Financial and Social System of Information Security

インターネットに代表されるIT社会の影の部分に光をあて、金融詐欺・サイバー犯罪予防等に関する海外の最新情報を提供

インド準備銀行(RBI)が ”Mastercard”の2018年命令不遵守に伴う新規顧客獲得禁止命令を発布

2021-07-16 08:46:05 | 国際的な金融監督機関・金融制度改革

 インドの中央銀行であり、かつインドの決済システムの規制当局である「インド準備銀行(RBI)」は7月14日、Mastercard Asia / PacificPte Ltd(以下、”Mastercard”という)にあらたな遵守制限を課す命令(diective)を出した。すなわち、2021年7月22日以降、新規のインドの国内顧客(デビット、クレジットおよびプリペイドカード)をカードネットワークに取り込むにつき、オン・ボーディング(注1)を実施したのである。

  今回のブログは、(1)RBIの命令の内容、(2)米国の大手クレジット会社のインドの銀行等への影響等を概観し、最後に(3)2018年4月6日付け各金融機関の会長兼常務取締役/最高経営責任者宛て通達内容を概観する。

  なお、RBI命令はデータ保存場所の問題のみを問題視しているのか、2018年4月の各金融機関のトップ宛ての法令遵守の中身とも関連する問題があるのか、さらにナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相によって推進されている国内決済ネットワーク”Rupay”との関連など範囲は極めて広い問題である。この点は機会を改めて述べたい。

1.RBIの命令の内容

 2018年4月からというかなりの時間の経過と十分な機会が与えられていたにもかかわらず、Mastercardは依然RBIのインド国内金融機関向け命令(directive)の不遵守・非準拠であることが判明した。Mastercardに対し7月22日以降インド国内の顧客に新しいデビットカードやクレジットカードを発行することを無期限に禁止した。主要市場での米国企業に打撃を与えるものである。

 このような動きは、2021年4月23日、RBIが5月1日からAmex, Dinersに対し新規カードの販売を禁止したことに始まる(Reserve Bank of India bans Amex, Diners from selling new cards from May 1)

 しかし、インドでは比較的小さなプレーヤーであるアメリカン・エキスプレスとは異なり、MastercardやVisaなどの大手カード企業は、米国企業の支払いネットワークを使用してカードを提供する多くのインドの銀行と提携している。

 実際、2019年にMastercardは「インドに対する強気」であると述べたほか、2014年から2019年までの10億ドル(約1,090億円)の投資に加えて、今後5年間で10億ドルの投資を発表している。 

  今回のRBIの命令(directive)は、Mastercardの既存の顧客には影響しない。一方、Mastercardは、すべてのカード発行銀行およびその他の銀行にこれらの指示に従うようにアドバイスすることが命じられた。「 2007年支払および決済システム法( Payment and Settlement Systems Act, 2007 ;PSS法」第17条に基づいてRBIに付与された権限の行使において今回の監督強化措置が講じられたのである。

 この命令は、MastercardやVisaなどの企業も、ナレンドラ・モディ首相によって推進されている国内決済ネットワーク”Rupay” (注2)との競争の激化に直面している問題につながる。

Narendra Modi首相

 なお、Mastercardは、PSS法に基づいて国内でカードネットワークを運用することを許可された決済システムオペレーターである。

【RBI命令のデータ保存場所以外の影響】 

 2018年4月6日付けの決済システムデータの保存に関するRBI通達に関して、すべてのシステム・プロバイダーは、6か月以内にデータ全体(完全な終端間のトランザクションの詳細/収集/実行/処理された情報を含む)を確保するよう指示された。

 彼らが運営する決済システムに関連するメッセージや決済指示の一部としてインド国内でのみシステムへの保存が義務化された。

 さらに、MastercardはRBIにコンプライアンス状況を報告するとともに、 Indian Computer Emergency Response Team (CERT-IN) (注3) の名簿から選ばれた監査人が指定したタイムライン内に実施する取締役会承認のシステム監査レポートを提出する必要が出てきた。 

2.2018年4.月6日RBI通達”Storage of Payment System Data”の概要

 以下の金融機関の会長兼常務取締役/最高経営責任者宛て発出した。

*認可された支払いシステム(Authorised Payment Systems)/

*RRBを含むすべての指定商業銀行(All Scheduled Commercial Banks including RRBs )/

*都市協同組合銀行/州協同組合銀行(Urban Co-operative Banks / State Co-operative Banks )/

*地域中央協同組合銀行/支払銀行(District Central Co-operative Banks )/小規模金融銀行および地域銀行(Small Finance Banks and Local Area Banks)(注4)

(1) 決済システムデータのインド国内保存場所の義務

A..2018年4月5日付けの2018-19年の最初の「隔月金融政策声明の開発および規制政策に関する声明(Statement on Development and Regulatory Policies of the First Bi-monthly Monetary Policy Statement) 」の第4項 (注5)を参照されたい。最近、国内の決済エコシステムはかなり成長している一方で、このようなシステムは技術に大きく依存しているため、クラス最高クラスの安全およびセキュリティ対策を継続的に採用する必要がある。

B.すべての金融機関のシステム・プロバイダーが支払いデータをインドに保存していないことが観察されている。

 より良い監督・監視を確実にするために、これらのシステム・プロバイダー、およびそれらのサービス・プロバイダー、システムの仲介者、サードパーティ・ベンダー(コンピューター本体を製造している企業やその系列企業以外の、ソフトウエアや周辺機器などを作るメーカーの総称)および支払いエコシステム(payment ecosystem) (注6)の他の企業等が保存するデータへの無制限の監督アクセスを持つことが重要であり、したがって、RBIは次のことを決定した。

(ⅰ)すべてのシステム・プロバイダーは、それらが運用する支払いシステムに関連するすべてのデータがインド国内にのみのシステムに保存されることを保証するものとする。このデータには、メッセージ/支払い指示の一部として収集/伝達/処理された完全な終端トランザクションの詳細/情報が含まれている必要がある。トランザクションの外国法令に基づく取引データについては、必要に応じて、データを外国に保存することもできる。

 システム・プロバイダーは、今後6か月以内に上記(i)の遵守を確保し、2018年10月15日までに準備銀行に遵守を報告するものとする。

 システムプロバイダーは、上記(i)の要件が完了したら、システム監査レポート(System Audit Report :SAR)を提出する必要がある。監査は、上記(ⅰ)の活動の完了を証明するCERT-INにエンパネリングされた監査人によって実施されるべきである。システムプロバイダーの取締役会によって正式に承認されたSARは、2018年12月31日までに準備銀行に提出する必要がある。

C.本指令(directive)は、「2007年支払および決済システム法(2007年法律第51号)」の第18条(Power of Reserve Bank to give directions generally. )で引用される第10条第(2)項(注7)に基づいて発布する。 

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(注1)「オン・ボーディング(on-boarding)」とは、欧米ではすでにさまざまな企業が取り入れている教育・育成プログラムの1つで、新しく組織に入ったメンバーに対して手ほどきをおこない、早期の即戦力化を促し離職。離脱等を防ぐ方法を意味する。

(注2) 日本発唯一の国際カードブランド運営会社である株式会社ジェーシービーの海外業務を行う子会社、株式会社ジェーシービー・インターナショナル(以下:総称してJCB)は、インド決済公社(National Payments Corporation of India)(以下:NPCI)との提携により、NPCI傘下の銀行であるインドステイト銀行(State Bank of India)(以下:SBI)と、2020年12月よりインド国内で非接触型決済対応の新券種である「SBI RuPay/JCBデビットカード」の発行を開始しました。

  SBIは、同国内で約3億のデビットカード会員、約5.8万台のATM、約2.2万の支店を有するインド最大の銀行です。JCBとSBIは2019年7月から接触型決済に対応したデビットカードを発行しておりますが、本カードはインド国内のRuPay加盟店で接触型決済および非接触型決済に対応したデビットカードとなります。将来的にJCBコンタクトレス(タッチ決済)の搭載も検討しております。 (JCB 2020.12.18 リリースから抜粋)

(注3) Indian Computer Emergency Response Team(CERT-IN)は、インド政府の電子情報技術省内の局である。 ハッキングやフィッシングなどのサイバーセキュリティの脅威に対処するのは接点機関(nodal agency)(注8)である。これにより、インドのインターネット・ドメインのセキュリティ関連の防御を強化している。 

 CERT-INは、通信情報技術省が管理する「2000年情報技術法(Information Technology Act 2000)」 第7条(Retention of  electronic records.  )第1項B 号に基づいて、2004年にインド政府によって設立された。 CERT-INは、首相官邸の下にある「国家技術研究機関(National Technical Research OrganisationNTRO)」の下にある「国家重要情報インフラストラクチャ保護センター(National Critical Information Infrastructure Protection Centre :NCIIPC」や内務省の下にある「国家災害管理局(National Disaster Management Authority :NDMA)」などの他の機関との責任が重複している。

(注4)インドの金融機関一覧はRBI年報等を調べたがREPORT ON TREND AND PROGRESS OF BANKING IN INDIA等に基づき丁寧にあたっていくしかないように思える。

すなわち、①Operations and Performance of Commercial Banks 、②Developments in Co-operative Banking 、③Non-Banking Financial Institutionsを参照されたい。

(注5)”Statement on Developmental and Regulatory Policies” 第4項を仮訳する。

4.決済システムデータの保存

 近年、インドの決済エコシステム(payment ecosystem )は、新しい決済システム、プレーヤー、プラットフォームの出現により大幅に拡大している。 最高のグローバルスタンダードを採用することで決済システムデータの安全性とセキュリティを確保し、その継続的なモニタリングと監視は、デジタル決済の健全な成長ペースを維持しながら、データ侵害によるリスクを軽減するために不可欠である。

 現在、特定の決済システム事業者とそのアウトソーシングパートナーのみが、決済システムデータを部分的または完全にインド国内に保存していることが観察されている。 監督目的ですべての支払いデータに自由にアクセスできるようにするために、すべての支払 決済システムのオペレーターは、自分たちが運用する支払いシステムに関連するデータが6か月以内に国内でのみ保存されるようにすることが決定された。 この点については、1週間以内に詳細な説明が発出される。

(注6) わが国で”payment ecosystem”に関する本格的な解説レポートは極めて少ないか極めて高額である。

(注7) 第10条第2項 :第1項の規定の反さない範囲で、準備銀行は、一般的に、または特定の支払いに関して、支払いシステムの適切かつ効率的な管理に必要であると考える場合がある場合、そのようなガイドラインを随時発行することができる。

(注8)インド電力情報技術省の”State-wise Nodal Officers for promotion of Electronic Hardware Manufacturing and applicable policy/incentives”を参照されたい。わが国のModalの解説は皆無である。

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【DONATE(ご寄付)のお願い】

本ブログの継続維持のため読者各位のご協力をお願いいたします。特に寄付いただいた方で希望される方があれば、今後公開する筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中でございます。 

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【本ブログのブログとしての特性】

1.100%原データに基づく翻訳と内容に即した権威にこだわらない正確な訳語づくり

2.本ブログで取り下げてきたテーマ、内容はすべて電子書籍も含め公表時から即内容の陳腐化が始まるものである。筆者は本ブログの閲覧されるテーマを毎日フォローしているが、10年以上前のブログの閲覧も毎日発生している。

このため、その内容のチェックを含め完全なリンクのチェック、確保に努めてきた。

3.上記2.のメンテナンス作業につき従来から約4人態勢で当たってきた。すなわち、海外の主要メディア、主要大学(ロースクールを含む)および関係機関、シンクタンク、主要国の国家機関(連邦、州など)、EU機関や加盟国の国家機関、情報保護監督機関、消費者保護機関、大手ローファーム、サイバーセキュリテイ機関、人権擁護団体等を毎日仕分け後、翻訳分担などを行い、最終的にアップ時に責任者が最終チェックする作業過程を毎日行ってきた。

 このような経験を踏まえデータの入手日から最短で1~2日以内にアップすることが可能となった。

 なお、海外のメディアを読まれている読者は気がつかれていると思うが、特に米国メディアは大多数が有料読者以外に情報を出さず、それに依存するわが国メデイアの情報の内容の薄さが気になる。

 本ブログは、上記のように公的機関等から直接受信による取材解析・補足作業リンク・翻訳作業ブログの公開(著作権問題もクリアー)が行える「わが国の唯一の海外情報専門ブログ」を目指す。

4.他にない本ブログの特性:すべて直接、登録先機関などからデータを受信し、その解析を踏まえ掲載の採否などを行ってきた。また法令などの引用にあたっては必ずリンクを張るなど精度の高い正確な内容の確保に努めた。

その結果として、閲覧者は海外に勤務したり居住する日本人からも期待されており、一方、これらのブログの内容につき著作権等の観点から注文が付いたことは約15年間の経験から見て皆無であった。この点は今後とも継続させたい。

他方、原データの文法ミス、ミススペリングなどを指摘して感謝されることも多々あった。

5.内外の読者数、閲覧画面数の急増に伴うブログ数の拡大を図りたい。特に寄付いただいた方で希望される方があれば今後公開する筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中である。

【有料会員制の検討】

関係者のアドバイスも受け会員制の比較検討を行っている。移行後はこれまでの全データを移管する予定であるが、まとまるまでは読者の支援に期待したい。

                                                           Civilian Watchdog in Japan & Financial and Social System of Information Security 代表                                                                                                             

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バーゼル銀行監督委員会作業部会報告「金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する研究文献の批判的考察」

2011-02-23 16:12:52 | 国際的な金融監督機関・金融制度改革



 2月21日、金融庁は「バーゼル銀行監督委員会による『金融と実体経済の波及経路に関する文献サーベイ(The transmission channels between the financial and real sectors:a critical survey of the literature)』の公表について」と題するリリースを行った(日本銀行もまったく同内容のリリースを行っている)。
 例のごとくであるが、今回も「詳細につきましては、以下をご覧ください」という文言のみで同委員会の当該リリース・サイト(英文)へのリンクが張られているのみである。

 筆者は、常日頃からこのような金融機関だけでなく研究者や広く国民に対する情報公開の観点から、その公表文や「要旨」部分だけでも仮訳で提供すべきと考えている。
 さらにいえば、わが国の金融規制監督とBISとの関係を正確に理解したり、欧米主要国の金融規制監督のあり方を巡る最新の情報についてより具体的な情報提供も金融庁や日本銀行の重要な任務であると感じている。
(注1)

 このような問題意識を背景として、今回のブログでは久しぶりに作業部会の設置目的や同ペーパーの持つ意義等について簡単な導入解説を試みた。わが国の金融・経済の専門家による本格的な批判的検討を期待したい。
(注2)
 なお、本報告に引用される専門用語について参考として筆者なりに調べた範囲で注記を加えた。その内容の補完を含めたレポートを期待したい。


1.本報告の作成背景と検討範囲
 まず、本ワーキング・ペーパーの標題である。リリース内容や本文から見て多少意訳とはなるが「金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する既存の経験的分析に基づく研究文献に対する批判的考察(第一次報告)」と訳すのが本来であろうと思う。

(1)国際決済銀行(BIS)は特別調査委員会のもとに「金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する作業部会」を設置
 その設置目的は、各国金融当局が最大の研究課題としている金融安定化のための研究にあたり金融と経済の実態部門の間にある波及経路(効果)の正確な理解は重要な要素といえる。
 「強固で安定的な金融システム」とは、プロパガンダや無意味な増幅を招く金融ショックに対抗しうる強さを持ち、かつ利益を確保できる投資機会に向けた貯蓄の配分において限定的な影響にとどまらせるものであると見られている。

 実際に、金融安定化の定義や金融監督における「マクロ健全性(macroprudential)」といった取組みは、「G20金融サミット」や「金融安定化理事会(Financial Stability Board)」(注3)等の金融安定化支援国家・機関は、これは金融システム機能のマクロ健全性の破壊の結果であるという見方を強調している。

 この問題の重要性に鑑みて、銀行監督委員会は金融部門と実体経済部門間の波及経路に関する検討作業グループ(Research Task Force on the Transmission Channels: RTF-TC group)をあらたに設置した。より具体的にいうと、本作業部会は既存の研究文献を批判的に見直すことおよび既存の枠にとらわれない検証を命じられたものである。

 作業グループは、金融部門と実体経済部門に存在する3つの波及経路、すなわち、(ⅰ)借手のバランスシートからみる経路(borrower balance sheet channel)、(ⅱ)銀行のバランスシートからみる経路(bank balance sheet channel)、および(ⅲ)流動性からみる経路(liquidity channel)につき限定した。前2つの経路はしばしば金融活性化経路(financial accelerator channel)と呼ばれ、3つ目は銀行危機の流動性ポジションが強調される。

2.第一次研究報告としてまとめた既存文献の欠陥といえる問題点
 7つの点に集約した。
①マクロ・ストレス・モデル (注4)の洗練化に関し、既存のモデルの最大の欠陥はフィードバック効果分析の欠如である。マクロ・ストレス・テスト・モデルは銀行のバランスシートの実際の状況の効果を考慮するものであるが、そのようなバランスシートの作成自体が初期のマクロショックの効果を強固なものにする点を考慮していない。

②実体経済においていかなる条件が金融部門に影響を与えるのかの問題について、注目すべき問題認識のずれとして本レポートはさらに一般的といえる借り手の債務不履行(default)や返済遅延結果(delinquency outcome)について借り手のバランスシートのポジションについて限定的な考慮しか行っていない点に着目した。借り手のバランスシート(債務不履行(default)や返済遅延結果が存しない場合でも)は借り手の信用度の正確な理解の上で関係する問題であり、順次借り手の与信や与信条件に影響を与え、また順次貸し出し行為や最終的には経済活動そのものに影響を与えるものである。

③金融部門と実体経済部門間の条件の相互作用に着目したモデルの開発問題に関し、主要な問題認識のずれ(マクロ・ストレス・テストでは共通的なもの)は、非線形性(nonlinearities)および構造上の不安定(structural instabilities)について限定的にしか考慮していないことである。
 別の認識のずれは、金融と実体経済部門間の比較的銀行の処理の型にはまって内容を考慮する「動学的確率的一般均衡(Dynamic Stochastic General Equilibrium, DSGE)モデル」を優先して関係付けていることである。
 一方、銀行の行動に関し有益な特性を提供し影響力が大である既存の研究論文は、何が最も実務者(銀行の資本制約、資産・負債の成熟期のミスマッチ等)にとっての最大の関心事であるいかについて把握していない。

④融資に関する銀行資本の影響の問題に関し、最近時の出来事で明らかなとおり、重要な認識のずれがある。民間対政府による資本注入とでは融資や経済活動において異なる意味があることである。現下の金融危機に即して、いくつかの国 (注5)が銀行部門に公的資本注入を行い、民間による資本注入と完全に類似物であり立案策定者にとっての明確な価値があるか否かについて検証した。
 関連した取組みとして、システム全体として規制の効果についての分析の根拠の必要性を配慮した。例えば、銀行に対する規制・監督からイメージされる民間部門への動機付けはほとんど機能しなかった。しかし、規制による「自己資本裁定(capital arbitrage)」が金融危機の重要1つの根拠であることは示された。さらに、動機付けに関し理解すべき重要な点は、金融監督・規制は現下の過剰な規制のもとで作られている点である。さらに、その金融監督・規制規則が現下のオーバーホールの文脈の中で作りだす誘因効果を理解することも、非常に重要である。

⑤銀行や借手のバランスシートのポジションが経済活動に関する銀行レベルの変数にどのような影響を与えるかという問題についてみると、マクロ経済と実体経済を混乱させている借手と銀行のバランスシートの状況にかかる別々の影響について見過ごしている点がある。このことは、同時または最終的に衰退化または改善するマクロ経済の諸条件による双方とも影響を受ける借手と銀行のバランスシートから導き出され、研究者が監視している唯一の変数は貸出量や貸出金利(または利鞘)であるという結果になっている点が指摘される。

⑥国際的なビジネスのサイクルを巡る共同行動について国家間をまたがる金融波及経路に影響を与えるかという問題については、重大な認識のずれは大部分の分析が運用において正確な経路情報を限定的にしか提供していない誘導型の基礎に関する問題を見逃している点である。

⑦金融政策の経路に関する金融部門の変数の影響について、重要な認識のずれは貸付がどのように実体経済に影響を与えるかという疑問点である。最近の金融危機の結果として明らかになった別の認識のずれは銀行の融資経路における「証券化」とのかかわりである。この問題に関する今日までの全調査が本質的に予めこの危機を見逃しており、その結果、重要な疑問はこれらの結果が現下の金融環境の中でいかに支持できるかという点である。
また、RTF-TC作業計画は、金融政策のスタンスと銀行のリスクに対する姿勢(いわゆるリスクを引き受ける経路 (risk taking channel)の間の関係において、更なる進展を提供するものである。

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(注1) 筆者は翻訳の専門家ではない。しかし、毎日主要国の政治、経済、金融等に関する政府や行政機関や主要メディア等の情報を読みながら、その情報の価値や広くわが国民への情報開示の意味については勉強しているつもりである。

(注2)本ブログでも紹介したわが国におけるBISの”Working Paper”等の内容はいずれを見ても難解である。いくら翻訳作業で工夫してみても限界がある。しかしながら、そのことは仮訳作業が不要という理由にはならない。

(注3) 「金融安定化理事会(Financial Stability Board:FSB)」は、(1)国際金融システムに影響を及ぼす脆弱性の評価及びそれに対処するために必要な措置の特定・見直し、(2)金融の安定に責任を有する当局間の協調及び情報交換の促進、(3)規制上の基準の遵守におけるベストプラクティスについての助言・監視等を役割としている。第2回金融・世界経済に関する首脳会合(ロンドン・サミット:2009年4月)の宣言を踏まえ、旧金融安定化フォーラム(FSF)が、より強固な組織基盤と拡大した能力を持つ組織として再構成された。FSBには、そのメンバー国および地域の関連当局、金融監督当局による国際機関(バーゼル銀行監督委員会、証券監督者国際機構(IOSCO)保険監督者国際機構(IAIS))および国際金融機関(国際通貨基金(IMF)・世界銀行)等が参加しており、我が国からは金融庁、財務省及び日本銀行が参加している。(平成21年11月12日時点での金融庁の説明を引用のうえ、筆者が各機関にリンクを張った)

(注4) 米国の金融監督機関であるFRB,FDICやOCCが2009年2月から4月にかけて行った「ストレス・テスト(正式には「監督資本評価プログラム(Supervisory Capital assessment Program:SCAP)」について基本的な点から説明しているものとしては、関雄太「資本市場クォータリー2009年(summer)」の「ストレステストの見方とバンクオブアメリカ、GMAC」が分かりやすいと感じた。
 また、2010年7月23日に公表した欧州銀行監督者委員会(CEBS)、欧州中央銀行(ECB)による銀行ストレス・テスト(特別健全性審査)に関する論文として、代表的なものといえるかどうかは別として、伊藤さゆり「ストレステスト後の欧州経済と銀行市場」(ニッセイ基礎研究所:Weekly エコノミストレター:2010年8月20日号)の内容が興味深かった。
 これらのストレス・テストの問題点として、次のような指摘がある。「近年では、特定のストレス・テストの数、深度、範囲を広げることで銀行はストレス・テストの改善に努めてきた。しかし多くの場合、これらのテストは事業活動、リスクの種類、資産の種類ごとに別々のものとなったままである。そのため、ストレス・テストの結果と全行的な資本充実度とを厳密な方法で結びつけるのが困難であった。」

(注5) 本報告では具体的に明記していないが、公的資本注入を最も大規模に行った国は米国であろう。

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英国の銀行等のこの10年間の店舗数の減少推移と新たな支店戦略

2010-11-07 07:18:38 | 国際的な金融監督機関・金融制度改革



 わが国と同様に、顧客の大部分が支店利用を希望しているにもかかわらず、英国の銀行や住宅金融会社(注1)はこの10年間で店舗数が5分の1に減少している。特に減少が目立つ(約24%減)のはあまり裕福でない都心部と工業地区で、逆に高所得者層を顧客に持つ多くのハイ・ストリート・バンクでは新たな支店サービス(direct banking services)概念の構築に向け新たな投資を行っている。

 以前に英国のフォレスター調査会社が行った調査結果では、英国の顧客の半分以上が1人あたり1カ月に1回支店を利用し、利用顧客2千人の55%は小切手の預入れや現金の引出しという通常のサービスであった。このようなためか、イギリスの支店の混雑程度はスペインの5倍以上とされている。

 このようなカウンターサービスを減少させるため、たとえば英国の大手金融グループであるAlliance & Leicesterは、煩雑な入金窓口処理のATM化に取り組んでいる。 (注2) その結果、1回のATM処理で60枚の紙幣の預金口への入金が可能となった。今後の課題は、イメージ処理による小切手の入金処理が計画されているとのことである。

 なお、英国のATMによる出金サービスに関しては、その有料化問題が消費者保護・教育団体を統括している全国消費者協議会(National Consumer Council)等から持ち上がっている。英国は現在、引出時に無料のATMと有料のATMがあるが、後者が急増している。これまで、現金引出し手数料が無料のATMが主流だったが、すでに台数の約4割が有料になったため、銀行側の見込みでは、2006年中の手数料総収入は2億5千万ポンド(約497億5,000万円)となっている。反面、無料のATMの台数は2004年9月の20,685台に比べ2005年9月末には23,931台となっている。
消費者団体などからは、「家計を圧迫する」と批判の声が上がっており、政府自体も改善へ動き出している。

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(注1)英国の協同組織金融機関としては、信用組合(credit union)と相互会社形態の住宅金融会社がある。もともと英国では住宅金融会社については銀行の住宅ローン業務への本格参入により競争が激化し、資本強化のため1986年住宅金融会社法により株式会社への転換手続きが制定された。このため1980年代から1990年代にかけて転換が進み、この10年間で機関数は約2割減少し、総資産シェアも15.8%から4.8%に大きく減少している(日本銀行信用機構局 2004年10月「海外における協同組織金融機関の現状」より引用)。

(注2) 「direct banking services」はインターネットやテレフォン・バンキングを中心としたフル金融サービスを指すが、平行して窓口業務の効率化策として現在研究されているのは現行の小切手や現金での入金手続きの「ATM処理化」である。具体的な手続きについては英国金融サービス庁(FSA)のサイト(消費者向け情報)の「入金手続き」で説明されているので、熟読して欲しい。カードによるATM処理に慣れ親しんでいる日本人から見るとなんとも・・という感じである。

〔参照URL〕
http://www.finextra.com/fullstory.asp?id=14960
http://www.finextra.com/fullstory.asp?id=14771

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(今回のブログは2006年2月27日登録分の改訂版である)

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バーゼル銀行監督委員会が銀行組織における「コーポレート・ガバナンス・ガイダンス(仮訳)」最終版を公表

2010-11-06 11:55:44 | 国際的な金融監督機関・金融制度改革


Last Updated:arch 31,2021

 2006年2月13日、バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee on Banking Supervision)(注1)は銀行組織の健全なコーポレート・ガバナンスの実践の推進のための改定ガイダンス「Enhancing corporate governance for banking organisations」の最終版を公表した。
 本ガイダンスは2005年11月に同委員会が提示した提案文書からスタートしたものとされているが、同提案書に対し、各国の銀行、業界団体、関係監督省庁、その他の機関から多くの有益なコメントを受けて取り込んだものである。なお、以下の点を読むと理解できると思うが、このガイダンスは銀行そのものだけでなく監督機関の責任を明確化している点は見逃せない。

 なお、今回のガイダンスの元となる同委員会の改訂案そのものは2005年7月29日に公表されており、わが国の金融庁は同委員会に対する金融機関の意見は直接行うかたちを取っている(仮訳が金融庁サイトに掲載されたのは同年9月14日であった)。
(注2)

 本ガイダンスの元となる書面は、2004年にOECDが発刊した「コーポレート・ガバナンスについての原則」と同様、1999年に同委員会が公表したものに基づき改訂のうえ、策定されたものである。本ガイダンスは、世界中の銀行の健全なコーポレート・ガバナンスの実践の採用と適用を意図したものであるが、既存の国家による法律、規則、綱領など階層構造による新たな規制構造の構築を意図するものではないとリリースは説明している。


Ⅰ.ガイダンスの重要項目は次の内容である。
(1)取締役会の役割(特に独立した権限を持つ取締役の役割に焦点を当てる)と銀行の経営幹部の役割
(2)利害が対立する場合の効果的経営管理
(3)銀行内部のコントロール機能と同様に内部・外部監査人の役割
(4)透明性に基づく方法とりわけ司法制度とのかかわりの中での運用内容、もしくは透明性を阻害するような体制問題意識の構築
(5)健全なコーポレート・ガバナンスの実践の推進と調査における監督機関の役割

Ⅱ.BISのリリースは、以上の5つの項目が列挙されているだけである。そこで筆者としてはガイダンスの目次に基づき以下のとおり補足する。
1.はじめに
2.銀行におけるコーポレート・ガバナンスの概観
3.健全なコーポレート・ガバナンス原則とは何か
 ①第1原則:取締役会のメンバーは、おのおのの立場につき適任であり、コー ポレート・ガバナンスにおける自らの役割を明確に理解し、銀行内におけるすべての事柄について健全な判断を実践できなくてはならない。
 ②第2原則:取締役会は、銀行組織全体に伝達されている銀行の戦略的目標や企業価値について承認ならびに監督を行わねばならない。
 ③第3原則:取締役会は、銀行組織全体について責任や責務に関する明確な施策を設定・実施しなくてはならない。
④第4原則:取締役会は、取締役会の方針に一致する上層部の経営者による適切な監督が行われるよう確実なものにしなくてはならない。
⑤第5原則:取締役会及び上層経営者は内部監査機能、外部監査人、ならびに内部統制機能により指揮される仕事を効率的に利用しなくてはならない。
⑥第6原則:取締役会は、銀行の企業文化、長期的目標や戦略ならびに統制環境に合致した役員報酬政策やその実践を確たるものにしなくてはならない。
⑦第7原則:銀行は透明性をもった方法により統治されねばならない。
⑧第8原則:取締役会及び上層経営者は裁判管轄権や阻組織の透明性を阻害要因について理解しなければならない(すなわち「自分の組織を知ること」)。

4.銀行監督機関の役割
(1)監督機関は、健全なコーポレート・ガバナンスについて銀行に向けたガイダンスを提供し、また適所の革新的な実践を行わなければならない。
(2)監督機関は、預金者保護の観点の一つからコーポレート・ガバナンスを理解しなければならない。
(3)監督機関は、銀行が健全なコーポレート・ガバナンスの方針ならびに実践について適応し、かつ効率的に適応しているかを考慮しなければならない。
(4)監督機関は、銀行の監査ならびに統制機能の調査を行わなければならない。
(5)監督機関は、銀行グループの組織の評価について調査しなくてはならない。
(6)監督機関は、自らの監督努力を通じ、取締役会に対し、経営上注目すべきた問題を提起しなくてはならない。

5.健全なコーポレート・ガバナンスを支援する環境の推進

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(注1)わが国の金融庁の資料では、バーゼル銀行監督委員会は、1975年にG10諸国の中央銀行総裁会議により設立された銀行監督当局の委員会である。同委員会は、ベルギー、カナダ゛、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、スペイン、スェーデン、スイス、英国、米国の銀行監督当局ならびに中央銀行の上席代表者からなると説明されている。 現委員長はスペイン銀行総裁のJaime Caruana 氏。

(注2)2006年2月13日の金融庁のサイトでは、BISのニュースリリース及び最終版(全30頁)が原文で添付されているのみで、今後の仮訳も待てないので筆者の独断で概要を紹介する次第である。また、日本銀行は3月13日に仮訳版を公開している。

〔参考URL〕
http://www.bis.org/press/p060213.htm
http://www.fsa.go.jp/inter/bis/bj_20050801.pdf

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(今回のブログは2006年2月14日登録分の改訂版である)

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