Financial and Social System of Information Security

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米国FCCの生成AI等の音声通話(AI-Generated Voice Calls)につき「電話消費者保護法」の解釈を巡る宣言的判断とFTCのAIなりすまし等の脅威に対抗する補足的規則制定告示の意義

2024-03-20 16:19:40 | AI

 筆者は米国やEUにおける生成AIの普及に伴う利用範囲の厳格化等につき本ブログで論じてきた。特にEUについては、筆者ブログ「わが国のAI立法の在り方を見据える観点からEUのAI規則案(AI法案:Artificial Intelligence Act)の最終段階を改めて探る(その1)」同(その2完)米国については、筆者ブログ「AI立法 のトレンド: 米国の州法案の発展を概観」「米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容」で詳しく取り上げた。

 その中で2月8日、生成AIまたは事前に録音された音声通話(AI-Generated Voice Calls)についての米国連邦通信委員会(FCC)(注1)の管轄規制法である「電話消費者保護法( TCPA: Telephone Consumer Protection Act of 1991, Pub. L. No. 102-243, 105 Stat. 2394 (1991)」の解釈を巡る宣言的判断の情報を入手した。

  また米国連邦取引委員会(FTC)は、2月15日、AIなりすましの脅威(個人、政府機関、ビジネスになりすますための AI の使用を禁止する規則案)に対抗するFTCの補足的NPR案を提案した。

今回は、2月8日のFCC の宣言的判断(Declaratory rulings)および2月15日のFTCの補足規則制定告示(supplemental Notice of Proposed Rulemaking :SNPR)の概要と意義を述べる。

1.FCC の生成Iによる音声通話(AI-Generated Voice Calls)についてのFCCの管轄規制法である「電話消費者保護法( TCPA: Telephone Consumer Protection Act of 1991)」の解釈を巡る宣言的判断(Declaratory rulings)

(1)Lexblog(AI-Generated Voice Calls: New Tech, Old Rules)の解説

 Lexblogの「生成AIまたは事前に録音された音声通話(AI-Generated Voice Calls)についてのFCCの宣言的判断 (古くて新しい問題解決ルール)について」要約文仮訳する。

 FCCは2024年2月、「人工音声または事前に録音された音声」を含む通話はTCPAによって規制されていると企業に注意を喚起した。そして、FCC は AI が生成した音声は TCPA の規制に該当する一種の「人工」にすぎないと考えていることを明示した。 この発表は、2024年2月初めにFCCが発行した宣言的判断(Declaratory rulings) (注2)の中で行われた。

 留意すべき点は、TCPA( Telephone Consumer Protection Act of 1991, Pub. L. No. 102-243, 105 Stat. 2394 (1991) に基づき、企業は特に次のことを行う必要があるとした点である (特定の例外が適用される場合を除く)。

①人工音声を含む住宅電話や携帯電話への通話については、事前に明示的な同意を得る。

②人工音声を含む住宅電話や携帯電話にマーケティング通話を行う場合は、事前に書面による明示的な同意を得る。

 これらの要件の例外には、通話が緊急通話である場合などが含まれる。

実践すべき点: この宣言的判断はかなりの注目を集めたが、この判断自体は驚くべきことではない。 人工知能によって作成された音声は、その言葉が示すとおり「人工的」であるため、FCC が TCPA の下で音声をそのように考慮することを含めることは理にかなっている。

(2)2月8日のFCCの宣言的判断(全8頁)の要旨部の仮訳

1.人工知能 (AI) テクノロジーが出現し、消費者を望ましくない違法なロボ・コール(robocall)から保護する既存の規制環境に影響を与える中、FCCは本日、消費者は「電話消費者保護法 (TCPA)」に基づいて提供される保護を引き続き受けられることを明らかとする。

  人工音声通信などのコンテンツを生成できる AI テクノロジーは有益であるが、一方、消費者に新たな課題をもたらすこともある(2023.10.23 AIに関する大統領令Executive Order No. 14110, Safe, Secure, and Trustworthy Development and Use of Artificial Intelligence, 88 Fed. Reg. 75191 (Oct. 30, 2023))(詳細は筆者ブログ参照)

  この機会を利用して、FCCはこれらのテクノロジーへの TCPA の適用を明確にする。

2.この宣言的判断において、FCCは、「人工音声または事前に録音された音声」の使用に対する TCPA の制限 (47 CFR § 64.1200 - Delivery restrictions. :47 U.S.C. § 227(b); 47 CFR § 64.1200(a)(1), (3)参照) が、人間の音声を生成する現在の AI テクノロジーを包含していることを確認した。

  その結果として、そのようなテクノロジーを使用する通話は TCPA およびFCCの実施規則に該当するため、緊急目的または免除の場合を除き。そのような通話を開始するには着信側の事前の明示的な同意が必要である。

3.FTC、AIなりすましの脅威に対抗する対策として補足規則制定告示を提案

(1)Lexblog blog 「 FTC、AIなりすましの脅威に対抗する対策規則案を提案の要旨

 2024 年 2 月 15 日、連邦取引委員会は、個人になりすますための AI の使用を禁止する規則案を提案した。これにより、政府および企業のなりすましに対する最近最終化された FTC 規則の保護が拡大される。 FTCは、規則の改正案について意見を求める補足規則制定告示(Notice of Proposed Rulemaking:NPR)(注3)に関するパブリックコメント期間を、連邦官報に掲載されてから60日後に終了すると発表した。

 このFTCの迅速な措置は、ニューハンプシャー州の大統領予備選で投票しないよう有権者に促したバイデン大統領を模倣したAI生成のロボ・コール等への対応である。 FTC委員長のリナ・カーン(Lina M.Khan)氏は、FTCの補足NPRは「AIを利用した個人になりすました詐欺に対処するためのFTCのツールキットを強化する」ための重要なステップであると述べ、悪意のある者が「AIツールを利用して不気味な精度で、より広範な規模と範囲で個人になりすましている」と述べた。

Lina M.Khan 氏

 今回のSNPR は、「州際通商における政府、企業、およびその職員または代理人のなりすましを禁止する」という FTC の新しい規則の保護を拡大する。 (16 CFR Part 461)。 FTCは、この新しい規則により、現在既存の規則が存在しない連邦裁判所にFTC ACT第19条による救済(注4)を申し立てるFTCの能力が促進され、消費者が救済されるまでの時間が短縮されると主張した。

(2)FTCのリリース要旨の仮訳

(A)「FTCがAIによる個人のなりすましに対抗するための新たな消費者保護策を提案」

 連邦取引委員会は、個人のなりすましを禁止する規則制定案の補足通知(SNPR)についてパブリックコメントを求めている。 提案されている規則変更は、本日委員会によって最終決定されている政府および企業のなりすましに関する新しい規則の保護を拡大するものである。

 FTCは、なりすまし詐欺に関する苦情の急増と、消費者やなりすまし個人への被害に対する国民の抗議を考慮してこの措置を講じた。AI 生成のディープフェイク(注5)を含む新興テクノロジーは、この惨状をさらに加速させる恐れがあり、FTC はなりすまし詐欺の検出、阻止、阻止にあらゆるツールを活用することに取り組んでいる。

(Wikipedia:2023年に出回った、元アメリカ大統領のドナルド・トランプが逮捕される様子を描いたディープフェイク画像から引用)

 またFTCは、画像、ビデオ、テキストを作成するAIプラットフォームなどの企業が、使用されていることがわかっている、または知る理由がある商品やサービスを提供することでなりすましを通じて消費者に損害を与えることにつき、改正規則案が違法と宣言すべきかどうかについてコメントを求めている。

 この補足的規則制定告示(SNPR)は、政府および企業のなりすまし規則に関してパブリックコメント期間中に受け取った、個人のなりすましによってもたらされるさらなる脅威と被害を指摘したコメントに応えて発行された。

(B)政府および企業のなりすまし禁止に関する最終規則

FTCサイトから抜粋、仮訳する。

 補足的規則制定告示に加えて、FTC は政府および企業等のなりすまし規制規則を最終決定した。これにより、FTC は企業や政府機関になりすました詐欺師に対抗するための強力なツールを得ることができ、詐欺師に政府や企業のなりすまし詐欺で儲けたお金の法的返還を強制することを目的として連邦裁判所に直接訴訟を起こすことが可能になる。これは、AMGキャピタル・マネジメントLLC対FTC事件における最高裁判所の2021年4月の判決を考慮すると特に重要であり、この判決は、被害を受けた消費者への金銭の返還を被告に要求する政府機関の能力を大幅に制限したものである。

〇規則改正案制定の背景と追加説明

 政府および企業のなりすまし詐欺は近年、消費者に数十億ドルの損害を与えており、2023 年にはどちらのカテゴリーでも FTC への報告が大幅に増加した。今回の規則により、FTC はこれらの詐欺とより効果的に戦うことが認められる。

 たとえば、この規則により、FTC は次のような詐欺師に対して連邦裁判所に直接金銭的救済を求めることが可能になる。

①郵便やオンラインで消費者とコミュニケーションをとる場合、政府の標章(government seals)(注6)や企業のロゴを使用する。

②「.gov」電子メール アドレスのなりすましや、企業名のスペルミスに依存する類似の電子メール アドレスや Web サイトの使用など、政府機関および企業の電子メールおよび Web アドレスのなりすまし。

③政府機関または企業と関係があることがわかっている用語を使用して、政府または企業との関係を誤ってほのめかすこと(例: 裁判所との関係を誤ってほのめかすために「書記官室から電話しています」と述べるなど)。

 最終規則の公表は、2021年12月に発行された規則案の事前告知、2022年9月に発行された規則案の告知、そして2023年5月の非公式公聴会に応じた2回のパブリックコメントを経て行われた。

(3) FTCなりすまし禁止規則案の内容と実務への影響に関する JD SUPRAの解説の要旨を仮訳

 2024 年 2 月 15 日、連邦取引委員会 (FTC) は、政府、企業およびその役員に対する不正ななりすましを禁止する政府および企業のなりすまし規則 (以下「なりすまし禁止規則(Impersonation Rule)」という、こちらから入手可能) を最終決定した。 このなりすまし禁止規則は、連邦最高裁判所がFTC法第13条(b)が同委員会に公平な金銭的救済を与える権限を与えていないという判決を下した前述のAMGキャピタル事件を受けて、FTCが積極的な規則制定政策を継続することを示す最新の指標である。

(A)なりすまし禁止規則は、次の不公平または欺瞞的な行為または慣行として分類される。

①「直接的または暗示的に、実質的かつ虚偽的に政府機関または企業を装う」。

②「直接的または暗示的に、政府機関または企業との提携(支持または後援を含む)を重大に虚偽表示すること」。

 注目すべきことに、なりすまし禁止規則では、禁止されている行為は「重大」かつ「商取引において、または商取引に影響を与える」ものでなければならないと規定していることである。 FTCは、規則案の文言には含まれていないこれらの制限につき、「最終的な規制文書の範囲がFTC法に基づくFTCの権限の範囲と同一であることを十分に明確にしている」と説明し、「 純粋に芸術的または娯楽的な衣装でのなりすましなど、商取引に重要ではない虚偽のなりすましまたは虚偽表示にあたらず、最終規則の対象外である」

(B) 規則案の補足告知(SNPR)の概要と注目すべき事項

〇2月15日、FTC は、なりすまし禁止規則の改正案に対するパブリックコメントを求める規則制定案の補足通知 (SNPR) を発行した。 この改正案は、政府機関や企業だけでなく個人のなりすましを禁止し、なりすましを通じて消費者を欺くために自社の技術が使用されていることを知っている、または知る理由がある企業に第三者責任を課すことになる。

〇SNPRを発表したプレスリリースの中でFTCは、人工知能(AI)が生成するディープフェイクなどの新興テクノロジーがなりすまし詐欺を「加速させる恐れがある」と述べた。 同じプレスリリースの中で、FTC委員長のリナ・カーン氏は、「詐欺師たちはAIツールを利用して、不気味な精度で、より広範囲にわたって個人になりすましている。音声クローンやその他の AI を利用した詐欺が増加しているため、なりすまし詐欺からアメリカ国民を守ることがこれまで以上に重要になっている」 と述べた。政府機関や企業以外の個人へのなりすましを禁止するためになりすまし禁止規則を拡大すれば、FTCはロマンスやその他の家族詐欺を永続させる詐欺師をターゲットにすることが可能になる。

 さらに、規則改正案が条文通りに採択された場合、なりすまし詐欺の「手段と手段」を提供する企業に第三者責任を課すことになる。 カーン氏は、レベッカ・K.スローター(Rebecca Kelly Slaughter)委員とアルバロ・ベドヤ(Alvaro Bedoya)委員とともに、修正案に関する声明を発表し、次のように説明した。

Rebecca Kelly Slaughter 氏

Alvaro Bedoya 氏

 「注目すべきことに、補足的提案では、なりすまし詐欺を実行するための「手段と手段」を提供するあらゆる行為者に責任を拡大することも推奨している。このアプローチでは、たとえば、IRS職員のディープフェイクを生成するように設計されたAIソフトウェアツールが、税金を支払ったかどうかについて人々を騙すために詐欺師によって使用されることを知っていた、または知っていたはずだった開発者は責任が適用されることになる。ツールの違法な使用を阻止するのに最適な立場にある上位の関係者が責任を逃れないようにすることは、責任と能力と制御を一致させるのに役立つ。」

〇さらに詐欺行為を行った個人ではなく、欺瞞的なコンテンツの生成に使用されたプラットフォームを対象とする責任を拡大することは、重大な影響を与えることになる。 FTC は AI に重点を置いているように見えるが、SNPRの文言は、その手段の合法的で合法的な使用にもかかわらず、詐欺行為を行うために使用される可能性のある手段の開発者に対しても第三者責任を負わせることになる。 悪意のある者が携帯電話を使用して被害者に連絡し、AI ソフトウェアを使用して家族になりすまし、被害者に送金やギフトカードの送信を誘導した場合、電話サービスプロバイダー、AI 開発者、および送金サービスがその行為に対して責任を負う必要があるであろうか。 詐FTC によれば、そのような悪用の可能性を知っていれば、その可能性があるという。 事実上、SNPR は、第三者の不正行為に対する保険会社への詐欺行為を促進するために使用される可能性のある製品またはサービスの開発者またはプロバイダーを対象とする。

〇FTCは、改正案は「誠実な個人や企業に新たな負担を課すものではない」と主張しているが、大手小売業者に対して最近提出した訴状の中で、FTCが電話勧誘販売規則(Telemarketing Sales Rule:TSR)における同等の「実質的援助」責任をどのように解釈しているかに注目している。 FTCは、同社が「詐欺や詐欺において送金サービスが果たす役割を知っていた」ため、同社が電話勧誘詐欺に関与した人物に送金サービスを提供することで、電話勧誘詐欺に関連して「実質的な支援」を行ったと主張している。それでも「見て見ぬふりをした」 つまり、FTCは、詐欺師に顧客を騙し取らせた責任を[会社]に負わせているのだ」

〇なりすまし詐欺を行う「手段と手段」を提供する第三者に対する FTC の責任理論が、TSR に基づく第三者責任の理論と同じくらい広範である場合、AI プラットフォームとソフトウェア開発者が自社製品を使用する詐欺師の数に応じその訴訟のツケを負わされる可能性がある。

〇FTC の SNPR には、パブリック コメンターが検討する一連の対象を絞った質問が含まれている。その中には、なりすまし規則に、「商品やサービスが不法になりすますために使用されるという知識や理由を持って商品やサービスを提供することの禁止が含まれるかどうか」が含まれる。「 政府および企業のなりすましに関する取引規制規則の修正案」と題された FTC の SNPR の本文は、ここで見つけることができる。コメントの提出期限は、連邦官報での公表日から 60 日後である。

****************************************************************:

(注1) Declaratory rulings: § 1.2 宣言的判断(コーネル大学ロースクールの解説から、抜粋、仮訳する)

(a) 連邦通信委員会(FCC)は、連邦行政手続法(Administrative Procedure Act)第 5 条 (d) に従って、申し立てまたは自らの申し立てに基づいて、論争を終了するか不確実性を除去する宣言的判断を発行することができる。

(b) 宣言的判断の発行請願が提出された、またはFCCによって割り当てられた局または事務所は、請願内で提起された問題が既存の訴訟に実質的に関連しているかどうかに応じて、そのような請願を既存のまたは現在の訴訟手続きの中で記録すべきである。 その後、局または事務所は、公告を通じて請願書に対するコメントを求める必要がある。局または事務所によって別段の指定がない限り、宣言的判断を求める文書化された請願に対する答弁書(responsive pleadings)(注2)の提出期限は、公告の発表日から 30 日目であり、応答のデフォルトの提出期限はその後 15 日目となる。

(注2)答弁書-回答

コーネル大学ロースクールから引用、仮訳する。

28行政規則集 § 76.9 答弁書- 回答(28 CFR § 76.9 - Responsive pleading—answer)

(a) 回答の提出期限: 被告は、訴状の送達後 30 日以内に回答を提出し、当該問題を管轄する連邦検事に送達しなければならない。

(b) デフォルト。 被申立人が所定の期間内に回答を提出し送達しなかった場合は、申立の申し立てに対して出頭して異議を唱える権利を放棄したものとみなされます。 このような場合、裁判官はデフォルトで判決を下すことができる。

(c) 答えます。 訴状で主張されている重大な事実に異議を唱える被告、または法律問題として判決を受ける権利があると主張する被告は、書面で回答を提出しなければならない。

(1) 答弁書には、それぞれの積極的抗弁を裏付ける事実の陳述が含まれるものとする。

(2) 答弁書には、被告が各申し立てを認める、否認する、認めるか否認するための十分な情報を持っていない、または得ることができない、あるいは申し立てに対する答弁は特権によって保護されているという陳述が含まれるものとする。 自己有罪。

(3) 情報が欠如しているという陳述、または申し立てに対する答弁が特権的であるという陳述は、否認の効力を有するものとする。

(4) 否定されなかった申し立ては認められたものとみなされる。

(d) 返信します。 告訴人は、28 CFR 76.10 に従って裁判官がそのように規定した場合には、逮捕された各肯定的弁護に応じた答弁書を提出することができる。

(注3) 規則制定告示 (NPR) は、米国連邦政府機関が規則制定プロセスの一環として規則や規制を追加、削除、または変更したい場合に法律によって発行される公告である。 この告示は米国行政法の重要な部分であり、通常、パブリックコメントを募集するプロセスを作成することで政府を促進する。 この用語は、米国の州レベルでも使用される。(Wikipediaから抜粋、仮訳)

(注4) 3. FTCの行政命令発動後の救済規定仮訳する。

さらに(命令に対するすべての司法審査が完了した後)、FTCは、行政手続きで問題となった行為によって生じた消費者被害について、連邦地方裁判所で被申立人に対して消費者救済を求めることができる。 FTC 法第 19 条に基づくこのような訴訟では、15 U.S.C. 第 57b 条により、FTCは「合理的な人なら、その状況下で[行為が]不正または詐欺的であることを知っていたであろう」ことを証明しなければならない。

(注5)ディープフェイク: 「深層学習(deep learning)」と「偽物(fake)」を組み合わせた混成語。人工知能に基づく画像・映像合成技術を指す。「敵対的生成ネットワーク(GANs)」と呼ばれる機械学習技術を使用して、既存の画像や映像を、ある意図に沿った別の画像または映像に重ね合わせて(スーパーインポーズ)、結合することで生成する。この意図的な映像の結合により、実際には起こっていない出来事に関する偽の映像が生み出されることとなる。

 ディープフェイクは、児童性的虐待コンテンツ(CSAM)、有名人のフェイクポルノ、リベンジポルノ、プロパガンダ、フェイクニュース、デマ、いじめ、詐欺に悪用される可能性があり、広い注目を集めている。(Wikipedia から抜粋)

(注6) FTCの標章

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AI立法 のトレンド: 米国の州法案の発展を概観

2024-02-03 06:35:40 | AI

 筆者は本ブログでAIへの取組につき以下のテーマを取り上げた。

①2023.12.16 「NISTからこのほど公開された『NIST SP 800-226 草案』および『差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案』に対するパブリックコメントの背景と意義」、 ②2023.12.22 「米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST『情報提供依頼文書』の具体的内容」、③2023.12.24 「米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG)の人工知能(AI)に関連する研究および教育提案の提出を積極的に奨励する具体的ガイダンスの発出」である。

 ところで、アトランダムであるが、本ブログにおいて今後、筆者がAI関連で取り上げたいと考えるテーマを以下で挙げる。

(1)米国連邦ベースでのAI規制法案の立法動向、(2) FTC(連邦取引委員会)のAI企業にプライバシーと機密保持の約束を守るよう警告ならびに商品先物取引委員会(CFTC)の顧客宛て勧告:人工知能詐欺に注意するよう警告、(3)EUの取組み(A European approach to excellence in AI; A European approach to trust in AI; European proposal for a legal framework on AI; Important milestonesの概観や欧州委員会独自の取組み(3)英国の取組みとして2023 年 3 月 29 日付け英国情報コミッショナー局 (ICO)のAI と個人データ保護に関する最新のガイダンスを発表、等である。

〇グローバルな法律事務所: Covington & Burling LLPの律情報プラットフォームLexblog21日付けblogを以下、仮訳する。なお、個別州法案の具体的内容についてはリンク先で直接確認されたい。

 本ブログの著者はYaron Dori、August Gweon、Jayne Ponderである。

Yaron Dori 氏

Jayne Ponder 氏

 米国の政策立案者は、特に州レベルで人工知能(AI)を規制する法案に関心を示し続けている。 連邦議会における包括的な AI 法案と枠組みは大きな注目を集めているが、州議会も AI を規制する独自の取り組みを進めている。

 このブログ投稿では、過去 1 年間に導入された州の AI 法案の主要テーマをまとめている。 新しい州議会が始まり、今後数か月間でさらに活発な活動が見られることが予想される。

(1)通知義務要件(Notice Requirements:): 州の AI 法案の多くは、個人への通知に重点を置いている。 一部の法案では、雇用におけるAIの使用など、個人の権利や機会に影響を与える意思決定のために自動化された意思決定ツールを使用する場合、対象となる事業体に個人に通知するよう義務付けることになる。

 たとえば、コロンビア特別区の「アルゴリズムによる差別停止法」(B 114) では、情報源に関する情報の提供を含め、対象事業体がアルゴリズムによる適格性の決定において個人情報をどのように使用するかについての通知が必要となり、また、「有害な行為」をもたらすアルゴリズムによる適格性の決定の影響を受ける個人に通知する等別途通知が必要となる。

 同様に、マサチューセッツ州の「陰惨な労働環境を防止法」(HB 1873) も同様に、自動意思決定システムを使用する雇用主またはベンダーに対し、システムを導入する前に労働者に通知することを義務付けており、「重大な更新または変更がある場合システムに加えられた変更」には追加の通知を必要とさせる。さらに、他の AI 法案は、AI エコシステム内の事業体間の開示要件に焦点を当てている。たとえば、ワシントン州議会は、自動意思決定ツールの開発者に対し、ツールの「既知の制限」、ツールのプログラムやトレーニングに使用されるデータの種類、およびツールの使用方法やいかにツールの導入者に対する有効性が評価されるか等に関する文書の提供を義務付ける法案 (HB 1951) を検討している。

 (2) AI ツール開発における影響評価(Impact Assessments): 州の AI 法案のもう 1 つの重要なテーマは、AI ツール開発における影響評価の要件に焦点を当てている。 これらの評価の要求規定は、潜在的な差別、プライバシー、正確性への損害を軽減することを目的としている。

 たとえば、バーモント州法案 (HB 114) では、自動化された意思決定ツールを使用する雇用主に対し、雇用関連の意思決定にツールを使用する前にアルゴリズムによる影響評価を実施することが求められている。

 さらに、ワシントン議会で審議中の前記の法案 (HB 1951) では、AI導入者に対し、アルゴリズムによる意思決定の合理的に予見可能なリスクの評価や実施される安全措置等、自動化された意思決定ツールの影響評価を完了することが求めている。

(3)個人の権利保護(Individual Rights): 州議会は、消費者が特定の個人の権利を行使するための要件を AI 法案に盛り込むことも求めている。 たとえば、いくつかの州の AI 法案では、自動化された意思決定に基づく決定を「オプトアウト」したり、そのような決定について「人間による再評価を要求」することで個人の権利を確立する予定である。

 例えば、カリフォルニア州 (AB 331)ニューヨーク州 (AB 7859) は、自動化された意思決定ツールが結果的な問題を解決するために使用されている、またはその制御要因となっている場合に、個人が「代替選択プロセス」を要求できるように AI 導入業者に義務付ける法案を検討している。

  同様に、ニューヨークの AI 権利章典 (S 8209)は、人間による代替を支持して自動システムの使用を「オプトアウトする権利」を個人に与えることにmなっている。

(4)ライセンスと登録制度(Licensing & Registration Regimes): 少数の州議会が AI のライセンスと登録の要件を提案している。 たとえば、ニューヨーク州の高度 AI ライセンス法 (A 8195) では、特定の「高リスクの高度 AI システム」のすべての開発者および運用者に対し、使用前に州にライセンスを申請することが義務付けられている。 他の法案では、AI システムの特定の用途に登録が必要である。 たとえば、イリノイ州議会で導入された修正案 (HB 1002) では、病院が使用する診断アルゴリズムの州による認証が必要になる。

(5)  生成 AI とコンテンツのラベル付け(Generative AI & Content Labeling): 州の AI 法におけるもう 1 つの顕著なテーマは、生成 AI システムによって生成されたコンテンツのラベル付けに焦点を当てていることである。

 たとえば、ロードアイランド州は、生成 AI コンテンツを認証するために「独特の透かし(distinctive watermark)」を要求する法案 (H 6286) を検討している。

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米商品先物取引委員会(CFTC)の顧客宛て勧告:人工知能(AI)詐欺に注意するよう広く国民に警告

2024-01-28 07:42:47 | AI

 米国の証券取引の監督機関であるSECや商品先物取引委員会(CFTC)の顧客教育・支援局 (OCEO)などからAI利用を謳う詐欺行為に対する消費者宛て注意勧告が頻繁に出ている。

 今回のブログは、まず(1)AI詐欺被害に遭わないためには消費者は如何なる点に留意すべきかCFTC勧告の内容を概観し、(2)規制監督機関の設置経緯や法規制、消費者教育の実態を見る、(3) AI詐欺被害に遭わないための具体的手段、方法等(4)わが国ではあまり論じられていないCFTC 顧客保護基金や内部通報に基づく報奨金制度の実態等につき言及する。

1.商品先物取引委員会(CFTC)および同委員会の顧客教育・支援局(OCEO)AI利用を謳う詐欺行為に対する消費者宛て注意勧告

 商品先物取引委員会(CFTC)の顧客教育・支援局(Commodity Futures Trading Commission’s Office of Customer Education and Outreach) (注1)は1月25日、人工知能 (AI) 詐欺について一般の人々に警告する顧客宛て勧告を発行した。 顧客向け情報支援: 今回、AI は取引BOTをマネーマシンに変えない、詐欺師たちがどのように AI テクノロジーの可能性を利用して虚偽の主張で投資家を騙し、資金を不正利用して投資家を騙す詐欺師に資金やその他の資産を引き渡すように誘惑するのかについて説明すべく以下の注意勧告を行った。

 日常生活における AI の使用が増えるにつれ、詐欺師は、ボット(BOT) (注2)(注3)(注4) 、トレード・シグナル(trade signal) (注5)アルゴリズム、暗号資産裁定取引(crypto-asset arbitrage) (注6)アルゴリズム、およびその他の AI 支援テクノロジーを使用して莫大な利益を生み出すことができると主張する。さらにソーシャル・メディア・プラットフォームと「インフルエンサー」の普及により、詐欺師が虚偽の情報を拡散することがますます容易になっている。 今回のCFTC勧告は投資家に対し、詐欺師の高額または収益保証の主張は詐欺の危険信号であり、これらの主張をオンラインで宣伝する見知らぬ人からの勧誘は無視すべきであると警告している。

 OCEO局長のメラニー・T・デヴォー(Melanie T. Devoe)氏は、「AIに関しては、この勧告は投資家に『誇大宣伝に気をつけろ』と告げている。残念なことに、AI は、悪意のある者が疑いを持たない投資家をだますための新たな手段となっている」と述べた。

Melanie T. Devoe氏

 この勧告は、投資家が潜在的な詐欺を特定して回避するのに役立ち、AI テクノロジーは未来を予測できないという注意喚起も含まれている。 また、投資家がトレーディング・ボット(Trading Bot) やトレード・シグナル・プロバイダーに資金を預ける前に、企業やトレーダーの背景を調査するなど、投資家が考慮すべき4つの重要な項目もリストアップしている。

2.商品先物取引委員会(CFTC)の顧客教育・支援局 (OCEO) について

 CTFCサイトの関連箇所を抜粋、以下、仮訳する。

(1)CFTCの概要

 CFTC は、1975 年に先物市場を規制・監督する独立行政機関として活動を開始し、以後 30年以上にわたって、急速に拡大、技術革新を続ける米国の先物市場を規制してきた。CFTC は、不公正取引や不適切な販売・勧誘行為などの違法行為に対して、強力な法執行(enforcement)権限が認められている。

CFTC は、先物業界の自主規制を尊重する立場をとりながらも、市場の効率性や公平性を害し、先物市場の経済的機能を損なうような行為に対しては、厳しい処分を行ってきた。規制と自由のバランスをとりながらの CFTC の活動については、時として規制の緩さを批判される場面があったものの、おおむね肯定的に評価されてきたといえる。

(2)OCEO

 OCEO は、CFTC の顧客保護基金 (Customer Protection Fund:CPF) を創設した金融改革法たる「ドッド・フランク・ウォール街改革および消費者保護法(Dodd Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)」の施行の一環として設立された。 CPFは、内部告発者への報奨金(award)の支払いと、商品取引所法の「顧客が詐欺やその他の違反から身を守ることを目的とした顧客教育活動」の費用を支払うために、CFTCが追加の充当や会計年度の制限なしで利用できる回転基金である。 CFTC は毎年、OCEO の顧客教育活動、内部告発プログラム、CPF に関する年次報告書を連邦議会に提出している。

  OCEO は、効果的な金融教育資料や取り組みの研究開発を通じて、顧客が詐欺や商品取引法違反から身を守るよう支援することに専念している。 OCEO は、個人投資家、トレーダー、業界団体、農業コミュニティへの支援と教育に取り組んでいる また。OCEDは、連邦および州の規制当局、消費者保護団体とも頻繁に提携している。 CFTC の顧客教育資料の完全なリポジトリ(収納物)は、https://www.cftc.gov/LearnAndProtect で閲覧できる。

 顧客およびその他の個人は、www.cftc.gov/complaint に内部告発または苦情を提出することにより、商品取引法規および規制の違反の可能性など、疑わしい活動または情報を法執行部門に報告できる。 内部告発者(whistle blower)は、法執行措置が成功した場合に徴収された金銭制裁の 10 ~ 30 パーセントを受け取る資格がある場合がある。すべての内部告発者に対する報奨金は、CFTC に支払われる金銭制裁によって資金提供される CFTC 顧客保護基金から支払われる。CFTC の内部告発者プログラムの詳細については、www.whistleblower.gov を参照されたい。

3.AI詐欺被害に遭わないためには

 詐欺師は、人工知能 (AI) に対する世間の関心を利用して、不当に高額または保証された収益を約束する自動取引アルゴリズム、取引シグナル戦略、暗号資産取引スキームを一方的に宣伝している。 詐欺師を信じないでほしい。 AI テクノロジーでは、将来や市場の突然の変化を予測することはできない。

 詐欺師らは、AI が作成したアルゴリズムが巨額の利益 (場合によっては数万パーセント) を生み出す、または 100 パーセントの「勝率」を生み出すことができると主張する。 これらの疑わしい主張は、とりわけ、「Bot」として知られる自動的に取引を行うアルゴリズムや、加入者に売買のタイミングにシグナルを提供するアルゴリズムに関して行われている。

 近年、CFTCは、AIを利用して定期的に平均を上回る収益を約束する商品プール、デジタル資産、または「投資プログラム」を運営またはマーケティングすることで、複数の被告が顧客をだまし取ったと主張している。 しかし、これらの約束は虚偽であり、顧客は自動収益機を手に入れる代わりに、数千万ドルを失い、場合によっては、当時約 17 億ドルに相当する 30,000 ビットコイン近くを失った。(注7)

 AI が作成したアルゴリズムが巨額の利益を生み出す可能性があると主張する取引プラットフォームに顧客はその資金を預ける前に、次のことを必ず行う必要がある。

   ① 当該会社やトレーダーの活動実態、背景を精査する。主要人物に対しては、逆画像検索(reverse image search) (注8)を実施し、正確な身元を確認する。

   ②  ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers) (注9)のlookup.icann.orgでドメイン登録時期を確認して、取引 Web サイトのこれまでの履歴を調べる。詐欺ドメイン・チェックにはCTFCの「暗号資産詐欺や外国為替取引ウェブサイト詐欺の 10 の兆候」を参照する。

   ③ 投資前に必ずセカンドオピニオンを受ける。 投資については財務アドバイザー、信頼できる友人、家族に相談されたい。

   ④ 原資産に関連するリスクを理解する。 また、手数料、スプレッド、先物取引にかかるサブスクリプション・コストが利益に与える影響も考慮されたい。

 AI に関する誇大宣伝には、特にソーシャルメディアのインフルエンサーやオンラインで出会った見知らぬ人によって宣伝される場合には注意されたい。 詐欺行為は CFTC および FBI に報告できる。

4.CFTCサイトにおけるAI詐欺ケース・スタディ: ミラー トレーディング インターナショナルのケースの仮訳

(1) CFTCの2023.4.27付けリリースの仮訳

商品先物取引委員会は4月27日、テキサス州西部地区連邦地方裁判所のリー・イェーケル判事が、南アフリカ共和国西ケープ州ステレンボッシュ住民のコーネリアス・ヨハネス・スタインバーグ(Cornelius Johannes Steynberg)に対し、不履行判決と永久差し止め命令を出したと発表した。 この命令は、スタインバーグに対し、詐欺被害者への賠償金として173,3838,372ドル(2566807万円)と、CFTC訴訟で命じられた民事罰金としては最高額となる173,3838,372ドルの民事罰金を支払うよう求めている。 この訴訟は、CFTCの訴訟で告発されたビットコインに関わる最大の詐欺計画でもある。

Cornelius Johannes Steynberg氏

 さらに、この裁判所命令に基づき、スタインバーグ氏は告訴されている商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)に違反する行為への従事、CFTCへの登録、およびCFTC規制の市場での取引を永久に禁止された。

 この命令では、南アフリカ共和国で現在清算中のミラー・トレーディング・インターナショナル・プロプライエタリー・リミテッド(MTI)の創設者兼最高経営責任者(CEO)であるスタインバーグ氏が、①小売外国為替取引に関連した詐欺、コモディティ・プール・オペレーター(CPO)の関連金融業者による詐欺の責任、登録違反、および CPO 規制の不遵守の責任を負うと認定された。

 一方、CFTCは、被害者への資金の支払いを求める裁判所命令は、被告が十分な資金や資産を持っていない可能性があるため、損失を取り戻せない可能性があると警告している。

(2)CFTCの補足解説

 南アフリカ共和国国民のコーネリアス・ヨハネス・スタインバーグ(Cornelius Johannes Steynberg)氏は、約3年間にわたって、いくつかのWebサイトとFacebook、Instagram、YouTubeのアカウントを使用して、少なくとも23,000人から17億ドル(約2516億円)以上のビットコインを盗んだ。

 顧客は、わずか 100 ドルのビットコインで、「暗号資産取引経験は不要」で、少なくとも月間 10 パーセント(または年間 200 パーセント以上)の配当を保証する独自のボット取引プログラムを使用する彼の商品先物基金(commodity pool) (注10)(注11)に購入することができた。  顧客は友人を紹介したり、アフィリエイトマーケティング担当者として働いたりして、紹介ボーナスを受け取ることができた。 また、スタインバーグ氏は、MetaTrader デモ口座を使用して偽の顧客口座と残高を作成した。

 実際には、実際に取引された資金はほとんどなかった。 その代わりに、新しい投資家からの資金の一部を古い投資家への支払いに使用し、残りをスタインバーグが流用するというポンジスキーム-=ねずみ講として運営された。 [CFTC プレスリリース 8549-22および 8696-23を参照。

*************************************************

(注1)下図のCFTCの中核機能図やOCEO等事務局の全体については各参照されたい。

(注2) ボット (ロボット) は、特定のタスクを自動的、または最小限の監視で実行するコンピュータープログラムである。 これらは、通常は人間によって実行される反復的なタスクを自動化するためによく使用される。 取引を自動化するために設計されたボットは、取引ボット(trading Bot)として知られている。 暗号通貨の取引ボットは、デジタル資産の売買を自動化するソフトウェア・プログラムである。 トレーダーに代わって取引戦略を実行し、 市場を24時間365日監視したくないトレーダーにとって役立つ。

 たとえば、特定の暗号通貨資産を監視している暗号資産トレーダーは、最適なエントリーポイント(entry point) (注3)またはエグジット・ポイント(exit point) (注4)を監視している可能性がある。 しかし、仮想通貨市場は年中無休で開かれているため、トレーダーは収益性の高い機会を逃さないようにモニターに釘付けになる必要がある 。 暗号通貨取引ではタイミングがすべてであり、わずかな遅れが重大な損失を引き起こす可能性がある。トレーダーは、市場を常に監視することなく、あらかじめ決められた戦略に基づいて暗号通貨資産を売買するため取引ボットを実装する。

取引ボットは、指定された機能の実行を支援するアルゴリズムを使用してトレーニングされたプログラムである。 これらは、市場データを収集し、取引シグナルを分析し、起こり得るリスクを計算し、投資家の戦略に基づいて取引を実行するように事前にプログラムされている。 彼らのプログラミングにより、資産が過大評価されているか過小評価されているかを判断し、市場にいつ参入または撤退するかを決定することができる。 トレーダーは、取引戦略に基づいて取引ボットをカスタマイズし、すべての作業を任せることができる。

 たとえば、個人は、ビットコインの価格が特定のレベルを下回ったり上回ったりしたときに、ビットコインを売ったり買ったりするように取引ボットを事前にプログラムできる。 ボットは、価格がしきい値を超えて上昇した場合に BTC を売り、事前設定されたレベルを下回った場合に購入する。(Ledger社サイト解説から仮訳

* BOTとは、robotの短縮形・略称で、一定のタスクや処理を自動化するためのアプリケーションやプログラムのこと。次のとおり業界によって意味が異なる。

①利用されるシーン・課題解決型BOT

 インターネット上では様々なシーンでBOTが活用されている。いずれも人間の操作を必要とせず、処理が自動化されている。たとえば、Webサイトでユーザーが入力した質問に対する回答を返してくれる「チャットボット」、インターネットを巡回しWebサイトの情報を収集する検索エンジンの「クローラー」、Twitterで自動ツイートする「Twitter Bot」、仮想通貨の送金や受け取りができる「TipBot」、Appleの「Siri」やGoogleの「Googleアシスタント」などの音声認識と組み合わせたBOTなどがある。

②セキュリティ業界のBOT

 セキュリティ業界では、マルウェア(悪意のあるソフトウェアやコードの総称)の一種をBOTと呼んでおり、特にコンピューターを外部から遠隔操作するコンピューターウイルスを指すことが多い。この場合のBOTはボットウイルスとも言う。(ITreview から抜粋)

(注3) エントリー・ポイントとは、「新規に注文を入れてポジションを保有するタイミング」を指す。

(注4) 「エグジット」は、保有しているポジションを決済して、取引を終了すること。

(注5) トレード・シグナルは、トレーダーに利益を最大化するために売買注文を行うための手掛かりを提供する分析ツールである。さまざまな形のトレード・シグナルが存在し、目標や潜在的な利益は異なる。トレーダーは長い間、取引のリスクを減らすために技術指標としてトレード・シグナルを使用してきた。(CFA InstituteのWallStreetMojoから抜粋、仮訳)

 暗号通貨のトレード・シグナルは、デジタル資産を正確な時点および特定の価格で売買するかどうかの方向性を与える重要なガイドとなる。これらの取引警告、または「シグナル」は、ファンダメンタル分析およびテクニカル分析を使用する経験豊富な取引専門家によって手動で作成されることも、人工知能ベースのボットと数学的アルゴリズムを使用した完全に自動化された方法論を通じて作成されることもできる。(Medium blogから抜粋)

(注6) アービトラージ(Arbitrage)は日本語では「裁定取引」と呼ばれるもので、暗号資産取引所ごとの価格差を利用して、利益をあげる投資手法である。

 暗号資産の場合、各取引所の価格差が大きいほど利益が出やすいので、複数の取引所に口座を開設するケースが多い。複数の取引所のリアルタイムの価格をチェックし、価格差が発生していないかをこまめに確認することが大事であり、取引所ごとの現在価格を一覧表で示してくれるWebサイトもあるが、正確な価格は暗号資産取引所の公式サイトで確認すべきである。(BitTrade blogから抜粋)

(注7) 最近の事例の例については、CFTC プレス リリース 8803-23、8697-23、8621-22、8549-22、8510-22、8493-22、8438-21、8115-20、および 8047-19 を参照されたい ( CFTCのプレスリリースサイト(https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases 参照。

(注8)筆者は実際に逆画像検索(reverse image search)を実行してみた。以下の手順で成功した。

①逆画像検索サイト(https://ettvi.com/ja/reverse-image-search)を開く

②筆者の画像リストの中から米国 Merrick Garland 連邦司法⾧官を選ぶ

③Result Generated Successfully 表示が出る

④検索結果のうち Google Lens で検索した結果

(注9) ICCANは 1998年10月、ドメイン名、IPアドレスなどのインターネット基盤資源を、世界規模で管理・調整するために設立された非営利公益法人である。主な業務は、ドメイン名、IPアドレス、プロトコル・ポート番号、ルート・サーバなどインターネットの基盤資源の世界規模での調整と、これらの技術的業務に関連する方針策定の調整である。(総務省:世界情報通信事情から抜粋)

(注10) コモディティ・プール(commodity  pool)は、先物市場と商品市場を取引するための投資家の拠出を組み合わせた民間の投資構造である。 コモディティ・プール、つまりファンドは、利益の可能性を最大化することを期待して、取引でレバレッジを得る単一の実在物として使用される。 「コモディティ・プール」というタイトルは、全米先物協会 (National Futures Association :NFA)(注11) によって定められた法律用語で「管理先物ファンド」とも呼ばれる。

コモディティ・プール運営者(Commodity Pool Operators)

 企業またはファンドの主要出資者またはパートナーは、コモディティ・プール内の金銭的利益につき責任を負う。 コモディティ・プール運営者は、コモディティ・プール、シンジケート、投資信託、または特に先物取引のための同様のファンドの運営に使用する資金を受け取る。 コモディティ・プールの運営者は、投資家に対し、コモディティ・プールに新たな資金や資本を持ち込むよう勧誘することがよくある。

コモディティ・プール規制当局

 米国のコモディティ・プールは、他の市場活動を規制する証券取引委員会 (SEC) ではなく、商品先物取引委員会 (CFTC) と全米先物協会によって規制されている。

(注11) 全米先物協会は、米国のデリバティブ業界を監督し、革新的で効果的な規制プログラムを提供する業界ベースの独立した自主規制組織である。 NFAはCFTCによって指定された登録先物協会であり、デリバティブ市場の完全性を維持し、投資家を保護し、メンバーが監督義務を果たすことを保証することにコミットしている。

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米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG)の人工知能(AI)に関連する研究および教育提案の提出を積極的に奨励する具体的ガイダンスの発出

2023-12-24 17:49:36 | AI

 筆者は先般2回のブログで、10月30日の大統領令(EO14110)及びNIST等の取組みにつき言及した。特に12月22日ブログ「米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST『情報提供依頼文書』の具体的内容」の中で、EOセクション「5.イノベーションと競争の促進」の箇所でFSAの役割について詳しく言及した。

 これに関し、筆者の手元に12月22日付けでFSAから届いたメール「人工知能の工学研究への資金提供の機会について」は、米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG) は、新興産業としての人工知能に関連する研究および教育提案の提出を積極的に奨励するというものであった。

文部科学省科学技術要覧「各国の科学技術の概要」から抜粋

 今回のブログは、FSA工学局のリリースを解説付きで紹介するものである。

 特に、この分野は極めて多岐にあたるもので単なる訳文では真の取組課題は見えない点に留意されたい。

1.NSFの通知文書の内容

  筆者なりに補足説明しながら仮訳する。

「親愛なる研究者各位へ

 この親愛なる研究者への手紙により、米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG) は、新興産業としての人工知能に関連する研究および教育提案の提出を奨励する。

 人工知能 (AI) は急速に進歩しており、我われの生活を大きく変える可能性がますます実証されている。 NSF と工学局には、これまでAI 研究をサポートしてきた長く豊かな歴史があり、商業から医療、運輸に至るまで、さまざまな分野で今日の AI テクノロジーの広範な使用の基盤を整えている。 NSF の AI ポートフォリオは、AI 理論、アルゴリズム、ロボット工学、人間と AI の相互交流、AI 用の高度なサイバーインフラストラクチャに及ぶほか、神経科学における使用にインスピレーションを得た研究、工学的土木インフラ システム、電力網、インテリジェント統合製造システムの設計とパフォーマンス、 インテリジェント輸送、ロボット工学、その他多くの分野にわたる。

 NSF 工学局は、(ⅰ)国家のニーズに合致した AI 関連の研究と教育活動に投資し、(ⅱ)「2020年国家AIイニチアチブ法(National Artificial Intelligence Initiative Act of 2020:NAIIA))、「2022 年のCHIPS および科学法(CHIPS and Science Act of 2022)」、ホワイトハウスの全体で信頼できる人工知能の開発と使用およびその他の政策指令 (大統領令:EO14110)をサポートしている。 AI 研究に対する連邦政府の主要な資金提供者として、NSF は知識の最前線を押し広げ、人々に利益をもたらし、社会のニーズを満たす AI の画期的な進歩を推進している。(注1)

1.NSF工学局の重要関心事項

 工学局は、次の分野の提案を含む、AI に関連するあらゆる種類の研究および教育提案の提出を奨励している。

①基礎工学分野でのAI 研究: 従来の工学の主題 (動的モデリング(dynamic modeling)、制御システム、材料力学挙動(material behavior)、最適化、情報理論、通信システム、信号処理など) のツールと手法を、理論的なコンピュータ科学、数学、統計学のツールと手法と組み合わせて使用する。その結果、アルゴリズムのパフォーマンス、複雑さ、安全性、セキュリティ、説明可能性、安定性についての理解を深めることができる。

②AI の工学的システムへの応用: 物理ベースのモデルと、複雑な動的環境およびシステム (送電網、化学処理プラント、接続された製造システム、サプライ・ チェーン、ロボット工学、接続された輸送システム、土木など) のデータベースのモデルとの統合 サービス中のインフラストラクチャや極端な危険なイベントなど)をリアルタイムで学習し、意思決定できるようにする。

③スマート・センシング(注2)と分析: (ⅰ)学習と意思決定のためのセンサー、センサーネットワーク、通信を介した分散ソースからのデータの使用、(ⅱ) リアルタイムの意思決定のための新しいハードウェアとソフトウェアを介した新しいエッジ・ コンピューティング機能(注3)の解析である。 考慮すべき事項には、セキュリティ、プライバシー、通信コスト、異種データの処理、異種システム、ネットワーク通信アーキテクチャ、および学習アルゴリズムとアーキテクチャが含まれる。

④電子、磁気、光学ハードウェアへの AI テクノロジーの実装: (ⅰ)バイオからインスピレーションを得たニューラル・アーキテクチャの電子回路実装、(ⅱ) データを処理するための、より高速でエネルギー効率の高いプロセッサー (電子、磁気、光学)の開発、(ⅲ) データの処理と学習のためのハードウェアとソフトウェアの共同設計である。

⑤データのタイプ 別の 音声、画像、およびビデオ データのAI活用: AI を活用した、音声、画像、およびビデオ データの処理、認識、送信のための信号処理および通信テクノロジーの進歩。

➅自律システム(Autonomous systems )(注4)とロボット: 制御システム、機械システム、またはその他のエンジニアリング分野と AI および機械学習との統合である。 アプリケーションには以下の自動輸送が含まれる。 製造、医療、その他のアプリケーション用のロボット開発。 安全で信頼できる人間とロボットの相互作用。

⑦エンジニアリング AI 用のトレーニング・ データの量・質の深化: 安全な操作が主な関心事である、エンジニアリングされたシステムに AI ツールを確実に導入するために必要なトレーニング データの量と質についての理解を深めるための研究が含まれる。

⑧人工材料および生物学的材料の行動理解: AI と機械学習により、複数のスケールおよびモダリティ(注5) (実験、計算、イメージング) からの大規模またはまばらなデータセットを含む、人工材料、生物学的材料、および生体材料の挙動の理解を可能にし、強化する。

⑨輸送現象(transport phenomena)(注6)のモデリング化: AI を活用した流体、微粒子、熱、燃焼、山火事管理のモデリングにより、理解を深め、より正確な新しい物理モデルと解法(solvers)を開発できる可能性がある。

⑩人間と AI のコラボレーション: 機械学習モデルに認知、行動、生理学の原理を組み込んで、AI 対応エージェントと人間が相互作用し、お互いについての知識や期待を生み出す方法を改善する (たとえば、意図の検出、信頼性の構築、または社会的関等)。

⑪医療:身体能力支援およびリハビリテーション技術: リハビリテーション用ロボット工学、スマート義肢および装具、ブレインコンピューターインターフェイス、および高度な AI を活用するその他の技術など、人間の機能的能力または認知のサポート、回復、リハビリテーション、および/または代替のための AI 対応技術 そして機械学習等。

⑫生理学的システムの計算モデルと AI モデル: (ⅰ)AI と機械学習を活用して生理学的システムの検証済みモデルを開発する高度な計算戦略、(ⅱ) 精密な監視と制御のための生物製造プロセスの計算によるコンピュータ化された表現。

⑬AI を活用したバイオイメージング・ テクノロジー: 光学、エレクトロニクス、磁気、化学、AI、および量子テクノロジーの進歩を活用することで、さまざまな規模の生物学的イメージングとモニタリングのパフォーマンスを向上させる革新的な進歩。

⑭製造業における AI アプリケーションのスケーリング: (ⅰ)メーカーのネットワークからデータを調達し、アルゴリズムを構築し、追加データが利用可能になったときにアルゴリズムを更新するための、製造業務に適した AI メソッド、実装ソフトウェア、データ収集とプロトコル開発、 (ⅱ)ネットワーク規模での製造ソリューション向けのデータソーシング、集約、分類、およびサービス配信インフラストラクチャを有効にして展開するための研究。

⑮AIによる民間インフラとインフラ システムの復元力と持続可能性を実現する : (ⅰ)材料、構造、およびシステムのデータ収集、(ⅱ) 構造健全性モニタリングとリアルタイム損傷検出のための AI アルゴリズム、(ⅲ)。最適な持続可能で回復力のあるインフラストラクチャ材料の設計のための AI アプローチ。(ⅳ) 構造物の修理と改修のための AI と自動化。

2.ENG コア・プログラムとその連絡先

 工学局Engineering Directorate: ENG )は、以下にリストされている ENG コア・ プログラムおよび NSF 横断プログラム、およびその他の関連プログラムに AI 関連の提案を提出することを奨励している。 どのプログラムがプロジェクトのアイデアに最も適しているかを判断するために、主任研究者はプログラムの説明を読み、プログラムの担当者に質問することを勧める。

(以下のリストの訳は略す)。

**************************************

(注1) 総務省世界情報通信事情:アメリカ編(5)人工知能(AI)にかかる政策動向から抜粋  

 米国では2016年10月、NSTCとOSTPが中心となって取りまとめた報告書「AIの未来に備えて」が公表され、AIにかかる規制・制度、研究開発、経済・雇用、公正性・安全性、安全保障等について、連邦政府機関等に対する23の提言を行った。また、同月、「米国AI研究開発計画」が公表された。

 2018年5月にはホワイトハウスで「AIサミット」が開催され、①「研究開発」「人材育成」「規制緩和・撤廃」「業界別AI応用の実現」をそれぞれ分科会で議論し、②NSTCの下に、連邦政府全体のAI研究開発における優先事項の勧告等を行う省庁間委員会「AI特別委員会(Select Committee on AI:SCAI)」を設置した。トランプ大統領(当時)は、2019年2月、AIにおける米国のリーダーシップの継続が、米国の経済及び国家安全保障の維持に極めて重要と位置付け、AIの研究開発等を促進する大統領命令(第13859号)に署名。この中で「AIイニシアチブ」を策定した。また、同年6月には「国家AI研究開発戦略計画」を改定し、新たな戦略を策定した。

 NDAA 2019では、国家安全保障・AIについて大統領や議会に助言する独立の連邦機関となる人工知能国家安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence:NSCAI)が新設された。NSCAIは、2020年4月、43の勧告をまとめた第1四半期勧告を公表。議会に対して、非防衛分野におけるAIの研究開発予算増額のほか、AIや5Gにおける米国の優位性を追求し、華為技術に対抗するための方策を提言した。2021年3月には最終報告書を発表し、「AI時代において米国を守る」ことと「テクノロジー競争に勝つ」ことの両面から、60以上の提言を行った。NSCAIは、2021年10月に活動を終了した。

 2020年12月には、連邦政府内での信頼できるAI利用の促進に関する大統領命令(第13960号)が署名され、政府内でのAI利用の更なる原則を規定した。

 2021年1月には、NDAA 2021に盛り込まれる形で、「国家AIイニチアチブ法(National Artificial Intelligence Initiative Act of 2020:NAIIA)」が成立。米国の経済的繁栄と国家安全保障のためにAIの研究と応用を加速させる、連邦政府全体で協調的なプログラムを規定、「国家AIイニシアチブ(National AI Initiative:NAII)」の下、政権内のAIに関する様々な取組みがまとめられた。

 NAIIは、学術界、産業界、非営利団体、市民社会組織と協力し、米国のすべての省庁にまたがるAIの研究、開発、実証、教育活動を強化・調整するための包括的な枠組みを提供する。同法は、大統領に対して、AI研究開発への一貫した支援、AI教育及び人材育成プログラムの支援、学際的AI研究・教育プログラムの支援、連邦省庁間のAI活動の計画・調整、多様なステークホルダーへの働きかけ、既存の連邦投資のイニシアチブ目標推進への活用、学際的AI研究所のネットワーク支援、信頼できるAIシステムのための研究開発や評価、リソースに関する戦略的同盟国との国際協力機会の支援を行うよう指示。NAIIの下での活動は、イノベーション、信頼できるAIの推進、教育・トレーニング、インフラ、アプリケーション、国際協力という六つの戦略的柱で構成される。NAIIの調整は、OSTPの下に設置されるNAII室によって行われ、NAIIの監督は、NSTCの下に設置されているSCAIと、NISTの下に設置される国家AIイニシアチブ諮問委員会(National AI Initiative Advisory Committee:NAIAC)が担当する。NAIACは、AIに関する諸問題について大統領やNAII室等に助言を行う。

 2022年10月、OSTPは、AIの設計・利用の管理に向けた新たな国家的枠組「AI権利章典(AI Bill of Rights)」の青写真を発表した。これは、AIの説明責任を拡大し、公民権の保護を目指す連邦政府の取組みの一環。AI権利章典は、AI技術を開発する際に考慮すべき指針的原則として、①安全で効果的なシステムの作成、②データ・プライバシー、③アルゴリズムによる差別からの保護、④ユーザへの通知と説明、⑤人間による代替手段、の五つを掲げている。

(総務省世界情報通信事情:アメリカ編から一部抜粋、リンクは筆者が行った)

(注2) スマート・センシング(Smart Sensing)とは、光、温度、衝撃の大きさといった情報を検出し数値化する処理機能が組み込まれたセンサ(スマートセンサ)によるセンシング技術の総称です。スマートセンサで計測できる情報の種類は幅広く、基本的に制限を受けないとされており、人間情報(脈拍、体温など)を検知して快適な環境を提供する、健康管理技術への応用が進められている。

 スマートセンシングによるデータ計測は、建築業界、交通機関、農業管理への利用も期待されており、これによりさまざまな分野の安全確保や効率化が進展するといわれている。

(IoT 用語辞典から抜粋)

(注3) エッジ・コンピューティングとは、IoT端末などのデバイスそのものや、その近くに設置されたサーバでデータ処理・分析を行う分散コンピューティングの概念である。クラウドにデータを送らず、エッジ側でデータのクレンジングや処理・分析を行うためリアルタイム性が高く、負荷が分散されることで通信の遅延も起こりにくいという特長を持つ。

 データを集中処理するクラウドに対し、データを分散処理するのがエッジコンピューティングだと言える(softBank「【解説】エッジコンピューティングとは?初心者編」から抜粋)

(注4) 「Autonomous System」の略で、「自律システム」とも呼ばれます。 ASは、 統一された運用ポリシーによって管理されたネットワークの集まりを意味し、 BGPというプロトコルにより接続される単位となります。 AS間で経路情報の交換を行うことにより、 インターネット上での効率的な経路制御を実現します。 通常、規模の大きいISPのネットワークは固有のASを形成しております。(日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の用語解説「AS」から抜粋)

(注5) モダリティー(Modality)とは数値/画像/テキスト/音声など複数種類のデータの組み合わせをいう。

(注6) 輸送現象とは、分子自体の、あるいは分子の運動量・エネルギーの輸送によって生じると考えられる現象。拡散・電流・熱伝導・粘性など。(精選版 日本国語大辞典から抜粋)

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米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

2023-12-22 08:36:20 | AI

 筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」を取り上げた。

 しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。

 また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。

 なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説と併せ読まれたい。

Ⅰ.大統領令(EO: 14110)の具体的内容の解析

  JD Supra, LLCの「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」を要約しつつ仮訳する。

 このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。

 EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家安全保障、重要インフラ、プライバシーの被害から、詐欺、差別、偏見、偽情報への懸念、労働力の追放と競争の抑圧に至るまで、AI の潜在的な誤用に関連する多数の既知のリスクを強調している。

 さらにEOは、イノベーションを促進する必要性と、社会的危害から保護し、AI の安全で確実な開発と使用を確保するための効果的なガードレールを構築する必要性との間のバランスをとるように設計された一連の原則、基準、優先事項の推進を緊急に求めている。

 おそらく、短期的にこのEOの最も重要な要素は、連邦商務省が2024129日(つまり、20231030日の命令から90日以内)までに導入するという要件であり、民間部門の開発者に対する報告要件を拘束するものである。 AI レッドチーム・テスト(AI red-team testing)(注1)におけるモデルのパフォーマンスの結果を連邦商務省に報告するための最も強力な AI モデルの開発を求めるものである。

  また、連邦商務省は、悪意のある用途に使用される可能性のある潜在的な機能を備えた AI モデルに関して、サイバーを活用した活動につき外国人との特定の取引に関する規則案を発行する必要がある。

 重要な点は、このEOの中核原則の 1 つは、AI が世界的なテクノロジーであり、国際同盟国と協力して AI のリスクを管理し、その利点を最大限に発揮するための枠組みを開発する強い必要性があることを認識していることである。

 事実、米国は、時間をかけてより世界的な枠組みを構築する取り組みにおいて他国と協力しながら、独自の初期基準と保護措置を開拓することでリーダーシップの役割を果たそうとしている。ただし、よりグローバルなアプローチで牽引力を達成できるかどうかは不明である。

 現在、米国は特定の国内ルールと基準を採用することで、米国は世界的な AI ルールを奨励し、具体化しようとしている一方で、AI エコシステムの特定の関係者が米国の AI ガバナンスの影響を避けるために活動をオフショアに移そうとするリスクをある程度想定している。

1.安全で信頼性の高い AI の確保: デュアルユース基盤モデルとは

 このEOの最も注目すべき拘束力のある構成要素の 1 つは、「デュアルユース基盤モデル(dual-use foundation models)」を開発する民間企業に報告要件を課すことである。EOは一般に、このモデルを米国の国防と重要なインフラに重大なリスクをもたらす任務を遂行するため広範なデータで訓練された強力な自己監視型 AI と定義している。 (EOセクション 3(k)参照)

 より具体的には、このEOに基づき、連邦商務省は、2024 1 29 日までに、二重用途の基礎モデル(dual-use foundation models)(筆者ブログ(注5)参照)の開発を計画している企業に対し、連邦政府に以下の項目につき情報、報告書、または記録を継続的に提供することを義務付けなければならない。

① 高度な脅威に対するそのようなトレーニングの完全性を保証するために講じられる物理的およびサイバーやセキュリティ保護を含む、そのような二重用途の基礎モデルのトレーニング、開発、または生産に関連する進行中または計画中の活動内容。

② そのような二重用途の基礎モデルの重要性の所有権と保有、およびそれらのモデルの重要性を保護するために講じられた物理的およびサイバー・セキュリティ対策。

  NIST によって開発されたガイダンスに基づく、関連する AI レッドチーム ・テストにおけるかかるモデルの実績の結果、およびそのような NIST ガイダンスの開発前に、特定の種類の指定されたリスクに関して企業が実施したレッドチーム・ テストの結果 (例:非国家主体による生物兵器の開発、取得、使用への参入障壁の低下、ソフトウェアの脆弱性の発見、現実または仮想のイベントに影響を与えるソフトウェアまたはツールの使用、自己複製または伝播の可能性、および安全目標を達成するための関連措置)。 (セクション4.2(a)参照)

 また連邦商務省は、潜在的に大規模な「コンピューティング・クラスター」(注2)の取得、開発、または所有に関して、そのようなクラスターの存在と場所、各クラスターで利用可能なコンピューターの能力の量を含む、企業、個人またはその他の組織や団体による報告を義務付けなければならない。

 さらに、EOは連邦商務省に対し、米国のサービスとしてのインフラストラクチャー(IaaS(注3)プロバイダー(つまり、米国の大手クラウド・プロバイダー)の一部の取引に関して、外国人、特に IaaS 製品の外国再販業者との取引につき多数の報告義務と関連義務を課す規則案を2024129日までに提案することを求めている。 (セクション4.2(c)参照)

特に、提案されている規則案では、米国の IaaS プロバイダーに次のことを義務付ける。

(1) 外国人がそのようなプロバイダーと取引して、悪意のあるサイバー活動に使用される潜在的な機能を備えた大規模な AI モデルをトレーニングする場合は、商務省長官に報告書を提出する。

(2) 米国 IaaS プロバイダーに対し、米国 IaaS 製品の海外再販業者がその製品を提供することを禁止することを要求する。ただし、再販業者が米国 IaaS プロバイダーに報告書を提出し、そのプロバイダーが商務省に提出する必要がある場合は、この限りではない。 このような規則案がいつ拘束力を持つようになるかはまだ不明であるが、EOが規則案の提案を義務付けているという事実は、それらの規則が2024130日に発効しない可能性が高いことを示している。

 疑いもなく、留保中の商務省規則は本質的に画期的なものとなるであろう。 現時点で以下のいくつかの点に注意することが必要である。

(1) EOは、米国の「改正国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」(注4) (注5)を発動し、大統領に国防と重要インフラの保護に関する一定の権限を与える。 DPA は歴史的に、防衛の優先順位と資源の配分を確立するために、戦時中および平時において散発的に発動されてきた。この制度は、最近の新型コロナウイルス感染症危機において、ワクチンや個人用保護具の開発契約に優先順位を与え、サプライチェーンの問題に対処するために、より広範囲に利用された。

 (2) AI の報告要件を作成するためにここで使用することは、DPA の下では本質的に新しいものであり、DPA は通常、政府の契約履行における優先順位を作成するために使用される。これと 対照的に、ここに関与している企業は主に政府による利用ではなく、民間部門向けに AI を開発している。 それにもかかわらず、DPA は範囲が広く、連邦裁判所は実際にはそのような国家安全保障法の範囲を狭く解釈することを好まない。さらに、他の連邦法もそのような報告要件をサポートする可能性があり、連邦議会は現在、AI に関する法的枠組みの再構築に取り組んでいる。

(3) 連邦商務省が報告要件を発行したら、企業等はその全範囲と適用について綿密に検討する必要がある。「企業」やさまざまな「外国法人」の対象範囲に関する多数の定義により、米国企業によるオフショア AI 開発に適用されるかどうか、米国で AI モデルの開発を請け負う外国企業が要件の対象となるかどうかなどが決められることになる。

(4) 重要な点は、今回のEOには、新しい報告要件(セクション4.2(b)参照)の対象となる AI モデルおよびクラスターの技術的条件の重要な初期定義がいくつか含まれており、連邦商務省が規則を定義して定期的に更新するまで、これらの初期の事実上のそのような独自のセット標準を使用するよう指示していることである。

(5) AI モデルの基準点としての指定された一定量のコンピューティング能力の定義は特に注目に値し、AI モデルが世界中で広く利用可能になり、より強力になるにつれて、時間の経過とともに進化することが予想される。この種の定量的基準は、コンピューターの輸出規制の導入のために商務省が長年採用してきた基準を彷彿とさせる。

(6) 最後に、広範なレッドチーム・テストの「結果」を企業に提出させるという要件は、間違いなくそのような材料を本質的に非常に独占的なものと見なす企業の敏感さを高めるであろう。 あきらかに商務省は、そのような情報の機密性を維持し、連邦政府内での送信を制限するための措置を講じることを検討する必要があろう。 (セクション4.2(a)(i)(C)参照)

 2.AI テクノロジーの安全性とセキュリティの確保

 米国人の安全とセキュリティを保護することを目的として、EOのこのセクションでは、以下のとおり、AI の使用と開発の保護に数十の省庁が関与する広範な要件を定めている。

① ガイドラインと基準の策定 : このEOは、安全、安心、信頼できる AI システムのためのガイドラインと最良実践を確立するよう、NIST を通じて行動すべく商務省長官に任務を与える。 また商務省は、サイバー・セキュリティやバイオ・セキュリティの分野など、AI が害を及ぼす可能性のある機能に焦点を当てて、AI の機能を監査および評価するためのガイダンスとベンチマークを開発する必要がある。 この取り組みの一環として、NIST は、ここで要約した AI リスク管理フレームワークと安全なソフトウェア開発フレームワークに付随するリソースを開発するよう指示されている。(注6) (セクシヨン1参照)

② 化学的、生物学的、放射線学的または核のリスク (Chemical, Biological, Radiological or Nuclear Risks :CBRN) :

 AI が生物兵器などの CBRN の脅威を促進するために悪用されるリスクをより深く理解し、軽減するために、エネルギー省は連邦政府内の幅広い専門家と協議するよう指示されている。 政府および民間の AI 研究所、学界、第三者は、CBRN 脅威の開発に AI が悪用される可能性を評価し、これらの脅威に対抗するための AI の適用を検討し、EO発令の180 日以内に大統領に報告書を提出せねばならない。 (セクション 4.4参照)

③ サイバー・セキュリティと重要インフラ: このEOは、重要インフラに対する権限を持つ各機関の長に対し、AI の使用により重要インフラがより脆弱になるかどうかなど、重要インフラでの AI の使用に関連する潜在的なリスクすなわち障害、物理的攻撃、サイバー攻撃等の評価を 国土安全保障省(DHS) に提供するよう指示している。 また独立機関もこの取り組みに貢献することが奨励されている。

 またDHS は、インフラストラクチャの所有者および運用者が使用するためのセキュリティ・ガイドラインを開発する必要があり、DHS は関連機関の長と協力して、必要に応じて規制またはその他の措置を通じてそのようなガイドラインを義務付ける措置を講じる必要がある。 さらに、国防総省と国土安全保障省(DHS)は、米国政府の重要なソフトウェア、システム、ネットワークの脆弱性を発見して修復するために、大規模な言語モデルなどの AI システムをテストする運用パイロット・プロジェクトを実施する必要がある。 (セクション 4.3参照)

④ AI によって作成または変更された合成コンテンツ(Synthetic Content Created or Modified by AI )(注7) AI システムによって生成された合成コンテンツに対する透明性を向上させ、社会の信頼を高めるため、またデジタル・ コンテンツの信頼性と出所を確立するために、EOは商務省に①コンテンツの認証、②その出所の追跡、および③透かしの使用などの合成コンテンツの検出とラベル付けの実践につき標準、ツール、手法を特定することを義務付けている。 (セクション5参照)

⑤ プライバシーの保護: AI によって潜在的に悪化するプライバシー・ リスクを軽減し、個人情報やデータの悪用を防ぐために、EOは 連邦予算管理局(OMB) 局長に対し、政府機関が入手する市販情報 (commercially available information :CAI) の種類、特にデータから入手した CAI を評価する任務を課している。 また、連邦機関等に潜在的なガイダンスを通知するために、CAI がどのように収集、使用、配布、廃棄されるかを評価する。 政府機関が 「2002 年電子政府法(E-Government Act of 2002)」におけるプライバシー条項をどのように実施するかに関する現在のガイダンスの改訂に関する意見を求める情報要求依頼文書 (RFI) を発行する必要がある。連邦政府機関はプライバシー強化テクノロジーの有効性を評価する必要があり、エネルギー省長官はプライバシー研究とプライバシー強化技術に取り組む研究調整ネットワークを創設するという指示を受ける必要がある。 (セクション9参照)

3.労働者のサポート

 AI の機能が進化するにつれ、AI 関連の労働力の混乱に対する懸念が高まっている。このEOは、大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisers)(注8)に対し、AIが労働市場に及ぼす影響についてEO発令後180日以内に大統領への報告書を作成するよう命じている。

 一方、労働省長官は、AI関連の労働力の混乱に対処するために連邦政府がとるべき必要な措置を評価し、AIの導入によって職を追われた労働者を支援する政府機関の能力を分析した報告書を大統領に提出するよう指示されている。この報告書は、失業保険など、雇用の混乱に直面している労働者を支援するために設計された現在および以前の連邦プログラムが、将来起こり得るAI関連の混乱に対処し、潜在的な法的措置に対処するためにどのように利用できるかを評価する必要がある。

 EOはさらに、労働省長官が労働組合や労働者と協議して、雇用主が従業員の健康に対するAIの潜在的な弊害を軽減するために使用できる諸原則と最良実践を開発し、公表することを求めている。

 この 諸原則と最良実践は、とりわけ、透明性、仕事への従事、管理、労働者保護法で保護される活動など、雇用主による労働者に関するデータの AI 関連収集と使用が労働者に及ぼす影響をカバーする必要がある。またEOは、労働省長官に対し、AIによって業務が監視または強化されている従業員に対し、労働時間に対する報酬を確実に支払うことを保証することを義務付けている。 (セクション6参照)

4.公平性と公民権の推進:

 AI の無責任な使用がいかに違法な差別やその他の危害につながる可能性があるかを示す強力な証拠があることを受けて、EOは司法省長官に対し、刑事司法制度における AI の使用に関する報告書を大統領に提出することを義務付けている。

 また、量刑(sentencing)、仮釈放(parole)、保釈(bail)、警察の監視(police surveillance)、刑務所の管理ツール(prison-management tools)、法医学分析(forensics)などの分野での AI の使用に関するベスト プラクティス、保護措置、および適切な制限を推奨している。

 政府機関は、アルゴリズムによる差別を含む、自動化システムの使用における差別を防止し、対処するために、公民権および自由人権局および当局を活用するよう指示されている。 EOは連邦保健福祉省 (HHS)に対し、不当な拒否を評価するため、(ⅰ)州や地方自治体による公共利益の分配におけるアルゴリズム・システムの使用、(ⅱ)人間の審査員に拒否を訴えるプロセス、そして(ⅲ)アルゴリズム・システムが公平かつ公正な結果を達成するかどうかに対処する計画を公表するよう求めている。 (セクション7参照)

5.イノベーションと競争の促進

 AI人材を米国に誘致するため、EOは国務省長官とDHSに対し、ビザ手続きを合理化し、海外で人材を見つけるプログラムを作成し、AIとその他の重要なテクノロジーや新興テクノロジーにより専門家の移民への経路を近代化する政策変更を開始するよう指示している。

  またEOは、国家科学財団(NSF) に対して、AI 関連の研究リソースとツールを作成および配布することにより、国家 AI 研究リソースを実装するパイロット プログラムを開始するよう指示している。 労働省長官は、資格のある候補者を必要とする AI および STEM(science, technology, engineering and math :STEM) の仕事に関する情報を要求する RFI を公開するよう指示している。 (セクション 5.2(a)(i)参照)

 その他の規定には以下が含まれる

① 国立AI研究機関と機能機関の創設: NSF は、AI 関連業務専用の NSF 地域イノベーション エンジンを 1 つと、少なくとも 4 つの新しい国立 AI 研究機関を設立し、エネルギー省と協力して科学者向けの訓練プログラムを強化し、2025 年までに 500 人の新しいAI研究者を訓練することを期待している。 (セクション2(a)(ii)-(iii)、(b)参照)(注9)

② 気候変動の緩和 : エネルギー省長官NISTリリース、AI が電力網の計画、投資、運用を改善する方法に関する報告書を発表するよう指示している (セクション2(g)参照)

③ 特許と商標 米国連邦特許商標庁(US Patent and Trademark Office)に、発明のプロセスにおける発明者の地位(inventorship)シップおよび生成 AI を含む AI の使用に対処する特許審査官および出願人向けのガイダンスを発行するよう指示する。 (セクション2(c)(i)参照)

④ 著作権 : 米国連邦著作権局(US Copyright Office)は、AI を使用して制作された作品の保護範囲と AI トレーニングにおける著作権で保護された作品の扱いに対処するため著作権と AI に関連する潜在的な行政措置について大統領へ勧告を作成するよう指示されている。 (セクション2(c)(iii)参照)

6.連邦政府による AI の利用の推進

  AI には、政府機関の成果を出す能力を向上させる可能性がある。 EOは、政府機関による AI の効果的かつ適切な使用を強化し、AI によるリスクを管理するためのガイダンスを作成するための省庁間評議会を組織するよう OMB 長官に指示することにより、連邦政府全体での AI の調整された使用を推進させようとしている。

 各政府機関は、自機関による AI の使用を調整し、人々の権利や安全に影響を与える AI の使用に必要なリスク管理慣行を実装するために、最高AI責任者(Chief Artificial Intelligence Officer)を任命する必要がある。

 また、「生成型 AI 」の責任ある安全な使用を推進するため、政府機関は、特定のリスク評価とガイドラインに基づく特定の生成型 AI サービスへのアクセスの制限、トレーニング、適切な利用規約の交渉など、適切な保護措置、ベンダー措置を講じる必要がある。 さらにEOは、連邦政府に対し、連邦機関の優秀な AI 人材を増やすよう指示している。 (セクション10参照)

7.消費者、医療患者、学生:

 EOは、効率的な方法でリソースへのアクセスと手頃な価格を強化し、詐欺や差別から国民を守る方法で、福祉サービス、医療、教育分野における AI の開発と使用させること義務付けている。独立規制機関は、その裁量により、詐欺や差別から消費者を保護するために追加の措置を講じることも奨励されている。(セクション8参照)

8.海外における米国のAIリーダーシップの強化

 AIの課題と可能性に対処する世界的な取り組みにおける米国のリーダーシップを強化するため、国務省長官は、国際同盟国やパートナー国を奨励するなど、リスクを管理しAIの利点を活用するための強力な国際枠組みを確立する取り組みや米国企業が行っているものと同様の自主的な取り組みをサポートするよう指示している。

 また、商務省長官は、AI 開発のための責任ある世界的な技術基準を推進し、世界的な関与の計画を確立するよう指示されている。 重要インフラに対する世界的な AI リスクに対処するため、DHS は、重要インフラ システムへの AI の組み込みや AI の悪意のある使用によって生じる潜在的な重要インフラの混乱に対応し、回復する能力を強化するため、国際同盟国やパートナー国との取り組みを主導するよう命じられている。

Ⅱ.米国商務省の国立標準技術研究所 (NIST) 20231030日の大統領令(EO: Executive Order 14110)に基づく責任の履行を支援するため発出された「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の意義と概要

 12月19日、筆者の手元に届いたNISTリリースは、米国商務省の国立標準技術研究所 (NIST) は、人工知能(AI)の安全、安心、信頼できる開発と使用に関する2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)に基づく責任の履行を支援するため情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) ) (注10) 202422日を期限として発布したという内容であった。

 以下で、補足しながら仮訳する。

 同大統領令(EO:14110)は、NIST に対し、①評価やレッドチーム演習(red-teaming)に関するガイドラインを作成すること、②コンセンサスに基づく標準の開発を促進すること、さらに③AIシステムを評価するためのテスト環境を提供するよう指示している。これらのNISTガイドラインとインフラストラクチャは、AI コミュニティが安全かつ信頼できる AI の開発と責任ある使用を支援するリソースとなる。

 米国商務省長官ジーナ・M・ライモンド(Gina M. Raimondo)は「バイデン大統領はAIは我々の世代を決定づけるテクノロジーであり、私たちはAIのリスクから人々を守りながら、AIの力を永久に活用する義務があると明確に述べている。今回の大統領令の一環として、商務省は産業界、学界、市民社会などからフィードバックを求めており、米国が責任ある分野で世界をリードし続けることを可能にするAIの安全性、セキュリティ、信頼性に関する業界標準を開発できるようにする。 この急速に進化する技術の開発と利用を目指している」と述べた。

Gina M. Raimondo 氏

 NIST情報提供依頼文書(RFI)への回答は、AI テクノロジーに関連する機能を評価し、大統領令で要求されているさまざまなガイドラインを開発する NIST の取り組みをサポートする。 RFI は特に、AI のレッドチームの組成、生成型 AI のリスク管理、合成コンテンツのリスクの軽減、AI 開発のための責任ある世界的な技術標準の推進に関連する情報を求めている。

 標準技術次官兼NIST所長のローリー・E・ロカシオ(Laurie E. Locascio)は、「大統領令に定められた目標に向けて取り組みを開始する中で、AIの測定と評価についての理解を進めるためにコミュニティとの関わりを強化することを楽しみにしている。私は、AI の安全性と信頼性の測定と実践を進めるために、この情報リクエストを通じて、より広範な AI コミュニティにNISTの有能で献身的なチームとの連携を呼びかけたいと考えている。 われわれの生活の非常に多くの分野に影響を与える可能性のある AI について、強力かつ公平な科学的理解を確立するためには、あらゆる視点を収集することが不可欠である」と述べた。

Laurie E. Locascio氏

 サイバー・セキュリティとプライバシー、合成核酸配列決定(synthetic nucleic acid sequencing) および最小限のリスク管理慣行の支援機関による実施に関連する大統領令における NIST へのその他の割り当ては、この RFI とは別に扱われる。 大統領令に基づく NIST の任務と計画に関する情報、および一般からの意見を求めるさらなる機会については、NIST の Web サイトを参照されたい。

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(注1) レッドチーム(red team)とは、ある組織・団体等のセキュリティの脆弱性を検証するためなどの目的で設置された、その組織とは独立したチームのことで、対象組織に敵対したり、攻撃したりといった役割を担う。主に、サイバー・セキュリティ、空港セキュリティ、軍隊、または諜報機関などにおいて使用される。レッドチームは、常に固定された方法で問題解決を図るような保守的な構造の組織に対して、特に有効である。(Wikipedia から抜粋)

(注2) 「大規模コンピューティング・クラスタ(large-scale computing cluster)」は、EOの下では定義されていない。しかし、EOのセクション4.2(b)では、「デュアル-ユース基盤モデル(dual-use foundation model)」および「大規模コンピューティング・クラスタ(large-scale computing cluster)」の技術的条件が、近日中に提示されることが明らかになっている。しかし、EOのセクション4.2(b)では、そのような技術的条件が定義されるまでは、商務長官(Secretary of Commerce)は、以下の報告要件の遵守を要求しなければいけないことも明確にしている。(i) 1026の整数演算または浮動小数点演算を超える計算能力を用いて学習されたモデル、または主に生物学的配列データを使用し、1023の整数演算または浮動小数点演算を超える計算能力を用いて学習されたモデル;および(ii) 単一のデータセンターに物理的に同居するマシンのセットを有し、100 Gbit/s以上のデータ・センター・ネットワーキングによって推移的に接続され、AIの学習用に毎秒1020の整数演算または浮動小数点演算を行う理論上の最大計算能力を有するコンピュータ・クラスターである。(Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの解説から抜粋)

(注3) サービスとしてのインフラストラクチャ、または略してIaaSは、クラウドコンピューティング・ベンダーが顧客に代わってインフラストラクチャをホストする場合です。ベンダーは、インフラストラクチャを「クラウド」でホストします。–つまり、さまざまなデータセンターでホストします。顧客はインターネット経由でこのクラウドインフラストラクチャにアクセスします。Webアプリケーションの構築とホスト、データの保存、ビジネスロジックの実行、または従来のオンプレミスインフラストラクチャで実行できる他のすべての操作に使用できます。しかし、多くの場合、より柔軟性があります。

クラウドコンピューティングの主要なモデルとは?

クラウドコンピューティングの3つの主要なサービスモデルは次のとおり。

①サービスとしてのインフラストラクチャ(IaaS

②サービスとしてのプラットフォーム(PaaS

③サービスとしてのソフトウェア(SaaS

(CLOUDFRARE解説から抜粋)

(注4) 「国防生産法」は、国防に必要な資材やサービスの供給に関して、大統領に国内産業界を統制できる権限を与えている。最近でも、トランプ前政権が新型コロナウイルス感染拡大を受けて、国内自動車メーカーなどに人工呼吸器の生産を要請するなどの活用例がある。バイデン大統領は3月31日に石油戦略備蓄の追加放出(2022年4月1日記事参照)を発表した会見で、国防生産法の活用にも触れた。大統領は「電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの貯蓄をする蓄電池に使われるリチウムやグラファイト、ニッケルなど重要鉱物の国内サプライチェーンを確保するため、国防生産法を使う。未来の力の源泉を中国やその他の国に長く依存していた時代を終わらせる必要がある」と発言している。

 米国のジョー・バイデン大統領は2022年3月31日、1950年国防生産法に基づいて、国防長官に、大容量蓄電池などに使用するリチウムなど「重要鉱物の国内生産増に向けた取り組みを指示する覚書」に署名した。(JETRO解説から抜粋)

  一方、わが国で「国防生産法」の考えにつき国会議員はどう考えているのか。衆議院議員 高市早苗氏コラム「日本版『国防生産法』検討の必要性」更新日:2021年05月5日)が参考になろう。

(注5) 国防生産法(50 USC Ch. 55: DEFENSE PRODUCTION From Title 50—WAR AND NATIONAL DEFENSE)の原文

(注6) NIST, Secure Software Development Framework, NIST, https://csrc.nist.gov/Projects/ssdf参照。

(注7) Synthetic Content Created or Modified by AI参照。

(注8) アメリカ合衆国大統領に経済政策の助言をする大統領府の機関。第2次世界大戦後の平時における完全雇用の実現を目指し 1946年に制定された雇用法に基づいて設立された。主としてマクロ経済運営,経済情勢について大統領に助言し,予算編成の基礎となる経済見通しを作成する。また毎年,大統領経済報告とともに提出される大統領経済諮問委員会年次報告を作成する。委員長を含めて 3人の委員で構成され,アシスタント・スタッフとして 20人程度の気鋭のエコノミストが起用される。委員長は閣議,経済政策委員会 EPC,国内政策委員会 DPCなどの主要な会議に大統領経済諮問委員会代表として出席する。(「コトバンク」から抜粋)

(注9) 筆者の手元にあるNSFからAIに関するfunding サイト参照。

(注10) RFIはRequest For Informationの略で、日本語では「情報提供依頼」または「情報提供依頼書」と訳されます。 候補となりそうなシステム開発会社に対して、技術情報や製品情報の提供を依頼するための文書 のことを指します。(IT調達ナビ・サイトから抜粋)

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