息子が結婚して家を出る時(今から12年前)に、私から息子へのはなむけの言葉として持たせた「息子へ」という一冊の小冊子。そこから抜粋した、今回は第9話(高校生活)をご紹介します。
少々長いので、どうかお時間のある時にご覧ください。
私は、生まれてこのかた一度も、
「勉強しなさい。」と言われたことがない。
別に私が特別優秀だったからではなく、
そういう方針を持った両親だったから。
(女が利口になると生意気で可愛くなくて、
決して幸せにはなれないらしい。・・・理解不能)
テスト勉強などしていると、
時折母は私の部屋を覗いて
「まだ勉強しよるんね?もう早く寝なさいて。
身体壊すと何にもならんけー。」と
まるで私が悪いことでもしているかのように
言われたものだった。
それにしても
高校受験を控えているというのに
おまえは見事といえるほど
勉強をしなかった。
「分かってると思うけど、
うちの経済状態は、
おまえを私立の高校に進学させられるような
恵まれたもんじゃないんだよ。
甲斐性のない親で申し訳ないとは思うけど、
公立高校落ちたら、働いてもらうしかないんだよ。
ちゃんと、受験勉強しなさいよ。」
折を見ては何度もおまえに言ったよね。
まるで暖簾に腕押しだったけど。
「分かってるよー。
大丈夫だから!心配ないから!任しとけって!」
確かに「成績の悪かった」おまえが受験したのは、
地域でも最低レベルの高校だった。
だから、
みんなどこかで
まさか「落ちる」なんて
思ってなかったんだよね。
合格発表当日。
早い時間から
友達と一緒に発表を見に行くと
出かけていったおまえ。
夕方になっても、
電話一本かかってこない。
時間が経つにつれ
お父さんとおねえと三人で、
「まいったね、
落ちたんだね、きっと。」
夜になってようやく
おまえは帰ってきた。
「ダメだった・・・。落ちた・・・。最悪だよ・・・。」
肩を落として
俯きがちにそう言った。
「まぁ、仕方ないよ。
受験失敗した本人が一番傷ついてるんだろうから、
今日のところは、そっとしておいてやろうよ。」
とでも思って貰って、
「さぁさぁ、お腹空いたでしょ、
ご飯にしよう。元気出して!」などと
優しい言葉をかけて貰えるとでも
想像していたんだろうか。
・・・・・・・・・んな訳はないよね。うちに限って。
「おまえ、ここに座れ。
おまえねぇ、
あれほどみんなが、
おまえに助言してただろ。勉強しろって。
それを無視して
勉強なんか全然しないで、
遊び呆けて、
それで公立落ちたからって、
まさか私立に行かせてもらえるなんて
虫のいいこと考えてないよね?
「はい、・・・・・ご、ごめんなさい。」
「おまえが一生懸命努力して、
おまえなりに頑張って
こういう結果が出たんだとしたら、
私は絶対にこんなことは言わない。
努力もしない人間に、
どうして一方的に
頑張っている人間が援助しなくちゃいけないんだ!!!
明日から
私は仕事に行かない。
だって、もうしんどいし、遊びたいし。
そうしたらおまえは、
私の代わりに一生懸命働いて、
ニコニコ機嫌よく
私に好きなことさせてくれるのか?
ツケが回ってくるっていうのは
こういうことなんだよ!
おまえも一端の口利くようになったんなら、
テメエのケツはテメエで拭け!」
(書いていてとても恥ずかしくなった。
こりゃ、どう考えても母の言葉じゃないし、第一、下品だ。)
実際問題、毎月5万円の授業料に交通費、昼食代など、
どう考えても捻出できる額ではなかった。
あの時は2時間くらいは話し合ったかなぁ。笑
結局最後に
おまえの口からこんな言葉が出た。
「お父さん、ママ、お姉ちゃん、本当にすみません。
オレ、バカです。考えが甘かったです。
がんばって働きます。すみませんでした。」
その言葉を聞いた時、私は
「よし、仕事から帰ってからの時間、
もう一踏ん張り、コンビニでバイトでもするか。」
そう考えていた。
だけど、私がそれを口にする前に、
「ねぇママ、おねえ、もう一つバイト増やすよ。
毎月2万円くらい渡せたら、何とかならない?」
「オレもツアー先で頑張ってチップ貯めて、
その分渡すようにするし。何とかしたろうや、なぁ?」
おまえ、泣いたよね。
「おまえ、その涙、忘れんなよ。
おまえの、我侭放題、やりたい放題で、
これまで散々迷惑かけられた家族の、
この気持ちを無駄にしたら、
おまえはもう、人じゃぁない。
これまでみたいに、
遅刻・欠席が当たり前のような、
自堕落な生活したら、
私がおまえをこの手でぶっ殺すからな。
おまえをこの世に送り出してしまった
親としての落とし前は、
私がきっちりこの手でつけてやる。
一度でも遅刻や欠席をしたら、
そこで終わりだと思え。
自分を愛してくれる人たちを
決して裏切らない
本当の強い男になれ。
腹括って、高校生活送れよ。」
(・・・・・・任侠道じゃぁないんだから・・・・・・!)
何とも壮絶な始まりだった。
経済的に余裕のある家に生まれていたら、
何ということもない出来事だったかもしれない。
でも、今思えば、
「貧乏」が私たちを、
そしておまえの人生を変えてくれたのかもしれないね。
そんな甲斐性のない私でも、
おまえたちに贅沢をさせてやれたことが
ひとつだけある。
そう、それは「本」だよね。
おまえたちが小さい頃から、
ずっと考えて
ずっと楽しみにしていたんだ。
おまえたちの
その時々の様子や
年齢に合わせて、
「この本を読んでごらん」と
薦めてやること。
松本清張の「砂の器」は
確か高校1年か2年の時だったよね。
登場人物に、いわゆる「悪人」は
一人も出てこない。
だけど人間の、
悲しいまでに卑小で愚かな性(サガ)を
見事に描きあげている
とても悲しくて切ない物語。
私が初めて読んだのも
確か高校生の時だった。
おまえの心にも響いたようだったね。
大昔の映画のビデオまで借りてきて、
一緒に観たよね。
山田詠美「ぼくは勉強ができない」
宮部みゆき「火車」「龍は眠る」
小野不由美「十二国記」
東野圭吾「秘密」
花村満月「二進法の犬」
この時期、その他にも
たくさんの本をおまえは読んだ。
世の中には膨大な量の本がある。
だけど、
心に響く、
人に影響を与えるような「良書」に出会うためには、
随分と無駄な時間と労力を費やさなくてはならない。
(ま、あくまでも私の勝手な主観だけどね)
いつだったか、
おまえ、言ってたよね。
「本って、全部凄いのかと思ってた。
オレ、この間、古本屋で何となくいいかなーと思って
買って読んでみて、ホントびっくりした。
余りに面白くなくて。
あなたが薦めてくれた本で、
ハズレたことって一回もないんだよ。
それって凄いことなんだねー。
ホント、ありがたいと思ってるよ。」
その頃から、
ようやくおまえは
大人の兆しを見せてくれたね。
そんなある朝。
私にとっては貴重な、
月に一度の
土曜日休みの朝。
(そしておまえにとっては普通の登校日)
とーぜんのように私は
朝寝坊を決め込んでいた。
「私のことは母だと思わないでくれ。
やってることは、外で毎日七人の敵と
戦っているらしいそんじょそこらの男より
よっぽど男らしいんだから・・・!?
休日くらいは寝たいだけ寝させてくれ」
・・・という尤もらしい言い訳のもと。
全くもって母親失格。
突然おまえの部屋から
「どうしよう!!!!ヤバーイ!!!おねえちゃーーーーん!!!」
という泣きそうなおまえの声が聞こえてきた。
「寝坊しちゃったよー。遅刻しちゃうよー。
おねえちゃん、どうしよう、車で送ってくれないよね?
ダメ?ダメだよねー。
もう間に合わないよねー!?どーしよー!!!!!」
高校生活3年間の中で、
一度だけ遅刻の危機に瀕したあの日も、
おねえのお陰で
おまえは無事始業に間に合った。
(おねえがおまえのために
どんなヤバイ運転をしたのかは、
あえて考えないし、追求しないことにした)
こうしておまえは、
3年間無遅刻無欠席の皆勤賞で
高校を卒業した。
地元の不良の吹き溜まり?だった高校を落ちて、私立高校に入学した息子。高校生になって初めて「あぁ、やっと頭の回線が繋がったか」と思い、色んなことを考えられるようになったな・・・と思いました。それにしても、私のあの脅し文句を真に受けて、皆勤賞を貰えるようになるとは。正直、一番驚いたのは私だったのでした。笑
既投稿の記事を貼ってみました。宜しかったらご覧ください。
「息子へ」第1話 (偶然の幸運)
「息子へ」第2話 (ザルで水を汲む如し)
「息子へ」第3話 (たこ食った事件)
「息子へ」第4話 (目から鱗)
「息子へ」第5話 (父親みたいな人)
「息子へ」第6話 (忘れてはならないこと)
「息子へ」第7話 (思春期の困惑)
少々長いので、どうかお時間のある時にご覧ください。
私は、生まれてこのかた一度も、
「勉強しなさい。」と言われたことがない。
別に私が特別優秀だったからではなく、
そういう方針を持った両親だったから。
(女が利口になると生意気で可愛くなくて、
決して幸せにはなれないらしい。・・・理解不能)
テスト勉強などしていると、
時折母は私の部屋を覗いて
「まだ勉強しよるんね?もう早く寝なさいて。
身体壊すと何にもならんけー。」と
まるで私が悪いことでもしているかのように
言われたものだった。
それにしても
高校受験を控えているというのに
おまえは見事といえるほど
勉強をしなかった。
「分かってると思うけど、
うちの経済状態は、
おまえを私立の高校に進学させられるような
恵まれたもんじゃないんだよ。
甲斐性のない親で申し訳ないとは思うけど、
公立高校落ちたら、働いてもらうしかないんだよ。
ちゃんと、受験勉強しなさいよ。」
折を見ては何度もおまえに言ったよね。
まるで暖簾に腕押しだったけど。
「分かってるよー。
大丈夫だから!心配ないから!任しとけって!」
確かに「成績の悪かった」おまえが受験したのは、
地域でも最低レベルの高校だった。
だから、
みんなどこかで
まさか「落ちる」なんて
思ってなかったんだよね。
合格発表当日。
早い時間から
友達と一緒に発表を見に行くと
出かけていったおまえ。
夕方になっても、
電話一本かかってこない。
時間が経つにつれ
お父さんとおねえと三人で、
「まいったね、
落ちたんだね、きっと。」
夜になってようやく
おまえは帰ってきた。
「ダメだった・・・。落ちた・・・。最悪だよ・・・。」
肩を落として
俯きがちにそう言った。
「まぁ、仕方ないよ。
受験失敗した本人が一番傷ついてるんだろうから、
今日のところは、そっとしておいてやろうよ。」
とでも思って貰って、
「さぁさぁ、お腹空いたでしょ、
ご飯にしよう。元気出して!」などと
優しい言葉をかけて貰えるとでも
想像していたんだろうか。
・・・・・・・・・んな訳はないよね。うちに限って。
「おまえ、ここに座れ。
おまえねぇ、
あれほどみんなが、
おまえに助言してただろ。勉強しろって。
それを無視して
勉強なんか全然しないで、
遊び呆けて、
それで公立落ちたからって、
まさか私立に行かせてもらえるなんて
虫のいいこと考えてないよね?
「はい、・・・・・ご、ごめんなさい。」
「おまえが一生懸命努力して、
おまえなりに頑張って
こういう結果が出たんだとしたら、
私は絶対にこんなことは言わない。
努力もしない人間に、
どうして一方的に
頑張っている人間が援助しなくちゃいけないんだ!!!
明日から
私は仕事に行かない。
だって、もうしんどいし、遊びたいし。
そうしたらおまえは、
私の代わりに一生懸命働いて、
ニコニコ機嫌よく
私に好きなことさせてくれるのか?
ツケが回ってくるっていうのは
こういうことなんだよ!
おまえも一端の口利くようになったんなら、
テメエのケツはテメエで拭け!」
(書いていてとても恥ずかしくなった。
こりゃ、どう考えても母の言葉じゃないし、第一、下品だ。)
実際問題、毎月5万円の授業料に交通費、昼食代など、
どう考えても捻出できる額ではなかった。
あの時は2時間くらいは話し合ったかなぁ。笑
結局最後に
おまえの口からこんな言葉が出た。
「お父さん、ママ、お姉ちゃん、本当にすみません。
オレ、バカです。考えが甘かったです。
がんばって働きます。すみませんでした。」
その言葉を聞いた時、私は
「よし、仕事から帰ってからの時間、
もう一踏ん張り、コンビニでバイトでもするか。」
そう考えていた。
だけど、私がそれを口にする前に、
「ねぇママ、おねえ、もう一つバイト増やすよ。
毎月2万円くらい渡せたら、何とかならない?」
「オレもツアー先で頑張ってチップ貯めて、
その分渡すようにするし。何とかしたろうや、なぁ?」
おまえ、泣いたよね。
「おまえ、その涙、忘れんなよ。
おまえの、我侭放題、やりたい放題で、
これまで散々迷惑かけられた家族の、
この気持ちを無駄にしたら、
おまえはもう、人じゃぁない。
これまでみたいに、
遅刻・欠席が当たり前のような、
自堕落な生活したら、
私がおまえをこの手でぶっ殺すからな。
おまえをこの世に送り出してしまった
親としての落とし前は、
私がきっちりこの手でつけてやる。
一度でも遅刻や欠席をしたら、
そこで終わりだと思え。
自分を愛してくれる人たちを
決して裏切らない
本当の強い男になれ。
腹括って、高校生活送れよ。」
(・・・・・・任侠道じゃぁないんだから・・・・・・!)
何とも壮絶な始まりだった。
経済的に余裕のある家に生まれていたら、
何ということもない出来事だったかもしれない。
でも、今思えば、
「貧乏」が私たちを、
そしておまえの人生を変えてくれたのかもしれないね。
そんな甲斐性のない私でも、
おまえたちに贅沢をさせてやれたことが
ひとつだけある。
そう、それは「本」だよね。
おまえたちが小さい頃から、
ずっと考えて
ずっと楽しみにしていたんだ。
おまえたちの
その時々の様子や
年齢に合わせて、
「この本を読んでごらん」と
薦めてやること。
松本清張の「砂の器」は
確か高校1年か2年の時だったよね。
登場人物に、いわゆる「悪人」は
一人も出てこない。
だけど人間の、
悲しいまでに卑小で愚かな性(サガ)を
見事に描きあげている
とても悲しくて切ない物語。
私が初めて読んだのも
確か高校生の時だった。
おまえの心にも響いたようだったね。
大昔の映画のビデオまで借りてきて、
一緒に観たよね。
山田詠美「ぼくは勉強ができない」
宮部みゆき「火車」「龍は眠る」
小野不由美「十二国記」
東野圭吾「秘密」
花村満月「二進法の犬」
この時期、その他にも
たくさんの本をおまえは読んだ。
世の中には膨大な量の本がある。
だけど、
心に響く、
人に影響を与えるような「良書」に出会うためには、
随分と無駄な時間と労力を費やさなくてはならない。
(ま、あくまでも私の勝手な主観だけどね)
いつだったか、
おまえ、言ってたよね。
「本って、全部凄いのかと思ってた。
オレ、この間、古本屋で何となくいいかなーと思って
買って読んでみて、ホントびっくりした。
余りに面白くなくて。
あなたが薦めてくれた本で、
ハズレたことって一回もないんだよ。
それって凄いことなんだねー。
ホント、ありがたいと思ってるよ。」
その頃から、
ようやくおまえは
大人の兆しを見せてくれたね。
そんなある朝。
私にとっては貴重な、
月に一度の
土曜日休みの朝。
(そしておまえにとっては普通の登校日)
とーぜんのように私は
朝寝坊を決め込んでいた。
「私のことは母だと思わないでくれ。
やってることは、外で毎日七人の敵と
戦っているらしいそんじょそこらの男より
よっぽど男らしいんだから・・・!?
休日くらいは寝たいだけ寝させてくれ」
・・・という尤もらしい言い訳のもと。
全くもって母親失格。
突然おまえの部屋から
「どうしよう!!!!ヤバーイ!!!おねえちゃーーーーん!!!」
という泣きそうなおまえの声が聞こえてきた。
「寝坊しちゃったよー。遅刻しちゃうよー。
おねえちゃん、どうしよう、車で送ってくれないよね?
ダメ?ダメだよねー。
もう間に合わないよねー!?どーしよー!!!!!」
高校生活3年間の中で、
一度だけ遅刻の危機に瀕したあの日も、
おねえのお陰で
おまえは無事始業に間に合った。
(おねえがおまえのために
どんなヤバイ運転をしたのかは、
あえて考えないし、追求しないことにした)
こうしておまえは、
3年間無遅刻無欠席の皆勤賞で
高校を卒業した。
地元の不良の吹き溜まり?だった高校を落ちて、私立高校に入学した息子。高校生になって初めて「あぁ、やっと頭の回線が繋がったか」と思い、色んなことを考えられるようになったな・・・と思いました。それにしても、私のあの脅し文句を真に受けて、皆勤賞を貰えるようになるとは。正直、一番驚いたのは私だったのでした。笑
既投稿の記事を貼ってみました。宜しかったらご覧ください。
「息子へ」第1話 (偶然の幸運)
「息子へ」第2話 (ザルで水を汲む如し)
「息子へ」第3話 (たこ食った事件)
「息子へ」第4話 (目から鱗)
「息子へ」第5話 (父親みたいな人)
「息子へ」第6話 (忘れてはならないこと)
「息子へ」第7話 (思春期の困惑)
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