2010年10月9日、筆者は「EUが2008年に新たに小口支払・決済手段の開始計画を提案」をとりあげた。
その内容の更新を行った際、EUの主要銀行の16行がカード業界の巨人である米国の”Visa”や”Mastercard”、”PayPal”、”GAFA”や中国の”Alibaba :Alipay” (注1)等への対抗策として2022年にヨーロッパで新しい統一決済システムの稼働予という情報を得た。
この情報自体、2020年7月2日の朝日新聞電子版やニューズウィーク日本語版が、すでにある程度詳しく報じている。
特に後者は、キャッシュレス決済とビッグデータ、個人情報、信用情報は、密接につながっている等新たな問題である点も併せ論じている。この問題は”LINE”と同様、わが国でも本格的に論じたサイトは少ない。時間をとって改めて本格的に論じたいが、今回はヨーロッパの決済イニシアチブである欧州中央銀行(ECB)、European Payments Initiative(EPI)の内容、新戦略についてできるだけ詳しく論じたい。
なお、元関係者として指摘しておきたいのは、EBCの新たな決済システムについてのイニシアチブをきわめて積極的、具体的にリードしているで点である。わが国の中央銀行である日本銀行にもこのようなリーダーシップを期待したい。
1.はじめに
2020年7月2日、フランスの金融専門サイト(Money Vox)は「EUの16の銀行が2022年にヨーロッパで新しい統合汎ヨーロッパ決済システム構築を発表」を報じた。
以下で概要を仮訳する。
1.EIP立ち上げ開始
ヨーロッパの16の銀行は、特に”Visa”や”Mastercard”などのカード業界の巨人に代わるものを提供することを目的として、インスタント・トランザクション・テクノロジー (注2)に基づく新しい統合汎ヨーロッパ決済ソリューションを2022年までに立ち上げることなった。
このプロジェクトの関係銀行のうちフランスの銀行は、「7月2日、5か国(ドイツ、ベルギー、スペイン、フランス、オランダ)の16の主要なヨーロッパの銀行のグループが、ヨーロッパの決済イニシアチブであるEPIの将来の立ち上げへの道を開いた」と公表した。彼らの目的は「即時支払いに基づく統一された汎ヨーロッパ支払いソリューションを作成し(...)、ヨーロッパ中の消費者と商人に銀行カード、デジタル・ウォレット、および使用可能なピア・ツー・ピア(P2P)(注3)支払いソリューションを提供する」と公表した。
そうすることで、「このソリューションは、消費者向けソリューションに加えて、店内、オンライン、現金引き出し、P2Pなど、あらゆる種類の取引において、ヨーロッパの消費者と加盟店の新しい支払い基準になることを目指している。「国際的な支払いスキーム」となる。大きな革新は、誰かがヨーロッパのどこにでも、たとえば受益者の携帯電話番号を使って、週7日間毎日、即座に支払うことを可能にすることである」と、BNP Paribas銀行の 副最高執行責任者兼国内市場責任者(Deputy Chief Operating Officer and Head of Domestic)であるティエリー・ラボルド( Thierry Laborde)氏は、AFPに語った。
Thierry Laborde 氏
(2) 2022年の運用段階までの準備
EIPプロジェクトの推定コストは数十億ユーロで、この新しいデバイスは大きな目標を掲げている。長期的には、ヨーロッパの電子決済の少なくとも60%にあたると見ている。詳細にみると、実装フェーズは、2022年の運用フェーズへの参入を視野に入れて、「可能な限り最高の使用経験(ユーザーエクスペリエンス)を実現するために実装化作業を開始する責任を負うこととなり、ブリュッセルで暫定会社(EPI Interim Company)の設立を通じて、今後数週間で開始される。
この新しいデバイスは、「ヨーロッパの公的機関と国家当局をサポートすることになります。ヨーロッパの既存のデジタル決済ソリューションは細分化されており、欧州市民はまだどこでもデジタル決済を行うことがない」と16の銀行は主張し、他の決済サービスプロバイダーにも同イニシアチブへの参加を呼びかけている。
また、16の銀行は「さらに、Covid-19危機は、統一されたヨーロッパのデジタル決済ソリューションの必要性を浮き彫りにした。また、EPIは、銀行、加盟店、取得者(acquirer)/決済サービスプロバイダーのヨーロッパの決済エコシステムを統合し、単一市場とヨーロッパのデジタル戦略の強化に貢献することを目指している」と指摘している。
2.EPI本格開始のリリース第一弾
2020年9月9 日、BNP PARIBASが行った発表「EPI: The European Payments Initiative」
の内容を仮訳する。
2020年9月9 日、European Payments Initiative(EPI)の実施を開始する責任を負う”EPI Interim Company(https://www.epicompany.eu/)”は、ポーランド最大の銀行である”PKO Bank Polski:PKOBP)”と、フィンランドの大手リィテール銀行である”OP Financial Group”を発表した。最近設立された会社の設立株主としてEPIに参加している。さらに、スペインの12の商業銀行(credit institution)のグループもコンソーシアムを結成し、EPI暫定会社の共同設立株主としてEPIに参加している。
PKO BankPolskiとOPFinancial Groupの参加により、EPIがポーランドとフィンランドの決済市場にアクセスできるようになった。これは、共同支払いイニシアチブへの新しいコミュニティの関心を確認し、EPIがよりデジタル的に進んでいると見なされる市場にとって魅力的であることを示しているため、EPIの主要なマイルストーンである。ポーランドは、EPIの一部を形成する最初の非ユーロ・ベースの市場となり、グループがソリューション内の通貨換算の課題に取り組むことを可能にする。
また、EPIは共同で参加することを決定した12のスペインの銀行の参加を歓迎する。彼らの参加は、EPIガバナンスが小規模なプレーヤーに開かれており、将来のソリューションに対する彼らの特定のニーズを考慮に入れる用意があることを確認している。これらの動きにより、スペインの3大銀行BBVA、CaixaBank、Banco Santanderと並んで、スペイン市場でのEPIの対象範囲が大幅に拡大する。これらはすべてEPIの個別株主である。信用機関のコンソーシアムは、ABANCA、BancoCooperativoEspañol、Grupo Cooperativo Cajamar、Caja de Ingenieros、LABORAL Kutxa、Cecabank、Eurocaja Rural、Grupo Bankinter、Ibercaja、Kutxabank、Liberbank、UnicajaBancoで構成されている。
2週間前、サードパーティの買収企業(注4)である”Worldline” および Netsも、EPI創設株主としての加入を発表した。今後数か月以内に、EPIは新しいソリューションの実装に焦点を合わせる。
2020年7月、5か国(ベルギー、フランス、ドイツ、オランダ、スペイン)の16の主要なヨーロッパの銀行のグループが、ブリュッセルでのEPI暫定会社の設立を発表することにより、ヨーロッパ決済イニシアチブの将来の立ち上げへの道を開いた。彼らは、共同支払いイニシアチブの実施を開始する責任がある。
出資会社名一覧
3.2020.11.25 PEIに関するNets eu のプレス・リリースの概要
”Nets eu”がその後の新たな展開をリリースで概観しており、その概要を仮訳する。
EuropeanPayments Initiative(EPI)は次の段階に入り、”Worldline”と”Nets”がEPI Interim Companyの株主になり、このイニシアチブに参加した最初のサードパーティの買収者になった。また、 EPI、ヨアヒム・シュマルツル博士(Dr.Joachim Schmalzl)(:現ドイツ貯蓄銀行協会常務理事(Geschäftsführendes Vorstandsmitglied des Deutschen Sparkassen- und Giroverbandes)を取締役会会長に、マルテイナ・ヴェイマルトMartina Weimert氏(フランス)を暫定会社のCEOに任命したことを発表した。
Dr.Joachim Schmalzl 氏
Martina Weimert氏
2020年7月、5か国(ベルギー、フランス、ドイツ、オランダ、スペイン)の16の主要なヨーロッパの銀行のグループが、ブリュッセルに共同支払いイニシアチブの実施を開始する責任があるEPI暫定会社の設立を発表することにより、ヨーロッパ決済イニシアチブの将来の立ち上げへの道を開いた。
EPIの稼働目標は、ヨーロッパ全土の消費者と加盟店にカード、デジタルウォレット、P2P決済を提供する、”即時決済Instant Payment”(注5)/ SEPAS即時クレジット転送(SCT Inst)を活用した、統一された革新的な汎ヨーロッパ決済ソリューションを作成することである。このソリューションは、既存の国際決済ソリューションおよびスキームに代わるものとして、店舗内、オンライン、現金引き出し、P2Pなど、あらゆるタイプの小売取引におけるヨーロッパの消費者および加盟店の決済における新しい標準になることを目的としている。
11月25日、EPI暫定会社は、”Worldline”Worldlineおよび ”Nets”(EPI理事会による検証が数日中に予定されている)が、このイニシアチブに参加する最初の第三取得銀行(注4)として、最近設立された会社の株主として参加することを発表した。第三取得銀行の参加は、ヨーロッパの加盟店側でのEPIの受け入れネットワークの拡大に大きく貢献し、EPIが大陸で独自の決済エコシステムを構築できるようにする。他の順調に進んだ拡張交渉も、さまざまなプレーヤーと進行中である。
ワールドラインの会長兼最高経営責任者であるジル・グラピネット(Gilles Grapinet)氏(フランス)は、次のようにコメントしている。
Gilles Grapinet 氏
「ユーロの導入から約20年後、21世紀のビジネスニーズに合わせて慎重に設計された、真にヨーロッパのデジタル決済ソリューションを消費者と商人に提供するための共同の取り組みに力を合わせる瞬間が訪れた。ヨーロッパを代表する決済サービスとしてPOSおよびE / MコマースのプロバイダーであるWorldlineは、EPIの将来の展開に必要な成功要因の定義に積極的に貢献する予定である。」
また、NetsのグループCEOであるボー・ニルソン(Bo Nilsson)は、次のようにコメントしている。
Bo Nilsson 氏
「European Payments Initiative(EPI)は、ヨーロッパの決済エコシステム全体に利益をもたらす。発行者、取得者、加盟店、そして最終的には最終消費者を含むすべての利害関係者は、強力で真にヨーロッパのデジタル決済ソリューションから利益を得るであろ。ヨーロッパ全体のPayTechリーダーとして、そして世界で最もデジタル化された地域の1つを起源とする我々は、成功するEPIプラットフォームの設計と確立に大きく貢献することを楽しみにしている。最新の決済テクノロジーと機能に基づいて、ヨーロッパ中の商人、銀行、消費者の支払いをより簡単にするよう努める。」
Joachim Schmalzl博士は、ドイツ貯蓄銀行協会(Deutscher Sparkassen- und Giroverband)の傘下組織の理事会の幹部メンバーで、現役職では、グループのビジネスモデル、デジタル化、および支払い戦略の開発と推進を担当している。
大手グローバルコンサルテイング会社オリバーワイマン(Oliver Wyman)のパートナーであるマルテイナ・ヴェイマルト(Martina Weimert)はイニシアチブの開始以来ヨーロッパの銀行をサポートしており、ヨーロッパおよび国際市場で、決済エコシステムのあらゆる種類のプレーヤーのために、多数の発行および取得ソリューションで16年間働いている支払いで深い経験を積んでいる。
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(注1) Alibaba groupに関するAlobaba Japanの説明を見ておこう。中国企業のグローバル戦略が十分垣間見える。
そのなかにモバイル決済サービスAlipay(https://www.alibaba.co.jp/service/alipay/)も位置づけられる。
(注2) ECBのEUROSYSTEMは「What are instant payments?」で
ドイツ銀行が「Instant payments-A guide for corporates-」(全34頁)
(注3) Peer to Peer(ピア・トゥ・ピア または ピア・ツー・ピア)とは、複数のコンピューター間で通信を行う際のアーキテクチャのひとつで、対等の者(Peer、ピア)同士が通信をすることを特徴とする通信方式、通信モデル、あるいは通信技術の一分野を指す。P2Pと略記することが多い。
(注4) 第三取得銀行( third-party acquirer)(加盟店銀行または買収者ともいう)とは、加盟店の銀行口座を管理する金融機関をいう。買収者との契約により、販売者はクレジットカードおよびデビットカードの取引を処理することができる。取得銀行は、支払いを受け取るために、該当する発行銀行に加盟店の取引を譲渡する。
また、発行銀行(issuring banl)は、カードネットワーク(Visa、MasterCard)に代わって消費者にクレジットカードを発行する金融機関をいう。発行者は、取引の返済条件についてカード保有者と契約することで、消費者とカードネットワークの仲介者として機能する。CHARGEBACKS911の解説(Do You Know the Difference Between the Acquirer and Issuer?)を仮訳
(注5) ”instant payment”や”SEPA Instant Credit Transfer”についてはECB・eurosystemサイトが詳しく解説している。その基本部分を以下、仮訳する。
即時支払い(instant payment)は、24時間年中無休でリアルタイムに処理される電子小売支払いであり、その資金は受取人がすぐに使用できるようになる。
EU域内全体のその可用性はどのように保証されるか?
2014年12月、Euro Retail Payments Board(ERPB)は、欧州連合のすべての決済サービス・プロバイダーが通貨ユーロでの即時決済のための少なくとも1つの汎欧州ソリューションを利用できるようにすることを提案した。
この提案は、いくつかのEU加盟国の市場参加者が即時支払いのための国内ソリューションを実装したか、開発中であった後に行われた。そのリスクは、これらのソリューションが特定の国でスムーズに機能するが、国境を越えた可用性を保証しないということであった。
複数の即時支払いソリューションは、競争、革新、統合の目的を達成するのに役立つ可能性がありますが、それぞれが汎ヨーロッパの範囲を持っている場合に限られる。この目的のために、ソリューションは汎ヨーロッパレベルで開発されるか、国レベルで開発された場合は他のソリューションと相互運用可能である必要がある。すなわち、断片化を回避し、競争を激化させるために、即時支払いソリューションは以下述べるレイヤーで構成する必要がある。
①エンドユーザー・ソリューション・レイヤー:市場で協力的または競争的に開発されたもの(例:個人間のモバイル決済)
②スキーム・レイヤー:基礎となる支払いスキーム。
③精算・レイヤー:決済サービスプロバイダー間の取引の清算のための取り決め。
④決済・レイヤー:決済サービスプロバイダー間のトランザクションの決済のための取り決め。
SEPA単一ユーロ決済圏即時送金
通貨ユーロでの即時支払いの開発をスピードアップするために、ERPBはEuropean Payments Council(EPC)に汎ヨーロッパ即時支払いスキームの開発を依頼した。このスキームは、EPCの既存のSEPAクレジット転送(SCT)スキームに基づいており、SEPA単一ユーロ決済圏即時送金(SCT Inst:SEPA Instant Credit Transfer):SCT Instという )と呼ばれる。(注7)
”SCT Inst”の主な機能は、サービスが24時間年中無休で利用可能であり、取引が成功した場合、受取人が資金を利用できるようにするため、受取人の決済サービスプロバイダー(PSP)が支払人のPSPにお金が受け取られたかどうかを通知するのに10秒以上かからないことである。”SCT Inst” スキームは、2017年11月に運用を開始した。
ECBのEyrosystemは、ユーロ圏のSCTInstインジケーターを介してSCTInstの使用を監視する。この指標は、SCT Instの採用、およびヨーロッパにおけるさまざまなタイプの決済手段の進化について、さらに明確で透明性を提供する。
この指標は、すべてのSEPAクレジット振込に占めるSCTInstトランザクションの割合として計算されます。データは月次ベースで提示され、各四半期の終わりに清算および決済メカニズムから収集されます。
Eurosystemはどのように機能しているか?
ERPBを介して追求されたイニシアチブに加えて、Eurosystemは銀行業界等と緊密に協力して、清算および決済レイヤーがSCT Inst”をサポートできるようにしている。 たとえば、通貨ユーロでの汎欧州即時支払いの清算サービスを提供するインフラストラクチャに対する一連の期待を定義し、これらのインフラストラクチャによって清算された即時支払いの決済をサポートするために”TARGET2”(注6)の拡張機能を実装した。
さらに、ERPBによって提案された汎ヨーロッパの即時支払いソリューションが少なくとも1つ存在することを保証するために、EurosystemはTARGET即時支払い決済(TIPS)と呼ばれる即時支払いソリューションを開発することを決定した。
(注6) ”TARGET2”については、例えば 奥田宏司「ユーロ決済機構の高度化(TARGET2)について- TARGET Balances と「欧州版 IMF」設立の関連-」はTARGETからTARGET2"への進展を踏まえて論説している。
また、神山哲也「欧州における精算・決済機関を巡る動き」が2006年発刊ではあるが参考になる。
(注7) SEPA (Single Euro Payment Area:単一ユーロ決済圏)とは、EU加盟国を含めた32カ国において、国内外の区別なくユーロ建ての小口決済が行える地域・およびそれを実現するスキームのことであり、SEPA決済対象となる取引は3つあります。
①送金・口座振込(SCT:SEPA Credit Transfer)
②自動引落し(SDD:SEPA Direct Debit)
③カード決済(SEPA Card Payments)
SEPAは、クロスボーダー決済に対しても国内決済に対しても同様に適用できるような共通決済スキームを目指しており、SEPAの決済メッセージはISO20022というXMLベースの国際標準に準拠しています。また、決済スキームと決済提供者(決済インフラ)を分離するべし、という考え方に基づき、決済方法やメッセージ標準などの共通ルールのみ定められており、どの決済インフラサービスを利用するかは、個別の金融機関が判断します。(日立金融ソル―ション「欧州におけるSEPA自動引落し(SDD)導入の影響と今後の課題 .2010年3月」
~一部抜粋)
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