Financial and Social System of Information Security

インターネットに代表されるIT社会の影の部分に光をあて、金融詐欺・サイバー犯罪予防等に関する海外の最新情報を提供

米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG)の人工知能(AI)に関連する研究および教育提案の提出を積極的に奨励する具体的ガイダンスの発出

2023-12-24 17:49:36 | AI

 筆者は先般2回のブログで、10月30日の大統領令(EO14110)及びNIST等の取組みにつき言及した。特に12月22日ブログ「米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST『情報提供依頼文書』の具体的内容」の中で、EOセクション「5.イノベーションと競争の促進」の箇所でFSAの役割について詳しく言及した。

 これに関し、筆者の手元に12月22日付けでFSAから届いたメール「人工知能の工学研究への資金提供の機会について」は、米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG) は、新興産業としての人工知能に関連する研究および教育提案の提出を積極的に奨励するというものであった。

文部科学省科学技術要覧「各国の科学技術の概要」から抜粋

 今回のブログは、FSA工学局のリリースを解説付きで紹介するものである。

 特に、この分野は極めて多岐にあたるもので単なる訳文では真の取組課題は見えない点に留意されたい。

1.NSFの通知文書の内容

  筆者なりに補足説明しながら仮訳する。

「親愛なる研究者各位へ

 この親愛なる研究者への手紙により、米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG) は、新興産業としての人工知能に関連する研究および教育提案の提出を奨励する。

 人工知能 (AI) は急速に進歩しており、我われの生活を大きく変える可能性がますます実証されている。 NSF と工学局には、これまでAI 研究をサポートしてきた長く豊かな歴史があり、商業から医療、運輸に至るまで、さまざまな分野で今日の AI テクノロジーの広範な使用の基盤を整えている。 NSF の AI ポートフォリオは、AI 理論、アルゴリズム、ロボット工学、人間と AI の相互交流、AI 用の高度なサイバーインフラストラクチャに及ぶほか、神経科学における使用にインスピレーションを得た研究、工学的土木インフラ システム、電力網、インテリジェント統合製造システムの設計とパフォーマンス、 インテリジェント輸送、ロボット工学、その他多くの分野にわたる。

 NSF 工学局は、(ⅰ)国家のニーズに合致した AI 関連の研究と教育活動に投資し、(ⅱ)「2020年国家AIイニチアチブ法(National Artificial Intelligence Initiative Act of 2020:NAIIA))、「2022 年のCHIPS および科学法(CHIPS and Science Act of 2022)」、ホワイトハウスの全体で信頼できる人工知能の開発と使用およびその他の政策指令 (大統領令:EO14110)をサポートしている。 AI 研究に対する連邦政府の主要な資金提供者として、NSF は知識の最前線を押し広げ、人々に利益をもたらし、社会のニーズを満たす AI の画期的な進歩を推進している。(注1)

1.NSF工学局の重要関心事項

 工学局は、次の分野の提案を含む、AI に関連するあらゆる種類の研究および教育提案の提出を奨励している。

①基礎工学分野でのAI 研究: 従来の工学の主題 (動的モデリング(dynamic modeling)、制御システム、材料力学挙動(material behavior)、最適化、情報理論、通信システム、信号処理など) のツールと手法を、理論的なコンピュータ科学、数学、統計学のツールと手法と組み合わせて使用する。その結果、アルゴリズムのパフォーマンス、複雑さ、安全性、セキュリティ、説明可能性、安定性についての理解を深めることができる。

②AI の工学的システムへの応用: 物理ベースのモデルと、複雑な動的環境およびシステム (送電網、化学処理プラント、接続された製造システム、サプライ・ チェーン、ロボット工学、接続された輸送システム、土木など) のデータベースのモデルとの統合 サービス中のインフラストラクチャや極端な危険なイベントなど)をリアルタイムで学習し、意思決定できるようにする。

③スマート・センシング(注2)と分析: (ⅰ)学習と意思決定のためのセンサー、センサーネットワーク、通信を介した分散ソースからのデータの使用、(ⅱ) リアルタイムの意思決定のための新しいハードウェアとソフトウェアを介した新しいエッジ・ コンピューティング機能(注3)の解析である。 考慮すべき事項には、セキュリティ、プライバシー、通信コスト、異種データの処理、異種システム、ネットワーク通信アーキテクチャ、および学習アルゴリズムとアーキテクチャが含まれる。

④電子、磁気、光学ハードウェアへの AI テクノロジーの実装: (ⅰ)バイオからインスピレーションを得たニューラル・アーキテクチャの電子回路実装、(ⅱ) データを処理するための、より高速でエネルギー効率の高いプロセッサー (電子、磁気、光学)の開発、(ⅲ) データの処理と学習のためのハードウェアとソフトウェアの共同設計である。

⑤データのタイプ 別の 音声、画像、およびビデオ データのAI活用: AI を活用した、音声、画像、およびビデオ データの処理、認識、送信のための信号処理および通信テクノロジーの進歩。

➅自律システム(Autonomous systems )(注4)とロボット: 制御システム、機械システム、またはその他のエンジニアリング分野と AI および機械学習との統合である。 アプリケーションには以下の自動輸送が含まれる。 製造、医療、その他のアプリケーション用のロボット開発。 安全で信頼できる人間とロボットの相互作用。

⑦エンジニアリング AI 用のトレーニング・ データの量・質の深化: 安全な操作が主な関心事である、エンジニアリングされたシステムに AI ツールを確実に導入するために必要なトレーニング データの量と質についての理解を深めるための研究が含まれる。

⑧人工材料および生物学的材料の行動理解: AI と機械学習により、複数のスケールおよびモダリティ(注5) (実験、計算、イメージング) からの大規模またはまばらなデータセットを含む、人工材料、生物学的材料、および生体材料の挙動の理解を可能にし、強化する。

⑨輸送現象(transport phenomena)(注6)のモデリング化: AI を活用した流体、微粒子、熱、燃焼、山火事管理のモデリングにより、理解を深め、より正確な新しい物理モデルと解法(solvers)を開発できる可能性がある。

⑩人間と AI のコラボレーション: 機械学習モデルに認知、行動、生理学の原理を組み込んで、AI 対応エージェントと人間が相互作用し、お互いについての知識や期待を生み出す方法を改善する (たとえば、意図の検出、信頼性の構築、または社会的関等)。

⑪医療:身体能力支援およびリハビリテーション技術: リハビリテーション用ロボット工学、スマート義肢および装具、ブレインコンピューターインターフェイス、および高度な AI を活用するその他の技術など、人間の機能的能力または認知のサポート、回復、リハビリテーション、および/または代替のための AI 対応技術 そして機械学習等。

⑫生理学的システムの計算モデルと AI モデル: (ⅰ)AI と機械学習を活用して生理学的システムの検証済みモデルを開発する高度な計算戦略、(ⅱ) 精密な監視と制御のための生物製造プロセスの計算によるコンピュータ化された表現。

⑬AI を活用したバイオイメージング・ テクノロジー: 光学、エレクトロニクス、磁気、化学、AI、および量子テクノロジーの進歩を活用することで、さまざまな規模の生物学的イメージングとモニタリングのパフォーマンスを向上させる革新的な進歩。

⑭製造業における AI アプリケーションのスケーリング: (ⅰ)メーカーのネットワークからデータを調達し、アルゴリズムを構築し、追加データが利用可能になったときにアルゴリズムを更新するための、製造業務に適した AI メソッド、実装ソフトウェア、データ収集とプロトコル開発、 (ⅱ)ネットワーク規模での製造ソリューション向けのデータソーシング、集約、分類、およびサービス配信インフラストラクチャを有効にして展開するための研究。

⑮AIによる民間インフラとインフラ システムの復元力と持続可能性を実現する : (ⅰ)材料、構造、およびシステムのデータ収集、(ⅱ) 構造健全性モニタリングとリアルタイム損傷検出のための AI アルゴリズム、(ⅲ)。最適な持続可能で回復力のあるインフラストラクチャ材料の設計のための AI アプローチ。(ⅳ) 構造物の修理と改修のための AI と自動化。

2.ENG コア・プログラムとその連絡先

 工学局Engineering Directorate: ENG )は、以下にリストされている ENG コア・ プログラムおよび NSF 横断プログラム、およびその他の関連プログラムに AI 関連の提案を提出することを奨励している。 どのプログラムがプロジェクトのアイデアに最も適しているかを判断するために、主任研究者はプログラムの説明を読み、プログラムの担当者に質問することを勧める。

(以下のリストの訳は略す)。

**************************************

(注1) 総務省世界情報通信事情:アメリカ編(5)人工知能(AI)にかかる政策動向から抜粋  

 米国では2016年10月、NSTCとOSTPが中心となって取りまとめた報告書「AIの未来に備えて」が公表され、AIにかかる規制・制度、研究開発、経済・雇用、公正性・安全性、安全保障等について、連邦政府機関等に対する23の提言を行った。また、同月、「米国AI研究開発計画」が公表された。

 2018年5月にはホワイトハウスで「AIサミット」が開催され、①「研究開発」「人材育成」「規制緩和・撤廃」「業界別AI応用の実現」をそれぞれ分科会で議論し、②NSTCの下に、連邦政府全体のAI研究開発における優先事項の勧告等を行う省庁間委員会「AI特別委員会(Select Committee on AI:SCAI)」を設置した。トランプ大統領(当時)は、2019年2月、AIにおける米国のリーダーシップの継続が、米国の経済及び国家安全保障の維持に極めて重要と位置付け、AIの研究開発等を促進する大統領命令(第13859号)に署名。この中で「AIイニシアチブ」を策定した。また、同年6月には「国家AI研究開発戦略計画」を改定し、新たな戦略を策定した。

 NDAA 2019では、国家安全保障・AIについて大統領や議会に助言する独立の連邦機関となる人工知能国家安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence:NSCAI)が新設された。NSCAIは、2020年4月、43の勧告をまとめた第1四半期勧告を公表。議会に対して、非防衛分野におけるAIの研究開発予算増額のほか、AIや5Gにおける米国の優位性を追求し、華為技術に対抗するための方策を提言した。2021年3月には最終報告書を発表し、「AI時代において米国を守る」ことと「テクノロジー競争に勝つ」ことの両面から、60以上の提言を行った。NSCAIは、2021年10月に活動を終了した。

 2020年12月には、連邦政府内での信頼できるAI利用の促進に関する大統領命令(第13960号)が署名され、政府内でのAI利用の更なる原則を規定した。

 2021年1月には、NDAA 2021に盛り込まれる形で、「国家AIイニチアチブ法(National Artificial Intelligence Initiative Act of 2020:NAIIA)」が成立。米国の経済的繁栄と国家安全保障のためにAIの研究と応用を加速させる、連邦政府全体で協調的なプログラムを規定、「国家AIイニシアチブ(National AI Initiative:NAII)」の下、政権内のAIに関する様々な取組みがまとめられた。

 NAIIは、学術界、産業界、非営利団体、市民社会組織と協力し、米国のすべての省庁にまたがるAIの研究、開発、実証、教育活動を強化・調整するための包括的な枠組みを提供する。同法は、大統領に対して、AI研究開発への一貫した支援、AI教育及び人材育成プログラムの支援、学際的AI研究・教育プログラムの支援、連邦省庁間のAI活動の計画・調整、多様なステークホルダーへの働きかけ、既存の連邦投資のイニシアチブ目標推進への活用、学際的AI研究所のネットワーク支援、信頼できるAIシステムのための研究開発や評価、リソースに関する戦略的同盟国との国際協力機会の支援を行うよう指示。NAIIの下での活動は、イノベーション、信頼できるAIの推進、教育・トレーニング、インフラ、アプリケーション、国際協力という六つの戦略的柱で構成される。NAIIの調整は、OSTPの下に設置されるNAII室によって行われ、NAIIの監督は、NSTCの下に設置されているSCAIと、NISTの下に設置される国家AIイニシアチブ諮問委員会(National AI Initiative Advisory Committee:NAIAC)が担当する。NAIACは、AIに関する諸問題について大統領やNAII室等に助言を行う。

 2022年10月、OSTPは、AIの設計・利用の管理に向けた新たな国家的枠組「AI権利章典(AI Bill of Rights)」の青写真を発表した。これは、AIの説明責任を拡大し、公民権の保護を目指す連邦政府の取組みの一環。AI権利章典は、AI技術を開発する際に考慮すべき指針的原則として、①安全で効果的なシステムの作成、②データ・プライバシー、③アルゴリズムによる差別からの保護、④ユーザへの通知と説明、⑤人間による代替手段、の五つを掲げている。

(総務省世界情報通信事情:アメリカ編から一部抜粋、リンクは筆者が行った)

(注2) スマート・センシング(Smart Sensing)とは、光、温度、衝撃の大きさといった情報を検出し数値化する処理機能が組み込まれたセンサ(スマートセンサ)によるセンシング技術の総称です。スマートセンサで計測できる情報の種類は幅広く、基本的に制限を受けないとされており、人間情報(脈拍、体温など)を検知して快適な環境を提供する、健康管理技術への応用が進められている。

 スマートセンシングによるデータ計測は、建築業界、交通機関、農業管理への利用も期待されており、これによりさまざまな分野の安全確保や効率化が進展するといわれている。

(IoT 用語辞典から抜粋)

(注3) エッジ・コンピューティングとは、IoT端末などのデバイスそのものや、その近くに設置されたサーバでデータ処理・分析を行う分散コンピューティングの概念である。クラウドにデータを送らず、エッジ側でデータのクレンジングや処理・分析を行うためリアルタイム性が高く、負荷が分散されることで通信の遅延も起こりにくいという特長を持つ。

 データを集中処理するクラウドに対し、データを分散処理するのがエッジコンピューティングだと言える(softBank「【解説】エッジコンピューティングとは?初心者編」から抜粋)

(注4) 「Autonomous System」の略で、「自律システム」とも呼ばれます。 ASは、 統一された運用ポリシーによって管理されたネットワークの集まりを意味し、 BGPというプロトコルにより接続される単位となります。 AS間で経路情報の交換を行うことにより、 インターネット上での効率的な経路制御を実現します。 通常、規模の大きいISPのネットワークは固有のASを形成しております。(日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の用語解説「AS」から抜粋)

(注5) モダリティー(Modality)とは数値/画像/テキスト/音声など複数種類のデータの組み合わせをいう。

(注6) 輸送現象とは、分子自体の、あるいは分子の運動量・エネルギーの輸送によって生じると考えられる現象。拡散・電流・熱伝導・粘性など。(精選版 日本国語大辞典から抜粋)

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米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

2023-12-22 08:36:20 | AI

 筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」を取り上げた。

 しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。

 また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。

 なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説と併せ読まれたい。

Ⅰ.大統領令(EO: 14110)の具体的内容の解析

  JD Supra, LLCの「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」を要約しつつ仮訳する。

 このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。

 EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家安全保障、重要インフラ、プライバシーの被害から、詐欺、差別、偏見、偽情報への懸念、労働力の追放と競争の抑圧に至るまで、AI の潜在的な誤用に関連する多数の既知のリスクを強調している。

 さらにEOは、イノベーションを促進する必要性と、社会的危害から保護し、AI の安全で確実な開発と使用を確保するための効果的なガードレールを構築する必要性との間のバランスをとるように設計された一連の原則、基準、優先事項の推進を緊急に求めている。

 おそらく、短期的にこのEOの最も重要な要素は、連邦商務省が2024129日(つまり、20231030日の命令から90日以内)までに導入するという要件であり、民間部門の開発者に対する報告要件を拘束するものである。 AI レッドチーム・テスト(AI red-team testing)(注1)におけるモデルのパフォーマンスの結果を連邦商務省に報告するための最も強力な AI モデルの開発を求めるものである。

  また、連邦商務省は、悪意のある用途に使用される可能性のある潜在的な機能を備えた AI モデルに関して、サイバーを活用した活動につき外国人との特定の取引に関する規則案を発行する必要がある。

 重要な点は、このEOの中核原則の 1 つは、AI が世界的なテクノロジーであり、国際同盟国と協力して AI のリスクを管理し、その利点を最大限に発揮するための枠組みを開発する強い必要性があることを認識していることである。

 事実、米国は、時間をかけてより世界的な枠組みを構築する取り組みにおいて他国と協力しながら、独自の初期基準と保護措置を開拓することでリーダーシップの役割を果たそうとしている。ただし、よりグローバルなアプローチで牽引力を達成できるかどうかは不明である。

 現在、米国は特定の国内ルールと基準を採用することで、米国は世界的な AI ルールを奨励し、具体化しようとしている一方で、AI エコシステムの特定の関係者が米国の AI ガバナンスの影響を避けるために活動をオフショアに移そうとするリスクをある程度想定している。

1.安全で信頼性の高い AI の確保: デュアルユース基盤モデルとは

 このEOの最も注目すべき拘束力のある構成要素の 1 つは、「デュアルユース基盤モデル(dual-use foundation models)」を開発する民間企業に報告要件を課すことである。EOは一般に、このモデルを米国の国防と重要なインフラに重大なリスクをもたらす任務を遂行するため広範なデータで訓練された強力な自己監視型 AI と定義している。 (EOセクション 3(k)参照)

 より具体的には、このEOに基づき、連邦商務省は、2024 1 29 日までに、二重用途の基礎モデル(dual-use foundation models)(筆者ブログ(注5)参照)の開発を計画している企業に対し、連邦政府に以下の項目につき情報、報告書、または記録を継続的に提供することを義務付けなければならない。

① 高度な脅威に対するそのようなトレーニングの完全性を保証するために講じられる物理的およびサイバーやセキュリティ保護を含む、そのような二重用途の基礎モデルのトレーニング、開発、または生産に関連する進行中または計画中の活動内容。

② そのような二重用途の基礎モデルの重要性の所有権と保有、およびそれらのモデルの重要性を保護するために講じられた物理的およびサイバー・セキュリティ対策。

  NIST によって開発されたガイダンスに基づく、関連する AI レッドチーム ・テストにおけるかかるモデルの実績の結果、およびそのような NIST ガイダンスの開発前に、特定の種類の指定されたリスクに関して企業が実施したレッドチーム・ テストの結果 (例:非国家主体による生物兵器の開発、取得、使用への参入障壁の低下、ソフトウェアの脆弱性の発見、現実または仮想のイベントに影響を与えるソフトウェアまたはツールの使用、自己複製または伝播の可能性、および安全目標を達成するための関連措置)。 (セクション4.2(a)参照)

 また連邦商務省は、潜在的に大規模な「コンピューティング・クラスター」(注2)の取得、開発、または所有に関して、そのようなクラスターの存在と場所、各クラスターで利用可能なコンピューターの能力の量を含む、企業、個人またはその他の組織や団体による報告を義務付けなければならない。

 さらに、EOは連邦商務省に対し、米国のサービスとしてのインフラストラクチャー(IaaS(注3)プロバイダー(つまり、米国の大手クラウド・プロバイダー)の一部の取引に関して、外国人、特に IaaS 製品の外国再販業者との取引につき多数の報告義務と関連義務を課す規則案を2024129日までに提案することを求めている。 (セクション4.2(c)参照)

特に、提案されている規則案では、米国の IaaS プロバイダーに次のことを義務付ける。

(1) 外国人がそのようなプロバイダーと取引して、悪意のあるサイバー活動に使用される潜在的な機能を備えた大規模な AI モデルをトレーニングする場合は、商務省長官に報告書を提出する。

(2) 米国 IaaS プロバイダーに対し、米国 IaaS 製品の海外再販業者がその製品を提供することを禁止することを要求する。ただし、再販業者が米国 IaaS プロバイダーに報告書を提出し、そのプロバイダーが商務省に提出する必要がある場合は、この限りではない。 このような規則案がいつ拘束力を持つようになるかはまだ不明であるが、EOが規則案の提案を義務付けているという事実は、それらの規則が2024130日に発効しない可能性が高いことを示している。

 疑いもなく、留保中の商務省規則は本質的に画期的なものとなるであろう。 現時点で以下のいくつかの点に注意することが必要である。

(1) EOは、米国の「改正国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」(注4) (注5)を発動し、大統領に国防と重要インフラの保護に関する一定の権限を与える。 DPA は歴史的に、防衛の優先順位と資源の配分を確立するために、戦時中および平時において散発的に発動されてきた。この制度は、最近の新型コロナウイルス感染症危機において、ワクチンや個人用保護具の開発契約に優先順位を与え、サプライチェーンの問題に対処するために、より広範囲に利用された。

 (2) AI の報告要件を作成するためにここで使用することは、DPA の下では本質的に新しいものであり、DPA は通常、政府の契約履行における優先順位を作成するために使用される。これと 対照的に、ここに関与している企業は主に政府による利用ではなく、民間部門向けに AI を開発している。 それにもかかわらず、DPA は範囲が広く、連邦裁判所は実際にはそのような国家安全保障法の範囲を狭く解釈することを好まない。さらに、他の連邦法もそのような報告要件をサポートする可能性があり、連邦議会は現在、AI に関する法的枠組みの再構築に取り組んでいる。

(3) 連邦商務省が報告要件を発行したら、企業等はその全範囲と適用について綿密に検討する必要がある。「企業」やさまざまな「外国法人」の対象範囲に関する多数の定義により、米国企業によるオフショア AI 開発に適用されるかどうか、米国で AI モデルの開発を請け負う外国企業が要件の対象となるかどうかなどが決められることになる。

(4) 重要な点は、今回のEOには、新しい報告要件(セクション4.2(b)参照)の対象となる AI モデルおよびクラスターの技術的条件の重要な初期定義がいくつか含まれており、連邦商務省が規則を定義して定期的に更新するまで、これらの初期の事実上のそのような独自のセット標準を使用するよう指示していることである。

(5) AI モデルの基準点としての指定された一定量のコンピューティング能力の定義は特に注目に値し、AI モデルが世界中で広く利用可能になり、より強力になるにつれて、時間の経過とともに進化することが予想される。この種の定量的基準は、コンピューターの輸出規制の導入のために商務省が長年採用してきた基準を彷彿とさせる。

(6) 最後に、広範なレッドチーム・テストの「結果」を企業に提出させるという要件は、間違いなくそのような材料を本質的に非常に独占的なものと見なす企業の敏感さを高めるであろう。 あきらかに商務省は、そのような情報の機密性を維持し、連邦政府内での送信を制限するための措置を講じることを検討する必要があろう。 (セクション4.2(a)(i)(C)参照)

 2.AI テクノロジーの安全性とセキュリティの確保

 米国人の安全とセキュリティを保護することを目的として、EOのこのセクションでは、以下のとおり、AI の使用と開発の保護に数十の省庁が関与する広範な要件を定めている。

① ガイドラインと基準の策定 : このEOは、安全、安心、信頼できる AI システムのためのガイドラインと最良実践を確立するよう、NIST を通じて行動すべく商務省長官に任務を与える。 また商務省は、サイバー・セキュリティやバイオ・セキュリティの分野など、AI が害を及ぼす可能性のある機能に焦点を当てて、AI の機能を監査および評価するためのガイダンスとベンチマークを開発する必要がある。 この取り組みの一環として、NIST は、ここで要約した AI リスク管理フレームワークと安全なソフトウェア開発フレームワークに付随するリソースを開発するよう指示されている。(注6) (セクシヨン1参照)

② 化学的、生物学的、放射線学的または核のリスク (Chemical, Biological, Radiological or Nuclear Risks :CBRN) :

 AI が生物兵器などの CBRN の脅威を促進するために悪用されるリスクをより深く理解し、軽減するために、エネルギー省は連邦政府内の幅広い専門家と協議するよう指示されている。 政府および民間の AI 研究所、学界、第三者は、CBRN 脅威の開発に AI が悪用される可能性を評価し、これらの脅威に対抗するための AI の適用を検討し、EO発令の180 日以内に大統領に報告書を提出せねばならない。 (セクション 4.4参照)

③ サイバー・セキュリティと重要インフラ: このEOは、重要インフラに対する権限を持つ各機関の長に対し、AI の使用により重要インフラがより脆弱になるかどうかなど、重要インフラでの AI の使用に関連する潜在的なリスクすなわち障害、物理的攻撃、サイバー攻撃等の評価を 国土安全保障省(DHS) に提供するよう指示している。 また独立機関もこの取り組みに貢献することが奨励されている。

 またDHS は、インフラストラクチャの所有者および運用者が使用するためのセキュリティ・ガイドラインを開発する必要があり、DHS は関連機関の長と協力して、必要に応じて規制またはその他の措置を通じてそのようなガイドラインを義務付ける措置を講じる必要がある。 さらに、国防総省と国土安全保障省(DHS)は、米国政府の重要なソフトウェア、システム、ネットワークの脆弱性を発見して修復するために、大規模な言語モデルなどの AI システムをテストする運用パイロット・プロジェクトを実施する必要がある。 (セクション 4.3参照)

④ AI によって作成または変更された合成コンテンツ(Synthetic Content Created or Modified by AI )(注7) AI システムによって生成された合成コンテンツに対する透明性を向上させ、社会の信頼を高めるため、またデジタル・ コンテンツの信頼性と出所を確立するために、EOは商務省に①コンテンツの認証、②その出所の追跡、および③透かしの使用などの合成コンテンツの検出とラベル付けの実践につき標準、ツール、手法を特定することを義務付けている。 (セクション5参照)

⑤ プライバシーの保護: AI によって潜在的に悪化するプライバシー・ リスクを軽減し、個人情報やデータの悪用を防ぐために、EOは 連邦予算管理局(OMB) 局長に対し、政府機関が入手する市販情報 (commercially available information :CAI) の種類、特にデータから入手した CAI を評価する任務を課している。 また、連邦機関等に潜在的なガイダンスを通知するために、CAI がどのように収集、使用、配布、廃棄されるかを評価する。 政府機関が 「2002 年電子政府法(E-Government Act of 2002)」におけるプライバシー条項をどのように実施するかに関する現在のガイダンスの改訂に関する意見を求める情報要求依頼文書 (RFI) を発行する必要がある。連邦政府機関はプライバシー強化テクノロジーの有効性を評価する必要があり、エネルギー省長官はプライバシー研究とプライバシー強化技術に取り組む研究調整ネットワークを創設するという指示を受ける必要がある。 (セクション9参照)

3.労働者のサポート

 AI の機能が進化するにつれ、AI 関連の労働力の混乱に対する懸念が高まっている。このEOは、大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisers)(注8)に対し、AIが労働市場に及ぼす影響についてEO発令後180日以内に大統領への報告書を作成するよう命じている。

 一方、労働省長官は、AI関連の労働力の混乱に対処するために連邦政府がとるべき必要な措置を評価し、AIの導入によって職を追われた労働者を支援する政府機関の能力を分析した報告書を大統領に提出するよう指示されている。この報告書は、失業保険など、雇用の混乱に直面している労働者を支援するために設計された現在および以前の連邦プログラムが、将来起こり得るAI関連の混乱に対処し、潜在的な法的措置に対処するためにどのように利用できるかを評価する必要がある。

 EOはさらに、労働省長官が労働組合や労働者と協議して、雇用主が従業員の健康に対するAIの潜在的な弊害を軽減するために使用できる諸原則と最良実践を開発し、公表することを求めている。

 この 諸原則と最良実践は、とりわけ、透明性、仕事への従事、管理、労働者保護法で保護される活動など、雇用主による労働者に関するデータの AI 関連収集と使用が労働者に及ぼす影響をカバーする必要がある。またEOは、労働省長官に対し、AIによって業務が監視または強化されている従業員に対し、労働時間に対する報酬を確実に支払うことを保証することを義務付けている。 (セクション6参照)

4.公平性と公民権の推進:

 AI の無責任な使用がいかに違法な差別やその他の危害につながる可能性があるかを示す強力な証拠があることを受けて、EOは司法省長官に対し、刑事司法制度における AI の使用に関する報告書を大統領に提出することを義務付けている。

 また、量刑(sentencing)、仮釈放(parole)、保釈(bail)、警察の監視(police surveillance)、刑務所の管理ツール(prison-management tools)、法医学分析(forensics)などの分野での AI の使用に関するベスト プラクティス、保護措置、および適切な制限を推奨している。

 政府機関は、アルゴリズムによる差別を含む、自動化システムの使用における差別を防止し、対処するために、公民権および自由人権局および当局を活用するよう指示されている。 EOは連邦保健福祉省 (HHS)に対し、不当な拒否を評価するため、(ⅰ)州や地方自治体による公共利益の分配におけるアルゴリズム・システムの使用、(ⅱ)人間の審査員に拒否を訴えるプロセス、そして(ⅲ)アルゴリズム・システムが公平かつ公正な結果を達成するかどうかに対処する計画を公表するよう求めている。 (セクション7参照)

5.イノベーションと競争の促進

 AI人材を米国に誘致するため、EOは国務省長官とDHSに対し、ビザ手続きを合理化し、海外で人材を見つけるプログラムを作成し、AIとその他の重要なテクノロジーや新興テクノロジーにより専門家の移民への経路を近代化する政策変更を開始するよう指示している。

  またEOは、国家科学財団(NSF) に対して、AI 関連の研究リソースとツールを作成および配布することにより、国家 AI 研究リソースを実装するパイロット プログラムを開始するよう指示している。 労働省長官は、資格のある候補者を必要とする AI および STEM(science, technology, engineering and math :STEM) の仕事に関する情報を要求する RFI を公開するよう指示している。 (セクション 5.2(a)(i)参照)

 その他の規定には以下が含まれる

① 国立AI研究機関と機能機関の創設: NSF は、AI 関連業務専用の NSF 地域イノベーション エンジンを 1 つと、少なくとも 4 つの新しい国立 AI 研究機関を設立し、エネルギー省と協力して科学者向けの訓練プログラムを強化し、2025 年までに 500 人の新しいAI研究者を訓練することを期待している。 (セクション2(a)(ii)-(iii)、(b)参照)(注9)

② 気候変動の緩和 : エネルギー省長官NISTリリース、AI が電力網の計画、投資、運用を改善する方法に関する報告書を発表するよう指示している (セクション2(g)参照)

③ 特許と商標 米国連邦特許商標庁(US Patent and Trademark Office)に、発明のプロセスにおける発明者の地位(inventorship)シップおよび生成 AI を含む AI の使用に対処する特許審査官および出願人向けのガイダンスを発行するよう指示する。 (セクション2(c)(i)参照)

④ 著作権 : 米国連邦著作権局(US Copyright Office)は、AI を使用して制作された作品の保護範囲と AI トレーニングにおける著作権で保護された作品の扱いに対処するため著作権と AI に関連する潜在的な行政措置について大統領へ勧告を作成するよう指示されている。 (セクション2(c)(iii)参照)

6.連邦政府による AI の利用の推進

  AI には、政府機関の成果を出す能力を向上させる可能性がある。 EOは、政府機関による AI の効果的かつ適切な使用を強化し、AI によるリスクを管理するためのガイダンスを作成するための省庁間評議会を組織するよう OMB 長官に指示することにより、連邦政府全体での AI の調整された使用を推進させようとしている。

 各政府機関は、自機関による AI の使用を調整し、人々の権利や安全に影響を与える AI の使用に必要なリスク管理慣行を実装するために、最高AI責任者(Chief Artificial Intelligence Officer)を任命する必要がある。

 また、「生成型 AI 」の責任ある安全な使用を推進するため、政府機関は、特定のリスク評価とガイドラインに基づく特定の生成型 AI サービスへのアクセスの制限、トレーニング、適切な利用規約の交渉など、適切な保護措置、ベンダー措置を講じる必要がある。 さらにEOは、連邦政府に対し、連邦機関の優秀な AI 人材を増やすよう指示している。 (セクション10参照)

7.消費者、医療患者、学生:

 EOは、効率的な方法でリソースへのアクセスと手頃な価格を強化し、詐欺や差別から国民を守る方法で、福祉サービス、医療、教育分野における AI の開発と使用させること義務付けている。独立規制機関は、その裁量により、詐欺や差別から消費者を保護するために追加の措置を講じることも奨励されている。(セクション8参照)

8.海外における米国のAIリーダーシップの強化

 AIの課題と可能性に対処する世界的な取り組みにおける米国のリーダーシップを強化するため、国務省長官は、国際同盟国やパートナー国を奨励するなど、リスクを管理しAIの利点を活用するための強力な国際枠組みを確立する取り組みや米国企業が行っているものと同様の自主的な取り組みをサポートするよう指示している。

 また、商務省長官は、AI 開発のための責任ある世界的な技術基準を推進し、世界的な関与の計画を確立するよう指示されている。 重要インフラに対する世界的な AI リスクに対処するため、DHS は、重要インフラ システムへの AI の組み込みや AI の悪意のある使用によって生じる潜在的な重要インフラの混乱に対応し、回復する能力を強化するため、国際同盟国やパートナー国との取り組みを主導するよう命じられている。

Ⅱ.米国商務省の国立標準技術研究所 (NIST) 20231030日の大統領令(EO: Executive Order 14110)に基づく責任の履行を支援するため発出された「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の意義と概要

 12月19日、筆者の手元に届いたNISTリリースは、米国商務省の国立標準技術研究所 (NIST) は、人工知能(AI)の安全、安心、信頼できる開発と使用に関する2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)に基づく責任の履行を支援するため情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) ) (注10) 202422日を期限として発布したという内容であった。

 以下で、補足しながら仮訳する。

 同大統領令(EO:14110)は、NIST に対し、①評価やレッドチーム演習(red-teaming)に関するガイドラインを作成すること、②コンセンサスに基づく標準の開発を促進すること、さらに③AIシステムを評価するためのテスト環境を提供するよう指示している。これらのNISTガイドラインとインフラストラクチャは、AI コミュニティが安全かつ信頼できる AI の開発と責任ある使用を支援するリソースとなる。

 米国商務省長官ジーナ・M・ライモンド(Gina M. Raimondo)は「バイデン大統領はAIは我々の世代を決定づけるテクノロジーであり、私たちはAIのリスクから人々を守りながら、AIの力を永久に活用する義務があると明確に述べている。今回の大統領令の一環として、商務省は産業界、学界、市民社会などからフィードバックを求めており、米国が責任ある分野で世界をリードし続けることを可能にするAIの安全性、セキュリティ、信頼性に関する業界標準を開発できるようにする。 この急速に進化する技術の開発と利用を目指している」と述べた。

Gina M. Raimondo 氏

 NIST情報提供依頼文書(RFI)への回答は、AI テクノロジーに関連する機能を評価し、大統領令で要求されているさまざまなガイドラインを開発する NIST の取り組みをサポートする。 RFI は特に、AI のレッドチームの組成、生成型 AI のリスク管理、合成コンテンツのリスクの軽減、AI 開発のための責任ある世界的な技術標準の推進に関連する情報を求めている。

 標準技術次官兼NIST所長のローリー・E・ロカシオ(Laurie E. Locascio)は、「大統領令に定められた目標に向けて取り組みを開始する中で、AIの測定と評価についての理解を進めるためにコミュニティとの関わりを強化することを楽しみにしている。私は、AI の安全性と信頼性の測定と実践を進めるために、この情報リクエストを通じて、より広範な AI コミュニティにNISTの有能で献身的なチームとの連携を呼びかけたいと考えている。 われわれの生活の非常に多くの分野に影響を与える可能性のある AI について、強力かつ公平な科学的理解を確立するためには、あらゆる視点を収集することが不可欠である」と述べた。

Laurie E. Locascio氏

 サイバー・セキュリティとプライバシー、合成核酸配列決定(synthetic nucleic acid sequencing) および最小限のリスク管理慣行の支援機関による実施に関連する大統領令における NIST へのその他の割り当ては、この RFI とは別に扱われる。 大統領令に基づく NIST の任務と計画に関する情報、および一般からの意見を求めるさらなる機会については、NIST の Web サイトを参照されたい。

*******************************************************

(注1) レッドチーム(red team)とは、ある組織・団体等のセキュリティの脆弱性を検証するためなどの目的で設置された、その組織とは独立したチームのことで、対象組織に敵対したり、攻撃したりといった役割を担う。主に、サイバー・セキュリティ、空港セキュリティ、軍隊、または諜報機関などにおいて使用される。レッドチームは、常に固定された方法で問題解決を図るような保守的な構造の組織に対して、特に有効である。(Wikipedia から抜粋)

(注2) 「大規模コンピューティング・クラスタ(large-scale computing cluster)」は、EOの下では定義されていない。しかし、EOのセクション4.2(b)では、「デュアル-ユース基盤モデル(dual-use foundation model)」および「大規模コンピューティング・クラスタ(large-scale computing cluster)」の技術的条件が、近日中に提示されることが明らかになっている。しかし、EOのセクション4.2(b)では、そのような技術的条件が定義されるまでは、商務長官(Secretary of Commerce)は、以下の報告要件の遵守を要求しなければいけないことも明確にしている。(i) 1026の整数演算または浮動小数点演算を超える計算能力を用いて学習されたモデル、または主に生物学的配列データを使用し、1023の整数演算または浮動小数点演算を超える計算能力を用いて学習されたモデル;および(ii) 単一のデータセンターに物理的に同居するマシンのセットを有し、100 Gbit/s以上のデータ・センター・ネットワーキングによって推移的に接続され、AIの学習用に毎秒1020の整数演算または浮動小数点演算を行う理論上の最大計算能力を有するコンピュータ・クラスターである。(Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの解説から抜粋)

(注3) サービスとしてのインフラストラクチャ、または略してIaaSは、クラウドコンピューティング・ベンダーが顧客に代わってインフラストラクチャをホストする場合です。ベンダーは、インフラストラクチャを「クラウド」でホストします。–つまり、さまざまなデータセンターでホストします。顧客はインターネット経由でこのクラウドインフラストラクチャにアクセスします。Webアプリケーションの構築とホスト、データの保存、ビジネスロジックの実行、または従来のオンプレミスインフラストラクチャで実行できる他のすべての操作に使用できます。しかし、多くの場合、より柔軟性があります。

クラウドコンピューティングの主要なモデルとは?

クラウドコンピューティングの3つの主要なサービスモデルは次のとおり。

①サービスとしてのインフラストラクチャ(IaaS

②サービスとしてのプラットフォーム(PaaS

③サービスとしてのソフトウェア(SaaS

(CLOUDFRARE解説から抜粋)

(注4) 「国防生産法」は、国防に必要な資材やサービスの供給に関して、大統領に国内産業界を統制できる権限を与えている。最近でも、トランプ前政権が新型コロナウイルス感染拡大を受けて、国内自動車メーカーなどに人工呼吸器の生産を要請するなどの活用例がある。バイデン大統領は3月31日に石油戦略備蓄の追加放出(2022年4月1日記事参照)を発表した会見で、国防生産法の活用にも触れた。大統領は「電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの貯蓄をする蓄電池に使われるリチウムやグラファイト、ニッケルなど重要鉱物の国内サプライチェーンを確保するため、国防生産法を使う。未来の力の源泉を中国やその他の国に長く依存していた時代を終わらせる必要がある」と発言している。

 米国のジョー・バイデン大統領は2022年3月31日、1950年国防生産法に基づいて、国防長官に、大容量蓄電池などに使用するリチウムなど「重要鉱物の国内生産増に向けた取り組みを指示する覚書」に署名した。(JETRO解説から抜粋)

  一方、わが国で「国防生産法」の考えにつき国会議員はどう考えているのか。衆議院議員 高市早苗氏コラム「日本版『国防生産法』検討の必要性」更新日:2021年05月5日)が参考になろう。

(注5) 国防生産法(50 USC Ch. 55: DEFENSE PRODUCTION From Title 50—WAR AND NATIONAL DEFENSE)の原文

(注6) NIST, Secure Software Development Framework, NIST, https://csrc.nist.gov/Projects/ssdf参照。

(注7) Synthetic Content Created or Modified by AI参照。

(注8) アメリカ合衆国大統領に経済政策の助言をする大統領府の機関。第2次世界大戦後の平時における完全雇用の実現を目指し 1946年に制定された雇用法に基づいて設立された。主としてマクロ経済運営,経済情勢について大統領に助言し,予算編成の基礎となる経済見通しを作成する。また毎年,大統領経済報告とともに提出される大統領経済諮問委員会年次報告を作成する。委員長を含めて 3人の委員で構成され,アシスタント・スタッフとして 20人程度の気鋭のエコノミストが起用される。委員長は閣議,経済政策委員会 EPC,国内政策委員会 DPCなどの主要な会議に大統領経済諮問委員会代表として出席する。(「コトバンク」から抜粋)

(注9) 筆者の手元にあるNSFからAIに関するfunding サイト参照。

(注10) RFIはRequest For Informationの略で、日本語では「情報提供依頼」または「情報提供依頼書」と訳されます。 候補となりそうなシステム開発会社に対して、技術情報や製品情報の提供を依頼するための文書 のことを指します。(IT調達ナビ・サイトから抜粋)

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NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義

2023-12-16 16:28:23 | 最新科学・技術問題

  2023.12.12 筆者の手元にNIST(注1)からこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー(differential privacy) (注2)保証評価するためのガイドライン草案」に対するブリックコメントの要請メールが届いた。

 今回のブログは、まず(1)NISTのメールを仮訳するとともに、 (2)大統領令(EO: 14110)の概要・意義にかかるFact Sheetの内容、(3) NIST 特別刊行物 (SP) 800-226 の初期公開草案 (Initial Public Draft :IPD)の概要・意義、(4) 差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案の概要・意義等をまとめる。

 なお、今般のNISTガイドライン草案についてのわが国で本格的解説は、現時点では皆無と思われる。また、2021年12月にスタートした” U.S.-U.K. PETs Prize Challenges”制度やその後の受賞者の動向等についても言及したものもない。今回のブログでは筆者なりに補足説明を加えた。

1.NISTのメールの内容

 注訳付きで以下、仮訳する。

「親愛なる同僚研究者の各位

 NIST 特別刊行物 (SP) 800-226 の初期公開草案 (Initial Public Draft :IPD)、および差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案のリリースを発表できることを嬉しく思う。

 これは、個人の情報がデータセットに表示されるとき、プライバシー・リスクを定量化するプライバシー強化技術である「差分プライバシー保証」に関するものである。 人工知能の安全、安心、信頼できる開発と使用に関するバイデン大統領の大統領令「安全・安心・信頼できる人工知能の開発と利用に関する大統領令」に応え、SP 800-226 は、政策立案者、経営者、製品マネージャー、IT 技術者、ソフトウェア開発者などあらゆる背景を持つ政府機関や実務家を支援することを目的としている。

 これら草案によりエンジニア、データ・ サイエンティスト、研究者、学者は、プライバシー保護の機械学習など、差分プライバシーを導入する際に交わされた約束(およびされなかった約束)を評価する方法をより深く理解できる。さらに、この刊行物で説明されている差分プライバシーやその他の概念を実現する方法を説明する、補足的な対話型ソフトウェア・アーカイブもある。

 この草案へのコメント期間は東部標準時間、2024 1 25 ()午後 11 59 分までである。SP 800-226 およびコメント フォームの詳細については、刊行物ページを参照されたい。」

2.20231030日の大統領令大統領令(EO: 14110)の概要ならびに同EOに基づくNISTの具体的責任

 以下、参照サイトを補充しながら仮訳する。

【参照サイト】

Read the Executive Order Fact Sheet 

Read :the Department of Commerce Announcement

1)大統領令の主要な8つの構成要素

 JETROの大統領令のFact Sheet解説「バイデン米政権、AIの安全性に関する新基準などの大統領令公表」を以下、抜粋、仮訳する。なお、内容としては国際的法律事務所Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの)英文解説「人工知能に関する米大統領令(Executive Order)はアンクル・サム(米政府)だけのものではない:大統領令の主要な要素と民間セクターへの潜在的な影響」訳文が詳しく参考になる。

 ホワイトハウスが10月30日に公開したファクトシートは大統領令の主要な構成要素を8つの項目に分けている。概要は次のとおり。

  1. 安全性とセキュリティーの新基準:商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)は、AIシステムが一般公開される前のテストに厳格な基準を設定する。国土安全保障省(DHS)は、これらの基準を重要インフラ分野に適用し、AI安全保障委員会を設立する。また、国家や経済の安全保障、公衆衛生や安全性に重大なリスクをもたらす基盤モデルを開発する企業に対し、モデルのトレーニングを行う際の政府への通知、テスト結果の政府への共有を義務づける。
  2. 米国民のプライバシー保護:議会に対し、全ての米国民、特に子供のプライバシー保護を強化するため、超党派のデータプライバシー法案を可決するよう求める。また、国立科学財団(NSF)の実施する助成金事業「リサーチ・コーディネーション・ネットワーク」への資金提供を通じ、暗号ツールのような個人のプライバシーを保護する研究や技術を強化する。
  3. 公平性と公民権の推進:AIアルゴリズムが司法、医療、住宅における差別を悪化させるために利用されないよう、家主、連邦政府の各種支援プログラム、連邦政府の請負業者に明確なガイダンスを提供する。また、AIに関連する公民権侵害の調査および起訴の最善方法に関する研修、技術支援、政府機関との調整を通じ、アルゴリズムによる差別に対処する。
  4. 消費者、患者、学生の権利保護:医療面では、AIの責任ある利用と、安価で命を救う薬剤の開発を推進する。また、米国連邦保健福祉省(HHS)は、安全プログラムの確立を通じ、AIが関与する有害、または安全でない医療行為の報告を受け、それを是正するよう行動する。教育面では、AIを活用した教育ツールを導入する教育者を支援するリソースの創出を通じ、教育を変革するAIの可能性を形作る。
  5. 労働者の支援:雇用転換、労働基準、職場の公平性、安全衛生、データ収集に取り組むことで、労働者にとってのAIの弊害を軽減し、利益を最大化するための原則と最善方法を開発する。
  6. イノベーションと競争の促進:研究者や学生がAIデータにアクセスできる「全米AI研究リソース(National Artificial Intelligence Research Resource)」の試験運用を通じ、米国全体の研究を促進する。医療や気候変動など重要分野における助成金を拡大し、米国全体の研究を促進する。
  7. 外国における米国のリーダーシップの促進:国務省は商務省と協力し、国際的な枠組みを構築する取り組みを主導する。国際的なパートナーや標準化団体との重要なAI標準の開発と実装を加速し、技術の安全性、信頼性、相互運用性を確保する。
  8. 政府によるAIの責任ある効果的な利用の保証:政府全体でAI専門家の迅速な採用を加速するとともに、権利と安全を保護するための明確な基準や各省庁がAIを利用する際の明確なガイダンスを発行する。

3.NISTAI時代のプライバシー保護手法の評価に関するガイダンス草案(NIST Offers Draft Guidance on Evaluating a Privacy Protection Technique for the AI Era)

 AIに関する最近の大統領令で詳述されているその任務の1つで進歩を遂げた12月11日の同草案につき、NISTリリースを補足しつつ、仮訳する。

 異なる保護に対する主張を評価するには、異なるプライバシーピラミッドのすべてのコンポーネントを調べる必要がある。そのトップレベルには、プライバシー保証の強さの数値であるイプシロン(ε/epsilon:数学で、零に近い任意の微少量)を含む、プライバシー保護の最も直接的な対策が含まれている。中間レベルには、十分なセキュリティの欠如など、差別的なプライバシー保証を損なう可能性のある要因が含まれ、下位レベルには、データ収集プロセスなどの根本的な要因が含まれる。ピラミッドの各コンポーネントがプライバシーを保護する機能は、その下のコンポーネントによって異なる。

  この微妙な状況は次のとおりである。フィットネス・トラッカー(fitness trackers)(注3)を消費者に販売する企業は、顧客に関する健康データの大規模なデータベースを蓄積している。一方、研究者は、医療診断を改善するためにこの情報へのアクセスを望んでいる。企業はそのような機密の個人情報の共有を懸念しているが、この重要な研究もサポートしたいと考えている。では、研究者は、個人のプライバシーを損なわずに、社会に利益をもたらす可能性のある有用で正確な情報をどのように入手するのか?

 個人データ中心の企業・組織がプライバシーと正確さのこのバランスをとるのを助けることは、国立標準技術研究所(NIST)からの新しい刊行物の目的であり 「差分プライバシー(differential privacy)」と呼ばれる数学的アルゴリズムのタイプである。この差分プライバシーを適用すると、データセット内の個人を明らかにすることなく、データを公開できるのである。

 「差分プライバシー」は、データ分析で使用されるより成熟したプライバシー強化技術(privacy-enhancing technologies: PET)(注4)の1つであるが、一方、標準がないため、効果的に使用することが困難になり、ユーザーに障壁が生じる可能性がある。

 この作業により、NISTは最近のAIに関する大統領令に基づくタスクの1つを実行するようになるとともに プライバシーの違いなどのPETの研究を進める。この大統領令により、NISTはAIを含む差分プライバシー保証の有効性を評価するために、365日以内にガイドラインを作成する必要があった。

 NISTの新しいガイダンス、正式にはタイトル「 NIST Special Publication(SP)800-226初期公開草案および「 差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン」は、 主に他の連邦機関向けに設計されており、誰でも使用できる。すなわち、ソフトウェア開発者からビジネスオーナー、政策立案者まで、すべての人がプライバシーの違いについての主張を理解し、より一貫して考えるのを助けることを目的としている。

 NISTのプライバシーエンジニアリング・プログラムのマネージャーと本ガイダンスの編集者の1人である Naomi Lefkovitz氏は「データセット内の個人を特定できなくても、データとトレンドの分析を公開するために異なるプライバシーを使用できるが、一方、差分プライバシー技術はなお成熟しており、注意すべきリスクがある。今回のNIST刊行物は、組織・団体が差分化されたプライバシー製品を評価し、作成者の主張が正確であるかどうかをよりよく理解するのに役立つことを望む」と述べている。

Naomi Lefkovitz氏

 機械学習モデルをトレーニングするために大きなデータセットに依存しているAIの急速な成長のために、異なるプライバシーと他のPETを理解する必要性が迫っている。過去10年間、研究者たちはこれらのモデルを攻撃し、トレーニングされたデータを再構築することが可能であることを実証してきた。 

個人のプライバシーを保護しながら貴重なデータを確保するにはどうすればよいか? データ主導の世界では、個人を特定できる情報を保護しながらデータを分析する方法について適切な決定を下す必要があるが、差分プライバシーによってそれが可能になった。

 NISTのLefkovitz氏は「機密データである場合は、それを明らかにしたくない。最近学んだ 5.で.後述する「米英PETs賞チャレンジ(U.S.-U.K. PETs Prize Challenges)」では「差分プライバシー」は、モデルがトレーニングされた後の攻撃に対する堅牢なプライバシー保護を提供するためにわれわれが知っている最良の方法であり、すべてのタイプの攻撃を防ぐことはできないが、防御層を追加できる」と語った。

 「差分プライバシー」の考えは、2006年から存在しているが、商業的なプライバシーの差分化ソフトウェアはまだ始まったばかりである。今回の草案刊行に先行して、NISTはブログ・シリーズ(Differential Privacy Blog Series) において ビジネスプロセスの所有者とプライバシー・プログラムの担当者がプライバシー・エンジニアリング・コラボレーション・スペース(NIST’s Privacy Engineering Collaboration Space)においてNISTで利用可能な差別的なプライバシーツールを理解して実装できるように設計された紹介サイトを作成した。

 この新しい刊行物は最初の草案であり、NISTは2024年1月25日に終了する45日間の期間中にそれについてパブリック・コメントを要求している。コメント内容は、2024年後半に公開される最終バージョンで通知される。

 刊行物のタイトルが示すように、差分プライバシー・ソフトウェアメーカーの主張を評価することは困難であった。メーカーが行う可能性のある典型的な約束または保証は、そのソフトウェアが使用された場合、データがデータベースに表示される個人を再識別する試みは失敗することになろう。

 プライバシーの実際の保証を評価するには、複数の要因を理解する必要がある。これは、この著者が“差分プライバシー・ピラミッドでグラフィカルに識別および整理するものです。” ピラミッドの各コンポーネントがプライバシーを保護する能力は、その下のコンポーネントに依存し、異なるプライバシー保護に対する主張を評価するには、ピラミッドのすべてのコンポーネントを調べる必要がある。そのトップレベルには、プライバシー保証の最も直接的な対策が含まれる。中間レベルには、十分なセキュリティの欠如など、差別的なプライバシー保証を損なう可能性のある要因が含まれる。下位レベルには、データ収集プロセスなどの根本的な要因が含まれる。

 Lefkovitz氏によると、この刊行物の主要なポイントの1つは、技術的な専門知識を持たない可能性のあるユーザーがこの技術的なトピックを理解できるようにすることである。また、関係する数学で構成されているが、該当文書にアクセスできるようにすることに焦点を当てており、差分プライバシーを効果的に使用するために、数学の専門家である必要はない」と述べている。

 ガイドライン草案に関するコメントは、2024125日までに提出できる。コメントを提出するには, NIST Webサイトからテンプレートをダウンロードするとともに メールでprivacyeng@nist.govにアクセスする。詳細については、NIST Webサイトで AIに関する大統領令に基づくNISTの責任を参照されたい。

4.NIST 特別刊行物 (SP) 800-226 の初期公開草案 (Initial Public Draft :IPD)の概要と意義

 以下で補足し、仮訳する。

A.概要

 安全、安心、信頼できる人工知能に関する大統領令(EO14110)は、2023年10月30日に発布され、NISTを含む複数の機関に、ガイドラインを作成し、安全で信頼できる開発と人工知能(AI)の使用を推進するための他の措置を講じることを要求するものである。

  同EOは、NISTに安全で信頼できるAIシステムの開発と展開を確実にするのに役立つコンセンサス業界標準化(consensus industry standards)を促進するためのガイドラインと最良実施を開発するように指示した。特にNISTの責務は次のとおりである。

生成AI(generative AI)に焦点を当て、AIリスク管理フレームワーク(AI Risk Management Framework:AI RMF)に合わせた「手引きとなる必携情報源(companion resource)」を開発する。

  2023 年 1 月 26 日にリリースされたこのフレームワークは、情報提供要求、パブリック・コメント用のいくつかの草案、複数のワークショップ、その他の意見を提供する機会を含む、コンセンサス主導の、オープンで透明性のある協力的なプロセスを通じて開発された。これは、他者による AI リスク管理の取り組みに基づいて構築し、連携し、サポートすることを目的としている。

*NIST は、官民セクターと協力して、人工知能 (AI) に関連する個人、組織、社会へのリスクをより適切に管理するためのフレームワーク「AIリスク管理フレームワーク(AI Risk Management Framework:AI RMF)」を開発した。AI RMF は、自主的な使用を目的としており、AI 製品、サービス、システムの設計、開発、使用、評価に信頼性の考慮事項を組み込む能力を向上させることを目的としている。

AI RMFは2部構成であり、前半では「AIに関わるリスクの考え方」や「信頼できるAIシステムの特徴」、後半では「AIシステムのリスクに対処するための実務」が説明されている。主な読者対象は、AIシステムの設計、開発、展開、評価、利用を行う者であり、AIのライフサイクル全体にわたってリスク管理の取り組みを推進するAI関係者(AIアクター)で。(詳細はPwC日本法人の日本語解説を参照されたい)。

② Secure Software Development Frameworkの手引き(必携)情報源(companion resource)を開発して、生成AIと二重用途の基礎モデル(dual-use foundation models)の安全開発プラクティスを組み込む

③ 被害を及ぼす可能性のある機能に焦点を当てて、AI機能を評価および監査するためのガイダンスとベンチマークを作成するための新しいイニシアチブを立ち上げる。

④ 国家安全保障システムのコンポーネントとして使用されるAIを除いて、ガイドラインとプロセス–を確立し、生成AI、特に二重用途の基礎モデル(dual-use foundation models)(注5)の開発を可能にするとともに、 安全で安心、信頼できるシステムを導入するためのAIレッドチーム・テストを実施する。これには、(ⅰ)二重用途の基礎モデルの安全性、セキュリティ、信頼性の評価と管理、およびプライバシー保護機械学習に関連するガイドラインの調整または開発する、(ⅱ) エネルギー省長官(Jennifer M. Granholm)および米国立科学財団(NSF)の理事と連携して、テストベッドなどのテスト環境の可用性を開発および支援し, 安全で安心、信頼できるAIテクノロジーの開発をサポートし、関連するプライバシー強化テクノロジー(privacy-enhancing technologies :PET)((注5)の設計、開発、展開をサポートする。

Jennifer M. Granholm氏

(5)合成核酸配列プロバイダー(synthetic nucleic acid sequence providers)による使用の可能性を考慮して業界および関連する利害関係者と協力して、以下を含む、開発や改良を行う。

(ⅰ)効果的な核酸合成調達スクリーニングのための仕様

(ⅱ)このようなスクリーニングをサポートするための懸念シーケンス データベースを管理するためのセキュリティとアクセス制御を含む最良実施の内容

(ⅲ)効果的なスクリーニングのための技術導入ガイド

(ⅳ) 適合性評価の最良実施とそのメカニズム

(6) アメリカ合衆国行政管理予算局(OMB )長官および国家安全保障担当大統領補佐官への報告書を作成し、以下について既存の基準、ツール、方法、慣行ならびに科学に裏付けられたさらなる基準および技術の開発の可能性を特定する。

(ⅰ)コンテンツの認証とその出所の追跡

(ⅱ)合成コンテンツのラベル付け (透かしなど)

(ⅲ)合成コンテンツの検出

(ⅳ)生成 AI による児童性的虐待素材の作成や現実の個人の同意のない性的関係の画像の作成を防止する

(ⅴ)上記の目的で使用されるテスト・ソフトウェア

(ⅵ)合成コンテンツの監査と保守

(7)AI を含む差分プライバシー保証の有効性を評価するための政府機関向けのガイドラインを作成する。

(8)政府機関による最小限のリスク管理慣行の実施をサポートするためのガイドライン、ツール、慣行を開発する。

(9)AI 関連のコンセンサス標準の開発と実装、協力、情報共有を推進するために、主要な国際パートナーや標準開発組織との調整において商務省長官を支援する。 その後、商務省長官(国務長官および他の連邦政府機関の長と連携して)は、AI 標準を推進および開発するための世界的な関与の計画を確立する。

 これらの取り組みは、NIST AI リスク管理フレームワークと、NIST が主導する米国政府の重要技術および新興技術に関する国家標準戦略(US Government National Standards Strategy for Critical and Emerging Technology)(わが国CRDSの解説参照)に定められた原則に基づいて行われる。

 一部の任務については、NIST が商務省長官に代わって活動する。 NIST は、ガイダンスの一部を作成する際に他の機関と協議する予定であり、同様に、これらの機関のいくつかは、EO に基づく行動を遂行する際に NIST に(直接または商務省長官を通じて)相談するよう指示されている。 NIST への EO タスクのほとんどには 270 日の期限がある。

 NIST は、政府機関との連携に加えて、大統領令(EO: 14110) が求めるガイダンスを作成する際に、民間部門、学界、市民社会とも連携する予定である。 NIST は、これらの分野のいくつかで現在の取り組みを構築し、拡大していく。これには、2023 年 6 月に設立された「生成 AI パブリック ワーキング グループ(Generative AI Public Working Group)」( わが国CRDSの解説が含まれる)

5. U.S.-U.K. PETs Prize Challenges 制度

(1) 英国研究・イノベーション機構(UK Research and InnovationUKRIの概要を述べるとともに、わが国との関連を見ておく。

 わが国「海外動向ユニット」の資料「英国における研究者育成施策の動向」から下図を抜粋する。

 わが国とUKRIの関係は以下のとおりである。

 英国(UKRI)との国際共同研究プログラム(JRP-LEAD with UKRI):本事業は、英国研究・イノベーション機構(UK Research and Innovation, UKRI)との合意により、一国のみでは解決が困難な課題に対して、国際共同研究を実施することで資源の共有や研究設備の共用化等を通じた相乗効果を発揮するとともに、若手研究者等に国際共同研究の機会を提供することを目的として、我が国の大学等の優れた研究者が英国の研究者と協力して行う国際共同研究に要する経費を支援するものです。(日本学術振興会サイト解説から抜粋)

(2) 米国と英国のプライバシー強化技術(PETs)プライズ・チャレンジ制度の概要

① 2021年12月8日付け米国・大統領府・科学技術政策局(OSTP)による標記記事の概要は次のとおりである。

 米国と英国は、プライバシー強化技術(Privacy-enhancing technologies: PETs)の推進に焦点をあてた、イノベーション・プライズ・チャレンジで協力する計画を発表した。この新しい一連の技術は、プライバシーと知的財産を保護しながら、データの力を活用する重要な機会を提供し、国境やセクターを越えて共通の課題を解決することを可能にするものである。

② 2022年11月10日、わが国の研究開発戦略センター(CRDS)(注6)リリース「米国と英国がプライバシー強化技術(PETs)プライズ・チャレンジの第1フェーズ受賞者を発表」の抜粋

 2022年11月10日付、米国立科学財団(NSF)による標記発表の概要から抜粋する。

 76の応募から選ばれた12の受賞論文は、プライバシーを保護する連合学習(federated learning)への最先端のアプローチを提案し、総額15万7,000ドル(約2187万円)の賞金を獲得した。受賞者には、両国の学術機関、グローバルテック企業、スタートアップなどが含まれている。

 11月始めに開始された第2フェーズでは、参加チームが、論文で想定したソリューションを実際に構築する。また規制当局や政府機関に関与し、重要な規制上の原則を維持するためのソリューションの開発について情報を提供する機会も設けられる。第2フェーズの参加者は、総額91万5,000ドル(約1億3千万円)の賞金をかけて競うことになる。

 両国政府はまた、第3フェーズに参加する「レッドチーム」の募集を開始している。レッドチームは第2フェーズで上位のスコアを得たソリューションのプライバシー保護能力を厳格にテストし、最終受賞者が決定されることになる。最高レベルの得点をしたレッドチームには、総額22万5,000ドル(約3195万円)の賞金が授与される。

 本チャレンジの企画は、英国側が英国データ倫理・イノベーションセンター(U.K. Centre for Data ethics and Innovation:CDEI)とイノベートUK(Innovate UK)(注7)、米国側が大統領府科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy:OSTP)、国立標準技術研究所(U.S. National Institute of Standards and Technology:NIST)、および国立科学財団(NSF)が主導している。米国のチャレンジは、NISTとNSFが共同で資金提供し管理している。

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(注1) NISTの正式名称は、National Institute of Standards and Technologyで、日本では米国国立標準技術研究所と呼ばれている。NISTは、1901年に設立された最古の物理科学研究所である。現在は、米国商務省(Department of Commerce:DoC)の傘下の研究機関である。 NISTの成果は、スマート電力網や電子健康記録から原子時計、先進のナノ材料、そしてコンピュータチップまで幅広く、IT業界でもNISTが提供する最新技術、測定技術、技術標準に依存することが多くなってきている。

(注2) 「差分プライバシー」とは、プライバシー保護の手法の1つ。個人データを含むデータベースから統計値などを抽出する際に、その数値に乱数を加えることで正確な値を秘匿する。これにより、抽出したデータと他の外部データを掛け合わせて特定個人のプライバシー情報を取り出すといった「攻撃」からデータを保護できる。

 データベースなどに格納してある元の個人データには手を加えず、データを分析などに使う人がクエリー(問い合わせ)を実行した際に、システム側がクエリーの結果に乱数を加えて返答する仕組みだ。クエリーの結果に加える乱数は、数学的に定義された要件を満たすアルゴリズムに基づいて導き出す。

 抽出したデータに乱数を加えることで、仮にデータを第三者に奪われても、そこから特定の個人に関わる情報を取り出すのは難しくなる。データを外部に公開する場合も、差分プライバシーの手法で乱数を加えることで、公開したデータから特定個人の情報が漏れるリスクを抑えられる。(Kilpatric Townsend & Stockton LLPの和訳解説から一部抜粋)

(注3)フィットネス・トラッカー(fitness trackers)とは、日本語では「活動量計」と訳される。海外では「アクティブトラッカー」と呼ばれることもある。文字通り、歩数や消費カロリー、睡眠時間といった身体活動量を計測し、自動的に記録してくれる端末のこと。病気を予防して健康を維持・増進する目的のために行われる健康管理をサポートする。(「フィットネストラッカーとは?主な機能と製品事例、市場動向」から抜粋)

(注4) PETsPrivacy-enhancing technologiesとは、名前の通りプライバシー保護を強化する技術の総称である。PETsは多岐にわたり、通信経路を隠すためのTor(The Onion Router/Onion Routing)、要素の値や性質を集計結果から精緻に推察され難くする差分プライバシー、情報自体は伝えず情報が満たす性質を暗号学的に証明するゼロ知識証明など、目的や用途に応じて使い分けられている。(NRIセキュア ブログから一部抜粋)

(注5) dual-use foundation modelsの意義から一部抜粋、仮訳する。

バイデン大統領の最近の大統領令から:

「セクション4.6. 広く利用可能なモデルの重みを使用して二重用途の基礎モデルに関する意見を求める。インターネット上に公開される場合など、二重用途の基礎モデルの重みが広く入手可能になると、イノベーションに多大なメリットがもたらされる可能性がある。 広く利用可能な重みを備えたデュアルユース基礎モデルのリスクと潜在的な利点に対処するため、このEO発令の日から 270 日以内に商務長官が代理を務める。」

(注6) 研究開発戦略センター(CRDS)は、わが国の科学技術イノベーション政策に関する調査、分析、提案を中立的な立場に立って行う組織として、平成15年(2003年)7月に、独立行政法人科学技術振興機構(当時の名称)に設置された。

(注7) Innovate UKはイノベーションを目指して研究を行う企業を助成し、英国政府に代わって投資する組織である。英国スウィンドンに2007年設立され、約500人のスタッフが所属する。投資といっても単純に資金の支援だけでなく、さまざまな方向から幅広い支援プログラムが用意されている。(ASCII START UPの解説から一部抜粋)

 なお、筆者は当然のことながらInnovate UKに関する情報源として「英国研究・イノベーション機構(UK Research and Innovation, UKRI)」に登録済であり、ちなみに本日12月16日に筆者が受け取ったニュ―スのタイトルを見ておこう。

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米国の国立衛生研究所(NIH)ニュースが冬場の低体温症の具体的危険性を指摘

2023-12-06 14:26:08 | 最先端の医療情報

ヤマホトトギス

 本格的な寒い冬がきた。筆者の手元に米国の国立衛生研究所(NIH)(注1)月刊「健康ニュース(NIH News in Health )12月号」が届いた。以下、その概要を仮訳する。

 また、そのニュースの筆者であるバジル・エルダダ博士(Basil ELDADAH)(注2)の経歴(Biography)等を読む中で、米国の医師免許や医学博士号の正確な内容やわが国との制度比較にチャレンジしたいと考え、門外漢ではあるが、関連サイトを読んでみた。併せて、仮訳する。

Basil ELDADAH 氏

1.低体温症の危険性とその回避策

冬には寒い気候でも楽しめる機会がたくさんある。しかし、危険な温度をもたらす可能性もある。この季節に屋外に出かける際は、低体温症(hypothermia)などの寒さによる危険から身を守るように注意してほしい。

 「低体温症とは、体の深部温度が華氏95度(摂氏35度)以下に低下することである」とNIHの高齢者問題の専門家であるバジル・エルダダ博士は語る。

 低体温症は、非常に低い温度に長時間さらされると発生することがある。体温が下がりすぎると、初期には明確に思考したり、歩いたり、話したりする能力に影響を与える可能性がある。したがって、低体温症の兆候を見つけたら、迅速に行動することが重要である。

 軽度の低体温症の兆候には、①足や手の冷たさ、②震え、③顔のむくみや腫れ、④皮膚の青白さなどがある。また、⑤眠くなったり、⑥不器用になったり、⑦怒ったり混乱したりすることもある。

  さらに、エルダダ氏は「低体温症が進行すると、①ろれつが回らなくなったり、②歩行困難になったり、③動作がぎこちなくなったり、動きが硬くなったりすることがある。「その後、心拍数が遅くなったり、脈拍が弱くなったり、呼吸が遅くなったり浅くなったりすることがあります。進行した段階では意識を失う可能性もある」と説明する。

 低温にさらされると誰でも低体温症になる可能性がある。他方、特定の要因がリスクを高める。これら要因には、高齢者、若年者、特定の薬剤、および一部の病気が含まれる。すべては体温を調節する体の能力に影響を与える可能性がある。

 さらに糖尿病(diabetes)、心臓病(heart disease)、甲状腺機能低下症(hypothyroidism)(注3)などの特定の病気は、血液循環を損なう可能性があります。この種の病気は年齢とともにより一般的になります。「循環系がうまく機能すると、体温が適切な位置に保たれます」とエルダダ氏は説明する。

 高齢者は他の理由で体温調節が難しい場合もある。加齢に伴い、私たちの体は震えたり、体温を保つための他の内部活動を行う能力が低下する。老化は、体を断熱する皮下の脂肪が減少することも意味する。

 年齢とともにより一般的になる特定の症状も、風邪の危険性を高める可能性があります。パーキンソン病(Parkinson’s disease)(注4)や関節炎(arthritis)により、寒さから抜け出すことが身体的に困難になることがある。認知症(dementia )など、思考や記憶に困難を引き起こす症状のある人は、天候の変化に応じて適切な服装をできない場合がある。

 エルダダ氏は「齢者の場合、寒い環境に軽度にさらされただけでも低体温症を引き起こす可能性があり、夏場はエアコンが非常に低い温度に設定されているため、低体温症になる可能性がある」と述べる。

 しかし、季節的に気温が下がると皆さんも注意が必要となる。すなわち涼しい天候では、単に汗や雨で濡れているだけで低体温症になる可能性がある。

 低体温症を防ぐ最善の方法は、屋内でも屋外でも寒さから身を守ることです。寒い天候で屋外に出なければならない場合は、着るものを束ねてください。そして、室内を暖かく保ち、家を安全な温度に保つことを忘れないでください。寒い季節に安全を保つためのヒントについては、本記事の「賢い選択Wise Choices:Protect Against the Cold」ボックスを参照されたい。

2.米国の医師資格精度の概要

 アメリカでは、4年制大学卒業後に、大学院の4年制医学課程(専門職大学院の課程)を修了するとM.D.( Medical Doctor:医学博士)の学位が得られる。その学位は、米国の医学校によって 4 年間授与され、通常は研修医(residency)*およびフェローシップ(fellowship) プログラム**での継続的な訓練を通じて、卒業生が医師として医学の世界に参入できるよう準備する。

 M.D. (医学博士) の学位を持つ人は医師であるが、M.D. を取得するまでのプロセスは長い。まず、将来の医師は化学、生物学、物理学などの科学に重点を置いて学士号を取得する必要がある。フルタイムの学生の場合、これには通常約 4 年かかる。次のステップは医学部への入学である。最初の 2 年間は前臨床段階と呼ばれ、生理学や病気のプロセスなどの科目に集中して、約 4 年間かかる。次の 2 年間は、免許試験の準備と受験をしながら、専門分野をローテーションする事務職に費やされる。医学部を卒業した後、医師は最長 7 年間の研修プログラムに参加して、選択した専門分野で追加の実務訓練を受けることができる。

*residency( 研修医)という用語は、医師が主治医の監督を受けながら、より経験豊富な医療専門家から実践的なトレーニングを受けるトレーニング段階を指す。この経験により、彼らは独自の実践方法を開発する準備が整う。

米国における研修医は、最初から希望の診療科を決定して研修をスタートさせる。日本の初期研修医が行う複数診療科のローテーションは、医学生のうちにインターンとして済ませるところが大きな違いである。診療科による違いはあるものの、3年~7年間研修医として勤務する。

**fellowship(フェローシップ研修)とは、学生が独立開業するため、または将来完全に資格のある医師になるための準備をするための研修期間を指す。この間、彼らは熟練した医師によって特別な訓練を受け、主治医の指示の下で働く。

 一方、 Ph.D.(Doctor of Philosophy)医学博士号は、M.D.が更に大学院課程を修了すると医学博士号(Ph.D)の称号が得られる。つまり、「M.D.」よりも、「M.D, Ph.D.」の称号を得る方が長期間かかる。(M.D.とPh.D.とは?医学博士の取り方、日本と海外の違いとメリット, What's the Difference Between MD and PhD Degrees?等を参照、仮訳。

 さらに、わが国でもM.D,-Ph.Dプログラムがあり、これは 7 ~ 9 年間続く学習提供プログラムであり、患者と密接に連携するだけでなく、治療プロトコル等知識を向上させるために医学に隣接する領域の研究にも多くの時間を費やす医師および研究者の両方として、臨床および学術のリーダーとなる卒業生を訓練する。すなわち、米国ではMD と PhD を組み合わせた学位プログラム(MD-PhD プログラム)では、医学に関連する分野で M.D .と Ph.D. の両方を取得する機会が学生に提供される。MD-PhD プログラムの卒業生は、多くの場合、医学部、大学、研究機関の教員になる。最終的にどこで働くかに関係なく、M.D.-Ph.D. 候補者は、患者のケアに加えて研究に多くの時間を費やすキャリアを準備している。M.D.とPh.D.のデュアルキャリアは忙しく、やりがいがあり、知識を進歩させ、病気の新しい治療法を開発し、未知の限界を押し広げることで、多くの人々に良いことをする機会を提供する。

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(注1) アメリカ国立衛生研究所( National Institutes of Health、: NIH)は、アメリカ合衆国の連邦保健福祉省(Department of Health and Human Services:HHS)・公衆衛生局( Public Health Service:PHS))の下にあり、1887年に設立された合衆国で最も古い医学研究の拠点機関である。

(注2)バシル・エルダダ( Basil ELDADAH) 氏は、NIHHのDivision of Geriatrics and Clinical Gerontology (DGCG)のSupervisory Medical Officerである。エルダダ博士はジョージタウン大学医学部で医学部医学博士M.D,)と医学博士号( Ph.D )を取得し、その後ジョージタウン大学病院で内科の研修を経て、NIH 臨床センターで自律生理学と神経心臓疾患に重点を置いた臨床薬理学のフェローシップを取得した。 彼は 2006 年から NIA に勤務している。

(注3) 甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの産生・分泌が低下し、耐寒性低下・発汗減少・便秘・浮腫・体重増加・傾眠傾向などの症状を来す疾患である。

本症の病態・予後・治療は、原発性か中枢性かによって大きく異なり、妊娠/出産との関係も重要である。最も多い原因は橋本病(慢性甲状腺炎)による原発性のものであり、その経過は多様である。また薬剤性機能障害が増加している。

診断には遊離サイロキシン(FT4)・甲状腺刺激ホルモン(TSH)測定が必須であるが、測定に至るまでに特徴的症状・徴候や一般検査異常から本症を疑うことが重要である。(12/6から抜粋)。

(注4)パーキンソン病とは、振戦(ふるえ)、動作緩慢、筋強剛(筋固縮)、姿勢保持障害(転びやすいこと)を主な運動症状とする病気で、50歳以上で起こることが多い病気である。まれに40歳以下で起こる方もあり、若年性パーキンソン病と呼んでいる。(NIHの解説)等を参照、仮訳。

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