に関する改正指令(Non-Financial Reporting Directive)「NFRD」)」(注3)の対象となる企業は、大まかに言えば、EU規制市場上場証券、EU信用機関、および500人以上の従業員を擁するEU保険会社を持つ大規模なEUの「公益団体」であった。

 一方、以下の事業体は、CSRDに基づいて報告する必要が生じる。

①「大規模な」EU企業およびグループ:(a)貸借対照表の合計が2,000万ユーロ(約28 億8000万円)を超える、(b)純売上高が4,000万ユーロ(約57億6000万円)を超える、および(c)250人以上の従業員。

②EU規制市場に上場している証券を持つその他のEUおよび非EU企業(「零細企業」を除く):EU規制市場に上場されている証券(額面金額が100,000(約1440万円)ユーロ未満または同等額の債務証券を含む)を持つEUおよび非EU企業(零細企業を除く)。疑義を避けるために付言すると、EUの多角的取引ファシリティに上場されている証券には適用されない。

③EUおよびEUの支店または子会社における純売上高が1億5,000万ユーロ(約216億円)を超える非EU企業(「EU売上高テスト」):(a)過去2会計年度のそれぞれでEUの連結レベルまたは個人レベルでの年間純売上高が1億5,000万ユーロを超える非EU企業、および(b)適格なEU子会社(EUの大企業、 上記のように、または零細企業ではないEU規制市場に上場しているEU企業)、または前会計年度に年間純売上高が4,000万ユーロ(約57億6000万円)を超えるEUの支店。

  親会社が連結グループレポートを通じてCSRDに準拠している対象企業には免除があり、また、欧州委員会が、他の法域の非EU企業の持続可能性報告を同等として認める可能性も残っている。しかし、CSRDの広範な性質を考えると、欧州委員会が非EU基準を完全に同等であると認めるかどうかは不明である。さらに、CSRDは直接的な影響のないEU指令であり、現地の法律に置き換える必要があることに注意する必要がある。したがって、CSRDが現地で実施される方法に違いがある可能性があり、CSRDが関連する国レベルでどのように適用されるかを検証することが重要になる。

  さらにNFRD を受け、2017 年6月には、企業が NFRD に基づく開示をする際に、有益で比較可能な情報を開示できるように、非財務情報ガイドライン(Non-Binding Guidelines、以下「NBGs」という。)が公表された。NBGs は、強制適用ではなく、各企業が任意で参考とするものである。(注4)

(2) 事業体・企業の義務の中身は何か?

 対象となる企業は、以下を含む幅広い持続可能性関連情報を開示する必要がある。

①自社のビジネスモデル、戦略、持続可能性のリスクと機会の簡単な説明。CSRDの下では、対象となる企業は明確なESG目標を設定し、これらの目標の進捗状況と移行計画(ある場合)を毎年公開する必要がある。その結果、持続可能性への焦点はもはやオプションまたは任意ではなく必須であり、会社の長期的なビジョンと戦略に組み込まれなければならず、その方針にも適用されなければならない。

②持続可能な経済への移行に関連する実施計画、パリ協定に沿って地球温暖化を制限し、2050年までに気候中立を達成するためにとられた措置、および石炭、石油、ガス関連の活動への影響内容;

③会社に影響を与える持続可能性の問題と持続可能性の問題に対する会社の影響(いわゆる「二重の重要性」の視点)。

④温室効果ガス排出目標;

⑤持続可能性に関連する政策(持続可能性の問題に関連するインセンティブスキームを含む)。

⑥持続可能性の問題、および会社の事業とバリューチェーンの実際および潜在的な悪影響に関連して、事業によって実施されるデューデリジェンスプロセス。⑦価値連鎖(value chain) バリューチェーンにおけるCSRDの下でのESG慣行に関する必要な報告は、サプライチェーンやその他のアウトソーシングパートナーに間接的な影響を与えると予想した。

(3) いかなるサステナビリティ報告基準が適用されるのか?

 欧州財務報告諮問グループ(「EFRAG」)(注5)は、さらなる開示要件の開発を支援する責任を負っており、CSRDに基づくさらなる義務を通知するEUサステナビリティ報告基準(「ESRS」)の公開草案を最近公開した。EFRAGは、サステナビリティ報告のための世界的な基準設定イニシアチブを尊重するフレームワークの開発を支援するよう求められている。EU持続可能な金融開示規則やEU分類規則などの他のEU規則に基づく要件を満たすために、他の市場参加者が負う十分な品質の情報も提供する。

 特に、EFRAGは、EU分類法の環境目標、社会的および人権の開示、持続可能性ガバナンスの開示に関する詳細な開示要件の規則を検討するよう求められている。またEFRAGは、EU売上高テストのみを理由に範囲内にある非EU企業向けの規則を個別に開発している。また、中小規模の機関の開示要件の一部には免除がある。持続可能性報告の標準化に関する他の業界の取り組みと連携するために、EFRAGは、国際持続可能性基準審議会によって最近発行された公開草案を含む国際的な進展に留意した。EFRAGは今月後半にESRS草案を欧州委員会に提出する予定であり、欧州委員会は2023年6月30日までにESRS要件の最初のセットを採用する予定である。

 さらに企業は、CSRD開示に関して第三者の保証を取得する必要がある。報告は、認定された独立監査人または認証者によって認証される必要がある。企業が報告規則を確実に遵守するために、独立監査人または認証者は、持続可能性情報がEUによって採用されている認証基準に準拠していることを確認する必要がある。欧州以外の企業の報告も、欧州の監査人または第三国で設立された監査人のいずれかによって認証されなければならない。保証要件は、2028年までに「限定的」保証からより充実した「合理的な」保証へと段階的に適用される。

 企業は、個別のサステナビリティレポートのみではなく、年次管理レポートで関連情報を報告する必要がある。提供された情報の有用性を支援するために、開示は「XHTML」形式で報告する必要がある。これは、報告データのデジタル化に関する他のEUの作業と一致しているが、多くの事業体の現在の報告活動とは異なる場合がある。

(4)CSRDはいつ適用されるか?

 CSRDの適用は、4つの段階(以降に開始する会計年度)にわたり行われる。

① 2024年1月1日 すでにNFRDの対象となっている大規模なEUの「公益事業体」(すなわち、EU規制市場上場証券を持つEU大企業、EU信用機関、従業員500人以上のEU保険会社)および500人以上の従業員を擁する大規模事業の定義の範囲内でEUの規制市場に上場している非EU企業。

② 2025年1月1日、現在NFRDの対象とならない大規模なEU組織、およびEUの規制市場に上場しているEU以外の大企業。

③ 2026年1月1日、EUに上場している特定の中小企業(「SME」)(EUの規制市場に上場しているEU以外の中小企業を含む)、小規模および非複雑な信用機関、およびキャプティブ保険事業。

④ 2028年1月1日、EU離職率テストのみの理由で規則に該当する非EU企業。

(5) 企業はどのように何を準備すべきか?

 CSRDは、EUおよび非EU企業の範囲に持続可能性開示義務を課す。詳細の一部はまだEFRAGによって開発されていないが、かなりのリソースを必要とし、範囲が重複し、他の管轄区域の規則と内容が異なることは明らかである。

 たとえば、CSRDは、提案された米国SECの気候規則(SEC Proposes Climate Change Disclosure Rules Applicable to Public Companies) 英国の遵守要件(The UK’s FCA and FRC review the quality of companies’ TCFD disclosures)とは、多くの点で異なる(詳細については、提案するブリーフィング(米国SECが公開会社に適用する気候変動開示規則(SEC Proposes Climate Change Disclosure Rules Applicable to Public Companies) を参照されたい。また英国のFCAとFRCが企業のTCFD開示の質をレビュー(The UK’s FCA and FRC review the quality of companies’ TCFD disclosures)を参照されたい)。

(6) 具体的に準備するために、事業体は次のことを用意するべきといえる。

①CSRDのEUおよびグループ内のEU以外の子会社への適用可能性についてアドバイスを受ける。CSRDの範囲と正確な適用可能性は特に複雑であり、詳細な分析が必要になる。

②ギャップ分析(注6)を完了し、CSRDと他のEUおよび米国、英国、国際およびその他のESG報告規則との重複を評価する。

③予想される報告要件に関するさらなるガイダンスについては、EFRAG公開草案ESRSと12月後半にEU委員会に提出される最終草案を確認する。

④企業の持続可能性デューデリジェンスに関するEU指令草案に含まれる人権および環境デューデリジェンス要件を検討し、新たな規制および利害関係者の期待を整理する。人権と環境–EUは企業の持続可能性デューデリジェンス指令の草案を公開している。

⑤この法律の新たな課題に対処する上で重要な役割を果たすべき法務およびコンプライアンス部門の役割、リソース、専門知識を確認する。

2.2022.11.10 欧州議会サイト「欧州議会は持続可能な経済:議会は多国籍企業のための新しい報告指令(CSRD)を採択

 欧州議会サイト「欧州議会は持続可能な経済:議会は多国籍企業のための新しい報告指令(CSRD)」を採択に関するリリース文を仮訳する。

・大企業の標準となる環境、社会問題、ガバナンスの問題に関する透明性を確保

・EUは世界のサステナビリティ報告基準のフロントランナーになる

・約50,000社が新しい規則の対象となり、現在の11,700社から増加

 EUのすべての大企業は、自社の活動が人々と地球に与える影響、および彼らがさらされている持続可能性のリスクに関するデータを開示する必要が生じる。

 11月10日採択された「企業サステナビリティ報告指令(CSRD):は、賛成525票、反対60票、棄権28票で採択され、社会的および環境的影響に関する情報を定期的に開示することを義務付けることにより、企業をより公に説明責任を果たすことになる。これにより、グリーン・ウォッシング(注7)が終了し、EUの社会的市場経済が強化され、世界レベルでの持続可能性報告基準の基礎が築かれる。

(1)新しいEU持続可能性基準

 これらの規則は、非財務情報(NFRD)の開示に関する既存の法律の欠点に対処し、ほとんど不十分で信頼性が低いと認識されています。CSRDは、「EUの気候目標(A European Green Deal)」に沿った共通の基準に基づいて、企業が環境、人権、社会的基準に与える影響に関するより詳細な報告要件を導入している。欧州委員会は、2023年6月までに最初の基準を採択する予定である。

 企業が信頼できる情報を提供していることを確認するために、企業は独立した監査と認証の対象となる。財務報告と持続可能性報告は対等な立場にあり、投資家は比較可能で信頼できるデータを得ることができる。持続可能性情報へのデジタルアクセスも保証する必要がある。

(2) 適用範囲の拡張

 新しいEUの持続可能性報告要件は、株式市場に上場しているかどうかにかかわらず、すべての大企業に適用される。EUで実質的な活動を行っている非EU企業(EUでの売上高が1億5,000万ユーロを超える)も遵守する必要がある。上場中小企業も対象となりますが、新しいルールに適応する時間が増える。

 EUの約50,000社にとって、現在の規則の対象となる約11,700社と比較して、持続可能性情報の収集と共有が標準になる。

(3)引用すべき事項

 CSRDの討論の中で、欧州議会の報告者のパスカル・デュラン(Pascal DURAND Renew党(注8)、仏)は、「ヨーロッパは、狭義の金融が世界経済全体を支配しないことを確実にすることは確かに可能であることを世界に示している」と述べた。

Pascal Durand 氏

(4)次のステップ

  欧州連合理事会は11月28日に提案を採択し、その後署名され、EU官報に掲載される予定であった。この指令は、発行から20日後に発効する。ルールは1.デ述べたとおり、2024年から2028年の間に次のとおり、4段階で適用を開始する。

 2024年1月1日から、すでに非財務報告指令の対象となっている大規模な公益企業(従業員500人以上)については、2025年に報告する予定である。

 2025年1月1日から、現在非財務報告指令の対象とならない大企業(従業員数250人以上、売上高4,000万ユーロ、総資産2,000万ユーロ以上)で、2026年に報告期限を迎える。

 上場中小企業およびその他の事業については2026年1月1日から、2027年に報告が予定されています。中小企業は2028年までオプトアウトできる。

(5) CSRD策定の背景とこれまでの検討経緯

 欧州委員会は、2021年4月21日に欧州グリーン・ディールにおける持続可能な資金調達に関する政策パッケージ(2021年4月22日記事参照)の一環として、企業の持続可能性報告指令に関する提案を発表した。これは、企業の年次報告書での財務情報に関する従来の規制に加え、環境や社会的課題、ガバナンスなどの非財務情報の開示に関する2014年の指令(注9)などを改正するものだ。

 2018年に、欧州議会はNFRDの改正を要求し、2020年に持続可能なコーポレートガバナンスに関する推奨事項を発表した。CSRDは、欧州グリーンディール(A European Green Deal-Striving to be the first climate-neutral continent)持続可能な金融アジェンダの基礎の1つであり、企業が人権を尊重し、地球への影響を減らすことを約束するためのより広範なEU政策の一部である。

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(注1)2022.10.9 EU議会おける最終討議の動画も閲覧可である。各発言者ごとに見れる。

(注2)企業の様々な活動が最終的な付加価値にどのように貢献しているのか、その量的・質的な関係を示すツール。1985年にハーバード・ビジネススクール教授のマイケル・E・ポーターが著書『競争優位の戦略』の中で提唱したフレームワークである。企業の様々な活動が最終的な付加価値にどのように貢献しているのか、その量的・質的な関係を鳥瞰するのに便利なツールである。(野村総合研究所の用語解説 から抜粋)

(注3) EUでは2014年、「非財務及び多様性情報の開示に関する改正指令」(Non-Financial Reporting Directive、以下「NFRD」という。)が公表され、既存の 会計指令(Accounting Directives)が改訂された。その中で、従業員 500 人を超える大会社は、少なくとも環境、社会、雇用、人権の尊重、汚職・贈収賄の防止等に関連する事項に関して、経営報告書(Management Report)の中で開示することが定められた。

 2017年6月には、企業がNFRDに基づく開示をする際に、有益で比較可能な情報を開示できるように、非財務情報ガイドライン(Non-Binding Guidelines、以下「NBGs」という。)が公表された。

 EU非財務情報開示指令の内容につき、詳しい解説がある。

(注4) グリーンファイナンスポータル運営事務局「 EU、英国、フランス、ドイツのESG・気候変動に関する開示動向について」が、1) ESG開示法規制及び関連ガイドライン(EU・英国・フランス・ドイツ)PDFデータ、2) 参考資料1_ESG・気候関連開示に関する各国の状況PDFデータ、3)参考資料2_ESG情報開示に関するEU・英国・フランス・ドイツの法規制及びガイドラインPDFデータ、4) 参考資料3_英国・ドイツにおける証券取引所のESG情報開示ガイドラインPDFデータ、5) 参考資料4_EU、英国、フランス、ドイツにおけるESG開示情報項目PDFデータに各リンク可である。

(注5) EUの官民の会計関係機関等で組織する「欧州財務報告諮問グループ(European Financial Reporting Advisory Group:EFRAG)」は、企業の非財務情報開示の指令である非財務情報開示指令( NFRD)に代わる「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」案の軸となる気候開示基準案のワーキングペーパーを公表した。CSRDの対象となるEU企業が開示する気候関連情報の範囲については「戦略」等の3分野とし、開示項目はScope3を含め、サステナブル活動で準拠するEUタクソノミーの明示など10領域を整理している。

(注6) ギャップ分析:理想(To Be)と現実(As Is)の間にあるギャップ解消に必要な項目を洗い出す課題抽出方法。ビジネスでは主に「現在の業績と理想の業績の比較」「商品イメージに対する理想と現実の比較」などに活用される。(GMO Research, Inc.の解説から抜粋)

(注7) グリーンウォッシュとは、環境に配慮した、またはエコなイメージを思わせる「グリーン」と、ごまかしや上辺だけという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語。環境に配慮しているように見せかけて、実態はそうではなく、環境意識の高い消費者に誤解を与えるようなことを指す。(IDEAS FOR GOODサイトから抜粋)

(注8) 欧州刷新( Renew Europe、Renew)は、2019年欧州議会議員選挙を受けて2019年6月12日に発足した自由主義・リベラル・欧州連合支持の欧州議会の政治会派である。

(注9) 詳細はJETRO調査レポート「EUにおける企業の非財務情報開示指令案を巡る動向PDFファイル」を参照。

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欧州議会はまもなく暗号資産市場 (MiCA) に関する規制の採用について採決を行うーその具体的検討経緯を巡る最新動向―(その2完)」

2022-12-05 16:52:34 | 海外の通貨・決済システム動向

(11) 諮問委員会

 2021 年 2 月 24 日の意見で、欧州経済社会委員会 (EESC) は、立法イニシアチブを支持し、提案された行動が規制のために緊急に必要であると考えている。

 絶え間なく急速に変化している成長中のテクノロジー。

 EESC はまた、単一の規制の枠組みを支持し、「グローバル ステーブルコイン」の発行者が、資本、投資家の権利、および監督に関してより厳しい要件の対象となることを保証するという目的、および消費者や小規模の投資家に適切な情報を提供することを保証する措置に同意した。

 2022 年 9 月 21 日に採択された独自の意見で、EESC は暗号資産の市場に関する規制の提案を「強く支持」し、「取引の財務追跡と暗号資産の税務コンプライアンスを改善する」ためのフレームワークにつき強力な規制と運用を求めている。

 またEESC は、当局が管轄を超えて「同じ活動、同じリスク、同じルール」の原則を遵守すること、および暗号資産の規制の枠組みが全体で一貫していることを強く推奨する。

 この提案は透明性と税務当局の管理を強化するのに役立つ一方で、暗号資産の環境への影響も強調している。

(12) EU加盟国の議会の意見

 子会社化を理由とする理由付き意見書の提出期限は 2021 年 2 月 1 日であった。

 権限移譲に関する懸念は提起されなかった。

 イタリア下院は、MiCA に関する規則案とパイロット制度規則に関する規則案との間の調整を強化することの潜在的な利点について考慮すべきであることを強調し、特に「多国間取引施設」 DLT と暗号資産取引プラットフォームとの関係に言及した。

  さらに、フランス上院は、暗号資産市場は本質的に国際的であることを強調しており、したがって、少なくとも EU レベルで、調和と監視を可能にし、EU 内の規制の断片化を是正し、CMU を強化するための規制の枠組みを確立する必要があると強調している。 .

(13)利害関係者の見解

 2021 年 8 月 23 日の意見で、欧州データ保護監察機関 (EDPS) は、提案の目的を歓迎するが、暗号資産の基礎となる技術がデータ保護の規則と原則を尊重するかどうかについて、より広範な検討と議論の必要性を強調し、次のことを考慮する。新しい規制には、データ保護を保証する義務を含める必要がある。

(14) 欧州金融当局の意見

 ESMA によると、2019 年 1 月 9 日に発行されたイニシャルコインのオファリングと暗号資産に関するアドバイスの中で、ESMA は、投資家保護を保証するために暗号資産には EU レベルのアプローチが必要であると宣言した。

 多くの暗号資産は既存の金融規制の枠組みでカバーされておらず、制限された保護とルールの設定から利益を得ている暗号資産投資家に重大なリスクを引き起こしている

 EU レベルで、公正な競争 (「公平な競技場」) を保護するのが最善である。 ESMA は、NCA のサポート調査11/29(75)で、暗号資産に適用される既存の法律の適用におけるいくつかのギャップを特定している。 さらに、暗号資産が金融商品として認められる場合はいつでも、市場に関連する問題が依然として存在する。 個人投資家の場合、市場参加者とその取引能力のレベルを監視することは、プラットフォームにとって特に時間とリソースを消費する。

 欧州委員会の協議に対する 2019 年 6 月 29 日の回答で、欧州銀行監督機構 (EBA) は、欧州委員会の新しいデジタル金融戦略を強く支持し、EU 金融サービス法全体の概念、定義、および報告義務の標準化をサポートする行動を特定した。 EBA は、規制および監督のアプローチにおいて、個人や組織がニーズに最も適した技術を選択する自由 (「技術的中立性(Technological neutrality)」) を保護することの重要性を強調し、EBA の FinTech Knowledge Hubイノベーション・ファシリテーターのための欧州フォーラム (EFIF)などの調整メカニズムの強化をサポートしている。

 2022 年 2 月、欧州の 3 つの金融監督当局 (ESAs)、すなわち EBA、EIOPAおよび ESMA が共同報告書を発行した。

 欧州委員会の 2021 年 2 月のデジタルファイナンスに関する助言要請への回答である。同助言の主旨は、 高水準の消費者保護を維持し、バリューチェーンの変革、「プラットフォーム化」、および新しい「混合活動グループ」すなわち金融活動と非金融活動を組み合わせたグループの出現から生じるリスク問題に対処することを目的とした提案である。

  ESA は、EU の金融部門における革新的なテクノロジーの使用がバリュー チェーンの変化を促進していること、デジタル プラットフォームへの依存度が急速に高まっていること、新しい複合活動グループが出現している。 これらの傾向は、EU の消費者と金融機関の両方にさまざまな機会をもたらすたが、新たなリスクももたらす。

 したがって、ESA は、EU の金融サービスの規制および監督の枠組みが「デジタル時代の目的に適合」し続けることを確実にするための迅速な行動を推奨している。 提案には情報開示、苦情処理メカニズム、デジタルおよび金融リテラシーの向上など、金融サービスのバリューチェーンの規制と監督、および消費者保護の強化へのアプローチ等全体論が含まれる。 ESA はまた、国境を越えたサービスの分類をさらに集約することを推奨している。

(15) 7 つの作業部会のグループの意見

 2019 年 10 月に発行されたグローバル・ステーブルコインの影響を調査した国際決済銀行(BIS)報告書“G7 Working Group on Stablecoins:Investigating the impact of global stablecoins”の中で、7 か国グループ (G7) ワーキング グループは、グローバル ・ステーブルコインが金融政策の有効性と金融の安定性に、マネーロンダリングとテロリストと戦うための取り締まり管轄区域を超えた取り組みに加えて、国内外で重大な悪影響を及ぼす可能性があると主張している。

 また、通貨の代替を含む、より一般的な国際通貨システムに影響を与える可能性があり、したがって通貨の主権に挑戦する可能性がある。 したがって、ステーブルコインの開発者にとって、関連するすべての法域における健全な法的根拠が不可欠というものである。

 あいまいな権利と義務は、ステーブルコインに対する信頼の喪失につながる可能性がある。これは、特に潜在的に世界的に重要な決済システムにおいて、「容認できないリスク」であり、 公的機関は、リスクを軽減するために世界的に一貫した対応を確保しながら、決済における責任ある革新をサポートするために調整する必要があるというものである。

(16) 関係業界団体の意見

 一部の主要な EU 金融機関(BNB Paribas )、および欧州金融市場協会 (AFME) などの EU 金融機関協会は、規制の提案を歓迎している。クライアントの多様化への欲求に応えて、ビジネスチャンスが生まれる可能性が高く、暗号資産の調和した規制がデジタル時代に適していることを確認した。 しかし、懸念事項として何か問題が発生した場合の暗号資産の管理者の責任を含め、提案については残ると述べる。

 それにもかかわらず、米国ドル(USD)を参照する電子マネートークンに対するMiCA制限の影響に関する共同書簡で、ヨーロッパ・ブロックチェーン協会(Blockchain for Europe:本部ブリュッセル)とデジタル・ユーロ協会(Digital Euro Association) (注10)は、MiCAが規制により、2024.16 から EU で取引量が最大の 3 つのステーブルコインが禁止され、仮想通貨活動が EU から大幅に撤退する可能性がある。 この規制により、短期的にはボラティリティが高くなり、その後流動性が断片化する可能性がある。 さらに、彼らはMiCAによって導入された概念、特に「交換手段」として使用されているトークンの明確化を求めている。

(17) 学術的および専門家の意見

 2018 年に発表された研究で、Guntram Wolff と MariaDemertzis は、暗号資産の開発によって提起された 6 つの主要な公共政策の問題を指摘した。

(ⅰ) 高度な金融システムにおける暗号資産の可能性はどれくらいか?

(ⅱ) マネーロンダリングやテロ資金などの違法行為に対抗する最善の方法は何か?

(ⅲ) 消費者と投資家の保護をどのように確保できるか?

(ⅳ) 金融の安定性はどうか?

(ⅴ) 暗号資産はどのように課税される可能性がある?

(ⅵ) ブロックチェーン・アプリケーションを既存の法的枠組みに組み込む方法は如何?

 この著者は、EUの規制は正しいアプローチであるが、それは世界レベルで調整されるべきであり、G20 (G20) および金融安定理事会(FSB)11/29(88)レベルで行われるべきであると主張している。 後者(金融安定理事会)は6 つの政策課題に対処する規制基準を設定し、新しい技術がもたらす機会を確実に活用しながら、新しい技術のリスクを管理すべきとする。 EU レベルでは、政策立案者や暗号資産の監督を国レベルから EU レベルに移行する必要がある。 異なる監督慣行は実験を可能にするが、首都での監督慣行の相違市場の統合には、特にモバイル性の高い暗号資産の場合、重大な欠点が伴う可能性があるとした。

 2020年にECON委員会の具申に基づき発表された研究(Crypto-assets:Key developments,regulatory concerns and responses)で、Robby HoubenとAlexander Snyersは、既存のプラットフォームで資金を調達するために発行された「プライベートトークン」の数が大幅に増加し、「ステーブルコイン」とステーブルコインのイニシアチブが出現していることを観察している。これらの新しいイニシアチブは、グローバルな影響を伴って非常に急速に拡大する可能性があるため、「グローバル・ステーブルコイン」として知られている。グローバル・ステーブルコインは、金融包摂の促進等金融システムにいくつかの利点をもたらす可能性がある。

 しかし、その世界的な規模は、金融の安定性と金融政策に新たな課題とリスクをもたらす。さらに、著者らは、EU の金融法は、金融機関が暗号資産を保有または取得すること、または暗号資産に関連するサービスを提供することを禁止していないと主張する。さらに、金融犯罪、マネーロンダリング、テロリストの資金調達に暗号資産が適しているかどうかは、取り組む必要のある問題であると指摘する。

(18) 欧州議会の立法プロセス

 2020 年 11 月 13 日の本会議で発表されたこの提案は、欧州議会で経済通貨問題委員会 (ECON) に付託された。

報告者は Stefan Berger (EPP、ドイツ) である。 意見を求めた委員会は次のとおりである。

1)予算委員会 (Committee on Budgets (BUDG))、2)産業・調査・エネルギー委員会(Industry, Research and Energy (ITRE)、3)域内市場と消費者保護 (Internal Market and Consumer Protection:IMCO)、4)市民の自由、司法と内務委員会 (Civil Liberties, Justice and Home Affairs:LIBE)、5)法務委員会 (Legal Affairs:JURI)であり、これらすべてが意見を言わないで決定を下すものである。

(19) 議会の交渉上の立場

 機関間交渉に関する報告書(REPORT on the proposal for a regulation of the European Parliament and of the Council on markets in crypto-assets and amending Directive (EU) 2019/1937)は、2022 年 3 月 14 日に ECON 委員会で採択された。

 このECONレポートがもたらす最も注目すべき変更点は、暗号資産の定義と規制の範囲の詳細が含まれる。 このレポートは、投資目的で提供されない限り、この規制はユーティリティ・トークンには適用されないことを明記しており (recital9)、ESMA にさらに技術的に具体的な定義を要求している。

 また、暗号資産の「オファー」を挿入および定義する。これは、あらゆる種類の暗号資産を一般に提供するか、暗号資産の取引プラットフォームへの暗号資産の承認を求める法人である。 報告書はまた、強化された情報提供と監督を提案し、単一の EU 監督者の設立を示唆しています。

 この報告書は、EMT に関する特定の情報を要求する EBA の権限を強化している (第 104a 条)。

 最後に、同レポートは、暗号資産の環境への影響に関する考慮事項を紹介し、関連情報をホワイトペーパーで提供する必要があることを示している。

(20) 機関間交渉による合意経緯

 欧州連合理事会と欧州議会は、2022 年 6 月 30 日に予備合意に達し、2022 年 10 月 5 日に常任代表者委員会 (Coreper) で承認とECON によって承認された。

 2022 年 10 月 10 日の欧州委員会での最終的な法案テキストは、欧州議会の本会議で投票され、その後、欧州連合理事会で投票される。

2.EUにおけるデジタル金融(暗号資産市場(MiCA)規制法案)審議のタイムライン

https://www.consilium.europa.eu/en/policies/digital-finance/をもとに、筆者の責任で追加した。

〇2022.11.28  理事会がデジタル運用レジリエンス法を採択

 欧州連合理事会は、ヨーロッパの金融セクターが深刻な運用上の混乱を通じて回復力を維持できるようにする「デジタル運用回復力法(Digital Operational Resilience Act :DORA)」を採択した。サイバー攻撃のリスクがますます高まっていることを考えると、EUは銀行、保険会社、投資会社などの金融機関のITセキュリティを強化している。

 DORAは、金融セクターで活動する企業や組織、およびクラウドプラットフォームやデータ分析サービスなどのICT関連サービスを提供する重要なサードパーティのネットワークおよび情報システムのセキュリティに関する統一要件を設定する。

 DORAは、デジタル・オペレーショナル・レジリエンスに関する規制の枠組みを作成し、すべての企業があらゆる種類のICT関連の混乱や脅威に耐え、対応し、回復できるようにする必要がある。これらの要件は、すべてのEU加盟国で同質です。主な目的は、サイバー脅威を防止および軽減することである。

 〇2022.11.28 デジタルファイナンス:理事会がデジタルオペレーショナルレジリエンス法を採択(プレスリリース、2022年11月28日)

 〇2022.10.5デジタルファイナンス:EU加盟国の大使によって承認されたMiCA協定の暫定合意

 議会常任代表委員会(Coreper)は、暗号資産市場(MiCA)規制に関する暫定合意を承認した。これで、正式な導入プロセスを開始可能なる。

*暗号資産の市場に関する欧州議会と理事会の規制に関する提案

〇2022.6.30 デジタルファイナンス:欧州暗号資産規制(MiCA)で暫定合意

 欧州連合理事会議長国と欧州議会は、暗号資産市場(MiCA)提案に関する暫定合意に達した。

 MiCAの目的は、継続的な革新を可能にし、急速に進化している暗号通貨セクターの魅力を維持する暗号資産市場の規制の枠組みを作成することにより、投資家を保護し、財務の安定性を維持することである。

 MiCAは、暗号資産への投資の危険性のいくつかにつき消費者を保護し、詐欺的なスキームを回避するのに役立つ。暗号資産サービス・プロバイダーは、投資家の暗号資産を失った場合に責任を負うようになる。

*デジタルファイナンス:欧州暗号資産規制(MiCA)で合意(プレスリリース、2022年6月30日)

〇2022.5.11 デジタルファイナンス:DORAに関する暫定合意

 欧州連合理事会と欧州議会は、欧州の金融セクターが深刻な運用の中断を通じて回復力のある運用を維持できるようにするデジタル運用レジリエンス法(DORA)に関する暫定合意に達した。

 DORAは、デジタル・オペレーショナル・レジリエンスに関する規制の枠組みを作成し、すべての企業があらゆる種類のICT関連の混乱や脅威に耐え、対応し、回復できるようにする必要がある。

*デジタルファイナンス:DORAで暫定合意(プレスリリース、2022年5月11日)

〇2022.2.25 ユーログループは、デジタルユーロでの作業の現状を評価

 欧州中央銀行と欧州委員会は、デジタルユーロに関するユーログループを更新した。その後、ユーログループ(注11)は、ユーロシステムと欧州委員会がデジタルユーロで実施した作業を支持する声明を発表した。この調査作業は、慎重かつ徹底的な分析に基づいて構築する必要があり、プロセス中のユーログループメンバーの見解から利益を得るであろう。

 デジタルユーロの創設には、欧州連合議会の介入も必要になる。委員会は、TFEU第133条に基づいて提案を行う予定である。この文脈において、ユーログループは、立法前のプロセスの一環として、デジタルユーロに関する的を絞った公開協議を開始するとの欧州委員会の意図を歓迎した。

*デジタルユーロプロジェクトに関するユーログループの声明(プレスリリース、2022年2月25日)

〇2021.11.24 デジタルファイナンスパッケージ:理事会がMiCAとDORAについて合意に達する

 欧州連合理事会は11月24日、デジタルファイナンス・パッケージの一部である2つの提案、「暗号資産の市場に関する規制」(MiCA)「デジタル運用レジリエンス法」(DORA)に関する立場を採択した。この合意は、欧州議会との三位一体交渉のための理事会の交渉マンデートを形成する。

Adoption of the Council negotiation mandate on the digital finance package

〇2021.3.22 理事会、リテール決済戦略に関する結論を採択

 欧州連合理事会は、2020年9月に欧州委員会によって提示されたEUの小売決済戦略に関する結論を採択した。閣僚は、EUにおける革新的で競争的な小売決済市場のための包括的戦略を歓迎し、欧州委員会に対し、適切な場合には立法提案を提出する強いマンデートを与えた。

*「欧州連合のための小売決済戦略」に関する欧州委員会のコミュニケーションに関する理事会の結論

*小売決済:EU理事会は即時決済とEU全体の決済ソリューションを促進するための行動を支持(プレスリリース、2021年3月22日)

〇2021.1.21 加盟国が分散型台帳技術に関する協定を承認

 EU大使は、分散型台帳技術(DLT)に基づく市場インフラのパイロット体制に関するスロベニア欧州連合理事会議長国と欧州議会の交渉担当者の間で2021年11月24日に到達した暫定的な政治合意を承認した。このパイロット制度は、DLT市場インフラストラクチャを運営する許可を取得するための条件を定め、どのDLT金融商品を取引できるかを定義し、DLT市場インフラストラクチャの運営者、国の管轄当局、および欧州証券市場監督局(ESMA)間の協力の詳細を提供する。

 3年間実施されるパイロット制度は、EUのイノベーションと競争力を強化し、それによって欧州がデジタル経済に備えるのに役立つ。DLT規制は、2020年9月に欧州委員会によって提示され、暗号資産(MiCA)、デジタル運用レジリエンス(Digital Operational Resilience Act (DORA))、および補完的な修正指令の市場に関する提案とともに、デジタル・ファイナンス・パッケージの一部である。

 EU大使による承認に続いて、暫定政治協定は理事会と欧州議会によって正式に採択される。

 分散型台帳技術:加盟国が欧州議会との合意を承認(プレスリリース、2021年12月21日)

〇2020.11.3 ユーログループがデジタルユーロの利点と課題について議論

 ユーログループは、デジタルユーロの将来の導入の可能性の利点と課題について戦略的な議論を行った。これは、2021年6月までのユーログループの作業プログラムに含まれる優先事項の1つである。

 2020年10月の欧州中央銀行(ECB)の報告書が議論へのインプットとして役立った。

 我々は、ECBに対し、デジタルユーロの発行の可能性に関するモデル及びオプションとの関連で作業を追求することを奨励する。それまでの間、我々は、我々の通貨主権、金融の安定、銀行の資金調達、消費者保護及びユーロの国際的役割に対するこのプロジェクトの影響を検討する。

パスカル・ドノホー、ユーログループ議長(注11)

ユーログループのビデオ会議の概要、2020年11月3日

ユーログループ作業プログラム

 〇2020.10.6 欧州連合理事会がデジタル・ファイナンス・パッケージについて議論

 加盟国の財務大臣は、2020年9月24日に欧州委員会が提示したデジタル・ファイナンス・パッケージについて意見交換を行った。彼らはパッケージに対する幅広い支持を表明した。

 ドイツの理事会議長は、暗号資産と運用上の回復力に関する立法提案に集中的に取り組む予定であった。

 経済・財務大臣のビデオ会議の概要、2020年10月6日

2020.9.24 2020 年 9 月 24 日、欧州委員会は、EU の金融部門のデジタル運用レジリエンスに関する規制の提案を公開し、堅牢でレジリエントな進行中の金融のデジタル トランスフォーメーションへの道をさらに開いた。

〇2019.12.5 「ステーブルコイン」に関する理事会と委員会の共同声明

 欧州連合理事会と欧州委員会は、「ステーブルコイン」に関する共同声明を採択した。この声明は、ステーブルコインが安価で迅速な支払いの観点からもたらす機会だけでなく、それらがもたらす課題とリスクを強調している。

 この声明は、法的、規制上の課題とリスクが適切に特定され対処されるまで、EUでグローバルなステーブルコインの取り決めを開始すべきではないことを確認している。

*「ステーブルコイン」に関する理事会と委員会の共同声明、2019年12月5日

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(注10) デジタル・ ユーロ ・アソシエーション (DEA) は、中央銀行のデジタル通貨 (CBDC)、ステーブルコイン、暗号資産、およびその他の形態のデジタル マネーを専門とするシンクタンクである。 特に、プライベートおよびパブリックのデジタルユーロに焦点を当てている。

(注11) ユーログループとは、ユーロを法定通貨とする欧州連合の加盟国であるユーロ圏各国の財務相による会合。通貨ユーロや、安定・成長協定などの欧州連合における通貨同盟にかかわる案件などに対する政治的な統制を担っている。ユーログループの議長を務めるのはパスカル・ドノホー(Paschal Donohoe: アイルランドの財務大臣)である。

 Paschal Donohoe, President of the Eurogroup

 ユーログループの会合は欧州連合理事会の経済財政理事会の前日に行なわれる。ユーログループは経済財政理事会との関連があり、経済財政理事会におけるユーロ関連の案件にはユーログループの各国のみが採決に加わることになっている。またユーログループはリスボン条約の発効によって法的な根拠を持つようになった。(Wikipediaから抜粋 )

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欧州議会はまもなく暗号資産市場 (MiCA) に関する規制の採用について採決を行うーその具体的検討経緯を巡る最新動向―(その1)

2022-12-05 16:08:19 | 海外の通貨・決済システム動向

 

 筆者は11月1日付けブログで英国の金融規制当局である金融行動監視機構(FCA)から暗号資産に対する金融プロモーションやその他の活動を規制する法律の権限拡大等を目的とする「2000年金融サービスおよび市場法(Financial Services and Market Act  2000(以下、「FSMA」という)」の改正案についての解説を取り上げた。

 その際、欧州連合(EU)における「暗号資産市場規制(MiCA)」については簡単に言及したが、機会を改めて詳しく解説したいと書いた。

 今般、筆者の手元に欧州連合議会のThink Tankである“European Parliamentary Research Service (EPRS)”からレポ―トが届いた。

 その内容を要約すると、欧州議会はまもなく暗号資産市場 (MiCA) に関する規制の採用について採決を行う。この規制は、EU全体 レベルでの暗号資産に関する調和のとれた規則を確立し、それによって既存の EU 法ではカバーされていない暗号資産に法的確実性を提供する。消費者と投資家の保護と金融の安定性を強化することにより、この規制は金融革新と暗号資産の利用を促進させるというものである。

この規制は、3 種類の暗号資産、つまり、1)資産参照型トークン (asset-referenced tokens :ART)、電子マネートークン (electronic money tokens :EMT)、および3)既存の EU 法でカバーされていないその他の暗号資産を識別し、対象としている。

 これまで、筆者はEUのこの問題への取り組み動向に強い関心を持っていたが、検討経緯も含め網羅した解説はEU内外の大手ローファームでも取り上げられたものは少ない。

 一方、このブログで頻繁に取り上げているとおり、米国等で暗号資産を巡る被害者数や被害金額が極めて大きく、かつ手口が巧妙な詐欺的犯罪が後を絶たない。

 今後、わが国のおいても個人の金融資産をねらって暗号資産詐欺が特殊詐欺の次に急速に被害が拡大することは間違いなかろう。

 その意味で、今回のブログはあえてEPRSのレポートや欧州議会のMiCAの解説サイトを引用しながら、関係機関と意見調整結果等も踏まえ体系的な解説を試みるものである。なお、わが国での法制整備のうえでも参考となるよう考慮した。

 最後に、筆者はEPRSのレポートを読むうえで参考にしたSkadden, Arps, Slate, Meagher & Flom LLP のレポート11/29(69)を改めて読んで「目から鱗が落ちた」感である。機会を改めて紹介したい。同事務所は、ニューヨーク市に本社を置くアメリカの多国籍法律事務所である。1948年に設立された当事務所は、収益で一貫して米国のトップ法律事務所にランクされており、また同事務所は、会社の合併と買収に関する取り組みで知られている。ただし、ロシアとの関係でスキャンダルも起こしている。

今回のブログは2回に分ける。

1.EPRSのレポート(詳細版)の要約

進行中のEU法「暗号資産市場 (MiCA)」法案の概要】

 この法律は、暗号資産の発行と取引、および該当する場合は原資産の管理を規制し、特に「重要な」ART と EMT を対象とした追加の規制規則を追加する。交渉の結果得られた暫定合意は、暗号資産の流動性と償還を確保することを目的としており、投資家へのコミュニケーションに暗号資産の環境への影響を含めることを想定している。

【暗号資産市場規制にかかる欧州議会および欧州連合理事会の規則の提案、および指令 (EU) 2019/1937 の修正案について】

欧州議会の担当委員会: 経済・通貨問題委員会(ECON)COM(2020) 593 24.9.2020 (注1)

報告者: シュテファン・ベルガー(Stefan Berger):欧州人民党グループ:EPP、ドイツ)2020/0265(COD)

Stefan Berger 氏

影の報告者: エーロ ・ヘイナローマ(Eero Heinäluoma) :社会・民主主義進歩連盟グループ:S&D、フィンランド)

オンドレイ・コバリク(Ondřej Kovařik):リニューヨーロッパ:Renew Europe、チェコ)

エルネスト・ウルタスン (Ernest Urtasun ):欧州緑の党・欧州自由連盟グループ:Greens、スペイン)

アントニオ・マリア・リナルディ(Antonio Maria Rinaldi):アイデンティティーと民主主義:ID、イタリア)

アンジェリカ・A・モジャノフスカ(Andżelika A. Możdżanowska ):(欧州保守改革グループ:ECR、ポーランド)

クリス・マクマナス(Chris Macmanus) (欧州統一左派: The Left、アイルランド)

〇通常の立法手続 (COD):欧州議会と欧州連合理事会が対等の立場で審議 -以前は「共同決定」)

〇予想される次のステップ: 最終の欧州議会第一読会→本会議での投票

(1)はじめに

 2020 年 9 月 24 日、欧州委員会は暗号資産市場 (MiCA) に関する規制の提案を提出し、指令 (EU) 2019/1937 を修正した。この提案は、欧州連合の機能に関する条約(TFEU)の第 114 条に基づいており、域内市場内での設立や機能につき欧州連合 (EU) に加盟国の法律を近似するための適切な規定を制定する権限を与えている。(TFEU第 26 条参照)。

 新しい規制は、暗号資産の発行と取引の許可に関する透明性と開示要件を確立する。 また、暗号資産サービス・プロバイダー、資産参照トークン (asset-referenced tokens :ART) (注2)(注2-2)の発行者、および電子マネートークン (electronic money tokens :EMT) (注3)の発行者の承認および監督について定める。さらに、 ARTの発行者、EMTの発行者、および暗号資産サービス・プロバイダーの運営、組織、およびガバナンスを規制する。 また、暗号資産の発行、取引、交換、保管に関する消費者保護規則、および暗号資産市場の完全性を確保するための市場の乱用を防止するための措置も提供する。

 この提案には 4 つの具体的な目的がある。 第一に、金融サービスに関する既存の EU 法でカバーされていない暗号資産に法的枠組みを提供することである。第二に、合法性(sound)を設定し、透明性のある法的枠組みにより、イノベーションをサポートし、暗号資産を促進し、分散型台帳技術 (DLT) の幅広い使用を促進する。第三に、提案は適切なレベルの消費者と投資家の保護と市場の完全性を提供する。最後に、第四として暗号資産の一部が「広く受け入れられ、体系化される可能性がある」ため、金融の安定性を向上させる。

(2)これまでの検討経緯

 欧州委員会は、2018 年 3 月に、暗号資産によってもたらされる機会と課題を検討する「より競争力のある革新的な欧州金融セクター」を目指した「FinTech 行動計画(FinTech action plan) 」 を発表した。これは、 最新の開発では、2017 年に暗号資産、特に安定化機能を組み込んだ「ステーブルコイン」が大幅に急増したこと等が示している。ステーブルコインの規模は依然として小さく、現在の状態では体系的な脅威をもたらす可能性は低いが、ステーブルコインの市場は将来大幅に拡大する可能性があるというものである。

 この提案は、ヨーロッパをデジタル時代人々のために機能する経済に適合させるという同委員会の優先事項の一部であり、これは、投資家のリスクを軽減しながら、技術革新と競争の観点からデジタル金融の可能性をサポートすることを目的とした「デジタル金融パッケージ (digital finance package :DFP)」 のコンポーネントといえる。

 DFP には、デジタル ファイナンスに関する戦略と 次の3 つの提案が含まれている。(1)分散型台帳技術 (DLT) 市場インフラストラクチャのパイロット体制に関する規制、(2)金融セクターのデジタル運用レジリエンスに関する規制、(3)関連する特定の EU 金融サービス規則を修正する指令である。

 (3) 金融証券市場に関する EU 規制の現在の状況

 金融証券市場に関する EU 規制は、第二次金融商品の市場に関する指令 (EU) 2014/65 (MiFID (注4)によって主に管理されている。

 特に、MiFIDⅡ は、「金融商品」(附属書(Annex) I、セクション C) および「譲渡可能証券」(第 4 条(44)を定義し、適用する。

 MiFIDⅡ に基づく証書は、加盟国による「譲渡可能な証券」の概念の適用に依存する。 暗号資産は、他の加盟国ではなく、ある加盟国では「譲渡可能な証券」と見なされる可能性があり、EU 単一市場の断片化につながる。 さらに、暗号資産の範囲は非常に多様であり、その多くはハイブリッド機能を含んでいるため、一部の「投資トークン」は譲渡可能な証券またはその他の金融商品と見なすことができる。

(4) 欧州議会の検討開始の位置

 2020 年 10 月 8 日のデジタル金融(digital finance)(暗号資産の新たなリスク)に関する独自の決議で、欧州議会は MiCA に関する立法提案を含む DFP を承認した。これは、法的に明確化し、新しい規制制度を策定するために、タイムリーで必要かつ不可欠なものである。

 このイニシアチブによると、デジタル ファイナンスは、資本市場同盟 (CMU) (注5)の成功の要因となるであろうし、同時に企業と市民に追加の資金調達オプションと投資オプションを提供する。 この決議は、デジタル金融の監視と規制のための措置を実施する必要性が高まっていることを強調している。

 また、欧州議会はデジタル金融の新しいまたは更新された法律および監督は、同じ活動とサービスおよび関連するリスクが同じ規則の対象となることを保証する必要があると考えている。

 さらに、均衡性(proportionality)と技術的中立性(technological neutrality) 、透明性と説明責任、基本的権利の尊重特にプライバシーと個人データの保護の領域における尊重、消費者と投資家の保護の高レベル化、公平な競争条件、および イノベーションに優しいアプローチを保証する。

 最後に、その規制はイノベーションの促進、金融の安定、消費者と投資家の保護の間でバランスを見つける必要がある。 また欧州議会は、欧州委員会に対し、金融の革新と安定の利益のために、デジタル金融サービスのための汎欧州サンドボックスのための EU レベルの枠組みを確立するよう求め、他の欧州監督機関 (ESAs) (注6)(注7) と協力するEU各国の管轄区域の国家監督当局(NCAs)を提案している。

(5) 欧州連合理事会の検討の開始位置

 ステーブルコインに関する 2019 年 12 月 5 日の声明で、欧州連合理事会は、欧州委員会と共同で、「適切な消費者保護基準と秩序ある金融財政状況」を確保するために必要な措置を講じる用意があると宣言し、「グローバルなステーブルコインは存在しない」と宣言した。 この取り決めは、法律、規制、監督上の課題とリスクが適切に特定され、対処されるまで、EU での運用を開始する必要がある。 ただし、技術革新は、競争と金融包摂を促進し、消費者の選択肢を広げ、効率を高め、コストを削減することにより、金融部門に「大きな経済的利益」をもたらすと、明記した。

 欧州連合理事会にとって、「ステーブルコイン」は、特に国境を越えた支払いにおいて、安価で迅速な支払いの機会を提供する可能性がある。

 ただし、ステーブルコインは、消費者保護、課税、サイバーセキュリティ、マネーロンダリング、テロ資金調達、市場価格操作、および法的確実性に対する挑戦やリスク問題を課す。

 さらに一部のステーブルコインは、将来的に到達する可能性のある巨大で国際的な規模になる可能性があるため、経済的安定性の良好さとともに、通貨主権や金融政策などの領域に関する懸念が生じる。

したがって、「ステーブルコイン」の取り決めに関する法的明確性が必要であり、「ステーブルコイン」を発行する事業体は、適切な評価を可能にするために完全かつ適切な情報を提供する必要がある。

(6)欧州委員会の提案の準備

 欧州委員会の提案には影響評価 (COMMISSION STAFF WORKING DOCUMENT IMPACT ASSESSMENT:SWD(2020) 380) が付随しており、EU の金融規制の対象となる暗号資産とそうでないものを区別している。

 暗号資産が EU の金融規制でカバーされていない場合、一部の加盟国は国レベルで特注の規制を導入し、単一市場内で規制の断片化と歪んだ競争を生み出している。 また、異質な規制により、暗号資産サービス・プロバイダーが EU 全体で活動を拡大することがより困難となり、銀行が規制の抜け穴を悪用して、国やセクターによってルールが異なるという事実、つまり「規制に対する裁定取引(regulatory arbitrage')」(注8)を利用するリスクが生じる。

  最も懸念されているステーブルコインの規制上の取り扱いは、その特定の設計に依存する必要がある。また 消費者保護と市場の完全性も深刻な問題になっている。

 EUおよび国レベルでの監督措置は、さまざまな結果をもたらした。

投資家を保護する条件と詐欺対策が重要であり、時間の経過とともに一定であるという証拠がある。 さらに、暗号資産が EU 法でカバーされている場合、既存の EU 金融規制の適用方法について法的な確実性が欠如している。

 この影響評価では、次の 2 つのオプションが提案されている。

〇 オプション 1: 規制されていない暗号資産のオプトイン体制。 投資家保護の強化と市場の完全性のおかげで、EU の暗号資産市場に対する信頼度は高まるであろう。 サービス・プロバイダーは、国境を越えて活動を拡大することもできる。 それでも、市場の断片化が完全に解消されるわけではない。

〇 オプション 2: 完全なハーモナイゼーション。 これにより、EU 全体で同レベルの投資家保護と市場の完全性から恩恵を受ける市場参加者の法的な透明性が強化される。 サービス・プロバイダーを規制することで、金融の安定性が高まり、大きな市場規模が期待できまる。 これにより、EU における規制上の裁定取引のリスクが大幅に軽減される。

(7) 欧州委員会提案がもたらす変化

 欧州委員会が提案した規制案は、既存の EU 法でカバーされていない暗号資産に法的確実性を提供する。 それは、既存の国家的枠組みに取って代わり、EU レベルでの暗号資産の統一ルールを確立する。 この規制は、ステーブルコインが「電子マネー」である場合を含め、ステーブルコインに関する特定のルールも設定する予定である。提案された規則は、9 つの編に分かれる。

【範囲と一般的な機能】

 第 I 編は、規制が暗号資産サービスのプロバイダーと発行者に適用されることを示し、発行、運用、暗号資産サービス・プロバイダーの組織とガバナンスを定める。

  また、消費者保護規則と市場の乱用を防止するための措置も確立しており、規制の範囲は、EU の金融サービス法に基づく金融商品、預金、または仕組預金としての資格を持たない暗号資産に及ぶ。

  提案は、参照された暗号資産の用語と定義を設定する。

 この規則により、欧州委員会は定義のいくつかの技術的要素を特定し、それらを市場および技術開発に合わせて調整する委任法を採用することができる。

暗号資産とサブタイプの提案定義 (第 3 条):

〇 「暗号資産」は、「分散型台帳技術(DLT または同様の技術) (注9)を使用して、電子的に転送および保存できる価値または権利のデジタル表現」の総称である。

〇「資産参照型トークン」(ART)は、法定通貨(法定通貨)、1 つまたは複数の商品、または 1 つまたは複数の複数の通貨、またはそのような資産の組み合わせの価値を参照することにより、安定した価値を維持することを意図した暗号資産の一種である。

 〇「電子マネー トークン」(電子マネー トークン(e-money token':EMT) は、法定通貨である法定通貨の価値を参照することで、交換の手段として安定した価値を維持する暗号資産の一種である。

〇資産参照型トークンと電子マネー トークンは、しばしば「ステーブルコイン」と呼ばれる。

〇「ユーティリティ・トークン(utility token)」は、DLT で利用可能な商品またはサービスへのデジタル・ アクセスを提供することを目的としており、そのトークンの発行者によってのみ受け入れられる。

 この提案には、ART と EMT (第 II 編 )、ART (第 III 編)、EMT (第 IV編 ) 以外の、暗号資産の承認規則を設定する 3 つの編が含まれている。

 特に、発行者は法人の形態で設立されなければならず、情報要件を定めた白書(white paper)を提供する必要がある。 第 5 条には白書の内容が記載されており、提案には白書の最小限の内容を示す附属書が添付されている。

 権限のある当局は、提供を一時停止または禁止する権限を持ち、追加情報を含めることを要求する。また、暗号資産白書に記載するか、発行者が規制を遵守していないという事実を公表する。

 EU での運営を認可されるには、ART の発行者は法的な形で組み込まれる必要がある。

 EU で設立され、EU で承認された事業者であり、管轄当局によって承認されたものは暗号資産のホワイト ペーパーを公開する必要がある。

 EMT(第 IV編)に関しては、発行者は、信用機関として、または指令 2009/110 の第 2 条(1)(電子マネー指令として知られている指令)に定める電子マネー機関として認可されねばならない。

  第 46 条と附属書 III は、EMT の発行に伴う要件、たとえば、1)発行者とプロジェクトの説明、2)EMT の一般人への提供、または3)これらの取引プラットフォームへの承認に関するものかどうかの表示、4)発行者とEMTに関連するリスクに関する情報等、暗号資産ホワイト ペーパーの要件を規定している。

(8) 重要な ART と EMT

 欧州銀行監督局 (EBA) は、第 39 条 (1) および (6) に規定された規則に基づいて ART および EMT が重要であるかどうかを判断する詳細を規定するが、特に以下のしきい値を提供する。

①顧客ベース: しきい値は、200 万人の自然人または法人を下回ってはならない。

② ART の価値または時価総額: しきい値は 10 億ユーロを下回ってはならない。

③ トランザクション数: しきい値は 1 日あたり 500,000 を下回ってはならない。

④ 取引量: しきい値は、1 日あたり 1 億ユーロを下回ってはならない。

⑤ 使用する加盟国の数: 閾値は 7 より低くしてはならない。

 第 39 条には、発行者の ART が重要であると見なされる状況としきい値をさらに特定する委任法を委員会が採択する権限も含まれている。

 重要な EMT の発行者には、さらに追加の義務が適用される。

(9) 管轄当局

 権限のある当局とそれぞれの権限は第 VII 編に記載されている。第 1 章は、EU 加盟国が、規則によって提供される機能と義務を実行する責任を負う国家管轄当局 (NCA) を指定し、EBA と欧州証券市場機構 (ESMA) に通知することを定めている。 NCA の権限には、サービス提供者および管理機関のメンバーに情報と文書を提供するよう要求することが含まれる (第 82 条)。

 この提案では、NCA が暗号資産サービスを一時停止または禁止する権限を持つことも想定している。

第 2 章では、NCA が課すことができる行政制裁と措置について詳しく説明している。 最後に、第 3 章では、EBA が ESMA および欧州中央銀行システムと協力して、最も関連性の高い取引プラットフォームと保管機関(custodians)を決定するための規制基準の草案を作成する必要があることを示している。

(10) その他の編: 承認と市場の悪用

 第 V 編は、暗号資産サービス プロバイダーの承認と運用条件に関する規定を定めている。 また、第 VI編 は、暗号資産を含む市場の乱用を防止するための禁止事項と要件を定めている。

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(注1) 欧州議会、ブレグジットに伴い議席配分を見直し結果(JETROビジネス通信から抜粋)

中道右派「欧州人民党(EPP)グループ」:187議席(5議席増)→26.6%

中道左派「社会・民主主義進歩連盟(S&D)グループ」:148議席(6議席減)→21.0%

穏健リベラル会派「リニュー・ヨーロッパ(RE)」:97議席(11議席減)→13.8%

環境政党系会派「欧州緑の党・欧州自由同盟(GREENS/EFA)グループ」:67議席(7議席減)→9.5%

極右派「アイデンティティーと民主主義(ID)」:76議席(3議席増)→10.8%

保守系会派「欧州保守改革(ECR)グループ」:62議席(4議席減)→8.8%

左翼系「欧州統一左派・北欧緑左派連盟(GUE/NGL)」:40議席(変更なし)→5.7%

無所属:27議席(26議席減)→3.8%

(注2) 資産参照トークン (asset-referenced tokens :ART)

EUが提案する暗号資産市場規制に基づく資産参照トークンに関する解説を一部引用し、仮訳する。

〇資産参照トークン(「ART」)を構成するものは何か?

 MiCAの下では、暗号資産は「法定通貨である複数の法定通貨、1つまたは複数の商品、1つまたは複数の暗号資産、またはそのような資産の組み合わせを参照することにより安定した価値を維持する」と主張する場合、「資産参照トークン」である。

 MiCAがARTに特に焦点を当てているのは、当時呼ばれていたFacebook/MetaのLibraプロジェクト(注2-2)の直接の結果であると推測されている。Libraプロジェクトには、Facebookのソーシャルネットワークと共同で使用されるグローバル・デジタル通貨の提案が含まれ、現実世界の法定通貨の加重バスケットから価値が導出されるLibraトークンの開発が含まれていた。このプロジェクトは、国境を越えた取引で決済コインとして機能する新しいタイプのデジタルグローバル通貨を投資することを目的としていた。

ARTとしてのステーブルコインとは?

 ARTの定義内で提案された法定通貨に固定されているように見える「安定した価値」トークンの言及は、簡単に誤解される可能性がある。米ドルに固定され、米ドルに裏打ちされた人気のあるステーブルコイン(USDT、USDC、BUSDなど)がMiCAのARTカテゴリに分類される可能性があると考えることに混乱することは容易に理解できます。ただし、MiCAがARTを「複数の法定通貨の価値を指す」と説明しているため、1つまたは複数の商品または1つまたは複数の暗号資産があるため、MiCAは米ドルに裏打ちされたステーブルコインをARTカテゴリから除外しているようである。

 ただし、法定通貨の準備金に裏打ちされたステーブルコインは、「電子マネートークン」と見なされる。これらは、法定通貨である法定通貨の価値を参照することにより、安定した価値を維持することを目的とした暗号資産である。

発行体のガバナンスとポリシー

 MiCAの主な目的の1つは、暗号資産発行者、事実上、特定の暗号資産の機能を発行および定義する組織、および資産の配布方法を規制することである。この理由は、現在、消費者保護が事実上ない暗号業界/市場の規制されていない性質による。規制当局は、発行者側の詐欺や欺瞞的な慣行などのリスクを懸念している。これに照らして、MiCAがART発行者の内部ポリシーを精査および規制することを目指していることは理にかなっている。

経営機関および株主の要件

 MiCAの規制上の焦点のさらなる分野は、ARTを発行する組織を所有および管理する人々である。 MiCAは、ART発行者の管理機関(事実上の最高経営責任者)が特定の基準を満たすことを要求している。ART発行体組織が会社である場合、発行者の管理者と株主も一定の基準を満たす必要がある。

ART発行者の管理機関のメンバーは、評判が良く、職務を遂行するために必要なスキルと資格を持っている必要がある。このような経営陣のメンバーは、マネーロンダリング防止とテロ資金供与との闘いを目的として、適切かつ適切である必要がある。

利息付与の禁止

 MiCAは、ARTが価値の保存手段としてではなく、主に交換手段として使用されることを保証するために、ART発行者(および暗号資産サービスプロバイダー)は、ARTのユーザーまたは所有者に利益またはその他の利益を与えることは許可されていないと述べている。

 これにより、ARTは、問題のARTに植え付けられる可能性のある権利、利益、または権限を授ける能力を持つことから事実上奪われる。

公募前の承認の要件

 ART発行者は、関連する管轄当局から許可されるまで、EU内でARTを一般に公開する(またはARTを取引プラットフォームに認めようとする)ことを禁じられている。MiCAはまた、EU内で設立された法人のみがそのような承認を付与できることを明確にしています。MiCA提案の重要な特徴は、所管官庁によって付与された認可が連合全体で有効になることである。

認可申請

 EUでの運営を承認されるためには、ARTの発行者はEUに設立された法人の形で設立されなければならない。発行者がEUで認可されておらず、発行者が管轄当局によって承認された暗号資産ホワイトペーパーを発行していない場合、ARTをEUで一般に提供したり、取引プラットフォームでの取引を許可したりすることはできない。

 管轄当局は、ART発行者から承認申請を受け取ると、まず申請が完了したかどうかを直ちに申請者に通知する。その後、管轄当局は、3か月以内に、申請者の発行者がMiCAの要件に準拠しているかどうかを評価し、承認を付与または拒否する決定草案を公開する。この決定草案は、申請者の発行者、欧州銀行監督局(「EBA」)、欧州証券市場監督局(「ESMA」)、および欧州中央銀行(「ECB」)に送信される。申請者の発行者は、決定草案に関するコメントを管轄当局に提供する権利を有する。

 決定草案と申請、EBA、ESMAを受け取ってから2か月以内に、ECBは申請について拘束力のない意見を発表し、関係当局に送付する。その後、その管轄当局は、これらの拘束力のない意見、および申請者発行者のコメントを適切に検討する。その後、管轄当局は、1か月以内に、5営業日以内に通知される申請者発行者に承認を与えるか拒否するかについて、十分に合理的な決定を下す。

ARTのホワイトペーパー

 MiCAは、認可を受ける前に、ART発行者が関連する管轄当局(通常は発行者の関連する加盟国の主要な金融サービス当局または中央銀行)にホワイトペーパーを提出する必要があると規定している。このようなホワイトペーパーはトークン目論見書に似ており、今日の暗号業界で一般的なホワイトペーパーと完全に異ならないわけではない。ただし、MiCAが要求するホワイトペーパーには、問題のARTの発行に関する具体的な詳細と、発行者自体の管理方法に関する詳細を提供する必要がある。ホワイトペーパーで提供されるすべての情報は、完全で公正であり、誤解を招くものであってはならない。

ホワイトペーパーの承認と公開

 MiCAは、申請者の発行者が承認された場合、その暗号資産ホワイトペーパーは承認されたと見なされると述べている。提案された規制は、EBAとESMAが暗号資産ホワイトペーパーの承認のための正確な手順を指定するための規制技術基準の草案を開発することを規定している。

マーケティング・コミュニケーション

 発行者がARTに関して発行するマーケティングコミュニケーションは、ホワイトペーパーに記載されている詳細と一致している必要がある。このようなマーケティングコミュニケーションは、そのように識別可能である必要があります。マーケティングコミュニケーションの情報は、公正かつ明確で、誤解を招くものであってはならない。

暗号資産を裏付ける資産の準備金

 ARTの価値を安定させるために、発行者は常にそれらの暗号資産を裏付ける資産の準備金を構成し、維持する必要がある。MiCAはまた、発行者が複数のカテゴリーのARTを発行している場合、ARTのカテゴリーごとに個別の資産準備金を維持する必要があると規定している。

第三者準備資産の保管機関

 さらに、第三者準備資産の保管機関または暗号資産サービスプロバイダーが運営許可を失った場合、管轄当局はART発行者に通知する必要がある。そのような場合、発行者の良好な評判の管理機関が影響を受けたと所管官庁が考える場合、またはガバナンスおよび/または内部統制の取り決めに欠陥があったことが示された場合、発行者の承認を取り消すことができる。

自己準備資金の要件

 ART発行者は、常に350,000ユーロ(約5000万円 )を超える資金を持っているか、準備資産の平均額の2%のいずれか高い方の資金を保有する必要がある。

 準備資産の平均額の2%を計算する場合、準備資産の平均額とは、過去6か月間に計算された各暦日末の準備資産の平均額を意味する。同様に、発行体がARTの複数のカテゴリーを発行している場合、当該計算に使用される金額は、ARTの各カテゴリーを裏付ける準備資産の平均額の合計になる。

ART発行者の管轄当局への通知要件

 MiCAは、ART発行者に、特定の状況または特定のイベントが発生した場合に関連する管轄当局に通知することを要求している。このような通知要件は、発行者に関する破産または猶予イベント、発行者の管理機関に変更が加えられたとき、および発行者のARTトークンの購入決定に影響を与える可能性のある発行者のビジネスモデルに重大な変更が発生した場合に起動される。

ART発行者の一般的な義務

 ART発行者は、正直、公正、専門的に行動し、誤解を招くことなく公正にトークン所有者とコミュニケーションをとることが求められている。発行者はまた、トークン保有者の最善の利益のために行動する必要があり、すべてのトークン保有者を平等に扱うことも求められる。つまり、暗号資産白書および/またはマーケティングコミュニケーショで優遇措置が開示されていない限りである。

 また発行者は、明確な苦情処理手順を確立する必要がある。

(注2-2)米国Meta(旧Facebook)が2019年6月に発表した暗号通貨「Libra」(後に「Diem」と改称)のプロジェクトが終了した。プロジェクトを管理するために立ち上げられた組織Diem Association(当時はLibra Association)は2022年1月31日、ブロックチェーンベースの決済ネットワーク「Diem Payment Network」運営に関連する知財を含むすべての資産を米Silvergate Capitalに売却すると発表した。買収総額は約2億ドル。Diem Associationとその子会社は、向こう数週間中に解散プロセスを開始する。

(注3) 電子マネートークン(「EMT」)の定義等に関し、前述のThe Ledger Law Firmの弁護士(Solicitor with Irish and EU crypto-asset regulation expertise)の解説を引用する。

電子マネートークン(「EMT」)の定義

 MiCAは、EMTを、交換手段として使用され、法定通貨である法定通貨の価値を参照することにより安定した価値を維持することを目的とした暗号資産の一種として定義している。MiCAは、その説明で、法定通貨である単一の法定通貨を参照するすべてのタイプの暗号資産を保存するために、EMTの定義が意図的に広くなっていると述べている。MiCAの説明では、EMTの機能は、EUの電子マネー指令(EMD2)ですでに定義されているように、電子マネーの機能に非常に似ているとさらに述べている。

 EMD2は、電子マネーを電子的または磁気的手段を介して保存される金銭的価値のストアであると説明しています。EMD2によると、電子マネーは、支払い取引を行う目的で、資金の受領時に発行される電子マネー発行者に対する請求によって表されます。さらに、EMD2では、電子マネーの発行者自身以外の自然人または法人も電子マネーを受け入れる必要があります。

 電子マネーと同様に、EMTは支払いに使用される法定通貨の電子的で安定した価値の代理であるように見えます。

 上記のEMTの定義によると、一般に「ステーブルコイン」と呼ばれる暗号資産の大部分は、MiCAのEMTカテゴリに該当するようです。

 ステーブルコインは暗号市場で不可欠な役割を果たす。たとえば、ビットコインの購入の大部分はステーブルコインを含み、投資家は最初にフィアットを選択したステーブルコインと交換する。

 MiCAに付随して発表されたインパクト・ステートメントでは、グローバル・ステーブルコインが交換手段として広く受け入れられ、価値の保存手段として使用される可能性があること、およびこれが金融の安定性、金融政策の伝達、通貨主権に関連するリスクをどのようにもたらす可能性があるかについて説明している。これらの理由とその採用の増加により、ステーブルコインが規制当局の注目を集め、ステーブルコインが暗号資産に関する規制当局の主な懸念事項の対象となることが多い理由であるといえる。

EMT認可と要件

 規制当局は、EMTが消費者保護と暗号資産市場の完全性に新たな課題をもたらす可能性があると考えている。MiCAは、これらの理由から、そのようなリスクを制限するためにEMT発行者に厳格な条件を実装することが提案されている方法について説明する。これに関連して、MiCAはEMTは資本要件規則で定義されている信用機関、または改訂された電子マネー指令(「EMD2」)の下で承認された電子マネー機関のいずれかによって発行されることを要求することを提案している。

認可の免除

 MiCAの下では、時価総額が5百万ユーロ未満のEMT、または限られた量の選択された適格投資家に配布されるEMTは、承認要件が免除される。ただし、そのような免除が適用される場合でも、EMT発行者は暗号資産ホワイトペーパーを作成し、発行者の関連する管轄当局に通知する必要がある。

暗号資産にかかるホワイトペーパー

 MiCAの下では、EMTをEUで一般に公開したり、取引プラットフォームへの入場を求めたりする前に、EMT発行者は暗号資産のホワイトペーパーをWebサイトで公開する必要がある。ホワイトペーパーのそのような情報はすべて公正かつ率直でなければならず、発行者はホワイトペーパーで提供される情報に対して責任を負うことができる。

ホワイトペーパーの通知

 電子マネートークンの発行者はさらに、暗号資産ホワイトペーパーの草案と該当する場合はマーケティングコミュニケーションを発行者の関連する管轄当局に通知する必要がある。これは、発行日の少なくとも20営業日前に行う必要があり、所管官庁は、この通知の後、発行者にさらなる文書または情報の提供を要求し、発行者の活動を一時停止または禁止することを選択するなど、特定の権限を行使することができる。

重要性を有するEMT

 特定の基準に基づいて、欧州銀行監督機構(「EBA」)は特定のEMTを「重要な電子マネートークン」として分類する。そのように分類されるためには、EMTは次の6つの基準のうち3つで特定のしきい値を超える必要がある。

① 電子マネートークンのプロモーター、電子マネートークンの発行者の株主、または第

三者の予備資産保管機関の顧客データベースの規模。

② 発行された電子マネートークンの価値(または該当する場合は時価総額)。

③問題の電子マネートークンの取引数と価値。

④電子マネートークンの発行者の資産準備金の規模。

⑤ 電子マネートークンの発行者の国境を越えた活動の重要性

⑥従来の金融システム内の電子マネートークンの相互接続性

受入資金の投資方法

 EMT発行者がEMTと引き換えに受け取った資金を投資する場合、そのような資金は、クロスカレンシー決済リスクを回避するために、電子マネートークンが参照しているものと同じ通貨建ての資産に投資する必要がある。発行者は、EMD2で指定されている安全でリスクの低い資産にのみそのような資金を投資することが許可される。

利息の禁止

 MiCAは、EMT発行者および暗号資産サービスプロバイダーは、トークン所有者がEMTを保持している期間に関連する利息またはその他の利益を付与することを禁じられていると規定している。

(注4) 欧州の金融・資本市場にかかわる包括的な規制である金融商品市場指令(MiFID)は、2007 年 11 月の施行以来、金融商品にかかわるサービスを提供する投資業者のための包括的な枠組みと EU 加盟国の所管当局が策定すべき規制の指針を示すことで、EU の資本市場における競争と統合を促進するとともに、投資家保護の面でも目覚ましい改善をもたらしてきたとされている。・・・、MiFID の改正を求める声が高まり、2010 年 12 月 8 日、欧州委員会は MiFID の見直しに関する市中協議を開始、その結果を踏まえて金融商品市場指令の改定案及び金融商品市場規則案を策定し、2011 年 10 月に欧州議会及び欧州連合理事会に上程した。その後、欧州連合理事会、欧州議会、欧州委員会の間で協議が続けられ、2014 年 1 月の欧州連合理事会の政治合意、2014 年 4 月の欧州議会での可決を経て、今回の欧州連合理事会の可決により改定作業が完了した。

 今回採択されたのは第 2 次金融商品市場指令(MiFIDⅡ)及び金融商品市場規則(MiFIR)の二つである。

 EU 加盟各国による国内法制化によって効力が発生する指令に対して、規則は EU 全域に直接に適用されるので、MiFIR の規定は EU 加盟国全ての市場に対する共通の基準として適用されことになるが、これは、加盟国ごとに規制が異なることで、EU 域内での複数の市場で活動する投資業者に過度の法令順守負担がかかることを防止するためである。(以下、略す)(平成 26 年11 月27 日大橋 善晃(日本証券経済研究所)「第 2 次金融商品市場指令(MiFIDⅡ)の概要」から一部抜粋)

(注5) 資本市場同盟(Capital Markets Union=CMU)とは、欧州連合(EU)が構築しようとしている欧州の単一資本市場です。株式、債券、デリバティブなどさまざまな金融商品の取引市場は、現状では、各国それぞれの法制度や仕組みの下で運営されていますが、それらを統合することによって、投資家や資金を必要とする事業者などが、国境を越えて、より自由に、より容易に資本市場にアクセスできるようにしようとするものです。CMUの構築は、2014年11月に発足したジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長の最も重要なイニシアティブの一つであり、2015年2月に、その構築に関するグリーンペーパー(議論のたたき台となる提案書)が発表されました。(駐日欧州連合代表部の解説から抜粋)

(注6) 欧州連合には銀行、証券、保険の監督者として、欧州銀行監督機構(EBA:European Banking Authority),欧州証券市場監督機構(ESMA:European Securities and Market Authority)、そして欧州保険年金監督機構(EIPOPA:European Insurance and Occupational Pensions Authority)(注7)あって、これらは総称してESAs(European Supervisory Authorities)という。

(注7) 2018.11.30 E IOPAの警告文を抜粋、仮訳する。

ESMA, EBA,EIOPA は、連名で仮想通貨のリスクについて消費者に警告する。欧州証券市場監督機構 (ESMA)、欧州銀行監督機構(EBA)、および欧州保険企業年金監督機構 (EIOPA) (以下、「3 つの ESAs」という) は、いわゆる仮想通貨 (VC)の購入および/ または、保持につき警告する。

(注8) 規制のアービトラージとはある管轄権の規制が厳しい場合、グローバルな金融機関はより対応が容易な他の管轄権に移動することで規制を回避することが可能なことを言う。(https://www.fsa.go.jp/news/19/sonota/20070711-1/02-2.pdf から抜粋)

(注9) 分散型台帳技術(DLT)は、「Distributed Ledger Technology」の略称で,文字通り、分散型のデータベース(台帳)を実現する技術です。ネットワークを構成する複数のノードが同一のデータベースを保持し、発生した変更に応じて各ノードの分散台帳が更新されていきます。

 クライアント・サーバモデルのような中央集権型ネットワークとは異なり、特権的なノードを必要としないため、公平なネットワークを構築することが可能です(ただし、権限に応じて、その役割が制限される)。

 加えて、電子署名とハッシュポインタを用いることで、改ざん検出が容易なデータ構造を実現し、透明性や検証性、監査性を担保しています。したがって、金融やサプライチェーンなど、多くの利害関係者が関与し、監査などが必要なネットワークに導入することが可能です。

 一方、ブロックチェーンは、ネットワークを構成するすべてのノードが、台帳のコピーを自律的に取得または構築できる分散型台帳技術の一種です。アルゴリズムに従い、任意のトランザクションおよびその集合体であるブロックの順序が決定され、各ノードが正しいと認めるただひとつの台帳が選択されます。

 また、従来型のデータベースとは異なり、ブロックチェーンはデータの書き込みと読み込みしかできません。( 株式会社digglueの解説https://baasinfo.net/?p=3263から一部抜粋)

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CFPBは暗号資産運用を隠ぺいし偽の高利回り銀行口座を提供したとしてローン・ドクター社およびエドガー・ラジャブリに対して1900万ドルの被害者への返金ほか罰金措置を講じる同意命令を発出

2022-12-03 12:14:26 | 違法なマーケテイング規制

 12月2日、筆者の手元に米連邦金融規制監督機関である消費者金融保護局(CFPB)からの標記の緊急リリースが届いた。

その要旨は以下のとおりである。

 元CEOエドガー・M.ラジャブリ(Edgar M. Radjabli)は、顧客から集めた資金を現在は倒産した“Celsius Network”(注1)を含むリスクの高い投資手段と暗号資産に投入した。

Edgar M. Radjabli 氏

 12月1日、「消費者金融保護局(CFPB)」は、ローン・ドクター(Loan Doctor LLC(有限責任会社) (注2)とその創設者であるエドガー・ラジャブリが消費者をだまして商業銀行内の保証されたリターン貯蓄商品に資金を預けていると誤解させることによって関係法律を破ったというCFPBの主張を解決するために、ローン・ドクターLLCに対して告訴をニューヨーク州南地区連邦地方裁判所に起こした。

 ローン・ドクター社とラジャブリは、各種メディアや著名人を利用し預け入れた資金は医療従事者向けのローンを開始するために使用され、保険口座に保管されるか、現金の代替手段によって裏付けられ、年率5%から6.25%の間の金利が利回りになると誤解を招く誤った広告、宣伝等を行った。

 連邦裁判所によって承認された場合、提案された和解案は、被告が消費者に支払うべきすべての利息を含む、行われたすべての預金を返金することを要求する。また被告は、民事上の罰金を支払い、預金受取活動に他人を関与または支援することを永久に禁止される。

 なお、ラジャブリは証券取引委員会(SEC)から別途起訴されている。

 今回のブログは最近、米国やその他の国々が多発する暗号資産からにも詐欺犯罪の例としてわが国でもすでに被害が発生しているこの問題の実態、手口などを解明すべくCFPBのリリース文を仮訳するとともに解説を試み、併せてフロリダ州ボカラトンのエドガーM.ラジャブリと彼が管理する2つの事業体を、規模が拡大する3つの別々の証券詐欺に関与したとして起訴した事件のSECリリースを引用、仮訳する。

1.CFPBのリリース内容

 CFPB局長のロヒット・チョプラ(Rohit Chopra)は、「ローン・ドクターとその創設者は、高利回りの貯蓄商品を求める人々のために口座を開設するために伝統的な銀行を装った。実際には、この組織とその首謀者は、リスクの高い投資に顧客の資金を使用していた」と述べた。

 ローン・ドクターとして事業を行う“My Loan Doctor LLC”は、フロリダ州ウェストパームビーチとニューヨーク市で事業を展開しているデラウェア州の金融サービス会社である。ローン・ドクターは、同社によれば、「米国の貯蓄商品の中で最高のリターン」をもたらすヘルスケア・ファイナンス貯蓄CDアカウント(Healthcare Finance Savings CD account)を顧客に提供すると宣伝した。創設者であることに加えて、エドガー・ラジャブリはローン・ドクターのCEO役員であり、その管理を担当していた。

 CFPBは、ローン・ドクター社とラジャブリがローン・ドクターのヘルスケアファイナンス貯蓄CDアカウントの広告で、いくつかの虚偽(false)の、誤解を招く(misleading)、不正確(inaccurate)なマーケティング表現を行ったと主張した。2019年8月から、ローン・ドクターは、ローン・ドクターの欺瞞的に宣伝されている貯蓄商品を開いて入金した少なくとも400人の個人から数百万ドルを受け取った。具体的には、ローン・ドクター社とラジャブリはPRニュースワイヤー(PR Newswire)等を利用し、権威を悪用しながら次のように誤解を招く表現を行った。(この青字部分は筆者が独自に調べた)

2019.11.14 PRニュースワイヤー(PR Newswire)(注3)記事を仮訳

ヘルスケア業界の融資に焦点を当てたフィンテック企業であるローン・ドクターは、2人の業界ベテランをチームに加えることを発表した。トッド・マーシャル(Todd Marshall )博士(DDS、MBA、FACD)

Todd Marshall氏

https://www.carequest.org/who-we-are/boardから引用

Independent Advisor and Consultant

 は、以前は中西部の大規模な歯科グループであるパークデンタル(Park Dental)(注4)のリーダーであり、デンタクエスト(DentaQuest)とメットライフ(MetLife)の取締役であり、大規模な医療行為のためのローン・ドクターの資金調達活動に焦点を当てて、大規模なグループ関係部門の責任者として参加している。

 ローン・ドクターがローンを転売する機関投資家との関係を拡大するために、同社はまた、WL Ross       (注5)マネージング・ディレクターであり、3億ドルの新興市場および金融サービスファンドを監督したランジート・ナバ(Ranjeet Nabha)氏を追加した。

 エドガー・ラジャブリ最高経営責任者(CEO)は「マーシャル博士とナバ氏が加わったことで、医療融資スペースを混乱させ続ける中で、ローン・ドクターの継続的な成長と拡大に向けて位置付けられる」と述べた。

この業界におけるローン・ドクターの革新内容は、独自の消費者貯蓄商品であるHCFハイイールドCD(Healthcare Finance Savings CD account)にまで及び、1か月の更新可能な期間で業界をリードする6%のAPYを支払う。この商品は、特に景気後退への懸念の高まりに照らして、安全で予測可能な投資オプションを探している貯蓄者に人気があることが証明されている。

ローン・ドクター社について

 ヘルスケアおよび金融サービス業界のリーダーによって設立されたLoan Doctor社の主な焦点は、診療所の取得、商業用不動産の購入、学生ローンの借り換えなどの資金調達ニーズを備えた医療専門家を支援することであり、ローンドクターチームはこれまでに3500人以上の医師を支援し、650MM(650百万ドル:約133億円)を超えるローンを組んで、米国50州すべてのクライアントにサービスを提供してきた。

メディア連絡先:

エドガー・ラジャブリ

(305)859-4563

228953@email4pr.com

【ローン・ドクター社とラジャブリの偽の表示内容と違法行為内容】

①顧客の預金は医療従事者のためのローンを起点とする:ローン・ドクターとラジャブリは、ローンを開始するとき、それを購入するために投資家が並んでいるだろうと預金者に語った。実際、ローン・ドクターは、医療専門家向けのローンを開始するために預金を使用したことはなく、ローンを購入するために買い手または投資家と契約を締結したことはなかった。

②顧客の預金は安全である:ローン・ドクターは、ローンの開始に使用されない場合、預け入れられた資金は連邦預金保険公社(FDIC)が保証する口座またはロイズ・オブ・ロンドン(Lloyd's of London)が保険をかけた口座に保持されるか、「現金代替」または「現金同等物」によって裏付けられることを表明した。またローン・ドクターは、顧客が預けた金額に相当する金額の現金準備を維持していると記載した。

しかし、CFPBの調査によると、ラジャブリはこれらの代わりに、彼が管理するヘッジファンドとセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)などの暗号資産に資金を投入した。預託された資金は、活発に取引されている有価証券に投資されたり、第三者を通じて個々の株式ポートフォリオを担保として投資家に貸し出されたりした。

③ローン・ドクターは商業銀行である:ローン・ドクターは、返品が保証された従来の普通預金口座のような口座に資金を預けていると顧客に誤解させた。実際、ローン・ドクターは商業銀行ではなく、預金者の資金は不安定な証券または証券担保投資に投資されていた。

 ヘルスケアファイナンスのハイイールドCDアカウントには、高金利を支払った記録があった。ローン・ドクターは、5年より前の年に口座が6.25%から2019%の利息を支払ったと述べた。しかし、実際、ローン・ドクターは2019年8月まで消費者預金の受け取りを開始しなかった。

法的強制措置

 消費者金融保護法に基づき、CFPBは、不公正、欺瞞的、または虐待的な行為や慣行に従事するなど、消費者金融保護法に違反する機関に対して措置を講じる権限を持つ。今回、提案された和解案は、裁判所によって承認された場合、ローン・ドクターとラジャブリに次のことを要求する。

① 約400人の預金者に約1900万ドル(約24億8900万円)を返金する。:被告は、影響を受けた各人がローン・ドクター・ヘルスケアファイナンスハイイールドCDアカウントに預けたお金を、製品の宣伝条件と一致する方法で、つまり元本と平均年利約6%で返還する必要がある。

② 預金受入活動に従事することの永久禁止:被告は、預金受取活動に他人を関与または支援することを永久に禁止される。

③ 391,530ドル(約5207万円)の民事罰金を支払う:この命令は、被告がCFPBに391,530ドルの民事罰金を支払うことを要求する。そのペナルティの一部である241,530ドル(約3212万円)は、被告がその金額をSECにペナルティとして支払ったため、その機関によって提起された同様の訴訟のために送金される。残りのペナルティ額(約1995万円)は、CFPBの被害者救済基金に預けられる。

 今日の提案されたCFPBの裁判所への告訴文(原文)「定められた最終判断と命令([Proposed] Stipulated Final Judgment and Order)(注6)を参照されたい。

 消費者は、CFPBのウェブサイトにアクセスするか、(855)411-CFPB(2372)に電話することで、金融商品またはサービスに関する苦情を提出できる。

 なお、CFPBは自分の会社が連邦消費者金融法に違反していると思われる企業の従業員は、自分が知っていることに関する情報をwhistleblower@cfpb.gov に送信することを勧奨する。

2.証券取引委員会(SE)Cは、歯科医から投資顧問に転向した3つの別々の詐欺で起訴

 SEC訴訟リリース第25115号 (2021年6月11日)証券取引委員会対エドガー・M・ラジャブリ他、第2:21-cv-01761-MBS(2021年6月11日提出)を仮訳する。(法令リンクは筆者の責任で行った)

 SECは、フロリダ州ボカラトン住のエドガーM.ラジャブリ(以下、ラジャブリ)と彼が管理する2つの事業体を、規模が拡大する3つの別々の証券詐欺に関与したとして起訴した。

 SECの訴状(Complaint)は、元開業歯科医のラジャブリと、ラジャブリが所有および管理している未登録の投資顧問会社であるアピス・キャピタル・マネジメント(Apis Capital Management LLC (以下、「アピスキャピタル」という)が、アピスキャピタルの主要投資ファンドのトークン化された利益を表すデジタル資産であるアピス・トークンの不正な提供を行ったと主張している。ラジャブリとアピスキャピタルは2018年6月のプレスリリースを発行し、Apis Tokenオファリングが実際には資金を調達していないのにかかわらず170万ドル(約2億2600万円)を調達したと誤った宣伝を行った。

 訴状はさらに、ラジャブリとアピスキャピタルが、2018年12月にVeritoneを2億ドルで買収する一方的な現金公開買付けを発表することにより、上場人工知能企業であるラジャブリとアピスキャピタルはVeritone, Inc.の証券市場を操作したと主張しているが、実際には、ラジャブリとアピスキャピタルは、取引を完了するために必要な資金調達、または資金調達の合理的な見通しを欠いていた。ラジャブリは、アピスキャピタルと関連ファンドに代わってVeritone証券を取引することにより、Veritoneの株価の上昇により162,800ドルの違法な利益を生み出したとされている。

 最後に、訴状は、ラジャブリがMy Loan Doctor LLC(ローン・ドクター)を通じて2019年8月に開始された未登録の不正な証券募集で、450人以上の投資家から約2,000万ドル(約26億6000万円)を調達したと主張している。ラジャブリは、ローン・ドクターによって調達された投資家資金が医療専門家へのローンを開始するために使用され、その後証券化されて大規模な機関投資家に売却されると誤解を招く表明を行った。代わりに、ラジャブリは投資家資金の大部分をデジタル資産貸付会社への無担保および無保険のローンに投資し、投資家の収益のほぼ180万ドルをアピスキャピタルに貸し付けた。

 SECの訴状は、1933年証券法(SECURITIES ACT OF 1933)第5条(a)および(c)の登録規定、ならびに証券法第17条(a)、1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)第10条(b)および第14条(e)、ならびにその下の規則(Final Rule:Selective Disclosure and Insider Trading)10b-5および規則(Final Rule:Regulation of Takeovers and Security Holder Communications)14e-8を含む連邦証券法のいくつかの不正防止規定ならびに1940年投資顧問法第(Investment Advisers Act of 1940)206条(4)およびその下の規則206(4)-8に違反したとして、ラジャブリ、アピスキャピタル、およびローン・ドクター社を起訴した。

 被告は、訴状の主張を認めたり否定したりすることなく、彼らに対する告発を解決することに同意した。裁判所の承認を条件とする和解案では、ラジャブリは合計60万ドル(約780万円)の金銭的救済(monetary relief)を支払う必要があり、そのうち16万2,800ドル(約2165万2400円)の不利益、17,870ドル(約237万8000円)の最終判決前利息(prejudgment interest)の(注2)、および419,330ドルの民事罰で構成され、ラジャブリ、アピスキャピタル、およびローン・ドクター社は、3つの詐欺におけるアピスキャピタルとローン・ドクターのそれぞれの役割に基づいて連帯して責任を負う。

 また和解は、ラジャブリ、アピスキャピタル、およびローン・ドクター社が連邦証券法の有責条項に違反することを永久に禁止し、ラジャブリに違法行為に基づく差し止め命令とペニー・ストック・バー(penny stock bar) (注6)を課し、同時にラジャブリを証券業界から締め出すことを明記した。

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(注1) セルシウス・ ネットワーク LLC(Celsius Network LLC)は、2022年に倒産し​​た仮想通貨の貸付専門会社である。ニュージャージー州ホーボーケンに本社を置くセルシウスは、4 か国にオフィスを構え、世界的に事業を展開していた。ユーザーは、ビットコインやイーサリアムを含むさまざまな仮想通貨デジタル資産をセルシウスのウォレットに預け入れて一定の利回りを得ることができ、仮想通貨を担保として差し入れてローンを組むことができた。2022 年 5 月の時点で、同社は顧客に 80 億ドル(約1兆640億円)を貸し出し、運用資産は約 120 億ドル(1兆5960億円)に達していた。2022 年 6 月、同社は「極端な市況」のためにすべての送金と引き出しを無期限に一時停止したことで悪名を馳せ、その結果、ビットコインやその他の仮想通貨の価格が急落した。 2022 年 7 月 13 日、セルシウスは連邦倒産法第 11 章(Chapter 11)に破産を申請した。(Wikipediaから抜粋、仮訳 )

 なお、2022.10.5 セルシウスの創業者兼元CEOアレックス・マシンスキー(Alex Mashinsky)氏、資金引き出し停止の前に1000万ドル(約13億3000万円)を移動したという報道がある。

Alex Mashinsky 氏(CNBCから引用)

ちなみに、現在のCelsius Network LLCの画面を見ておく。

(注2) LLC(Limited Liability Company)

1977年ワイオミング州において初めて制定された、比較的新しい会社形態である。現在では全ての州において設立することができるようになった。

LLCの特徴を一言でいうと、会社としての永続性・有限責任を維持しながら連邦法人税を回避することができる法人ということになる。(markresearch.com の解説 から一部抜粋)

「LLCとは? 日本の合同会社とは何がちがう? 日米LLCの違い」

 会社法人の中でも、最近人気を集めつつある合同会社。「LLC」とか「日本版LLC」と表現されることもありますが、いったいこれはどういう意味なのでしょうか?今回は「LLC」という言葉(制度)について解説します。

LLCと合同会社

 LLCというのは英語の「Limited Liability Company」の頭文字を取ったもので、アメリカで設立される会社形態のひとつです。Limitedは日本語で「有限」、Liabilityは「責任」、Companyは「会社」ですから、直訳すると「有限責任会社」となります。LLCは日本の株式会社などと同じく、出資者の責任を出資額の範囲に限定しているのが特徴です。しかし「所有と経営が分離」されている株式会社とは違い、出資者と社員が同一という特徴があります。

 このLLCに近い会社制度が日本にもあります。それが「合同会社」です。LLCと合同会社が似ているのは偶然ではありません。合同会社は、実はアメリカのLLC(以下、米LCC)をモデルに作られた制度なのです。このため合同会社は「日本版LLC」とか、単に「LLC」と呼ばれることもあります(合同会社が社名を英語表記する場合、名前の最後に「LLC」を付けても良いことになっています)。

 しかし、米LLCと日本の合同会社は「似て異なる」制度です。よく似た部分もある一方で、米LLCの持つ大きな特徴が合同会社にはありません。その点について、次の項目で見てみましょう。

米LLCの特徴

 まず米LLCのおおまかな特徴について箇条書きで説明します。

(A)出資者は自分が出資した範囲のみで責任を負う(有限責任)

(B)株式の発行はできず、メンバーが直接出資する(持分会社)

(C)メンバー自ら経営に参加するか、外部のマネージャーを任命して経営を任せることができる

(D)金銭・動産・不動産のほか役務(サービス)による出資も可能

(E)法人課税かメンバー個人の所得への課税(パススルー課税=二重課税の回避)を選べる

(Legal Searchから一部抜粋、引用)。

(注3) Cision Companyの1企業であるPRニュースワイヤーは、ニュース配信、アーンドメディア・ソフトウエアおよびサービスの世界的大手プロバイダーである。Cisionのクラウドコミュニケーション商品スイートと連動し、PRニュースワイヤーのサービスはマーケッター、コーポレートコミュニケーター、インベスターリレーションズ担当者が重要なインフルエンサーを見いだし、ターゲットオーディエンスに関与し、戦略的コンテンツを制作・配信し、意味のある影響を測定することを可能にする。世界最大のマルチチャンネルかつ多文化のコンテンツ伝送ネットワークを包括的なワークフローツールおよびプラットフォームと組み合わせることで、PRニュースワイヤーは世界中の組織のストーリーに力を与える。PRニュースワイヤーは米州、欧州、中東、アフリカ、アジア太平洋地域に展開するオフィスから何万もの顧客にサービスを提供している。(Kyodo News PR Wireから一部引用)

(注4) 1972 年以来、Twin Cities 全体の大人と子供たちは、彼らの笑顔を健康で明るいものにするために Park Dental を信頼してきた。私たちは、質の高い患者中心のケアを通じて生涯の歯の健康を提供する医師によって所有および運営されている、便利な場所を多数持つ地元のグループである。(Dental ParkのHPから引用、仮訳)

(注5) WL Ross & Co は、2000 年 4 月に Wilbur Ross によってニューヨークに設立され、本拠地を置いているプラ​​イベート エクイティ会社である。同社は、通常、米国、韓国、アイルランド、日本、フランス、中国等で、1 億ドルから 2 億ドルの範囲の過小評価された株式を保有する、財政難に陥った企業への投資に焦点を当てている。WL Ross & Co. LLC は、購入および/またはバイアウトを通じて投資の過半数の株式を取得することにより、リストラ、ターンアラウンド、合併、再編成、および業界統合の選択肢を得ることができる。 2002 年から、WL Ross は LTV Steel Corp、Bethlehem Steel、Weirton Steel、Acme Steel、Georgetown Steel、Youngstown Sheet and Tube、Republican Steel などの倒産した鉄鋼会社の資産を取得し始めた。 2003 年までにロスは全米鉄鋼労働者との関係を築き、雇用を救うことを約束した。 WL Ross は倒産した LTV Corp.、Acme Steel、Bethlehem Steel を組み合わせて International Steel Group (ISG) を設立した。ISG はすぐに米国最大の統合鉄鋼会社となり、2005 年にはフォーチュン 500 企業になった。(Wikipediaから抜粋し、仮訳)

なお、Wilbur Ross氏の略歴をあげる。(Ballotpediaから抜粋 )

February 28, 2017-January 20, 2021: U.S. Secretary of Commerceトランプ政権での商務長官

1997-2017: Chairman and Chief Strategy Officer of WL Ross & Co. LLC.

1976-1997: Corporate bankruptcy and restructuring specialist, Rothschild Inc.

(注6)CFPBの連邦裁判所ヘの告訴状の主文部を仮訳する。

【同意提案に基づき定められた終局判決と命令について】

 消費者金融保護局 ( Bureau of Consumer Financial Protection:以下、Bureauという) は、2020 年 7 月 6 日に Loan Doctor, LLC および Edgar Radjabli (被告) に対して、差止命令およびその他の救済を得るために、この民事訴訟を開始した。 本訴状は、「2010 年消費者金融保護法 (CFPA) 」の § 1036(a)(1)(B)、12 U.S.C. § 5536(a)(1)(B) の被告の預託活動に関連する。

 CFPBと被告は、事実または法律の問題の裁定なしに、この規定された最終判決と命令 (以下、「命令」という) の登録に同意し、訴状で主張された行為から生じるすべての論争事項を和解(settle )および解決(resolve)する。

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