先日このブログで「希望者全員が65才まで働ける環境整備を!」というエントリーを書きましたが、東京新聞は今朝の朝刊に『65歳雇用義務化 希望者全員は当然だ』という社説を掲載しました。
・「65歳雇用義務化 希望者全員は当然だ」(東京新聞朝刊 2011年12月17日)
まずはこの社説を読んでいただきたいと思いますが、その中で注目していただきたい点が二つあります。
一つは、「厚労省の今年六月の調査によると過去一年間の定年到達者約四十三万五千人のうち、継続雇用を希望した人は全体の75.4%。継続雇用を希望しない人が24.6%、そして「基準非該当」は1.8%、約七千人となっている」という記述です。
前回のブログ記事で、すでに企業は「高年齢者雇用安定法」によって65才以上への継続雇用を何らかの制度で確保することが義務づけられているとお話ししました。ただ問題は「労使の合意があれば、継続雇用制度の対象者を限定することができる」という「みなし条項」があるために、希望者全員が働き続けられるわけではない、と。上記の記述は、その「雇用継続を希望したのに働き続けることが出来なかった」労働者の割合が、定年到達者のうちの1.8%、約7,000人だということなのです。
つまり、今回の新しい制度(みなし条項の廃止による希望者全員の雇用継続)が救済しようとするのは、基本的にはこの7,000人の部分に過ぎないのですね。これをもって「そんなことしたら多くの中小企業が潰れる!」と言うのはかなりの見当違いなわけです。
そしてもう一つは、「しかし経団連などは反対だ。希望者全員を再雇用すれば高齢者が急増し新卒採用を抑制せざるを得ない。企業の新陳代謝も低下し国際競争力は弱まると主張する」というところです。
ん~、すでに現行制度下で約33万人が継続雇用になっているんですよ。それをあと約7,000人だけ増やすことが新卒抑制と国際競争力低下になっちゃうんですかね~?
もちろん、新しい制度の下で、さらに厚生年金の支給が段階的に引き上げられていけば、今後、継続雇用を希望する人が増えていくというのは有り得る話です。しかし、東京新聞社説にも説明があるとおり、OECDやILOなどはこれまでの欧州諸国等の実証研究に基づいて「高齢者雇用の拡大が若年者の雇用を奪うというのは根拠のない話である」ことを主張しています。
今年の6月に『今後の高年齢者雇用に関する研究会』がとりまとめた「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書 ~生涯現役社会の実現に向けて~」には、この点について下記のような説明があります:
《高年齢者雇用と若年者雇用との関係》
新卒労働市場において厳しい状況が続く中、また、企業における人件費が限られてい る中で、高年齢者雇用を進めることにより若年者の雇用機会が減少するなど、若年者雇用と高年齢者雇用の代替性を指摘する意見がある。
企業に対するヒアリングでは、専門的技能・経験を有する高年齢者と基本的に経験を有しない若年者とでは労働力として質的に異なるという意見や、新卒採用の数は高年齢者の雇用とのバランスではなく、景気の変動による事業の拡大・縮小等の見通しにより決定しているといった意見があった。
若年者の失業問題に対処するために、例えばドイツでは年金の繰上支給や高年齢者の失業給付の受給要件の緩和が行われ、フランスでは年金支給開始年齢の引下げが行われるなど、高年齢者の早期引退促進政策が推進されたが、結局若年者の失業の解消には効果は見られず、かえって社会的コストの増大につながったとの認識が示されていることなどから、必ずしも高年齢者の早期退職を促せば若年者の雇用の増加につながるというものではない。
また、労働力人口の減少が見込まれている中、将来的には、特に若年者の労働力供給が減少し、必要な人材の確保が難しくなると見込まれることから、長期的な視野をもち、年齢にかかわりなく意欲と能力のある労働者を適切に活用することが重要な課題となっている。
いずれにしても、新卒労働市場では、未就職卒業者が発生している一方で、大企業と比較して求人充足割合が低く、若年者の確保に苦慮している中小企業もあることから、 若年者の雇用問題の解決のためには、求人と求職のミスマッチの解消を更に促進していく必要がある。
要は:
- 高齢者と若年者は雇用において直接的な代替関係にあるわけではない(スキルや経験の違い)
- 労働力の減少が急速に進む中でスキルや経験の補充が追いつかなくなる(特に中小企業で)
- 高齢者の早期退職で年金等の社会コストが増大し、かえって若年層雇用が抑制される
などが主な理由ということですね。つまり、これからの日本の持続的な経済成長と社会保障を支えていくためにも、高齢者雇用の拡充は必要なのです。
ちなみに・・・
「そうは言っても、高齢者が働き続ければ賃金原資に大きな影響が出るので、やっぱり若年者雇用が抑制されるのではないか?」という通な疑問を持たれる方もおられると思います。だからこそ、良くも悪くも、企業のほとんどが定年制の廃止・延長ではなく、継続雇用制度(例:退職再雇用制度)を採用しているわけです。つまり、(時に大幅に)賃金水準を切り下げて、雇用の継続を確保するわけですね。上述のように継続雇用を希望しない労働者も約4分の1いるわけですから、総体として新卒の若手を採用する原資は確保されているはずです。
ただし、いずれ「継続雇用制度」か「定年制の廃止・延長」かという問題について、あらためて議論するタイミングがやってくるでしょうね。寿命がさらに延び、厚生年金の支給開始年齢が引き上がり、労働力が今以上に逼迫した時には、60才台の雇用問題(と年金の支給開始年齢問題)はもっと大きな課題になるはずです。
だからこそ、今はまず、希望者全員が65才以上まで働き続けられる環境を確保することが必要なのです。そして、中・長期的には、全ての企業(産業)で、きちんとした労使交渉(協議)を通じて高齢者雇用制度のあり方が決定されることが最も望ましいと思っています。