Financial and Social System of Information Security

インターネットに代表されるIT社会の影の部分に光をあて、金融詐欺・サイバー犯罪予防等に関する海外の最新情報を提供

SECは20億ドル(約2180億円)以上のネズミ講詐欺等でBitConnect関連暗号資産貸付プラットフォーム、トップエグゼクティブおよび販売推進者等を起訴

2021-09-06 14:12:59 | 海外の通貨・決済システム動向

 米証券取引委員会(SEC)は9月1日、オンライン暗号通貨(資産)貸付プラットフォームである(1)BitConnect、その創設者である(2)サティシュ・クンバニ(Satish Kumbhani)、および米国のトップ販売促進者(3)グレン・アルカロ(Glenn Arcaro)と(4)その関連会社に対してデジタル資産を含むプログラムへの連邦取引法違反にあたる未登録のままで投資の提供を行ったとして訴訟を起こした旨発表した。

  より詐欺手口を説明すると、被告らはBitConnectの「貸付プログラム(Lending Program)」を立ち上げ、ユーザーに毎月40%以上のリターンを約束した。2017年から2018年の間に、「ボラティリティ・ソフトウェア・トレーディング・ボット(volatility software trading bot)(乱高下ソフトウェア取引ボット(検索などで人間を補助をするソフトウェア・エージェント(software agent)」によって年率3,700%以上のリターンがあったように見せかけた。しかし、これは完全なる「ネズミ講詐欺(Ponzi scheme)」である。

 SECの告訴状によると個人投資家から少なくとも20億ドル(約2,180億円)を詐取したと主張している。

  被告人は民事上の罰則を受ける可能性もある。証券取引法違反は、最高20年の懲役と500万ドルの罰金が科せられる。 

 なお、後述するとおりアルカロ被告は9月1日に有罪答弁を行った。

  暗号通貨プラットフォ―ムBitConnectを巡るねずみ講詐欺事件や連邦証券法に違反して未登録のまま販売推進を行ったことに対するSECの厳しい姿勢は一層強化されている。

  しかし、一方で米国をはじめ国際的なのネズミ講や証券詐欺は一向に減らない。本文で紹介する詐欺師たちの顔を見てほしい。どう見ても胡散臭さがうかがえるが被害者は減らないし、どういうわけかSECの告訴記事を取り上げる暗号資産専門サイトは多いが、いずれも被告の顔は出てこない。

 本ブログは、公的資料に基づきできるだけ時系列的に整理し、正確にこれら組織犯罪の実態、起訴事実、法的解説等を中心にまとめることを試みた。

  なお、わが国の暗号資産関係につき金融庁サイトで見ると「行政処分」であるが中身は「業務改善命令」のみである。また、国民生活センターに対する相談件数はやや減少傾向にあるようである。(注1)

 一方で人工知能(AI)を用いた暗号資産(仮想通貨)事業への投資名目で現金をだまし取ったとして、愛知県警は12日、会社役員、石田祥司容疑者(59)ら男4人を詐欺の疑いで逮捕した。捜査関係者への取材で分かった。関係者によると、高配当をうたった投資話で、全国の2万人近くから計60億円超を集めた疑いがある(2021.7.12日経新聞)等極めてリスクがある危険信号がついたままである。

1.BitConnectを巡る犯罪グループに対するSECや連邦検事局の起訴や司法合意の動向の整理

(1)2021年5月28日,証券取引委員会は、個人投資家から20億ドル(約2,180億円)以上を調達した世界的な連邦証券法の登録規定に違反して未登録デジタル資産証券の提供を推進したとして5人の個人に対して民亊訴訟を起こしたと発表した。(起訴グループⅠ)

トレボン・ブラウン(Trevon Brown (別名トレボン・ジェームズ:Trevon James)

クレイグ・グラント(Craig Grant)

ライアン・マーセン(Ryan Maasen)

マイケル・ノーブル(Michael Noble (別名.別名マイケル・クリプト( Michael Crypto)

ジョシュア・ジェッペセン(Joshua Jeppesen)

(2)2021年8月13 日、SECは前記④マイケル・ノーブル、⑤ジョシュア・ジェッペセン)および救済被告(relief defendant. )(注2)としてローラ・マスコラ(Laura Mascola)に対する和解に基づくニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の判決を得た旨公表した。(起訴グループⅡ)

  同判決に従い、2人の被告と救済被告は、350万ドル以上と190ビットコインをまとめて支払うよう命じられた。

(3)2021年9月1日、SECはオンライン暗号通貨貸付プラットフォームであるBitConnect、その創設者であるサティシュ・クンバニ(Satish Kumbhani)、および米国のトップ販売促進者グレン・アルカロ(Glenn Arcaro)とその関連会社に対してデジタル資産を含むプログラムへの連邦取引法違反により未登録の投資の提供を行ったとして訴訟を起こした旨発表した。

 なお、9月1日に、連邦司法省(DOJ)は、アルカロが刑事告発に対して司法合意により有罪を認めたと発表した。

2..2021年5月28日証券取引委員会は個人投資家から20億ドル以上を調達した連邦証券法の登録規定に違反して未登録デジタル資産証券の提供を推進したとして5人の個人に対する民亊訴訟

 証券取引委員会は2021年5月28日、個人投資家から20億ドル以上を調達した世界的な連邦証券法の登録規定に違反して未登録デジタル資産証券の提供を推進したとして5人の個人に対して民亊訴訟を起こしたと発表した。以下、仮訳、補足する。

 2017年1月から2018年1月にかけて、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に提出されたSECの訴状によると、BitConnectは米国に拠点を置くトレボン・ブラウン:,別名トレボン・ジェームズ)、クレイグ・グラント(Craig Grant)、ライアン・マーセン(Ryan Maasen)、マイケル・ノーブル(Michael Noble (別名マイケル・クリプト)を含む販売促進者(プロモーター)のネットワークを使用して市場に販売した。SECの訴状は、これらのプロモーターが、連邦証券法の要求に従って、証券提供を同委員会に登録することなく、同委員会にブローカー・ディーラーとして登録することなく、証券を提供し、売却したと主張した。

 プロモーターは、「証言」スタイルのビデオを作成し、時には1日に複数回YouTubeに公開するなど、BitConnectの融資プログラムに投資するメリットを投資家候補に宣伝した。訴状によると、プロモーターは投資家の資金を勧誘する成功に基づいて手数料を受け取った。もう一人の米国に拠点を置く個人であるジョシュア・ジェッペセン(Joshua Jeppesen)は、BitConnectとプロモーターの間の連絡役を務め、カンファレンスやプロモーションイベントでBitConnectを代表した。

  SECのニューヨーク地域事務所の副部長(Associate Regional Director of SEC's New York Regional Office)ララ・シャロフ・メフラバン(Lara Shalov Mehraban)は、「これらの被告は、BitConnect融資プログラムを個人投資家に積極的に宣伝することで、未登録のデジタル資産証券を不法に売却したと主張する.。デジタル資産に対する国民の関心を活用して、違法に利益を得た者に責任を問う」と述べた。

 SECの訴状は、プロモーターたるジェッペセン被告が連邦証券法の登録規定に違反し、がBitConnectの未登録の貸出の申し出と証券の売却を支援し、賭けたとして起訴した。訴状は差し止め救済(injunctive relief)判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interest)、民事制裁金(civil money penalties )を求めている。

3.2021年8月13日、SECは「BitConnectのプロモーターのマイケル・ノーブルとジョシュア・ジェッペセンと救済被告に対する和解に基づく連邦地裁の判決を得た」と公表

 以下、SECの公表仮訳、補足する。

 2021年8月13日、SECは「ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所は、BitConnectへの関与と「融資プログラム」の販売推進行為に対するジョシュア・ジェッペセン(Joshua Jeppesen)に対する判決と、マイケル・ノーブル(Michael Noble :別名マイケル・クリプト)に対する判決を下したと公表えた。また、同裁判所は、救済被告(relief defendant. )としてジェッペセン被告の婚約者であるローラ・マスコラ(Laura Mascola)に対する最終判決を下した。判決に従い、2人の被告および救済被告は、350万ドル(約3億8,150万円)以上と190ビットコインをまとめて支払うよう命ぜられた。

 2021年5月28日に提出されたSECの訴状によると、2017年6月から2018年1月にかけて、ノーブル被告はBitConnectを推進し、「貸出プログラム」で有価証券を販売した。SECの訴状は、ノーブル被告が連邦証券法の要求に応じて、同委員会に証券提供を登録することなく、委員会にブローカーディーラーとして登録されることを行わずに証券を提供し、売却したと主張している。さらに訴状は、ジェッペセンがBitConnectとプロモーターの間の連絡役を務め、会議やプロモーションイベントでBitConnectを代表し、マスコラがジェッペセンのBitConnect活動から一定の収益を受け取ったと主張している。

 SECの訴状は、ノーブルが連邦証券法の登録規定に違反し、ジェッペセンがBitConnectの未登録のまま貸出の申し出と証券の売却を支援し、賭けたとして起訴した。さらにSECの訴状は、マスコラに対し不当利得(unjust enrichment)を告発した。

  SECの申し立てを認めたり否定したりすることなく、ノーブルは判決の開始に同意し、またジェッペセンは、ノーブルとジェッペセンがそれぞれ起訴された規定に違反し、特定のマーケティングまたは販売プログラムの提供、運営、または参加から、デジタル資産証券の提供に直接または間接的に参加することに同意した。

 ジェッペセンに対する最終的な判決は、彼に3,039,485ドル(約3億3130万円)の不利益と判断権、190ビットコインの不当利得返還、150,000ドル(約1,635万円))のペナルティを支払い、190ビットコインを支払う義務を満たすためにビットコイン・ワレット(Bitcoin wallet)(注3)へのアクセスを引き渡すよう命じた。ノーブルに対する判決は、SECの動議の後日、裁判所によって決定される金額で、判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interest、民事制裁金を支払うように彼に命じる。マスコラに対する最終的な判決は、彼女に576,358ドル(約6282万円)の判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interestで支払うように命じた。

4.2021年9月1日、SECはBitConnect、その創設者であるサティシュ・クンバニ(Satish Kumbhani)、および米国のトップ販売促進者グレン・アルカロ(Glenn Arcaro)とその関連会社を起訴

 SECの公表内容仮訳、補足する。

 SECは、オンライン暗号通貨貸付プラットフォームであるBitConnect、その創設者であるサティシュ・クンバニ(Satish Kumbhani)、および米国のトップ販売促進者グレン・アルカロ(Glenn Arcaro)とその関連会社(FUTURE MONEY LTD.,)に対してデジタル資産を含むプログラムへの連邦取引法違反により未登録の投資の提供を行ったとして訴訟を起こした旨発表した。

Satish Kumbhani被告

Glenn Arcaro 被告

 2017年初頭から2018年1月にかけてニューヨーク南部地区の米国連邦地方裁判所に提出されたSECの訴状によると、被告は BitConnectによって提供された「貸付プログラム」への投資という形で、連邦証券法に違反して未登録の有価証券の募集と売却を行った。

 SEC訴状は、投資家に意図された貸付プログラムに資金を預けるように誘導するために、被告は、とりわけBitConnectが投資家の預金を使用して途方もなく高い利益を生み出すとされる独自の「乱高下ソフトウェア取引ボット(volatility software trading bot)」を展開することで投資家に誤解させる目的で表明したと主張している。

 しかしながら、SECは投資家の資金を取引ボットと称するものと取引するために展開する代わりに、被告のBitConnectとサティシュ・クンバニ(Satish Kumbhani)、グレン・アルカロ(Glenn Arcaro)は、実際は投資家の資金を米国のトップ販売促進者である彼らが管理するデジタル・ウォレット・アドレスに転送することで、投資家の資金を自分たちの利益のために吸い上げたと起訴状で主張した。

 さらにSECの告訴は、BitConnectとKumbhaniが世界中の販売促進者のネットワークを確立し、そのかなりの部分を投資家から隠した手数料を支払うことで、彼らの販売促進活動と活動に対して報いたと主張した。

 起訴状によると、これらの販売促進者の中には、彼が作成したWebサイト”FutureMoney”を使用して投資家を貸付プログラムに誘い込んだ米国向けBitConnectの主要な全米的な販売促進者であるアルカロが含まれていた。

 SECのニューヨーク地域事務所の副部長(Associate Regional Director of SEC's New York Regional Office)ララ・シャロフ・メフラバン(Lara Shalov Mehraban)は「これらの被告は、デジタル資産への関心を利用して、世界中の個人投資家から数十億ドルを盗んだと主張しています。我々は、デジタル資産の分野で不正行為に従事する人々を積極的に追求し、責任を負う」と、述べた。

 SECの告訴は、連邦証券法の詐欺防止および登録条項に違反したとして被告を告発した。訴状は、差し止め救済(injunctive relief)、判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interest)民事制裁金(civil money penalties)を求めた。本ブログの第3項で述べたとおり SECは8月13日に、BitConnectの募集を宣伝するための関連訴訟で起訴した5人の個人被告のうち2人(ジョシュア・ジェッペセン(Joshua Jeppesen)、マイケル・ノーブル(Michael Noble (別名:Michael Crypto)と和解に達した。並行して、

連邦司法省カリフォルニア南部地区連邦検事局は9月1日、アルカロが刑事告発に対して有罪を認めたと発表した。

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(注1)国民生活センターに対する相談件数の推移

(注2) 「救済被告」とは、他の起訴状で指名された被告の違法行為の結果として、不正な資金または資産を受け取った個人または団体をいう。原告が求められた資金または資産を保護し、事件の最終的な回復にそれらを適用するために差し止めによる救済を求めるため、救済被告は通常その名前が公表される。 救済被告は名目上の被告と呼ばれることもある。(USLegal「Relief Defendant Law and Legal Definition」から抜粋、仮訳)

(注3)ビットコインウォレットとは、ビットコインを保管しておく財布(ウォレット)のことである。ビットコインは投資だけでなく、普段の買い物にも使える。ウォレットなしで使うこともできるが、ウォレットを使うことでハッキングされるリスクを抑え、安全にビットコインを使うことができる。

 ビットコインウォレットは、ビットコインを使うために必要な「秘密鍵」「公開鍵」「ビットコインアドレス」を管理するために使うものである。」ウォレットに保管されているビットコインは、ビットコインアドレスによって管理され、使用する際には秘密鍵が必要になる。そして、本人が使用したことを示すために使われるのが公開鍵である。

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「欧州中央銀行(ECB)が2022年に域内16銀行による欧州独自の汎ヨーロッパ決済システム構築の開始を公表」

2021-03-24 15:37:11 | 海外の通貨・決済システム動向

2010年10月9日、筆者は「EUが2008年に新たに小口支払・決済手段の開始計画を提案」をとりあげた。

 その内容の更新を行った際、EUの主要銀行の16行がカード業界の巨人である米国の”Visa”や”Mastercard”、”PayPal”、”GAFA”や中国の”Alibaba :Alipay” (注1)等への対抗策として2022年にヨーロッパで新しい統一決済システムの稼働予という情報を得た。

 この情報自体、2020年7月2日の朝日新聞電子版ニューズウィーク日本語版が、すでにある程度詳しく報じている。

 特に後者は、キャッシュレス決済とビッグデータ、個人情報、信用情報は、密接につながっている等新たな問題である点も併せ論じている。この問題は”LINE”と同様、わが国でも本格的に論じたサイトは少ない。時間をとって改めて本格的に論じたいが、今回はヨーロッパの決済イニシアチブである欧州中央銀行(ECB)、European Payments Initiative(EPI)の内容、新戦略についてできるだけ詳しく論じたい。

 なお、元関係者として指摘しておきたいのは、EBCの新たな決済システムについてのイニシアチブをきわめて積極的、具体的にリードしているで点である。わが国の中央銀行である日本銀行にもこのようなリーダーシップを期待したい。

1.はじめに

 2020年7月2日、フランスの金融専門サイト(Money Vox)は「EUの16の銀行が2022年にヨーロッパで新しい統合汎ヨーロッパ決済システム構築を発表」を報じた。

 以下で概要を仮訳する。

1.EIP立ち上げ開始

 ヨーロッパの16の銀行は、特に”Visa”や”Mastercard”などのカード業界の巨人に代わるものを提供することを目的として、インスタント・トランザクション・テクノロジー (注2)に基づく新しい統合汎ヨーロッパ決済ソリューションを2022年までに立ち上げることなった。

  このプロジェクトの関係銀行のうちフランスの銀行は、「7月2日、5か国(ドイツ、ベルギー、スペイン、フランス、オランダ)の16の主要なヨーロッパの銀行のグループが、ヨーロッパの決済イニシアチブであるEPIの将来の立ち上げへの道を開いた」と公表した。彼らの目的は「即時支払いに基づく統一された汎ヨーロッパ支払いソリューションを作成し(...)、ヨーロッパ中の消費者と商人に銀行カード、デジタル・ウォレット、および使用可能なピア・ツー・ピア(P2P)(注3)支払いソリューションを提供する」と公表した。

 そうすることで、「このソリューションは、消費者向けソリューションに加えて、店内、オンライン、現金引き出し、P2Pなど、あらゆる種類の取引において、ヨーロッパの消費者と加盟店の新しい支払い基準になることを目指している。「国際的な支払いスキーム」となる。大きな革新は、誰かがヨーロッパのどこにでも、たとえば受益者の携帯電話番号を使って、週7日間毎日、即座に支払うことを可能にすることである」と、BNP Paribas銀行の 副最高執行責任者兼国内市場責任者(Deputy Chief Operating Officer and Head of Domestic)であるティエリー・ラボルド( Thierry Laborde)氏は、AFPに語った。

Thierry Laborde 氏

(2) 2022年の運用段階までの準備

 EIPプロジェクトの推定コストは数十億ユーロで、この新しいデバイスは大きな目標を掲げている。長期的には、ヨーロッパの電子決済の少なくとも60%にあたると見ている。詳細にみると、実装フェーズは、2022年の運用フェーズへの参入を視野に入れて、「可能な限り最高の使用経験(ユーザーエクスペリエンス)を実現するために実装化作業を開始する責任を負うこととなり、ブリュッセルで暫定会社(EPI Interim Company)の設立を通じて、今後数週間で開始される。

 この新しいデバイスは、「ヨーロッパの公的機関と国家当局をサポートすることになります。ヨーロッパの既存のデジタル決済ソリューションは細分化されており、欧州市民はまだどこでもデジタル決済を行うことがない」と16の銀行は主張し、他の決済サービスプロバイダーにも同イニシアチブへの参加を呼びかけている。

 また、16の銀行は「さらに、Covid-19危機は、統一されたヨーロッパのデジタル決済ソリューションの必要性を浮き彫りにした。また、EPIは、銀行、加盟店、取得者(acquirer)/決済サービスプロバイダーのヨーロッパの決済エコシステムを統合し、単一市場とヨーロッパのデジタル戦略の強化に貢献することを目指している」と指摘している。

2.EPI本格開始のリリース第一弾

 2020年9月9 日、BNP PARIBASが行った発表「EPI: The European Payments Initiative」

の内容を仮訳する。

 2020年9月9 日、European Payments Initiative(EPI)の実施を開始する責任を負う”EPI Interim Company(https://www.epicompany.eu/)”は、ポーランド最大の銀行であるPKO Bank Polski:PKOBP”と、フィンランドの大手リィテール銀行であるOP Financial Group”を発表した。最近設立された会社の設立株主としてEPIに参加している。さらに、スペインの12の商業銀行(credit institution)のグループもコンソーシアムを結成し、EPI暫定会社の共同設立株主としてEPIに参加している。

 PKO BankPolskiとOPFinancial Groupの参加により、EPIがポーランドとフィンランドの決済市場にアクセスできるようになった。これは、共同支払いイニシアチブへの新しいコミュニティの関心を確認し、EPIがよりデジタル的に進んでいると見なされる市場にとって魅力的であることを示しているため、EPIの主要なマイルストーンである。ポーランドは、EPIの一部を形成する最初の非ユーロ・ベースの市場となり、グループがソリューション内の通貨換算の課題に取り組むことを可能にする。

 また、EPIは共同で参加することを決定した12のスペインの銀行の参加を歓迎する。彼らの参加は、EPIガバナンスが小規模なプレーヤーに開かれており、将来のソリューションに対する彼らの特定のニーズを考慮に入れる用意があることを確認している。これらの動きにより、スペインの3大銀行BBVACaixaBankBanco Santanderと並んで、スペイン市場でのEPIの対象範囲が大幅に拡大する。これらはすべてEPIの個別株主である。信用機関のコンソーシアムは、ABANCABancoCooperativoEspañolGrupo Cooperativo CajamarCaja de IngenierosLABORAL KutxaCecabankEurocaja RuralGrupo BankinterIbercajaKutxabankLiberbankUnicajaBancoで構成されている。

 2週間前、サードパーティの買収企業(注4)である”Worldline” および Netsも、EPI創設株主としての加入を発表した。今後数か月以内に、EPIは新しいソリューションの実装に焦点を合わせる。

 2020年7月、5か国(ベルギー、フランス、ドイツ、オランダ、スペイン)の16の主要なヨーロッパの銀行のグループが、ブリュッセルでのEPI暫定会社の設立を発表することにより、ヨーロッパ決済イニシアチブの将来の立ち上げへの道を開いた。彼らは、共同支払いイニシアチブの実施を開始する責任がある。

出資会社名一覧

3.2020.11.25 PEIに関するNets eu のプレス・リリースの概要

 ”Nets eu”がその後の新たな展開をリリースで概観しており、その概要を仮訳する。

  EuropeanPayments Initiative(EPI)は次の段階に入り、”Worldline”と”Nets”がEPI Interim Companyの株主になり、このイニシアチブに参加した最初のサードパーティの買収者になった。また、 EPI、ヨアヒム・シュマルツル博士(Dr.Joachim Schmalzl)(:現ドイツ貯蓄銀行協会常務理事(Geschäftsführendes Vorstandsmitglied des Deutschen Sparkassen- und Giroverbandes)を取締役会会長に、マルテイナ・ヴェイマルトMartina Weimert氏(フランス)を暫定会社のCEOに任命したことを発表した。

Dr.Joachim Schmalzl 氏

Martina Weimert氏

2020年7月、5か国(ベルギー、フランス、ドイツ、オランダ、スペイン)の16の主要なヨーロッパの銀行のグループが、ブリュッセルに共同支払いイニシアチブの実施を開始する責任があるEPI暫定会社の設立を発表することにより、ヨーロッパ決済イニシアチブの将来の立ち上げへの道を開いた。

 EPIの稼働目標は、ヨーロッパ全土の消費者と加盟店にカード、デジタルウォレット、P2P決済を提供する、”即時決済Instant Payment”(注5)/ SEPAS即時クレジット転送(SCT Inst)を活用した、統一された革新的な汎ヨーロッパ決済ソリューションを作成することである。このソリューションは、既存の国際決済ソリューションおよびスキームに代わるものとして、店舗内、オンライン、現金引き出し、P2Pなど、あらゆるタイプの小売取引におけるヨーロッパの消費者および加盟店の決済における新しい標準になることを目的としている。

 11月25日、EPI暫定会社は、”Worldline”Worldlineおよび ”Nets”(EPI理事会による検証が数日中に予定されている)が、このイニシアチブに参加する最初の第三取得銀行(注4)として、最近設立された会社の株主として参加することを発表した。第三取得銀行の参加は、ヨーロッパの加盟店側でのEPIの受け入れネットワークの拡大に大きく貢献し、EPIが大陸で独自の決済エコシステムを構築できるようにする。他の順調に進んだ拡張交渉も、さまざまなプレーヤーと進行中である。

 ワールドラインの会長兼最高経営責任者であるジル・グラピネット(Gilles Grapinet)氏(フランス)は、次のようにコメントしている。

Gilles Grapinet 氏

「ユーロの導入から約20年後、21世紀のビジネスニーズに合わせて慎重に設計された、真にヨーロッパのデジタル決済ソリューションを消費者と商人に提供するための共同の取り組みに力を合わせる瞬間が訪れた。ヨーロッパを代表する決済サービスとしてPOSおよびE / MコマースのプロバイダーであるWorldlineは、EPIの将来の展開に必要な成功要因の定義に積極的に貢献する予定である。」 

 また、NetsのグループCEOであるボー・ニルソン(Bo Nilsson)は、次のようにコメントしている。

Bo Nilsson 氏

「European Payments Initiative(EPI)は、ヨーロッパの決済エコシステム全体に利益をもたらす。発行者、取得者、加盟店、そして最終的には最終消費者を含むすべての利害関係者は、強力で真にヨーロッパのデジタル決済ソリューションから利益を得るであろ。ヨーロッパ全体のPayTechリーダーとして、そして世界で最もデジタル化された地域の1つを起源とする我々は、成功するEPIプラットフォームの設計と確立に大きく貢献することを楽しみにしている。最新の決済テクノロジーと機能に基づいて、ヨーロッパ中の商人、銀行、消費者の支払いをより簡単にするよう努める。」

 Joachim Schmalzl博士は、ドイツ貯蓄銀行協会(Deutscher Sparkassen- und Giroverband)の傘下組織の理事会の幹部メンバーで、現役職では、グループのビジネスモデル、デジタル化、および支払い戦略の開発と推進を担当している。

  大手グローバルコンサルテイング会社オリバーワイマン(Oliver Wyman)のパートナーであるマルテイナ・ヴェイマルト(Martina Weimert)はイニシアチブの開始以来ヨーロッパの銀行をサポートしており、ヨーロッパおよび国際市場で、決済エコシステムのあらゆる種類のプレーヤーのために、多数の発行および取得ソリューションで16年間働いている支払いで深い経験を積んでいる。

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(注1) Alibaba groupに関するAlobaba Japanの説明を見ておこう。中国企業のグローバル戦略が十分垣間見える。

そのなかにモバイル決済サービスAlipay(https://www.alibaba.co.jp/service/alipay/)も位置づけられる。

(注2) ECBのEUROSYSTEMは「What are instant payments?」

ドイツ銀行が「Instant payments-A guide for corporates-」(全34頁)

(注3) Peer to Peer(ピア・トゥ・ピア または ピア・ツー・ピア)とは、複数のコンピューター間で通信を行う際のアーキテクチャのひとつで、対等の者(Peer、ピア)同士が通信をすることを特徴とする通信方式、通信モデル、あるいは通信技術の一分野を指す。P2Pと略記することが多い。

(注4) 第三取得銀行( third-party acquirer)(加盟店銀行または買収者ともいう)とは、加盟店の銀行口座を管理する金融機関をいう。買収者との契約により、販売者はクレジットカードおよびデビットカードの取引を処理することができる。取得銀行は、支払いを受け取るために、該当する発行銀行に加盟店の取引を譲渡する。

 また、発行銀行(issuring banl)は、カードネットワーク(Visa、MasterCard)に代わって消費者にクレジットカードを発行する金融機関をいう。発行者は、取引の返済条件についてカード保有者と契約することで、消費者とカードネットワークの仲介者として機能する。CHARGEBACKS911の解説(Do You Know the Difference Between the Acquirer and Issuer?)仮訳

(注5) ”instant payment”や”SEPA Instant Credit Transfer”についてはECB・eurosystemサイトが詳しく解説している。その基本部分を以下、仮訳する。

 即時支払い(instant payment)は、24時間年中無休でリアルタイムに処理される電子小売支払いであり、その資金は受取人がすぐに使用できるようになる。

EU域内全体のその可用性はどのように保証されるか?

 2014年12月、Euro Retail Payments Board(ERPB)は、欧州連合のすべての決済サービス・プロバイダーが通貨ユーロでの即時決済のための少なくとも1つの汎欧州ソリューションを利用できるようにすることを提案した。

 この提案は、いくつかのEU加盟国の市場参加者が即時支払いのための国内ソリューションを実装したか、開発中であった後に行われた。そのリスクは、これらのソリューションが特定の国でスムーズに機能するが、国境を越えた可用性を保証しないということであった。

 複数の即時支払いソリューションは、競争、革新、統合の目的を達成するのに役立つ可能性がありますが、それぞれが汎ヨーロッパの範囲を持っている場合に限られる。この目的のために、ソリューションは汎ヨーロッパレベルで開発されるか、国レベルで開発された場合は他のソリューションと相互運用可能である必要がある。すなわち、断片化を回避し、競争を激化させるために、即時支払いソリューションは以下述べるレイヤーで構成する必要がある。

①エンドユーザー・ソリューション・レイヤー:市場で協力的または競争的に開発されたもの(例:個人間のモバイル決済)

②スキーム・レイヤー:基礎となる支払いスキーム。

③精算・レイヤー:決済サービスプロバイダー間の取引の清算のための取り決め。

④決済・レイヤー:決済サービスプロバイダー間のトランザクションの決済のための取り決め。 

SEPA単一ユーロ決済圏即時送金

 通貨ユーロでの即時支払いの開発をスピードアップするために、ERPBはEuropean Payments Council(EPC)に汎ヨーロッパ即時支払いスキームの開発を依頼した。このスキームは、EPCの既存のSEPAクレジット転送(SCT)スキームに基づいており、SEPA単一ユーロ決済圏即時送金(SCT Inst:SEPA Instant Credit Transfer):SCT Instという )と呼ばれる。(注7)

 ”SCT Inst”の主な機能は、サービスが24時間年中無休で利用可能であり、取引が成功した場合、受取人が資金を利用できるようにするため、受取人の決済サービスプロバイダー(PSP)が支払人のPSPにお金が受け取られたかどうかを通知するのに10秒以上かからないことである。”SCT Inst” スキームは、2017年11月に運用を開始した。

 ECBのEyrosystemは、ユーロ圏のSCTInstインジケーターを介してSCTInstの使用を監視する。この指標は、SCT Instの採用、およびヨーロッパにおけるさまざまなタイプの決済手段の進化について、さらに明確で透明性を提供する。

 この指標は、すべてのSEPAクレジット振込に占めるSCTInstトランザクションの割合として計算されます。データは月次ベースで提示され、各四半期の終わりに清算および決済メカニズムから収集されます。 

Eurosystemはどのように機能しているか

 ERPBを介して追求されたイニシアチブに加えて、Eurosystemは銀行業界等と緊密に協力して、清算および決済レイヤーがSCT Inst”をサポートできるようにしている。 たとえば、通貨ユーロでの汎欧州即時支払いの清算サービスを提供するインフラストラクチャに対する一連の期待を定義し、これらのインフラストラクチャによって清算された即時支払いの決済をサポートするために”TARGET2”(注6)の拡張機能を実装した。

 さらに、ERPBによって提案された汎ヨーロッパの即時支払いソリューションが少なくとも1つ存在することを保証するために、EurosystemはTARGET即時支払い決済(TIPS)と呼ばれる即時支払いソリューションを開発することを決定した。 

(注6) ”TARGET2”については、例えば 奥田宏司「ユーロ決済機構の高度化(TARGET2)について- TARGET Balances と「欧州版 IMF」設立の関連-」はTARGETからTARGET2"への進展を踏まえて論説している。

また、神山哲也「欧州における精算・決済機関を巡る動き」が2006年発刊ではあるが参考になる。

(注7) SEPA (Single Euro Payment Area:単一ユーロ決済圏)とは、EU加盟国を含めた32カ国において、国内外の区別なくユーロ建ての小口決済が行える地域・およびそれを実現するスキームのことであり、SEPA決済対象となる取引は3つあります。

①送金・口座振込(SCT:SEPA Credit Transfer)

②自動引落し(SDD:SEPA Direct Debit)

③カード決済(SEPA Card Payments)

 SEPAは、クロスボーダー決済に対しても国内決済に対しても同様に適用できるような共通決済スキームを目指しており、SEPAの決済メッセージはISO20022というXMLベースの国際標準に準拠しています。また、決済スキームと決済提供者(決済インフラ)を分離するべし、という考え方に基づき、決済方法やメッセージ標準などの共通ルールのみ定められており、どの決済インフラサービスを利用するかは、個別の金融機関が判断します。(日立金融ソル―ション「欧州におけるSEPA自動引落し(SDD)導入の影響と今後の課題 .2010年3月」

~一部抜粋)

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【DONATE(ご寄付)のお願い】

本ブログの継続維持のため読者各位のご協力をお願いいたします。特に寄付いただいた方で希望される方があれば、今後公開する筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中でございます。 

◆みずほ銀行 船橋支店(店番号 282)

◆普通預金 1631308

◆アシダ マサル 

◆メールアドレス:mashida9.jp@gmail.com

【本ブログのブログとしての特性】

1.100%原データに基づく翻訳と内容に即した権威にこだわらない正確な訳語づくり

2.本ブログで取り下げてきたテーマ、内容はすべて電子書籍も含め公表時から即内容の陳腐化が始まるものである。筆者は本ブログの閲覧されるテーマを毎日フォローしているが、10年以上前のブログの閲覧も毎日発生している。

このため、その内容のチェックを含め完全なリンクのチェック、確保に努めてきた。

3.上記2.のメンテナンス作業につき従来から約4人態勢で当たってきた。すなわち、海外の主要メディア、主要大学(ロースクールを含む)および関係機関、シンクタンク、主要国の国家機関(連邦、州など)、EU機関や加盟国の国家機関、情報保護監督機関、消費者保護機関、大手ローファーム、サイバーセキュリテイ機関、人権擁護団体等を毎日仕分け後、翻訳分担などを行い、最終的にアップ時に責任者が最終チェックする作業過程を毎日行ってきた。

 このような経験を踏まえデータの入手日から最短で1~2日以内にアップすることが可能となった。

 なお、海外のメディアを読まれている読者は気がつかれていると思うが、特に米国メディアは大多数が有料読者以外に情報を出さず、それに依存するわが国メデイアの情報の内容の薄さが気になる。

 本ブログは、上記のように公的機関等から直接受信による取材解析・補足作業リンク・翻訳作業ブログの公開(著作権問題もクリアー)が行える「わが国の唯一の海外情報専門ブログ」を目指す。

4.他にない本ブログの特性:すべて直接、登録先機関などからデータを受信し、その解析を踏まえ掲載の採否などを行ってきた。また法令などの引用にあたっては必ずリンクを張るなど精度の高い正確な内容の確保に努めた。

その結果として、閲覧者は海外に勤務したり居住する日本人からも期待されており、一方、これらのブログの内容につき著作権等の観点から注文が付いたことは約15年間の経験から見て皆無であった。この点は今後とも継続させたい。

他方、原データの文法ミス、ミススペリングなどを指摘して感謝されることも多々あった。

5.内外の読者数、閲覧画面数の急増に伴うブログ数の拡大を図りたい。特に寄付いただいた方で希望される方があれば今後公開する筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中である。

【有料会員制の検討】

関係者のアドバイスも受け会員制の比較検討を行っている。移行後はこれまでの全データを移管する予定であるが、まとまるまでは読者の支援に期待したい。

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米証券取引委員会の連邦地方裁判所判決に基づくTelegramおよび子会社によるデジタル・トークン(TON)に対する投資家への12億ドルの不当利得返還や1850万ドルの民事罰金等に関する和解が成立

2020-06-30 10:59:10 | 海外の通貨・決済システム動向

 筆者の手元に、米国証券取引委員会(SEC)から6月26日、インスタント・メッセージング・プラットホーム企業である「テレグラム・グループ(Telegram Group Inc(以下 「Telegram」ということ)) (注1)の未登録のデジタル・トークン(暗号化通貨;暗号資産)「グラム」の提供が連邦証券法に違反したという容疑を解決するために、「Telegram 」とその100%子会社であるTON(ブロックチェーン・プロジェクトであるTON(Telegram Open Network))発行会社である「TON Issuer Inc.」との和解につき、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の承認を得たとするリリースが届いた。

 被告2社はデジタル・トークンにつき投資家に12億ドル(約1,284億円)以上を返還し、1,850万ドル(約19億8,000万円)の民事罰金を支払うことに合意したとのことである。

 この裁判は、関係者はわが国においても暗号化通貨に関係する者では大きく取りあげられているが、SECのリリース文も含めかならずしも法的に見た正確な内容とはいいがたい。

 したがって、筆者なりに1933年証券法の条文、判決文の原本の内容、和解内容、関連するTelegram Groupの実態などにつき解説を試みるものである。

 なお、この裁判については3月24日ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の仮差押え命令判決に続き、4月1日同連邦地方裁判所は、米国および外国のすべての事業体に対し、メッセンジャー・サービス企業のTelegramの独自の暗号通貨(暗号資産)「グラム(Grams)」をICO(注2)配布することを禁止するとの判断を下している。

1.2020.6.26 SEC緊急リリース「Telegram to Return $1.2 Billion to Investors and Pay $18.5 Million Penalty to Settle SEC Charges」の仮訳

 米国証券取引委員会は6月26日、Telegramの未登録のデジタル・トークン「グラム」の提供が連邦証券法の登録義務に違反したという容疑を解決するために、「Telegram 」とその100%子会社であるTON(ブロックチェーン・プロジェクトであるTON(Telegram Open Network)).発行会社である「TON Issuer Inc 」との和解につきニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所裁判所の承認を得たと発表した。

 被告2社はデジタル・トークンにつき投資家に12億ドル以上を返還し、1,850万ドルの民事罰金を支払うこと等に合意した。

 2019年10月11日、SECはTelegram  に対し、約29億グラム(Grams)(TON独自のデジタル・トークン)を世界で171人の最初の購入者に売却して事業の資金調達資金を調達したと主張し、Telegramに対して1933年連邦証券法に違反したとして告発した。(注3)

 SECは、Telegramに対し1933年連邦証券法の登録要件に違反して提供され、販売された証券であると主張したグラムを提供することから、Telegramに予備的に裁判への参加を求めた。2020年3月24日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は、グラムの配達を禁止する予備的差し止め命令を出し、SECがTelegramの売り上げがグラムを二次公共市場に不法に配布するより大きな計画の一部であることを証明する実質的な可能性を示したことを明らかにした。

 SECの法執行部門のサイバーユニット(Chief of the SEC Enforcement Division's Cyber Unit.)の責任者である、クリスティーナ・リットマン(Kristina Littman)は、次のとおり述べた。

Kristina Littman氏

「新規および革新的なビジネスは、当社の資本市場に参加することを歓迎するが、連邦証券法の登録要件に違反して参加することはできない。今回の和解は、Telegramが投資家に資金を返還し、重大なペナルティを課すことを要求し、かつTelegramは将来のデジタル製品の通知を消費者等に与えることを要求するものである。」

 また、SECのニューヨーク地域事務所のアソシエイト・リージョナル・ディレクターであるララ・シャロフ・メフラバン(Lara Shalov Mehraban)は「SECの今回の緊急行動は、プロジェクトに関する完全な開示を提供することなく、未登録の提供で販売された証券で市場をあふれさせようとするTelegramの試みから個人投資家を保護しようとするもので、今回、我々が得た救済策は、投資家に大きな救済をもたらし、Telegramによる将来の違法な提供から個人投資家を保護するものである」と述べた。

 被告は、SECの訴状の申し立てを認めたり否定したりすることなく、1933年証券法第5条(a)および第5条(c)の登録規定に違反することに伴う最終的な判決の締結に同意した。判決は、被告に対し、グラム(Grams)の売却による不当な利益12億2,400万ドルを廃止するよう命じ、Telegramがグラムの最初の購入者に返済する金額のクレジットを持ち、Telegramに対し1,850万ドルの民事罰金を支払うように命じた。さらに、Telegramは今後3年間、デジタル資産(デジタル・トークン)の発行に参加する前にSECスタッフに通知することがさらに必要となった。

2.National Law Reviewレポートから抜粋

 3月24日、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所の裁判官ケビン・カステル(P. Kevin Castel)は小槌(Judge's Gavel)をたたき、Telegramが異論を唱えた17億ドルの最初の暗号通貨の調達行為(「ICO」)にこだわった。

P・ケビン・カステル氏

 同裁判官は、TONブロックチェーンで使用されるデジタル資産であるTelegramが計画したグラム(Grams)の配布行為は、1933年証券法に基づく証券募集を構成する可能性が高く、登録の免除を認めるべきではないと判断した。 また、判事は、米国証券取引委員会(SEC)に、当面のTelegramによるグラム・トークンの配布を妨げるための暫定的な差止め命令を付与した。

 同時に判事はTelegramの主張を否定し、「経済的現実は、Gram Purchase Agreementと、最初の購入者によるTON Blockchainを介した一般への予想されるGramの配布は、単一のスキームの一部である」と判断した。(この部分は20204.14National Law Review報告「Hanging on the Telephone: Judge Enters Order Blocking Telegram ICO」から一部抜粋、仮訳した)

3.連邦地裁の判決を受けたTelegramの動き

 Telegramは、2020年5月12日、CEOであるPavel Valerievich Durov氏自身が「What Was TON And Why It Is Over」と発言し(注4)、ブロックチェーン・プロジェクトであるTON(Telegram Open Network)を放棄したと発表した。その背景には、2019年10月以降続いているSECとの訴訟問題による影響を受けての放棄といえよう。(注5) (注6)

 このCEOはIT時代の先行経営者かもしれないが、その発言内容はSECや裁判官を説得するには不十分であることは言うまでもない。単なる愚痴で一般投資家などを説得できる内容とは思えない内容であるが、逆に参考になると思われるので(注1-3)であえて全文を仮訳する。

 一方、今後今回の裁判を前例として今後同様のビジネスに対して、SECのチェックが行われることは明らかであるが、他方、わが国の暗号通貨や暗号資産の法的側面、金融面、監督面等からの検討は遅々として進んでいない。

 あえて、わが国において海外のICOの動向につき調査した資料としてあげるとすれば、2018.11.1 金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第8回) 資料3、資料2であろう。また、同研究会の報告書「2018.12.21仮想通貨交換業等に関する研究会 報告書」(全38頁) も同様に参考になろう。

 筆者自身、このニュービジネスは「ITねずみ講」といってもおかしくないと考えているが、この議論は機会を改めたい。

4.2020.3.24判決文の原本探し

 普通に考えるのは、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の判決データベースで調べる方法であろう。しかし、同裁判所のリリース・データベースで検索してもヒットしない。

 前述したNational Law Review解説の最後に事件番号が記載されていたのでjustica .comで検索したところ、44頁にわたる判決原本に行きついた。同サイトは学生、研究者向けに網羅されており、有用なデ-タベースである。

5.1933年証券法の条文の正確に理解する方法

 1933年証券法第5条(a)および第5条(c)の登録規定の内容は如何、果たして米国の関係機関の解説では条文そのもの解説には言及していない。

 筆者はその分野の専門家なので、あえて調べ方の手順につき補足する。

(1) 法律名で調べる、合衆国法典で調べる方法がある。

 連邦法の場合、連邦議会はその2年の会期中に多くの法律を制定される。それは Act として指定されそのうち Public Law は議会で成立の後、United States Code という連邦法令集に搭載されるのでPublic Lawで調べる。

 具体的に見ると、Security Act of 1933 または、 15U.S.C 77a以下 または Pub. L. 73-22(1933年時の法律のまま)で調べられる。

 問題はここからである。SECのリリース文は1933年証券法第5条(a)および同条(c)を引用している。しかし、議会で可決したりその後Public lawで掲載された以降、米国連邦法は法令集(U.S.C.)に移管される。ここで管理番号が変わるのである。この場合、5§77eとなる。

(2)有名なコーネル大学ロースクールの法令検索を使ってみる。

U.S. Code Title 15. →COMMERCE AND TRADE Chapter 2A. →SECURITIES AND TRUST INDENTURES Subchapter I. DOMESTIC SECURITIES

 ここまできてやっと「§77e Prohibitions relating to interstate commerce and the mails」に行きつくのである。

5

(a)   Sale or delivery after sale of unregistered securities

Unless a registration statement is in effect as to a security, it shall be unlawful for any person, directly or indirectly—

(1) to make use of any means or instruments of transportation or communication in interstate commerce or of the mails to sell such security through the use or medium of any prospectus or otherwise; or

(2) to carry or cause to be carried through the mails or in interstate commerce, by any means or instruments of transportation, any such security for the purpose of sale or for delivery after sale.

(b)略す

(c) Necessity of filing registration statement

It shall be unlawful for any person, directly or indirectly, to make use of any means or instruments of transportation or communication in interstate commerce or of the mails to offer to sell or offer to buy through the use or medium of any prospectus or otherwise any security, unless a registration statement has been filed as to such security, or while the registration statement is the subject of a refusal order or stop order or (prior to the effective date of the registration statement) any public proceeding or examination under section 77h of this title.

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(注1) Telegram(テレグラム)はTelegram Messenger LLPが開発するインスタントメッセージシステムである。メッセージを暗号化することによりプライバシーを担保し、全てのファイルフォーマットを送受信できることを特徴とする。また、APIが公開されているためユーザーが非公式クライアントを作成することが可能である、クライアント側はオープンソースでサーバ側はプロプライエタリ・ソフトウェアである。(Wikipediaから抜粋)

(注2 ) Initial coin offering(ICO、イニシャル・コイン・オファリング)とは、一般に、企業等がトークンと呼ばれるものを電子的に発行して、公衆から法定通貨や暗号通貨の調達を行う行為を総称するものをいう。ICOの仕組みにはバリエーションがあり得るが、コイン(デジタル・トークン)の発行体が、事業計画や資金使途を示した上で、当該事業等に賛同・共感する、あるいは出資を求める投資家から資金調達を行い、その対価としてコインを発行するのが標準的な仕組みである。インターネットなどのデジタル空間で募集が行われ、コインの対価の払い込みは暗号通貨によって行われることが多い。伝統的な株式公開やファンド出資の募集に比べて、簡易・迅速な手続きで資金調達ができることが狙いとされることも多いが、既存の法制度がどう適用されるかについては、いまだ不透明な部分も広く、コインの保有者が有する権利の性質によっては、有価証券を用いた資金調達と同視されることもある。(Wikipediaから抜粋)

(注3) マンハッタンの連邦地方裁判所に2019年10月11日提出されたSECの告訴(complaint)申し立ては、1933年証券法の第5条(a)および第5条(c)の登録義務規定に違反している両方の被告に告発し、(1)特定の緊急救済ならびに(2)恒久的な差止め命令(permanent injunctions)、(3) 判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interest)、(4)民事制裁金を求めたものである。

(注4)  ドゥーロフCEOの声明文を全文仮訳する。なお、注記やリンクは筆者の責任で行った。

 過去2,5年間、私たちの最高のエンジニアの何人かは、「TON」と呼ばれる次世代のブロックチェーン・プラットフォームと、「Gram」と呼ばれる暗号通貨に取り組んできた。TONは、ビットコイン( bitcoinは、公共トランザクションログを利用しているオープンソースプロトコルに基づくPeer to Peer型の決済網および暗号資産)とイーサリアム(Ethereum.org)によって開拓された分散化の原則を共有するように設計されているが、スピードとスケーラビリティにおいてそれらよりも非常に優れている。

bitFlyerのビットコイン価格/相場チャート

 我々は、その結果を非常に誇りに思っていた。すなわち、我々が作成した技術は、価値とアイデアのオープンで自由で分散した交換を可能にした。テレグラムと統合されたTONは、人々が資金や情報を保存し、転送する方法に革命を起こす可能性を秘めていた。

 残念ながら、米国の裁判所はTONが起こるのを止めました。どう。何人かの人々が金鉱山を建設するためにお金を一緒に入れて、後でそれから出てくる金を分割することを想像してみてください。その後、裁判官が来て、鉱山建設業者に言います: "彼らは利益を探していたので、多くの人々が金鉱山に投資しました。そして、彼らは自分でその金を望んでいなかった、彼らは他の人にそれを販売したかった。このため、あなたは彼らに金を与えることはできない。

 これがあなたにとって意味をなさないなら、あなたは一人ではない。 しかし、これはまさにTON(鉱山)、その投資家、グラム(金)で起こったことである。米国の裁判官は、人々がビットコインを売買できるようにグラムを売買することを許されるべきではないと判断するために、この推論を使用した。

 おそらくさらに逆説的にいえば、米国の裁判所は、グラムは米国だけでなく、世界的に配布することができないと宣言した。なぜか。なぜなら、米国市民は、それが立ち上げた後、TONプラットフォームにアクセスする何らかの方法を見つけるかもしれないといった。だから、これを防ぐために、グラムは、地球上の他のすべての国がTONで完全に大丈夫と思われたとしても、世界のどこにでも配布することは許されるべきではないことになる。

 この裁判所の決定は、他の国が何が良いか、何が自国民にとって悪いかを決定する主権を持たしないことを意味する。アメリカ人が突然コーヒーを禁止することを決め、イタリアのコーヒーショップを閉鎖するよう要求した場合、アメリカ人が行くかもしれないので、私たちは誰もが同意するだろうと思う。

 しかし、それにもかかわらず、我々はこれ以上にTONを進めないとする困難な決断を行った。

 悲しいことに、米国の裁判官は一つのことについては正しい。すなわち、我々米国外の人々は、我々の大統領等に投票し、議会に選出することができるが、我々はまだ金融と技術に関しては米国に依存している(幸いにもコーヒーではない)。米国は、ドルと世界の金融システムに対する統制を利用して、世界の銀行や銀行口座を閉鎖することができる。アップルとグーグルのコントロールを使用して、App StoreとGoogle Playからアプリを削除することができる。だから、他の国が自国の領土に何を許可するかについて完全な主権を持っていないのは事実である。残念ながら、世界の人口の96%が、米国に住む4%の人によって選ばれた意思決定者に依存している。

 これは将来変更される可能性がある。しかし、今日、私たちは悪循環に陥っている。すなわち、それは非常に集中しているので、過度に集中した世界に多くのバランスをもたらすことはできない。しかし、我々は実際に試してみた。私たちは、バナーを拾い、私たちの間違いから学ぶために、次世代の起業家や開発者に任している。

 私はテレグラムのTONとの積極的な関与が終わったことを正式に発表するために、この記事を書いている。自分の名前やTelegramブランド、または"TON"略語を使ってプロジェクトを宣伝しているサイトが表示される場合がある。あなたのお金やデータでもってそれらを信頼しないでください。われわれのチームの現在または過去のメンバーは、これらのプロジェクトのいずれにも関与していない。我々がTONのために構築した技術に基づくネットワークが現れるかもしれないが、我々は彼らと提携を持つことはないし、何らかの方法でそれらをサポートすることはほとんどない。だから注意してほしい、そして誰もあなたを誤解させないでほしい。

 私は世界の分散化、バランス、平等のために努力しているすべての人々に幸運を願って、このポストを締めくくりたいと思う。あなたは正しい戦いを戦っている。この戦いは、我々の世代の最も重要な戦いかもしれない。我々は、あなたが私たちが失敗したところで成功することを願っている。

(注5) ロシア発の暗号化メッセージングアプリ「テレグラム」が独自のブロックチェーンTON(Telegram Open Network)とTONの独自トークン「グラム(Gram)」を放棄する方針を発表した。人気プライバシートークアプリ「テレグラム」は5月12日、独自のブロックチェーンTON(Telegram Open Network)と仮想通貨「グラム(Gram)」のローンチ計画を完全に放棄する方針をテレグラムのパヴェル・ドゥーロフCEOが発表している。

(注6) パーヴェル・ヴァレリーヴィッチ・ドゥーロフ( Pavel Valerievich Durov :ロシア語: Па́вел Вале́рьевич Ду́ров,1984年10月10日生まれ)は、SNSのフコンタクテ、ロシア語: ВКонтакте, ラテン文字転写: VKontakte)は、ロシアを中心とするソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のひとつである“VK”および暗号化メッセージングアプリのTelegramの創設者として知られるロシアの起業家である。(Wikipediaから抜粋)

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「ビットコインが急落、中国人民銀行等が仮想通貨の新規公開(ICO)は違法かつ人民元との交換や換金禁止宣告がその背景」

2017-09-05 16:20:20 | 海外の通貨・決済システム動向

 筆者は、さる8月30日付けブログで「SEC投資家向け告示:イニシャル・コイン投資への立法措置と詐欺対策(日米の比較)(その1)」「同(その2)」を論じた。9月5日、わが国 (注1)および海外メディア(注2) は中国政府のバーチャル通貨のICOの禁止措置通達を受けた価格の大幅下落を報じた。

 しかし、これらの記事内容はICOが本質的に持つリスクについて十分は論じていない。そのせいか、またぞろ価格の下落時が買い時という詐欺投資サイトが闊歩している。 

 その意味で筆者は、金融リテラシーの一環として中国の金融メディアや中央銀行である中国銀行の公告内容を仮訳しながら、ICOをめぐるリスクと投資詐欺被害の広がらないよう投資家や消費者に警告を発する必要性を感じ、本ブログを急遽まとめた。 

 翻訳時間の関係で、今回はとりあえず米国先端技術専門サイト”Tech Crunch”の解説内容のみの仮訳を行う。後日、中国の金融専門ニュースサイト”Caixin”の具体的な記事や中国人民銀行の告示通達、その他の関係機関の情報につき、詳しく解説したいと考える。 

1.米国先端技術専門サイト”Tech Crunch”の解説内容

 筆者は毎日”Tech Crunch”記事を読んでいるが、今回紹介する記事「中国はICOを禁止」は中国の金融専門メデイアや中央銀行の告示内容のリンク等が他のメディアに比してしっかりできていることが取り上げた理由である。以下、仮訳する。なお、リンクは筆者の責任で行った。 

 少なくとも今は中国の人たちのとってICO投資のための新しい時代が来ているように見えている。しかし、米国では、SECがすでにトークン販売とも呼ばれるICOのリスクを「公式に警告」 (注3)しているが、一方、中国政府も、急速に増えている資金調達オプションについて規制を履行するようになっている。  

 94、中国の中央銀行(中国人民銀行)が率いる委員会からの通知(注4)は、、「経済と金融秩序を重大な意味で乱している」としてICO資金調達の即時禁止措置を発表した。  

  中国の金融専門ニュースサイトCaixinは 、同委員会が検査と報告の対象となる60の取引所(バーチャルコインのプラットフォーム)のリストを作成したと報告した 。その間、中国ではICOの取引は凍結される。  

 ICOは、一般的にEthereumをベースにした新しい暗号通貨を作成して投資家に売却することで資金調達が行われる。それは、中国の金融監督当局が投資スペースを規制するかどうかについて、多くの投機的性格をもつ証券業務との比較につながった。  

 中国の委員会は、いくつかのICOが金融詐欺やねずみ講類似の仕組みであるとの懸念を表明した。これは、シンガポール通貨監督庁(Monetary Authority of SingaporeMAS)からの最近の警告を反映したものである。  

 シンガポールの中央銀行であるMASは、8月1日の声明において「ICOは、取引の匿名性のために、マネー・ローンダリングやテロ資金調達のリスクに脆弱性があり、また短期間に大金を投資家から巻き上げる可能性がある」と述べた。  

 委員会の調査リストでははっきりとしていないが、すでに中国最大のICO購入プラットフォーム( トークンを売っている企業とバイヤーを結ぶ)2社であるICOage ”ICO.info- はサービスを一時停止し、新しいプロジェクトにつきステップを取り始めた。これら2社は、自らの中断は自発的であると述べた。  

 今年開催されたICOの数は世界中で非常に増加している。 ゴールドマン・サックスの報告書によれば 、2017年上半期のトレーニング販売からの総額は、従来のベンチャーキャピタルからの初期段階の投資支出を上回ったとある。  

 今年は、ICOの資金調達が16億ドル(約1744億円)を突破したと言われている。既にBitcoin等2つのコイン事業者は10億ドル以上の時価総額にまで成長しているが、現在のところその市場に商品がないため、そのランドマークの意義は不明である。  

 世界で最も活発なビットコイン・コミュニティの1つを保有する中国は、トークンを売っている企業とバイヤーがそれらを魅了している点で、ICOブームの重要な要素となっている。 

 国営メディア企業の新華社通信は、7月に中国企業が今年上半期に105,000人の投資家から3億8300万ドル(約417億4700万円)を調達したと報じた。  

 米国SECは、規制強化の発表にもかかわらず、まだICO堅調な動きをしていないため、世界の眼はどのような仕組みがICOを支配するのか、実際にあらゆる種類のICOが規制されるのかどうか、中国に目を向けるだろう。また、中国が果たした著しい役割を考えると、ICO市場や暗号通貨の一般的な取り締まりの可能性を見極めることも興味深いであろう。  

 長年暗号通貨を見てきたウォチャーは、中国が人民元の通貨を使ってビットコインや他の暗号コインを購入することを許可しないようにすることを中国が禁止した2013年を思い出させるであろう。その結果、これら通貨は巨額の価格下落があったが、人民元金預金への支援が戻り、ビットコインが新たな高値にまで上昇した場合の価格  直近の取引所では5,000ドルとなっている。  

2.北朝鮮の核実験や中国のICO禁止措置等規制強化によるBitcoin等の通貨としての大きなリスクを実証

 2015.9.5付けのTechcrunch”記事は「Bitcoinは、世界的な混乱の時代の避難所としてのテストに失敗した」という記事を載せている。

 記事を要約すると、北朝鮮の挑発的な核実験に続き、週末に株式やその他の資産とともに落ち込んでいる。非国家管理通貨たるデジタル通貨が将来の避難所であると信じるならば、トレーダーは今日のようにビットコインを扱ってはいけない。 

 北朝鮮の核計画に関する世界的な緊張の中で、ゴールド、さらには日本円(東京は平壌から約800マイル)はビットコインを大きく上回っている。

 また、最近の暗号化通貨の価格の大幅低下は、中国の暗号化トークン販売を「不正な資金調達の慣行」と呼んでいる中国のICO公開に対する取締りにも起因している。このニュースに対するBitcoinの価格感受性につき、その価格は9月2日にピークに達し、北朝鮮の水素爆弾実験を迎え、大きく下落した。中国は9月4日にICOに関する声明を発表している。

 

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(注1) 2017.9.5 日経新聞「中国のICO全面禁止、広がる波紋 仮想通貨下落:日本人プロジェクトは中国語サイト閉鎖 」を一部引用する。 

中国当局が4日、仮想通貨発行による資金調達「新規仮想通貨公開(公募)(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)」を全面的に禁止した影響が広がっている。米情報サイトによると、ビットコインなどの仮想通貨全体の時価総額は1日前に比べて約2兆円下落した。香港を拠点に日本人が主導するICOプロジェクトは中国語サイトを一時閉鎖すると発表した。

 (注2) 2017.9.5 B Bloomberg「ビットコインが急落、中国人民銀行が仮想通貨の新規公開は違法と宣告」

 仮想通貨ビットコインの価格が4日急落し、7月以来の下げ幅を記録した。中国人民銀行(中央銀行)がイニシャル・コイン・オファリング(ICO)を違法とし、関連する資金調達活動全てを即時停止するよう通告したことが背景にある。急成長中の仮想通貨市場にとっては、規制面でこれまで最大の課題を突きつけられた格好だ。 

 人民銀行は4日にウェブサイトで、ICOに対する調査を完了したと説明。今後ICOが行われた場合には厳罰に処すとともに、実施済みのICOについても法規違反で処罰すると明らかにした。同行によると、ICOでの調達資金は返金しなければならない。ただ、返金方法について具体的な指示はしていない。 

 人民銀行はまた、仮想通貨の取引所が法定通貨との交換を行うことも禁止。仮想通貨を市場で通貨として使用したり、銀行がICOのサービスを提供することも禁じた。 

 この発表を受け、ビットコインは前週末比で11.4%安の4326.75ドルまで売り込まれた。コインデスクのデータによると、同じく仮想通貨のイーサリアムは4日、16%を超える下げに見舞われた。 

  中国の国家インターネット金融安全技術委員会によれば、7月18日現在で同国内には43のICOプラットフォームがあった。65件のICOの調査が実施され、調達資金は26億元(約440億円)に上った。

 なお、同委員会が検査と報告の対象となる60の取引所(バーチャルコインのプラットフォーム)のリストを作成したと報告

(注3) ここでいうSECのICOにかかる警告とは、2017.8.30付けの前述の筆者ブログで取り上げたものである。併せて参照されたい。

 (注4) 2017.9.4 中国人民銀行の公告「中国の人民銀行、中央政府の産業と情報技術省の産業省、銀行規制委員会、中国保険監督管理委員会は、トークンのリスクの防止に融資を発行した(中国人民银行 中央网信办 工业和信息化部 工商总局 银监会 证监会 保监会关于防范代币发行融资风险的公告)」

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SEC投資家向け告示:イニシャル・コイン投資への立法措置と詐欺対策(日米の比較)(その2完)

2017-08-30 14:47:01 | 海外の通貨・決済システム動向

(5) ICOに参加するかどうかを決定する際に考慮すべきいくつかの要点

 もしICOに参加することを検討している場合は、考慮すべき事項がいくつかある。 

 事実や状況によっては、投資の公募には有価証券の売買が含まれる場合がある。その場合、バーチャル・コインまたはトークンの投資の公募および販売は、それ自体がSECに登録されなければならず、または正規な登録の免除が行われなければならない。ICOに投資する前に、バーチャル・トークンまたはコインが有価証券であるかどうか、またそれらを売っている人物がSECに公募を登録しているかどうかを尋ねなくてはならない。この登録について心に留めておくべきことは次の点である。 

① もし投資の公募が登録されている場合は、 SEC.govからEDGAR(米国SEC企業財務情報電子開示システム」) (注11)までの情報(登録票または "Form S-1"など)を見つけることができる。 

② プロモーションに登録が免除され、認定された投資家ではないと述べた場合、ほとんどの免除には純資産または所得要件が適用される。 

③ ICOは、時折、クラウドファンディング契約(crowdfunding contracts)と呼ばれることもあるが、「Crowdfunding規則」 (注12) や連邦証券法の要件に準拠せずに提供されたり、販売されている可能性がある。 

④ あなたのお金がどのように使用されるのか、バーチャル・コインまたはトークンがあなたに提供する具体的権利の内容を尋ねるべきである。プロモーターは、あなたが読むことができ、かつ理解できる明確なビジネスプランを持っていなければならない。トークンやコインがあなたに与える権利は、白紙や開発ロードマップの中に明確にレイアウトする必要がある。あなたは、あなたがそのようにしたい場合に、いつ、どのようにしてあなたのお金を元に戻すことができるのかを具体的に尋ねるべきである。たとえば、トークンやコインを会社に返還する権利や払い戻しを受ける権利があるか?または、コインまたはトークンを再販することはできるか? コインやトークンを転売できる能力に制限があるか? など 

 ⑤ バーチャル・トークンまたはコインが安全である場合、連邦および州の証券法では、ライセンスを提供または登録する投資を提供、取引またはアドバイスする投資専門家およびその投資会社が必要である。この点はInvestor.gov にアクセスして、これらの投資専門家の登録状況と背景を確認することができる。

 ⑥ ブロックチェーン が広く一般に公開されているかどうか、コードが公開されているかどうか、独立したサイバーセキュリティ監査が行われているかどうかを確認する必要がある。  

⑦ 詐欺師はしばしばイノベーションと新技術を使用して不正な投資スキームを実行する。 詐欺師は、この最先端の空間に乗り出す方法としてICO資の「機会」を宣伝し、高い投資利益を保証することによって投資家を誘惑する可能性がある。 

⑧ 投資家は、素人にはわからない業界の専門用語だらけの売り口上、強引な押し売り(hard sells)、および特大のリターンの約束を常に疑うべきであるう。また、実際には詐欺であるにもかかわらず、ブロックチェイン技術を使用して誰かが印象的なICOを作成するのは比較的簡単である。  

⑨バーチャル通貨交換やバーチャル通貨、バーチャルトークンまたはコインを保有する他の事業体は、詐欺、技術的不具合、ハッキング、またはマルウェアの影響を受けやすい可能性があるし、バーチャル・トークンまたはバーチャル通貨は、ハッカーによって盗まれる可能性もある。 

⑩ ICOに投資すると、詐欺や盗難の場合の資金回収が制限されることがある。連邦証券法に基づく権利があるかもしれないが、あなたの資金回復能力は大幅に制限されることがある。

 (6) 法執行当局は、ICOを調査する際に特別な課題に直面し、結果として投資家の救済が制限される可能性

 これらの具体的な課題は次のとおりである。 

① バーチャル貨幣の追跡は困難: 従来の金融機関(銀行など)は、しばしばICOや仮想通貨取引に関与しておらず、このことが通貨の流れを追跡することをより困難にしている。 

② 国際的な範囲の拡大: ICOと仮想通貨取引とユーザーは世界中に広がっている。 SECは海外からの情報(国境を越える契約など)を定期的に取得しているが、SECがどのように情報を利用するかには制限があり、情報の入手に時間がかかることがある。場合によっては、SECは海外にいる個人または団体から情報を入手できない場合がある。 

③中央監督省庁となる監督機関がない: バーチャル通貨ユーザ情報を収集する中央権限がないので、SECは一般に、この種の情報のために他の情報源に依存しなければならない。

 ④ バーチャル・カレンシーをフリーズしたりまたは安全性確保が困難: 法執行当局は、仮想通貨で保有されている投資家の資金を凍結または確保することが困難な場合がある。バーチャル・カレンシー・ウォレット (注13)は暗号化されており、銀行や証券会社の口座に保管されている金銭とは異なり、バーチャル通貨は第三者証券保管機関(third-party custodian) (注14)によって保持されていない場合がある。  

(7) 投資詐欺のこれらの潜在的な警告兆候のいずれかを見つけたら注意すべきである。 

① 保証された高い投資収益率:高い投資利益を保証するものはない。リスクがほとんどまたはまったくなく、投資収益率が高くなることを約束する勧誘者には注意すべきである。 

② 頼んでもいない勧誘:頼んでもいない一方的な迷惑販売計画は、詐欺的な投資計画の一部である可能性がある。迷惑な勧誘通信を受信した場合(頼んでもいないし、発信者が誰であるかがわからないということを意味する)、投資の機会について慎重に考えてください。 

③本当に良いものと感じる:投資が本当に良いと思われるならば、それはおそらくそうで在ろう。しかし、より高い投資収益を提供する投資は、通常、より多くのリスクを伴うことを忘れてはならない。

 ④ 今すぐ購入すべきという圧力: 詐欺師は、投資に乗り出すための偽りの意識を作り出そうとするかもしれない。あなたは金を引き渡す前に、投資機会を研究する時間を十二分に費やしてください。 

⑤ 無許可の売り手: 多くの詐欺的な投資スキームには、無免許の個人または未登録の企業が関与している。” Investor.gov”で、証券業免許とその登録状況を確認すべきである。 

⑥ プロモーターには純資産や所得要件がない。 連邦証券法では、登録の免除が適用されない限り、SECに証券提供を登録する必要がある。 多くの登録免除では、投資家は公認投資家であることが求められる。 他には投資制限があります。 純資産や所得を問わないプライベート( すなわち、登録抹消)投資機会や、投資限度額が適用されるかどうか疑わしいものであること。  

⑦ 投資をする前に、あなたが与えられた資料を慎重に読んで、あなたが投資について言われたすべてのステイメントの真実性を検証してください。投資の研究方法の詳細については、SEC出版物「 Ask Questionsを参照してください 。 投資を行っている個人や企業を調査し、 Investor.gov背景を確認し、 州の証券監督当局に連絡してください。多くの詐欺的な投資スキームには、必ず無免許の個人または未登録の企業が関与している。 

2.わが国のバーチャル・コインの法規制にかかる考えと筆者の意見 

 改正資金決済法(平成28年法律第62号)第3章の2として「仮想通貨」を追加した。同法第2条5項として「仮想通貨」を定義した。

(1) 改正資金決済法2条5項を整理すると、仮想通貨とは次の①~⑤の全てを満たすものと定義することができる。(弁護士 遠藤元一氏のブログ から引用)

(2) ①(a)不特定の者に対して代価弁済のために使用することができ(「使用可能」)、かつ、不特定の者と購入及び売却を行うことができる(「売買可能」)、または、

(b)不特定の者と(a)をみたすものと相互に交換を行うことができる(「交換可能」)

②財産的価値であり

③電子的方法により記録されている

④本邦通貨及び外国通貨(以下「法定通貨」という)並びに通貨建資産(法定通貨をもって表示され、または法定通貨をもって債務の履行等が行われることとされている資産)でないこと

⑤電子情報処理組織を用いて移転可能なもの 

 以下の内容は、弁護士 坂本 有毅氏「弁護士が解説!改正資金決済法と仮想通貨への影響まとめ」から一部抜粋した。 

○ 仮想通貨の共通の特徴

① 発行者の不存在、

② 分散型の取引記録および匿名性

 仮想通貨には特定の発行者が存在しないことから、仮想通貨の取引の記録は、大まかにいえば当該仮想通貨の利用者全員が保持する分散型の仕組みとなる。

 各利用者は、利用に際して、仮想通貨の仕様(発行、記録、決済等の方法)が実装されたウォレットというソフトウェアを入手する必要がある。

 そして、(ウォレットの種類によって保持する範囲は異なるが)そのウォレットを通じて、各利用者の下に取引の記録が保持されることになる。

 ウォレットを第三者から入手する、またはウォレット機能そのものを第三者に委託する場合は、当該第三者が何らかの許認可を得ている業者であれば、当該第三者に適用される規制が利用者にも間接的に影響することになるが、自ら作成し、仮想通貨を自主管理すれば特段そのような制限は及ばず、本人確認を受けることなく匿名性を維持したまま利用することも可能となる。

③ ブロックチェーンと「発掘」による新規生成

 仮想通貨のある利用者から他の利用者への移転取引は、発行開始時からの全利用者の全取引が記録されている。

 移転取引は、一定量ごとに一つのブロックにまとめられて内容が確定し、その後は新しいブロックが開始することを繰り返し、ブロックが鎖のように連なっていくことから、このような記録形態はブロックチェーンと呼ばれている。

 新しいブロックを簡単に接続できるようになっていると、第三者が真実の移転取引とは異なる不正な取引を勝手に実施しても、その不正な取引をまとめた正しくないブロックも次々と接続できてしまうので、仕様上、一つのブロックが完結して次のブロックを接続する際には、大まかにいえば一定の暗号を総当たり手法で解読することが必要となっている。

 解読には優れた計算能力が求められ、そのための投資も必要となることから、最も早く解読した利用者に、報酬として一定量の新規に生成した仮想通貨が付与される。

 この新規生成分の獲得を目指して大量のコンピューターを調達し、解読のための計算を実施することを俗に「発掘」、それを営む利用者を「発掘者」と呼ぶ。

 この仕様により、不正な取引を記録しようとしても、他の発掘者全員の計算能力を上回らない限り、正常な取引が次々と記録される速度を上回ることができず、実際にはうまくいかないことになる。(逆にいえば、一定数の発掘者が団結した場合、分裂を含む仕様の変更が生じる可能性もある。)

 また、移転取引(の累積によるブロック更新)の費用は当面この発掘の報酬で賄われるため、安価な手数料での迅速な決済が可能となる。 

3.仮想通貨事業者としての行うべき手続き、監督官庁

(1) 仮想通貨交換業の登録

(2) 内閣府令で、財産基盤として以下の規定が定められている。

①資本金1,000万円以上 

②純資産額が、マイナスではないこと

また、事業者には、分別管理や顧客への情報提供の措置が必要である。

(3) 事業者から顧客への情報提供の具体的な方法とは?

「内閣府令(仮想通貨交換業者に関する内閣府令)」:「仮想通貨交換業者は、仮想通貨交換業の利用者との間で仮想通貨交換業に係る取引を行うときは 、あらかじめ当該利用者に対し、書面の交付その他の適切な方法により、次に掲げる事項についての情報を提供しなければならない(第17条)」

「金融庁ガイドライン」:インターネットを通じた取引の場合には、利用者がその操作するパソコンの画面上に表示される説明事項を読み、 その内容を理解した上で画面上のボタンをクリックする等の方法

 対面取引の場合には、書面交付や口頭による説明を行った上で当該事実を記録しておく方法がそれぞれ考えられる。 

*2017324 金融庁は、「銀行法施行令等の一部を改正する政令等(案)」、「貸金業法施行令の一部を改正する政令(案)」等及び「銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令等(案)」のパブリックコメントを踏まえ、各政令につき同年41日施行した。なお、改正後の事務ガイドライン及び監督指針についても、平成29年4月1日から適用された。

(4) 仮想通貨事業者が守るべき「情報セキュリティ対策」

「金融庁ガイドライン」参照。 

(5) マネーロンダリング規制法に準じた対策が必要

 平成28年銀行法等改正法により、犯罪による収益の移転防止に関する法律も改正され、仮想通貨交換業者も適用対象に含められることになった。すなわち、仮想通貨事業者は、マネーロンダリング規制法といわれる「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に定める以下の措置を取る必要がある。

•取引時確認

•取引記録等の保存

•疑わしい取引の届出等の措置 

(6) 金融庁では、「銀行法施行令等の一部を改正する政令等(案)」、「貸金業法施行令の一部を改正する政令(案)」等及び「銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令等(案)」の内容をパブリックコメントに付したのち、平成29年4月1日(土)から施行した。本ブログで述べたとおり、これまで多くの点が法規制、規制監督の枠外と言われてきた仮想通貨がいよいよ通貨の色合いを濃くする段階に入った。ただし、ICO投資時の投資家保護という観点からはなお徹底されていないと思う。 

4.税制度等の残された課題等

 筆者は税務の専門家ではないし、またわが国ではなお明確になっていない点も多い。現時点で関係資料で明らかとなっている範囲でまとめた。

(1) 消費税○仮想通貨は、その価値を認める他人に交付する以外の使途が現状想定されないことから、経済的には(日本国内では強制通用力のない)外国通貨や前払式支払手段に類似しており、非課税とすることが望ましいと考えられる。

また、物理的実体を有しない価値情報であるという性質上、国境を越えた取引も容易であり、課税取引のままでは、仮想通貨が非課税とされている国又は地域との間での仮想通貨の売買と、国内での仮想通貨の売買に不均衡が生じることにもなる。 

ただ、仮想通貨は、性質ははっきりしないものの何らかの資産ではあることから、その売買が定義上「資産の譲渡等」であることは否定しがたいため、非課税とするためには税制改正によりその旨の規定(例えば、消費税法第6条第1項及び別表第一の第2号〈外国通貨〉、第4号〈電子マネー等〉)を設けることが必要になる。 

○仮想通貨の取引について 2017年7 月1日より消費税が非課税となった。(消費税法施行令の一部を改正する政令:平成 29 年 3 月 31 日付官報(号外特第7号)250 頁) 

(2) 所得税:仮想通貨で得た収入は個人であれば「雑所得」で総合課税の対象となるという見解が税理士から出されている。 

 なお、サラリーマンの場合、仮想通貨(暗号通貨)の利益が年間20万円以下の場合、確定申告の義務は生じない(ただし住民税の支払い義務は必要になるので、3月中旬までに市区町村役場の税務課に所得申告が必要になる) 

(2) 地方税:都道府県民税・市区町村民税の2種類で、1月~12月の間に利確したトータル金額から原資を差し引いた金額が利益になる。

 (3) 資金洗浄・テロ資金供与対策

 金融庁等のサイトが詳しく論じているのでここでは略す。 

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(注11) EDGAR(エドガー:Electronic Data-Gathering, Analysis, and Retrieval system)とは、企業その他法人が1933年米国証券法および1934年証券取引所法等に基づき証券取引委員会 (SEC)へ提出が義務付けられている書類を自動収集・確認・分類・受理等するためのシステムの名称である。なお、日本の金融庁所管のEDINETは、EDGARをモデルとして作成されている。(Wikipedia から一部抜粋) 

(注12) SECの”Regulation Crowdfunding”の解釈指針を参照。なお、同サイトでは次のような解釈指針の取扱い上の注意が記載されている。以下で、仮訳する。

「以下の述べるコンプライアンスおよび開示の解釈指針(「C&DI」)は、コーポレート・ファイナンス部門の職員による規制当局によるクラウドファンディングの解釈を含む。

証券取引委員会の「規則(rule)」、「レギュレーション(regulations)」、「声明(statements)」ではない。 さらに、委員会はこれらの解釈を承認も否認もしていない。これらのポジションには、必ずしも結論に達するために必要なすべての重要な考慮事項の議論が含まれているわけではなく、非常に非公式な性質のために拘束力がない。したがって、これらの対応は一般的なガイダンスとして意図されており、最終的なものとして信頼すべきではない。 記載されたポジションが予告なしに変更される可能性があるため、これらの解釈で提示された情報が最新のものであるという保証はない。 

(注13)  主なE-WALLET(電子財布)一覧 MAIN DOMESTIC VIRTUAL CURRENCY EXCHANGE 

 仮想通貨はその性質上その管理は自己責任になります。よって、管理はウォレットと呼ばれる場所で管理する。

 このウォレットには、主に次の5種類のものがあります。

1.取引所のウォレット:

取引所では仮想通貨を購入すると、そのまま取引所のウォレットに保管されます。

したがって、いつでも取引可能なので、急な相場の変動にもすぐに対応できます。

ですが、ハッキングによる第三者の攻撃や取引所自体の不正などにさらされる可能性があります。

2.ウェブウォレット・オンラインウォレット:ウェブウォレット・オンラインウォレットは、取引所とは別の第三者が運営しているウェブ上のウォレットになります

取引所に置いておくよりは、ある程度リスクは低いものの取引所と同程度のリスクが存在します。

3.デスクトップウォレット:

パソコン上にダウンロードしたアプリによって管理する方法です。多くは仮想通貨の発行元が提供しています。

例えば、NEMの場合https://www.nem.io/install.htmlで手に入れることができます。

オンライン上のウォレットと比較するとかなりリスクは低くなります。

ただし、パソコンがハッキングされたり、パソコンが破損して仮想通貨を利用出来なくなったりする可能性はあります。

4.ハードウェアウォレット:

ハードウェアウォレットは、インターネットとつながっていないUSBメモリのような形をしたタイプのウォレットです。

際には、ハードウェアウォレット内に仮想通貨を入れておくわけではなく、秘密鍵と呼ばれるパスワードのようなものを保管するものです(秘密鍵については、別の機会に紹介します)。

この秘密鍵が無いと仮想通貨を取引所に送金することが出来ません。よって、仮想通貨を安全に管理することが出来ます。もちろん物理的に壊れる可能性があるというリスクはあります。また、主要な仮想通貨には対応していますが、マイナーな通貨には対応していないというデメリットもあります。

5.ペーパーウォレット:

ペーパーウォレットは、紙に秘密鍵を保存するタイプのウォレットです。ネットからは完全に隔離されているので、セキュリティ面から見ると最も安全です。ですが、紙の性質上、印刷が消えたり、燃えたりする可能性があります。ですので、安全に保管するには、耐火性金庫を買う必要があります。( 「今話題の仮想通貨とは?仮想通貨の概要や取引、リスクについて解説 」から一部抜粋) 

(注14) 「第三者カストディアン(Third -Party Custodian)」は、投資家に代わって、株式や債券などの有価証券の保管・管理を行う金融機関のことをいいます。・・一般にカストディアンの役割は、有価証券の保管・管理だけではなく、元利金・配当金の代理受領、預り運用資産の受渡し決済、運用成績の管理、議決権の行使、コーポレートアクションの報告など広範囲に及んでいます。(iFinaceから一部抜粋)

ミューチュアルファンド(mutual fund)ヘッジファンドまたは証券先物基金(commodity pool:多数の者が出資した資金を、先物契約または商品オプション取引のために共同運用する企画)などの投資ファンドでは、第三者の保管機関が投資顧問(またはファンドマネージャー)とクライアントとの間の仲介機関として機能する。このアプローチでは、ファンドマネージャーまたは顧問は決して顧客の小切手、預金または引き出しを直接処理しない。

 典型的な第三者契約では、資産は保管預託サービスを提供する事業体が管理する別個の口座または包括マスター口座のいずれかの機関(「カストディアン銀行」)に保持される。

このカストディアンが提供するサービスには、通常、「取引の決済」、「指示に従った現金残高の投資」、「所得の収集」、「企業行動の処理」、「証券ポジションの価格設定」、「記録保管および報告サービスの提供」が含まれる。(米国のmarketswiki.comサイトの解説 を筆者が仮訳した)。 

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