Financial and Social System of Information Security

インターネットに代表されるIT社会の影の部分に光をあて、金融詐欺・サイバー犯罪予防等に関する海外の最新情報を提供

欧州議会はまもなく暗号資産市場 (MiCA) に関する規制の採用について採決を行うーその具体的検討経緯を巡る最新動向―(その2完)」

2022-12-05 16:52:34 | 海外の通貨・決済システム動向

(11) 諮問委員会

 2021 年 2 月 24 日の意見で、欧州経済社会委員会 (EESC) は、立法イニシアチブを支持し、提案された行動が規制のために緊急に必要であると考えている。

 絶え間なく急速に変化している成長中のテクノロジー。

 EESC はまた、単一の規制の枠組みを支持し、「グローバル ステーブルコイン」の発行者が、資本、投資家の権利、および監督に関してより厳しい要件の対象となることを保証するという目的、および消費者や小規模の投資家に適切な情報を提供することを保証する措置に同意した。

 2022 年 9 月 21 日に採択された独自の意見で、EESC は暗号資産の市場に関する規制の提案を「強く支持」し、「取引の財務追跡と暗号資産の税務コンプライアンスを改善する」ためのフレームワークにつき強力な規制と運用を求めている。

 またEESC は、当局が管轄を超えて「同じ活動、同じリスク、同じルール」の原則を遵守すること、および暗号資産の規制の枠組みが全体で一貫していることを強く推奨する。

 この提案は透明性と税務当局の管理を強化するのに役立つ一方で、暗号資産の環境への影響も強調している。

(12) EU加盟国の議会の意見

 子会社化を理由とする理由付き意見書の提出期限は 2021 年 2 月 1 日であった。

 権限移譲に関する懸念は提起されなかった。

 イタリア下院は、MiCA に関する規則案とパイロット制度規則に関する規則案との間の調整を強化することの潜在的な利点について考慮すべきであることを強調し、特に「多国間取引施設」 DLT と暗号資産取引プラットフォームとの関係に言及した。

  さらに、フランス上院は、暗号資産市場は本質的に国際的であることを強調しており、したがって、少なくとも EU レベルで、調和と監視を可能にし、EU 内の規制の断片化を是正し、CMU を強化するための規制の枠組みを確立する必要があると強調している。 .

(13)利害関係者の見解

 2021 年 8 月 23 日の意見で、欧州データ保護監察機関 (EDPS) は、提案の目的を歓迎するが、暗号資産の基礎となる技術がデータ保護の規則と原則を尊重するかどうかについて、より広範な検討と議論の必要性を強調し、次のことを考慮する。新しい規制には、データ保護を保証する義務を含める必要がある。

(14) 欧州金融当局の意見

 ESMA によると、2019 年 1 月 9 日に発行されたイニシャルコインのオファリングと暗号資産に関するアドバイスの中で、ESMA は、投資家保護を保証するために暗号資産には EU レベルのアプローチが必要であると宣言した。

 多くの暗号資産は既存の金融規制の枠組みでカバーされておらず、制限された保護とルールの設定から利益を得ている暗号資産投資家に重大なリスクを引き起こしている

 EU レベルで、公正な競争 (「公平な競技場」) を保護するのが最善である。 ESMA は、NCA のサポート調査11/29(75)で、暗号資産に適用される既存の法律の適用におけるいくつかのギャップを特定している。 さらに、暗号資産が金融商品として認められる場合はいつでも、市場に関連する問題が依然として存在する。 個人投資家の場合、市場参加者とその取引能力のレベルを監視することは、プラットフォームにとって特に時間とリソースを消費する。

 欧州委員会の協議に対する 2019 年 6 月 29 日の回答で、欧州銀行監督機構 (EBA) は、欧州委員会の新しいデジタル金融戦略を強く支持し、EU 金融サービス法全体の概念、定義、および報告義務の標準化をサポートする行動を特定した。 EBA は、規制および監督のアプローチにおいて、個人や組織がニーズに最も適した技術を選択する自由 (「技術的中立性(Technological neutrality)」) を保護することの重要性を強調し、EBA の FinTech Knowledge Hubイノベーション・ファシリテーターのための欧州フォーラム (EFIF)などの調整メカニズムの強化をサポートしている。

 2022 年 2 月、欧州の 3 つの金融監督当局 (ESAs)、すなわち EBA、EIOPAおよび ESMA が共同報告書を発行した。

 欧州委員会の 2021 年 2 月のデジタルファイナンスに関する助言要請への回答である。同助言の主旨は、 高水準の消費者保護を維持し、バリューチェーンの変革、「プラットフォーム化」、および新しい「混合活動グループ」すなわち金融活動と非金融活動を組み合わせたグループの出現から生じるリスク問題に対処することを目的とした提案である。

  ESA は、EU の金融部門における革新的なテクノロジーの使用がバリュー チェーンの変化を促進していること、デジタル プラットフォームへの依存度が急速に高まっていること、新しい複合活動グループが出現している。 これらの傾向は、EU の消費者と金融機関の両方にさまざまな機会をもたらすたが、新たなリスクももたらす。

 したがって、ESA は、EU の金融サービスの規制および監督の枠組みが「デジタル時代の目的に適合」し続けることを確実にするための迅速な行動を推奨している。 提案には情報開示、苦情処理メカニズム、デジタルおよび金融リテラシーの向上など、金融サービスのバリューチェーンの規制と監督、および消費者保護の強化へのアプローチ等全体論が含まれる。 ESA はまた、国境を越えたサービスの分類をさらに集約することを推奨している。

(15) 7 つの作業部会のグループの意見

 2019 年 10 月に発行されたグローバル・ステーブルコインの影響を調査した国際決済銀行(BIS)報告書“G7 Working Group on Stablecoins:Investigating the impact of global stablecoins”の中で、7 か国グループ (G7) ワーキング グループは、グローバル ・ステーブルコインが金融政策の有効性と金融の安定性に、マネーロンダリングとテロリストと戦うための取り締まり管轄区域を超えた取り組みに加えて、国内外で重大な悪影響を及ぼす可能性があると主張している。

 また、通貨の代替を含む、より一般的な国際通貨システムに影響を与える可能性があり、したがって通貨の主権に挑戦する可能性がある。 したがって、ステーブルコインの開発者にとって、関連するすべての法域における健全な法的根拠が不可欠というものである。

 あいまいな権利と義務は、ステーブルコインに対する信頼の喪失につながる可能性がある。これは、特に潜在的に世界的に重要な決済システムにおいて、「容認できないリスク」であり、 公的機関は、リスクを軽減するために世界的に一貫した対応を確保しながら、決済における責任ある革新をサポートするために調整する必要があるというものである。

(16) 関係業界団体の意見

 一部の主要な EU 金融機関(BNB Paribas )、および欧州金融市場協会 (AFME) などの EU 金融機関協会は、規制の提案を歓迎している。クライアントの多様化への欲求に応えて、ビジネスチャンスが生まれる可能性が高く、暗号資産の調和した規制がデジタル時代に適していることを確認した。 しかし、懸念事項として何か問題が発生した場合の暗号資産の管理者の責任を含め、提案については残ると述べる。

 それにもかかわらず、米国ドル(USD)を参照する電子マネートークンに対するMiCA制限の影響に関する共同書簡で、ヨーロッパ・ブロックチェーン協会(Blockchain for Europe:本部ブリュッセル)とデジタル・ユーロ協会(Digital Euro Association) (注10)は、MiCAが規制により、2024.16 から EU で取引量が最大の 3 つのステーブルコインが禁止され、仮想通貨活動が EU から大幅に撤退する可能性がある。 この規制により、短期的にはボラティリティが高くなり、その後流動性が断片化する可能性がある。 さらに、彼らはMiCAによって導入された概念、特に「交換手段」として使用されているトークンの明確化を求めている。

(17) 学術的および専門家の意見

 2018 年に発表された研究で、Guntram Wolff と MariaDemertzis は、暗号資産の開発によって提起された 6 つの主要な公共政策の問題を指摘した。

(ⅰ) 高度な金融システムにおける暗号資産の可能性はどれくらいか?

(ⅱ) マネーロンダリングやテロ資金などの違法行為に対抗する最善の方法は何か?

(ⅲ) 消費者と投資家の保護をどのように確保できるか?

(ⅳ) 金融の安定性はどうか?

(ⅴ) 暗号資産はどのように課税される可能性がある?

(ⅵ) ブロックチェーン・アプリケーションを既存の法的枠組みに組み込む方法は如何?

 この著者は、EUの規制は正しいアプローチであるが、それは世界レベルで調整されるべきであり、G20 (G20) および金融安定理事会(FSB)11/29(88)レベルで行われるべきであると主張している。 後者(金融安定理事会)は6 つの政策課題に対処する規制基準を設定し、新しい技術がもたらす機会を確実に活用しながら、新しい技術のリスクを管理すべきとする。 EU レベルでは、政策立案者や暗号資産の監督を国レベルから EU レベルに移行する必要がある。 異なる監督慣行は実験を可能にするが、首都での監督慣行の相違市場の統合には、特にモバイル性の高い暗号資産の場合、重大な欠点が伴う可能性があるとした。

 2020年にECON委員会の具申に基づき発表された研究(Crypto-assets:Key developments,regulatory concerns and responses)で、Robby HoubenとAlexander Snyersは、既存のプラットフォームで資金を調達するために発行された「プライベートトークン」の数が大幅に増加し、「ステーブルコイン」とステーブルコインのイニシアチブが出現していることを観察している。これらの新しいイニシアチブは、グローバルな影響を伴って非常に急速に拡大する可能性があるため、「グローバル・ステーブルコイン」として知られている。グローバル・ステーブルコインは、金融包摂の促進等金融システムにいくつかの利点をもたらす可能性がある。

 しかし、その世界的な規模は、金融の安定性と金融政策に新たな課題とリスクをもたらす。さらに、著者らは、EU の金融法は、金融機関が暗号資産を保有または取得すること、または暗号資産に関連するサービスを提供することを禁止していないと主張する。さらに、金融犯罪、マネーロンダリング、テロリストの資金調達に暗号資産が適しているかどうかは、取り組む必要のある問題であると指摘する。

(18) 欧州議会の立法プロセス

 2020 年 11 月 13 日の本会議で発表されたこの提案は、欧州議会で経済通貨問題委員会 (ECON) に付託された。

報告者は Stefan Berger (EPP、ドイツ) である。 意見を求めた委員会は次のとおりである。

1)予算委員会 (Committee on Budgets (BUDG))、2)産業・調査・エネルギー委員会(Industry, Research and Energy (ITRE)、3)域内市場と消費者保護 (Internal Market and Consumer Protection:IMCO)、4)市民の自由、司法と内務委員会 (Civil Liberties, Justice and Home Affairs:LIBE)、5)法務委員会 (Legal Affairs:JURI)であり、これらすべてが意見を言わないで決定を下すものである。

(19) 議会の交渉上の立場

 機関間交渉に関する報告書(REPORT on the proposal for a regulation of the European Parliament and of the Council on markets in crypto-assets and amending Directive (EU) 2019/1937)は、2022 年 3 月 14 日に ECON 委員会で採択された。

 このECONレポートがもたらす最も注目すべき変更点は、暗号資産の定義と規制の範囲の詳細が含まれる。 このレポートは、投資目的で提供されない限り、この規制はユーティリティ・トークンには適用されないことを明記しており (recital9)、ESMA にさらに技術的に具体的な定義を要求している。

 また、暗号資産の「オファー」を挿入および定義する。これは、あらゆる種類の暗号資産を一般に提供するか、暗号資産の取引プラットフォームへの暗号資産の承認を求める法人である。 報告書はまた、強化された情報提供と監督を提案し、単一の EU 監督者の設立を示唆しています。

 この報告書は、EMT に関する特定の情報を要求する EBA の権限を強化している (第 104a 条)。

 最後に、同レポートは、暗号資産の環境への影響に関する考慮事項を紹介し、関連情報をホワイトペーパーで提供する必要があることを示している。

(20) 機関間交渉による合意経緯

 欧州連合理事会と欧州議会は、2022 年 6 月 30 日に予備合意に達し、2022 年 10 月 5 日に常任代表者委員会 (Coreper) で承認とECON によって承認された。

 2022 年 10 月 10 日の欧州委員会での最終的な法案テキストは、欧州議会の本会議で投票され、その後、欧州連合理事会で投票される。

2.EUにおけるデジタル金融(暗号資産市場(MiCA)規制法案)審議のタイムライン

https://www.consilium.europa.eu/en/policies/digital-finance/をもとに、筆者の責任で追加した。

〇2022.11.28  理事会がデジタル運用レジリエンス法を採択

 欧州連合理事会は、ヨーロッパの金融セクターが深刻な運用上の混乱を通じて回復力を維持できるようにする「デジタル運用回復力法(Digital Operational Resilience Act :DORA)」を採択した。サイバー攻撃のリスクがますます高まっていることを考えると、EUは銀行、保険会社、投資会社などの金融機関のITセキュリティを強化している。

 DORAは、金融セクターで活動する企業や組織、およびクラウドプラットフォームやデータ分析サービスなどのICT関連サービスを提供する重要なサードパーティのネットワークおよび情報システムのセキュリティに関する統一要件を設定する。

 DORAは、デジタル・オペレーショナル・レジリエンスに関する規制の枠組みを作成し、すべての企業があらゆる種類のICT関連の混乱や脅威に耐え、対応し、回復できるようにする必要がある。これらの要件は、すべてのEU加盟国で同質です。主な目的は、サイバー脅威を防止および軽減することである。

 〇2022.11.28 デジタルファイナンス:理事会がデジタルオペレーショナルレジリエンス法を採択(プレスリリース、2022年11月28日)

 〇2022.10.5デジタルファイナンス:EU加盟国の大使によって承認されたMiCA協定の暫定合意

 議会常任代表委員会(Coreper)は、暗号資産市場(MiCA)規制に関する暫定合意を承認した。これで、正式な導入プロセスを開始可能なる。

*暗号資産の市場に関する欧州議会と理事会の規制に関する提案

〇2022.6.30 デジタルファイナンス:欧州暗号資産規制(MiCA)で暫定合意

 欧州連合理事会議長国と欧州議会は、暗号資産市場(MiCA)提案に関する暫定合意に達した。

 MiCAの目的は、継続的な革新を可能にし、急速に進化している暗号通貨セクターの魅力を維持する暗号資産市場の規制の枠組みを作成することにより、投資家を保護し、財務の安定性を維持することである。

 MiCAは、暗号資産への投資の危険性のいくつかにつき消費者を保護し、詐欺的なスキームを回避するのに役立つ。暗号資産サービス・プロバイダーは、投資家の暗号資産を失った場合に責任を負うようになる。

*デジタルファイナンス:欧州暗号資産規制(MiCA)で合意(プレスリリース、2022年6月30日)

〇2022.5.11 デジタルファイナンス:DORAに関する暫定合意

 欧州連合理事会と欧州議会は、欧州の金融セクターが深刻な運用の中断を通じて回復力のある運用を維持できるようにするデジタル運用レジリエンス法(DORA)に関する暫定合意に達した。

 DORAは、デジタル・オペレーショナル・レジリエンスに関する規制の枠組みを作成し、すべての企業があらゆる種類のICT関連の混乱や脅威に耐え、対応し、回復できるようにする必要がある。

*デジタルファイナンス:DORAで暫定合意(プレスリリース、2022年5月11日)

〇2022.2.25 ユーログループは、デジタルユーロでの作業の現状を評価

 欧州中央銀行と欧州委員会は、デジタルユーロに関するユーログループを更新した。その後、ユーログループ(注11)は、ユーロシステムと欧州委員会がデジタルユーロで実施した作業を支持する声明を発表した。この調査作業は、慎重かつ徹底的な分析に基づいて構築する必要があり、プロセス中のユーログループメンバーの見解から利益を得るであろう。

 デジタルユーロの創設には、欧州連合議会の介入も必要になる。委員会は、TFEU第133条に基づいて提案を行う予定である。この文脈において、ユーログループは、立法前のプロセスの一環として、デジタルユーロに関する的を絞った公開協議を開始するとの欧州委員会の意図を歓迎した。

*デジタルユーロプロジェクトに関するユーログループの声明(プレスリリース、2022年2月25日)

〇2021.11.24 デジタルファイナンスパッケージ:理事会がMiCAとDORAについて合意に達する

 欧州連合理事会は11月24日、デジタルファイナンス・パッケージの一部である2つの提案、「暗号資産の市場に関する規制」(MiCA)「デジタル運用レジリエンス法」(DORA)に関する立場を採択した。この合意は、欧州議会との三位一体交渉のための理事会の交渉マンデートを形成する。

Adoption of the Council negotiation mandate on the digital finance package

〇2021.3.22 理事会、リテール決済戦略に関する結論を採択

 欧州連合理事会は、2020年9月に欧州委員会によって提示されたEUの小売決済戦略に関する結論を採択した。閣僚は、EUにおける革新的で競争的な小売決済市場のための包括的戦略を歓迎し、欧州委員会に対し、適切な場合には立法提案を提出する強いマンデートを与えた。

*「欧州連合のための小売決済戦略」に関する欧州委員会のコミュニケーションに関する理事会の結論

*小売決済:EU理事会は即時決済とEU全体の決済ソリューションを促進するための行動を支持(プレスリリース、2021年3月22日)

〇2021.1.21 加盟国が分散型台帳技術に関する協定を承認

 EU大使は、分散型台帳技術(DLT)に基づく市場インフラのパイロット体制に関するスロベニア欧州連合理事会議長国と欧州議会の交渉担当者の間で2021年11月24日に到達した暫定的な政治合意を承認した。このパイロット制度は、DLT市場インフラストラクチャを運営する許可を取得するための条件を定め、どのDLT金融商品を取引できるかを定義し、DLT市場インフラストラクチャの運営者、国の管轄当局、および欧州証券市場監督局(ESMA)間の協力の詳細を提供する。

 3年間実施されるパイロット制度は、EUのイノベーションと競争力を強化し、それによって欧州がデジタル経済に備えるのに役立つ。DLT規制は、2020年9月に欧州委員会によって提示され、暗号資産(MiCA)、デジタル運用レジリエンス(Digital Operational Resilience Act (DORA))、および補完的な修正指令の市場に関する提案とともに、デジタル・ファイナンス・パッケージの一部である。

 EU大使による承認に続いて、暫定政治協定は理事会と欧州議会によって正式に採択される。

 分散型台帳技術:加盟国が欧州議会との合意を承認(プレスリリース、2021年12月21日)

〇2020.11.3 ユーログループがデジタルユーロの利点と課題について議論

 ユーログループは、デジタルユーロの将来の導入の可能性の利点と課題について戦略的な議論を行った。これは、2021年6月までのユーログループの作業プログラムに含まれる優先事項の1つである。

 2020年10月の欧州中央銀行(ECB)の報告書が議論へのインプットとして役立った。

 我々は、ECBに対し、デジタルユーロの発行の可能性に関するモデル及びオプションとの関連で作業を追求することを奨励する。それまでの間、我々は、我々の通貨主権、金融の安定、銀行の資金調達、消費者保護及びユーロの国際的役割に対するこのプロジェクトの影響を検討する。

パスカル・ドノホー、ユーログループ議長(注11)

ユーログループのビデオ会議の概要、2020年11月3日

ユーログループ作業プログラム

 〇2020.10.6 欧州連合理事会がデジタル・ファイナンス・パッケージについて議論

 加盟国の財務大臣は、2020年9月24日に欧州委員会が提示したデジタル・ファイナンス・パッケージについて意見交換を行った。彼らはパッケージに対する幅広い支持を表明した。

 ドイツの理事会議長は、暗号資産と運用上の回復力に関する立法提案に集中的に取り組む予定であった。

 経済・財務大臣のビデオ会議の概要、2020年10月6日

2020.9.24 2020 年 9 月 24 日、欧州委員会は、EU の金融部門のデジタル運用レジリエンスに関する規制の提案を公開し、堅牢でレジリエントな進行中の金融のデジタル トランスフォーメーションへの道をさらに開いた。

〇2019.12.5 「ステーブルコイン」に関する理事会と委員会の共同声明

 欧州連合理事会と欧州委員会は、「ステーブルコイン」に関する共同声明を採択した。この声明は、ステーブルコインが安価で迅速な支払いの観点からもたらす機会だけでなく、それらがもたらす課題とリスクを強調している。

 この声明は、法的、規制上の課題とリスクが適切に特定され対処されるまで、EUでグローバルなステーブルコインの取り決めを開始すべきではないことを確認している。

*「ステーブルコイン」に関する理事会と委員会の共同声明、2019年12月5日

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(注10) デジタル・ ユーロ ・アソシエーション (DEA) は、中央銀行のデジタル通貨 (CBDC)、ステーブルコイン、暗号資産、およびその他の形態のデジタル マネーを専門とするシンクタンクである。 特に、プライベートおよびパブリックのデジタルユーロに焦点を当てている。

(注11) ユーログループとは、ユーロを法定通貨とする欧州連合の加盟国であるユーロ圏各国の財務相による会合。通貨ユーロや、安定・成長協定などの欧州連合における通貨同盟にかかわる案件などに対する政治的な統制を担っている。ユーログループの議長を務めるのはパスカル・ドノホー(Paschal Donohoe: アイルランドの財務大臣)である。

 Paschal Donohoe, President of the Eurogroup

 ユーログループの会合は欧州連合理事会の経済財政理事会の前日に行なわれる。ユーログループは経済財政理事会との関連があり、経済財政理事会におけるユーロ関連の案件にはユーログループの各国のみが採決に加わることになっている。またユーログループはリスボン条約の発効によって法的な根拠を持つようになった。(Wikipediaから抜粋 )

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欧州議会はまもなく暗号資産市場 (MiCA) に関する規制の採用について採決を行うーその具体的検討経緯を巡る最新動向―(その1)

2022-12-05 16:08:19 | 海外の通貨・決済システム動向

 

 筆者は11月1日付けブログで英国の金融規制当局である金融行動監視機構(FCA)から暗号資産に対する金融プロモーションやその他の活動を規制する法律の権限拡大等を目的とする「2000年金融サービスおよび市場法(Financial Services and Market Act  2000(以下、「FSMA」という)」の改正案についての解説を取り上げた。

 その際、欧州連合(EU)における「暗号資産市場規制(MiCA)」については簡単に言及したが、機会を改めて詳しく解説したいと書いた。

 今般、筆者の手元に欧州連合議会のThink Tankである“European Parliamentary Research Service (EPRS)”からレポ―トが届いた。

 その内容を要約すると、欧州議会はまもなく暗号資産市場 (MiCA) に関する規制の採用について採決を行う。この規制は、EU全体 レベルでの暗号資産に関する調和のとれた規則を確立し、それによって既存の EU 法ではカバーされていない暗号資産に法的確実性を提供する。消費者と投資家の保護と金融の安定性を強化することにより、この規制は金融革新と暗号資産の利用を促進させるというものである。

この規制は、3 種類の暗号資産、つまり、1)資産参照型トークン (asset-referenced tokens :ART)、電子マネートークン (electronic money tokens :EMT)、および3)既存の EU 法でカバーされていないその他の暗号資産を識別し、対象としている。

 これまで、筆者はEUのこの問題への取り組み動向に強い関心を持っていたが、検討経緯も含め網羅した解説はEU内外の大手ローファームでも取り上げられたものは少ない。

 一方、このブログで頻繁に取り上げているとおり、米国等で暗号資産を巡る被害者数や被害金額が極めて大きく、かつ手口が巧妙な詐欺的犯罪が後を絶たない。

 今後、わが国のおいても個人の金融資産をねらって暗号資産詐欺が特殊詐欺の次に急速に被害が拡大することは間違いなかろう。

 その意味で、今回のブログはあえてEPRSのレポートや欧州議会のMiCAの解説サイトを引用しながら、関係機関と意見調整結果等も踏まえ体系的な解説を試みるものである。なお、わが国での法制整備のうえでも参考となるよう考慮した。

 最後に、筆者はEPRSのレポートを読むうえで参考にしたSkadden, Arps, Slate, Meagher & Flom LLP のレポート11/29(69)を改めて読んで「目から鱗が落ちた」感である。機会を改めて紹介したい。同事務所は、ニューヨーク市に本社を置くアメリカの多国籍法律事務所である。1948年に設立された当事務所は、収益で一貫して米国のトップ法律事務所にランクされており、また同事務所は、会社の合併と買収に関する取り組みで知られている。ただし、ロシアとの関係でスキャンダルも起こしている。

今回のブログは2回に分ける。

1.EPRSのレポート(詳細版)の要約

進行中のEU法「暗号資産市場 (MiCA)」法案の概要】

 この法律は、暗号資産の発行と取引、および該当する場合は原資産の管理を規制し、特に「重要な」ART と EMT を対象とした追加の規制規則を追加する。交渉の結果得られた暫定合意は、暗号資産の流動性と償還を確保することを目的としており、投資家へのコミュニケーションに暗号資産の環境への影響を含めることを想定している。

【暗号資産市場規制にかかる欧州議会および欧州連合理事会の規則の提案、および指令 (EU) 2019/1937 の修正案について】

欧州議会の担当委員会: 経済・通貨問題委員会(ECON)COM(2020) 593 24.9.2020 (注1)

報告者: シュテファン・ベルガー(Stefan Berger):欧州人民党グループ:EPP、ドイツ)2020/0265(COD)

Stefan Berger 氏

影の報告者: エーロ ・ヘイナローマ(Eero Heinäluoma) :社会・民主主義進歩連盟グループ:S&D、フィンランド)

オンドレイ・コバリク(Ondřej Kovařik):リニューヨーロッパ:Renew Europe、チェコ)

エルネスト・ウルタスン (Ernest Urtasun ):欧州緑の党・欧州自由連盟グループ:Greens、スペイン)

アントニオ・マリア・リナルディ(Antonio Maria Rinaldi):アイデンティティーと民主主義:ID、イタリア)

アンジェリカ・A・モジャノフスカ(Andżelika A. Możdżanowska ):(欧州保守改革グループ:ECR、ポーランド)

クリス・マクマナス(Chris Macmanus) (欧州統一左派: The Left、アイルランド)

〇通常の立法手続 (COD):欧州議会と欧州連合理事会が対等の立場で審議 -以前は「共同決定」)

〇予想される次のステップ: 最終の欧州議会第一読会→本会議での投票

(1)はじめに

 2020 年 9 月 24 日、欧州委員会は暗号資産市場 (MiCA) に関する規制の提案を提出し、指令 (EU) 2019/1937 を修正した。この提案は、欧州連合の機能に関する条約(TFEU)の第 114 条に基づいており、域内市場内での設立や機能につき欧州連合 (EU) に加盟国の法律を近似するための適切な規定を制定する権限を与えている。(TFEU第 26 条参照)。

 新しい規制は、暗号資産の発行と取引の許可に関する透明性と開示要件を確立する。 また、暗号資産サービス・プロバイダー、資産参照トークン (asset-referenced tokens :ART) (注2)(注2-2)の発行者、および電子マネートークン (electronic money tokens :EMT) (注3)の発行者の承認および監督について定める。さらに、 ARTの発行者、EMTの発行者、および暗号資産サービス・プロバイダーの運営、組織、およびガバナンスを規制する。 また、暗号資産の発行、取引、交換、保管に関する消費者保護規則、および暗号資産市場の完全性を確保するための市場の乱用を防止するための措置も提供する。

 この提案には 4 つの具体的な目的がある。 第一に、金融サービスに関する既存の EU 法でカバーされていない暗号資産に法的枠組みを提供することである。第二に、合法性(sound)を設定し、透明性のある法的枠組みにより、イノベーションをサポートし、暗号資産を促進し、分散型台帳技術 (DLT) の幅広い使用を促進する。第三に、提案は適切なレベルの消費者と投資家の保護と市場の完全性を提供する。最後に、第四として暗号資産の一部が「広く受け入れられ、体系化される可能性がある」ため、金融の安定性を向上させる。

(2)これまでの検討経緯

 欧州委員会は、2018 年 3 月に、暗号資産によってもたらされる機会と課題を検討する「より競争力のある革新的な欧州金融セクター」を目指した「FinTech 行動計画(FinTech action plan) 」 を発表した。これは、 最新の開発では、2017 年に暗号資産、特に安定化機能を組み込んだ「ステーブルコイン」が大幅に急増したこと等が示している。ステーブルコインの規模は依然として小さく、現在の状態では体系的な脅威をもたらす可能性は低いが、ステーブルコインの市場は将来大幅に拡大する可能性があるというものである。

 この提案は、ヨーロッパをデジタル時代人々のために機能する経済に適合させるという同委員会の優先事項の一部であり、これは、投資家のリスクを軽減しながら、技術革新と競争の観点からデジタル金融の可能性をサポートすることを目的とした「デジタル金融パッケージ (digital finance package :DFP)」 のコンポーネントといえる。

 DFP には、デジタル ファイナンスに関する戦略と 次の3 つの提案が含まれている。(1)分散型台帳技術 (DLT) 市場インフラストラクチャのパイロット体制に関する規制、(2)金融セクターのデジタル運用レジリエンスに関する規制、(3)関連する特定の EU 金融サービス規則を修正する指令である。

 (3) 金融証券市場に関する EU 規制の現在の状況

 金融証券市場に関する EU 規制は、第二次金融商品の市場に関する指令 (EU) 2014/65 (MiFID (注4)によって主に管理されている。

 特に、MiFIDⅡ は、「金融商品」(附属書(Annex) I、セクション C) および「譲渡可能証券」(第 4 条(44)を定義し、適用する。

 MiFIDⅡ に基づく証書は、加盟国による「譲渡可能な証券」の概念の適用に依存する。 暗号資産は、他の加盟国ではなく、ある加盟国では「譲渡可能な証券」と見なされる可能性があり、EU 単一市場の断片化につながる。 さらに、暗号資産の範囲は非常に多様であり、その多くはハイブリッド機能を含んでいるため、一部の「投資トークン」は譲渡可能な証券またはその他の金融商品と見なすことができる。

(4) 欧州議会の検討開始の位置

 2020 年 10 月 8 日のデジタル金融(digital finance)(暗号資産の新たなリスク)に関する独自の決議で、欧州議会は MiCA に関する立法提案を含む DFP を承認した。これは、法的に明確化し、新しい規制制度を策定するために、タイムリーで必要かつ不可欠なものである。

 このイニシアチブによると、デジタル ファイナンスは、資本市場同盟 (CMU) (注5)の成功の要因となるであろうし、同時に企業と市民に追加の資金調達オプションと投資オプションを提供する。 この決議は、デジタル金融の監視と規制のための措置を実施する必要性が高まっていることを強調している。

 また、欧州議会はデジタル金融の新しいまたは更新された法律および監督は、同じ活動とサービスおよび関連するリスクが同じ規則の対象となることを保証する必要があると考えている。

 さらに、均衡性(proportionality)と技術的中立性(technological neutrality) 、透明性と説明責任、基本的権利の尊重特にプライバシーと個人データの保護の領域における尊重、消費者と投資家の保護の高レベル化、公平な競争条件、および イノベーションに優しいアプローチを保証する。

 最後に、その規制はイノベーションの促進、金融の安定、消費者と投資家の保護の間でバランスを見つける必要がある。 また欧州議会は、欧州委員会に対し、金融の革新と安定の利益のために、デジタル金融サービスのための汎欧州サンドボックスのための EU レベルの枠組みを確立するよう求め、他の欧州監督機関 (ESAs) (注6)(注7) と協力するEU各国の管轄区域の国家監督当局(NCAs)を提案している。

(5) 欧州連合理事会の検討の開始位置

 ステーブルコインに関する 2019 年 12 月 5 日の声明で、欧州連合理事会は、欧州委員会と共同で、「適切な消費者保護基準と秩序ある金融財政状況」を確保するために必要な措置を講じる用意があると宣言し、「グローバルなステーブルコインは存在しない」と宣言した。 この取り決めは、法律、規制、監督上の課題とリスクが適切に特定され、対処されるまで、EU での運用を開始する必要がある。 ただし、技術革新は、競争と金融包摂を促進し、消費者の選択肢を広げ、効率を高め、コストを削減することにより、金融部門に「大きな経済的利益」をもたらすと、明記した。

 欧州連合理事会にとって、「ステーブルコイン」は、特に国境を越えた支払いにおいて、安価で迅速な支払いの機会を提供する可能性がある。

 ただし、ステーブルコインは、消費者保護、課税、サイバーセキュリティ、マネーロンダリング、テロ資金調達、市場価格操作、および法的確実性に対する挑戦やリスク問題を課す。

 さらに一部のステーブルコインは、将来的に到達する可能性のある巨大で国際的な規模になる可能性があるため、経済的安定性の良好さとともに、通貨主権や金融政策などの領域に関する懸念が生じる。

したがって、「ステーブルコイン」の取り決めに関する法的明確性が必要であり、「ステーブルコイン」を発行する事業体は、適切な評価を可能にするために完全かつ適切な情報を提供する必要がある。

(6)欧州委員会の提案の準備

 欧州委員会の提案には影響評価 (COMMISSION STAFF WORKING DOCUMENT IMPACT ASSESSMENT:SWD(2020) 380) が付随しており、EU の金融規制の対象となる暗号資産とそうでないものを区別している。

 暗号資産が EU の金融規制でカバーされていない場合、一部の加盟国は国レベルで特注の規制を導入し、単一市場内で規制の断片化と歪んだ競争を生み出している。 また、異質な規制により、暗号資産サービス・プロバイダーが EU 全体で活動を拡大することがより困難となり、銀行が規制の抜け穴を悪用して、国やセクターによってルールが異なるという事実、つまり「規制に対する裁定取引(regulatory arbitrage')」(注8)を利用するリスクが生じる。

  最も懸念されているステーブルコインの規制上の取り扱いは、その特定の設計に依存する必要がある。また 消費者保護と市場の完全性も深刻な問題になっている。

 EUおよび国レベルでの監督措置は、さまざまな結果をもたらした。

投資家を保護する条件と詐欺対策が重要であり、時間の経過とともに一定であるという証拠がある。 さらに、暗号資産が EU 法でカバーされている場合、既存の EU 金融規制の適用方法について法的な確実性が欠如している。

 この影響評価では、次の 2 つのオプションが提案されている。

〇 オプション 1: 規制されていない暗号資産のオプトイン体制。 投資家保護の強化と市場の完全性のおかげで、EU の暗号資産市場に対する信頼度は高まるであろう。 サービス・プロバイダーは、国境を越えて活動を拡大することもできる。 それでも、市場の断片化が完全に解消されるわけではない。

〇 オプション 2: 完全なハーモナイゼーション。 これにより、EU 全体で同レベルの投資家保護と市場の完全性から恩恵を受ける市場参加者の法的な透明性が強化される。 サービス・プロバイダーを規制することで、金融の安定性が高まり、大きな市場規模が期待できまる。 これにより、EU における規制上の裁定取引のリスクが大幅に軽減される。

(7) 欧州委員会提案がもたらす変化

 欧州委員会が提案した規制案は、既存の EU 法でカバーされていない暗号資産に法的確実性を提供する。 それは、既存の国家的枠組みに取って代わり、EU レベルでの暗号資産の統一ルールを確立する。 この規制は、ステーブルコインが「電子マネー」である場合を含め、ステーブルコインに関する特定のルールも設定する予定である。提案された規則は、9 つの編に分かれる。

【範囲と一般的な機能】

 第 I 編は、規制が暗号資産サービスのプロバイダーと発行者に適用されることを示し、発行、運用、暗号資産サービス・プロバイダーの組織とガバナンスを定める。

  また、消費者保護規則と市場の乱用を防止するための措置も確立しており、規制の範囲は、EU の金融サービス法に基づく金融商品、預金、または仕組預金としての資格を持たない暗号資産に及ぶ。

  提案は、参照された暗号資産の用語と定義を設定する。

 この規則により、欧州委員会は定義のいくつかの技術的要素を特定し、それらを市場および技術開発に合わせて調整する委任法を採用することができる。

暗号資産とサブタイプの提案定義 (第 3 条):

〇 「暗号資産」は、「分散型台帳技術(DLT または同様の技術) (注9)を使用して、電子的に転送および保存できる価値または権利のデジタル表現」の総称である。

〇「資産参照型トークン」(ART)は、法定通貨(法定通貨)、1 つまたは複数の商品、または 1 つまたは複数の複数の通貨、またはそのような資産の組み合わせの価値を参照することにより、安定した価値を維持することを意図した暗号資産の一種である。

 〇「電子マネー トークン」(電子マネー トークン(e-money token':EMT) は、法定通貨である法定通貨の価値を参照することで、交換の手段として安定した価値を維持する暗号資産の一種である。

〇資産参照型トークンと電子マネー トークンは、しばしば「ステーブルコイン」と呼ばれる。

〇「ユーティリティ・トークン(utility token)」は、DLT で利用可能な商品またはサービスへのデジタル・ アクセスを提供することを目的としており、そのトークンの発行者によってのみ受け入れられる。

 この提案には、ART と EMT (第 II 編 )、ART (第 III 編)、EMT (第 IV編 ) 以外の、暗号資産の承認規則を設定する 3 つの編が含まれている。

 特に、発行者は法人の形態で設立されなければならず、情報要件を定めた白書(white paper)を提供する必要がある。 第 5 条には白書の内容が記載されており、提案には白書の最小限の内容を示す附属書が添付されている。

 権限のある当局は、提供を一時停止または禁止する権限を持ち、追加情報を含めることを要求する。また、暗号資産白書に記載するか、発行者が規制を遵守していないという事実を公表する。

 EU での運営を認可されるには、ART の発行者は法的な形で組み込まれる必要がある。

 EU で設立され、EU で承認された事業者であり、管轄当局によって承認されたものは暗号資産のホワイト ペーパーを公開する必要がある。

 EMT(第 IV編)に関しては、発行者は、信用機関として、または指令 2009/110 の第 2 条(1)(電子マネー指令として知られている指令)に定める電子マネー機関として認可されねばならない。

  第 46 条と附属書 III は、EMT の発行に伴う要件、たとえば、1)発行者とプロジェクトの説明、2)EMT の一般人への提供、または3)これらの取引プラットフォームへの承認に関するものかどうかの表示、4)発行者とEMTに関連するリスクに関する情報等、暗号資産ホワイト ペーパーの要件を規定している。

(8) 重要な ART と EMT

 欧州銀行監督局 (EBA) は、第 39 条 (1) および (6) に規定された規則に基づいて ART および EMT が重要であるかどうかを判断する詳細を規定するが、特に以下のしきい値を提供する。

①顧客ベース: しきい値は、200 万人の自然人または法人を下回ってはならない。

② ART の価値または時価総額: しきい値は 10 億ユーロを下回ってはならない。

③ トランザクション数: しきい値は 1 日あたり 500,000 を下回ってはならない。

④ 取引量: しきい値は、1 日あたり 1 億ユーロを下回ってはならない。

⑤ 使用する加盟国の数: 閾値は 7 より低くしてはならない。

 第 39 条には、発行者の ART が重要であると見なされる状況としきい値をさらに特定する委任法を委員会が採択する権限も含まれている。

 重要な EMT の発行者には、さらに追加の義務が適用される。

(9) 管轄当局

 権限のある当局とそれぞれの権限は第 VII 編に記載されている。第 1 章は、EU 加盟国が、規則によって提供される機能と義務を実行する責任を負う国家管轄当局 (NCA) を指定し、EBA と欧州証券市場機構 (ESMA) に通知することを定めている。 NCA の権限には、サービス提供者および管理機関のメンバーに情報と文書を提供するよう要求することが含まれる (第 82 条)。

 この提案では、NCA が暗号資産サービスを一時停止または禁止する権限を持つことも想定している。

第 2 章では、NCA が課すことができる行政制裁と措置について詳しく説明している。 最後に、第 3 章では、EBA が ESMA および欧州中央銀行システムと協力して、最も関連性の高い取引プラットフォームと保管機関(custodians)を決定するための規制基準の草案を作成する必要があることを示している。

(10) その他の編: 承認と市場の悪用

 第 V 編は、暗号資産サービス プロバイダーの承認と運用条件に関する規定を定めている。 また、第 VI編 は、暗号資産を含む市場の乱用を防止するための禁止事項と要件を定めている。

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(注1) 欧州議会、ブレグジットに伴い議席配分を見直し結果(JETROビジネス通信から抜粋)

中道右派「欧州人民党(EPP)グループ」:187議席(5議席増)→26.6%

中道左派「社会・民主主義進歩連盟(S&D)グループ」:148議席(6議席減)→21.0%

穏健リベラル会派「リニュー・ヨーロッパ(RE)」:97議席(11議席減)→13.8%

環境政党系会派「欧州緑の党・欧州自由同盟(GREENS/EFA)グループ」:67議席(7議席減)→9.5%

極右派「アイデンティティーと民主主義(ID)」:76議席(3議席増)→10.8%

保守系会派「欧州保守改革(ECR)グループ」:62議席(4議席減)→8.8%

左翼系「欧州統一左派・北欧緑左派連盟(GUE/NGL)」:40議席(変更なし)→5.7%

無所属:27議席(26議席減)→3.8%

(注2) 資産参照トークン (asset-referenced tokens :ART)

EUが提案する暗号資産市場規制に基づく資産参照トークンに関する解説を一部引用し、仮訳する。

〇資産参照トークン(「ART」)を構成するものは何か?

 MiCAの下では、暗号資産は「法定通貨である複数の法定通貨、1つまたは複数の商品、1つまたは複数の暗号資産、またはそのような資産の組み合わせを参照することにより安定した価値を維持する」と主張する場合、「資産参照トークン」である。

 MiCAがARTに特に焦点を当てているのは、当時呼ばれていたFacebook/MetaのLibraプロジェクト(注2-2)の直接の結果であると推測されている。Libraプロジェクトには、Facebookのソーシャルネットワークと共同で使用されるグローバル・デジタル通貨の提案が含まれ、現実世界の法定通貨の加重バスケットから価値が導出されるLibraトークンの開発が含まれていた。このプロジェクトは、国境を越えた取引で決済コインとして機能する新しいタイプのデジタルグローバル通貨を投資することを目的としていた。

ARTとしてのステーブルコインとは?

 ARTの定義内で提案された法定通貨に固定されているように見える「安定した価値」トークンの言及は、簡単に誤解される可能性がある。米ドルに固定され、米ドルに裏打ちされた人気のあるステーブルコイン(USDT、USDC、BUSDなど)がMiCAのARTカテゴリに分類される可能性があると考えることに混乱することは容易に理解できます。ただし、MiCAがARTを「複数の法定通貨の価値を指す」と説明しているため、1つまたは複数の商品または1つまたは複数の暗号資産があるため、MiCAは米ドルに裏打ちされたステーブルコインをARTカテゴリから除外しているようである。

 ただし、法定通貨の準備金に裏打ちされたステーブルコインは、「電子マネートークン」と見なされる。これらは、法定通貨である法定通貨の価値を参照することにより、安定した価値を維持することを目的とした暗号資産である。

発行体のガバナンスとポリシー

 MiCAの主な目的の1つは、暗号資産発行者、事実上、特定の暗号資産の機能を発行および定義する組織、および資産の配布方法を規制することである。この理由は、現在、消費者保護が事実上ない暗号業界/市場の規制されていない性質による。規制当局は、発行者側の詐欺や欺瞞的な慣行などのリスクを懸念している。これに照らして、MiCAがART発行者の内部ポリシーを精査および規制することを目指していることは理にかなっている。

経営機関および株主の要件

 MiCAの規制上の焦点のさらなる分野は、ARTを発行する組織を所有および管理する人々である。 MiCAは、ART発行者の管理機関(事実上の最高経営責任者)が特定の基準を満たすことを要求している。ART発行体組織が会社である場合、発行者の管理者と株主も一定の基準を満たす必要がある。

ART発行者の管理機関のメンバーは、評判が良く、職務を遂行するために必要なスキルと資格を持っている必要がある。このような経営陣のメンバーは、マネーロンダリング防止とテロ資金供与との闘いを目的として、適切かつ適切である必要がある。

利息付与の禁止

 MiCAは、ARTが価値の保存手段としてではなく、主に交換手段として使用されることを保証するために、ART発行者(および暗号資産サービスプロバイダー)は、ARTのユーザーまたは所有者に利益またはその他の利益を与えることは許可されていないと述べている。

 これにより、ARTは、問題のARTに植え付けられる可能性のある権利、利益、または権限を授ける能力を持つことから事実上奪われる。

公募前の承認の要件

 ART発行者は、関連する管轄当局から許可されるまで、EU内でARTを一般に公開する(またはARTを取引プラットフォームに認めようとする)ことを禁じられている。MiCAはまた、EU内で設立された法人のみがそのような承認を付与できることを明確にしています。MiCA提案の重要な特徴は、所管官庁によって付与された認可が連合全体で有効になることである。

認可申請

 EUでの運営を承認されるためには、ARTの発行者はEUに設立された法人の形で設立されなければならない。発行者がEUで認可されておらず、発行者が管轄当局によって承認された暗号資産ホワイトペーパーを発行していない場合、ARTをEUで一般に提供したり、取引プラットフォームでの取引を許可したりすることはできない。

 管轄当局は、ART発行者から承認申請を受け取ると、まず申請が完了したかどうかを直ちに申請者に通知する。その後、管轄当局は、3か月以内に、申請者の発行者がMiCAの要件に準拠しているかどうかを評価し、承認を付与または拒否する決定草案を公開する。この決定草案は、申請者の発行者、欧州銀行監督局(「EBA」)、欧州証券市場監督局(「ESMA」)、および欧州中央銀行(「ECB」)に送信される。申請者の発行者は、決定草案に関するコメントを管轄当局に提供する権利を有する。

 決定草案と申請、EBA、ESMAを受け取ってから2か月以内に、ECBは申請について拘束力のない意見を発表し、関係当局に送付する。その後、その管轄当局は、これらの拘束力のない意見、および申請者発行者のコメントを適切に検討する。その後、管轄当局は、1か月以内に、5営業日以内に通知される申請者発行者に承認を与えるか拒否するかについて、十分に合理的な決定を下す。

ARTのホワイトペーパー

 MiCAは、認可を受ける前に、ART発行者が関連する管轄当局(通常は発行者の関連する加盟国の主要な金融サービス当局または中央銀行)にホワイトペーパーを提出する必要があると規定している。このようなホワイトペーパーはトークン目論見書に似ており、今日の暗号業界で一般的なホワイトペーパーと完全に異ならないわけではない。ただし、MiCAが要求するホワイトペーパーには、問題のARTの発行に関する具体的な詳細と、発行者自体の管理方法に関する詳細を提供する必要がある。ホワイトペーパーで提供されるすべての情報は、完全で公正であり、誤解を招くものであってはならない。

ホワイトペーパーの承認と公開

 MiCAは、申請者の発行者が承認された場合、その暗号資産ホワイトペーパーは承認されたと見なされると述べている。提案された規制は、EBAとESMAが暗号資産ホワイトペーパーの承認のための正確な手順を指定するための規制技術基準の草案を開発することを規定している。

マーケティング・コミュニケーション

 発行者がARTに関して発行するマーケティングコミュニケーションは、ホワイトペーパーに記載されている詳細と一致している必要がある。このようなマーケティングコミュニケーションは、そのように識別可能である必要があります。マーケティングコミュニケーションの情報は、公正かつ明確で、誤解を招くものであってはならない。

暗号資産を裏付ける資産の準備金

 ARTの価値を安定させるために、発行者は常にそれらの暗号資産を裏付ける資産の準備金を構成し、維持する必要がある。MiCAはまた、発行者が複数のカテゴリーのARTを発行している場合、ARTのカテゴリーごとに個別の資産準備金を維持する必要があると規定している。

第三者準備資産の保管機関

 さらに、第三者準備資産の保管機関または暗号資産サービスプロバイダーが運営許可を失った場合、管轄当局はART発行者に通知する必要がある。そのような場合、発行者の良好な評判の管理機関が影響を受けたと所管官庁が考える場合、またはガバナンスおよび/または内部統制の取り決めに欠陥があったことが示された場合、発行者の承認を取り消すことができる。

自己準備資金の要件

 ART発行者は、常に350,000ユーロ(約5000万円 )を超える資金を持っているか、準備資産の平均額の2%のいずれか高い方の資金を保有する必要がある。

 準備資産の平均額の2%を計算する場合、準備資産の平均額とは、過去6か月間に計算された各暦日末の準備資産の平均額を意味する。同様に、発行体がARTの複数のカテゴリーを発行している場合、当該計算に使用される金額は、ARTの各カテゴリーを裏付ける準備資産の平均額の合計になる。

ART発行者の管轄当局への通知要件

 MiCAは、ART発行者に、特定の状況または特定のイベントが発生した場合に関連する管轄当局に通知することを要求している。このような通知要件は、発行者に関する破産または猶予イベント、発行者の管理機関に変更が加えられたとき、および発行者のARTトークンの購入決定に影響を与える可能性のある発行者のビジネスモデルに重大な変更が発生した場合に起動される。

ART発行者の一般的な義務

 ART発行者は、正直、公正、専門的に行動し、誤解を招くことなく公正にトークン所有者とコミュニケーションをとることが求められている。発行者はまた、トークン保有者の最善の利益のために行動する必要があり、すべてのトークン保有者を平等に扱うことも求められる。つまり、暗号資産白書および/またはマーケティングコミュニケーショで優遇措置が開示されていない限りである。

 また発行者は、明確な苦情処理手順を確立する必要がある。

(注2-2)米国Meta(旧Facebook)が2019年6月に発表した暗号通貨「Libra」(後に「Diem」と改称)のプロジェクトが終了した。プロジェクトを管理するために立ち上げられた組織Diem Association(当時はLibra Association)は2022年1月31日、ブロックチェーンベースの決済ネットワーク「Diem Payment Network」運営に関連する知財を含むすべての資産を米Silvergate Capitalに売却すると発表した。買収総額は約2億ドル。Diem Associationとその子会社は、向こう数週間中に解散プロセスを開始する。

(注3) 電子マネートークン(「EMT」)の定義等に関し、前述のThe Ledger Law Firmの弁護士(Solicitor with Irish and EU crypto-asset regulation expertise)の解説を引用する。

電子マネートークン(「EMT」)の定義

 MiCAは、EMTを、交換手段として使用され、法定通貨である法定通貨の価値を参照することにより安定した価値を維持することを目的とした暗号資産の一種として定義している。MiCAは、その説明で、法定通貨である単一の法定通貨を参照するすべてのタイプの暗号資産を保存するために、EMTの定義が意図的に広くなっていると述べている。MiCAの説明では、EMTの機能は、EUの電子マネー指令(EMD2)ですでに定義されているように、電子マネーの機能に非常に似ているとさらに述べている。

 EMD2は、電子マネーを電子的または磁気的手段を介して保存される金銭的価値のストアであると説明しています。EMD2によると、電子マネーは、支払い取引を行う目的で、資金の受領時に発行される電子マネー発行者に対する請求によって表されます。さらに、EMD2では、電子マネーの発行者自身以外の自然人または法人も電子マネーを受け入れる必要があります。

 電子マネーと同様に、EMTは支払いに使用される法定通貨の電子的で安定した価値の代理であるように見えます。

 上記のEMTの定義によると、一般に「ステーブルコイン」と呼ばれる暗号資産の大部分は、MiCAのEMTカテゴリに該当するようです。

 ステーブルコインは暗号市場で不可欠な役割を果たす。たとえば、ビットコインの購入の大部分はステーブルコインを含み、投資家は最初にフィアットを選択したステーブルコインと交換する。

 MiCAに付随して発表されたインパクト・ステートメントでは、グローバル・ステーブルコインが交換手段として広く受け入れられ、価値の保存手段として使用される可能性があること、およびこれが金融の安定性、金融政策の伝達、通貨主権に関連するリスクをどのようにもたらす可能性があるかについて説明している。これらの理由とその採用の増加により、ステーブルコインが規制当局の注目を集め、ステーブルコインが暗号資産に関する規制当局の主な懸念事項の対象となることが多い理由であるといえる。

EMT認可と要件

 規制当局は、EMTが消費者保護と暗号資産市場の完全性に新たな課題をもたらす可能性があると考えている。MiCAは、これらの理由から、そのようなリスクを制限するためにEMT発行者に厳格な条件を実装することが提案されている方法について説明する。これに関連して、MiCAはEMTは資本要件規則で定義されている信用機関、または改訂された電子マネー指令(「EMD2」)の下で承認された電子マネー機関のいずれかによって発行されることを要求することを提案している。

認可の免除

 MiCAの下では、時価総額が5百万ユーロ未満のEMT、または限られた量の選択された適格投資家に配布されるEMTは、承認要件が免除される。ただし、そのような免除が適用される場合でも、EMT発行者は暗号資産ホワイトペーパーを作成し、発行者の関連する管轄当局に通知する必要がある。

暗号資産にかかるホワイトペーパー

 MiCAの下では、EMTをEUで一般に公開したり、取引プラットフォームへの入場を求めたりする前に、EMT発行者は暗号資産のホワイトペーパーをWebサイトで公開する必要がある。ホワイトペーパーのそのような情報はすべて公正かつ率直でなければならず、発行者はホワイトペーパーで提供される情報に対して責任を負うことができる。

ホワイトペーパーの通知

 電子マネートークンの発行者はさらに、暗号資産ホワイトペーパーの草案と該当する場合はマーケティングコミュニケーションを発行者の関連する管轄当局に通知する必要がある。これは、発行日の少なくとも20営業日前に行う必要があり、所管官庁は、この通知の後、発行者にさらなる文書または情報の提供を要求し、発行者の活動を一時停止または禁止することを選択するなど、特定の権限を行使することができる。

重要性を有するEMT

 特定の基準に基づいて、欧州銀行監督機構(「EBA」)は特定のEMTを「重要な電子マネートークン」として分類する。そのように分類されるためには、EMTは次の6つの基準のうち3つで特定のしきい値を超える必要がある。

① 電子マネートークンのプロモーター、電子マネートークンの発行者の株主、または第

三者の予備資産保管機関の顧客データベースの規模。

② 発行された電子マネートークンの価値(または該当する場合は時価総額)。

③問題の電子マネートークンの取引数と価値。

④電子マネートークンの発行者の資産準備金の規模。

⑤ 電子マネートークンの発行者の国境を越えた活動の重要性

⑥従来の金融システム内の電子マネートークンの相互接続性

受入資金の投資方法

 EMT発行者がEMTと引き換えに受け取った資金を投資する場合、そのような資金は、クロスカレンシー決済リスクを回避するために、電子マネートークンが参照しているものと同じ通貨建ての資産に投資する必要がある。発行者は、EMD2で指定されている安全でリスクの低い資産にのみそのような資金を投資することが許可される。

利息の禁止

 MiCAは、EMT発行者および暗号資産サービスプロバイダーは、トークン所有者がEMTを保持している期間に関連する利息またはその他の利益を付与することを禁じられていると規定している。

(注4) 欧州の金融・資本市場にかかわる包括的な規制である金融商品市場指令(MiFID)は、2007 年 11 月の施行以来、金融商品にかかわるサービスを提供する投資業者のための包括的な枠組みと EU 加盟国の所管当局が策定すべき規制の指針を示すことで、EU の資本市場における競争と統合を促進するとともに、投資家保護の面でも目覚ましい改善をもたらしてきたとされている。・・・、MiFID の改正を求める声が高まり、2010 年 12 月 8 日、欧州委員会は MiFID の見直しに関する市中協議を開始、その結果を踏まえて金融商品市場指令の改定案及び金融商品市場規則案を策定し、2011 年 10 月に欧州議会及び欧州連合理事会に上程した。その後、欧州連合理事会、欧州議会、欧州委員会の間で協議が続けられ、2014 年 1 月の欧州連合理事会の政治合意、2014 年 4 月の欧州議会での可決を経て、今回の欧州連合理事会の可決により改定作業が完了した。

 今回採択されたのは第 2 次金融商品市場指令(MiFIDⅡ)及び金融商品市場規則(MiFIR)の二つである。

 EU 加盟各国による国内法制化によって効力が発生する指令に対して、規則は EU 全域に直接に適用されるので、MiFIR の規定は EU 加盟国全ての市場に対する共通の基準として適用されことになるが、これは、加盟国ごとに規制が異なることで、EU 域内での複数の市場で活動する投資業者に過度の法令順守負担がかかることを防止するためである。(以下、略す)(平成 26 年11 月27 日大橋 善晃(日本証券経済研究所)「第 2 次金融商品市場指令(MiFIDⅡ)の概要」から一部抜粋)

(注5) 資本市場同盟(Capital Markets Union=CMU)とは、欧州連合(EU)が構築しようとしている欧州の単一資本市場です。株式、債券、デリバティブなどさまざまな金融商品の取引市場は、現状では、各国それぞれの法制度や仕組みの下で運営されていますが、それらを統合することによって、投資家や資金を必要とする事業者などが、国境を越えて、より自由に、より容易に資本市場にアクセスできるようにしようとするものです。CMUの構築は、2014年11月に発足したジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長の最も重要なイニシアティブの一つであり、2015年2月に、その構築に関するグリーンペーパー(議論のたたき台となる提案書)が発表されました。(駐日欧州連合代表部の解説から抜粋)

(注6) 欧州連合には銀行、証券、保険の監督者として、欧州銀行監督機構(EBA:European Banking Authority),欧州証券市場監督機構(ESMA:European Securities and Market Authority)、そして欧州保険年金監督機構(EIPOPA:European Insurance and Occupational Pensions Authority)(注7)あって、これらは総称してESAs(European Supervisory Authorities)という。

(注7) 2018.11.30 E IOPAの警告文を抜粋、仮訳する。

ESMA, EBA,EIOPA は、連名で仮想通貨のリスクについて消費者に警告する。欧州証券市場監督機構 (ESMA)、欧州銀行監督機構(EBA)、および欧州保険企業年金監督機構 (EIOPA) (以下、「3 つの ESAs」という) は、いわゆる仮想通貨 (VC)の購入および/ または、保持につき警告する。

(注8) 規制のアービトラージとはある管轄権の規制が厳しい場合、グローバルな金融機関はより対応が容易な他の管轄権に移動することで規制を回避することが可能なことを言う。(https://www.fsa.go.jp/news/19/sonota/20070711-1/02-2.pdf から抜粋)

(注9) 分散型台帳技術(DLT)は、「Distributed Ledger Technology」の略称で,文字通り、分散型のデータベース(台帳)を実現する技術です。ネットワークを構成する複数のノードが同一のデータベースを保持し、発生した変更に応じて各ノードの分散台帳が更新されていきます。

 クライアント・サーバモデルのような中央集権型ネットワークとは異なり、特権的なノードを必要としないため、公平なネットワークを構築することが可能です(ただし、権限に応じて、その役割が制限される)。

 加えて、電子署名とハッシュポインタを用いることで、改ざん検出が容易なデータ構造を実現し、透明性や検証性、監査性を担保しています。したがって、金融やサプライチェーンなど、多くの利害関係者が関与し、監査などが必要なネットワークに導入することが可能です。

 一方、ブロックチェーンは、ネットワークを構成するすべてのノードが、台帳のコピーを自律的に取得または構築できる分散型台帳技術の一種です。アルゴリズムに従い、任意のトランザクションおよびその集合体であるブロックの順序が決定され、各ノードが正しいと認めるただひとつの台帳が選択されます。

 また、従来型のデータベースとは異なり、ブロックチェーンはデータの書き込みと読み込みしかできません。( 株式会社digglueの解説https://baasinfo.net/?p=3263から一部抜粋)

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米国CFPBは暗号資産の苦情の増加を分析する新しい苦情速報(complaint bulletin)を発表

2022-11-14 09:08:08 | 海外の通貨・決済システム動向

 筆者は11月1日付けブログで「英国の暗号資産にかかる「金融サービスおよび市場法」改正法案を巡る最新動向」を取り上げた。

 最近、筆者の手元に米国の消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau :CFPB)からリリースメールが届いた。11月10日、消費者金融保護局(CFPB)は、CFPBが受け取った暗号資産(Crypto-assets)に関連する苦情を強調する新しい「苦情速報(complaint bulletin)」を発表したというものである。

 しかし、暗号資産の規制機関としてのCFPB、FTCの機能の限界が見える。

 一方、わが国の場合はどうであろうか。法律専門家などの情報にあたったが、当然のことながら限界が見える。

 他方、日本経済新聞等は「暗号資産の交換大手取引所バハマに本社を置くFTXトレーディングは11月11日、アメリカ法人や日本法人を含む約130のグループ会社が日本の民事再生法にあたる米国連邦倒産法第11章(注1)の適用をディラウエア連邦地方裁判所に申請(petition)したと発表した。

 AP通信等によると、債権者は10万人以上おり、資産と負債はともに100億ドル、約1兆4000億円から500億ドル、約7兆円の範囲内ということである。

 今回は暗号資産業界で最大規模の経営破綻となり、「ビットコイン」などの価格も急落している」と報じている。(筆者が一部補足した)より詳しい解説は(注2)を参照。

 その一方で、相も変わらず「FTT(FTXトークン)とはどんな仮想通貨?話題の取引所トークンの買い方や将来性を徹底」等の無責任な解説サイトが横行している。(注3)

  今回のブログはFTXトレーディングの経営破綻問題の背景などを語る以前の取組みとして規制監督の在り方について米国の最新動向を解説する。

1.CFPBはCFPBが受け取った暗号資産に関連する苦情を提供する新しい「苦情速報(complaint bulletin)」を発表

 副題として「豚の屠殺(Pig butchering)」やその他の詐欺が暗号資産の苦情のリストをリードする~」の内容を仮訳する。

 11月10日、消費者金融保護局(CFPB)は、CFPBが受け取った暗号資産に関連する苦情を強調する新しい「苦情速報(complaint bulletin)」を発表した。

 最も一般的に報告された消費者からの苦情は、詐欺(fraud)、盗難、アカウント・ハッキング、詐欺行為(scam)の被害に遭ったと報告している。また消費者は、取引の実行と取引所間での資産の移動にも問題を抱えている。多くの消費者は、プラットフォームの完全な障害、本人確認の問題、セキュリティの固定(security hold)、またはプラットフォームの技術的な問題のために、アカウントの資金へのアクセスにおいて問題を抱えていた。情報提供が貧弱な顧客サービスは、暗号関連の苦情に共通するテーマといえる。

 CFPB局長のロヒット・チョプラ( Rohit Chopra)は「消費者の苦情の分析は、悪意のある人物が暗号資産を利用して一般の人々に詐欺を行っていることを示唆している。また米国人は、暗号資産に関して、取引上の問題、凍結されたアカウント、および貯蓄そのものの損失を報告している。これは詐欺である可能性があるため、暗号資産の前払いを求める人には注意する必要があり、我々は、米国人を標的とする詐欺師から決済システムを安全に保つための作業を継続する」と述べている。

 暗号資産は、主に暗号化と分散型台帳(ブロックチェーンなど)または同様の技術に依存する民間部門のデジタル資産ある。これらの資産は、一般に「仮想通貨(virtual currencies)」、「暗号通貨(cryptocurrencies)」、「暗号トークン(crypto tokens)」、「暗号コイン(crypto coins)」、または単に「暗号(crypto)」とも呼ばれる。

 詐欺師は、多くの暗号資産アドレスの背後にいる人物を特定するのが難しい場合があり、詐欺師が暗号資産の他のアカウントへの移動を不明瞭にするために使用する多くの手法があるため、暗号資産を標的にすることがよくある。これにより、詐欺師によって盗まれた暗号資産の追跡に、規制当局や法執行機関にとってより多くの時間がかかる可能性がある。

 近年、価格の変動と暗号資産の採用が増加しているため、これらの金融商品についてCFPBが受け取った苦情も同様に増加している。2018年10月から2022年9月まで、CFPBは暗号資産に関連する計8,300件以上の苦情を受け取り、その大部分は過去2年間に寄せられたものである。2018年10月以降に処理された暗号資産の苦情の約40%について、消費者は詐欺(frauds)とインチキ詐欺(scams)を主な問題として挙げている。暗号資産に関するさまざまな取引上の問題が苦情の約25%を占め、約束されたときに資産が利用できないという問題が苦情の約16%を占めた。

 この速報では、暗号資産の苦情を分析する際のいくつかの一般的なリスク・テーマを特定した。悪意のある攻撃者によるハッキングは暗号資産を傷つけ、盗まれた資金を取り戻す手段のない消費者による重大な経済的損失につながる。

 このセキュリティ情報で特定されているその他のリスクは次のとおりである。

ロマンス詐欺(Romance scams)と「豚の屠殺屋(pig butchering)」:暗号資産は、詐欺師が被害者の感情を利用して金銭を引き出すロマンス詐欺の標的になることがよくある。一部の詐欺師は、被害者に暗号資産アカウントを設定させるために被害者の確たる信頼(confidence )、絶対的信頼(trust)、ロマンチックな愛情を得るために時間を費やす「豚の屠殺屋」技術を採用しているが、詐欺師は最終的にすべての暗号資産を盗むだけである。さらに、多くの暗号資産プラットフォームにはそもそもカスタマー・サービス・オプション(契約上の選択権)がないため、詐欺攻撃者がカスタマー・サービス担当者になりすまして顧客のアカウントにアクセスして暗号資産を盗む機会もある。

被害者にとって賠償金の入手の困難性:消費者がだまされたり、アカウントがハッキングされたりした場合、助けを求める場所がないと言われることがよくある。さらに、暗号資産プラットフォームやサービス・プロバイダーは、サービスを使用するために強制的な仲裁を要求し、集団訴訟を制限する傾向がある。さらにサービスを使用するための重要な条件は、利用規約に埋もれている可能性があり、利用者がプラットフォームで見つけるのは極めて困難である。

詐欺的取引:苦情は、一部の暗号資産プラットフォームが、顧客から苦情を受け取った後、多くの場合、その顧客による数回のエスカレーションの後にのみ、顧客に代わって行動する人の権限を確認するための措置を講じているように見えることを示している。詐欺師が同じウォレットに対して何百もの小さな取引を行うなど、いくつかの苦情パターンは、詐欺師がマネーロンダリングや詐欺を防ぐために制御を認識し、意図的に回避している可能性があることを示唆している。

顧客の識別情報の漏洩や故意にリンクされるリスク:ブロックチェーン・テクノロジーの一部のユーザーは、暗号資産のすべてのトランザクションを記録する元帳の公開性に気づいていない。悪意のある犯罪者は、これらのトランザクションと暗号アドレスを消費者のIDまたは他のトランザクションにリンクできる可能性がある。

資産価値の不安定性(volatility)の高まり:特にここ数ヶ月、暗号資産は政府が支援する従来の通貨よりも価値の変動が大幅に大きくなっている。一部の暗号資産はゼロになったり、取引所によって資産が凍結されたりしている。

 CFPBは、消費者に次のことをアドバイスしている。

①一般的な詐欺に注意してください:ロマンス詐欺や「豚の屠殺屋」詐欺に加えて、悪意のある攻撃者が使用する他のトリックには、暗号資産と引き換えに被害者に商品やサービスが提供されるという約束を提供する「商人なりすまし詐欺(merchant scams)」が含まれる。CFPB連邦取引委員会(FTC)の両方に、一般的な詐欺を見つけるために利用できるオンライン・リソースがある。なお、米国では暗号資産を保証する政府機関や金融規制当局はない

疑わしいFDIC保険金請求権の表示は報告する:消費者は、暗号資産の政府の承認または預金保険保護を不正に示唆する可能性のあるWebサイトやアプリにも注意する必要がある。FDIC(連邦預金保険公社)の名前やロゴを誤用したり、暗号資産の預金保険の適用範囲について消費者に虚偽の表明をしたりする企業は、CFPBの2022年5月のトピックに関する回覧通達に記載されているように、消費者金融保護法の欺瞞の禁止に違反する可能性がある。

CFPBへの苦情の提出:消費者金融商品またはサービスに問題がある消費者は、オンラインで、または(855)411-CFPB(2372)に電話して、CFPBに苦情を提出でき/る。CFPBは、2014年以来、仮想通貨のリスクに関する苦情を処理し、消費者に警告してきた。

 苦情を公開する「消費者苦情データベース(Consumer Complaint Database)」に公開するには、CFPBは回答のために該当会社に送信する必要がある(注4)その結果、多くの仮想通貨の苦情がデータベースに公開されていない。苦情は、処理のために他の規制当局に照会されることがよくある。CFPBはFTCセンチネル(FTC Sentinel)と苦情を共有し、CFPBの安全な政府ポータルを介して政府機関が利用できるようにする。これらの苦情は、CFPBスタッフがレビューと分析のために利用することもできる。

 今日発出したCFPB苦情速報を読んでいただきたい。

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(注1) 連邦裁判所サイト(U.S. Courts)の連邦倒産法(Federal Bankruptcy Code)Chapter 11:再建型の企業倒産処理手続(reorganization)の解説参照。

(注2) 2022.11.11野村総合研究所「再び激震が走る暗号資産(仮想通貨)市場:大手取引所FTXの破綻懸念」から一部抜粋。

2022年春にはステーブルコイン「USテラ」の暴落が、暗号資産(仮想通貨)市場に激震をもたらしたが、足元では再び強い逆風が生じている。暗号資産取引所大手FTXトレーディングの破綻懸念とともに、暗号資産市場の信頼性が再び揺らいでいるのである。底流にあるのは、リスクの高い事業内容とその透明性の低さ、さらにガバナンスの欠如だ。

FTXは、暗号資産の顔とされるサム・バンクマン・フリード(Sam Bankman- Fried)CEO(最高経営責任者)によって2019年に創業された。

Sam Bankman- Fried氏(筆者が独自に入手写真)

そこに数十のシリコンバレーやウォール街の大物投資家らが、20億ドル近くもの投資を行ってきた。ベンチャーキャピタル(VC)投資会社セコイア・キャピタル、セコイア、オンタリオ州教職員年金基金(OTPP)、ソフトバンクグループ、韓国サムスン電子のVC部門、アクティビストのダニエル・ローブ氏率いるヘッジファンドのサード・ポイント、タイガー・グローバル、米プロフットボールリーグ(NFL)のスター選手、トム・ブレイディ氏らが含まれている。

FTXに資金調達面で大きな追い風が吹き始めたのは2021年の夏頃からだという。同社は7か月間のうちに、70以上の投資家から一気に19億ドルの資金を確保したという(データ提供会社ピッチブック)。

今回のFTXの破綻懸念の問題は、暗号資産に対する規制強化の議論を再び加速させるきっかけとなる可能性が高い。FTXのビジネスモデル、財務の不透明性、ガバナンスの欠如が今回の問題の底流にあることは明らかである。投資家保護のための法整備の必要性も指摘されている。こうした問題が規制強化の中心となっていくのではないか。新たな規制強化を通じて、暗号資産市場が信頼性を取り戻すことができるかどうかは、不明である。

(注3)「FTT(FTXトークン)とはどんな仮想通貨?話題の取引所トークンの買い方や将来性を徹底」

2021年に爆発的な伸びを見せていて、将来性も期待できる仮想通貨だよ。

(注4) データベースについてCFPBサイトから一部抜粋し、仮訳する。

*何をいつ公開するか?

①企業に送られた苦情の98%はタイムリーな回答を得ている。ただし、回答のために企業に送信された苦情のみが公開される資格があり、該当会社が応答した後、商業関係に対応を確認した後、または15日後のいずれか早い方の後にのみ公開される。通常、データベースは毎日更新される。

②資産が100億ドル未満の預託機関に関する苦情など、他の規制当局に付託された苦情は公開していない。

消費者がそれを公に共有することを選択した場合、およびCFPBが個人情報を削除するための措置を講じた後、CFPBは彼らの苦情から消費者の語った内容の説明を公開する。

なお、このデータベースは、市場での消費者の経験の統計サンプルではなく、これらの苦情は必ずしも金融商品または会社に対するすべての消費者の経験を代表するものではない。また、苦情は、情報品質法の目的のための「情報」ではない。

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英国の暗号資産にかかる「金融サービスおよび市場法」改正法案を巡る最新動向

2022-11-01 15:08:41 | 海外の通貨・決済システム動向

 筆者の手元に英国の金融規制当局である金融行動監視機構(FCA)から暗号資産に対する金融プロモーションやその他の活動を規制する法律の権限拡大等を目的とする「2000年金融サービスおよび市場法(Financial Services and Market Act  2000(以下、「FSMA」という)」の改正案についての解説ニュースが届いた。

 そもそも、筆者は英国における暗号資産(cryptoasset)の取組みについて詳しく調べたいと考えていたこともあり、独自に関係項目・資料を以下のとおり整理した。なお、欧州連合(EU)による「暗号資産市場規制(MiCA)」については(注1)で簡単に言及したが、機会を改めて詳しく解説したい。

(1)FSMA改正法案を巡る背景、経緯とその骨子

(2)英国の暗号資産の企業動向と登録済企業

1.FSMA改正法案を巡る背景、経緯とその骨子

 CoinTelegraphの記事「英国の金融サービス法案の改正は、暗号活動の規制を提供(Amendment to UK financial services bill provides regulation for crypto activities)」を補足のうえ仮訳する。このメデイア記事の記者は法律専門家ではないが、関係サイトとのリンクは結構しっかり行われている。

 この改正案は、国会議員で財務省・経済担当大臣のアンドリュー・グリフィス(Andrew Griffith)等によって書かれた。

Andrew Griffith氏

 「なお、当初、英国政府は2022年4月4日、英国を暗号資産技術の世界的なハブにする計画を発表、外部サイトへ新しいウィンドウで開くとし、計画の一環として、暗号資産の一種であるステーブル・コイン(stable coin)(注2)を、有効な決済手段として認める方針で進めることを示していた。

 今回発表した計画は同国の金融サービス分野が、科学技術の最前線を維持し、投資と雇用を呼び込み、消費者の選択肢を広げるためのものとしている。主な計画は以下のとおり。

 企業の技術革新を支援する金融市場インフラサンドボックスを導入し、企業の実証とイノベーションを可能に。

 暗号資産エンゲージメント・グループを設立し、金融業界と緊密に連携。

 英国金融行為規制機構(FCA)は、2022年5月に規制政策策定にあたり金融業界関係者とのイベント「クリプトスプリント」を開催。将来の暗号資産体制に関する主な課題につき、業界から意見を直接募集。

 暗号資産市場のさらなる発展促進のため、英国税制の競争力強化を模索。暗号資産の保有者が貸し出す分散型金融(DeFi)ローンの税務上の取り扱いなどを

 非代替性トークン(NFT:ブロックチェーン(分散型台帳技術)上で取引・発行される、偽造不可な唯一無二の鑑定書・所有証明書付きデジタルデータ)を英国王立造幣局と共同で2022年夏に開発」(2022.4.7 JETROレポート「英国政府、世界的な暗号資産技術のハブ化に向けた計画を発表」から抜粋)

 全335ページにわたるこの英国FSMA改正法案は2022年7月に提出され、9月7日に庶民院で2回目の読会が行われた。改正案に付随する説明文によると、それは次のようになる。

「[...]金融促進と規制された活動に関連する権限は、暗号資産と暗号資産に関連する活動を規制するために信頼できることを明確にする。」

 英国の金融規制当局である金融行動監視機構(FCA)は8月9日、金融会社のいわゆる「代替資産(alternatives portfolio)」に対する監督戦略を詳述した「親愛なる最高経営責任者」宛ての書簡(注3)(注4)を発表した。その書簡には、「財務省が暗号資産を我々の権限に持ち込むための法律を正式に制定したら、暗号資産の促進に関する最終規則を公開する」と記載されている。

 英国のほとんどの暗号資産関連企業は、現在FCAの管理監督下にないが、登録を申請するオプションがあり、2023年までに申請する必要がある。登録プロセスは現在、マネーロンダリング防止とテロ資金供与対策のみを対象としており、多くの申請者にとって困難であることが証明されている。

 またFCAは、2022年8月に高リスクの金融商品の広告に対して措置を講じ、暗号資産はリスクを伴う可能性があると明確に述べたが、当局はまだそれらを規制していなかった。英国の広告基準局は、暗号資産関連の広告の監視においてより積極的である。

 グリフィス大臣の前任者である財務省経済担当大臣のリチャード・フラー(Richard Fuller)氏は2022年9月に、政府は英国を「暗号技術のハブ」にすることを約束したと述べた。

2.英国の暗号資産会社の金融行動監視機構の登録状況

 2022.8.22 CoinTelegraphの記事「FCAは、英国では未登録企業が暗号資産事業を継続しているため、限られた役割を強調しているーCrypto.com は英国の金融行動監視機構に登録した最新の会社になったが、多くは承認なしに運営を続けているー」を抜粋、仮訳する。

 このFSMA改正法案とは別に、10月27日に中央銀行であるイングランド銀行のサム・ウッズ(Sam Woods)副総裁は、中央銀行が体系的なステーブルコインのための規制の枠組みを作るために前進していると伝えた。

Sam Woods氏

 またウッズ氏は「中央銀行のこの取り組みによって、銀行免許のないフィンテック企業と規制下の銀行の両方がイノベーションを起こせるようになる」と述べた。そして新体制に関する公開協議書が来年発表される予定だとも同氏は話している。(Yahoo newsから抜粋)

 Cointelegraphの8月22日解説記事「FCAは、未登録企業が事業を継続しているため、限られた役割を強調している」を仮訳する。

 FCAは、未登録企業が事業を継続しているため、限られた役割を強調している。

 Crypto.com は英国の金融行動監視機構に登録した最新の会社になったが、多くは承認なしに運営を続けている。

 未登録の暗号通貨関連企業の数は、英国の金融行動監視機構にサインアップしたものを引き続き上回っている。Crypto.com、FCAに登録する暗号通貨エコシステムからの最新のビジネスになり、国内でサービスを提供するために青信号で確認された37社のリストに加わった。

 eToro UK、DRWグローバルマーケッツLTDゾディアマーケッツ(UK)リミテッド(Zodia Markets Limited)アップホールド・ヨーロッパ・リミテッド(Uphold Europe Limited)ルビコン・デジタルUKリミテッド(Rubicon Digital UK Limited)ウィンターミュート・トレーディング・リミテッド(Wintermute Trading Ltd) (注5)を含む、2022年にマネーロンダリング規制の承認を得るために登録プロセスを通過したのはわずか7社 Crypto.com、FORIS DAX UK Limitedの下で登録された7番目の企業である。

 FCAはまた、マネーロンダリング防止(AML)の目的でFCAに登録されることなく「暗号資産活動」を実行し続けている英国を拠点とする企業のリストをまとめ、公表している(FCAへの連絡窓口)。リストは広範囲で、主にさまざまな暗号通貨取引や外国為替サービスを提供する企業を特集している。

 FCAが、この分野で事業を行う企業を監督し、AMLおよびテロ資金対策規制(Cryptoassets: AML / CTF regime)を施行できるようにするために、2020年1月に暗号通貨に焦点を当てた新しい規制を制定した。

 暗号資産企業は、FCAの仮登録制度(Temporary Registration Regime:TRR)(注6)の対象となる申請書を提出するために1年強の猶予が与えられたが、そうせずに、事業を継続しなかった場合は、刑事犯罪や民事執行の対象と見なされる可能性がある。

 Cointelegraph社はFCAに連絡を取り、業界に対する規制範囲、仮登録制度のプロセスおよび現在運営されている未登録の事業体の数について話し合った。これに関し、FCAは、暗号通貨の状況全体を監督しておらず、消費者保護権限を保持していないことを強調した。

  またFCAは、マネーロンダリング防止の目的で英国を拠点とする暗号資産取引所の登録が制限されていると指摘した。さらに、TRRは、すでに登録を試みている暗号会社がプロセス中に一時的な取引許可を保持できるように設定されたと説明した。

 TRR期間中、企業はFCAへの登録を申請することができ、2022年4月の締め切り後も引き続き申請することができる。またFCAは、企業は登録するまで取引すべきではないと強調した。FCAは、TRR期間中、仮登録を継続する必要があると判断された企業を除き、すべての企業の評価を終了した。

 仮登録企業の最新FCAリストには、8月17日時点で1社しか上場されていなかった。多数のデジタルバンキング・サービスを提供するRevolutは、このリストの唯一のビジネスであり、2021・年から2022年にかけて企業がゆっくりと衰退しています。FCAは、個々の企業の進行中の仮登録状況についてコメントしなかった。

 FCAの広報担当者はCointelegraphに対し、登録基準は投資家に安全な環境を提供すると同時に、業界が約束するイノベーションを支援することを目的としている、登録の成功は、マネーロンダリングやテロ資金供与を防ぐために私たちが期待する最低基準を満たす企業にかかっている。登録を求める暗号資産ビジネスが見逃している金融犯罪の危険信号が多すぎる」と語った。

 FCAは、暗号通貨取引所とサービス・プロバイダーの登録申請を引き続き処理し、犯罪活動に関連する資金の流れを特定および防止するための適切なシステムの提供を確保するための最低基準の重要性を強調している。

 その結果、新しい規制企業が見られ、その多くは暗号またはその基盤となるテクノロジーの使用を利用している。強力で尊敬されている規制は、消費者と投資家の信頼を提供することにより、イノベーターを支援する。

 FCAは、英国で国内の未登録事業者を取り締まる歯が欠けていることを認めたが、これらの事業者・組織を監視し続けている。FCAスポークスパーソンは、英国議会が規制の境界を管理し、最終的に当局が何を規制するかを決定するという事実を強調した。

 英国の金融行動監視機構(FCA)は、暗号通貨に適した支払いアプリRevolutを、国内で暗号製品とサービスを提供することを仮登録された企業のリスト12社に追加した

 Revolutは、3月に暗号サービスの提供を継続するためにFCAに仮登録を最初に付与した12社のうち最後の「提出者」であった。

 FCAは、英国の登録暗号資産会社のリストの9月26日の更新で、Revolutが「マネーロンダリング、テロ資金供与、資金移動」に関する2017年から改正された規制に準拠していることを示した。フィンテック企業は、3月に仮登録で暗号資産会社として運営するための延長を許可された後、国内で暗号サービスを提供するために青信号である他の37社に加わった。

 英国で暗号関連の製品やサービスを提供する企業は、2020年から施行されている規則であるFCAへの登録後に事業を行うことが許可されている。しかし、マネーロンダリング防止(AML)およびテロ資金供与対策(CFT)の要件に関する国内での取り締まりに続いて、Revolutを含む多くの企業に一時的な登録ステータスが付与され、完全なコンプライアンスを待っているように見える間、営業が許可された。

 公開時点では、FCAの一時的な地位でまだ運営されている暗号資産会社はなかった。Revolutは、3月に最初に仮登録を許可された12社のうち最後の「提出者」であった。

 フィナンシャルタイムズの2022年9月5日のレポートは、英国財務報告評議会がRevolutの監査に欠陥を発見したことを示唆しており、「重大な虚偽表示」の「容認できないほど高い」リスクが含まれていた。7月31日の時点で、Revolutは8億ドルの投資ラウンドの後、330億ドルのフィンテック企業として評価された。

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(注1) この法律により、英国の規制は欧州連合(EU)による「暗号資産市場規制(MiCA)」と同等に扱われることになる。なお、この「MiCA」は、暗号資産への投資に関連するリスクの一部から消費者を保護し、不正なスキームを回避するのに役立つ。現在、消費者は、特に取引がEU外で行われる場合、保護または救済の権利は非常に限られている。新しい規則により、暗号資産サービス・プロバイダーは、消費者の財布を保護するための強力な要件を尊重し、投資家の暗号資産を失った場合に責任を負う必要がある。また、MiCAはあらゆる種類の取引またはサービスに関連するあらゆる種類の市場の乱用、特に市場操作およびインサイダー取引をカバーする。

 2022年4月に機関間交渉(トリローグ)が開始され、2022年6月30日に欧州連合理事会議長国と欧州議会は、裏付けのない暗号資産、いわゆる「ステーブルコイン」の発行者、ならびに暗号資産が保持されている取引場とウォレットをカバーする暗号資産市場法規制案(MiCA)の提案に関する暫定合意に達した。提案に関する暫定合意に達した。

 2022年10月5日、欧州連合(EU)は、欧州理事会が10月5日に包括的な暗号資産市場(MiCA)規制を承認するなど、暗号通貨の規制に大きな一歩を踏み出した。この開発は、暗号市場が彼らの規則に従って行動することを確実にするためにヨーロッパ当局によって取られたもう一つの重要な行動を示している。

 10月10日、欧州議会の経済通貨委員会は暗号資産市場法案を可決し、まもなく議会の完全な投票が予定されていた。(欧州議会の立法トラッキング専門サイト(Legislative Train Schedule )の10/20現在から抜粋、仮訳した)

(注2)ステーブル・コインとは、価格が常に安定している(stable)仮想通貨を指す。BTCやETH、XRPなど変動性のある資産とは異なり、法定通貨などに裏付けられその価値を保つことが目的だ。米ドルの裏付けによるステーブルコイン(USDT・USDC)のほか、DAIやUSTといったアルゴリズムを利用するステーブルコインもある。

(注3)2022.3.24 FCA 通知声明「暗号資産にさらされているすべてのFCA規制企業への通知」の要旨を以下、仮訳する。

 暗号資産とその基盤となる技術は、金融サービス会社にコスト削減や効率の向上などのメリットをもたらす可能性があるが、特に投機的投資として使用する場合、市場の完全性と消費者にリスクをもたらす。これは、金融犯罪やマネーローンダリングに関連する重大なリスクに追加される。

 以下に、企業が考慮する必要のあるリスク領域をいくつか示すが、これは完全なリストではなく、企業はそれらに適用されるさらなる管理と要件を検討する必要がある。彼らは、進行中のロシアとウクライナの紛争において企業が暗号資産に関連する金融犯罪リスクをどのように管理すべきかについての最新のFCAガイダンスとともに、この声明を読む必要がある。

 また、企業は、健全性監督機構(Prudential Regulation Authority:PRA) (注4)が3月24日発表した暗号資産への既存または計画中のエクスポージャーに関するイングランド銀行のDeputy Governor and CEO, Prudential Regulation Authorityサム・ウッズ(Sam Woods)からの書簡、および暗号資産と新しい形態のデジタルマネーに焦点を当てたイングランド銀行と金融政策委員会(FPC)からの本日の発刊物を読むことを推奨する。

(1)顧客との取引の明確さ

 「ペリメーター・レポート(Perimeter Report)2020/2021」(全47頁)で述べたように、暗号資産セクターの多くは、FCAの現在の規制権限の範囲外にあり続けている。企業が暗号資産がもたらすリスクを評価する場合、企業が実施する規制された活動と同様のアプローチを使用する必要がある。規制対象の企業が暗号資産を含むサービスを提供する場合、消費者の混乱を招くリスクがある。FCA等は、企業が消費者に規制されているビジネスの範囲を確実に理解し、規制されていないビジネスである要素を明確に区別することを期待している。企業は常に、暗号資産に関連する潜在的なリスクを特定して管理する責任がある。

(2)金融犯罪と暗号資産事業の登録

 2020年1月以降、英国で暗号資産活動を行う企業は、マネーローンダリング、テロ資金供与および資金移動(支払者に関する情報)規則2017(The Money Laundering, Terrorist Financing and Transfer of Funds (Information on the Payer) Regulations 2017)(以下、「MLR」という)に準拠する必要があった。これには、事業を継続するためにFCAに登録される要件が含まれる。MLRの規則9に規定されているように、登録(または一時登録制度(TRR)に基づく一時的な許可)なしに、ビジネスとして英国で暗号資産ビジネスを提供することは刑事犯罪である。

(3)適切なシステムと制御が整っていること

 FCA等は、すべての認可および登録された企業が、金融犯罪に悪用されるリスクに対抗するための適切なシステムと管理を持っていることを期待している。この一環として、すべての企業は、やり取りする暗号資産ビジネスがFCAの未登録暗号資産ビジネスページにリストされているかどうかを確認する必要がある。暗号資産会社と取引を行う企業は、このリストをチェックし、顧客によってもたらされるリスクを管理するために十分なデューデリジェンスとマネーロンダリング管理が実施されていることを確認することを期待している。

(4)リスクの評価

 2018年6月11日の親愛なるCEO宛て CRYPTOASSETS AND FINANCIAL CRIMEレターは、クライアントと顧客が暗号資産を使用している、または暗号資産を提供する顧客にサービスを提供する可能性のあるベストプラクティスを達成する方法についてのガイダンスを企業に提供した。そのガイダンスは引き続き関連性があり、この通知で概説されているいくつかの重要な要素がある。

 企業の顧客や顧客が暗号資産を使用したり、関連サービスを提供したりしている場合、企業は認識されているリスクに行動を適応させる柔軟性が与えられる。企業は、他の富や資金源に適用されるのと同じ基準を使用して、資産または資金が暗号資産の販売またはその他の暗号資産関連の活動に由来する顧客によってもたらされるリスクを評価する必要がある。暗号資産が他の富の源泉と異なる点の1つは、取引の背後にある証拠の痕跡が弱い可能性があることである。これは、富の源泉に異なる証拠テストを適用することを正当化するものではなく、これらのケースでは企業が特に注意を払うことを期待している。

(5)慎重性に関する考慮事項

 現在、暗号資産について明示的に言及している特定の慎重な取り扱いはないが、FCAの規制対象企業には、この分野にはまだ規制上の義務があることを思い出させる。FCAの新しい投資会社プルデンシャル制度(IFPR)の対象となる企業は、(MIFIDPRU 7に基づき)すべての事業から生じる可能性のある、顧客、会社が事業を行う市場、およびそれ自体への損害の可能性を評価し、軽減する義務を負う。これは、その事業が金融商品市場指令(MiFID)投資事業、その他の規制された活動で構成されているかどうか、または規制されていないかにかかわらず適用される。また、代理店ベース、プリンシパルベース、またはその他の能力での運営に関係なく適用される。したがって、これには暗号資産ビジネスが含まれますが、企業はそのビジネスを行う。

 FG20/1の対象となる他の企業:十分な財源の評価は、暗号資産からのリスクとエクスポージャーを評価および管理する際にそのガイダンスを考慮する必要がある。企業が暗号資産を無形資産として会計処理する場合、この資産を規制資本から差し引く必要がある可能性がある。

 暗号資産の健全性要件を更新する必要があることが判明した場合は、暗号資産を含むビジネスを行うことによる損害の可能性に対処するために、企業が十分な財源を確保するためにどのような措置を講じる必要があるかを検討する。

(6)重要性に関する考慮事項

 すべてのFCA規制企業は、FCAの「ビジネス原則(Principles for Businesses)」を遵守する必要があり、すべての企業が当社の承認を受けるために遵守する必要がある。その「原則10」は、企業が顧客の資産に対して適切な保護を手配することを要求している。これらの保護の一環として、FCAのクライアント資産ソースブック(CASS)は、投資事業の一環として、規制対象の資産を保管する際に企業が従うべき詳細な規則を提供する。暗号資産が特定の投資(すなわち、セキュリティ・トークン)である場合、これらの資産の保管を含む規制された活動を行う企業は、CASS制度の対象となる可能性がある。CASS規則の適用方法について企業が質問がある場合は、関連するFCAの監督担当者に相談する必要がある。

 我々は、暗号資産技術がカストディの取り決めにどのように影響するかについての理解を深め続けています。我々は、重要な契約における暗号資産の使用を引き続き監視し、必要に応じて行動し、消費者を保護し、市場の完全性を確保しながら、責任あるイノベーションを支援する。

(7)国内外への関与

 デジタル世界の効果的な規制には国際協力と共通の基準が必要であることから、FCA等は、証券監督者国際機構(IOSCO)金融安定理事会(FSB)および金融活動作業部会(FATF)を含む二国間及び多国間フォーラムを通じて、FCA等の国際的なパートナーと引き続き緊密に協力する。国内では、暗号資産タスクフォース(Cryptoassets Taskforce:CATF)を通じて政府やその他の関係者と緊密に協力し、秩序ある市場と消費者保護とともに、イノベーションと競争のバランスをとる英国のアプローチを行う。

(注4) 金融システム全体の安定化(マクロプルーデンス)を担うイングランド銀行内の金融政策委員会(Financial Policy Committee:FPC)、個々の金融機関の健全性の確保(ミクロプルーデンス)を担う健全性監督機構(Prudential Regulation Authority:PRA)、そして金融事業者による業務上の行為の監督を担う金融行為監督機構(Financial Conduct Authority:FCA)が設置されることとなった。この体制は、銀行・証券・保険といった業種別ではなく、健全性規制と事業者の行為規制という機能面から PRA と FCA の2つの規制当局を設けている点に着目して、二頭体制(twin-peaks system)とも言われている。なお、FPC および PRA はイングランド銀行内部の組織であるが、FCA は FSA が改称された独立の機関である。(後藤 元「イギリスにおける銀行の業務範囲規制」から一部抜粋)

(注5)2022.9.20暗号資産(仮想通貨)取引大手のウィンターミュートがハッキングに遭い、約1億6000万ドル(約235億2000万円)相当のデジタル資産が盗まれた。エブゲニー・ゲボイ最高経営責任者(CEO)が20日、ツイッターで明らかにした。

(注6)2020.12.16 FCA「暗号資産事業の仮登録制度を確立」を仮訳する。

 金融行動監視機構(FCA)は、FCAへの登録を申請した既存の暗号資産会社が取引を継続できるように、一時的な登録制度を確立した。FCAは、FCAに申請すべきであったが申請していない暗号資産会社の顧客に、2021年1月10日までに暗号資産またはお金を引き出すようにアドバイスしている。

 2020年1月10日から、FCAは、暗号資産との間で送金を行う企業や顧客の暗号資産を保護する企業を含む、これらのタイプの企業のマネーロンダリング防止およびテロ資金供与対策(AML / CTF)のスーパーバイザーになった。この日から、「既存の暗号資産事業」(つまり、2020年1月10日より直前に営業している企業)は、マネーロンダリング規制に準拠する必要があった。このような企業は、2021年1月10日までにFCAに登録する必要がある。

 また、新規事業(2020年1月10日以降に事業を開始した企業)は、事業を行う前にFCAへの完全登録を取得する必要がある。

 この仮登録制度は、2020年12月16日より前に登録を申請し、その申請がまだ評価されている既存の暗号資産事業を対象としている。これは、これらの既存の事業が、FCAの申請の決定を待つ間、2021年1月9日から2021年7月9日まで取引を継続できるようにするためである。

 FCAは、受け取った申請の複雑さと基準、およびパンデミックによりFCAが計画どおりに企業を訪問する能力が制限されているため、登録を申請したすべての企業を評価および登録することはできなかった。

 2020年12月15日までに申請書を提出しなかった企業は、仮登録制度の対象にはならない。彼らは暗号資産を顧客に返還し、2021年1月10日までに取引を停止する必要がある。その日までに取引を停止しない企業は、FCAの刑事訴追および民事執行権限の対象となるリスクがある。

FCAは、暗号資産会社と取引する消費者に次のことをアドバイスしている。

①彼らが使用している会社がFCAの登録簿または仮登録のある会社のリストにあるかどうかを確認されたい。

②そうでない場合は、FCAに登録せずに事業を継続する資格があるかどうかを確認されたい(これは、英国以外の国で登録されている場合に当てはまる場合がある)。

③会社が事業を行う権利がない場合、消費者は2021年1月10日までに暗号資産および/またはお金を引き出す必要がある。これは、2021年1月10日から取引を停止しない場合、会社が違法に運営されるためである。

③多くの暗号資産は非常に投機的であるため、すぐに価値を失う可能性がある。FCAには、企業の暗号資産活動に対する消費者保護権限はない。企業がFCAに登録されている場合でも、暗号資産ビジネスがクライアントの資産(つまり顧客のお金)を保護することを保証する責任はない。

④企業が一時登録か完全登録かに関係なく、金融オンブズマンまたはBank of Englandの金融サービス補償スキームにアクセスできる可能性は低い。(公的に保護される可能性が低い)

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オハイオ州の男は3億ドル(約327億円)以上の不正収益の洗浄(money laundering )を行ったダークネット・ベースのビットコイン「ミキサー」会社を運営した罪を認める

2021-09-08 09:03:09 | 海外の通貨・決済システム動向

 オハイオ州の男性ラリー・ディーン・ハーモン(Larry Dean Harmon、以下「ハ―モン」という)(38歳)は、8月18日、ダークネット(注1)に拠点を置く暗号通貨(資産)のローンダリングサービスであるHelixの運営に起因するマネーロンダリングの共謀(conspiracy)について有罪を認めた旨、連法司法省が発表した。

 実は2020年10月19日、連邦財務省・金融犯罪法執行ネットワーク(Financial Crime Enforcement Network::FinCEN)は、”Helix”と ”Coin Ninja”の創設者でかつ管理者および主要な運営者であるハ―モンに対して、「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務法(Bank Secrecy Act:BSA)およびその施行規則の違反を理由に6,000万ドル(約65億4,000万円)の民事罰金を査定した。

 さらに、2021年8月10日、FinCENは、BSAおよびFinCENの実施規則に違反したとして、最も古く最大の変換可能な仮想通貨デリバティブ取引所の1つであるBitMEXに対して1億ドル(約109億円)の民事罰を査定した。 

 これらの一連の法執行機関の協調的な捜査・調査や法執行の実態を見るにつけ、わが国の法整備法や法執行機関の動きの甘さが気になるのは筆者だけではあるまい。ちなみに、8月30日わが国の財務省は「FATF(金融活動作業部会)対日相互審査報告書が公表された」、「財務省「今後3年間の「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」」を公表した。わが国の対日相互審査報告書は全292頁である。(注2)

 今回のブログはHelix、Coin Ninja、BitMEXに対する法執行の現状を連邦司法省、FinCEN、内国歳入庁等のリリースなどに基づき解説を試みるものである。

1.オハイオ州の男性ラリー・ディーン・ハーモン(Larry Dean Harmon)は、8月18日、ダークネットに拠点を置く暗号通貨(資産)のローンダリングサービスであるHelixの運営に起因するマネーロンダリングの共謀(conspiracy)について3億ドル(約327億円)の有罪答弁

 連邦司法省のリリース文仮訳、補足する。

 裁判所文書(逮捕令状)によると、オハイオ州アクロン住のラリー・ディーン・ハーモン(Larry Dean Harmon)は、2014年から2017年までHelixを運営したことを認めた。Helixはビットコインの「ミキサー」または「タンブラー」として機能(注3)し、顧客はビットコインのソースまたは所有者を隠すように設計された方法で指定された受取人にビットコインを送信することを有料で可能にした。Helixは、ハーモンが運営するダークネット検索エンジン「グラム(“Grams”)」とリンクされ、関連付けられていた。ハーモンは、法執行機関からの取引を隠すためにダークネット上の顧客にHelixを宣伝した。

Larry Dean Harmon

 連邦司法省刑事課のケネス・A・ポリティテ・ジュニア連邦検事補(Assistant Attorney General )(注4)は、「ハーモンの責任を問うことで、同部門はこれらの危険な犯罪企業の違法なマネーロンダリング慣行を混乱させた。司法省は、法執行機関や規制パートナーと共に、金銭的利益のために違法な手段を使用する人々、およびダークネットを使用して犯罪行為を促進し、あいまいにする人々を特定し、妨害するために執行措置を取り続ける」と述べた。

 コロンビア特別区のチャニング・D・フィリップス(Channing D. Phillips )連邦検事代行「ダークネット市場とモルヒネ様作用を示す合成麻酔薬(強力な鎮痛薬)オピオイド(opioids)の違法販売やその他の違法薬物を販売するディーラーは、ますます惨劇である。彼らは自分のアイデンティティを隠そうとし、Helixのような技術の背後にある何百万もの売り上げをロンダリングしようとするかもしれない。しかし、部門とその法執行機関のパートナーは、彼らの活動に光を当て、そのような犯罪市場が依存しているインフラを解体し、責任者を起訴し、有罪判決を下すであろう」と述べた。

 FBIの刑事捜査部門のカルビン・A・シヴァーズ(Calvin A. Shivers)副部長は、「犯罪者は、Helixのようなサービスを使って違法資金源を隠すことで金融取引を隠すことができると考えるかもしれないが、FBIと、地方、連邦、国際的な法執行機関のパートナーは、複雑で絶えず変化するデジタル環境で日々協力し、洗練されたマネーロンダラーや金融業者からアメリカ国民を守っている」と述べた。

 内国歳入庁(IRS)犯罪捜査課(注5)のジェームズ・C・リー(James C. Lee)主任は、「ダークネットは、悪質な商品やサービスを売る犯罪市場によって部分的に推進されている」と述べた。しかし、これらの市場は、それらをサポートするインフラストラクチャのために、大きな尺度で繁栄している。ハーモンは、これらの市場のバックチャネルサポートを促進することによって利益を得て、犯罪者が違法な活動を通じて受け取った資金洗浄を支援した。その後、彼は政府からそれらの資金を隠した。彼は本日、これらの活動における自分の役割を認め、今、責任を負うことになる。

James C. Lee 氏

 FBIのワシントン・フィールド・オフィスのスティーブン・M・ダントゥオノ(Steven M. D’Antuono )担当副部長は「ハーモンは、ダークネットのベンダーと共謀して、麻薬密売やその他の違法行為を通じて生み出されたビットコインをロンダリングしたことを認めた。本日の有罪答弁は、サイバー犯罪企業を支援する暗号通貨マネーロンダリングネットワークに侵入し、閉鎖するというFBIのコミットメントを示している」と述べた。

 ハーモンは、Helixがアルファベイ(AlphaBay)(注6)(注7)、エボリューション(Evolution)、クラウド・ナイン(Cloud 9)(注8)などを含むいくつかのダークネット市場と提携し、市場顧客にビットコイン・マネーロンダリングサービスを提供したことを認めた。合計で、Helixは350,000ビットコインを超え、取引時に3億ドル以上の価値を持ち、顧客に代わって、ダークネット市場から最大のボリュームを持っている。ハーモンはさらに、ダークネットのベンダーやマーケットプレイス管理者と共謀して、ダークネット市場で違法な麻薬密売犯罪によって生み出されたビットコインをロンダリングしたことも認めた。

 彼の有罪答弁の一環として、ハーモンはまた本日の価格で2億ドル以上と評価された4,400以上のビットコインの没収と、マネーロンダリングの共謀に関与した他の押収された財産の差押えに同意した。

 ハーモンは決定日に判決を受け、最高20年の懲役刑、取引に関与する財産の価値の50万ドルまたは2倍の罰金3年以下の保護監察期間( term of supervised release of not more than three years),、および強制的な返還義務(mandatory restitution)に直面する。コロンビア特別区連邦地方裁判所のベリル・ハウエル裁判長はハーモンの有罪答弁を受け入れ、米国の判決ガイドラインやその他の法的要因を考慮した後、判決内容を決定する。

 中南米国ベリーズの司法長官とベリーズ国家警察は、ベルモパンの米国大使館を通じて調整された捜査に不可欠な支援を提供した。捜査は、並行行動でハーモンに対する6,000万ドルの民事制裁金を評価した金融犯罪法執行ネットワークと調整した。

2.連邦財務省・金融犯罪法執行ネットワーク(Financial Crime Enforcement Network::FinCEN)は、 ”Helix”と ”Coin Ninja”の創設者で管理者および主要な運営者であるLarry Dean HarmonにBank Secrecy Actおよびその施行規則の違反を理由に6,000万ドル(約65億4000万円)の民事罰金を査定

  2020年10月19日、連邦財務省・金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)リリース「マネーロンダリング防止法に違反したとしてFinCENによって罰せられた最初のビットコインの「ミキサー」仮訳、補足する

 連邦財務省・金融犯罪法執行ネットワーク(Financial Crime Enforcement Network:FinCEN)は、 ”Helix”と ”Coin Ninja”の創設者で管理者および主要な運営者であるLarry Dean Harmonに対して、「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務法(Bank Secrecy Act:BSA)およびその施行規則の違反を理由に6,000万ドルの民事罰金を査定した。

 ハーモン被告は、2014年から2017年までHelixを未登録のマネーサービスビジネス(MSB)として運営し、また2017年から2020年までコイン忍者として運営した。ハーモン被告は現在、彼のHelixの運営に関連した機器および無認可の送金事業の運営に関しマネーロンダリングの共謀の罪でコロンビア特別区の米国連邦地方裁判所で起訴されている。

 FinCENが2013年3月18日のガイダンス(Application of FinCEN’s Regulations to Persons Administering, Exchanging, or Using Virtual Currencies )で明確にしたように、転換可能な仮想通貨の交換者と管理者は、BSAの下では「資金移動業者(money transmitters)」である。そのため、彼らにはマネーロンダリング防止コンプライアンスプログラムを開発、実装、および維や該当するすべての報告および記録管理の要件を満たすためするため、FinCENに登録する義務がある。さらにFinCENは、2019年月5月9日に転換可能な仮想通貨のミキサーおよびタンブラーである金融機関もこれらの同じ要件を満たさなければならないことをさらに明確化したガイダンスを発布した。

  ”Helix”と”Coin Ninja”の事業を行っているハーモン被告は、さまざまな手段でビットコインを受け入れて資金移動することにより、転換可能な仮想通貨の交換者として活動していた。2014年6月から2017年12月まで、Helixは顧客のために1,225,000以上のトランザクションを実行し、3億1,100万ドル(3,390億円)以上を送受信する仮想通貨ウォレットアドレスに関連付けた。FinCENの調査により、Helixを介した少なくとも356,000のビットコイン取引が特定された。ハーモン被告はHelixをビットコイン・ミキサーまたはタンブラーとして操作し、顧客が麻薬、銃、児童ポルノなどの代金を匿名で支払う方法として、インターネットの最も暗い場所でそのサービスを宣伝した。2017年以降、ハーモン被告は、Helixと同じように未登録のMSBとして運営されている”Coin Ninja”を設立し、最高経営責任者(CEO)を務めた。

 FinCENの調査により、ハーモン被告はMSBとしての登録、効果的なマネーロンダリング防止プログラムの実施と維持、疑わしい活動の報告を怠ったことにより、BSAの登録、プログラム、および報告要件に故意に違反したことが明らかとなった。

 具体的には、FinCEN調査により、ハーモン被告はBSAに基づく義務を故意に無視し、HelixがBSAの要件を回避できるようにする慣行を実施したことが明らかとなった。これには、120万件を超えるトランザクションで顧客の名前、住所、およびその他の識別子を収集および検証できなかったことが含まれる。ハーモン被告は、Helixを介して運営し、収集した最小限の顧客情報でさえ積極的に削除した。調査の結果、ハーモ被告は麻薬密売人、偽造者、詐欺師、その他の犯罪者と取引を行っていたことが明らかとなった。

 FinCENは、米国司法省のコンピューター犯罪および知的財産部門、コロンビア特別区連邦検事局、連邦捜査局(FBI)、および内国歳入庁収益サービス刑事捜査課と、本日の行動まで緊密に調整を行った。

 3.FinCENは、「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務法(Bank Secrecy Act:BSA)の故意の違反に対する未登録先物取引業者(Futures Commission Merchant:FCM):であるBitMEXに対し1億ドル(約109億円)の法執行措置を発表

 2021年8月10日 金融犯罪法執行ネットワーク(FinCEN)は、BSAおよびFinCENの実施規則に違反したとして、最も古くかつ最大の変換可能な仮想通貨デリバティブ取引所の1つであるBitMEXに対して1億ドル(約109億円)の民事罰を査定したと発表した。 

 未登録先物取引業者のFCMとして運営され、資金移動サービス(money transmission services)(注9)を提供していたBitMEXは、BSAに基づく義務を故意に遵守しなかった。今回のFinCENの行動は、米国商品先物取引委員会(U.S. Commodity Futures Trading Commission (CFTC))との世界的規模の和解の一部である。

 FinCENの副部長アナロウ・チロル(AnnaLouTirol)は、「プラットフォームが最初から財務の整合性を構築し、金融の革新と機会が脆弱性と悪用から保護されることが重要である」と述べている。

 6年以上の間、BitMEXは、準拠したマネーロンダリング防止プログラムと顧客識別プログラムの実装と維持を怠り、特定の疑わしい活動を報告を行わなかった。これらの意図的な懈怠により、結果として金融機関は、リスクの高い管轄区域での非法準拠の取引所、ランサムウェアの攻撃者、ダークネット・マーケットプレイスなど、マネーロンダラーやテロ資金供与者との取引を行うリスクが高まった。

 BitMEXは、既知のダークネット市場またはミキシングサービスを提供する未登録のマネーサービスビジネスと少なくとも2億900万ドル相当の取引を行った。また、BitMEXはリスクの高い管轄区域および詐欺の疑いのあるスキームを含む取引を実施した。BitMEXは、少なくとも588の特定の疑わしいトランザクションに関する疑わしい活動報告(SAR)(注10)の提出を怠った。

 およそ2014年から2020年まで、BitMEXは、顧客がそのプラットフォームにアクセスし、適切な顧客デューデリジェンスなしでデリバティブ取引を行うことを許可した。電子メールアドレスのみを収集し、顧客の身元を確認できませんでした。プラットフォームが米国人とビジネスを行っていないというBitMEXの公の表明にもかかわらず、FinCENは、仮想プライベートネットワークを使用して取引プラットフォームにアクセスし、インターネットプロトコルの監視を回避する顧客をスクリーニングするための適切なポリシー、手順、および内部統制を実装できなかったことを発見した。場合によっては、BitMEXの上級管理職が米国の顧客情報を変更して、顧客の実際の場所を隠した。

 民事罰の支払いに加えて、BitMEXは、BitMEXがこの活動に追加のSARを提出する必要があるかどうかを判断するために、トランザクション・データの履歴分析(「SARルックバック」と呼ばれることもある)を実施するために独立コンサルタントを雇うことに同意した。BitMEXはまた、独立したコンサルタントと協力して、関連するテストを含む2つのレビューを実施し、BitMEXが全体的またはアメリカ合衆国内の大部分が動作しないことを保証するために、効果的かつ合理的に設計および実装された適切なポリシー、手順、および制御が実施されていることを確認した。

 これは、FCMに対するFinCENの最初の法的措置である。FinCENは、この問題に関する商品先物取引委員会(CFTC)のパートナーとの緊密な協力に感謝する。CFTCとBitMEXは 、追加の公平な救済を伴う民事罰金の支払いを要求する同意命令に個別に同意した。FinCENの1億ドルの査定は、FinCENとCFTCへの合計8000万ドル(約87億2,000万円)の即時支払いによって満たされ、SARルックバックと独立コンサルタントのレビューが正常に完了するまで2,000万ドル(約21億8000万円)の支払は一時停止される。

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(注1)ダークネットに関しては「Dark Webの謎に迫る」を参照されたい。以下で一部、抜粋、引用する。

TorとI2Pに使用されているOnion Routing技術は、世界中のOnion Routerを介してデータを多重に暗号化して転送することで、第三者や受信者から送信者の匿名性を守ります。また、TorはHidden service、I2PはeepSiteというサービス提供者の匿名性を守る仕組みをも提供しています。Hidden serviceとeepSite上のサイトこそ、俗に言うDark Webです。以下、略す

(注2)BitcoinFXpro「FATF第4次対日相互審査報告書で日本の不備指摘」でFATFは3つ.にグルーピングしている。わが国は米国や中国など19ヶ国の重点フォローアップ国である。

 しかし、本文で述べるとおりわが国の金融機関の実態、制度運用等から見て同一グループとみるのは首をかしげたくなる。

①通常フォローアップ国

最も高い評価にあたるのが「通常フォローアップ国」に区分されます。

つまり一般的なフォローアップで十分なほどしっかり対策がされているということであり、合格と位置づけられる区分となります。

現時点で「通常フォローアップ国」に区分されているのは、イタリア、英国、スペイン、ロシアなどの8ヵ国です。

②重点フォローアップ国

「通常フォローアップ国」の下の評価にあたる区分が「重点フォローアップ国」です。

 これは今後、重点的にフォローアップしていかなければならない改善点が多い国であり、この区分に分類された国は実質不合格だということになります。

 そして日本はこの「重点フォローアップ国」に区分されました。つまり不合格だということです。

 なお現時点で、日本以外に「重点フォローアップ国」に区分されている国は、米国、中国、韓国、カナダ、オーストラリア、スイス、メキシコなどの19ヵ国です。

この区分に分類されると、今後の改善状況を5年の期間中に3回報告しなければなりません。

そしてその報告で改善が進んでいないと判断されると、FATFから名指しで改善されていないことを批判されてしまいます。

③観察対象国

 さらに最も低い評価区分が「観察対象国」です。

 これは常に注視しておく必要がある国という位置づけになってしまいます。

現時点でこの区分に分類されている国は、アイスランドとトルコの2ヵ国です。

(注3) 資金洗浄に用いられる代表的なサービス事業者として、(1)規制遵守が徹底されていない仮想通貨取引所や仮想通貨決済代行業者、(2)ミキシングサービス、(3)オンラインギャンブルサイト等が挙げられる。こうした資金洗浄が行われて犯罪の痕跡が除去された上で、当該暗号資産は一般の仮想通貨取引所等へ移動すると考えられる。

「ブロックチェーンを用いた金融取引のプライバシー保護と追跡可能性に関する調査研究報告書(参考資料)」から一部抜粋。

(注4)連邦検察官は,裁判所の裁判区に対応して各州1名ないし4名の連邦地方検事 District Attorneyを配している。連邦地方検事は大統領によって任命され,司法長官が任命する検事補 assistant U.S.Attorneyを部下とし,彼らを指揮監督して職務を行なっている。連邦地方検事の職務は,連邦の法律顧問として連邦行政機関における法律問題に関与するとともに連邦犯罪を対象として連邦裁判所に対して公訴権を実行することであり,連邦のアトーニー・ゼネラルの下に中央集権的な官僚組織を形成している。

州地方検事は,みずから検事補 assistant District Attorneyを任命し,彼らを指揮監督してその事務を行う。

(注5) 内国歳入庁の犯罪捜査課は、内国歳入法(26 U.S. Code Title 26—INTERNAL REVENUE CODE 、「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務法(Bank Secrecy Act:BSA)、およびさまざまなマネーロンダリング規制法の違反の疑いについて犯罪捜査を行う。 これらの調査の結果は、推奨される起訴のために連邦司法省に照会される。

(注6)AlphaBay Marketは、Torネットワークのオニオンサービス(注7)で運営されているオンラインダークネットマーケットであった。 2017年7月13日、米国、カナダ、タイでのバヨネット作戦の一環としての法執行措置(およびハンザ市場)の後に閉鎖されたと報告されている。 1991年10月19日に生まれたカナダ市民であるとされる創設者のアレクサンドル・ケイズは、逮捕の数日後にタイの独房で死んでいるのが発見された。自殺が疑われている。

(注7) ESETの解説「個人を特定されずにWebを閲覧するには?」から一部抜粋する。

 Tor – オニオンルーティングを使用し、ネットワークトラフィックを暗号化レイヤーの上のレイヤーにカプセル化することから「オニオンランド(Onionland)」と呼ばれることもあります。Torネットワークは、誰でもアクセスできる一般的な表層ウェブサービスではなく、最も有名で広範に使用されている深層ネットワークです。Torネットワークは、ユーザーの通信が目的地に到達するまでに通過する入口ノード、通過ノード、および出口ノードから構成されます。通信がリレーされ、それぞれ暗号化されるため、通信を追跡または分析することはほぼ不可能になります。

 Torネットワークの平均ユーザー数は200,000人と推定されており、現時点では世界最大の匿名ネットワークです。ある意味では、Torブラウザは非常に使いやすく、Linux、Windows、Androidなどの多くのプラットフォームをサポートしているため、ユーザーに人気があります。さらに、比較的高速に閲覧でき、消費されるマシンのリソースもそれほど多くありません。

 万能に見えるTorですが弱点もあります。Torは匿名プロキシのネットワークであり、多くの場合、ユーザーが密集しています。従来型のウェブ閲覧、ウェブサイトへのアクセス、インデックスが付けられていないコンテンツへのアクセスには非常に便利ですが、他のタイプの通信には最適ではない場合があります。

(注8)Tor匿名ネットワークに隠されたCloud 9は、FBIがそれを押収する約1か月前に、ダークネット経済の4.5%を占め、大麻、エクスタシー、処方薬の販売で知られていた。 

(注9)わが国でも当然ながら資金移動サービス(money transmission services)の取扱業者の登録制がある。一般社団法人日本資金決済業協会サイトから一部抜粋、引用する。

資金移動業とは

 銀行等以外のものが100万円に相当する額以下の為替取引を業として営むことをいいます。資金移動業を営むには、「資金決済に関する法律(以下、「法」という。)」に基づき、事前に内閣総理大臣の登録を受けなければなりません。無登録で資金移動業(為替取引)を行った場合、銀行法第4条1項に違反する無免許業者として銀行法上の罰則の適用を受けることになる。

資金決済に関する法律(資金決済法)は、情報通信技術の発達や利用者ニーズの多様化等の資金決済システムをめぐる環境の変化に対応して、前払式支払手段、資金移動業及び認定資金決済事業者協会等を内容として、2010年4月1日に施行された。

【2021年5月施行の改正資金決済法の概要】

前払式支払手段では、利用者の保護等に関する措置として、利用者資金の保全に関する事項や無権限取引により生じた損失の補償等に関する情報提供義務(資金移動業においても同様の義務を規定)などが規定された。

資金移動業では、以下の3つの種別が設けられ、それぞれの種別に対しリスクに応じた規制が規定8/19(37)された。

「第一種資金移動業」 100万円を超える高額送金が取扱い可能であり、厳格な滞留規制等が課され、業務実施計画を定めて金融庁長官の認可を受けなければならないとされた。

「第二種資金移動業」 従来の規制(1件当たり100万円以下の送金)の前提として今後も事業を行う者であり、利用者資金の残高が送金上限額を超える場合には為替取引の関連性が求められないものは保有しないための措置を講じることとされた。

「第三種資金移動業」 1件当たりの送金額及び利用者一人当たりの受入額が5万円以下の為替取引を取扱う事業者であり、利用者資金を供託などに代えて自己の財産と分別した預貯金等による管理を行うことができるとされた。

【資金決済法および関連法令等】

・資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号) 

・資金決済に関する法律施行令(平成二十二年政令第十九号)

・前払式支払手段に関する内閣府令(平成二十二年内閣府令第三号)

・資金移動業者に関する内閣府令(平成二十二年内閣府令第四号)

・資金移動業の指定紛争解決機関に関する内閣府令(平成二十二年内閣府令第八号)

・前払式支払手段発行保証金規則(平成二十二年内閣府・法務省令第四号)

・資金移動業履行保証金規則(平成二十二年内閣府・法務省令第五号)

・事務ガイドライン 第三分冊:金融会社関係 5.前払式支払手段発行者関係

 14.資金移動業者関係   

(注10)「疑わしい取引に関する報告」(SARs)とは,連邦の Bank Secrecy Act29)(以下,BSA)が金融機関)およびその役員・従業員等に対して義務づける,マネーロンダリング,脱税そしてこれら以外の犯罪活動を含む法令違反の可能性のある疑わしい取引の,連邦財務長官(これが FinCENに委任されている)に対する報告(通報)である)。

 具体的に,同法の対象となる金融機関およびその役員・従業員等は,金融機関を通して行われる当該取引に関する総額が 5,000ドル(ただしマネー・サービス業では 2,000ドル)を超え,かつ(i)当該取引が,違法な活動から生ずる資金を含んでいるか,違法な活動から生ずる資金を隠蔽することが意図されていること,(ⅱ)BSA の規制を逃れることが意図されていること,(ⅲ)事業目的か明確な適法目的を欠くこと,および(ⅳ)犯罪行為を円滑に進めるために金融機関を利用していることを知っているか,またはそう疑う理由のある場合に,FinCEN に SARs を提出しなければならないと規定される)(財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」令和2年第 1 号(通巻第 142 号)2020 年 3 月〉から一部抜粋)。

 なお、より正確には”12 CFR § 21.11 - Suspicious Activity Report.”を参照されたい。

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