息子が結婚して家を出る時(今から12年前)に、私から息子へのはなむけの言葉として持たせた「息子へ」という一冊の小冊子。そこから抜粋した、今回は第11話(勉強の楽しさ)をご紹介します。
少々長いので、どうかお時間のある時にご覧ください。
中学時代の自堕落な生活は一変して、
これまでのおまえの習慣にはなかった「読書」も
自然とおまえの生活の一部になりつつあった。
活字に慣れるということは、読解力を高めることに通じる。
漠然としているけれど、その人の持つあらゆる能力の向上に
大きく手助けをしてくれる可能性がある。
だけど、お世辞にも勉強をしていたとは言い難かった高校時代。
「人は変わる」といっても、
そうそう簡単に
一度に何もかもが変わるとは思えない。
いよいよ進路を具体化しなければならない時期を迎えたおまえは、
私に相談してきたよね。
「オレ、何になりたいのか、自分でもよくわからない。
このまま卒業して就職すればいいのか、
何かを勉強した方がいいのか・・・。
勉強しないまま就職なんてしていいのかとも思うし、
だからといって具体的に何を勉強したらいいのか
何も浮かばないんだよ。
・・・あなたはどう思う?」
「そうだねぇ。
ようやくおまえは人並みの生活を送れるようにはなったけど、
これまで余りにも勉強してこなかったからねぇ。
このまま就職しても、たぶん中途半端だろうなぁ・・・。
何かは分からないけど、
何かしらの勉強をしたいって、本当に思ってるの?」
「うん。オレ今まで本当に勉強したことなかったから、
勉強してみたい。
何をすればいいのかわからないけど、
勉強はしたいと思う。」
私もずっと考えていた。
おまえがこれまで一度も味わったことのない、
「分かる楽しさ」
「出来る喜び」を
一度で良いから味わわせてやりたいって。
「これから勉強することって、たぶん仕事に繋がると思うんだ。
仕事って、長く続けていかなくちゃいけないものだろ。
私が思うに、性格や好き嫌いを考えた上で選べたら、
これほどいいことはないと思うんだよ。
おまえは、曲がってる物を真っ直ぐにしたい、
あるべき物をあるべき所にキチンと整理しておきたい。
そんな性格だから、そこを生かせると良いと思うんだよね。
将来性を考えても、
おまえの性格を考えても、
「経理・財務」のような仕事が向いているんじゃないかと思う。
そういう専門の勉強なら、
これまで一般的な勉強を全くしてこなかったおまえでも、
たぶんみんなと同じスタートラインに立てると思う。
どう?興味はある?」
「うん、正直言って、全然分からないけど、
勉強してみたいっていう気はする。
でも、専門学校ってお金かかるよね。
大丈夫なの?」
確かに決して裕福ではない我が家で、
高校以上の学校に行かせることは、
とても大変な事だった。
だけど、勉強したいと思っていながら、
上の学校に進む事を認めてもらえなかった
少女時代の自分を思い出すと、
少しくらい無理をしても、
何とかしてやりたかった。
色々と考え抜いた結果、おまえは、
「簿記・会計」専門学校に進むことにしたんだよね。
「分かってるとは思うけど、
おまえに勉強させる為にかかる費用は、年間130万円。
これを授業日数、授業時間で割ってごらん。
そうすると・・・、
そうか、1時間につき約1,500円。
私が一生懸命働いて稼いだ1,500円が、
たった1時間で飛んでいってしまうってことだ。
ボーっとして居眠りをしていても1時間。
真面目に一生懸命やっていても1時間。
ボーっとしている1時間では、
毎回1,500円のお金をドブに捨てる
っていうことだよね。
勉強というのは、
積み重ねなんだ。
毎日を大切にしていけば、
いつか必ず形になる。
専門学校の先生は、生徒が求めたら、
絶対に拒んだりはしない。
その日わからないことがあったら、
授業が終わるまで待つ。
そして、先生につきまとって 笑
分かるまで教えてもらう。
理解できるまでは、家には帰れないという覚悟。
これを毎日繰り返していたら、
2年間でおまえは必ず何かを得る事が出来る。
騙されたと思って実行してごらん。」
高校進学を決めたあの日と同様、
専門学校入学前に、
こんな風に
話をしたね。
高校に入学してからのおまえにも驚かされたけど、
その驚きも霞むくらい、
専門学校入学後のおまえの変わりようには、
本当に驚かされた。
おまえが、「勉強」していた。
その頃丁度、
私の仕事にも変化が起きていた。
「新しいグループ会社を設立しようと思っています。
そこで管理部門の責任者として仕事をして貰いたい。」
社員は全部で5名。
小さな小さな会社だったけれど、
何もないところから、
全てをこの手で生み出していくという
「やり甲斐」を実感できる仕事だった。
これまで以上に勉強にも力が入った。
お互い、
食事をする間も惜しんだね。
向かい合って食べているのに、
どちらも参考書から目が離せない。
・・・・・・・・・・・!
「修平(仮名)、食べる時くらい参考書閉じようか。
人間がんばる時はがんばんなきゃいけないけど、
こりゃ、ちょっとやり過ぎだよ。
体力つけるためにも、しっかり味わって、楽しく食べよう!
そんで、終わったらまた勉強しよう!
メリハリつけられないようじゃ、ダメだよ。」笑
私も一生懸命だったけど、
おまえのがんばりはそれ以上だったね。
夜更けて、
まだ勉強をしているおまえに
「先に休むよ。」と声をかけた。
翌朝起きてみると
昨夜座っていたところで
同じ姿で勉強しているおまえがいた。
「え?おまえ、もしかして、寝てないの?」
「いや、さっき起きたんだよ。
学校行く前にもう一度やっておきたい問題があったから。」
その甲斐あって資格試験も確実にクリアしていった。
「勉強って、楽しいね。
どうしてもっと早くそのことに気付かなかったんだろう。
・・・そっか、勉強したことなかったからか・・・!笑
勿体無いことしちゃったなぁ。
あなた、いつも言ってたんだよね。
勉強は、分かればとても楽しくなるって。
おまえは決して頭が悪いわけじゃないんだから、
がんばってみろ!って。」
(実は内心申し訳なくも、「修平、頭、悪いかも」って思ってた。ごめん。
でも、それがおまえの「固定観念」になってはいけないと、
口にすることを厳しく自分に禁じていた。
「どーせオレはバカだから」っていう言い訳は
言った本人に何の利益ももたらさないものだからね)
担当の先生が、授業を抜ける時、
「おい、修平、分からないところ、
質問があったらみんなに教えてやっといてくれ。
おまえを副担任に任命するからな!」って
言って下さったりもしたんだよね。
あの日、
さんすう「1」だったおまえに、
そんな日が来るなど
誰に想像ができただろう。
全国展開の模擬試験で、
全国第1位の成績結果を持って帰ってきた時は、
嬉しくて涙が出た。
努力は、必ずしも報われるものではない。
でも、私の「ザルで水」も
おまえの「初めての本気の勉強」も
幸いにして、
報われた。
今も、
心の底から行われる「プロセス」こそが、
最も尊いことだと
私は思う。
だけど、そこに結果がついてきてくれた時、
この上ない幸せを
感じることができるものなのだと、
またひとつ、
私はおまえに教わった。
ようやく頭の回線が繋がって、考えること、実行することが出来るようになった息子でした。ただ、この後私自身が自分の仕事に一杯一杯となり、とんでもないことをやらかします。子供を育てていた筈が、子供に育てられる、未熟な母親です。その話は、また次回。
既投稿の記事を貼ってみました。宜しかったらご覧ください。
「息子へ」第1話 (偶然の幸運)
「息子へ」第2話 (ザルで水を汲む如し)
「息子へ」第3話 (たこ食った事件)
「息子へ」第4話 (目から鱗)
「息子へ」第5話 (父親みたいな人)
「息子へ」第6話 (忘れてはならないこと)
「息子へ」第7話 (思春期の困惑)
「息子へ」第9話 (高校生活)
少々長いので、どうかお時間のある時にご覧ください。
中学時代の自堕落な生活は一変して、
これまでのおまえの習慣にはなかった「読書」も
自然とおまえの生活の一部になりつつあった。
活字に慣れるということは、読解力を高めることに通じる。
漠然としているけれど、その人の持つあらゆる能力の向上に
大きく手助けをしてくれる可能性がある。
だけど、お世辞にも勉強をしていたとは言い難かった高校時代。
「人は変わる」といっても、
そうそう簡単に
一度に何もかもが変わるとは思えない。
いよいよ進路を具体化しなければならない時期を迎えたおまえは、
私に相談してきたよね。
「オレ、何になりたいのか、自分でもよくわからない。
このまま卒業して就職すればいいのか、
何かを勉強した方がいいのか・・・。
勉強しないまま就職なんてしていいのかとも思うし、
だからといって具体的に何を勉強したらいいのか
何も浮かばないんだよ。
・・・あなたはどう思う?」
「そうだねぇ。
ようやくおまえは人並みの生活を送れるようにはなったけど、
これまで余りにも勉強してこなかったからねぇ。
このまま就職しても、たぶん中途半端だろうなぁ・・・。
何かは分からないけど、
何かしらの勉強をしたいって、本当に思ってるの?」
「うん。オレ今まで本当に勉強したことなかったから、
勉強してみたい。
何をすればいいのかわからないけど、
勉強はしたいと思う。」
私もずっと考えていた。
おまえがこれまで一度も味わったことのない、
「分かる楽しさ」
「出来る喜び」を
一度で良いから味わわせてやりたいって。
「これから勉強することって、たぶん仕事に繋がると思うんだ。
仕事って、長く続けていかなくちゃいけないものだろ。
私が思うに、性格や好き嫌いを考えた上で選べたら、
これほどいいことはないと思うんだよ。
おまえは、曲がってる物を真っ直ぐにしたい、
あるべき物をあるべき所にキチンと整理しておきたい。
そんな性格だから、そこを生かせると良いと思うんだよね。
将来性を考えても、
おまえの性格を考えても、
「経理・財務」のような仕事が向いているんじゃないかと思う。
そういう専門の勉強なら、
これまで一般的な勉強を全くしてこなかったおまえでも、
たぶんみんなと同じスタートラインに立てると思う。
どう?興味はある?」
「うん、正直言って、全然分からないけど、
勉強してみたいっていう気はする。
でも、専門学校ってお金かかるよね。
大丈夫なの?」
確かに決して裕福ではない我が家で、
高校以上の学校に行かせることは、
とても大変な事だった。
だけど、勉強したいと思っていながら、
上の学校に進む事を認めてもらえなかった
少女時代の自分を思い出すと、
少しくらい無理をしても、
何とかしてやりたかった。
色々と考え抜いた結果、おまえは、
「簿記・会計」専門学校に進むことにしたんだよね。
「分かってるとは思うけど、
おまえに勉強させる為にかかる費用は、年間130万円。
これを授業日数、授業時間で割ってごらん。
そうすると・・・、
そうか、1時間につき約1,500円。
私が一生懸命働いて稼いだ1,500円が、
たった1時間で飛んでいってしまうってことだ。
ボーっとして居眠りをしていても1時間。
真面目に一生懸命やっていても1時間。
ボーっとしている1時間では、
毎回1,500円のお金をドブに捨てる
っていうことだよね。
勉強というのは、
積み重ねなんだ。
毎日を大切にしていけば、
いつか必ず形になる。
専門学校の先生は、生徒が求めたら、
絶対に拒んだりはしない。
その日わからないことがあったら、
授業が終わるまで待つ。
そして、先生につきまとって 笑
分かるまで教えてもらう。
理解できるまでは、家には帰れないという覚悟。
これを毎日繰り返していたら、
2年間でおまえは必ず何かを得る事が出来る。
騙されたと思って実行してごらん。」
高校進学を決めたあの日と同様、
専門学校入学前に、
こんな風に
話をしたね。
高校に入学してからのおまえにも驚かされたけど、
その驚きも霞むくらい、
専門学校入学後のおまえの変わりようには、
本当に驚かされた。
おまえが、「勉強」していた。
その頃丁度、
私の仕事にも変化が起きていた。
「新しいグループ会社を設立しようと思っています。
そこで管理部門の責任者として仕事をして貰いたい。」
社員は全部で5名。
小さな小さな会社だったけれど、
何もないところから、
全てをこの手で生み出していくという
「やり甲斐」を実感できる仕事だった。
これまで以上に勉強にも力が入った。
お互い、
食事をする間も惜しんだね。
向かい合って食べているのに、
どちらも参考書から目が離せない。
・・・・・・・・・・・!
「修平(仮名)、食べる時くらい参考書閉じようか。
人間がんばる時はがんばんなきゃいけないけど、
こりゃ、ちょっとやり過ぎだよ。
体力つけるためにも、しっかり味わって、楽しく食べよう!
そんで、終わったらまた勉強しよう!
メリハリつけられないようじゃ、ダメだよ。」笑
私も一生懸命だったけど、
おまえのがんばりはそれ以上だったね。
夜更けて、
まだ勉強をしているおまえに
「先に休むよ。」と声をかけた。
翌朝起きてみると
昨夜座っていたところで
同じ姿で勉強しているおまえがいた。
「え?おまえ、もしかして、寝てないの?」
「いや、さっき起きたんだよ。
学校行く前にもう一度やっておきたい問題があったから。」
その甲斐あって資格試験も確実にクリアしていった。
「勉強って、楽しいね。
どうしてもっと早くそのことに気付かなかったんだろう。
・・・そっか、勉強したことなかったからか・・・!笑
勿体無いことしちゃったなぁ。
あなた、いつも言ってたんだよね。
勉強は、分かればとても楽しくなるって。
おまえは決して頭が悪いわけじゃないんだから、
がんばってみろ!って。」
(実は内心申し訳なくも、「修平、頭、悪いかも」って思ってた。ごめん。
でも、それがおまえの「固定観念」になってはいけないと、
口にすることを厳しく自分に禁じていた。
「どーせオレはバカだから」っていう言い訳は
言った本人に何の利益ももたらさないものだからね)
担当の先生が、授業を抜ける時、
「おい、修平、分からないところ、
質問があったらみんなに教えてやっといてくれ。
おまえを副担任に任命するからな!」って
言って下さったりもしたんだよね。
あの日、
さんすう「1」だったおまえに、
そんな日が来るなど
誰に想像ができただろう。
全国展開の模擬試験で、
全国第1位の成績結果を持って帰ってきた時は、
嬉しくて涙が出た。
努力は、必ずしも報われるものではない。
でも、私の「ザルで水」も
おまえの「初めての本気の勉強」も
幸いにして、
報われた。
今も、
心の底から行われる「プロセス」こそが、
最も尊いことだと
私は思う。
だけど、そこに結果がついてきてくれた時、
この上ない幸せを
感じることができるものなのだと、
またひとつ、
私はおまえに教わった。
ようやく頭の回線が繋がって、考えること、実行することが出来るようになった息子でした。ただ、この後私自身が自分の仕事に一杯一杯となり、とんでもないことをやらかします。子供を育てていた筈が、子供に育てられる、未熟な母親です。その話は、また次回。
既投稿の記事を貼ってみました。宜しかったらご覧ください。
「息子へ」第1話 (偶然の幸運)
「息子へ」第2話 (ザルで水を汲む如し)
「息子へ」第3話 (たこ食った事件)
「息子へ」第4話 (目から鱗)
「息子へ」第5話 (父親みたいな人)
「息子へ」第6話 (忘れてはならないこと)
「息子へ」第7話 (思春期の困惑)
「息子へ」第9話 (高校生活)
ポチ、ありがとうございました~

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